B パート

 

クリムゾン本部

その執務室で、ハーリーはグラス片手に寛いでいた(似合わん)

「ハーリー様、次の攻撃目標はどうしましょうか?」

空になったグラスに、ユキ特佐が赤紫色の液体を注ぎながら尋ねる、

「 ・ ・ ・ 戦いつづけよう、そして勝てばいいんです」

新たに注がれたグラスを片手で回すようにしながら答える(だから似合わないって)

「それでは、地球圏制覇と言う事で良いでしょうか?」

ハーリーの言葉に、顔を輝かせるユキ、【この世の全てをハーリー様の物に】が信条のユキにとって、それは待ち望んでいた言葉だったのだから。

 

余談だが、その時のユキの笑顔を見せられれば、大抵の男は落ちただろう、男と知らなければ(爆)。

その場にいた月臣特佐などは背筋が凍りついたそうだが ・ ・ ・ 

 

ハーリーはグラスの液体を光にかざしながら(重ね重ね似合わないって!)頷く、

「十分です、それでクリムゾンは嫌われて、世界から標的にされると言うものです」

「ハーリー様!?」

が、続けて口から出た言葉はユキの考えていたモノとは、違っていた。

「嫌われ者は強くなくてはならない ・ ・ ・ クリムゾンにとっていい励みになるでしょう」

それまで黙っていた月臣は、ハーリーがそう言うであろうとわかっていたのか、特に動揺する事なく追従する。

「そうです」

月臣の言葉に頷き、手にしたグラスを一気に傾け ・ ・ ・ 

「がぶぐぼっ!!」

思いっきりむせていた、だから似合わないって言ったのに。

 

 

中東、マグアナック隊秘密地下基地

いつもなら、機体の整備や修理に追われ騒然としている筈の基地内は静まり返っていた、

いや、一箇所だけが、いつもと違う騒々しさを出している。

「ユリカ先輩! 貴女様の身に何かあったら、コロニーにいらっしゃるお父上になんと申し上げればいいんですか!」

「そ〜うだよ 私達に黙って行くなんて、チョット酷いんじゃないかな〜」

「置いてけぼり〜 置いてけ堀〜」

ニューエドワーズ基地から帰ってきたユリカが、置いていかれたマグアナック隊のメンバーに掴まっていた(上から順に、イツキ、ヒカル、イズミ)

その中の1人、イツキは置いていかれたことがよほど堪えたのか、もう半狂乱となっている。

「”私”はそんなに頼りになりませんか!?」

「 ・ ・ ・ イツキちゃん、それなんか違う」

「うひょひょひょ〜〜」

「別にそう言う訳じゃ〜」

その勢いに、流石のユリカも押されている。

「先輩を守るために”私”がいるんですよ!!それなのに〜」

「 ・ ・ ・ ”私”じゃなくて”私達”じゃないのかな?」

ヒカルが疑問をあげるが、イツキの声にかき消される。

「だから ・ ・ ・ 」

何とか言い返そうとするが、

「わかっているんですか!! 先輩!」

「ひっ  はいぃぃぃぃ!」

あまりの剣幕に、思わず頷いてしまう、

「ねぇ イズミちゃん、私達って何なんだろうね?」

「 フッ ・ ・ ・ 

虚しい」

が、イツキの方向違いの剣幕に、他のメンバーはすっかりやる気を無くしている。

「カザマくん、そこまで」

そろそろ頃合だろうと、ジュンがユリカと(マグアナック隊員ではなく)イツキの間に割ってはいる、

「アオイ隊長!」

「ユリカももう単独行動はしないって言ってるんだし、もういいんじゃないか?」

「ウンッ もう二度としないって約束するよ」

ジュンの言葉を肯定するように、ユリカが言う、

「だから、もうこの一件は ・ ・ ・ 」

「アオイ隊長は、黙っててください!!」

「はい」

ジュン、撃沈

「いいですか先ぱ どぐしっ!  きゅう ・ ・ ・ 」

「ハイハイ、イツキちゃんの言いたい事はもう伝わったから、今はMSの整備でもしてようね」

背後から忍び寄ったヒカルが、手にした消火器の一撃で昏倒させると、イズミと一緒に引き摺って行った、

 

