白鳥さん達はクーデターを起こしてでも、草壁の野望を阻止しようとしていた。

でも、それは失敗に終わり白鳥さんは大怪我をした・・・

そして、手足を改造される悲劇に終わった。

「あら、生きてるんですもの。きっと良い事あるわ。」

イネスさん・・・改造した本人が何言ってるんですか・・・

それに、その台詞・・・作品が違います。

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 第25話 『私らしく』自分らしく

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコとカキツバタは、木連が落とそうと計画してるコロニーへ向かいます。

そのコロニーとは、あのサツキミドリです。

私たちは現在、ナデシコで作戦会議をしています。

会議室には、ユリカさん、ジュンさん、プロスさん、ゴートさん、エリナさん

アキトさん、アカツキさん、ヤマダさん、リョーコさん、ヒカルさん、イズミさん、

そして、前回クロロフォルムによって眠らされていた

カズマさんとミサキさんがようやく復活しています。

木連側からは、秋山さん、月臣さん、高杉さんの3人が居ます。

作戦会議の様子は、コミュニケの設定を全員に送信状態としていますので、

ナデシコ及びカキツバタのクルー全員が見ています。

「じゃぁ、状況を確認します。ルリちゃん、お願い。」

私は、ユリカさんの言葉で連合宇宙軍と木連軍の配置を映し出します。

「これを見ると、宇宙軍はかなり混乱しているようです。

主力の第1艦隊がミスマル提督の不在により混乱したところを、

木連に突かれて戦線を維持できなくなり壊走状態となっています。

クーデターの主力軍である第3艦隊及び第5艦隊は、さすがに良く戦っていますが、

壊滅するのも時間の問題でしょう。」

「ここの指揮官はアララギか・・・」

「ああ、この辺の布陣はアララギらしい絶妙な配置だ。」

秋山さんと月臣さんが話します。

「木連の艦艇は、これだけなのか?」

アキトさんがサブロウタさんに尋ねています。

「ええ・・・配置を見る限りではそうです。」

「どうするの?このまま、この艦隊に殴りこんでタコ殴りなんて嫌よ。」

エリナさんがユリカさんに言います。

「確かに、このまま突っ込んでいっても、たった2隻の戦艦じゃぁ話にならないね。」

「でも、このままだとサツキミドリが地球に落ちちゃうんですよ。」

アカツキさんの言葉を受けてミサキさんが言います。

ミサキさんにとってサツキミドリはナデシコに来る前に勤めていた職場ですから、

他の皆さんと比べても格段の思いがあるのでしょう。

「そうだよな〜、あのコロニーには俺達も世話になったしな。」

「そのコロニーが地球に落ちちゃうなんて、洒落になんないよ。」

「お世話になったお礼・・・謝礼・・・くくっ・・・」

リョーコさん達が言います。

「何とか、サツキミドリを止める手立てを考えませんと・・・」

プロスさんが困ったように言います。

「サツキミドリはまだ動いていないようだ・・・」

アキトさんは、リアルタイムで流れてくる情報を見ながら言います。

確かに、サツキミドリの位置は固定されたままです。

「旧式の核パルスエンジンを使っているから、手間取っているんだろう。」

アカツキさんが言います。

「・・・だが、本当にコロニーを地球に落すつもりなのだろうか?」

「源八朗、どう言うことだ?」

「わからん・・・草壁閣下の狙いが何処にあるのか・・・

コロニーを材料に地球側に降伏を迫るのか・・・

あるいは何か別の事を考えているのか・・・

ただ言える事はコロニーを地球に落してはならんと言う事だ。」

草壁 春樹・・・地球側を悪と見なし、徹底抗戦を訴えた人物・・・

理想のためなら死ねる男・・・

ただ、その理想が他人にとっても同じと勘違いしている男・・・

「・・・!!ボソンジャンプ・・・」

私は、その事に気が付きました。

「ルリ・・・まさか・・・」

「ええ、高杉さん!草壁の乗艦はありますか?」

サブロウタさんは神妙な顔をしていましたが、木連の配置をあらためて見直しています。

「・・・いえ・・・ありません・・・」

「と、言う事は・・・」

アキトさんは、ギリッと拳を握ります。

「火星極冠遺跡を占拠しているはずです・・・

おそらく、最小限の戦力で・・・」

「まずいねぇ、それは・・・」

私の言葉を受けてアカツキさんがお手上げのポーズをして言います。

「ですが、このままコロニーを地球に落とすわけにも行きません。

それに、これ以上人が死ぬのは嫌です。地球には、私たちの家族もいます。

何も知らない人たちがいます。そんな大切な人たちを、見捨てるなんて出来ません。」

ユリカさんがみんなに言います。

「良い作戦でもあるの?」

「はい、ルリちゃん、木連の人たちのシミュレーションテストはどう?」

ユリカさんの問いに私はオモイカネのウィンドウを確認します。

「現在、スペシャルプログラムを実行中です。あと1時間でしょうか?」

「あ・・・アレをやってるのか・・・」

「い、イヤヤ・・・ワイ・・・思い出すだけで・・・」

「そ、そうよね・・・あんな鬼みたいなプログラムを・・・」

ヤマダさん、カズマさん、ミサキさんが青い顔をして言います。

スペシャルプログラムは私とラピスが作り上げたエステバリスのパイロット養成用のプログラムです。

このプログラムを使えば、リョーコさん達みたいな超一流のパイロットに・・・と言う訳にはいきませんが

少なくとも一流レベルになる事は間違いありません。

その証拠に、カズマさんたちはこのプログラムを使う事で、今ではリョーコさん達に次ぐ実力を持っています。

ですが、元々格闘家のカズマさんたちでさえ、何度かプログラムを強制停止するほどのものです。

それを今は、IFSを付けた木連の人たちにやってもらっています。

もちろん、プログラムを中から強制停止する事が出来ないようにしましたけれど・・・

「そんなに凄いのか?」

サブロウタさんがカズマさんに聞いています。カズマさんは、サブロウタさんの方をポンと叩き

「短い間やったけど、忘れへんからな・・・」

「い、いや・・・俺達は・・・」

サブロウタさん達は青い顔をしています。まぁ、この後でシミュレーションをする事になっていますから・・・

「ルリちゃん、秋山さん達も2時間ぐらいかかるの?」

「いえ、シミュレーションでリョーコさんに勝つことが出来たら免除です。そうですよね?ジュンさん。」

「ああ、スバル君たちに勝てれば・・・だけどな・・・

もし勝つことが出来なければ、ウルトラプログラムを受けてもらう。

こっちは1時間ぐらいで終わるだろうから・・・」

「な・・・内容は・・・」

「アキトさんが普段行っているものです。」

恐々と聞くサブロウタさんに精一杯の笑顔を向けます・・・ニヤリ・・・

じゃなくて・・・ニコリ・・・

その笑顔で全てを察したのか、サブロウタさんはさらに青ざめた顔になります。

「まぁ、ブリーフィングの後でシミュレーションを受けてもらうと言う事で・・・」

プロスさんは、すでにリョーコさん達が勝つ事を前提に話をしました。

ま、当然でしょうね・・・

「じゃぁ、作戦内容を話します。

ナデシコおよびカキツバタは木連と宇宙軍に感知されないよう

相転移エンジンを停止して近づきます。

エステバリス隊は、木連と宇宙軍の真ん中をとにかく飛び回って下さい。

この時、攻撃されてもひたすら逃げちゃって下さい。」

「えらく、消極的だねぇ。」

アカツキさんがユリカさんに言います。

「いえ、ちゃんと意味がある行動です。

少なくとも私達は積極的に戦闘をしてはいけないんです。

宇宙軍にも、木連軍にも・・・でないと、秋山さんがここに居る意味がなくなります。」

「確かに、我々とナデシコの皆さんが仲良くしているのに、

お互いの仲間を攻撃するわけには行きませんからなぁ。」

秋山さんが腕を組んで頷いています。

「そして、ここからが重要なのですが、

戦闘を止めないと戦場ごと相転移砲を使用する

と言う通信を強制的に送ってください。」

「脅しって訳か・・・」

リョーコさんがごくりとつばを飲み込みます。

相転移砲を使えば、周りの空間ごと強制的に相転移させてしまいますが

まさに、問答無用の兵器でその使用をユリカさん自ら禁じた兵器です。

「はい、そしてアキトとカズマさんはサツキミドリの中に進入して

内部に残っている人を強制排除して下さい。」

「実力でか?」

「うん、言う事を聞くような人達じゃないだろうから・・・

そして、核パルスエンジンの制御システムを停止して。」

アキトさんの問いにユリカさんが答えます。

「サツキミドリの中なら私が案内できるわ。」

ミサキさんが言います。

「じゃぁ、ミサキさんもサツキミドリの中に進入して下さい。

各パルスエンジンの制御室までアキトとカズマさんをお願いします。」

「解ったわ。」

「ミサキ、頼むで。」

「任せといて。」

ある意味、人間凶器トリオ・・・でしょうか?

個人の戦闘力で言えばゴートさんをはるかにしのいでいますし・・・

アヤさんが怪我で動けないのが木連の人達にとって幸いでしょうか?

