始まりがあれば、終わりがある。

長かったこのお話も今日が最終回。

いろいろあった今回の歴史。

最終決戦に向けて士気は高まる・・・

はずだったんだけどね・・・

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 第26話 『いつか会う貴女のために』

 

 

 

 

 

 

私達は、ユートピアコロニーで足踏み状態です。

と言うのも、先程の戦闘でアヤさんのエステバリスは大破。

カキツバタも少し無理をした為か、相転移エンジンが止まってしまいました。

と言うわけで、私達はカキツバタから再びナデシコに移乗。

カキツバタはセイヤさんが修理をしていますが

手持ちの資材が足りない、って言っていましたから、

応急修理程度に留まるのでしょうね。

まさか、改造なんて事は・・・しないと思いますけど・・・

もし、改造なんかしてたら、セイヤさんの事ですから『こんな事もあろうかと』って言いながら

新兵器の説明を嬉しそうにするんでしょうね。

と言う訳でナデシコは、修理中のカキツバタを護衛中。

極冠遺跡の状態がわからないので、現在アキトさんが偵察に出ています。

・・・私も一緒に行きたかったな・・・ま、この戦いが終われば・・・

アキトさんと二人で、世界中を旅してまわる予定ですから

今は我慢ですかね・・・クスッ、楽しみです。

「ルリちゃん・・・楽しそうね。」

「え、そうですか?」

プルセルさんがジト目で言います。

「ええ、楽しそうだったわ。ね、メグミさん。」

「そうね、多分この戦いが終わったら

アキトさんと二人でって考えてたんでしょうね。」

ギク・・・鋭いですね・・・メグミさん。こころなしか、メグミさんの目が

絶対零度の輝きを放っています・・・

「その顔は考えてたわね。」

エリナさんまでも、冷たく言います。

「ルリちゃん、抜け駆けは良くないよ。艦長の私に話しなさい!」

「そんな事・・・考えてませんよ。

それよりも、メグミさんが考えている事を、口にしたんじゃありませんか?」

おお、我ながら中々言い切り返しです。

これならメグミさんも・・・

「ええ、そうね。アキトさんと二人で『大人の』デートをするのもいいわね。」

メグミさんは、私を見ながら言います。

しかも、わざわざ大人の部分を強調して言うあたり、さすがメグミさんです。

「メグちゃん、そんな事考えてたんだ。」

「それこそ抜け駆けよね。」

「私のほうが、大人のデートは出来るわよ。」

何とか、矛先が私からメグミさんに移ったようですね。

・・・大人のデートか・・・今の私には、まだ無理な話ですね。

アキトさんが犯罪者になっちゃいますから。

・・・私は良いんですけどね・・・でも、法律が許してくれそうにありません。

ユリカさん達は、まだ言い争っています。

最終決戦の前だというのに、やっぱりナデシコはナデシコです。

『ルリ、アキトが帰ってきたよ。』

「ありがとう、ルビィ。後部ハッチを開いてください。

艦長、アキトさんが帰ってきましたよ。」

「ホント?アキト!無事だった?

ユリカさんは、いきなりアキトさんに通信を繋げます。

しかも、あの超音波ボイスで・・・

『どわぁ!ユリカ!いきなり通信をつなげるな!』

珍しく・・・本当に珍しくアキトさんが、ビックリした表情をします。

まぁ、あの超音波ボイスを聞けばそうなりますか・・・

と言うより、ブリッジが全滅してるんですけど・・・

私は、常に耳栓を用意していましたから難を逃れてます。

・・・なんだか、昔のアキトさんに戻ったような感じがします。

少し悔しいです・・・ユリカさんと言い争いをしているアキトさんって、無理がありません・・・

『とにかく、一度皆を集めて話をしないといけないだろう。』

「ええ、判ったわ。結婚の報告ね。」

『何でそうなるんだ。』

「いやぁ、芸能人の婚約会見みたいで照れるわ。」

おーい。ユリカさ〜ん・・・

皆もようやく復帰してきました。

「ふぅ・・・完全にトリップしてるわね。」

「これで艦長なんだから調子狂っちゃうわ。」

「アキトさん、とりあえずデータ解析をします。」

『あ、ああ・・・頼む。』

アキトさんもゲンナリしながら言います。

 

 

 

 

 

