私たちはナデシコを逃げ出した。

逃げ出すしかなかった。

でも、再びナデシコが飛ぶ時を信じて・・・

大切な思い出の為に・・・

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 第23話 『故郷』と呼べる場所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコがヒラツカドックに曳航されて、すでに3週間が経っています。

ミナトさんとユキナさんは、ミサキさんの実家に匿われているようです。

何でも古い神社らしく、凄腕の神主さんが居るそうです。その神主さんは、アヤさんの師匠だそうです。

そのアヤさんはカズマさんとラピス、ユウタ、プルセルさんと一緒に

イケブクロで探偵家業を再開しています。

元々、探偵だった父親の影響を受けて事務所を譲り受けたそうですから

すぐに、仕事を受ける事が出来たようです。

それにしても、この3人のエステバリス・・・何処に隠しているんでしょうか?

ユリカさんとジュンさんは、自宅で軟禁状態です。

軍の監視が厳しくて、外に出るときも許可を得なければならないんだそうです。

セイヤさんも自宅に戻って改造屋を再開。ナデシコでの改造三昧の日々が忘れられないようです。

アカツキさん達は一旦ネルガルに戻ったのですが、クーデター政権により過去の悪事が全て露見。

アカツキさんは潔く、火星での空港テロ事件の事を全て話し、会長職を辞任しました。

御陰でネルガルでは派閥抗争が激化。

アカツキさんは、そんな内部抗争などに目もくれないで

ネルガルとまったく関係ない小さな警備会社に再就職。

エリナさんとゴートさんも、同じく警備会社で働いています。

確か・・・《アルギュロス》って言いましたか・・・警備会社の名前。

リョーコさん、ヒカルさん、イズミさん、ヤマダさん、イツキさんは行方不明。

イネスさんは、トウキョウの都立高校で校医をしているそうです。

そこは、カズマさん達の母校だそうです。なんでも、格闘技に力を入れていて

格闘技系のサークル、クラブが18もあるそうです。

イネスさんも、毎日怪我人の処置で忙しいようです。

ホウメイさんはナデシコに残っています。と言っても、クルーの半数近くがナデシコを降りたので

今では新メニューの研究に明け暮れています。

メグミさんは声優に復帰したそうです。最近、メグミさんの声を聞く事があります。

プロスさんは図書館の事務員をしています。ホウメイガールズも一緒だそうです。

プロスさんは、にぎやかで花が多いのは嬉しいですが・・・と言っています。

もちろん、行方不明となっているリョーコさん達以外に、全て軍の監視がついています。

人質にとられていた軍の和平派の人たちは、役職を剥奪されて放り出されてしまいました。

ユリカさんのお父さんも、あのフクベ提督も今ではただのオヤジです。

そして、私は・・・

 

 

 

 

 

「ルリ坊、ご飯だよ。」

下の方からホウメイさんの声が聞こえます。

そう、私はナデシコの換気ダクトの中に居ます。

前回、私が隠れていた場所と一緒です。

ホウメイさんが逃げてきた私に、隠れるように指示した場所です。

大人なら入れないダクトでも小さな私なら入る事が出来ます。

「いつもありがとうございます。」

「なぁに、良いって事よ。新メニュー考えるだけってのにも、飽きてきたからね。」

ホウメイさんの笑い声が聞こえます。

「それより、そこは寒いだろう?良い物があるんだ。」

嫌な予感がします・・・

「これ、使いな。」

そう言ってホウメイさんが渡してくれたのは、黄色いモコモコしたものです。

尻尾や耳みたいなのが見えますが・・・

私はソレを改めてみます。・・・これって・・・

「ウリバタケさんの部屋にあったんだ。サイズ的には合うと思うけど・・・」

「い、いえ・・・これって・・・」

「懐かしいねぇ、あたいが子供の頃、連れてってもらった遊園地のキャラクターだよ。

確か・・・ポン太君っていったかね。」

私はその着ぐるみを着ました。

確かに暖かいのですが・・・

「どうだい?暖かいだろう?」

「ふもっふ。」(はい。)

・・・なんか・・・変なボイスチェンジャー機能があるみたいです。

「ふもっふ・・・ふもっふふもふも・・・ふもふもっふ。」(ホウメイさん・・・やっぱりこれ・・・いらないです。)

「そうかい?残念だねぇ。」

って・・・ホウメイさん、ポン太君語?が理解できるのですか?

