宇宙コロニーから送り込まれた５機のナデシコは、コロニーの反抗の意志であった。
ナデシコは、連合軍のＭＳ部隊にその姿を隠す”クリムゾン”を攻撃目標に、様々な作戦を展開していった。
アフター・ネルガル １９５年
クリムゾンがついに、歴史の表舞台に立った。
総帥マキビ・ハリは、精鋭軍事力を持って連合軍の壊滅作戦を決行した。
地球に送り込まれたナデシコと、クリムゾンとの戦いが大地を震撼させるのであった。
新機動戦記
ナデシコ Ｗ
第０８話 「ハーリー 暗殺」
ドガガガガガガッ ドウッ ドウッ ドウッ ドウッ ドウッ ドウッ
ＭＳ輸送機の格納庫を目指し、その障害となる連合軍残存の部隊を次々と破壊していくナデシコヘビーアームズとシェンロンナデシコ、
格納庫に到着したシェンロンが腕を振り上げ、閉じているシャッターに振り下ろす。
ゴガァァン！！ ギィィィ・・・
格納庫の分厚いシャッターが悲鳴を上げ、強引に破壊、開けられる。
「？ これは」
格納庫内部をスキャンしてエリナが声を上げた、内部には無数の赤外線センサーが仕掛けられている。
「赤外線探知の爆破装置ね・・・」
おそらく輸送機を奪われないように、クリムゾンが仕掛けていったのだろう。
「問題ないわ、私はマキビ・ハリを追う！」
そう言うと、舞歌はセンサーの制御装置が有りそうな場所に向かって、ドラゴンハングを打ち込む。
ドンッ シュゥゥゥ・・・ ピッ
爆発音と共に赤外線センサーが消え、２機のナデシコが格納庫内に消えた。
キィィィィィィィィ・・・・ ゴォォォォォォォォ・・・
爆音を響かせ、２機のＭＳ輸送機が格納庫から姿を現し舞い上がった。
クリムゾン総帥マキビ・ハリを討つために。
「マキビ・ハリの手の上で ・ ・ ・ 遊ばれたって言うのか」
コクピット内で呻くリョウコ、
「完全に、やられたね」
弱々しくつぶやくユリカ、
「 ・ ・ ・ 」
肩を落とし、黙り込むルリ、
日が、完全に暮れ闇夜が辺りを包んでいる、動くものなど無い。
有るのは、佇む３機のナデシコと数限りない残骸と炎・・・
「このままじゃすませねぇ！ オレ達もマキビを追うぞ！！ 今からならまだ間に合うっ」
しばらくしてから、リョウコは叫ぶとナデシコデスサイズを格納庫の方向へ向ける、舞歌達と同じように輸送機を奪って追撃するつもりだ、
「駄目です！」
そのデスサイズの腕をナデシコサンドロックが掴み、引き留める。
「邪魔すんなっ 撃たれたいのか！！」
「私達はもともと、隙をつくのが本来の作戦の筈だよ こうなったらもうクリムゾンの方が有利・・・」
「クッ！」
カッとなったリョウコが、サンドロックに向かって頭部バルカンのトリガーを引くが、
ドゥルルルルルル・・・
弾は吐き出されず音のみが響く、弾切れだ。
「！ ・ ・ ・ オマエの言う通りらしいな」
がっくりと肩を落とすリョウコ、考えてみれば５機のナデシコの中でルリのウイングナデシコと共に一番長く戦っていたのだ、既に弾切れになっていてもおかしくない。
それに、機体のダメージも無視できるものでは無くなっている。
ピピピピッピピッ
「「！！」」
警告音が鳴り響き、敵が接近していることを知らせる。
「連合の生き残りか？」
改めて辺り一帯をスキャンすると、一旦下がっていた連合のＭＳ部隊が再び体勢を立て直し、ナデシコを取り囲むように接近してきていた。
「取り敢えず、ここから離れましょうっ」
「そうだな！」
撃ち込まれる、弾幕を回避するためにデスサイズとサンドロックが大きくジャンプする。
が、
「！！ オイッ！ 何やってんだっ やられるぞ！！」
「ええっ！？」
ルリのウイングは一歩も動かず、無防備のまま攻撃に機体を晒した。
「 ・ ・ ・ 」
ゴォォォォォォ・・・ キュィィィィィ・・・
ハーリー専用機がゆっくりと、迎えにきた空母艦隊に着艦する。
もちろん、この艦隊丸ごとクリムゾン所属のものだ。
