男達が深刻な表情をして顔を突き合わせている。

「これで、我々は後戻りできなくなったな。」

一人の男は、汗を拭きながら言う。

いかにも、小心者そうな風貌で、キョロキョロと周囲を見ている。

「いまさら何を言う。すべては新たなる秩序のためだ。」

もう一人の男が、その男を叱咤する。

短髪に筋肉質の体、日焼けした肌に白い歯と、

まるでアクションヒーローのような肉体をしている。

「そうだ、我々の活路は最早これ以外ないではないか!」

今一人の男が言う。男は木連の制服を着ていた。

無論、この男にも不安はあった。本当にこれでよかったのだろうか?

自分達が信じる道は、本当にコレだったのだろうか?

そう言った自責の念に捕らわれながらも、計画を実行した。

すでに矢は放たれたのだ。後は目的達成のために突き進むのみ・・・

そして、男達は自分達が行動を起こした結果を誰とも無く見る。

かなり広いベッドに、一人の男が眠っていた。

彼は、英雄と呼ぶにふさわしい人物である。

「すべてはコロニーのために・・・」

男達はそう言うと、その部屋を後にした・・・

すべての迷いを断ち切れないまま・・・

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 第2部 

〜第2話〜 真実と言う名の『残酷』

 

 

 

 

 

宇宙空間に白を基調とした艦船が浮かんでいる。

連合宇宙軍が保有する最強の戦艦。

実験戦艦でありながら、その戦力は宇宙軍の主力艦と言っても過言ではない。

そのブリッジでは・・・

サ〜ブちゃ〜ん、最近ご無沙汰じゃないの。』

留守番映像サービスに映っている、大勢の女性が口々にメッセージを言う。

連合宇宙軍大尉の高杉 三朗太は笑いながらその映像を見ていた。

『こらっ!サブ!今度はいつ会ってくれんのよ!』

今度は制服姿の女性が、サブロウタが会ってくれない事に文句を言っている・・・

かつて、熱血の申し子とまで言われ、硬派の代表とまで言われた彼だったが・・・

見事に軟派な性格になっていた。やがて、留守番映像サービスが終了すると

オペレーター席から声がかかる。

「もてるわね、高杉大尉。」

「あ、少佐・・・聞いてました?」

「嫌でも聞こえるでしょう?」

少佐と呼ばれた女性は、ショートボブの髪で鋭い瞳、

引き締まった体にカーキー色の軍服を来ている。

見る人が見ると、彼女が着ている軍服は、連合陸軍で採用されている制服であるとわかる。

彼女の名前はエレ=メインティス、マーベリック社から宇宙軍に出向して来た女性だ。

連合陸軍に所属していた事があり、制服もその時のものを着用している。

エレはナデシコB出港間際に乗ってきた為、宇宙軍の軍服が間に合わなかったのだ。

いや、正確には身長がユリカと同じくらいだった為、ユリカの予備を着せようと試着したのだが・・・

「・・・胸周りはピッタリですが、ウエストがチョッとダブつきますね・・・」

その一言で、ユリカは傷心の旅に出ると言い出す大騒ぎになり、

結局軍服は、新しいものが支給されるまでは

今のままで良いと言う事になったのだ。

「大丈夫ですよ、エレさん。高杉大尉にはリョーコちゃんって言う

立派な恋人が居るんですから。」

艦長席に座って、少女漫画雑誌『うるるん』を読んでいた

艦長のミスマル=ユリカが振り向きながら言う。

「そう・・・でも大尉、いい加減にしないと逃げられるわよ。」

「イヤ・・・こっちが逃げたい時もあるんスけど・・・」

サブロウタは冷や汗をかきながら言う。

「あら、それはどういう事?」

エレは、サブロウタに尋ねる。

「・・・艦長と大尉の料理・・・どちらを食べるかが究極の選択になりますから・・・」

サブロウタがそう言うと、ユリカは鬼の形相でサブロウタをギロリとにらむ。

絶対零度の視線を浴びて、サブロウタは小さくなる。

その時、ブリッジクルーの一人が通信を入れる。

『艦長、前方にターミナルコロニー”サギリ”を確認しました。』

ナデシコBはターミナルコロニーの一つ、”サギリ”に進路をとっている。

チューリップがゆっくりと開きはじめる。

「ボソンジャンプ準備開始!」

ユリカの一言で、艦内は活気を取り戻す。

「ルート算出、”サギリ”、”サヨリ”、”タヨツ”を通って”アマテラス”へ。」

「艦内生活ブロック異常無し、光学障壁展開完了。」

「ディストーションフィールド出力最大。」

オモイカネのウィンドウが次々と表示されていく。

「その他まとめてオール・オッケー!」

オモイカネが異常なしのウィンドウを出すと同時に、サブロウタが報告する。

やがて、ナデシコBがチューリップに突入すると

ユリカのナノマシンが活性化し、美しく光り出す。

「ジャンプ。」

次の瞬間、ナデシコBはジャンプした。

本来であれば、A級ジャンパーであるミスマル=ユリカがいるのだから

ターミナルコロニーを経由しなくてもジャンプできる。

しかし、単独での・・・しかも戦艦クラスをボソンジャンプさせると

ジャンパーにかなりの負荷がかかるため、ターミナルコロニー経由でジャンプしている。

それに、ボソンジャンプ研究の第一人者であるイネス=フレサンジュが行方不明であり

ジャンパー・・・特に、A級と称されている、ある一時期に火星で生まれた人達が

ジャンプした時の影響については、まだ未解明な部分も多いので

ユリカも緊急時以外はジャンプしないようにしている。

そのため、ターミナルコロニー経由でのジャンプを行なっているのである。

ユリカがジャンプを宣言した次の瞬間・・・ナデシコは、無事ターミナルコロニー”アマテラス”に到着した。

『ようこそ、アマテラスへ。』

3Dのオペレーターがウィンドウに現れる。

「こちらは、連合宇宙軍第13独立機動艦隊所属、実験戦艦ナデシコB

アマテラスへの寄航を許可してください。」

『貴艦の認識コードを確認します―――確認しました。第5ゲートに進入してください。』

「了解。案内よろしくお願いします。」

ユリカとアマテラスのやり取りを見ていたサブロウタが、ため息をつきながら

「これからが大変だ〜ねぇ〜。」

「ふふ、何が出るかはお楽しみね。」

「そうそう、エレさんの言う通りですよ。サブロウタさん。」

ニコニコと後ろを振り向きながら、サブロウタとエレに言う。

「じゃぁ、行きましょうか?」

「「了解。」」

ユリカの後をサブロウタとエレが付いて行く。

かくして、ユリカ達はアマテラスへと降り立ったのであった。

 

 

 

 

 

バン!!