ホウメイさんは残念そうに、暖かい毛布と魔法瓶を渡してくれました。

あ・・・この毛布・・・アキトさんのです・・・

最初から、こっちを出してくれたら良いのに・・・

「まぁ、テンカワが帰ってくるまでは動かないってんなら

暫く新メニューの感想を聞かせてくんな。」

ホウメイさんは笑いながら言います。

私はホウメイさんに、ポン太君の着ぐるみを返します。

「ホウメイさん、何時もありがとうございます。」

「良いって事さ。見つからないようにね。」

そう言うとホウメイさんは、ダクトの蓋を閉めて去っていきました。

魔法瓶の中はホットミルクティーでした。

私はホウメイさんの暖かい気遣いに感謝します。

ですが、ホウメイさんにも監視が付いているはずなのに、どうやって監視員の目を盗んで

ここまで来れたのでしょうか?プロスさんと同じく謎だらけの人です。

案外、武術の達人だったりして・・・それとも、忍者の末裔?

っと、そろそろ時間ですね。

「オモイカネ、何時ものチャンネルをお願い。」

《了解。チャンネル2ですね。》

オモイカネはチャンネル2をウィンドウに出してくれました。

もう、番組は始まっているみたいです。

 

 

「ナチュラル・ライチよ、覚えておくが良い。

正義など、はかないものだ。」

チャイナドレスを着た、目つきの悪い少女が空中に浮かんでいます。

彼女の名はランプータン。地球を支配するため、

モックーンからやってきた悪の魔法少女です。

「許さないわ、ランプータン。私は、あなたを・・・」

傷ついた少女を抱いた正義の魔法少女・・・ナチュラル・ライチが

目に涙を浮かべて言います。

でも、ランプータンはその様子を楽しそうに見つめて

憎々しい捨て台詞を残して空に消えていきました、

「はーっはっはっはっは。これで地球は我々モックーンのものだ。」

後には、悔しそうな顔をしているナチュラル・ライチが誰もいない空を見上げていました。

 

 

このランプータンの声を、あてているのがメグミさんです。

最初は、この番組も明るく楽しい魔法少女ものでした。

でも、今の状況で番組を放映できるのは、露骨に木星蜥蜴をモックーンに直しているからでしょう。

私は、メグミさんの声に悲痛な叫びを感じ取ります。

本当はやりたくないんでしょうね・・・

ナデシコを降りた他の人達も、この番組を見ているのでしょうか?

見たらどう思うでしょう?戦争だからしょうがない、そう思うでしょうか・・・

私は、TVを消すと一人アキトさんの事を想います。

今頃どうしているでしょうか・・・

その日の夜は、暖かい毛布の代わりに寂しい心を感じた夜でした。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、私はアカツキさんから連絡を受けました。

『やぁ、ルリ君。久しぶりだねぇ。』

明るく答えたアカツキさんの顔は、少し日焼けしています。

警備員の服も着ています。

「アカツキさん、随分顔色が良いですね。」

『なぁに、警備の仕事をしていたら、自然と日焼けくらいするさ。』

「そうですね。」

『それで?テンカワ君は帰ってきたのかい?』

アカツキさんの言葉に首を振ります。

『ま、約束の期限まで後4日あるんだ。

それよりも、この通信は大丈夫だろうねぇ・・・』

「大丈夫です。アカツキさんの廻りには、誰も居ない事を確認済みですから。」

『確かに・・・さすがにトイレの中までは付いて来ないか。』

アカツキさんは、わざわざ自分の監視を若い女性にしないと

会長職は辞任しないと言ったそうです。

廻りの人たちは呆れていたようですが、この事を思えば納得できます。

でも、アカツキさん・・・トイレの中って私も一応女性ですよ?