「 ・ ・ ・ はぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜、ヒカルちゃん、ありがとね」

思いっっっっっっっっきり息をついて、椅子に沈み込む、

僕は隊長なのに ・ ・ ・ 

 ところで、どうだったんだい?」

ユリカに紅茶を渡しながら、ジュンが真面目な表情で聞いてくる、いつもの事なので立ち直りは早いらしい、

「うん?  ああ、私も含めて全部で5機、

 でね、5機とも名前はナデシコだと思うよ」

ジュンから受け取った紅茶を、一口含み答える。

「5機ともナデシコ?」

「彼女達はみんな、過激で乱暴だけど ・ ・ ・ 良い人だよ」

「ふむ ・ ・ ・ どうして良い人だってわかるんだい?

 って、聞くまでも無いか」

「さっすがジュンくんっ、ユリカの事よくわかってる」

嬉しそうに、ジュンを見上げると、

「まぁ、ユリカとの付き合いも長いからね」

視線を逸らし顔を赤くしながら答える、

「やっぱりジュンくんはユリカの最高の友達だね!!」

 

グワァァァン〜〜

 

どこから落ちてきたのか、金ダライ(何故?)がジュンの後頭部を直撃した。

「け、結局こうなるんだね ・ ・ ・ (バタッ)」

アオイ・ジュン、どこまでも報われない男であった ・ ・ ・ 

 

 

 

 

「 ・ ・ ・ 」

「 ・ ・ ・ 」

巡業中のサーカス団、その一角で2人の美女が焚火を囲み腰を降ろしている、

カタッ カタカタカタ ・ ・ ・

焚火に掛けられたポットのフタが、内側からの蒸気で微かに鳴る。

「 ・ ・ ・ 」

「 ・ ・ ・ 」

が、2人は何をするでもなく、ただゆらゆらと揺らめいている焚火の炎を見つめている。

1人は、このホーリーサーカス団の花形、エリナ・キンジョウ・ウォン、

もう1人は、表情にこそ表れていないが、悲痛・絶望・後悔そんな雰囲気を纏っているシェンロンナデシコのパイロット、東 舞歌。

 パォォォオォオォォ ・ ・ ・ 

そんな2人の雰囲気に耐えかねたのか、近くの檻にいた象が悲しげな声をあげる、

「?」

ふっと気配を感じてエリナが背後を振り返る、

「もう、そんなに黙り込んでいて何が楽しいのよ?