激しく机を叩く音が聞こえたかと思うと同時に、怒鳴り声が部屋の中に響き渡る。

「何だ!貴様らは!!」

コメカミに血管を浮き上がらせながら、スキンヘッドの男性が言う。

「連合宇宙軍大佐、ミスマル=ユリカで〜す!」

「同じく、タカスギ=サブロウタ大尉。」

「ナデシコBへ出向しております、連合陸軍少佐エレ=メインティスです。」

ブイサインを作りながらユリカが言うと、その後に

シレッとした表情でサブロウタとエレが続く。

「そんな事を聞いているんじゃ無い!」

先ほど机を叩いた男は、統合軍の制服を着ており、階級章は准将を示している。

「シラヒメ襲撃の時、ボソン反応が確認されました。

ボソンジャンプの全てを管理しているアマテラスのシステムに、

異常が無かったか調べさせていただきます。

あ、これはコロニー管理法にある緊急査察ですので。」

「ま、ガス漏れ検査だと思ってください。」

サブロウタがユリカの後にちゃちゃを入れる。

「ヒサゴプランに欠陥など無い!!」

「ソレを調べるために来たんじゃん・・・」

「なんだとぉ!」

サブロウタが頭の後ろで手を組み言う。

その態度に、准将の怒りは頂点に達しようとしていた。

「まぁまぁ、准将・・・宇宙の平和を守るのが、我らが連合宇宙軍の使命・・・

ここは、正義に燃える女神様に協力して、安心していただきましょう。」

やや派手な背広を着た男性が、アズマ准将を諌めながら言う。

「ヤマサキ君・・・」

ヤマサキと呼ばれた男は、アズマ准将に耳打ちをする。

最初は怒り心頭で聞いていた准将も、そのうち表情が緩みだし、

ユリカ達に、臨検査察を許可すると伝えた。

「それでは、ご協力感謝します。」

ユリカは、ヤマサキの絡みつくような視線を感じながら敬礼をする。

「では、案内の者をよこしますので、暫くお待ちください。」

ヤマサキはそう言うと、何処かに連絡を取る。

程なく、一人の女性がユリカ達を迎えにきた。

 

 

 

 

「皆さんこんにちわ〜」

「「「「こんにちわ〜」」」」

ユリカ達を迎えにきた女性が挨拶をする。

赤い髪に、赤いミニスカート、赤い服と

見事に赤で統一された服を着ている。

そして、その女性の挨拶に答えたのは、子供達であった。

「未来の移動手段、ボソンジャンプの中継拠点、ヒサゴプランの中心地

ターミナルコロニー『アマテラス』の見学コースへようこそ!

案内は私、真由美お姉さんと・・・」

「僕、ヒサゴンで案内しま〜す!」

黄色いマスコットキャラの着ぐるみが自己紹介をする。

「そして、今日はあの!」

「そう、あの!」

「常勝を誇る天才美人艦長、連合宇宙軍のミスマル=ユリカ大佐です!」

「みなさ〜ん、私がナデシコB艦長のミスマル=ユリカで〜す。ぶい!」

真由美とヒサゴンに紹介されて、ブイサインをつくりながらユリカは言う。

周りの子供達は一緒になってブイサインを作っている。

ユリカの肩には『臨検中』と書かれたタスキが掛かっている。

その様子は司令室に転送され、モニターでアズマ准将とヤマサキは面白そうに見ている。

「がっはっはっは。子供と一緒に臨検査察とは愉快愉快。」

せんべいをかじりながらアズマ准将は言う。

「しかし、あの大佐さんにも悪い事をしましたなぁ。」

「なんだ?あの女は・・・」

不機嫌な顔をしてアズマ准将は言う。

「宇宙軍の嫌がらせですよ。

最近の事件で宇宙軍にも、メンツってもんがあるでしょうから。」

ヤマサキはお茶を飲みながら言う。

「宇宙軍にメンツなど無い!大体、なんだあの連中は!」

「子供の使いと思えば良いんですよ。」

「使いは、とっとと帰すに限る!」

アズマ准将は、お茶請けに出してあるせんべいを鷲掴みにして言った。

 

 

 

 