「アカツキさん、マスターキーは今どこにありますか?」

『ネルガル会長室。でも、ありとあらゆるテロ対策を施しているから

会長室にたどり着く事すら、至難の技だと思うよ。』

「アカツキさん、お忘れですか?A級ジャンパーの存在を。」

イネスさんなら会長室にボソンジャンプして、マスターキーを盗む事くらい

簡単に出来るでしょう。

前の歴史では、ゴートさんが盗み出しましたが、今はアカツキさんと一緒なので

ネルガルの会長室にすら近寄れません。

『イネス君かい?』

「はい、そうです。」

私は、これからの事をアカツキさんと打ち合わせて通信を切りました。

 

次に私はプロスさんに通信を入れます。

「プロスさん、お久しぶりです。」

『おやおや、これはルリさん。お元気そうで何よりです。』

プロスさんの後ろでは、ホウメイガールズが本の整理をしています。

「お願いがあるのですけど。」

『良いですよ。』

まだ用件を言っていないのにプロスさんは承諾しました。

私はプロスさんに心の中で感謝しつつ

「防衛システムの中止コードです。」

『ほう・・・お任せください。』

プロスさんも、快く了承してくれました。

 

次に、イネスさんに連絡を取ります。

「イネスさん、今良いですか?」

『良いわよ。ちょうど一段落したところだから。』

イネスさんの後ろには、怪我人が何人かベッドで寝ています。

「イネスさんは、ネルガル会長室に忍び込んで、マスターキーを盗んでください。」

『良いわよ。そうなればさっそく準備しないと・・・』

「準備?」

私は嫌な予感がしました。

『残念だけど、この件に関して説明は無しね。』

イネスさんは決行日を聞くと、あわただしく通信を切りました。

何をするつもりなんでしょうか?

ともかく、これで後はアキトさんの帰りを待つばかりです。

 

 

 

 

約束の期日になっても、アキトさんは帰ってきませんでした。

こうなれば、私達だけでナデシコを飛ばすしかありませんね。

白鳥さんたちに接触すれば、アキトさんの手がかりも掴めるでしょうから。

「オモイカネ、コミュニケの設定を通常に戻して。

もう、書き換えられたフリをしなくても良いから。」

オモイカネは軍のマークになっていたアイコンを一瞬で元の

銅鐸にすると、コミュニケの設定を通常に戻しました。

さて・・・

「メグミさん、メグミさん・・・」

あ・・・メグミさんは寝ていたようですね・・・

『ルリ・・・ちゃん?』

「はい、お久しぶりです。」

私はコミュニケを全員に繋げます。

1ヶ月だと言うのに、みんなの顔が懐かしいです。

「もう一度、ナデシコを飛ばそうと思っています。

ナデシコは私たちの艦です。私たち以外の人がナデシコを動かすなんて

想像できません。」

『ルリ・・・ちゃん・・・』

メグミさん、もう嫌な役を演じなくても良いんですよ・・・

『ルリルリ、そこ寒くない?』

ミナトさんが心配してくれます。

「ホウメイさんがこの毛布を持ってきてくれました。

暖かいですよ。それに、私ってしぶといんですよ。」

私は、毛布をミナトさんに見せます。

『ルリ姉・・・それ・・・アキトの毛布だよ・・・』

『何ですって!』

『ルリちゃん、どういう事なの?』

『ルリちゃん、そんなの反則だよ・・・』

ラピスの言葉にミサキさん、エリナさん、プルセルさんが反応します。

皆さん、コメカミをヒクヒクさせていますね。

『ルリちゃん・・・』

『ルリ・・・てめぇ・・・』

『ルリちゃん・・・今すぐそっちに行くから!』

ユリカさん、リョーコさん、メグミさんは通信をいきなり切ります。

今頃、大急ぎで準備をしてこっちに向かっているのでしょうね。

「・・・ま、まぁ・・・ユリカさん達は置いといて・・・」

『置いといて良いの?』

ユキナさんの鋭い突っ込みが入りますが、あえて無視します。

「とにかく・・・ナデシコは私達の艦です。

ナデシコはまだ生きています。

皆さんに、これだけは伝えようと思って、この通信を送っています。」

私の言葉に皆が一斉に喋りだしてしまいます。

そんな皆の顔を見て確信します。みんなナデシコに帰ってくる・・・

さて、ちょっとオモイカネに無理してもらいましょうか。

「オモイカネ、アンスラサクスを準備してください。」

私はオモイカネに言います。

《了解。アンスササクス展開。》

アンスラサクス・・・別名”破壊神”・・・ラピスが以前作った

コンピューターウィルスです。これで、ヒラツカドックの監視システムや

軍のコンピューターシステムを、少しの間無力化できるでしょう。

あとは、マスターキーの到着を待つばかりですね。

 

 