 かれこれもう2時間はそうしてるじゃないの」

トレイに湯気の立っている皿を2つ乗せたレイナが、少々あきれた表情を浮かべて立っていた、

「それをずっと見ていた貴女も、何が楽しかったのかしら?」

「流石、やっぱり気づいてたのね」

少し意地悪げな笑みを浮かべたエリナの言葉に、先程とは別のあきれた表情を浮かべ、トレイを差し出す。

「お腹空いてるんじゃないかと思って、持ってきたわ

 はい、暖かいうちに食べなさいよ」

「気を使わせたみたいね、そこに置いておいて」

そう言ってレイナから視線を焚火に戻す、受け取る気は無いようだ。

「ハァ、此処において置くから冷めないうちに食べなさいよ」

軽くため息をつくと、側にあったちょっとしたテーブルサイズの石の上にトレイを置く。

「でも、後片付けは自分でして頂戴」

そう言ってレイナは離れていった、いや途中で立ち止まり未だ一言も発してない舞歌を振り返り、

「 ・ ・ ・ 美人には美人の友人が出来るもの、かな?」

この辺りでは滅多に見ない、東洋系の出で立ちの舞歌の美しさに感嘆しながらつぶやく。

心の中で、じゃあエリナの友人の私も?とか考えながらその場を離れていったのは、まぁ 余談である。

「 ・ ・ ・ 」

「ふぅ ・ ・ ・ 」

レイナが来た事などまったく気付いていないかのように、一点を見つめつづける舞歌に、付き合っていたエリナも息をつく、

同じナデシコのパイロットとして気持ちはわかるが、いつまでもこうしている訳にはいかない。

ナデシコのパイロットとして、

「レイナほど美味く出来ないけど、どう?」

焚火に掛けていたポットを取り、コーヒーを入れて差し出す。

「 ・ ・ ・ 」

それを黙ってしばらく見つめてから、手を伸ばし受け取る。

「私には ・ ・ ・ ナタクに乗る資格が無い」

「 ・ ・ ・ そう」

舞歌の言葉にエリナは返す言葉を持っておらず、ただ気遣うだけだった、

が、今の舞歌にはそれが、ありがたく感じられた。

「ありがとう ・ ・ ・ 」

そう言って渡されたコーヒーを一口含む、それがどんな味がしたのかは、煎れたエリナもわからなかった。

 

 

サンクキングダム隣国の国境線に、ラピス率いるクリムゾンの部隊は野戦基地を築き、再度進攻の態勢を整えていた。

「うっ ・ ・ ・ つぅ!!」

その闇夜に包まれている野戦基地を、ふらつきながら一人の兵士が歩いている。

やがて、その兵士は1つのテントの入り口に差し掛かった、いや初めからこのテントに来るつもりだったのだろう、

テントからもれる灯りに浮かび上がったのは、東南アジア系の風貌を持つシュン特尉だった。

シュンがテントを背に息を整えていると、中からラピス達の声が聞こえてきた、

 

 ピ ピ ピ ピ ピ ・ ・ ・

一定のリズムを刻みながら、モニターに波形が表示される。

「 ・ ・ ・ とりあえず不整脈は治まりました、ですけど ・ ・ ・ 循環器系がまだ異常を示していますね」

ラピスを診断していた女医が、難しそうな顔をしてラピスの状態を告げる、

もっとも、ラピスの状態ではなく、こんな無茶をしたラピスに難しそうな顔をしているのだが、

「クスッ 奇跡の生還って ところかな? ・ ・ ・ くっ」

野戦用の簡易ベットの上で言葉を発するのにも苦しそうにしながら、自嘲気味につぶやく。

「ラピス、何だってあんな無茶を?」

カーテンを隔てて立っていたダッシュが、心配げに話し掛ける、

何故カーテンかと言うと、今ラピスは診察中、半裸状態 ・ ・ ・ つまりそう言う事(そこ! 変な想像したヤツっ グランド10周!!)

「? ダッシュ居たんだ」

「 ・ ・ ・ そりゃいるよ」

ラピスの言葉に、少々憮然としながら答える。

「あは、怒った?」

「別に、いいけどね」

いつもの事だから、と心の中で続ける。

「で、いったいどうして?」

「 ・ ・ ・ あのMS、トールギスをあまく見ていたみたい、

 あれは、パイロットの事をまったく考えていないよ」

トールギスの殺人的な機動力を思い出し、いったん言葉を切る、

「あれは正当な近代兵器を完全に無視した、図々しい設計ね」

ラピスに図々しいと言わせるほどのトールギス、その事にやや冷や汗をかきながら、

「パイロットの事を考えていないって?」

テストパイロットだったシュン特尉や、今のラピスの状態を見ると、ある程度納得できる事だが、ラピスの言葉に違うニュアンスを感じ聞き返す。

「想定しうるあらゆる戦闘に、たった1機で完璧に勝利しうる性能を与えられた者

 私はそう考えたわ、

 