「ラピス特尉は、ナイロビ基地の制圧が終了したようなので続けて、今なお抵抗を続けるルクセンブルク連合軍本部に向かわせました」
「彼女に任せておけば、間違いは無いでしょう」
ユキの後に月臣が続ける、
「ええ、ボクもラピスは信用していますから（信用していないなんて言ったら殺されるよ）」
「それからハーリーさま、ニューエドワーズのナデシコの処理はどういたしましょう？」
シャトルから降りようとしていたハーリーは、一度ユキの方を振り返って、
「それは、ユキさんにお任せします」
そう言って無意識ににっこりと微笑い、そのまま凍り付いた・・・
ぎゅんっ（は〜と）
ルリやラピスをはじめとする女性陣には、全くの無用の長物、粗大ゴミ だが、ユキ相手には絶大な効果を発揮するハーリースマイル、
その直撃を受け瞳に星を飛ばしながら、頬を赤らめている軍人（男）が１人。
「ヒッ・・・・・・【特佐、ご無事で】」
冷や汗を流しながら月臣が姿を消した、今のユキからは月臣ですら恐怖を覚えるオーラが発せられている（笑）
ハーリーは凍り付いたまま、動きが止まっている。
【逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ・・・
じゃなくてっ 逃げなきゃ駄目だぁぁぁぁ！！】
心の中の絶叫とは裏腹に、ユキオーラ（笑）に包まれ身動きがとれないハーリー、
「ハーリーさま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！（ハ〜ト）」
「ヒヤァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜！！」
「戦いに生の感情を持ち込むなど、これでは人に品性を求めるのは絶望的だな・・・」
後に、当時この光景を目撃した兵士パフテマ・シロコさん（当時２６歳）は脅えながら語ってくれた
「この基地は完全に我々が占拠しました、ユキ特佐 ニューエドワーズ基地への出撃許可を」
『出撃許可？ その必要はない』
基地の制圧を終えた、部隊がナデシコ殲滅の為の出撃許可を受けようとユキ（どことなく瞳が潤み、頬を上気させている）に連絡を取ってきたが、ユキはその申し出を却下した。
「？ 特佐それはどう言うことでしょうか」
理由が解らず、聞き返す。
『諸君等は、ニューエドワーズ基地のミサイルの自爆装置を作動させるだけでよい』
「！！ 自爆装置・・・ですか？」
予想もしていなかった答えに、目を見開く。
要するにナデシコを基地ごと吹き飛ばせ、と言っているのだから。
『そうだ、確かそこの基地から遠隔操作が可能な筈だ』
「あ はい」
『では、急げ！』
そう言って、ユキは通信を切った。
「流石だ・・・ たかがモビルスーツの破壊に基地１つを爆破しようと言うのだから・・・」
汗を拭いながら、兵士の１人がつぶやく。
「クククッ こんな簡単なことが、今までの連合には出来なかったんだ」
笑みを浮かべた兵士の顔は、歪んでいた。
「この混乱は何事なの？」
丁度、その通信が行われた基地上空を、ハルカ・ミナト少佐の乗る輸送機が飛行していた。
「着陸許可を求める機体が、後を絶たないんです、おそらくニューエドワーズ基地から逃げてきた連中じゃ無いでしょうか？」
パイロットがもっともらしい意見を告げるが、それだけでは辺り一面を覆うほどの軍用機の群の説明は出来ない、もっと他の何かが起こっていると、ミナトは直感していた。
「いくらナデシコが出たって言っても、これは異常よ」
余談だが、彼女たちにはまだ、クリムゾンがクーデターを起こしたと言う情報は入っていなかった。
「！！ ミナト少佐！」
何が起こっているのか知ろうと、通信回線に意識を集中させていたオペレーターが顔を引きつらせ振り返った。
「どうしたの？ そんなにあわてて」
「クリムゾンの通信を傍受しました！ 奴等ニューエドワーズ基地のミサイルを爆破させるようです！！」