まぁ、アヤさんが加われば人間凶器カルテット・・・ですが・・・

「内部に残っている人が居なくなれば、エステバリス隊を収容後

サツキミドリに対して相転移砲を使います。」

「確かに、お互いが戦っている目的はサツキミドリだからな。

目的が無くなれば戦う理由も無くなる。」

ゴートさんは納得したように言います。

「相転移砲を使った後はどうするんですか?」

私は、ユリカさんに尋ねます。

「相転移砲を使った後はボソンジャンプで火星に行きます。」

「ユリカはまだボソンジャンプに慣れていない。イネス、サポートしてやってくれ。」

『判ったわ、行き先はユートピアコロニーでいいのね?』

「ああ。」

「でもよ〜、そんな便利なものが使えるんだったら

最初から射程内までボソンジャンプを使えば良いじゃねぇか。」

リョーコさんが言います。確かにその通りですが・・・

「遺跡が、草壁の手に落ちたのなら、迂闊にジャンプしないほうが懸命だろう。

遺跡の知識に関してなら木星のプラントを所有している草壁たちのほうが

俺達より詳しいかもしれない。」

アキトさんが言います。

「草壁閣下は常々ボソンジャンプの可能性と、危険性を説いていましたからなぁ。

当然、プラントからボソンジャンプの知識をある程度得ているかもしれませんからなぁ。」

秋山さんも頷きながらアキトさんに賛同します。

「それじゃぁ、意見もまとまったようですし・・・艦長、あなたの判断に任せますよ。」

「ネルガルとしては、そうするよりほか無いからねぇ。」

プロスさんとアカツキさんが言います。

「それじゃぁ、皆さん準備に掛かってください。

それから、ミナトさん・・・」

『なぁに?』

「白鳥さんとユキナちゃん、アヤさんとラピスちゃんとユウタ君を連れて月に降りてください。」

「そうですね、ラピス達を巻き込むわけにはいきませんし、

ミナトさんならヒナギクを操縦できますし・・・何より安心です。」

イヤよ。』

『そうよ、イヤよ』

ミナトさんとユキナさんが即答します。

「ミナトさん、ユキナちゃん、艦長命令です。従ってください。」

『艦長・・・私達だけ仲間はずれって、それは無いんじゃないの?』

『私、ナデシコのクルーじゃないもんね。それに、ミナトさんが残るんだったら私も残るわ。』

『私もいやよ。まだ美味しいところは残っているわよね。』

「アヤ!怪我人はおとなしゅうしとれ!」

『何言ってるのよ!少し休めばこのくらいの怪我・・・』

「・・・れ・・・」

『え?』

黙れっちゅうねん!今のお前は足手まといや!」

カズマさんが珍しくイラついています。

『それでも・・・私は見たいの・・・この戦いの最後を・・・』

アヤさんも何か感じるものがあるのでしょう。

「・・・好きにせい・・・まったく・・・」

不機嫌そうにそう言うと、カズマさんは会議室を出て行きました。

『ルリ姉、私も残るよ!』

「ラピス・・・でも・・・」

ラピスが真剣な瞳で言います。

「ユリカ、ルリ・・・」

アキトさんは私達に目を向けると、首を横に振ります。

説得は無駄・・・と言うわけですか・・・

「でも・・・」

「ユリカ、お前の判断は艦長として正しい。

だが、ここに居る皆はミナトさんと同じ思いだ。」

そう・・・ですね・・・

「・・・ラピス、ミナトさんのそばを離れないように・・・」

『ありがとう、ルリ姉・・・』

アキトさんは、私の肩にそっと手を置きます。

私は、その温もりを感じていました。

「こほん・・・ルリちゃん、何時までそうしてるつもりなの?」

あ・・・ユリカさんのコメカミがヒクヒクしてます・・・

「ずっと・・・」

「ル・リ・ちゃん!」

「まぁ、艦長。テンカワさんの事は、この戦いが終わってからと言う事にしましょう。」

プロスさんがユリカさんをなだめています。

「おう、ルリ!まだ白旗揚げたわけじゃないからな!」

「そうね、私も諦めた訳じゃないわよ。」

「あ、エリナずるい!」

「そうですよ、私だって同じです!」

リョーコさん、エリナさん、プルセルさん、メグミさんが言います。

「そうね、ルリちゃんには無い大人の魅力を教えてあげるわよ?」

「ミサキさん!アキトさんを誘惑しないで下さい!」

『私はお兄ちゃんの愛人だから。』

ああ!もう!イネスさんまで・・・

『私はルリ姉より若いんだよ。』

『若いんだよ。』

ラピス・・・あなたまで・・・ユウタもマネをするんじゃありません・・・

ユウタの情操教育をナデシコでやるのは間違いでしょうか?ちょっと不安です。

「ここまで想われているとは・・・」

「ああ、テンカワ殿の周りは大変みたいだな・・・」

サブロウタさんと秋山さんが当然、他人事のように話しています。

「破廉恥な・・・」

月臣さんは腕を組んでそっぽを向いています。

「はいはい、テンカワ君もいいかげん困っている事だし、

僕らにもあまり時間は無いんだから

とっととサツキミドリを何とかしに行こうじゃないか。」

「移動時間を考えて作戦開始は1時間後だ。

各自警戒態勢のまま待機。」

ゴートさんが言います。皆は一斉に立ち上がります。

「皆さん、恐らくこれが最後の戦いになります。

地球と木星、それぞれの未来が掛かっています。

・・・今回ばかりは命の保証が出来ません。

降りたい人は遠慮なく申し出てください。

その事で責任を問う事はありませんから。」

ユリカさんは最後の確認をします。

降りる人は・・・一人もいませんでした。

「ユリカ、降りる人は居ないみたいだよ。」

ジュンさんがユリカさんに報告します。

「みんな・・・ありがとう。」

ユリカさんは深々と頭を下げます。そして

「ナデシコ、カキツバタは最大戦速でサツキミドリに向かいます。

みんな、やっぱりお葬式はイヤだからね。

どうせなら、白鳥さんとミナトさんの結婚式をこの戦いが終わったらやりましょう。

結婚式に参加したい人は必ず生きて帰るように。各自解散!」

ユリカさんが笑顔で言います。私も、ミナトさんの結婚式には出たいです。

前の歴史ではついに実現しなかった出来事・・・

地球と木連が共存できる平和の象徴・・・

みんな想いは一つです。

私達は会議室を後にして、カキツバタに戻りました。

 

 

 

 

カキツバタに戻った私達は、秋山さん達のシミュレーションを開始しました。

え?リョーコさん達との勝負?それは、語るに値しないと言うのはこの事ですね。

あっという間に蹴散らされましたから。

ですから、今ブリッジには私と通信士として乗り込んできたプルセルさんと操舵士としてエリナさんが居ます。

・・・相当の駆け引きがあったんでしょうね。

エリナさんはミナトさんが白鳥さんの看病でナデシコから出る事が出来ないから当然として、

通信士として名乗りをあげたのがメグミさんとプルセルさん。

二人の争いはやがて、ジャンケンで決めたらと言うプロスさんの提案をうけて

ジャンケン決戦を繰り広げました。当然、整備班主催のトトカルチョが始まり

実況整備班長ウリバタケ=セイヤ、解説元大関スケコマシのアカツキ=ナガレで

大々的にナデシコ及び、カキツバタ艦内に放送されました。

木連の人たちは当初、このノリに付いて行けない人が大勢いましたが、

それを打ち破ったのは、やはりサブロウタさんでした。

サブロウタさんは積極的に整備班主催のトトカルチョを拡大し、

木連内の緊張を解き、士気の上昇に勤めました。

さすが、副官としての能力は、ずば抜けたものがあります。・・・関係ないかな?