 私、臆病になったのかもね ・ ・ ・ トールギスの性能を発揮させようとするほど、自分を追い込んでる、

 ラピス! 貴女のチカラはその程度なの、って」

いつに無く饒舌なラピスに圧倒されながらも、ダッシュは黙って聞いている。

「あれは戦闘用MSじゃ無い、決闘用MSの方が正しいと思う、

 パイロットの ・ ・ ・ 乗り手の潔さが無いと、ホントの性能は発揮させれない」

「?  ラピス、乗り手の潔さって」

ダッシュの問いに、しばらく沈黙してからおもむろに口を開く、

「死んでも勝利しろ、って事だよ ダッシュ」

「!! そんなっ」

ダッシュの顔が強張る、がラピスは気にする事なく続ける、

「ハァ 慢心と恐怖で体を壊すか、私もまだまだなんだね」

自嘲気味に言う、

「それにしたって、無茶しすぎるよラピス」

「 ・ ・ ・ トールギスは、この数ヶ月間シュンが体を壊してまで私の為に調整してくれたMS、

 それなのに乗りこなせないんじゃ、シュンに合わせる顔が無いもん」

「ラピス ・ ・ ・ 」

先程までと違い、どことなく照れたようなラピスのつぶやきに、ダッシュは安堵感を覚えたが、次の言葉でそんなモノは吹き飛んだ、

「さてと、サンクキングダムへの再出発だけど ・ ・ ・ 」

「なっ 駄目だよラピス! 今の自分の状態がわかってるの!?」

まるで何事も無かったかのように、再進撃の命令を出そうとするラピスに猛然と制止の声をあげる。

「普通の人間なら、死んでいてもおかしくないんだ!

 サンクキングダムにはラピスの代わりに僕が行く! だからラピスは此処で待っていて!!」

「そうはいかないよダッシュ!」

が、ラピスも簡単に引き下がるはずが無い、行き先はサンクキングダムなのだから。

「くっ ・ ・ ・ 

 トールギスに乗らないのなら、許可するよ」

階級が上であるラピスに向かって言う台詞ではない、がそれだけダッシュがラピスの身を案じていると言う事だ。

「ダメッ トールギスはこれからの戦いに必要になる! あの設計思想はナデシコと同じなんだから」

「ナデシコと?」

「前に言ったと思うけど、全てのMSの原型になったトールギスの無謀な設計はナデシコが受け継いでいる、だからこそ私はトールギスを乗りこなさないといけない、

 ナデシコに勝つ為にっ!

そう言いきるラピス声を、ダッシュは複雑そうな表情で聞いていた。

 

 

ザッ ・ ・ ・ 

テントの中にいるラピス達に気付かれないように、シュンはゆっくりとその場を離れた、

「くっ、 特攻機と言う事か、トールギスは ・ ・ ・ 

 なら、ナデシコ達の無謀な行動も理解できる、あいつらは死に値する戦場を探しているんだっ」

そう言うと、シュンは闇の中に消えていった、

 

 

「サンクキングダムを前にして、ジッと出来ないのはわかるけど、此処は僕の言う事に従ってもらうよ」

どうにかラピスの説得に成功して、トールギスには乗らないと約束させたダッシュは、疲れたように、いや疲れ果て深々と息をついた、

「ムゥ ・ ・ ・ 明日の夕方には出撃するから、それまでに準備を整えておいて」

「ハッ 了解しました!」

どことなく不機嫌そうなラピスに、ダッシュがカーテン越しに敬礼をする。

 

 

カチッ

ウィィィィィン ・ ・ ・ 

整然と並べられたエアリーズ達から少し離れた位置に、トールギスは片膝を付く形で静かに出撃の刻を待っていた。

闇夜の中でさえ、その機体は気高く白銀の輝きに包まれている、

そのコクピットハッチがゆっくりと開いていく、

「 ・ ・ ・ 」

ハッチが開いたのを確認すると、オオサキ・シュン特尉はラピスがいるであろうテントに向かい、無言のままゆっくりと敬礼をする。

もし、それを見ていた者がいれば気付いていただろう、その敬礼は一般的なクリムゾンのではなく、サンクキングダム テンカワ王家に仕えた近衛騎士団特有のものであったと。

 

 

ウィィィィ ・ ・ ・ ゴァァァアァァァァアァア!!!