ナデシコのブリッジには、エステバリスのパイロットをはじめ、

木連からは秋山さん、月臣さん、サブロウタさんが姿を見せています。

セイヤさんは、カキツバタの修理で大忙し。

ミナトさんとユキナさん、ラピスとユウタは白鳥さんとアヤさんの看病。

イネスさんは、カキツバタから合流した高荷さんと一緒に怪我人の治療中。

ホウメイさんとホウメイガールズは、カキツバタで修理作業中の整備員や

怪我人の病院食を作るので大忙しです。

木連の人たちは、整備班の手伝いをしています。

「・・・・・・以上が、木連の大まかな配置だ。

さて、これから遺跡上空の草壁達を撃破する訳だが・・・その後はどうするつもりだ?」

アキトさんは、皆を見ながら言います。

「テンカワ君・・・回りくどい言い方だね。はっきりと言ったらどうだい?」

アカツキさんは鋭い目で言います。

「じゃぁ、単刀直入に言おう。ボソンジャンプの演算ユニットをどうするか。

それぞれの立場で答えて欲しい。」

アキトさんは、それぞれの立場といいました。

ネルガルとしての立場、木連としての立場、宇宙軍としての立場、そして・・・

「ネルガルとしては、このまま敵に奪われたまま、と言うのは面白くないね。

まだまだ、研究する価値は有りそうだし、何よりスキャパレリプロジェクトの真の目的は

演算ユニットの回収にあった訳だからね。来るべきボソンジャンプによる、

宇宙大航海時代に莫大な利益を得る事ができるから、

できれば回収したいと思っているよ。」

「と言う事は、アカツキさんは演算ユニットを手に入れたい、と言う事ですね。」

私はアカツキさんに確認します。

「そうなるね。」

「今は、ネルガルの会長でもないくせに・・・

私がそう言うと、アカツキさんはピシッと固まってしまいました。

「いえ、子供の言うことですからお構いなく。」

私は、一応フォローしておきます。

「ルリちゃんって、厳しい事を平気で言うよね。」

「そうね・・・」

「メグミさん、プルセルさん、何か言いましたか?」

「い、いえ・・・何でも・・・」

「そ、そうよ・・・子供の言う事としてこの場は・・・」

プルセルさんは、アカツキさんの目の前に手をかざしていますが

アカツキさんは固まったままです。・・・ま、そのうち復活するでしょう。

「我々としては、地球側と和平を結び、

国民の速やかな移住と、基本的な権利を受ける事が出来ればそれで良い。

演算ユニットに固執しているのは草壁閣下達だけだ。」

「そうだな、地球、月、火星、そしてコロニー

・・・我々が安住できる地があればそれで良いだろう。

最早、正義などと言っておる訳には行かんからな。」

秋山さんと月臣さんが言います。

「そうですよね、お二人には婚約者が本国に残っていますからね。」

サブロウタさんが、さらりと爆弾発言をします。

「「「「「ええぇっ!婚約者ぁ!」」」」」

ユリカさんを筆頭に皆が驚いています。私もビックリしました。

前回の歴史では・・・聞いた事ありませんでしたから。

アキトさんに視線を向けると、アキトさんは頷いています。

という事は、アキトさんはすでに知っていたという事ですか・・・

「こ、こらっ。高杉!貴様と言う男は!」

「そ、そうだ。男の友情と言うものがあるだろう!」

そ、それにしても・・・二人とも、あれだけゲキガンガーに染まっていたというのに

婚約者ですか。ふふふ・・・このナデシコでその話を聞いた以上、

黙っている訳には行きませんね・・・ちょっと詳しく聞きましょうか・・・

「サブロウタさん、婚約者と言うのは?」

私は、サブロウタさんに尋ねます。

他の皆も、興味津々と言った表情です。

「いやぁ、お二方とも名家の生まれでして・・・親が決めた許婚がいるんですよ。

この話は、アキト殿が木連に来る前に判明した事でして・・・」

「親同士の決めた事だ。俺は知らん。」

「それに、まだ結婚は早いというか・・・その・・・」

サブロウタさんの言葉に、秋山さんと月臣さんが答えますが先ほどの迫力がありません。

サブロウタさんは、さらに爆弾を落とします。

「またぁ、艦長も月臣殿もルリさんから頂いた地球の物件を、真剣に見ていたじゃないですか。

あれって、新居探しでしょう?」

あ、そう言えば・・・全てが終わったら地球に住むつもりだから、

今から物件を探しておきたいって、カキツバタに乗った時に言ってましたっけ・・・

「「「「「「ほほう?」」」」」」

ユリカさん達は、秋山さんと月臣さんを睨みます。

「つまり、お二人とも幸せに暮らす為に生きる場所があれば良いと。」

「う・・・」

「ま、まぁ・・・」

「ま、俺達も元々は独立問題が原因だからな。

その事を明らかにして、きちんと謝罪してもらえれば

それで良いって事です。

それに、正義と信じて戦ってきた俺達の戦いが、

実は遺跡が欲しいだけの単なる野心家によって

踊らされていただけ、なんて悔しいですからね。」

サブロウタさんが秋山さんと月臣さんの代りに言います。

「つまり、クーデター派としては遺跡に固執する必要が無いけれど

草壁一派は放置しておくわけには行かない・・・そう言うことですね。」

私がそう言うと秋山さん達は頷きます。

「秋山さん達の許嫁問題は、後できちんと追及するとして・・・」

「つ、追求するのか・・・」

秋山さん、詳しく話してもらいますよ・・・

「ナデシコとしてはどうするのか、艦長の考えを話して欲しい。

恐らく、宇宙軍は遺跡の事自体を知らないんだろう?」

アキトさんが言います。アカツキさんは、頷いていますからアキトさんの言う通りなんでしょう。

「あんな物があるから、戦争が起きるんです。この際、思い切って壊しちゃいましょう。」

そう言うと、ユリカさんはニッコリと笑いました。当然、慌てたのがアカツキさん。

でも、今の最高責任者はユリカさんですから逆らえません。

「遺跡を壊せば、どうなるんですか?」

メグミさんがユリカさんに尋ねます。

「それは、もちろんジャンプ自体が出来なくなっちゃうんだろうけど・・・」

『説明しましょう!』

むぅ・・・最終回なので絶妙のタイミングで飛び出してきましたね・・・イネスさん・・・

『演算ユニットは、ボソンジャンプを管理している。それは皆知っているわね。

で、問題の演算ユニットを壊しちゃうとどうなるか・・・

誰もやった事無いから判らないんだけど

恐らく、過去にさかのぼって行われたボソンジャンプ自体が無かった事になってしまうわ。

っと、怪我人の治療中なの。後でゆっくり詳しく丁寧に説明するわ。』

そう言うとイネスさんは通信を切りました。

「と言う事は、遺跡を壊せば戦争で死んだ人たちも元に戻る。

それどころか、戦争自体が無かった事になる。」

アキトさんがイネスさんの言葉を続けます。

「でも、どうやって壊すんだ?」

ジュンさんがユリカさんに尋ねます。

「ナデシコとカキツバタは遺跡内部に進入、

そこでナデシコとカキツバタの相転移エンジンを暴走させてしまいます。

それで、演算ユニットはなくなってしまいます。

演算ユニットが無くなっちゃえば、この戦争も終わり。うん、完璧。」

ユリカさんはブイサインをしています。

「しかし、相転移エンジンを暴走させるには、マスターキーを使える者しか出来ないはずだ。」

ゴートさんが言います。

「ユリカ・・・死ぬつもりなの?」

ジュンさんも不安な表情で言います。

「大丈夫。遺跡が壊れちゃえば全てが無かった事になってしまうんですから。」

ユリカさんは笑顔で言います。でも・・・・・・

「反対です。」

「え、ルリちゃん・・・」

ユリカさんを始め、皆が私のほうを向きます。

「私は、反対です。」

もう一度、繰り返し言うとオモイカネも『ダメ』、『拒否』、『イヤ』、『No』と言う拒絶のウィンドウを出します。

ルビィも静かに首を横に振ります。

「でも、ルリちゃん。遺跡がなくなっちゃえば・・・」

「遺跡を壊せば、歴史が変る。戦争も無くなる。

全てチャラ・・・でも、大切なモノも壊しちゃうじゃないですか。

私たちが、こうして出会ったことも無くなっちゃうんですよ。」

そう、私とアキトさんが出会った事も・・・

ユリカさんのぬくもりも、ミナトさんの優しさも・・・

皆との大切な思い出も・・・

「私の大切な物、それはこのナデシコで過ごした”時間”・・・

自分達で手に入れた初めての思い出、私だけの記憶、

与えられた記録ではなく自分で判断し、自分で行動した・・・

大切なモノです。チャラになんて出来ません。」

「ルリの言う通りだ。俺達が出会った事・・・

ユリカ、ジュン、プロスさん、ゴートさん、メグミちゃん、

プルセルさん、エリナさん、ミナトさん、

アカツキ、ガイ、カズマ、リョーコちゃん、ヒカルちゃん、

イズミさん、ミサキさん、アヤさん、ホウメイさん、

サユリさん、ジュンコさん、ミカコさん、ハルミさん、エリさん、

イネス、ラピス、ユウタ・・・それに、秋山さん達木連の人・・・

火星に居た時には、こんなに多くの人とめぐり逢うことなんて、考えられなかった・・・」

アキトさんは、私の頭を優しくなでながら言います。

「それに、もし上手く行っても私たちがナデシコで過ごした時間は消えてしまいます。

アキトさんは火星でアルバイト生活、私は研究所でモルモット、

ユリカさんはミスマル家の長女としての生活・・・

皆、何かを変えたくてナデシコに乗ってきたのに、

元の生活に逆戻りしちゃうんですよ。本当にそれでいいんですか?」

「ルリちゃん・・・」

「私は、反対です。」

私は、もう一度繰り返しました。

だって、全てがチャラになっちゃうと、

アキトさんと会えなくなっちゃうじゃないですか・・・

「ならば・・・演算ユニットを誰の手にも触れられない所に隠しちゃいますか。

っと、これは私個人の意見ですから。」

プロスさんは、アカツキさんに慌てて断りを入れます。

「せやな、誰の手にも渡らんかったら、ドンパチ続ける意味も無いっちゅう訳やな。」

カズマさんも賛成します。

「俺達も異論は無いぜ。折角アキト達と出会えたんだ。

こんな楽しい時間を無かった事にされたんじゃたまんないぜ。」

「ヤマダ君の言う通りね。私達も全部なくなっちゃうなんて悲しいよね、リョーコ?」

「ああ、それにまだアキトとの事は終わったわけじゃねぇからな。」

「おぉ〜、リョーコにしては珍しく良い事言うわね。

私も、出来ればあの人が帰ってきたらって思ったことがあるわ。」

「あ、そう言えば婚約者がいたんだったよね・・・確か死んだって・・・」

イズミさんの言葉にヒカルさんが言いますが、すぐに気まずそうに言います。

「良いのよ、過去にこだわるだけじゃ先に進む事なんて出来ない

・・・そう思っているから。」

シリアスモードのイズミさんの言葉は重みがありますね・・・

普段、凍りつくようなギャグを言っているのは、自分を奮い立たせるためでしょうか?

「みんな・・・」

ユリカさんは涙を流しています。

「世界平和より、大切な思い出の為・・・か。」

「良いんじゃないの?ナデシコらしくって。」

「プル・・・あなたまでそんな事・・・」

「エリナも判っているはずよ。朱に交われば赤くなるって。」

プルセルさんはそう言うと、エリナさんにウィンクをします。

「はぁ・・・私ともあろうものが、こんなにも影響されるなんてね。」

そういったエリナさんの顔は、なんだかスッキリしています。

「では、ナデシコとしては遺跡を持ち出して、遠くに飛ばしてしまう・・・と言う事で宜しいですかな?」

プロスさんが言うまでも無く、皆その結論に達していました。

私の・・・皆の大切な思い・・・壊させはしません・・・

たとえ、どんな手を使ったとしても・・・

 

 

 