アマテラスの廊下を歩きながら、エレは不意にサブロウタに小声で話し掛ける。

サブロウタ達は、艦長命令でナデシコ待機が命じられていた。

「大尉、先に行っててくれ。」

「え?」

きょとんとした顔で、サブロウタはエレを見る。

エレは、サブロウタの襟首を捕まえて、自分の方へ引き寄せる。

「ナデシコの発進準備を済ませておいてくれ。第2戦闘配備だ。」

「・・・少佐は?」

小声でサブロウタは尋ねる。

「せっかく艦長が作ってくれた時間だ。

まさか、奴らも大人数がいる目の前で、艦長に危害を加える事はあるまい。

だからこの時間、無駄にしない訳にはいかないだろう?」

エレの言葉でハッとなるサブロウタ。エレはアマテラスを調べるつもりらしい。

そう感じ取ったサブロウタは小さく

「・・・お気をつけて・・・」

と、声を掛けるとエレから離れ、

「あれ?少佐、トイレですか?」

きわめて明るく大きな声でおどけてみせる。

「・・・ああ。すまないが先に行っていてくれ。」

「ひょっとして、大きいほうですか?ごゆっくりどうぞ〜」

「バカ!」

鼻歌交じりに廊下を歩いていくサブロウタを見送り

エレはトイレの中に入っていった。

トイレの中に入り、エレは付近に監視カメラが無い事を確認するといきなり消えた

「光学迷彩・・・作動良好。」

エレの全身は、光学迷彩で姿を完全に周囲と同化させている。

かすかに、空気の揺らぎが人みたいな形をしているが、

よほど注意して見ないと認識できないほどである。

「まったく・・・なんて事を言うんだ、アイツは・・・後で仕返ししてやる・・・

さて・・・蛇が出るか、鬼が出るか・・・」

エレはトイレから出て、再び歩き出した。

堂々とアマテラスのコントロールルームに向けて・・・

 

 

 

見学コースを一回りしたユリカは、アマテラスのコントロールルームに入っていた。

実際にはコントロールルームが見える場所・・・ではあるのだが。

案内をしている真由美お姉さんが、難しい話をしている。

「・・・以上、相対性理論やら難しい話をしましたけど、解ったかな?」

「「「「わかんな〜い!」」」」

無邪気に子供達が言う。

「つまり、チューリップを使うと、遠い宇宙からこちらまで一気に到達する事ができるんですよ。」

ヒサゴンが、チューリップの模型で戦艦を右から左へと移すと

ポンと言う音と共に白い煙が上がり、煙の中から白い鳩が飛び立っていった。

凄いという声を聞きながら、真由美お姉さんは言葉を続ける。

「ただし・・・ですね、ボソンジャンプをするには、生身の体では耐えられないんですよ。」

「「「「えぇ〜〜〜っ」」」」

子供達が一斉に声をあげる。

真由美お姉さんとヒサゴンは目を合わせる。そして、申し訳なさそうに言う。

「普通の人がボソンジャンプをしようとしたら・・・その・・・体をですね・・・」

「改造しちゃうの?」

子供の一人が言う。

「ソコまで露骨なものじゃなくてですね、遺伝子を少しですね・・・」

真由美お姉さんは、あわてて取り繕おうとする。

「そう言えば聞いたことがある。非人道的だって。」

子供達がヒソヒソと話し始める中、ユリカが声を出す。

「私の事なら気にしなくて良いですよ。」

その声に真由美お姉さんは、ほっとした表情になる。

公式記録上、ユリカは地球で生まれ火星で育っただけであるため、

遺伝子改造を受けた宇宙軍最初のB級ジャンパーと言う事になっている。

A級ジャンパーの誘拐を防ぐためネルガルと宇宙軍が・・・と言うより

ミスマル=コウイチロウが手を回した結果でもある。

「現段階でボソンジャンプを行なおうとすれば、遺伝子を操作してジャンプに耐えれる体にするか、

ある一時期に火星で生まれた人でないとジャンプできないんですよ。

もっとも、単独のボソンジャンプは未解明な部分が多くて、まだまだ研究段階なんですよ。」

「じゃ、大佐改造人間?」

「バカ!」

ユリカに聞いてきた少年が、となりの少女に頭を小突かれる。

「う〜ん、確かに改造人間かなぁ?でもね、普通の人もジャンプできるんだよ。

高出力のディストーションフィールドを持つ戦艦に乗ってればね。」

ユリカはウィンクしながら子供達に言った。

 

 

 

 

 

同時刻、同じコントロールルームではあるが、ユリカから少し離れた場所でエレは

アマテラスのメインコンピューターに、ハッキングを仕掛けていた。

首筋にアダプターらしきものを装着し、そのアダプターからはインターフェイスケーブルが

アマテラスのコンピューターにつながれている。

これは・・・アマテラスの非公式ブロック・・・でも、このブラックボックスって何かしら?

エレは脳の中に入ってくる情報を次々と見ていく。

光学迷彩中なので、アマテラスの職員には見つからず堂々としている。

―これは・・・クリムゾングループのジャンプ実験結果・・・全て非公式ね・・・

ジャンプ実験に関しては、各企業が地球連合議会に申請し、

実験内容や結果を公表する事が、地球連合憲章に記載されている。

しかも、その実験に関しては、地球連合査察団の人間が立会いを行う事となっているため、

いつ、どこでジャンプが行なわれているか判る仕組みとなっている。

しかし、これだけでも重大な法律違反となるのだが、クリムゾングループ全体を告発するには

今ひとつ何かが足りない。エレは情報を次々とナデシコBに送信しながら考える。

―やはり、この非公式ブロックを調べるしかないか・・・だが、どうやって潜入しよう・・・

艦長が作ってくれた時間も限界に近い・・・

そう考えた時だった・・・突然、コロニー全体に警報が発報したのだ。

―まずい!気付かれたか?