 

基地全体を揺れ動かすような轟音が、闇夜を引き裂き響き渡る。

「!? いったい何事だ」

轟音に一瞬躊躇したものの、ダッシュはテント内の通信機に取り付き状況を確認しようとする、

【!? この音 ・ ・ ・ もしかして】

聞き覚えのある音に、ラピスの表情が闇色のバイザーの上からわかるほどに変化する。

そして、その予想は通信手の言葉で確定した、

『ダッシュ特尉! 大変です トールギスが発進しました!!』

「何!?」

 

 

ゴァァァアァァァァアァアァァアァァァァアァア!!!

「くぅ ・ ・ ・ ぐぁぁ         うぅ」

絶え間なく襲い掛かってくるGを歯を食いしばって耐えながら、シュンはトールギスをサンクキングダム基地に向か向かわせる、

薄らと明け始めた朝日に、機体を輝かせながら。

ピピピピピッ!

『シュン! 何をしてるの早く戻ってきて!!』

閉じていた通信回線が強制的に開き、ラピスの顔がモニター一杯に映し出される、その表情はシュンが今まで見た事が無いほど狼狽している、

「だ、大丈夫ですよラピス特尉、このトールギスなら1機でも敵の中枢施設を押さえられます ・ ・ ・ ぐぅっ

 私は、こいつの力をよく知っていますから!」

『やめて! 死んじゃうよっ』

「それくらい覚悟のうえ ・ ・ ・ ラピス特尉、私も貴女の夢に協力させてください ・ ・ ・ クリムゾンの為ではなく、貴女の為に!」

『シュン ・ ・ ・ 』

「死と引き換えに、勝利を得てまいります!」

 

 

『死と引き換えに、勝利を得てまいります!』

「! 馬鹿な事言わないでっ 早く戻ってきなさいよ!! シュン特尉聞いてる!?」

通信機に掴み掛からんばかりに叫ぶラピス、だが通信はもう切られていた、

「戻って来い ・ ・ ・ 戻ってきなさいよ

  ・ ・ ・ いったいこれから通常雑務、誰が処理するのよ ・ ・ ・ 」

そう涙声で呟くラピスに、誰も声をかける事が出来ず、だた、シュン特尉に向かって最敬礼をとっていた。

 

 

ドガァァアァァァァア!!

盛大な爆発音を上げて、補給基地の一角が吹き飛ぶ、

「ヘヘっ どーやらオレのほうが早かったみたいだな」

爆炎の中から、死神を思わせるシルエットのデスサイズがゆっくりとあらわれる、

基地内をサーチし、まだルリのウイングが来ていないのを確認するとリョウコは嬉しそうに笑みを浮かべる、

「よっしゃぁぁ! 暴れるぞぉぉぉおおおりゃぁぁぁああぁぁ!!」

ルリより先に侵入できたのがよほど嬉しかったのか、雄叫びと共にビームサイズで振りあげる。

ただ単に、昼間テニスでルリに負けた事を気にしてただけなのかもしれないが。

 

 

その頃、

「え〜と ルリちゃん、クリムゾンの基地燃えてるみたいだけど?」

「そうでみたいすね、多分リョウコさんの仕業です」

「 ・ ・ ・ 俺が言うのもなんだけど、ルリちゃんは行かなくてもいいの?」

「はい、大丈夫です、あのくらいの規模の基地ならリョウコさんだけでも十分ですし ・ ・ ・ 」

「?」

「今は、こうしていたいんです」

「 ・ ・ ・ そうだね」

満天の星空の下、アキトとルリは昼間再会した学園の自然公園風中庭を歩いていた。

 

 

「ルリー 早くこないと、お前の分が無くなっちまうぞ〜〜」

結局、リョウコは来ないルリを待って明け方近くまで戦っていたそうな ・ ・ ・ 

 