「ナデシコ、発進!」

「了解、ナデシコ発進します。カキツバタとのリンクシステム順調。」

ユリカさんの命令でナデシコは発進します。

それにしても・・・久々にナデシコのオペレート席に座ります。

ユリカさん、ジュンさん、ゴートさん、プロスさん・・・

エリナさん、メグミさん、プルセルさん、ルビィ・・・

そんなに長い時間カキツバタに居たわけではないのに、

こうして、ナデシコの・・・いえ、ユリカさんたちが一緒だと

やっぱりナデシコに帰ってきたという実感があります。

結局、カキツバタは囮艦として使う事が決定しました。敵艦隊に特攻して隙を作るのが目的です。

「まもなく火星極冠遺跡に到着します。」

プルセルさんの報告で、嫌でも緊張感が高まります。

「敵影補足、大型艦1、中型艦10、小型艦20。」

『敵艦より機動兵器の発進を確認。』

「エステバリス隊、直ちに発進。」

私とルビィの報告を受けて、ユリカさんがエステバリス隊の発進を指示します。

「テンカワ機を中心として全機突撃。

木連組は、ナデシコとカキツバタの護衛。」

ジュンさんが、エステバリス隊に指示しています。

「ディストーションフィールド出力全開。最大戦速で遺跡に突入。」

「総員戦闘配置。繰り返す、総員戦闘配置。」

『こちら食堂、厨房の火は全部落としたよ。これから避難を開始するよ。』

『怪我人が出たら直ぐに運んで頂戴。生きてる限り治療するから。』

『こちら機関室。相転移エンジン順調だ。』

ナデシコの各所から報告がきます。

さすが、性格に多少問題があっても、能力は一級との触れ込み通り、すばやい対応です。

木連の人たちも、皆の中に混じって仕事をしています。

ナデシコと言う空間の中では、既に和平が達成されているようです。

「エステバリス隊、機動兵器群と接触。」

『本艦ならびに、カキツバタ周辺に機動兵器接近。』

「対空防御!エステバリス隊は、ジュン君の指示に従ってください。」

「ユリカ、数が多すぎるよ。とてもカキツバタまで守っていられない。」

「ルリちゃん、カキツバタはまだ行けるわね?」

「はい、現在フィールド出力72%。各部署に異常ありません。」

私の周りには、カキツバタの状況を映し出したウィンドウが所狭しと並んでいます。

「ルビィ、あなたはナデシコの制御をお願いします。私はカキツバタのコントロールに専念しますから。」

『はい、またアキトに怒られるような無理しないでください。』

嫌な事思い出させますね・・・

「大丈夫です。皆、頑張っているんですから・・・」

『ルリルリ、ホントだね?』

ミナトさんが心配そうに聞いてきます。

「はい、ですからミナトさんは、白鳥さんを見ていてあげてください。

あ、ユキナさんはアヤさんをラピス達と一緒に監視していてください。

また勝手に出撃されると、今度こそフォローしきれませんから。」

『もうやってるよ。』

『いくらアヤでもこうなったら動けないよね。』

『グルグル・・・』

ユキナさん、ラピス、ユウタが言います。

アヤさんは・・・簀巻きにされて、猿ぐつわまでされています。

「・・・アヤ・・・そういう趣味だったの・・・」

プルセルさんが気の毒そうに言います。

『・・・む〜・・・プハァ!ハァ、ハァ・・・

あんたらねぇ〜!』

アヤさんは、執念で猿ぐつわを解きます。

『だって、アヤったらこうしとかないと、また抜け出すでしょう?』

『そうね、今度抜け出したら・・・』

イネスさんは、怪しげな液体が入った注射器をアヤさんに見せます。

アヤさん・・・プルプルと首を横に振っています・・・

「と、とにかく・・・場合によっては私達も、怪我人の救護を行わなければなりませんし

ヘタしたら私達が怪我人になっている場合もありますから、万全の体制を整えて置いてください。」

プロスさんは額の汗をハンカチで拭きながら言います。

「少しは緊張感を持てないのかしら。」

「あら、それがナデシコですよ。」

「そうよ、エリナもいいかげん認めなさい。」

エリナさんは、少し怒っているような感じで言いましたが

メグミさんとプルセルさんに言われ、エリナさんは黙ってしまいました。

「敵、機動兵器さらに増大。」

「まだ出てくるのか!」

私の報告に、ゴートさんは驚いたように言います。

『・・・源八郎・・・無事か?』

『・・・ああ・・・望月と板倉が戦線離脱だ・・・』

護衛のエステバリス隊は残り29機・・・腕を差し引いても

1500機の敵機動兵器を相手にするのは、少し荷が重いかもしれません・・・

『数が多すぎる!』

サブロウタさんの、悲鳴とも取れる通信がナデシコに入ってきます。

「こちらも手一杯よ。」

エリナさんが怒鳴っています。

『ルリルリ、グラビティランチャーの射出準備が出来たぜ。』

え?セイヤさん?セイヤさんの顔が自身満々なのがチョッと不安ですけど・・・

今は、とにかくこの状況を何とかしないと・・・

「高杉さん、グラビティランチャーを射出します。受け取ってください。」

「グラビティランチャー?」

ユリカさんが首を傾げます。

『こんな事もあろうかと!ふっふっふっふっ・・・

やっぱりこのフレーズは良いねぇ・・・

まさに科学者が生んだ至高のセリフだ!

「あ〜っ!あんた、また勝手に予算を運用したでしょう!」

エリナさんが目くじらを立てています。

「エリナさん、ネルガルは現在クリムゾングループに買収されていますから

実質は親会社であるクリムゾングループの損害になっています。」

私は、資料をエリナさんに見せます。

『おう!予算は使い放題ってんで少しばかり贅沢をしてみたぜ!

ダブルエックスバリスに搭載されているグラビティキャノンを

エステバリスでも扱えるように改造したものだ。

新型小型相転移エンジンを使い、グラビティブラストを使用できる

まさにエステバリスのスーパーウエポンだ!

出力は、理論値でゲキガンタイプのフィールドを一瞬で突き破ることが出来るぜ!』

『ありがたい!早速使わせてもらうぜ。』

「じゃぁ、射出します。」

ナデシコからサブロウタさんに、グラビティランチャーが渡されます。

『ただなぁ・・・』

「え?何か言いましたか?」

セイヤさんの呟きに、ユリカさんが反応します。

『いや、急いで作ったから試射もまだしてないんだ。

それに、エネルギーフィードバックの限界値もまだ計算してないし、熱効率も・・・』

『グラビティランチャー!発射!』

『ひょっとしたら、いきなり爆発するかも知れん・・・ま、それはそれで男のロマンだからな。』

そんなロマン、チョッとイヤです・・・

『うわぁ!』

セイヤさんの言葉を聞いたサブロウタさんは、慌ててグラビティランチャーを放り投げます。

付近にいた秋山さんたちも、全力で回避します。

「あ・・・」

まるでスローモーションを見るようでした。

サブロウタさんが投げたグラビティランチャーは、暫くグラビティブラストを発射していましたが

その光がいきなり収縮したと思うと・・・大爆発を起こしました。

・・・カキツバタと一緒に・・・

「・・・カキツバタ、撃沈。グラビティランチャー、消失。

敵機動兵器の全滅を確認。ナデシコのフィールド出力81%・・・」

『てめぇ!何てことしやがる!』

『それはこっちのセリフだ!あんな不良品つかませといて!』

『せっかく改造したカキツバタの出番が無くなったじゃないか!

変形システムディストーション・ラムも使ってみたかったってのに!』

・・・あの短時間で・・・ここまで・・・思わず呟いてしまいました・・・

「・・・人の執念・・・」

「ルリちゃん・・・ウリバタケさんって・・・何者?」

プルセルさんが目に涙を浮かべて尋ねてきます。

「・・・ただの改造屋・・・じゃぁ無いですね・・・」

「変態よ。」

エリナさんがそっけなく言います。

「と、とにかく・・・アキト達が苦戦しているようです。

ナデシコはフィールドを張りつつ前進。

エステバリス隊は今のうちに補給を済ませてください。」

ようやく立ち直ったユリカさんが命令しています。

あ・・・プロスさんの顔が真っ青です・・・

ゴートさんも目が点になったままです。

「カキツバタの損害も全部クリムゾングループに回ら・・・ないよね・・・」

エリナさんが言います。

「保険でって事には・・・ならないと思いますから、やっぱりネルガルの損失ですね。」

エリナさんはガックリとしています。ま、私が少し操作すればクリムゾンの損害になるんでしょうけどね。

『ルリ、アキト達に追いついた。』

「ありがとう、ルビィ・・・」

私が見た光景は・・・苦戦するアカツキさんたちのエステバリスと

地上付近で壮絶な戦いをしているアキトさんのブラックサレナでした。

 

 

 

『ようやく追いついたと言うわけかい・・・でも、ヘタな手出しはしない方がいいよ。』

アカツキさんが敵の攻撃を受けながら言います。

アカツキさんの戦っている相手って・・・赤い機体・・・ゴツイ装甲・・・まさか・・・

『北辰・・・』

え・・・サブロウタさん・・・今・・・確かに・・・

『間違いない、北辰達だな。』

秋山さんまで・・・じゃぁ・・・アカツキさんが戦っている相手って・・・夜天光・・・

それに、リョーコさん達が戦っている相手って六連?