ですが、メグミさんはプルセルさんとのジャンケン決戦に全てをかけていましたから・・・

ジャンケン決戦の後、メグミさんは真っ白に燃え尽きていました。

「ところで、ルリちゃん・・・何してるの?」

「え?見て判りませんか?」

私は、マフラーを編んでいます。

以前から少しづつ編んでいったものですが、ようやく完成しそうです。

「マフラーを編んでいるのはわかるわ。問題は、そのマフラーをどうするのかという事よ。」

エリナさんも尋ねてきます。

「そんなの決まっています。アキトさんにプレゼントするんですよ。」

「アキトさん、誕生日だったっけ?」

「そんな事無いわ。誕生日はまだ先だし・・・」

「これは、私とアキトさんの絆です・・・」

「絆?」

プルセルさんは不思議そうな顔をしています。

そう、全てはこのマフラーから始まったんですね・・・

「・・・これをアキトさんに渡していれば、アキトさんは帰ってきます。

帰って来れるんです。非科学的ですけれどゲン担ぎです。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

そう、私からアキトさんへのプレゼント・・・そして、私とアキトさんを繋いでいる絆・・・

私は、マフラーを編み終えるとアキトさんの居る食堂に向かいました。

アキトさんは、木連の人たちに美味しいものを食べさせたいと言っていましたから・・・

と言っても、大部分の人たちは怪我で月に送られましたから残っているのは

エステバリスのパイロットと整備部と医療班の人たちだけです。

食堂には、アキトさんが楽しそうに料理をしていました。

木連の人たちの反応も良いみたいですね。

「アキトさん、手伝いましょうか?」

「ルリか、ああ・・・それじゃあ盛り付けを手伝ってくれ。」

「はい。」

ふふ、こうしていると何だか新婚さんみたいですね。

アキトさんと二人で料理をしてると・・・

「仲が宜しいようですね。」

木連の人が私たちに話し掛けてきました。

「いらっしゃい、何にしましょう?」

「じゃぁ、火星丼一つ。」

その木連の人は感じのいいさっぱりとした人でした。

「はい!火星丼一つね。ルリ、水を出してくれ。」

「はい。」

私は、その木連の人に水を持っていきます。

「ありがとう、えっと・・・」

「ルリです。ホシノ=ルリ、オペレーター12歳です。」

「ああ、私は高木 耕平です。今度、機動兵器のパイロットになりました。」

「へぇ、そうなんですか。」

あの特訓に耐えるとは・・・結構素質があるのかもしれませんね・・・

「ええ、緊急時ですから・・・本来は兵役が終われば警察官なんですけどね。

ちょっと、頼りないって何時も言われますけれど・・・」

高木さんは照れたように言います。

「そんな事ありませんよ。アキトさんだって時々頼りないんですから。」

「そうなんですか?」

高木さんはビックリした顔をします。

「ええ、特に女性関係になると、そりゃぁもう!」

あ・・・言っていて腹が立ってきました・・・

「ふふ・・・心配なんですか?」

私はため息をつき

「ええ・・・女性限定の人間磁石なんて呼ばれていますから。」

「でも、彼が見ているのはあなただけだ。違いますか?」

私は首を横に振ります。アキトさんは私を見てくれています・・・何時も・・・

「それに、彼は誰にでも優しいんじゃありませんか?」

「ええ・・・よくわかりますね?初対面なのに・・・」

「伊達に警察官やってませんよ。」

私が高木さんと話していると

「火星丼おまち・・・楽しそうだな。」

アキトさんがやってきました。

「あ、アキトさん・・・こちら高木 耕平さん。エステバリスのパイロットになったそうです。」

「よろしくな、テンカワ=アキトだ。」

アキトさんと高木さんが握手をします。

「ルリ、俺達も少し休もう。隣、良いかな?」

アキトさんは、高木さんの火星丼と一緒にチキンライスを二つ持ってきてました。

「そうですね、お客さんも一段楽したようですし・・・ご一緒しませんか?」

私は高木さんに尋ねます。高木さんはさわやかな笑みを浮かべて言いました。

「それは、こちらからお願いしたいところでしたよ。」

私達は食堂のテーブルに座り、食事をとります。

「どうかな?味のほうは・・・」

「ええ、美味しいですね。彼女にも食べさせてやりたいな。」

高木さんがポロリと言います。

「彼女?高木さん、彼女って?」

「あ、い、いや・・・その・・・」

「気になるな・・・」

アキトさんは高木さんを睨みます。

高木さんは観念したように一枚の写真を取り出します。

写真には背広姿の高木さんと、スーツを着たショートカットの女性が移っていました。

「ひょっとして・・・高木さんの彼女?」

「ええ・・・まぁ・・・」

「綺麗な人だな。」

「そうですね。」

確かに、キリッとしてエリナさんのようにキツイ印象はありませんが

働く女性って感じがします。

「佐藤 由美子さん・・・僕の・・・その・・・許嫁です。」

高木さんが真っ赤になりながら言います。

「おめでとうございます、結婚式とかは?」

「あ、まだ決まってないんですよ。」

「そうなのか?なら、ミナトさんたちと合同でやったらどうだ?」

「あ、良い考えですね。そうしませんか?」

「そうですね・・・その頃には平和になっているでしょうし・・・

自分も本職の警察官に戻れます。」

平和になれば・・・高木さんも平和を望んでいるようです。

高木さんは捜査課の人と聞きました。佐藤さんも同じ職場だそうです。

職場結婚ですか・・・私とアキトさんも職場結婚になるのかな?

その後、高木さんとの食事は楽しいものになりました。

 

 

 

 

やがて、作戦開始時間が迫ると食堂を訪れる人も居なくなりました。

「ところでルリ、何か用があったんじゃないのか?」

「ええ、アキトさんに渡しておこうと思って。」

私は、アキトさんにマフラーを渡します。

「あの時のやつか・・・」

「ええ、全てはここから始まったんですね。」

「ああ、今度こそあの悲劇を繰り返さないために・・・」

「そして、私達の幸せのために・・・」

「ありがとう、ルリ・・・」

私は、そっと目を閉じるとアキトさんはキスをしてくれました。

「・・・アキトさん・・・この戦いが終わったらどうします?」

「そうだな・・・二人で世界放浪の旅にでも出るか。」

「世界放浪・・・ですか?」

「ああ、俺が過去に飛ばされた時お世話になった人が

世界放浪をしたって言ってたからな。」

「ミサキさんのご先祖って人ですよね?」

たしか・・・筋骨隆々とした身長2mの大男・・・でしたっけ?

「世界をもっと見てみたいんだ。そして、苦しんでいる人がいれば

力になりたい。その土地の料理をマスターしたい。

いつかホウメイさんを超えてみたい・・・どうかな?」

アキトさんは照れたような顔をします。アキトさん・・・その顔・・・素敵です。

「それがアキトさんの今の夢ですか・・・素敵ですね。

新しい世界、新しい生活が始まるんですね。」

「そうだな。」

「でも・・・」

「ん?」

アキトさんが不思議な顔をします。

「ユリカさん達に追いかけられないでしょうか?」

「・・・ありえるな・・・」

私とアキトさんはそのときの様子を思い浮かべて、お互い笑い出しました

「なんなら、ピースランドに行きませんか?あそこなら重婚オッケーですよ?」

「・・・ルリ・・・勘弁してくれよ。」

「そうですね、私もアキトさんが他の女性と一緒に居るところなんて見たくありませんから。」

そう言うと、私はアキトさんに抱きつきます。

「もう二度と・・・私をおいて逃げようとしないで下さい・・・」

アキトさんは私の頭をなでながら言います。

「ああ・・・約束するよ・・・」

本当ですね・・・アキトさん・・・

 

 

 