「！！ なんですって！」
ミナトの顔が強ばる、いや、ミナトだけでなく輸送機内の乗員全員の顔が、だ
「どうやら、基地ごとナデシコを消滅させる気です！！」
「なんて事 ・ ・ ・
直ぐに、着陸して！！」
「！？ ですが、滑走路は・・・」
パイロットが困惑気味に答える、今、基地の滑走路はニューエドワーズから逃げてきた機体のせいで、塞がっている。
「滑走路が無くても降りられるでしょっ この辺りの砂漠なら胴体着陸も可能よ！ 速く！！」
「っ 了解です！ しっかり掴まっていてください！！」
輸送機が胴体着陸のために一気に高度を落とし始めた。
ビーッビーッビーッビーッ
警報が鳴り響く中、ニューエドワーズのミサイル自爆コードが打ち込まれる、
「システムロック、完了 後は自爆システムを作動させれば・・・」
『ジバクソウチ、サドウジュンビ、ソウインタイヒセヨ クリカエス ソウインタイヒセヨ・・・』
モニターに映し出されているニューエドワーズ基地内では、警告音と避難を促す無機質な合成音が鳴り響いている。
「クックックッ これでナデシコも一巻の終わりだ」
その様子を見ながら、兵士は会心の笑みを浮かべる、これであれだけクリムゾンを振り回してきたナデシコを葬り去る事ができるのだ。
ヴィィィィィン
最終安全装置解除のスイッチを覆っていたカバーが開く、これを押せばもう誰にも爆破は止められない。
兵士の手が、ゆっくりとスイッチに伸ばされる、
「待ちなさい！！」
「！？」
背後からの制止の声に、驚いて振り返ると、そこには銃を構えたミナトの部隊が立っていた。
「あなた達正気なの！？ ニューエドワーズには負傷した将兵や、あなた達の仲間がいるんでしょ！！」
しかし、兵士はミナトの言葉を一笑に付した、
「フッ それこそ名誉の戦死と言うものだ」
「狂ってる ・ ・ ・ 」
事も無さげに言う兵士に、ミナトが言い捨てるが、
「それは誉め言葉として取っておこう、元連合軍少佐」
カチッ
歪んだ笑みを浮かべたまま、最終安全装置解除のスイッチを押した。
「な！ なんて事を」
『ジバクソウチ サイシュウせーふてぃーカイジョ ジバクマデアト９００ビョウ・・・』
無機質な合成音が、破滅の時を刻み始めた。
カタッ カタカタカタカタ・・・
自爆装置を作動させたクリムゾンの兵士を、縛り上げた後（流石に殺さなかった）、ミナトはコンソールパネルに張り付き、何かの作業をしていた。
「？ ミナト少佐 いったい何をしているんですか？」
縛り上げたクリムゾン兵に銃を向けていた兵士が、ミナトに疑問の声を上げる、
「フンッ システムはロックされているッ もうここからではどうにもならん」
「何をしても無駄だ！！ あの基地は消滅するまで後１０分だ」
縛られながらも強がるクリムゾン兵、口々に騒ぎ立てるが、その言葉にミナトは自分の考えが正しいと確信した、『ここからではどうにもならん』と言うことは、向こうニューエドワーズ側からならどうにかなる、と言うことだ。
「んっもう！ 煩いわね！ 気が散るから黙らせてっ」
「はい」
ガスッ ごんっ バキャッ！！ ・ ・ ・ ドサッ
たこ殴りにされ倒れるクリムゾン兵、その物言いにミナトの部下達もかなり頭にきていたようだが、医療チームがこんなのでいいのだろうか？（注：ミナトは軍医です）
「フウ・・・ ところでミナト少佐、先程から何を？」
クリムゾン兵をイモ蹴りにしていた兵士が、汗を拭いながら再びミナトに聞いていた、先程より晴れ晴れとした表情をしているのは気のせいだろうか？
「このままだとあの基地は消滅しちゃう、だけどあそこには消滅させたくても出来ないほど強い娘がいるのよ」
確信を持って答えるミナトに兵士は、今ニューエドワーズにいるで有ろう少女を思いだした。
「 ・ ・ ・ ナデシコのパイロット、あの娘の事ですか？」