『ほう、裏切り者どもが生きておったのか。』

通信越しとはいえ、背筋が凍る声です。

それに、技量もケタ違いです・・・アカツキさんが翻弄されているようです。

例の・・・私のクローンを使ったナビシステムを使っているのですね・・・

『艦長!ここは俺達が食い止める!早く遺跡を!』

リョーコさんが、必死の形相で通信を送ってきました。

『へへっ・・・何や楽しい相手やさかい・・・邪魔せんとってや。』

『仲間の仇よ・・・』

カズマさんとミサキさんが、連携しつつ攻撃を仕掛けていますが

北辰の部下たちも相当の技量を持っているようです。やすやすと攻撃を避けています。

『そうそう、二人のデートを邪魔しちゃ悪いわよね。』

『え、そうだったのか!気が付かなかったぜ!』

『ヤマダ君も相当鈍いねぇ・・・』

『だぁ!そこで勝手な想像しとるんやない!』

『そうよ!どうして、こんなシスコンと私が付き合わなければいけないのよ!』

『何やて!ミサキ!もう一回言ってみぃ!』

『おーおー、熱い熱い。』

イズミさんまで参加して、言い争っていますがその間も敵の攻撃は続いています。

『てめぇら!ふざけてんじゃねぇ!』

リョーコさんの大きな声が聞こえてきます。

『ふざけてない、ふざけてない。』

『せや、まじめにやっとるで。』

『まじめな戦い、撃たせていただきます。』

イズミさんの言葉で、一斉に攻撃に転じたリョーコさん達は、次々に北辰の部下を攻撃していきます。

「ルリちゃん、今のうちに極冠遺跡に移動開始、各エステバリス隊はナデシコの護衛。」

「了解、敵大型艦より機動兵器多数発進中。」

「エステバリス隊!迎撃!」

次々と押し寄せてくる機動兵器を、秋山さん達が迎撃します。

まぁ、バッタごときに落とされる秋山さんではないと思いますが・・・

極冠遺跡では、3機のマジンが遺跡上空に張り巡らされたディストーションフィールドを破りに掛かっています。

「月臣機は遺跡上空部にいるマジンを攻撃!

マジン撃破後はフィールドの解除を!

秋山機は敵艦に攻撃開始!

高杉機はナデシコの護衛!」

ジュンさんから指示が飛びます。

『おう!斎藤!行くぞ!』

月臣さんは部下を連れて行きます。

確か、木連式剣術の師範をしている人って言ってましたっけ。

月臣さんが全幅の信頼を置いている人物で、アキトさんと二人で話をしたんですけど

どことなく雰囲気が近寄りがたいモノがありましたね。

でも、奥さんが居るって話を聞いた時は、回りの人たちが固まっていました。

・・・相当、出来た奥さんなんだろうとは、サブロウタさんの言葉ですけどね。

その月臣さんと斎藤さんはあっという間にマジンを撃破すると、フィールドの解除に掛かります。

『大型艦は、草壁閣下の乗る”かぐらづき”だ。全機、敵を排除しつつ”かぐらづき”に向かえ!』

『ナデシコは任せてくれ!』

秋山さんは、数人の部下を連れて攻撃を開始、

サブロウタさんは、ボロボロになりながらもナデシコを護っています。

「敵、カトンボ撃破。フィールド出力77%に低下。」

ズズン・・・

ナデシコに衝撃が走ります。

「第8ブロックに被弾。隔壁43番から46番まで緊急閉鎖。」

「救護班は負傷者の手当てを行ってください。」

ディストーションブロックのおかげで、被害は最小限に食い止められます。

しかし、それでも人的被害が出てしまいました。

「ジュン君、エステバリス隊の状況は?」

「現時点で、高杉機をはじめとするナデシコの防衛部隊は

良くやっていると言いたいが・・・すでに予備のフレームを使いきった状態だ。

月臣、斎藤両機は第18層までフィールドを突破。

秋山機は敵艦を撃破しつつ”かぐらづき”に接近中。

木連組の損耗率60%・・・

アカツキ機をはじめとする各機は、依然苦戦中・・・

テンカワ機との通信取れず。」

「メグちゃん、アキトとの通信をなんとしても確保。

エリナさん、極冠遺跡に向けてナデシコを移動開始。」

振動が再びナデシコを襲います。

「Yユニット被弾。」

「フィールドの維持に努めてください。」

「Yユニットの相転移エンジン制御不能!このままじゃ爆発に巻きこまれるわ!」

「Yユニット緊急パージ!」

「パージします。」

危機一髪って所でしたね・・・ナデシコから切り離されたYユニットは爆発を起こします。

ナデシコは、激しい衝撃に襲われます。

「各員被害状況を報せてください!」

ユリカさんの指示で再び私達は動き出します。

アキトさん・・・無事なんですか?

 

 

 

 

 

秋山さん達は、”かぐらづき”以外の艦を、沈めました。

『貴様ら・・・裏切り者が!』

通信から聞こえて来るこの声は・・・草壁ですね。

『閣下!いい加減目を覚ましてください!

これ以上の戦争続行は、国力の低下を招きます!』

『何を言うか!秋山・・・育てた恩を忘れおって!

それに、この戦いは正義の闘いである。その事を忘れた貴様らに正義など無い!』

『正義など何処にでもあります!

何故それがわからないのですか!』

秋山さんは”かぐらづき”から出てきたバッタを叩き落しながら草壁に迫っていきます。

『何を言うか!悪は滅びて当然!ゲキガンガーの結末もそうではなかったか!』

『いいえ、ゲキガンガーは一つの形を示したに過ぎません。

キョアック星人にも戦う理由があった。私たちにもそれが有ったはずです。

しかし、閣下のなされている事は何ですか!』

秋山さんは、背後から迫ってきたミサイルを間一髪で交わすと

そのまま”かぐらづき”のフィールドを破りに掛かります。

付近には秋山さんの部下が、秋山さんを護衛しています。

『貴様らのような者には、高度な政治判断は判らんよ。

この遺跡を手にする事がどんなに大切な事か。』

『遺跡を独占して何の意味があるんですか!

人類共通の財産として・・・』

『黙れ、秋山!我らが地球圏を支配するためには遺跡の力を

地球人どもに渡すわけにはいかんのだ!』

『閣下!』

秋山さんの攻撃が、”かぐらづき”に命中しますが

効果が得られているとは思えません。

『秋山、貴様の言う事は所詮、負け犬の遠吠えに過ぎん。

我々は過去、2度も敗れ去った。ここいらで勝者となってみんか?