「作戦開始、5分前です。エステバリス隊は配置について下さい。」

プルセルさんがカキツバタ艦内に放送します。

「秋山さん、大丈夫ですか?」

私は後ろのほうでグッタリしている秋山さんに尋ねます。

「・・・う・・・あ・・・」

どうやらダメージが抜けきれていないようですね。

「秋山さん達は、カキツバタとナデシコの護衛にまわってもらうわ。」

エリナさんが言うと、秋山さんは青ざめた表情でうなずきます。

「まぁ、戦闘開始前には復活するでしょうし、復活しないときには

メグミさん謹製の栄養ドリンク(無認可)を飲んでもらいますから。」

「ル、ルリちゃん・・・それって被害拡大してるよ・・・」

プルセルさんが顔に縦線入りながら言います。

「え?冗談ですよ。あんな生物兵器なんて使いませんよ。」

「目が笑ってないんですけど・・・」

「あれは、本気の目ね・・・」

「エリナさん、いくら私でも冗談ぐらい言います。

それに、いざとなればイネスさんからもらった薬(無許可)を使いますよ。

これならどんなに疲れていても完全復活間違いなしでしょうから。」

「じ、人体実験って言わない?それって・・・」

「・・・そうとも言いますね。」

私たちの会話を聞いた為か、秋山さんたちも気力を振り絞り立ち上がります。そして、

「なんの!木連軍人たるもの、いかなる状況下でも勝ち残ってみせるわ!」

「そうだ!俺達は負けない!やりましょう!艦長!」

「当然だ・・・薬ごときに頼る我らでは無い!」

よほど、イネスさんによって改造人間にされるのを嫌がっているんでしょう。

イネスさんなら、滋養強壮剤とか言って怪しげな筋肉増強剤とか飲ませそうですから・・・

秋山さん達はふらふらしながらも、ブリッジを出て行きます。

「・・・よほど改造人間にされたくないようね。」

「ええ・・・」

エリナさんとプルセルさんも同じ考えのようでしたね。

「さ、仕事しましょうか。」

「はい、プルセルさんは全ての通信を受信のみにして下さい。

ナデシコとの通信は有線通信をウリバタケさんが準備しています。

作戦開始後、アキトさんからの通信を受けたら相転移エンジンを回復。

ナデシコが相転移砲を撃つまで時間稼ぎをします。」

「了解。」

「相転移エンジン停止1分前、各部署は最終点検お願いします。」

私は、艦内のチェックをします。各部署、異常無しですね。

「各部署、異常ありません。」

「ナデシコとの有線通信開始します。」

「ナデシコのエステバリス隊、発進したみたいよ。」

ナデシコからは7機のダブルエックスバリスが出撃していきます。

『テンカワ=アキト、ブラックサレナ出るぞ。』

続いてアキトさんのブラックサレナが発進していきます。

あ、私が編んだマフラーを持っていってますね。

私が編んだのは白のマフラーですから黒を基調としたアキトさんの姿によく映えます。

「相転移エンジン停止、以後の行動はナデシコに従います。」

「了解、相転移エンジン停止。」

エリナさんが相転移エンジンを停止します。

これで、ナデシコとカキツバタは無防備状態で戦場に向かう事になります。

流れ弾一発でナデシコとカキツバタはやられちゃいます。

『針路変更、戦場の真ん中へ向かいます。』

ユリカさんの声がブリッジに響きます。

「エリナさん、ナデシコの動きに注意して下さい。」

「ええ、プル・・・アキト君からの通信、聞き逃さないでよ。」

「わかってるわ。絶対、聞き逃すもんですか。」

プルセルさんは木連と宇宙軍双方の通信を傍受しつつ、

アキトさん達からの通信にも注意を払わなければなりません。それはメグミさんにしても同じ事です。

まぁ、私も似たようなものですけれど・・・

オモイカネから送られてくる木連と宇宙軍の戦闘状況を分析して

ユリカさん達にも解り易いようにしています。

「前方、戦闘の光を確認。」

「ナデシコ、進路を変えたわ。こちらも続くわね。」

いつ見ても、戦闘の光はあまり良いものじゃありませんね。

あの光が輝くたびに人が死んでいるかもしれないのですから・・・

無人兵器であれば良いのですが、あれがもし戦艦だったら・・・

考えればキリがありませんね。

 

 

 

「アキトさん達が予定宙域に到着しました。」

私はレーダーを見ながら言います。

ここまでは順調にきていますね。

リョーコさん達は照明弾を使って艦隊を混乱させています。

無人兵器相手では効果がありませんが、

人が乗っているものに対しては絶大な効果があったようです。

まぁ、戦艦のレーダーは無力化出来ませんから、

対空砲火を受けているようですが、リョーコさん達に当たる訳ありません。

「アキト君はサツキミドリに向かってる?」

エリナさんが尋ねてきます。

「はい、アキトさんとカズマさん、ミサキさんのエステバリスが

サツキミドリ内部に侵入するのを確認しました。」

「相転移砲の射程までは後どのくらいなの?」

「もう少しって所でしょうか・・・!!エリナさん!相転移エンジン緊急始動!

プルセルさん!ナデシコにも伝えてください!敵が来ます!」

「え?敵って・・・」

「早くしてください!ユリカさん!聞こえましたね?」

『うん、ミナトさん!お願いします!』

私は、自分の判断が誤りである事を願いました。

だって、向かって来ているのって・・・

『見つけたわよ。こんな所に隠れてたのね・・・』

「イツキさん!戻ってきてくれたんですか?」

プルセルさんが嬉しそうに尋ねますが

通信ウィンドウに現れたイツキさんはゆっくりと首を横に振りました。

『トオルさんの邪魔はさせないわ・・・』

「ちょっと!何言ってるのよ!私達が止めないとサツキミドリが!」

エリナさんが凄い剣幕でイツキさんに言います。

『トオルさんの願いは私の願い・・・

あなた達・・・邪魔なのよ・・・』

暗く冷たい目です・・・イツキさん・・・

イツキさんのダブルエックスバリスに搭載されているダブルグラビティキャノンが

問答無用でナデシコとカキツバタに放たれます。

激しい振動と光の渦が私たちを包みます。

「フィールド出力、ナデシコ82%カキツバタ75%に低下。

このままでは危険です。」

『エステバリス隊、出撃します!』

サブロウタさんが通信をしてくるとカキツバタから32機のエステバリスが発進していきます。

「秋山さん!こうなったらナデシコが相転移砲の射程にたどり着くまで何としても

イツキさんを足止めしてください!それから、決して倒そうなど考えないで下さい!

実力が違いすぎますから!」

『了解!行くぞみんな!』

『おお!』

『木連男児の実力見せてやるわ!』

秋山さん達がイツキさんのダブルエックスバリスに殺到します。

『あなた達・・・邪魔よ・・・』

イツキさんは秋山さん達の攻撃を難無くかわして行きます。

『そうだ・・・あなたたちにも教えてあげないと・・・』

イツキさんはそう言うとエステバリスの一機をフィールドランサーでズタズタにし、

アサルトピットを強引に引きちぎります。

『か、艦長!敵の動きは止まっています!じ、自分に構わず撃って下さい!』

『な、何を言うか!高木!』

え・・・高木さん・・・

「イツキさん!止めてください!高木さんには許嫁が居るんです!」

『そう・・・でもね、こんな事が起きるのが戦争なのよ?』

そう言うとイツキさんのダブルエックスバリスはアサルトピットを潰そうとしています。

『くっ・・・艦長!じ、自分に構わず・・・』

『フフフ・・・何時までその強がりが続くかしら?』

イツキさんのダブルエックスは徐々に力を篭めていってます。

高木さんの通信ウィンドウのあちこちから火花が飛び散っています。

『高木ぃ〜!』

『い、いやだ・・・こ、こんなところで・・・由美子ぉぉぉぉぉ!』

高木さんのアサルトピットから火花が出始めます。

『こんなのイヤだよ!イツキさん!止めてぇ!』

メグミさんの絶叫が響きます。

『アハハハハハ!そうよ、憎みなさい!闇の声に心を傾けなさい!

絶望、悲しみ、怒り、復讐!人として当然の感情よ!』

イツキさん・・・私は・・・あなたを許せそうにありません・・・

誰もが、高木さんのアサルトピットが潰れるのを覚悟したその時でした。

イツキさんのダブルエックスバリスの右腕が吹き飛んだのは・・・

私達は目を疑いました。秋山さん達は動いていません。

それに、秋山さん達が乗っているエステバリスでは

ダブルエックスにダメージを与えるどころか、腕を吹き飛ばす事なんて出来ないはずです。

『いい加減になさい・・・』

そこには・・・怪我で動けないはずのアヤさんが、ダブルエックスバリスで出撃していました。

腕には高木さんのアサルトピットが抱えられています。

『秋山さん達はナデシコと共に行ってください。

ここは私が食い止めます。』

アヤさんは秋山さんにアサルトピットを渡すと言いました。

そして、私のプライベートメールにアヤさんからのメールが届いています・・・

そういう事なら・・・でも・・・アヤさん・・・体・・・持つんですか?