 

 

ゴァァァアァァァァアァアァァアァァァァァ ・ ・ ・

「 ・ ・ ・ 邪魔するな、もうそんなに持たないんだからな」

トールギスの進路を塞ぐように、数機のエアリーズが展開しているのを見て、シュンはうめくようにつぶやく、

おそらく、サンクキングダム基地の僅かに残った部隊なのだろうが、今のシュンにとってそれすら相手にする時間が惜しい、

ギュイィィ   ドウッ ドウッ

ドーバーガンを放ち先頭の2機を撃ち落とし、出来た隙間を全速で駆け抜ける、

慌てて残ったエアリーズが反転して追ってくるが、こうなってはもう追いつく事は出来ない。

 

 

バタバタバタバタ ・ ・ ・ 

「急いで!! もっと早く!」

「ラピス無茶言わないでよ、これで精一杯なんだから」

全速でトールギスの後を追いかけるヘリの中で、騒ぐラピスをダッシュが押さえている、

一刻も早くトールギスに追いつきたいが、戦闘ヘリの速度ではどう考えても無理だ。

いや、トールギスの性能から考えるなら、たとえエアリーズで追っても無理だろう、

ウイングナデシコなら追いつく事が可能だろうが、それこそ無理な相談だ。

「【私がトールギスを乗りこなしていたら、こんなことに】 ・ ・ ・ 無茶でいいから、急がせて!」

「わかっています、特尉!」

ラピスの声にダッシュではなく操縦している特士が答える、誰しもシュンを死なせたくないのだから。

 

 

ヴゥーーーー  ヴゥーーーー  ヴゥーーーー

早朝の静けさを引き裂くかのようにサンクキングダム基地に警報が鳴り響く。

「敵、新型MS1機、此方に向けて急速接近中!!」

「くっ! 全ビーム砲、その1機に集中しろ!! なんとしても墜とせ!!」

基地指令の命令のもと、基地内の全ビーム砲がトールギス、ただ1機に向かって攻撃を開始した。

 

 

「ウオオォォォォォオオォオォオォォオ!!」

シュンはトールギスのスロットルを引き上げる、

幾条ものビームがトールギスを直撃するが、回避行動すらとらない、いやトールギスには回避行動そのものが必要無かった。

が、中のパイロットはそう言う訳にはいかなかった、

「がぁっ   くぅぅ ・ ・ ・ ・ カハァッ!」

直撃のたびに、その衝撃で揺さぶられシュンの意識は薄れていく、

「ま、まだだ カハッ もう少し ・ ・ ・ もう少し、

 フッ カズシ、そんなにせかすな」

吐血した血を拭ったシュンの口元に、ニヤリとした笑みが浮かぶ、

「!!」

薄れた視界に一瞬、敵司令部ビルの姿がはっきりと映し出され ・ ・ ・ 

 

「ラピス王女っ! バンザァァァァァイッ!!」

 

トールギスのスロットルが最大まで上げられる

 

4基のバーニアから、爆発と間違えんばかりの噴射炎が噴出す

 

接近を阻むビームが更に集中する

 

バーニアとビーム直撃の振動の中、シュンの口元に満足げな笑みが浮かぶ

 

一陣の旋風となったトールギスが吸い込まれるように司令部に消え

 

 

 

そして ・ ・ ・

 

 

 

 

 

閃光が全てを包み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ・ ・ ・ シュン」

水平線の向こうに生まれた閃光を確認し、ラピスは力なくヘリのシートに身を沈めた。

 

 

 

 

 