貴様には火星総都督の地位をやるぞ?』

『説得が無理なら買収か・・・真の漢がするべき行為ではないな。』

『だが、貴様にも許嫁が居るだろう?幸せにしたいと思わんのか?』

『笑止・・・幸せの価値など物では計れん。テンカワ殿を見ていると、そう言う気になる。』

『テンカワ?ああ、貴様達をたぶらかした極悪人か。』

『閣下・・・何時からあなたは、他人に自分の理想を押し付けるようになったのですか。』

『押し付けるだと?違うな・・・理想を共有しているのだよ。我々は・・・』

秋山さんは”かぐらづき”のフィールドを解除する事で手一杯です。

秋山さんの部下が無人兵器を迎撃していますが、多勢に無勢です。

『何時までもそうして叶わない夢を追いつづけているから、我々は決起したのです!』

『最早、問答は無用だ!』

「格納庫周辺にボソン反応!」

「ナデシコ緊急回避!」

ズズン・・・

軽い衝撃が私たちを襲います。

ボソン砲で直接私たちを狙ってきたようです。

でも、ある程度その攻撃を予想していた私達は、すばやく対処する事が出来ましたが、

フィールド内での爆発だったので外装に多少の損害を受けます。

その直後でした、秋山さんがボソン砲の発射装置を破壊したのは・・・

『くぅ〜、秋山ぁ!』

『閣下、投降して下さい!これ以上の戦いは無駄です!』

秋山さんは説得を続けます。秋山さんの機体からも火花が出ています。

「月臣機から通信、フィールドを全て解除したそうです。」

「このまま、遺跡内部に侵入して遺跡を盾にします。」

ナデシコは遺跡へと降下していきます。

私の目の前に、イネスさんからの通信が入ります。

『ルリちゃん、後・・・お願いね。お兄ちゃんに早くしないと間に合わないって伝えて。』

「はい、気をつけてください。アイちゃんに宜しく。」

イネスさんは、少し笑うと通信を切りました。

「ねぇ、ルリちゃん・・・今の会話は・・・」

「メグミさん・・・アキトさんとの通信は、まだ回復しないのですか?」

メグミさんの疑問をさえぎり私は尋ねます。

「あ・・・今やってるけど・・・妨害されてるの・・・」

アキトさんとの通信だけ?どう言うことでしょう・・・

秋山さんのエステバリスは”かぐらづき”に突撃をかけています。

「ルリちゃん、最後の攻撃!」

「はい、ミサイル全弾発射します!」

これで最後、もうナデシコに残された攻撃手段は特攻しかありませんね。

秋山さんも、このチャンスを逃すほどバカではありません。

”かぐらづき”の動力部を破壊します。それと同時に、秋山さんのエステバリスは

アサルトピットだけになり、秋山さんの部下に回収されました。

”かぐらづき”からは、次々と爆発が起こっています。

『くっ・・・北辰、ここは引くぞ!』

『御意・・・』

北辰の乗る夜天光は、アカツキさん達に威嚇射撃を加えると

”かぐらづき”から飛び出した脱出艇を回収して飛び去っていきました。

意外とあっさり引きましたね・・・

「敵の引き際・・・やけにあっさりしてましたね・・・」

プルセルさんが疑問を口にします。

確かに、もてる戦力は失ったはずなのに・・・

まぁ、こちらも満身創痍です。深追いできるほど余裕はありません。

「エステバリス隊は、ナデシコに順次帰還。補給と修理を受けてくれ。」

「遺跡最下層まで、あと500。」

「火災発生部分の消火を確認。」

「艦内警戒態勢パターンAに移行。」

『こちら格納庫、エステバリス隊のダメージは深刻だぜ。』

ナデシコもかなりのダメージを受けたと言う事ですか・・・

「メグちゃん、アキトとの連絡は取れた?」

メグミさんは、必死の表情でアキトさんとの通信を回復させようとしています。

「リョーコさん、まだ動けますか?」

『ルリか。まぁ、何とか動けるってとこかな。』

「アキトさんとの通信が取れません。リョーコさん、中継お願いできますか?」

『何?アキトの奴まだ戦ってんのか。』

「はい、他のエステバリスは被害が深刻です。本格的な修理をしないと動けないそうです。

一番被害が軽いリョーコさんが行ってください。」

『了解だ。エステバリスのモニターをそっちに回すぜ。』

リョーコさんがそう言うと、スクリーンにエステバリスの映像が映し出されました。

リョーコさんのエステバリスはぐんぐん上昇していき、やがて地表部分に到達します。

リョーコさんが、戦闘の光を発見するのは一瞬でした。

最大望遠で捉えたアキトさんのブラックサレナと対峙しているのは・・・

「ブラックサレナ?でも・・・」

何だか形が変です。ブラックサレナに似ているのですが何処となく違います。

「・・・あれは・・・曼珠沙華<まんじゅしゃげ>・・・でも・・・」

エリナさんが青い顔をしています。

「エリナさん、知っているんですか?」

「・・・ええ・・・プル・・・知っているかしら?

アキト君の使っているブラックサレナに、開発段階で競合していた機体・・・」

「まさか!でもアレは開発中止になったって・・・」

「あの〜・・・話が見えないんですけど・・・」

ユリカさんがオズオズと聞きます。私にも話が見えません。

「いいわ、時間がないから簡単に言うけれど・・・

あの機体はサレナタイプを、開発中に別コンセプトで作られた機体よ。

いわば、ブラックサレナの兄弟機とでも言うべきかしら。

サレナはエステバリスに追加装甲を取り付けて、その能力を飛躍的に高めるのが目的だったし、

アキト君と言うA級ジャンパーのおかげで、ジャンプを利用したシステムの開発にも役立っているわ。

でも、優れたパイロットであるアキト君が操縦して、その真価を発揮するサレナタイプは

いわばカスタマイズ機と同じ。量産には向かないわ。それに、パワーバランスが物凄く絶妙なの。

そこで、どんな兵士が乗っても優れた働きが出来る機体を作る・・・

それが開発ネーム”曼珠沙華”よ。

でもね・・・その機体のテストパイロットが、次々と死亡する事件が起こった。」

「欠陥マシン・・・と言うわけですか?」

私は、エリナさんに尋ねます。

「いいえ。マシンのスペックはブラックサレナと同等だわ。

いえ、むしろブラックサレナを凌駕していたといっても良いわ。」

「でも、それだけでパイロットが次々死ぬなんておかしいじゃないですか。」

メグミさんがもっともな質問をします。

「ええ、確かに機体性能から言っても、人が死ぬほどの動きをする事は無いし・・・

私たちもそう信じていたわ。でもね・・・システムが・・・いけないのよ・・・」

私達が話を進めるうちに、極冠遺跡最深部まで後わずかとなりました。

「・・・システムが違うとはどういう事でしょうか?」

ジュンさんがエリナさんに尋ねます。

「あの機体はね・・・生きてるの・・・」

「生きてる?」

「ええ、曼珠沙華はその局面でもっとも有効とされる行動を選択して

行動に移そうとするの。」

「まるで無人兵器ですね。」

「そうね、でも・・・無人兵器であれば決められたパターン内での行動しかしないから

熟練したパイロット・・・それこそ、アキト君ほどの腕があれば撃墜するのは容易よ。

でも、アレは基本コンセプトが違う。無人兵器の開発などではなく

それこそ、人とマシンの完全な融合を目指した機体・・・それが曼珠沙華なの。」

「でも、人とマシンの融合と言ってもエステバリスはIFSで動かしてるから

パイロットの考え通りに動いてくれる。それとは違うのか?」

「アオイ君の言う通りよ。エステバリスはIFSを使う事で

自分の思い通りに動かせる、でもね・・・それは単に命令して実行するインターフェイスにIFSを使用しているだけ。

人とマシンの融合と言う事にはならないわ。

それに、曼珠沙華は別のシステムを使っているの。」

「どんなシステムを使ってるの?」

ユリカさんは、ブラックサレナの映像を見ながら言います。

ブラックサレナと曼珠沙華は、お互いにフィールドを展開しているため

遠距離からの攻撃をしないで、接近戦を仕掛けています。

「有機物を使ったバイオコンピュータ・・・その発展型ってとこかしら?

でもそれだけだと、オモイカネに代表されるコンピュータには敵わないでしょうね。

曼珠沙華のシステムは・・・人の意識を取り込むの・・・それも、闘争本能を積極的にね・・・」

「それって・・・どう言うこと?」

「つまり、あのシステムは人を戦いに引き込むの。

闘争本能を取り込んだシステムは”敵”に対して驚異的な反応速度を見せるわ。

もし、あの敵がアキト君に対して、強い闘争本能を抱いていたとしたら・・・」

「アキトさんは勝てない・・・」

私の声は少し震えていたのかもしれません・・・

ルビィが心配そうに私を見ています。

「でも、さっきテストパイロットが死んだって・・・どう言うこと?」

メグミさんがエリナさんに尋ねます。

「・・・闘争本能の塊になった人が、マシンを降りてもその呪縛から開放される事は無かったわ・・・

普段の生活の中でも続いた闘争心は、やがてその理性を蝕み・・・ついには発狂して死んだわ・・・」

ブリッジがシーンとなります。

その時、不意にアキトさんとの通信が回復しました。

『くっくっくっくっくっ・・・どうした、テンカワ=アキト・・・もっと俺を楽しませてくれよ。』

『確かに、一筋縄では行かなくなったようだな、スメラギ・・・』

まさか・・・アキトさんの戦っている相手って・・・スメラギ=トオル・・・

ユウタの両親を殺し、アヤさんを半殺しの目にあわせた・・・

確かに、スメラギは闘争本能と言うより、破壊衝動の塊でしょうけど・・・

『貴様と俺は同じだ。どうだ、闘っていて楽しいだろう?』

『確かにな。だがお互い選んだ道が違っていた。それだけだ。』

再び、アキトさんのブラックサレナとスメラギの乗る曼珠沙華が激突します。

曼珠沙華が繰り出す拳を、アキトさんが辛うじて受け流している・・・そんな感じです。

『どうした、そんな事で俺を倒せるとでも言うのか?