とっさにエレは防壁を展開し、インターフェイスケーブルを引き抜き

アマテラスからのハッキングをブロックする。

あたりを見ると、無数のウィンドウが展開されている。

その中には、文字が所狭しと表示されている・・・

その文字は・・・『OTIKA』・・・

―なんだ?これは・・・

突然の出来事に、エレは狼狽する。いや、慌てているのは

アマテラスの職員も同様だ。エレは混乱に乗じて光学迷彩を解く。

そして、近くにいたアマテラスの職員をつかまえて、状況を尋ねる。

「おい、どうなっているんだ!」

「わからん!突然システムが暴走して・・・」

パニックを起こしている職員は、エレを見ても部外者とは気が付かなかった。

「システムの暴走・・・」

エレは、非公式ブロックの存在を思い至る。

―アマテラス・・・やはり何かあるようね・・・とりあえず艦長と合流しようか。

エレはコミュニケを操作し、ユリカを呼び出す。

「艦長、今どちらです?」

『エレさんの上だよ。』

エレはふと上を見ると、見学コース用の展望ルームで、ユリカがこちらに向かって手を振っている。

『エレさん、何したんですか?』

「いえ、私ではありません。どうやら、アマテラスのシステムが暴走したそうです。」

『システムの暴走?』

「ええ、まるでアマテラスのコンピューターと

もう一つのシステムが喧嘩をしてるみたいな感じを受けます。」

『コンピューター同士の喧嘩・・・』

ユリカは、そこまで考え至ると黙り込む。

エレは、周りの職員達に奇妙な違和感を覚え始めた。

お互いに目配せをして、ユリカの方を時々見ている。

エレの中で、何かが”ささやいた”。

「今から、そちらに向かいます。」

エレに与えられた任務である、ユリカの護衛を果たす為エレはそう言う。

『うん、ナデシコに戻らないとね。・・・敵が来るから。』

ユリカは厳しい表情で言う。その表情で、エレはユリカも

この非常事態を重視している事と察した。

エレは、キッと上を睨むと一気に跳び上がる。その距離およそ15m・・・

途中、半分くらいの所にある照明を経由したとはいえ、

8m弱の距離を”垂直に”跳んだのだ・・・

そのあまりに非常識的な行動に、アマテラスの職員達も

ユリカの隣にいた子供達も言葉が出ない。

やがて、エレが展望ルームに着地するとユリカが声をかける。

「ほえ〜〜〜、エレさん凄いねぇ。」

「ま、情報戦と荒事は私の得意とするところですから。」

エレはそう言うと、ユリカの護衛としてユリカに張り付く。

「エレさん、何か解りましたか?」

「ええ、色々と。」

「とりあえず、ナデシコに帰りましょう。敵が来ますから・・・」

そう言うとユリカは駆け出した。エレもその後に続く。

後には呆然とする子供達とアマテラス職員、

そして無数のウィンドウが展開されているだけだった。

 

 

 

 

「何がどうなっているんだ!状況を説明しろ!」

アズマ准将は非常電話を使い、アマテラスの職員に怒鳴りつける。

『それが、我々にも何が起こっているのか・・・うわぁ!』

アマテラスの職員は、突然受話器から出てきた『OTIKA』のウィンドウに驚く。

後ろではスタッフが原因究明のために、調査をしているが

一向に原因が掴めない事で、アズマ准将の苛立ちは頂点に達していた。

「ともかく!原因を追求しろ!大至急だ!」

その後ろをニコニコしながら・・・しかも、お茶請けの中に残された

大量のせんべいを抱えて、ゆっくりと司令官室を出て行くヤマサキだった。

 

 

 

 

 

宇宙空間に突然、光が収束する・・・

それは、星の光ではなく、ボソンジャンプをしたときに発生するボース粒子の光だ。

ボース粒子の光が収まると同時に、一体の機動兵器がジャンプアウトした。

紅い機動兵器・・・ジュンが目撃した謎の機動兵器である。

そして、その機動兵器は解き放たれた矢のごとくアマテラスに突撃していった。

当然、アマテラスからは迎撃ミサイルが飛んでくるが、そのほとんどを避け

あるいはディストーションフィールドで防いでいた。

「第5中隊、後退しろ!味方が砲撃できない!」

「敵、機動兵器・・・ダメです!捕まえきれません!」

「全部体の展開急げ!戦術シュミレーションC−4だ!」

「何て機動性だ・・・」

「弾幕薄いぞ!何やってんの!」

アマテラスの戦闘指揮所は大混乱に陥っていた。

突然のシステム暴走に加え、謎の機動兵器が出現・・・

これで混乱するな、と言うほうが無理である。

「くっ・・・こんな状態では・・・」

戦闘指揮所の先任士官であるシンジョウ中佐は、あせりの色を隠せずにいた。

『飛ぶハエも、止まれば撃ち易し!』

突然、アズマ准将の顔がメインスクリーンに映し出される。

「何を言ってるんですか、准将・・・」

呆然と、シンジョウ中佐は言う。

「コロニー近辺での発砲を許可する。」

シンジョウの後ろから突然声が聞こえ、シンジョウは慌てて後ろを振り向く。

「しかし、准将!それではコロニーに被害が・・・」

『よっしゃぁ!!』

文句を言おうとしたシンジョウに変わり、突然大きな顔がメインスクリーンに現れる。

アマテラス所属、ライオンズシックル隊長のスバル=リョーコである。

彼女は、大戦後に統合軍より引き抜かれ、隊長職についていた。

「行くぜ!野郎ども!」

『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』

リョーコがそう掛け声を掛けると、ライオンズシックルの面々がウィンドウに現れ、

威勢良く応答する。

―へっ・・・死ぬなよ・・・

リョーコは一人一人の顔を思い浮かべながらそういうと

光学迷彩を施したエステバリス用のマントを一気に脱ぎ去る。

そこには、ウリバタケ印のエステバリスカスタムが姿を現し、

紅い機動兵器に向かっていった。

その、紅い機動兵器のコックピットでは、リョーコのエステバリスを確認すると

激しい警告音が鳴り響いていた。リョーコ達の射程距離ギリギリにいた

紅い機動兵器は突然スラスターを全開にし、進路を逆方向へ向けた。

「逃がすものか!!」

リョーコ達は追撃を開始したのであった。

 

 

 

 

 

アマテラスの廊下を、見学コースでユリカ達を乗せた車が疾走している。

「どいた、どいた〜!」

真由美お姉さんが、見事なコーナリングでコーナーを曲がる。

「ありがとうございます。」

ユリカが真由美お姉さんに礼を言う。

「礼ならいらんよ、こんならを避難させるんが、ウチの勤めじゃけん。」

後ろに乗った子供達を見て、いきなり広島弁で喋りだす真由美お姉さん・・・

「この人、車に乗ると広島弁になるんです。」

ヒサゴンがユリカに耳打ちする。

広島の人だったの?とユリカが問いかけようとした時だった。

「艦長、副長と通信が繋がりました。」

エレはナデシコBの副長・・・階級はあくまでもエレが上であるが

連合陸軍からの出向と言う形を取っているため、サブロウタが副長の任にある。

『艦長、ご無事で。』

サブロウタはブルーのパイロットスーツに着替え、すでにエステバリスへと乗り込んでいる。

「ナデシコBは、その場で避難民の救助に当たってください。」

『避難民の受入はすでに始めていますが・・・加勢しないんですか?