「秋山さん!アヤさんの言うとおりにして下さい!」

『し、しかし・・・』

「ナデシコは相転移砲を使わなければならないんです。

そのナデシコが何時までもココにいたんじゃアキトさん達が危険です!」

『と言う訳で、クサナギ=アヤ・・・しんがりを勤めさせてもらいます。』

「アヤ!あなたの体は!」

『プル・・・あの子達をお願いね。』

「いやよ!私はそんなお別れみたいな言葉あなたから聞くのは!」

アヤさんのダブルエックスが動きます。

しかし、その攻撃はイツキさんに避けられます。

『あら、大分弱っている見たいですね。

そんなので私を倒せるのかしら?』

『・・・言いたい事はそれだけ?』

アヤさんが冷たく言い放ちます。

『ナデシコは何をしているの!早く行きなさい!』

『でも!アヤさんを見捨てて行くだなんて!』

ユリカさんがアヤさんに訴えます。

『あなたたちが居ると邪魔なの。

それに、この戦いはあの子達に見せたくないから・・・』

『ふふふ・・・あなたが死ぬところを見せたくないと言う事かしら?』

イツキさんの笑い声が聞こえます。

『そうね、あの子達に見せたくないって言うのは本当よ。』

『観念した・・・そう言うことかしら?』

『いいえ・・・あなたが死ぬところを・・・よ。』

『そんな手負いの体で何ができると言うのかしら?』

確かに、最初の一撃以降アヤさんの攻撃はイツキさんに当たっていません。

そして、今はイツキさんの攻撃をアヤさんが必死に避けていると言った感じです。

「カキツバタはこの場で固定します。秋山さん、ナデシコの護衛お願いします。」

『しかし・・・』

「はっきりいってアヤさんの邪魔です。

それに、このカキツバタは最新型ですよ。そう簡単にやられたりしません。」

『・・・判った。副長!俺達はナデシコに向かう。

カキツバタの護衛は貴様に一任する。』

『判りました!どうぞご無事で・・・艦長。』

『ああ・・・死ぬなよ・・・』

秋山さん達はナデシコに向かいます。

「と言うわけですから、艦長・・・早くアキトさん達の所に向かってください。」

『でも、ルリちゃんたちはどうするの?』

「大丈夫ですよ。アキトさんは必ず来てくれますから・・・」

『でも・・・』

「あ〜!もう!行きなさいって言ってるのよ!」

「そうですよ、私たちが残ってないとアヤが帰るところが無いでしょう?」

「と、言う訳です。・・・ルビィ!とっととナデシコを予定宙域に向かわせなさい。」

『了解、ルリ・・・気をつけて・・・』

『ルリちゃん!皆!ヤダヨ・・・こんなのヤダヨ〜!』

ナデシコはサツキミドリへの進路を取ります。

「まったく、艦長としての能力は一級なのに・・・」

「あら、性格はともかく能力が一級っていうのがナデシコじゃ無かったっけ?」

「プル・・・それを言わないで頂戴・・・それを言ってしまうと

私たちも性格に問題があるみたいじゃないの?」

「あるみたいじゃなくて、あるのよ・・・誰にだってね・・・」

「ええ・・・そうね・・・」

私達はアヤさんの戦いを見届けようとしますが・・・そう都合よく行かないって事ですか・・・

「サブロウタさん、小型の機動兵器が接近中です。迎撃してください。」

『ああ、この高杉 三朗太・・・カキツバタの護衛任務、見事やり遂げて見せよう。』

・・・どうやったら、このサブロウタさんがあんな軟派な人に変身したんでしょうか?

ナデシコに染まったから?・・・私の所為じゃありませんよね・・・多分・・・

アヤさんとイツキさんの戦いは、イツキさんが圧倒的に攻めています。

『やはり、ナデシコを行かせたのは、あなたが死ぬところを見せたくなかったからかしら?』

『いいえ・・・本当にあなたが死ぬところを見せたくないだけよ・・・』

『怪我をしているのにまだ強がるって言うの?』

確かに・・・アヤさんの怪我は深刻なものがあります。

エステバリスの機動に伴う衝撃はアヤさんの体を蝕んでいるはずです。

アヤさんの額からは汗が流れています・・・相当つらいようですけど・・・

『強がり?・・・違うわね。私が戦う理由を思い出しただけだから・・・』

『戦う理由ですって?艦長みたいに、みんなの為なんて事言うんじゃないでしょうね。』

『そんな甘い事言ってたら身が持たないわ。

私が戦う理由・・・私が悪と認めたら斬る・・・それだけよ。』

『私が・・・悪ですって?そうね・・・あなた達から見ればそうかもしれないわね。

でも!大切な人を失う悲しみをあなた達は知らないだけよ!

大切な人が失われた時の気持ち・・・判ってたまるもんですか!』

アヤさんはイツキさんの言葉を黙って聞いていましたが、やがて・・・

『言いたい事はそれだけ?』

『な・・・』

『だから、アキト君に勝てないのよ・・・誰もね・・・』

『あの男こそ甘い事言ってるじゃないの!