このシステムは素晴らしい!お前の考えが手に取るように判るぞ・・・』

スメラギは恍惚とした表情で言います。通信越しとは言え背筋がぞっとします。

『それにな、所詮この世は弱肉強食・・・弱いものが死に、強いものが生き残る・・・

俺と一緒にクリムゾンに付かないか?二人で面白おかしく過ごそうぜ。

あんな弱い奴らとつるんでいたんじゃ、つまらないだろう?』

『違う!俺はそうは思わない!必死になって生きている人は何よりも強い!』

『ほう、貴様もあの下らん連中のように、正義を振りかざすつもりか?

正義といっても実際は利権しか目に映っていない奴らのように。』

草壁達の事を言っているんでしょうね・・・

『残念だったな・・・俺の中の正義は、大切なものを護るために存在するんだ。』

ブラックサレナは反撃に転じますが、繰り出した拳は全て避けられています。

『詭弁だな・・・闘う為に護るといっても良いんだぜ?

貴様の生きる場所は戦場でしかない。その事は貴様が一番知っているはずだ!』

『あいにくと、俺の戦場は日常生活でね・・・こんな血生臭い所じゃぁ無い。』

リョーコさんは動けないようです・・・レベルが、違いすぎます。

お互いが繰り出す拳を、辛うじて見る事ができる程度です・・・

それでも、アキトさんが押されています・・・このままじゃ・・・

『ならば貴様の言う、日常生活を壊すとするか。』

『・・・どうするつもりだ?』

『決まっている。あの、ナデシコとか言う戦艦を沈めるのさ。

もちろん、ルリさんを捕らえてね。ああ、逃げられないように手足の骨を砕いておきましょう。

他の人たちは、じっくりとなぶり殺しにしてあげますよ。

そうですね、あの美しい艦長の肌をナイフで切り刻みましょうか。全身を緋色の血で染め上げるのも良いですね。

そうだ、私の邪魔をしてくれた生意気な小僧と、娘二人には肺に穴でもあけて見ましょうか?

どうやら、氣を使う武術のようだから呼吸を封じられて、無様に闘う様を見てみるのも良いかも知れませんね。

そう言えば、ナデシコには美人が多いとイツキから聞いていたな・・・

北辰たちに、嬲らせようか・・・散々嬲った挙句、その映像を全世界に放映・・・

きゃー、おこちゃまは見ないでね〜。』

『・・・ざけるな・・・』

アキトさん・・・

『そう言えば、もう一人金色の瞳を持つ少女が居ましたね。

あの子には、まだまだ利用価値が有りそうだ・・・ルリさんと一緒に捕らえておくとしますか。

まぁ、うちの研究員達は鬼畜ぞろいですからね・・・っと、私が言う台詞じゃ有りませんね。』

スメラギは楽しそうに言います。

『黙れ・・・外道が・・・』

『おや、怒りましたか?でも、遅いですよ。あの艦は、私によって蹂躙されるんですから。』

『貴様ぁぁぁぁぁ!』

アキトさん、完全に理性が飛んでるみたいです。

もしかして・・・私の脳裏にイヤな予感が走ります。

「ルビィ、ココはあなたに任せます。」

「ちょっ・・・ルリちゃん、何処にいくの!」

「ユリカさん、ゴメンなさい・・・アキトさんを止めにいきます!」

そう言うと私は、格納庫に向けて走り出しました。

私の横には、アキトさんの戦いの様子が常に映し出されています。

『許さん!それだけは許さんぞ!』

『そうだ、それが貴様の本性だ!怒りに身を任せ、そして無様に死んでいくんだ!』

ブラックサレナは、曼珠沙華に拳を繰り出します。

曼珠沙華は、その拳を今までと同じように受けようとしましたが・・・

『な、何だこのパワーは・・・今までと違う・・・それに、動きが読めん!』

『俺の・・・力の全てを解放してお前を・・・殺す!』

ブラックサレナから繰り出される拳が・・・蹴りが・・・曼珠沙華の装甲を打ち砕いていきます。

『どうした!曼珠沙華!動け!奴より早く動け!』

スメラギの絶叫に近い声が聞こえてきました。

私は、ナデシコの中を走ります。

アキトさんを・・・止めないと・・・

「セイヤさん、使えるエステバリスは有りますか?」

『ルリルリか、いや・・・リョーコの機体を除けば全機出撃が出来ない。

かろうじて無事な機体を何体か集めて修理しているが・・・』

「どうしてです?」

『補給物資が底をついた。さっきの攻撃の時に倉庫をやられてな・・・』

「動けるだけで良いんです。」

『私が行くわ。』

ミサキさん・・・

『アキト君のところに行くんでしょう?私のエステバリスはまだ動けるわ。あのバカのおかげでね。』

ミサキさんは、カズマさんのエステバリスを見ます。

カズマさんのエステバリスは、ボロボロの状態です。

『ミサキ!助けた恩も忘れて、あのバカとは何や!』

『あら、聞こえてた?』

『カズマ君、可愛い彼女にその言い方は失礼じゃないかい?』

アカツキさんがニヤニヤしながら言います。

『ちゃうちゃう。あんなん、可愛い無い!』

『ほほう・・・あえて、そっちを否定するのか・・・』

私は、ようやく格納庫に到着します。

「ミサキさん、お願いします。」

『ええ、行きましょう。』

まだ・・・間に合う・・・私は、ミサキさんのエステバリスに飛び乗りました。

 

 

 

 

モニター越しに見る曼珠沙華は、あちこちから火花を出し始めています。

時々、伝達系に異常を起こしているのか、関節がビクンとはね上がります。

それでもブラックサレナの攻撃は止まりません。

ミサキさんのエステバリスは本当に、辛うじて動くだけといった感じです。

セイヤさんが、残った機体の中で一番まともな状態だったサブロウタさんの機体を修理していますが・・・

間に合いそうに有りませんね・・・

「ルリちゃん、アキト君・・・どうしたの?」

ミサキさんが不安そうな顔で尋ねてきます。

「・・・アキトさんから聞いた事があります・・・闇に落ちた・・・神威の拳の使い手の話を・・・」

「闇・・・神威・・・」

「はい、そして闇に落ちた神威の拳の使い手は、ほとんどが発狂死しているそうです。」

「そ、そんな・・・」

「だからこそ・・・アキトさんを止めなくては・・・」

私達のエステバリスは、アキトさんの所に向かいます。

アキトさんのブラックサレナは、曼珠沙華に容赦なく攻撃を加えています。

リョーコさんのエステバリスが止めに入ります。

『アキト!止めろ!もう勝負はついている!』

リョーコさんが、なおも攻撃をしようとしているアキトさんの拳を止めますが、

簡単に振りほどかれます。そして・・・

『貴様も邪魔をするか!』

リョーコさんのエステバリスは、いとも簡単に吹き飛ばされました。

「リョーコ!」

『来るな!!アキトの奴・・・普通じゃねぇ!』

リョーコさん・・・無事のようです。でも、完全に行動不能のようです。

「サブロウタさん、リョーコさんの救助をお願いします。」

『了解!』

ナデシコから、サブロウタさんのエステバリスが飛び出してくるのを確認しました。

「アキトさん!」

「アキト君!」

私とミサキさんは、必死にアキトさんを呼びます。

『俺の敵・・・俺の前に立ちはだかるもの・・・』

背筋が・・・凍るような・・・声です・・・

ブラックサレナが、私達の前に立ちはだかります。

「アキトさん!目を覚ましてください!」

「ルリちゃん!危ない!」

次の瞬間、私たちを激しい振動が襲いました。

 

 

 

頭に軽い痛みを覚え、目が覚めました。

・・・くっ・・・少し、気絶していたようです・・・

はっ、ミサキさん!

私は慌ててミサキさんを見ます。ミサキさんは気絶しているようです。

エステバリスのモニターは・・・死んでいるようです・・・所々から、青白い火花が飛んでいます。

I私は覚悟を決め、ハッチを開けます。

ハッチを開けると同時に、私の目に飛び込んできたのは、

破壊された曼珠沙華に、容赦なく攻撃を続けているブラックサレナでした。

あれでは、中のスメラギも・・・

「アキトさん!もう止めてください!何のために今まで闘ってきたんですか!