一通りやる事を終えた私は、ダクトを抜け出しブリッジに向かいます。

ブリッジまで行くには格納庫を通る必要があります。

格納庫に行くと、軍の監視員が簀巻きにされています。

「頑張れよ〜!」

「もう一度ナデシコを飛ばそうぜ!」

私は、整備員からの声援に答えるように、手を高く上げます。

嬉しいです・・・こんなにもナデシコの事を想っていてくれて・・・

再びブリッジに向かおうとしたその時でした・・・

背中にゾクリとした気配を感じたのは・・・

ゆっくりと、油断無く振り向いたそこには・・・

「お久しぶりです、電子の妖精・・・」

「スメラギ・・・トオル・・・如何してここに・・・」

ヨコスカシティで、アキトさんと死闘を演じたアイツが居ました。

「ナデシコの調査ですよ。ネズミが入り込まないようにね。

それにしても、テンカワ=アキトは居ないようですね。」

スメラギの目がツゥっと細くなります。相変わらず、その瞳には

狂気の炎が感じられます。

「ア、アキトさんに何の用です。」

私は、押し潰されそうなプレッシャーに耐えながら言います。

少なくとも、この人はアキトさんと互角に闘った人です。

私に勝ち目などありません・・・

「奴が居ないのなら、かえって好都合・・・

あなたを我々の研究所に連れて行くことが出来ますから。」

ゾクリ・・・

背中を悪寒が走ります。

絶体絶命・・・と言う訳ですか・・・

「おとなしくして頂ければ危害は加えませんよ。

他の人たちもね。」

スメラギはゆっくりと近づいてきます。周りの整備員達は

何事かと言った感じで、こちらを見ています。

私は一歩一歩・・・後退りします。

「くっくっくっくっ・・・何処に逃げようというのです?

逃げるところなど無いと言うのに。」

あと一歩・・・

もう少し・・・

・・・今だ!

私はクレーンに吊ってあった鉄鋼を落します。

スメラギの頭の上に・・・

「なっ!」

ドォン!

大きな音がします。もちろん、これで終わったとは思えません。

私は、急いで格納庫の出口に向かいます。

「くっくっくっくっ・・・やってくれますね・・・

この程度で私が死ぬと思っているのですか?」

スメラギの殺気が一気に膨れ上がります。

ダメ・・・やられる・・・

スメラギの手が、私まで後少しと言った時でした。

「アホんだら〜!」

え?この声は・・・声の主はそのまま、スメラギに飛び蹴りを放ちます。

スメラギは、一気に後方にジャンプして攻撃を避けています。

「ふっふっふっ・・・待たせたなぁ!ワイが来たからには、好きにはさせへんで!」

「カズマ・・・さん・・・」

「大丈夫?」

アヤさんまで・・・手にはアヤさんの愛刀『絢』を持っています。

「あなた達は?」

スメラギがカズマさん達を見ながら言います。

「クサナギ=カズマや!」

「クサナギ=アヤよ。」

カズマさんとアヤさんは油断無く構えています。

スメラギの実力を感じ取ったのでしょう。

「気をつけてください。こいつはアキトさんと互角に闘っていました。」

「そう、でも私たちも強いわよ。」

この声・・・

「ルリ姉。」

「ルリ・・・」

ラピスにユウタ、それにミサキさんも。

ユウタは、スメラギの姿を確認すると私の後ろに隠れます。

「おや、あの時の子供ですね。ルリさんに守られていた・・・

今度は間違いなく殺してあげますよ。」

「ちょい待ちぃや。ワイらが居る事を忘れんといてや。」

カズマさんがスメラギに攻撃を仕掛けます。

一瞬でスメラギの間合いに踏み込んでのローキック!