何が皆を護るよ!変なハーレム願望でもあるんじゃないの?』

『・・・まぁ、アキト君に言寄る女性が多いのは認めるわ。』

「アヤさん!認めないで下さい!」

「そうよ、アヤ!いくらアキトさんが人間磁石だの

歩く女性吸引機と言われ様と私は認めないんだから。」

「プル・・・それ、矛盾してるわよ・・・」

「そうですよ、プルセルさん。私は他の女性がアキトさんと一緒に居るところなんて見たくありませんから。」

「あ〜、独占欲強すぎるわよ!」

「そうね、ホシノ=ルリ。あなたの好きにはさせないわ。」

『と、まぁ一部の女性の意見は置いといて・・・』

アヤさん、勝手に置かないで下さい。

『アキト君はね・・・本当は誰よりも弱く、誰よりも優しいの・・・』

アヤさん・・・

『それがどうしたって言うのよ!』

『でもね、アキト君の目を見たことがある?』

『あるわよ。』

『その奥に潜む闇の深さは判った?』

『え?』

『アキト君は一度大切なものを失っている・・・

ひどい裏切りも受けている・・・

復習を実行した空しさを知っている・・・

そんな目をしているわ。

でも、誰よりも優しいから・・・復讐者の自分を激しく後悔した・・・

誰よりも弱いから・・・護ると言う言葉を選んだ・・・

多分、アキト君は一生誰かのために戦いつづけるのかもしれないわね。

それは、死よりもつらい人生と言えるわ。』

『そんなの、独り善がりの自己満足じゃないの!』

『ええ、そうよ・・・でもね・・・似てるのよ・・・』

『どういう事?』

『飛天流の極意・・・剣術なんて物は所詮人を斬ってなんぼの技術・・・

でもね・・・時代の困難から人を護るための剣・・・それが飛天流よ。』

『それがどうしたって言うのよ!』

『見えないかしら?私の後ろにはみんなの未来がある。

ユリカさんの人を信じる心がある。

ルリちゃんの皆が幸せになって欲しいと言う願いがある。

プルの前向きに生きていこうとする想いがある。

あなたには少しでもそんな思いがあるのかしら?』

『うるさい!そんな事を言ってもあなたの劣勢が変わるわけじゃないのよ!』

『バカね・・・あなたが居る位置をもう一度よく確認しなさい・・・』

『え・・・』

イツキさんが居る位置・・・それは、アヤさんから指示があった

カキツバタのミサイル群・・・作動を任意で設定できるようにしてあります。

『ルリちゃん!今よ!』

「はい、ミサイル一斉点火!」

私は、全ミサイルをイツキさんに叩き込みます。

『な!』

激しい爆発がイツキさんのダブルエックスを包みます。

やがて、爆発が収まると大ダメージを受けたイツキさんのエステバリスが姿を現します。

さすが、セイヤさんが作っただけあります。あの爆発に耐えるなんて・・・

『・・・や、やってくれたわね・・・この借りは必ず返すわ。

それと・・・トオルさんからの伝言よ・・・火星で待っていると・・・』

イツキさんはそう言うと、退却していきました。

アヤさん・・・どうして止めを刺さなかったんでしょう?

アヤ!しっかりして!アヤ!

プルセルさんが必死に呼びかけています。

・・・これは・・・アヤさんの生命レベルがレッドゾーンに突入しています。

「サブロウタさん!アヤさんのエステバリスを至急回収してください!」

『は、はい!』

サブロウタさんのエステバリスは丁度最後の無人兵器を破壊した後でした。

「プル!呼びかけ続けて!」

「ええ、アヤ!アヤ!しっかり!アヤ!」

「医療班、至急準備してください!

アヤさんを決して死なせてはなりません!」

私は医療班を呼び出し言います。

『任せて、医者として全力を尽くさせてもらうわ。』

黒く長い髪をくくりながら、その人は言います。

確か・・・高荷 望って言いましたっけ?彼女の名前・・・

木連優人部隊で軍医をしているって秋山さんから紹介されました。

かなり優秀な方で、さすがに改造人間にはしないそうですが

一族全員が優秀な医者と言っていました。

地球側の医療技術を学べると喜んで今回の作戦に参加したほどです。

「お願いします。彼女が死ねば私の妹が悲しみます。」

望さんはコクリと頷くと、すばやく指示をしていきます。

「これよりカキツバタはナデシコの援護に向かいます。

サブロウタさんは引き続き護衛任務よろしくお願いします。」

『了解だ。』

「アヤさんの容態も気になりますが、今は望さんに任せましょう。

プルセルさん、ナデシコとの通信は繋がりましたか?」

「いいえ、さっきから強力な通信妨害を受けているから・・・」

「通信妨害の発生源は判らないの?」

エリナさんがプルセルさんに尋ねます。

「いいえ・・・何とも・・・ルリちゃん、何か判った?」

「はい、現在カキツバタのシステムで解析中ですけれど・・・

オモイカネと違って融通が利きませんから手間取っています。」

「ナデシコでも同じ現象が起きていると見て間違いないわね・・・」

「はい、エリナさん・・・ナデシコを追いかけてください。

プルセルさんは引き続きナデシコとの通信を試みてください。」

「判ったわ。」

「ええ、やってみる・・・」

カキツバタは命の光が瞬く戦場へ向かっていきました。

 

 

 