いつでも第1戦闘配備に移行することが可能ですけど。』

エレはサブロウタの能力を高く評価した。

自分は第2戦闘配備で待機しろと命じていたが

状況を判断し、的確な処置を施すあたりは、元木連優人部隊の名に恥じないものがあった。

「ナデシコは第1戦闘配備のままその場で待機、避難民および負傷者の救出に当たってください。

アマテラスは統合軍の管轄ですし、向こうもお断りらしいですから。」

ユリカがそう言うと同時に、准将のでっかい顔がウィンドウ一杯に現れる。

『その通り!今や統合軍は陸、海、空そして宇宙の脅威を打ち倒す無敵の軍だ!』

「シラヒメで大敗したはずでは?」

エレがすかさず言う。

「そうじゃったのう・・・あんなボロ負けしちょって、よう無敵じゃ言えるわ」

真由美お姉さんも、うなずきながら言う。

『う・・・と、ともかく・・・お前らの出番など無いわ!』

そう言うと、准将は一方的に通信を切った。

「こたえん奴じゃのう・・・」

「そうですねぇ・・・」

真由美お姉さんとユリカは呆れた表情で言う。

「艦長、第5ゲート・・・ナデシコです。」

「皆さん!私達が皆さんを安全なところに連れて行きます。

中では、色々と見ちゃいけない物もあるんで、勝手に出歩かないで下さいね。」

「「「「は〜い!!」」」」

子供達の元気な声と共にユリカ達は、ナデシコBの格納庫に入る。

すると、すでに避難して来た民間人の姿が数多く確認される。

「艦長、急いでください。」

子供達と握手していたユリカはエレに言われ、子供達から離れる。

エレは、避難民たちの中に奇妙な集団を発見した。

それは全くの偶然であったが、ユリカをじっと見てお互いに目配せしていたのだ。

格納庫は避難民の受入で騒然としており、襲撃のタイミングとしては絶好のチャンスだった。

エレは、気付かれないように集団を見る。男6人の集団だ。

近くにナデシコの保安部員は居ない・・・そして、先程アマテラスのコントロールルームで感じた違和感・・・

エレの中で、何かが激しく警鐘を鳴らす。

ユリカが集団に近づいた時だった。男達は銃を抜き出した。

「掛かれ!」

ユリカに殺到する男達・・・その距離2m・・・決して仕損じる事ないように思えた。

男達が受けた命令が殺害であったら、あるいは成功していたかもしれない。

しかし、誘拐が主目的であったため、本人を銃で脅して誘拐する以外

道がなかった事が、結果的にユリカの安全を保障する事となる。

ドン!バキィ!ゲス!

ユリカに向かっていた、男達は立ち止まる。

一人は腹を抱えてうずくまり、一人は顎の骨を砕かれ失神し、一人は足が変な方向に曲がっていた。

男達が誘拐しようとしたユリカの前に立ったのはエレであった。

「き、貴様!邪魔するか!」

男の一人が言う。

「選ばせてやろう、このまま宇宙の藻屑と化すか

それとも、首謀者の名を売り渡す事で身の安全を図るか・・・」

エレは懐からゆっくりと銃を抜く。

「か、構う事ない!相手はたった二人だ!!」

その言葉で、残りの二人もユリカに銃を向ける。

「愚かな・・・」

エレはそう呟くと、光学迷彩でいきなり消えた。

「なっ!」

狼狽した男達に、一瞬で詰め寄ったエレは、男達の銃を手刀で叩き落とす。

そして、光学迷彩を解くと男達の前に銃を構えて立ちはだかった。

「子供達がいるから、あまり手荒な真似はしないけど

あなた達には、これから死よりもつらい拷問を受けてもらうわ・・・」

エレは、冷たくそう言い放つと保安部員を呼ぶ。

「こいつらを拘束しろ。取調べは後で私が行う。」

男達の一人が、キッとエレを見て、懐に手を入れる。そして・・・

「新たなる秩序の為に!」

「伏せろ!」

エレはとっさにユリカを庇いながら床に伏せる。

一瞬後に、爆発が起こりナデシコの格納庫は消火用のスプリンクラーが作動する。

「エレさん・・・」

「艦長、怪我はありませんか?」

心配そうにしていたユリカにエレは笑顔で言う。

エレは、無傷らしくユリカを助け起こす。

「うん、大丈夫だよ。それより早くブリッジに行かないと。

あなた達は引き続き避難民の受入と・・・けが人の救助を。

とくに、ボディチェックは厳重に行なってください。」

ユリカは、後の事を駆け寄ってきた保安部員に任せて、エレと二人でブリッジに急ぐ。

ブリッジのドアが開くと、オモイカネが出迎える。

「ナデシコBは避難民を受け入れた後、当空域を離脱。

それとエレさん・・・もう一度、アマテラスにハッキングを仕掛けてください。」

「え?」

ユリカが、振り向きながらエレに言うと、エレはキョトンとした表情になる。

今の状態では、システムの把握などできそうにないが

ユリカの自信満々な顔を見て、ゆっくりとうなずいた。

「キーワードは・・・『AKITO』です。」

そう言うと、ユリカは艦長席に座り、戦局全体を見渡していた。

 

 

 

 

ズカ〜ン!!