しかし、スメラギはいとも簡単に避けると、逆にカズマさんのボディに蹴りを入れます。

「ぐはぁ!」

吹き飛ぶカズマさん、しかし間髪いれず、アヤさんの突きがスメラギの肩口を捕らえます。

しかし、その攻撃も身をかわして避けています。

避けると同時に、アヤさんの側面をカズマさんを蹴った足で、そのまま攻撃します。

アヤさんはとっさに刀の鞘で攻撃を防ぎますが、勢いに押されてそのまま倒れてしまいました。

スメラギはさらに、後ろから近寄っていたミサキさんの前に立ちます。

「どうしたいのだ?」

「くっ・・・」

カズマさん、アヤさん、ミサキさんのコンビネーション攻撃をいとも簡単にかわすとは・・・

ミサキさんは拳を繰り出しますが、全て見切られています。

逆にスメラギの拳が、ミサキさんを吹き飛ばします。

「弱い・・・弱すぎますよ。やはり、テンカワ=アキトでないと、私の相手は勤まりませんね。」

スメラギはそう言うと、再び私に近寄ります。

「まぁ、待ちぃや・・・お客さん。」

「しつこい客引きですね。」

「まぁ、見ていきぃや。」

カズマさんの顔が笑っています。

強い相手とめぐり合えて嬉しい・・・そんな顔です。

アヤさんも、ゆっくりと立ち上がりながら刀を腰に納め

抜刀術の構えを見せています。

ミサキさんも立ち上がって、戦闘態勢を整えます。

「何度やっても同じ結果ですよ。それとも、殺されたいのですか?」

スメラギは悠然と構えています。

「へへっ・・・」

カズマさんは、炎の神気を練っています。

アヤさんは、ジリ・・・ジリ・・・と間合いを詰めていきます。

ミサキさんは、氷の神気を練っています。

3人とも、今まで感じた事が無いくらいの気を感じます。

「いくで!爆炎奥義!!焔舞!」

「飛天流抜刀術奥義・絶月斬!」

「氷牙龍昇覇!」

カズマさん、アヤさん、ミサキさんの同時攻撃です!

これなら・・・

「ぐわぁ!」

「きゃぁ!」

カズマさん達が、ボロボロになっています・・・

でも、どうやって・・・

スメラギは・・・少しはダメージを受けているようですが・・・

「中々やりますね・・・ですが、まだまだテンカワ=アキトには及びませんよ。」

「な、なんやて?」

「まだ分からないのですか?あなた達と、テンカワ=アキトでは

背負ってきた闇の深さが違うのですよ。そして、私とも。」

ゆっくりと倒れているアヤさんに近寄って行き、そのままアヤさんを蹴ります。

「アヤ!」

ラピスが叫んでいます。

「闇に身をゆだねなさい。そうすれば、あなたも強くなれますよ。私以上にね。」

スメラギは、なおも立ち上がろうとしているカズマさんに言います。

「へへっ・・・冗談や無い・・・ワイらはな・・・お前なんか大嫌いや。」

「そうですか。なら、死んでもらいましょう。」

スメラギは、カズマさんに攻撃をしようと拳を振り上げます。

くっ・・・見ているだけしか出来ないなんて・・・

私の後ろにはラピスとユウタが居ます。この二人は守らないと・・・

『おーっと、そこまでだ!』

リョーコさんの声・・・格納庫の入り口には、リョーコさんの赤いエステバリスが見えます。

『好き勝手な事しやがって、素手でエステバリスに勝てるってんなら相手してやるぜ。』

リョーコさんのエステバリスが、ラビットライフルを構えています。

スメラギにピタリと照準を合わせていますね。

「リョーコさん、ヤマダさん達は?」

『へへっ、他の奴らを迎えに行ってるぜ。

俺とイツキがナデシコの護衛をするんだ。』

リョーコさんの後ろにはイツキさんのエステバリスも見えます。

「形勢逆転ね、おとなしくしなさい。」

ミサキさんが、ようやく立ち上がってスメラギに言います。

アヤさんは、ラピスとユウタが近寄っています。どうやら、あちらも大丈夫そうですね。

「せや、生身でエステに立ち向かう事なんて出来へんで。」

カズマさんも、なんとか立ち上がっています。

「くっくっくっ・・・こうも邪魔が入るとはな・・・だが・・・」

スメラギの言葉で、ミサキさんとカズマさんが戦闘態勢を取ります。

『てめぇ・・・何のつもりだ・・・』

リョーコさんのエステバリスは両手を上げています。

『おとなしくしてください。リョーコさん。』

イツキさんのエステバリスが、リョーコさんのエステバリスにラビットライフルを向けています。

でも、どうして?