「前方、ナデシコを発見。攻撃を受けています。

サブロウタさん、至急援護に向かってください。」

『了解。正義の意味を知らぬ愚か者どもの目を覚まさせてやります。』

私達がナデシコを発見したのは、必然でした。

ナデシコは自らが攻撃される危険を犯してまで私達に目印を残していってました。

「ナデシコ!聞こえますか!ナデシコ!応答してください!」

プルセルさんが必死になって呼びかけます。

『・・・ル・・・ん・・・事だ・・・す・・・』

メグミさんの顔が面妖に歪んでいます・・・

「エリナさん、カキツバタはナデシコの盾になります。

ナデシコの右側面につけてください。」

「判ったわ。」

カキツバタはナデシコが攻撃を受けている右舷に割り込みます。

「フィールド出力、83%・・・まだいけますね。」

サツキミドリが健在と言う事はまだナデシコは相転移砲を発射していない。

と言う事は、アキトさんからの連絡はまだと言う事でしょうか・・・

「ナデシコとの通信、回復。」

『ルリちゃん!アヤさんは無事?』

「はい、ただ今は休んでもらっています。」

私は、出来る限り動揺を抑えるためそう伝えます。

『そう・・・アキトからの連絡がまだなの。』

「こちらも強力な通信妨害でナデシコとの連絡が取れませんでした。

こう通信妨害がひどいとリョーコさん達を認識できません。」

私は戦場の大まかな配置をウィンドウに映し出しますが、リョーコさん達を認識する事は出来ません。

「そこで、オモイカネに通信妨害の発生源を特定してもらえないでしょうか。

こちらのシステムでも試したのですが、オモイカネの力が必要なのです。」

『判ったわ。ルビィ、お願いできる?』

『了解、カキツバタとのデータリンク・・・完了。

計算中・・・・・・・・・・・・・・・』

ルビィの全身が光り輝きます。

「カキツバタのフィールド出力が75%を切ったわ。」

「望さんから報告よ。アヤさんは大丈夫だって。」

悪い知らせと良い知らせが同時に来ましたね・・・

「サブロウタさん、カキツバタはまだ大丈夫です。

ナデシコの護衛をお願いしているはずです。」

『しかし、この船もやばいんだろう?』

「心配無用です。・・・・ミサイル、フルオープン・・・

ターゲット・・・ロックオン・・・全弾発射!」

カキツバタからミサイルが発射されます。これで、ミサイルを全て撃ち尽くしました。

あとはもう、逆さにふってもミサイル攻撃は出来ません。

カキツバタから発射されたミサイルは、ナデシコとカキツバタに殺到していたバッタのほとんどを撃ち落としました。

「・・・相変わらず、問答無用ね・・・」

「・・・ええ・・・ルリちゃんを怒らせたらいけない、って事はわかっていたけど・・・」

そこの二人・・・何こそこそ話しているんですか・・・

『計算完了・・・木連軍後方の戦艦から発信しています。』

『ルビィ、ターゲットは判りますね。グラビティブラスト発射用意。』

ユリカさんがルビィに言います。

「ディストーションフィールドを展開しているから無駄なんじゃないの?」

エリナさんがユリカさんに言います。

「でも、それでリョーコさん達が気付いてくれたら・・・」

『はい、信じていますから。』

ユリカさんは何時もの笑顔で答えました。

『グラビティブラスト発射準備完了。』

『てぇーーーー!』

ナデシコからグラビティブラストが発射されます。

「こちらもグラビティブラストを発射します。エリナさん!」

「はいはい、やってるわよ。」

「エステバリス各機、カキツバタもグラビティブラストを発射します。

射線上にいる機体は至急退避してください。」

「グラビティブラスト、チャージ完了。」

「射線上に見方機無し。」

「艦首、敵戦艦に向けます。」

「グラビティブラスト、発射。」

カキツバタからもグラビティブラストが発射されます。

これで、木連にも、地球にも私達の存在を気付かれますね。

『ナデシコは、このまま相転移砲発射ポイントまで移動。

通信妨害が解除されてアキトからの連絡があったら相転移砲を発射します。

カキツバタはエステバリス隊回収ポイントに向かってください。』

「判りました。秋山さんと月臣さんはこのままナデシコの護衛。

サブロウタさんはカキツバタの護衛で宜しいですか?」

『任せろ、木連の司令官はアララギらしい、私達の説得に応じてくれるやも知れん。』

『ああ、アイツは部下思いの良い奴だからな・・・高杉は好きに使って構わん。』

秋山さんと月臣さんが言います。

『そ、そんな〜。』

「判りました、高杉さんはカキツバタの護衛をお願いします。」

私は笑顔で言います。

『りょ、了解しました。』

サブロウタさんは顔を青ざめながら答えます。

「どうして、青ざめてるのかしら?」

「きっとルリちゃんが恐いのよ。」

・・・エリナさん、プルセルさん・・・聞こえてますよ・・・

「では、カキツバタはこれよりエステバリス隊回収ポイントに向かいます。

エリナさん、お願いします。」

「判ったわ。」

どうやら、リョーコさん達は判ってくれたようです。