リョーコ達が参戦してからと言うもの、紅い機動兵器は明らかに劣勢だった。

統合軍は、自分達が優勢になっていると知ると、

リョーコ達に続き、紅い機動兵器を追っていた。そこへ・・・

虚空を引き裂く光が、自分達の後方から襲い掛かった・・・

グラビティブラスト・・・その光により小型艦や機動兵器は一気に爆発していく。

その発射源からは、白い船体が姿を現し始めた。

そして白い船体・・・流線型のそのボディから

前大戦時に、木連が使用していたバッタが次々と出てきて

統合軍の戦艦に襲い掛かっていく。

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、何をしているんだ!反撃しろ!」

アマテラスの司令部でアズマ准将は怒鳴り散らす。

それこそ、頭から湯気が出そうな勢いだ。

「ナデシコB、戦闘空域を離脱していきます!」

「あんな女放っておけ!」

全軍の注意が白い戦艦に向かって行った。

 

 

 

 

ヤマサキが司令官室を出て、廊下を歩いていると、

後ろから駆け寄ってきた部下から白衣を渡される。

「今度はジャンプする戦艦かい?」

白衣を背広の上に着ながら言う。

「ネルガルでしょうか?」

ヤマサキは少し不機嫌な顔をする。

前大戦時、ネルガルに煮え湯を飲まされ続けてきた人物である。

含むものがあって当然である。

「あの連中は?」

思い出したかのように、ヤマサキは言う。

「5分で行く・・・と。」

「それは大変。」

部下の言葉をうけ、冷笑を浮かべながら言う。

やがて、ヤマサキはある部屋にたどり着く。

ボソンジャンプ実験場・・・非公式の名前がそこにはあった。

「プランO−2始動!5分で撤収!」

ヤマサキが右手を高々と上げ宣言すると、中にいた研究員達は慌てて撤収準備を始める。

「さぁ、忙しくなるよ」

ヤマサキは誰にとも無くつぶやくのであった。

 

 

 

 

 