「イツキ・・・久しいな。」

『死んだものと・・・思っていました。トオル・・・』

まさか・・・イツキさんの恋人ってスメラギ=トオル・・・

「さらに、形勢逆転。ですか・・・」

「こら、マズイな・・・」

「ええ・・・」

カズマさん達は、すでに戦う力が残っていません。

ヤマダさん達が駆けつけたとしても、リョーコさんを人質にとられています。

「さて、ルリさん・・・おとなしくして頂きましょうか。これ以上、お仲間が傷つくのは見たくないでしょう?」

「大丈夫や、ワイらが何とかしたる。」

「どうやってですか?あなた達はすでに闘う力は残っていない。

頼みのエステバリスもイツキに押さえられている。」

確かに・・・その通りです・・・私は意を決して一歩、歩き出します。

「おや、ようやく来ていただけるのですか?」

「ルリちゃん!行っちゃダメ!」

ミサキさんが私を止めようとします。

その時です。イツキさんとリョーコさんのエステバリスの側に

漆黒の機体がボソンアウトして来ました。

あれは・・・アキトさんのブラックサレナ!

ブラックサレナは、イツキさんのライフルを腕ごと飛ばします。

「アキトさん!」

『ルリ、どうなってるんだ?』

アキトさんが不思議がっている隙を、スメラギは逃しませんでした。

「イツキ、ここは退くぞ。」

『はい。』

スメラギは、イツキさんのエステバリスに飛び乗ると、そのまま外に出て行きます。

「た、助かった・・・んか?」

「そうね・・・」

『どうなってるんだ?』

『助かったぜ、アキト。』

カズマさん達はその場にしゃがみ込んでしまいました。

「ところで、ミサキさん・・・ミナトさんやユキナさんは?」

「あの二人には私達のエステバリスを取りに行って貰っているわ。」

ミサキさんは腕を押さえながら言います。

「でも、お二人の護衛は・・・」

「・・・私の・・・師匠が付い・・・ているの・・・よ。

・・・アキ・・・ト君・・・の次・・・に頼りに・・・なるわ。」

整備員の人たちが、担架を持って来てアヤさんを医務室まで運ぼうとしています。

「アヤァ・・・無理しちゃイヤだよぉ・・・」

ラピスは涙を流しながら言います。

そんなラピスを見て、アヤさんはラピスの頭をなでると、

整備員によって医務室に連れて行かれました。

ラピスとユウタはその後に付いて行きます。

「でも、私の通信が入ってから、こちらに来るまで早かったですね。」

「ええ、私が新しい車を買ったんで、ハコネまでカズマ達をドライブに誘ったのよ。」

「せや、アヤの運転は洒落にならんけど、ミサキのやったら大丈夫やろ思てな。」

格納庫入り口には一台の車が置いてあります。

でも・・・

「如何していきなりボロボロなんですか?」

「ルリちゃん、世の中には購入一日目で事故を起こす車もあるのよ。」

「そうでしょうか?」

「ええ、そうよ・・・」

ミサキさんは涙を流しています。

「ミサキの奴な、車の運転ヘタやねん・・・不思議と人身事故はあらへんがな。」

カズマさんがそっと耳打ちをして教えてくれます。

「ルリ、無事だったか?」

アキトさんがブラックサレナから降りてきて、私に近寄ってきます。

「アキトさん・・・スメラギが・・・現れました。」

「・・・そうか・・・リョーコちゃんに聞いたんだが、イツキさんの恋人が・・・」

「ええ、そうです。スメラギです・・・」

「厳しい闘いになりそうだな・・・」

「ええ・・・」

「だが、イツキさんの恋人はボソンジャンプに巻き込まれたと・・・まさか・・・」

「ええ、恐らくスメラギは火星生まれです・・・

もしくは、クリムゾンがジャンパー体質に強化した・・・

あるいは、木連の軍人・・・」

「事実がどうであろうと、スメラギは明らかに俺達の敵だ。

そして、イツキさんも・・・」

再び闘う時・・・アキトさんはスメラギに対して勝てる事が出来るでしょうか?