以前、連合第３医療施設で保護した事のある少女。
「そう言う事、どうにかしてもう一度逢いたいと思っていたけど、こんな事になるなんてね」
ニューエドワーズへの通信回線を開きながら、ミナトは焦った表情で答える、爆発まで後僅か・・・
ドガガガガガガガガガガガッ
「オイッ これ以上面倒かけるな！！」
ルリのウイングの前面に立ち、攻撃を防ぎながらリョウコが叫ぶ、
しかし、ルリは何も答えることなくただ黙って攻撃を受けている。
「クソッ」
ズシャッ ドゴォォォォンッ！！
近づいてきたリィオーをビームサイズで切り裂く、が殆どの敵が遠距離射撃をおこなっており、射撃武器を持たないデスサイズはほぼ為す術がない、
「貴女の知り合いは、ショックを受けすぎたみたいだね」
同じように、ウイングを庇いながらユリカが答える、こちらはまだミサイルの残弾が有るのでなんとか反撃しているが、もともと接近戦専用機のため弾数は少ない。
両機共に、反撃するなら接近戦しかないのだが、離れすぎればルリを庇うことが出来ない、要するにルリが動かない限りどうしようもできない状況なのだ。
ズドォォォオオォォンッ ズドォォオオォォオォンッ
長距離砲撃用のタンクからの攻撃が始まった、
「ドワァァァアァァアァァアアッ！！」
流石のリョウコもこれは防げない、いや多少なら直撃を受けても大丈夫なのだが、それを試してみようとは思わない、あわてて回避行動に移る。
ヒュゥゥゥゥウウゥウウゥゥゥ・・・
ドガゴァァァアァァアァァァンッ！！
大気を切り裂き飛来した砲弾が、艦砲射撃並の破壊力を発揮する。
「キャッ」
直撃はしなかったものの至近距離に着弾したため、ウイングは大きく吹き飛ばされ、ルリもコクピット内で体を激しくぶつける。
「ツゥ・・・」
額が切れ、血が滲んでいる。
【作戦失敗は死 ・ ・ ・ このままでいれば、確実にそうなりますね、
いえ、そうならないと ・ ・ ・ 今回は、 完全に私のミス
クリムゾンに踊らされるなんて ・ ・ ・ ・ ・ ・ ？】
不意に、誰かに呼ばれたような気がして、ルリは顔を上げた。
『ルリッ！ そこにいるんでしょ！？』
「！！」
言葉に反応して、ルリはウイングナデシコを立ち上がらせる。
『ルリッ 聞こえているんでしょ？ 聞いて欲しいことがあるの！！』
ミナトの声がニューエドワーズ基地いっぱいに響きわたっていた、どうやら遠隔操作で直接基地のスピーカーにマイクからの音声をつなげたようだ。
「ルリ？ もしかしてあいつの名前か？」
迫ってくるリィオーをビームサイズで切り払いながらリョウコがウイングナデシコを振り返る。
『いい、よく聞きなさい 今その基地に有る大型ミサイルの自爆装置が働いているわ！』
「！」
「なにぃぃ！」
「うそぉっ」
慌ててユリカがニューエドワーズ基地のデータを呼び出す。
『クリムゾンがあなた達を抹殺するために、その基地ごと吹き飛ばそうとしているの！！』
ピピピッ
「確認しました、此処には４２基の大型ミサイルが格納されてます！」
モニターに表示されたデータを見て、ユリカがミナトの言葉が嘘でないことを確認した、
「これが全部爆発したら ・ ・ ・ 」
爆発したときの破壊力をシュミレートし、ユリカは凍り付いた、
「は、半径３００キロ圏内が一瞬で蒸発」
「んだとっ！？」
ユリカの出した数字にリョウコの血の気が一気に引く。
「じょ、冗談じゃねぇっ オレ達も速いとこ脱出しないと！！」
「無理ですっ！ 爆発までもう１０分も無いから、とても逃げ出せません！」
「マジかよ ・ ・ ・ 」
ユリカの言葉に呆然とするリョウコ、
『ルリ、貴女ならそこから逃げられると思うけど、 ・ ・ ・ でも、身勝手なお願いを聞いて欲しいの、
爆破を止めて、ルリッ！」
「！！」
ギュウインッ！！
それまで、ミナトの言葉を黙って聞いていた、ウイングナデシコがスラスターを噴かし飛び上がると、バード形態に変形し大空へと舞い上がった。