「不意の強襲、そして戦力を引きつけて置いて、別働隊が奇襲を掛ける。

その間に、もう一度突入ルートを変えて再突入・・・」

『見事ですねぇ。』

サブロウタはエステバリスのコックピットでユリカの指示を待つ。

「それに気が付いたスバル中尉も、さすがです。」

エレは、レーダーに表示されるリョーコのマーカーを追っている。

リョーコは、混乱する統合軍の中で唯一、敵のねらいを正確に判断していた。

「サブロウタさんの恋人だからね。」

『艦長・・・それより、加勢に行かなくていいんですか?』

サブロウタがユリカに進言する。

「もうチョッと待ってください。エレさんの方はどうです?」

「艦長、アマテラスのシステムが混乱している為、

あまり無茶は出来ませんよ・・・」

エレはコンソールを操作しながら言う。

いや、正確には首筋に取り付けたアダプターから

一本のインターフェイスケーブルが、ナデシコオペレーター席に繋がっている。

IFSとはまったく違う方式で、オモイカネをオペレートしているのだ。

エレはアマテラスメインシステムの中にダイブし、一つ一つの障壁を解除していった。

「あのロボットに通信を繋げてみたいだけですから。」

ユリカはそう言うと、統合軍と謎の機動兵器及び戦艦の戦いを見る。

相手の戦艦一隻に対し、統合軍の混乱振りは、滑稽を通り越して哀れとしか言い様が無かった。

確かに、グラビティブラストは戦艦に搭載されている兵器の中では最強のものである。

しかし、艦の前方に装備されているため、効果的に性能を発揮するには、艦列を整え一斉射が望ましい。

ところが、統合軍は不意を突かれて混乱しており、指揮系統も無茶苦茶な状態である。

こんな中で、かろうじてグラビティブラストを発射する艦も出てはいるが

相手の戦艦が展開するディストーションフィールドで軽くはじかれるか、味方の艦艇に当たっている。

かろうじてグラビティブラストを発射した直後は、フィールドを解除している状態となり

そこをバッタに攻撃され次々に大破していく。

一方、紅い機動兵器を追いかけていたリョーコは、言いようの無い不安で一杯だった。

敵の機動兵器は、以前見たあの機体にソックリだったからだ。

脳裏に浮かぶは、火星での戦い・・・

だが、あの恐怖を通り越して美しいとまで思えた操縦技術は見当たらない。

やはり、亡霊だからだろうか・・・

そんな思いを振り払うかのように、首を激しく振りスラスターを全開にする。

『お供します!』

部下の一人が言う。しかし、リョーコはにべも無く

「おめぇらの手におえる相手じゃねぇ。すっこんでろ!」

と言い放ち、一気に紅い機動兵器へと向かう。

リョーコの部下達は、それでも必死に付いていこうとするが

機体を改造したリョーコに追いつけ無かった。

「あいつは・・・あいつは・・・」

リョーコは紅い機動兵器に、牽制のレールガンを放つが、簡単に避けられる。

「くっ・・・やるな!」

リョーコは、レールガンでの攻撃をあきらめ、紅い機動兵器の追撃に全力をあげる。

予想進路を割り出し、最短距離での追撃戦を展開する為だ。

なにしろ、アマテラスは彼女にとって庭みたいなものだ。

近道くらい、いくらでも知っている。

紅い機動兵器は、どうやらアマテラスの中心区画に向かうつもりらしい。

リョーコはスラスターを全開にする。

一方、紅い機動兵器を迎え撃つ統合軍は、ようやく体制を立て直していた。

紅い機動兵器が浸入しようとするところに防衛線を展開していたのだ。

『うぅてぇぇぇぇぇ!!!撃って撃って、撃ちまくれ〜!』

アズマ准将が叫んでいる。今まで良い様にやられてきた敵に対して

初めて組織だった反撃をした唯一の例である。

そして、それは現場の指揮官のみならず、兵士達も奇妙な高揚感に

とらわれていた。やがて、熱狂的な砲撃を加えるようになった。

しかし、紅い機動兵器はディストーションフィールドを全開にして

砲撃の嵐を突っ切る。その機動力、防御力は統合軍のそれを圧倒的に凌駕している。

一方、追撃をする為、近道を突き進んでいたリョーコも、統合軍の砲撃にさらされ

紅い機動兵器を追いかけられない。

「どわぁぁぁぁぁぁぁ」

リョーコは、その砲撃の全てを避ける。

『撃って、撃って、撃ちまくれぇぇぇぇ!』

アズマ准将の目が血走っている。むろん、このアマテラスが失陥するような事態になれば

統合軍での出世は無くなるだろう。アズマ准将としては自分のクビが掛かっているだけあって

必死になるあまり、周りの状況が分からなくなっていた。

また、現場にいる者たちは戦争が終わってからというもの

実戦は初めてと言うものばかりで、周りの熱狂的な雰囲気に押され

冷静な判断力を欠き、味方であるはずのリョーコに対しても砲撃を加えつづける。

「くそっ!てめぇら、邪魔だぁ!」

リョーコは、砲撃を加えているエステバリス砲戦フレーム大隊の中心部に

自分のエステバリスが持っていたレールガンを投げつける。

と、同時に砲撃がピタリと止む。リョーコによって、冷や水を掛けられた状態となった

統合軍の兵士達は、ようやく自分達が味方に発砲していた事に気がついた。

『何をするか!』

だが、アズマ准将から見ると敵への攻撃を中断させられたと思い込む。

「邪魔だから黙らせたんだ!」

リョーコも、味方から攻撃された事に苛立ちを感じた為、アズマ准将に怒鳴り返す。

『邪魔とは何だ!』

リョーコと准将は、コミュニケ越しに睨みあっている。

『あの〜、ゲート開いちゃってますよ?良いんですか?』

『「へっ?」』

突然、ユリカのコミュニケが開いて二人に言う。

『第13番ゲートが開いてます!』

『なに?ワシはそんなゲート知らんぞ?』

『それがあるんですよ・・・人の執念・・・』

シンジョウがつぶやく・・・

アマテラスの司令室は、明らかに混乱していると同時に、何かが起ころうとしている。

リョーコはとりあえず、紅い機動兵器の正体を知る為、第13番ゲートへ突入する・・・

と、同時に四方から苛烈な銃撃を受ける。

「どわぁぁっ!!」

その叫び声と共に辺りは静かになる。

『リョーコさん、大丈夫ですかぁ?』

ユリカのウィンドウが現れ心配そうに尋ねる。

「へっ、油断大敵ってね。ちぃとばかしビックリした程度だ。」

『でも、さすがですね。』

「無人機倒したって、自慢にゃならねぇよ。」

リョーコのエステバリスの周りは、量産型エステバリスがバラバラになっている。

『この先に無人機はありません。誘導します。』

「すまねぇなぁ・・・って、あぁっ!おめぇ、人んちのシステムハッキングしてやがるな!」

『非常時ですし、敵もやってます。ちなみに、ハッキングしてるのはエレさんです。』

ユリカの横にウィンドウが現れる。

『始めまして、連合陸軍少佐エレ=メィンティスです。

お噂は伺っております。』

随分、ナデシコらしくない人だ・・・という言い方は変かも知れないが・・・

いや、むしろ平然と違法行為を行なう辺りは

さすがにナデシコクルーと言うにふさわしい人物だろう・・・

その時、リョーコはそう思った。

「ま、よろしく頼むぜ。」

リョーコはエレの誘導に従い、エステバリスを進める。

暫くして、大きな扉の前にいる紅い機動兵器を発見する。

「よーし、そのまま、そのまま。」

そう言うとリョーコは注意深く接近し、接触回線を繋げる。

紅い機動兵器のコックピットに、リョーコのウィンドウが映し出される。

『俺は頼まれただけだからな。艦長が、どうしてもあんたに話したい事があるんだとよ。』

リョーコはつい、ユリカの事を『艦長』と呼んだ。リョーコもまた、

ナデシコから『卒業』出来ないクルーの一人であった。

『いきなり、申し訳ありません。あなたがコミュニケの通信設定を受信のみにしておられるので

リョーコさんに中継を頼みました・・・あの・・・あなたは・・・誰ですか?』

ウィンドウに映し出されたユリカは、紅い機動兵器のパイロットが知っている懐かしい顔だった。

だが、構わずコンソールを操作する。

「『紅玉』・・・パスワード解析・・・」

紅い機動兵器から触手のような物が出てきて

固く閉ざされた扉の操作パネルを操作する。

「時間がありません、見るのは勝手です・・・」

ナデシコに・・・リョーコのコックピットに、紅い機動兵器から女性の声で通信が入る。

若いが、底冷えのする声だ・・・以前どこかで聞いた事のある・・・そんな気がしていた。

しかし次の瞬間、目の前にある大きな扉がゆっくり開いていくと、リョーコは大きく目を開く。

『なんだ!あれは!』

そう言うと、スラスターを全開にし、一気に中へ入っていく。

『リョーコさん、落ち着いてください。』

ユリカのウィンドウが、リョーコを押しとどめようとするが

リョーコは構わずソレに向かう。

『何なんだよ!一体!』

『リョーコさん!』

ユリカの一際大きな声でリョーコは我に返る。

『形は変わっていますが、あの遺跡です。』

ボソンジャンプのブラックボックス・・・前大戦時に地球、木連、ネルガル、クリムゾングループが

お互いに利権を独占しようと、苛烈な争奪戦を繰り広げた戦争の原因。

ナデシコと一緒に外宇宙へ向けて送り出されたはずなのだが・・・

火星でユリカ達が回収したときは確かに立方体だったのだが

現在の形は中心部に隆起した物が見え、周囲に薄く引き延ばされたようになっている。

その姿はまるで、花のつぼみのようであった。

「なんだよ・・・こりゃ・・・」

エステバリスのコックピットでリョーコはうなだれる。

『リョーコさん・・・』

ユリカのウィンドウが心配そうにリョーコを見る。

「これじゃ何の為に、あいつらは闘ったんだ?」

リョーコはゆっくりと遺跡に接近する。

 