私たちは、今まで仲間だったイツキさんと、戦う事なんて出来るのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い・・・」

「遅いですな。」

「遅いな・・・」

「どうしたのでしょうか?」

私たちは、ブリッジにいます。

カズマさん達は結局、医務室に直行です。結構ダメージ受けてたみたいです。

すぐ後に、トレーラーに乗ったミナトさんとユキナさん・プルセルさん・セイヤさんが

イズミさんの護衛で、カズマさん達のエステバリスを持ってきてくれました。

ヤマダさんがユリカさんとメグミさん、ついでにジュンさんも連れてきます。

アカツキさん達はエステバリスで来た訳ですが・・・

ズズゥ・・・

「一体何をしてるのかしら!マスターキーが無いと、ナデシコは動かないじゃないの!」

エリナさんがイライラとブリッジの中を歩き回っています。

私たちは、プロスさんが持ち込んだ屋台に座り、アキトさんが作っているラーメンを食べています。

何だか、この構図って久しぶりです。アキトさんがラーメンを作って

ユリカさんが屋台なのに、わざわざお客さんに注文を取って、

私が下手なチャルメラを吹いていたあの頃を少し思い出しました。

「まぁ、落ち着きたまえ。エリナ君・・・そんなに怒ってばかりだと、しわが増えるよ?」

「何ですって!」

「確かに、遅いですな。まさか、捕まってしまったのでは・・・」

プロスさんがラーメンを食べながら不吉な事を言っています。

「大丈夫ですよ、イネスさんは必ず来ます。」

ユリカさんが、アキトさんのラーメンを美味しそうに頬張りながら言います。

「だが、ここまで遅いってのは・・・」

セイヤさんが2杯目を食べようとしたその時でした。

「ボソン反応!アキトさんの隣です!」

プルセルさんが報告します。ようやく、イネスさんの登場ですか。

やがて、光と共に現れたのは・・・

白いシルクハットに片眼鏡、白いマントに白いタキシード・・・

手にはマスターキーを持っています。

「待たせたわね。」

・・・皆さん目が点になっています。

「イ、イネスさん・・・その格好は・・・」

「宜しい!説明しましょう!の前に・・・

お兄ちゃん、マスターキーを取って来たんだからご褒美欲しいな。」

「わ、止めろ・・・イネス・・・そんなにくっつくな・・・」

アキトさんに抱きつくイネスさん・・・

プチ・・・

「イネスさん・・・何やってるんですか・・・」

「あら、ルリちゃん・・・最近ご無沙汰だからって、欲求不満なの?