「なっ！ おいコラ！ ルリとか言ったなッお前１人で逃げる気か！！」
いきなりの行動にリョウコが怒声をあげる、がユリカには、ルリが逃げるために舞い上がったのではないと直感で理解した。
「大丈夫、ルリちゃんは逃げたんじゃないよ」
ゴォォォォォォオオォォ ・ ・ ・
上空で水平飛行に移ると、モニターに映る基地と、データにあるミサイル格納庫の地図を照合させ、進入経路を特定する。
「ミサイルサイロ確認、これより突入します」
「何する気だ！？」
ミナトの声が聞こえなかったのか、まだ襲ってくるリィオーを斬り捨てながら、不安げにウイングナデシコを見上げるリョウコ、
「了解です、ルリちゃんに任せるからね」
ルリのサポートをするべく、爆発解除の方法を調べるユリカ。
キュゥゥゥン ・ ・ ・ ゴォォオオォォォォォオッ！！
ウイングナデシコのエンジンが唸りをあげ、ほぼ９０度の角度で地表に向かって加速を開始した。
「そこですっ！」
激突寸前に、ＭＳ形態に変形しミサイルサイロの上部ハッチをビームサーベルで斬り裂く、
バジバジバジッ ジジジジジジ ・ ・ ・
さしもの分厚いハッチも火花をあげて、斬り裂かれた。
ガシッ ギギギッギギッ
出来た裂け目にシールドを差し込み、更に裂け目を広げると、ウイングナデシコごと内部に突入した。
「作戦ミスは死、だけどこのままでは死ねません！！」
ウイングナデシコから飛び降りると、ルリは警報が鳴り響くサイロ内部を走った。
『自爆装置がセットされてるのは、一番大きい３０４型です。他のミサイルは３０４型の爆発で誘爆するようになっています』
通信機からユリカの声が響く、
「３０４型 ・ ・ ・ あれですね」
整然と並べられたミサイルの中でも、一際大きいミサイルがサイロの中央に設置されている。
『３０４型の自爆解除が出来るのは、制御室からだけだから、制御室へ急いでください！』
ユリカの声に、ルリは制御室に向かって警告灯で赤く染まったサイロ内を駆けた。
自爆まで、あと僅か ・ ・ ・
「よしとっ、これで２機は確保したぞ」
基地内の格納庫で、脱出用の輸送機をチェックしながらリョウコがユリカに呼びかける。
ドシュッ ドシュッ！ ドゴォォォンッ ズガァァァァァン！
「了解です、滑走路の方はもう少しできれいになるからね」
迫ってくるリィオーに向かって残りのミサイルを放ちながら、妙に明るく答えた。
「でもな、こんなことしても無駄なんじゃないのか？」
すでに自爆まで５分は切っているだろう、脱出するにしてもこんな鈍足輸送機では、残り時間で３００キロも移動できない。
つまり、輸送機を確保してもそれが使われるには、ルリが自爆を阻止する事が前提条件なのだ。
「あっ それからもう１機も離陸できるようにしてください、ルリちゃんのナデシコももうそんなにエネルギーは残ってないと思いますから」
「あー？ お前本当にあいつを信頼してるんだな」
もうすぐこの基地ごと地上から消滅する可能性の方が高いと言うのに、その可能性をまったく考えていないような発言に、流石のリョウコも呆れた。
「当たり前です！」
稟としたユリカの発言に、リョウコは顔を引き締める、
「しっかり頼むぜ、ルリさんよ」
ザシュッ ドガガガガガァッ！！
ミナトの放送を聞いてもまだ逃げ出さずに襲ってくる連合のリィオーをヒートショテルで斬り裂きながらユリカも顔を引き締める。
「成功の確率は１０パーセント、だけどあの娘なら、ルリちゃんならやれるっ」
「駄目だ！！ 自爆装置は一向に止まらない！！」
刻々と刻まれていくタイマーに、兵士の１人が絶望的な声を上げる。
「ミナト少佐っ やはりあの基地に爆破を止められる者がいるなんてとても信じられません！！」
別の兵士が、ミナトに詰めかけるが、ミナトは焦ることなく静かに瞑目している。
「ミナト少佐！」
たまらずに、兵士が叫ぶ、
「そう、