アキトさんの敵はもうどこにも居ません!」

私は、アキトさんに呼びかけます。しかし・・・

『まだ、敵はいる・・・』

ブラックサレナは、私のほうを向きます。

「アキトさん!また、同じ苦しみを味わうんですか!」

『俺の・・・俺の敵は・・・』

「もう、アキトさんが戦う必要なんて無いんですよ!」

『俺は・・・俺は・・・うぉぉぉ!』

そして、ブラックサレナは・・・拳を繰り出してきました・・・

『ルリちゃん!』

『ルリルリ!』

『ルリ姉!』

皆の叫びが・・・聞こえます・・・

アキトさん・・・あなたが・・・闇に落ちるのを見るくらいなら・・・

私は、そっと目を閉じ・・・覚悟を決めます・・・

不思議です・・・こんなにも静かな気分になったのって・・・初めてじゃないでしょうか・・・

私の側を、激しい風が通り過ぎていきます・・・

しばらく・・・静寂が私を支配しますが・・・

『ルリルリ!しっかりして!』

え・・・ミナトさん?私の意識がはっきりしてきます。

「私・・・生きてる・・・」

ブラックサレナから繰り出された拳は、私の1m手前で止まっていました。

そして、その追加装甲が次々にパージされていき、中からアキトさんのエステバリスが出てきました。

「アキト・・・さん?」

『・・・はぁ・・・はぁ・・・すまない、ルリ・・・』

「アキトさん!戻って来れたんですね!」

『ああ・・・戻って・・・来れた・・・』

ハッチから、アキトさんが出てきます。バイザーは割れ、額から血が出ています。

私は、アキトさんのエステバリスが繰り出した拳の上を走っていき、アキトさんに飛びつきます。

「アキトさん!心配したんですよ!」

「・・・すまない・・・ありがとう・・・闇の中でルリの声が聞こえた・・・

ルリの姿が見えた・・・皆の姿も・・・」

「帰りましょう、ナデシコに・・・」

「ああ、そうだな。」

私は、アキトさんに飛びっきりの笑顔を向けました。

『感動の所を邪魔して悪いんだけど。』

「どわぁ!」

「イネスさん!」

イネスさんが通信を入れてきます。・・・お邪魔虫ですよ、イネスさん・・・

『お兄ちゃん、時間よ。』

『何々?お兄ちゃんがいるの?』

小さい子供が覗き込んできます。

「アイちゃん・・・」

アキトさんが懐かしそうに呟きます。しかし、アイちゃんの体がポウッと光り始めます。

「ボソンジャンプ!」

「アイちゃん!」

『お兄ちゃん!』

アイちゃんは、涙を浮かべながらアキトさんを呼びます。

「イネス!そっちにジャンプする!」

「アキトさん!急いでください!」

アキトさんの体から光が溢れ出します。

「ルリ!ジャンプするぞ!」

「はい!」

私達は光に包まれ・・・目を開くとそこには・・・イネスさんがいました。

「イネス・・・アイちゃんは・・・」

「今回も・・・間に合わなかったわね。」

イネスさんは、あの石板を私達に見せます。

「くそっ!俺のせいだ!俺が闇に落ちたりしなければ!」

アキトさんが地面に拳を突き立てます。

「アキトさん・・・」

「お兄ちゃん、大丈夫よ・・・私は・・・ここにこうして居るじゃないの。」

イネスさんが、優しくアキトさんに言います。

「そうですよ、こんな説明好きになっちゃったけど、アイちゃんはアイちゃんです。」

「ちょと、ルリちゃん?それ、どう言う意味かしら?」

「あんな素直な子が、何処をどうやって育ったら、こんな風になるのかとても疑問です。」

「ふふふふふふ・・・ルリちゃん・・・今日こそ決着をつけるときみたいね。」

イネスさんは、怪しげな注射器を取り出します。

「ええ、望むところです。」

私もイネスさんに対し、構えます。

「・・・ぷっ・・・ははっ・・・ははははっ・・・ありがとう、ルリ・・・イネス・・・

そうだな、過ぎた事を悔やんでもしょうがないな。

こうして、イネスはココに居る。・・・これ以上ないくらい元気な姿で・・・」

「もう、何言ってるのよ。」

イネスさんは頬に手を当て、照れています。

「イネスさん、そんなポーズしてるとオバサンっぽいですよ。」

「何ですって?」

「ははっ、まぁイネスもルリもいい加減にして・・・ナデシコに戻ろう。」

アキトさんは、私たちを見て楽しそうに言います。

でも、アキトさん・・・その笑顔、反則です。何も言い返せないじゃ有りませんか・・・

私達は、ボソンジャンプでナデシコへと戻りました。

 

 

 

 

「ルリちゃん・・・私を見捨てたのね・・・」

「そうだよな、俺達がどれだけ頑張ったか・・・」

「まぁ、二人とも・・・俺も見捨てられたんですから。」

「せや、ろくに動ける機体っちゅうたら二人だけやったから・・・」

ナデシコに戻った私たちを待っていたのは、ミサキさんとリョーコさんの抗議でした。

サブロウタさんとカズマさんが、二人をなだめています。

アキトさん以外のエステバリスは実質、使い物にならないくらい修理が必要と判断されました。

でも、先ほどの戦闘で使える部品が無くなっちゃいました。正規軍でもない私たちの最大の弱点です。

かろうじて、1機分の資材が確保できているだけなので、セイヤさん達によって必死の修理作業が続いています

『遺跡の積み込みが終了次第、ナデシコはボソンジャンプを行います。

各員、配置についてください。』

プルセルさんが館内に放送します。

「じゃぁ、アキトさん。私、行きますね。」

「ああ、サポートを頼むな。」

「はい。」

アキトさんは、私の頬に軽くキスをすると、エステバリスに乗り込みました。

「ルリ・・・てめぇ・・・地球に帰ったら容赦しないぜ。」

「そうよルリちゃん、地球に帰ったら全力でアキト君を奪いに行くからね。」

リョーコさんとミサキさんの宣言を、私は笑顔で答えます。

「私は逃げません。アキトさんと共に生きていくのが、私の夢ですから。」

私はそう言うとブリッジへと向かいました。ブリッジに到着すると、私はオペレーター席に座ります。

そして、オモイカネに最後の挨拶をします。

「オモイカネ、今までありがとう・・・」

『あの忘れ得ぬ日々・・・そのために今を生きている・・・』

「そうだね・・・ルビィ、あなたもその能力のほとんどを失う事になりますけど・・・」

『ルリ、私はいつでもあなたの味方です・・・そして、私たちが生きている証になります。』

『ルビィを宜しく・・・ルリ・・・』

「ありがとう、オモイカネ・・・サヨナラは言わないわ・・・元気でねって言うのも変かな?」

『そうだね、僕のデータはすでにエリナに渡しているから、次の僕とも仲良くしてね。』

「それはもう・・・その時は、あなたに演技なんてさせないから。」

『ありがとう・・・ルリ・・・』

オモイカネとの別れも、何度か経験しましたけれど・・・慣れる物じゃ有りませんね・・・

「ユリカさん、いつでもOKです。」

「そう・・・メグちゃん、艦内放送準備。」

ユリカさんは、優しく私に微笑みかけてくれました。

私と、オモイカネの関係を知っていたからこその微笑です。

いつか、ユリカさんのように微笑が似合う女性になりたいです。

「はい・・・どうぞ。」

「皆さん、艦長のミスマル=ユリカです。

これよりナデシコは、火星軌道の反対側にボソンジャンプをします。

ボソンジャンプ後、ナデシコは居住区以上を残して、外宇宙に遺跡ごと飛ばしちゃいます。

ナデシコと最後の別れですが、私は皆と過ごしたこの時間を忘れません・・・

これで、平和が訪れるかどうかは、これからの私たちの行動で決ってきますが

大丈夫、きっと平和な世界がやってくると信じています。だから、ありがとう・・・みんな・・・」

ユリカさんが短いですが、皆に感謝の言葉を言います。

私達は、自然とユリカさんに拍手をしていました。

「じゃぁ、イネスさん、アキト、準備は良い?」

『ああ、何時でも良いぞ。』

『戦艦一隻って疲れるのよね・・・でも、最後なら。』

私は、最後のオペレートをします。

「ボソン、フェルミオン変換順調・・・ナビゲーター、脳波・脈拍正常。

ディストーションフィールドのレベル、規定値をクリア。

生活ブロック、その他異常なし。光学障壁展開。IFSフィードバックレベル10まで上昇。

ボソンアウト座標固定。最終チェック異常なし・・・何時でもどうぞ、アキトさん!」

『『『ジャンプ』』』

3人の声が重なったと共に、私達はジャンプしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャンプアウトした空間は、予定通り火星軌道の反対側でした。