それとも、欲求不満なのはお兄ちゃんのほうかしら?」

胸を押し付けるように抱きつくイネスさん・・・

「イネスさん・・・死にたいんですか・・・」

「私にも、権利はあるわよ。」

私とイネスさんは、にらみ合います。

私以外にも、ユリカさんやメグミさん、プルセルさん、リョーコさん、エリナさんの目が

殺意に満ちています。まさに、一触即発って感じです。

「まぁまぁ・・・お二人とも・・・今はナデシコを飛ばすほうが先です。」

その空気を消し去ったのは、プロスさんでした。イネスさんは、プロスさんにマスターキーを渡します。

プロスさんは、イネスさんを睨みつけているユリカさんにマスターキーを渡し、強引にナデシコを起動します。

「と、ともかく・・・説明は後で聞きますから、とりあえず発進しましょう。」

皆が配置につきます。

私の横にはルビィが置かれています。

セイヤさんが、先程運んできてくれました。

「ルビィ・・・思い出はあなたと共に・・・」

私がそう呟くとルビィは起動します。

『いつも、あなたと一緒に歩んでいく。』

そう言うと、ルビィはオモイカネとシステムをリンクして行きます。

ナデシコのシステムも全て回復していきます。

「ディストーションフィールド全開、補助エンジン始動。システム、オールグリーン。」

「通信回線、開きます。」

「機動戦艦ナデシコ、発進!」

久しぶりにユリカさんのその言葉を聞きます。

ナデシコが発進するとヒラツカドックの天蓋が壊れます。

「あ〜あ、壊しちゃった。」

「し〜らないっと。」

アカツキさんとエリナさんがとぼけます。

元々はネルガルの施設でしたからね。ま、今のネルガル・・・

いえ、クリムゾングループに直して貰いましょうか。

「このまま地球を脱出します!」

「前回はここでミサイルの雨あられだったが大丈夫なのか?」

ゴートさんが心配しています。

「プロスさん。」

「はい、中止コードはすでに入手済みです。

あとは、これを衛星通信を利用して入力すれば・・・」

私は中止コードを入力します。

これで防衛システムは全て無力化されます。

あの、デルフィニウム部隊やビッグバリアも動きません。

「高度2000kmを突破。」

「このまま、大気圏を突破します。」

ナデシコはこうして地球を脱出しました。

「ナデシコ総員195名、全て異常なし。」

ジュンさんが報告します。

「ミスマル提督たちは《アルギュロス》で保護したとの報告よ。」

エリナさんが言います。

「じゃぁ、お父様は・・・」

「とりあえず、無事って事よ。」

「良かった・・・」

ユリカさんがホッとしています。小さな警備会社と聞いていたのですが

結構、優秀な人材がそろっているようです。

そう言えば、ユリカさん達を軟禁状態から救い出したのも

この、《アルギュロス》と言う警備会社です。

「待っててね、お兄ちゃん。愛しのユキナは今行きます。」

ユキナさんが言います。

「ですが、何処に行けばいいのですか?」

プロスさんが冷静に突っ込みを入れます。

ユキナさんは前方をビシッっと指差して

「木星の方向に行けば会えます!」

・・・・・・・・・・・・・・

「まぁね。」

しーんとなったブリッジに、私の呟きが響きます。

「大丈夫だ。このまま月の裏側へ向かってくれ。」

アキトさんがユリカさんに言います。

「じゃぁ・・・」

「ああ、白鳥達と話はついている。」

「ねぇ、どう言うこと?話が見えないんだけど・・・」

私とアキトさんの会話に、ミナトさんが言います。

「後で話しますよ。」

ミナトさんの幸せの為にも、和平は実現させないと・・・

 

 

 

 

 

 

「そうか・・・イツキさんの恋人が・・・」

「ええ。スメラギ=トオルです。」

私は、イツキさんの事を話します。

「イツキとは戦いたくねぇぜ。」

「うん、あんないい子は他に居ないよ。」

ヤマダさんとヒカルさんが言います。

この人たちは、逃亡生活で寝食を共にしたのですから、思い入れは他の人より強いようです。

「しかし、今は敵だ。」

「そうだよ、ダブルエックスを持っていったんだろう?」

ゴートさんとジュンさんが言います。

確かに、イツキさんの機体はダブルエックスです。

量産化されてしまうと、私たちに勝ち目がありません。

「大丈夫さ、心配する事は無い。」

「どうしてですか?」

私はアキトさんに尋ねます。

「ダブルエックスにはパーソナルコードがあって、

本人以外には動かす事はおろか、起動する事すら出来ないんだ。

それに、ナデシコに搭載されている敵味方識別システムで敵と認定されたら

システムダウンするようになっているんだ。

それに何より、ウリバタケさん達が居ないと整備が出来ない代物だからな。」

でも・・・私は不安です・・・

皆さん・・・味方だった人と・・・殺し合いが出来ますか?

その言葉を私は飲み込むのでした。

 

 

 

 

 


 

ルリ:いよいよ、地球脱出編・・・ですが・・・

作者:な、何かな?その冷たい目線は・・・

ルリ:イネスさんの行動です!

作者:そ、それは・・・その・・・

ルリ:大体、何でイネスさんが怪盗キッドで、私がポン太君なんですか!

作者:いや・・・神出鬼没で盗みをするって言うと、あれしか思いつかなくて・・・

ルリ:じゃぁ、何で私がポン太君なんです?

作者:・・・ふもっふ・・・

ルリ:拒否権ですか。

作者:いや・・・猫さんスーツも良いかと思ったんだけど、こっちの方が・・・面白そうだし

ルリ:でも、ポン太君語を理解できるホウメイさんって・・・

作者:謎だよね。

ルリ:イツキさんがスメラギの恋人って・・・

作者:スメラギを出した時点でその設定にした。

ルリ:また、複雑にして・・・

作者:イツキをどうするか・・・悩んだ結果がこの形なんだよね・・・

ルリ:賛否両論あると思いますね。ところで、購入一日目で事故を起こした車って・・

作者:しくしくしくしく・・・・

ルリ:実体験だったわけですか・・・

作者:ぐすん、次回 機動戦艦ナデシコ Re Try 第24話 どこにでもある『正義』 です。

ルリ:TV版だと白鳥さんが死んじゃいますけれど・・・どうなのです?

作者:悩んでる最中・・・

 

 

・・・イツキファンの方、ゴメンなさい。イツキはお星様になりました(大嘘)

 

 

 

代理人の感想

車のせいじゃない、

絶対車のせいじゃないぞ。

 

それはさておき。

 

意味もなくただ生き延びて、活躍もなくただ名前だけ出て来るよりは

まだ敵として活躍する方がいいんじゃないかな〜と(爆死)。