リョーコさん達らしい物体が通信妨害をしている戦艦に向かっていますから・・・

「信じる事・・・か。」

「どうしたの?エリナ。」

「あの艦長、どうして無条件で人を信じられるのかしら?」

「ユリカさんだからですよ。」

おかしいですけど、そういうと何だかしっくりします。

「艦長だから・・・か。そうね、私達はあそこまで人を信じる事は出来ないけど

艦長なら人を信じる事が出来る・・・何だかうらやましいわね。」

「ええ、そうね・・・」

ユリカさんは自分らしく生きている・・・私も、自分に正直に生きていきたい・・・アキトさんと一緒に・・・

「通信妨害解除、状況確認。」

「エステバリス隊の回収ポイント到達。」

『こちら、黒ずくめの男。ターゲットはもぬけの空だ。』

アキトさん・・・そのコードネーム・・・似合いすぎてます・・・

『この宙域すべての人に告げます。これよりナデシコは相転移砲を使用します。

死にたくなかったら逃げてください!』

ユリカさんが最後の警告をします。

『エステバリス隊、カキツバタに着艦する。』

「了解、ナデシコの護衛部隊もナデシコに着艦した模様。」

「進路変更、退避行動に入ります。」

『Yユニット展開完了、相転移砲トライ・パワー・トゥ・マキシマム。』

『相転移砲、発射!』

光が・・・サツキミドリを包みます・・・

「サツキミドリ・・・消滅確認。」

『双方の戦う目的は失われた。お互い無意味な戦闘は止め退け!』

『アララギ、貴様ほどの男ならわかるはずだ。真の敵が何処にいるのか・・・』

秋山さんと月臣さんの言葉で木連軍の動きが一瞬止まります。

「ナデシコよりボース粒子反応、ボソンジャンプします。」

『ルリ、長居は無用だ。ジャンプするぞ。』

「はい、IFSフィードバックレベル10まで上昇。

各員最終チェック宜しく。」

「生活ブロック、準備完了。」

「各部異常なし。光学障壁展開。」

「ボソン・フェルミオン変換開始。」

「アキトさん、何時でもいけます。」

『ジャンプ!』

カキツバタは光に包まれ・・・ジャンプアウトした先は

懐かしの火星、ユートピアコロニーでした。

「各部異常なし。」

「前方にナデシコを確認。」

「ナデシコより通信です。」

『皆無事?』

「ええ、全員います。」

『アヤさんの容態は?』

ユリカさんが尋ねてきました。

「知ってたんですか?」

『・・・ルリちゃんが気遣っているのがわかったから・・・』

敵いませんね・・・ユリカさんには・・・・

「峠は越しましたから大丈夫ですよ。」

『そう・・・いよいよね・・・私達の戦いも・・・』

「はい・・・」

決着をつけるときが来たようですね・・・

過去も・・・未来も・・・全ての・・・・

 

 

 


 

ルリ:・・・遅い・・・

作者:(ビクビク)い、いやぁ・・・待たせたねぇ・・・

ルリ:・・・遅すぎます・・・

作者:い、色々とあって・・・

ルリ:ほほう?

作者:ほ、ほら・・・仕事が忙しくて・・・

ルリ:しっかり休日は休んでいたのに?

作者:いや・・・途中まで書いていたデータを紛失するし・・・

ルリ:それはあなたが持ち歩いているフロッピーを間違ってフォーマットしたからでしょう?

作者:い、いやぁ・・・記憶をサルベージするのも大変だよねぇ。

ルリ:バックアップデータがハードディスクに残っていたのを完全に忘れていたんでしょう?

作者:それを言わないで・・・

ルリ:それに・・・なんですか?この物体は・・・

作者:ああ!それに触らないで!

ルリ:ゲームボーイアドバンスとスパロボR・・・

作者:い、いやぁ・・・楽しいねぇ・・・

ルリ:さらに!PS2まで・・・

作者:臨時収入があったから・・・

ルリ:睡眠時間を削ってゲームに明け暮れたと・・・

作者:堪忍やぁ!

ルリ:まぁ、スパロボRではアキトさんがエースになっていましたから良しとしましょう。

作者:ほっ・・・

ルリ:今回も小ネタがありましたね。

作者:どのキャラも一発キャラだから二度と登場しない・・・と思う。

ルリ:アヤさんの活躍が目立ちますね。

作者:アヤはお気に入りのキャラだからね。血を吐いてでも活躍してもらおうと思って。

ルリ:それで、血を吐かせたと・・・

作者:イツキを倒すところまで書いたんだけど、まだまだイツキには活躍してもらおうと思ったからね。

ルリ:話もいよいよ大詰めですね。

作者:頑張って書こうと思っています。

ルリ:・・・その手にもっているのは何ですか?

作者:え・・・ス、スパロボINPACTと.hack・・・

ルリ:封印しなさい!今すぐ!

 

―だってこの子(ソフト)達が呼んでるんだ!

 

 

 

 

 

代理人の感想

メグたんのスタミナドリンクが生物兵器ですと?

失敬な!

表現はできる限り正確にするべきですね。

あれは生物兵器などでは断じてありません。

あれは化学兵器です(爆死)。

 

それはさておき話はクライマックス直前。

名もないパイロットAがいきなり目立ったりして、

おまけに結婚話までしてたのでてっきり死ぬかと思いました(爆)。

・・いや、御約束だし(笑)。