『まともに動けるエステバリスは、俺の機体だけだ。護衛は任せろ。』

アキトさんが言います。他の皆さんは、すでに慣れ親しんだ職場を離れ、

居住区やブリッジに移ってきています。木連の人たちも食堂に集まっています。

食堂では、ホウメイさんとホウメイガールズが料理を作っています。

ブリッジには、エステバリスのパイロットと木連から秋山さん、月臣さん、サブロウタさんが居ます。

「アキト、すまねぇな。」

『良いんだよ、リョーコちゃん。俺のした事が、こんな事で償われるんだったら、何度でもやるさ。』

「アキト君、もういいのよ。でも、どうしても謝りたいんだったら・・・そうね、地球についたらディナーでもおごって貰おうかな。」

『はは、ミサキさん・・・前向きに検討させてもらうよ。』

アキトさんは、軽く言います。アキトさん、浮気はダメですよ。

そう言えば、アキトさんのバイザーは新品と取り替えたようです。

もう必要無けど、やっぱり気分的なものだからってアキトさんが言ってました。

「まもなく、ナデシコのパージです。」

「総員、ショックに備えて下さい。」

「オモイカネ・・・サヨウナラ・・・」

『僕のこと・・・忘れないでね・・・』

「ええ、忘れるものですか・・・」

オモイカネとの最後の話も終え・・・ナデシコはパージされます。

遠くに行ってしまうナデシコ・・・2度目のサヨナラは少し切ないです・・・

後は、連合宇宙軍・・・ミスマル提督の迎えを待つばかりです。

私は、遠くに消えていくナデシコを見守っていました。

 

 

 

多分、まだ戦争は続くんだろうけど、とりあえずハッピーエンドって言って良いのかな?

白鳥さんやヤマダさんは結果的に助かったし・・・・

ミナトさんもこれで悲しまなくてすみます。

そう言えば、さっきミナトさんから地球に到着したら一緒に暮らさないって

言ってましたけど・・・私は、アキトさんと一緒に行きたいから無理でしょうか?

でも、しばらくユキナさんやミナトさん達と一緒に暮らすって言うのもアリですかね?

あの石板・・・今回も、もらっちゃいましたね・・・

イネスさんも、前回もらった石板となんか違うって言ってます。

ホントに、これで良かったのかな?

まぁ、イネスさんの目が好奇心で満たされてましたから、良しとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠ざかるナデシコを見送って、20分後・・・

『未確認機動兵器接近中・・・識別信号・・・ありません。』

ルビィの報告で、私たちに緊張が走ります。

「アキト!お願い!」

『任せろ。』

アキトさんの機体は、機動兵器に向かいます。

『アキト!重力波ビームはもう使えないから、内蔵のバッテリー分しか動けないぞ!』

『わかっています。こいつらは、たいした事は無い・・・』

私達は、ようやくモニターで敵の姿を確認する事が出来ます。

あれ?アキトさんが戦っている相手って・・・

「連合宇宙軍?でも・・・」

「クーデター派の生き残りだろう?ミスマル提督には先程、アルギュロスを経由して連絡した。

こっちに向かっているそうだから・・・こいつらは、偶然居合わせた残党だろう。」

アカツキさんは軽く言います。でも、こんな偶然って有るんでしょうか?

「まぁ、アキトの奴があの程度の敵にやられる事は無いしな。」

「そうよね、アキト君だったら敵の母艦ごとやっつけるでしょうね。」

ポロン・・・

リョーコさん、ヒカルさんに続いて、イズミさんのウクレレが鳴ります。

みんな軽い気持ちでアキトさんの戦いを見守っています。

程なく、敵は全滅しました。まぁ、実力が違いすぎます。

みんな、緊張が解けたのか笑顔です。

『こちら、テンカワ機。敵母艦を含めて機動兵器の全てを撃破。

ただし、こちらもバッテリー切れだ。誰か迎えに来てくれ。』

『ブリッジ、聞こえるか?もう一機エステバリスの準備が出来てる。

誰かパイロットを寄越してくれ。』

セイヤさんが通信を入れてきます。

「俺が行くぜ!心の友と書いて心友のピンチを救う・・・

くぅ〜!燃えるシチュエーションだぜ!

ヤマダさんが勝手に盛り上がっちゃってます。

「不安だなぁ・・・」

「まぁまぁ、アカツキ君もその心配性を治さないと・・・髪の毛薄くなっちゃうよ?」

「それはそれで見てみたいわね。」

「俺は見たくねぇけどな。」

「な、そんな事無いだろう?」

「でもぉ、結構髪痛んでるよ?」

「ゲッ・・・マジ?」

リョーコさん達は、アカツキさんをからかって遊んでいます。

ナデシコからは、ヤマダさんのエステバリスが飛び立っていきます。

ナデシコに現在残っている最後のエステバリスです。

・・・まぁ、セイヤさん達が組上げた、寄せ集めとも言いますね。

私は、アキトさんのエステバリスを映し出したウィンドウを見ています。

『ルリ、ようやく・・・終わったな・・・』

「はい、アキトさん・・・」

私・・・泣いているんでしょうね・・・

『ルリ、俺は・・・』

『感傷に浸っているところ、悪いけれど・・・死んでもらうわ。』

え・・・その声は・・・

私たちが戸惑うまもなく・・・

一条の光がアキトさんのエステバリスを貫き・・・

アキトさんのエステバリスが爆発を起こします。

「アキト!」

「テンカワ!」

「アキトさん!」

「テンカワ君!」

皆がアキトさんを呼びますが、応答がありません・・・そんな・・・

『イツキ!てめぇ!』

『トオルさんは、こいつに殺されたのよ!無残に・・・』

『どうしてその事を知っているんだ!』

『火星の・・・トオルさんから通信があったのよ・・・

火星の反対側にナデシコが現れるから、叩いてくれって・・・』

「まさか、盗聴されてたの?でも、あの状態で生きてるなんて・・・」

プルセルさんの声も、私には上の空です・・・

アキトさん・・・アキトさん・・・アキトさん・・・・・・アキト・・・

『だからといって、何でアキトをやった!もう動けなかっただろう!』

『その男は、動けなくなったトオルさんに、何度も攻撃を仕掛けたそうじゃないの!

だから、私もその男が動けなくなったところを狙ったのよ!

みんな私と同じ苦しみを、存分に味わうと良いわ!・・・あははははははは・・・』

『てめぇ!』

ヤマダさんの攻撃が、イツキさんのエステバリスを直撃します。

『・・・トオルさん・・・今、あなたのところへ・・・』

イツキさんの声が聞こえたと思うと、イツキさんのエステバリスは爆発を起こしました。

『何で・・・何で無抵抗のまま攻撃を受けたんだ!

ヤマダさんの絶叫が聞こえてきますが・・・

アキトさん・・・何処です?アキトさん・・・

私は、必死になってアキトさんの姿を探します。

私の周りには、漆黒の宇宙空間に浮かぶアキトさんが乗っていた、エステバリスの残骸が映し出されています。

「ルビィ、あなたも手伝ってください!きっと、どこかにジャンプしているはずです!」

『ボソン反応・・・付近になし・・・ルリ・・・アキトは・・・』

「そんなはずありません!アキトさんが死ぬなんて事無いんです!」

ウィンドウは更に増えます。

「ルリちゃん・・・」

ユリカさんの顔も真っ青です。

 

 

 

 

 

 

 

やがて、私は・・・血の色に染まった・・・マフラーを見つけます・・・

 

 

 

 

 

アレハ・・・

 

 

 

ワタシガ・・・

 

 

 

アキトサンニ・・・

 

 

 

 

プレゼントシタ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の中の、何かが音を立てて・・・壊れました・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

「ルリちゃん!」

「ルリルリ!」

「ルリ!」

・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

私の意識は・・・

 

 

永遠の闇に・・・

 

 

閉ざされました・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


作者:と言う訳で・・・冒頭で最終回と言って置きながら次回に続きます。

 

 

 

 

代理人の感想

マテ(爆)。

 

・・・・・・・に、しても次回で終わるんだろうか?