カッ コッ カッ コッ カッ コッ ・ ・ ・ 

時が止まってしまったように静まり返っているサンクキングダム王城に、何年かぶりの人の気配があった、

ラピス・ラズリ上級特尉、彼女は初めて初めて訪れた筈の城内を、まるで自分の家の如く進んでいく。

「 ・ ・ ・ 」

やがて、歴代のサンクキングダム国王の肖像画だ並ぶ部屋に辿り着く、その大半が戦火によって無残に焼け焦げ、判別かつき難くなっている、

が、ラピスは迷う事なく、ある1枚の肖像画の前で立ち止まった、

まだ比較的無事に残っていた前サンクキングダム国王、アキトの本当の父親の肖像画の前で、

コトッ

ラピスの素顔を覆っている闇色の大型バイザーを外す、

「 ・ ・ ・ 此処に帰ってくるのに、8年も過ぎたんだね、伯父様」

琥珀色の瞳に、懐かしそうな色を浮かべながら肖像画を見上げる、

「だけど、その為に私は多くの血を流してきた ・ ・ ・ 

 こんな私が、テンカワの姓を名乗る事はもう出来ない、

 私は、伯父様の完全平和主義に反する生き方を選んだんだから ・ ・ ・ 

 だけど、心配しないで伯父様

 伯父様の意思は、アキトが継いでくれる、きっと伯父様が理想とした国を創ってくれる

 だから私はその手助けをしようと思う、それが血に汚れすぎた私に出来る唯一の事だから、

 こんな事しか出来ない ・ ・ ・ 不出来な姪だけど、許してくれる?   伯父様」

 

 

 

 

カチャ、

コッ コッ コッ コッ コッ コッ ・ ・ ・ 

しばらく肖像画を見上げていたラピスだったが、やがてバイザーの下にその決意を仕舞い込み、その場を後にした。

前国王はその後姿を、何も語る事なく見つめていた ・ ・ ・ 

 

 

to be continued

 

 

 

 

 

 次回予告

 

命を賭ける戦いはミスの清算でしかない。

ならば、シュン特尉の死は何を意味するのか?

ユキ・キクノは、宇宙用MSトーラスのシベリア基地輸送計画を発案する。

だが、それはナデシコ殲滅の為の陽動作戦だった。

ルリはラピスとの戦いの最中、最後の決断をする ・ ・ ・ 

 

 

次回 新機動戦記 ナデシコ W

 第09話 「ルリ、閃光に散る」

 

 

 

 

 

 あ(と)がき

 

めるう゛ぃる:は〜〜、終わったぁぁ、しかしこれで西欧チーム(サラ、アリサ、レイナ除く)は全滅したな(笑

シュン:オイ

め:おおっ、今回の影の主役シュン特尉じゃないですか。

シュ:特尉ゆうな!! カズシはともかく、オレまで殺すとはどーゆうつもりだ!?

め: ・ ・ ・ 目が、怖いんですけど?

シュ:(ギロッ)

め:しょ、しょうがないんだ!! ナデWはじめた当初からこうなる事は決まってたんだから!!(汗汗汗汗)

シュ:(ギロロッ)

め:そ、それにナデWはじめた頃はシュンさんもカズシさんも、『時の流れ』本編じゃ西欧の地方部隊員だったし、外伝だけで消えるものだと思っていたんだから〜〜!!

シュ:言いたい事は、それだけか?

め:いや、だから ・ ・ ・ 

グイッ(シュンが紐を引く音)         ガコンッ(何かが開く音)

め:ヘ? って! 何でこんな床に落とし穴がぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 って、どこまで落ちるんだぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ  あ、水面? ドバシャァ〜〜ン ってぇぇぇ! 何だぁぁこのぬめぬめのグニャグニャの吸盤付きのモノはぁぁぁ!? お?おおおおおおおおおお!?!?!?

ガコンッ(何かが閉まる音)

シュ:これで少しは懲りただろう

 

 

 

 

 

め:いや、もう十分に ・ ・ ・ 

シュ:ってぇぇぇぇ、いつの間に!?

 

 

 

 

 

代理人の感想

 

う〜む、やっぱり死んだか(笑)。

しかし、この話が始まった時はまだ外伝が連載中だったんですねぇ。

知って(思い出して)驚く意外な事実。

 

 

しかしハーリー君、未成年がお酒飲んじゃだめだよ(笑)。