誰も信じられないでしょうね ・ ・ ・ でも私は「当たり前だ！！ あの基地はあと３分で ・ ・ ・ エ？」」
いつの間にかに復活したクリムゾン兵が、ミナトの言葉を遮り、
ドゴズガバキッ ズシャァァァァ ・ ・ ・
きれいな流れ星となった。
「 ・ ・ ・ でも私は信じられる、
自慢したいのよ、爆破阻止をやってのける事の出来るあの娘を、ホシノ・ルリを知っていることを！」
まるで何事もなかったかのように、言葉を続けるミナト。
まったく迷いのない表情で答えるミナトに兵士達も、静かにタイマーを刻むモニターを見上げた。
爆破まで、あと１分 ・ ・ ・
５０秒 ・ ・ ・
４０秒 ・ ・ ・
３０秒 ・ ・ ・
２０秒 ・ ・ ・
１０秒 ・ ・ ・
５秒 ・ ・ ・ ４秒 ・ ・ ・ ３秒 ・ ・ ・ ２秒 ・ ・ ・
ピィーーーーーーーーーーー
不意にカウンターが停止した。
『にゅーえどわーずキチガワヨリ、ジバクテイシメイレイノぱすわーどガニュウリョクサレマシタ、
ジバクメイレイハ、テッカイサレマシタ ・ ・ ・ 』
合成音声が自爆命令が撤回されたことを告げると、そこは歓声で包まれた。
カウンターは１秒４５で停止していた。
ゴォォォォォオオォオォオォオォォォォ ・ ・ ・
爆音を上げて、２機のＭＳ輸送機がニューエドワーズ基地から飛び上がった。
「縁があったら、またあおうね」
「ああ、そうだな」
それぞれのコクピットでユリカとリョウコが手を振ると、２機は別々の方角へと進路を取った。
「しっかし、お前はほんとスゲーよ ルリ」
小さくなっていくニューエドワーズ基地を振り返りながら、リョウコはそこにまだ居るであろうルリに声をかけた。
ピィーーーーーーーーーー
ミサイルサイロ ３０４型制御室
コンソールパネルの上に上半身を倒れ込むようにして居るルリが居た。
「 ・ ・ ・ 惨めな仕事
私の 私のミス」
静かな制御室に鈍い音が響いた ・ ・ ・
洋上 クリムゾン艦隊
ハーリー専用艦の執務室で各地からの報告書に目を通している、ハーリーと月臣の元に険しい顔をしたユキ特佐が入ってきた。
「申し訳有りませんっ ハーリー様」
開口一番、ハーリーに向かって謝るユキ、
「ニューエドワーズ基地のナデシコの処理に失敗しました」
と、その言葉に月臣が反応した。
「それは ・ ・ ・ ユキ特佐らしくない事だな」
目を通していた書類から顔を上げユキを見る、ちなみにハーリーはユキに背を向けたまま震え上がっている（笑）
「それでどんな方法でナデシコを倒そうとしたんだ？」
先ほどの後遺症がまだ残っているのか、まだ動けないハーリーのかわりに月臣が問う、
「それは ・ ・ ・ ニューエドワーズ基地のミサイルの自爆装置を働かせて、基地ごと抹殺しようとしました」
「それでどうなりました？」
ユキの言葉に硬直状態を抜け出して、反応するハーリー、
「はい、ナデシコのパイロットにミサイルの起爆装置を解除され、爆発は阻止されました」
パタンッ
「そうですか ・ ・ ・ それはナデシコに感謝をしないといけませんね」
ハーリーは読んでいたファイルを閉じると、立ち上がってユキを振り返った。
「ハ？」
言葉の意味が分からず、ユキは驚きの表情を浮かべる。
「地球は限りある空間なんですから、むやみに汚しては駄目です」
「ハァ」
まだ納得行かないのか、不満げな声を上げる。
「人間とは小さな生き物、抹殺することは容易いことだ、
そんなことは望んではいけないのだ」
部屋から出ていこうとするハーリーの言葉を月臣が続ける、
「今回のことは、ナデシコのパイロットに礼を言わなければな ・ ・ ・
それからユキ特佐、きみはもう少しクリムゾンを学ぶことだな、それがハーリー様のためとなる」
そう言うと、月臣もハーリーの後を追うように執務室から出ていった。
「クリムゾンを ・ ・ ・ 学ぶ ・ ・ ・ ？」