 

 

同じく、アマテラスの司令室では、先程まで怒鳴り散らしていた准将が

屈強な男二人に拘束されていた。

「シンジョウ君、どう言うことだ・・・これは一体・・・」

訳も解らず混乱するアズマ准将を一目みやってシンジョウは

「地球の敵、木星の敵、ありとあらゆる腐敗の敵・・・我々は・・・

火星の後継者だ!」

シンジョウが統合軍の上着を脱ぎ捨てる。

その下には、赤とクリーム色をした地球でも、木連でもない軍服を着ていた。

それと同時に、アマテラス各所でも同じ軍服を着た男達が

要所を占拠していった。まさに、電撃的であった。

『うわぁ・・・今まで暑かったでしょう?』

「そうなのだ・・・いつ決起するかも知れないのに、

この服をずっと着ていたんだぞ?まったく、草壁閣下の演出好きには・・・

って、オイ!何言わせるんだ!」

突然、ユリカがシンジョウに通信を入れた為、思わずノリツッコミをみせる。

『ノリノリじゃないっスか。』

サブロウタのウィンドウが現れてツッコミをいれる。

「うるさい!・・・アマテラス占拠早々、申し訳ないが我々はこのコロニーを放棄する。

民間人は速やかに退去せよ。これは、草壁閣下の御威光でもある。」

サブロウタのウィンドウを、真っ赤な顔で払いのけながらシンジョウは言う。

『やはり、草壁 春樹ですか・・・アキトやルリちゃんは何の為に・・・』

ユリカが憂いの表情で言う。その時だった・・・

『そう、すべては新たなる秩序の為!』

草壁のウィンドウが遺跡ユニットの上に展開される。

『久しいな・・・我の野望を打ち砕きし者どもよ・・・』

草壁が侮蔑の表情を浮かべると同時に

『リョーコさん!危ない!』

突然、リョーコのエステバリス内に通信が入る。

えっと思う間もなく、リョーコは突然の襲撃に翻弄される。

「ぐわっ!」

『リョーコさん!』

リョーコのエステバリスが床に叩き付けられる。

『リョーコさん、大丈夫ですか?』

ユリカが心配そうに尋ねる。

「さすがに、これ以上やられたらヤバイぜ・・・」

リョーコは必死に、エステバリスを動かそうとするが

エステバリスの手足に、棒みたいな物が突き刺さっている為動かない。

仕方なく、リョーコは手足をパージしていく。

紅い機動兵器は、リョーコを叩きのめした機動兵器を相手にしている。

その動きは、リョーコとほぼ同等の腕前で、複数の敵に対して

何とか対応出来ているが、劣勢は明らかだった。

『あなたには関係ありません、逃げて下さい。』

「今やってるよ!」

必死に、手足をパージしていくが、制御系統にダメージがあるらしく

思うように制御できないでいた。

やがて、どちらともなく紅い機動兵器は、敵の機動兵器との間に距離を取って対峙した。

その時だった、突然のボース粒子反応と共に、もう一機の機動兵器が現れたのは・・・

『一夜にて、天津国まで延び行くは、ヒサゴのごとき、宇宙の螺旋』

聞き覚えがある冷徹な声がする。

『思い人の前で死ぬか?』

「北辰・・・」

リョーコは一人つぶやく。

『我らの行動は最早貴様らには止められん。』

ボソンジャンプと共に現れてた機体・・・夜天光から通信が入る。

花弁がゆっくりと開くように開いていき、その中に現れたのは・・・

「・・・スメラギ・・・トオル?・・・」

かつて、アキトと壮絶なる死闘を繰り広げ、戦死したはずの男・・・

リョーコ達が束になっても勝てない相手・・・

そして・・・そこまで思い至ったとき、ようやく紅い機動兵器に乗っているのが誰か判った。

「イツキ!てめぇ、イツキだろう!だから、リョーコさんって!」

リョーコが叫ぶ。だが、アマテラスの壁を突き破って青いエステバリスが姿をあらわす。

「中尉!」

サブロウタは、リョーコのアサルトピットをすばやく回収すると、その場を離脱する。

「おい!戻れ!アイツには聞きたい事があるんだ!聞いてるのか!サブ!」

リョーコはサブロウタに怒鳴りつける。

「スイマセン、中尉・・・これは艦長命令です。」

サブロウタは申し訳なさそうに言う。

「畜生・・・また何も出来なかった・・畜生・・・」

リョーコはコンソールを叩きながら、激しい敗北感に襲われていた。

普通に考えれば1対多数の戦いで、しかも相手の実力は一人でもリョーコに匹敵する。

そんな相手に不意打ちを受けたのだから負けて当然だ。

だが、サブロウタは知っていた。リョーコが人知れずトレーニングをしていた事を・・・

リョーコに付き合ってシュミレーターだけでなく実践訓練も行っていた。

二人が同じ日に休暇を出して、ネルガルの施設をアカツキから強引に借りてまで強くなろうとしていた。

それは、二度と仲間を失いたくない・・・そう思ったからだ。

「中尉・・・今は生きて復讐戦の機会を待って下さい。」

「サブ・・・」

リョーコはうつむいた・・・それは涙を隠す為だったろうか、

それとも情けない自分の顔を、最愛の男に見られるのが嫌だったからだろうか・・・

それは本人にしか判らない。

しかし、離脱するアマテラス内部で、かつて不運にも敵同士となった女性が

死闘を繰り広げている・・・その手助けがしたい・・・

リョーコは、一時でも仲間だった彼女を、自然とそう思うようになっていた。

「艦長、アマテラス職員のほとんどは離脱した模様。

本艦も離脱しないと危険です。」

エレの言葉で我に返ったユリカはナデシコBの離脱を命令する。

同時に、サブロウタのエステバリスが帰還し、ナデシコは最大戦速でアマテラスを離脱するのだった。

「エレさん、データは取れましたか?」

ユリカは振り向かずに言う。

「はい。」

「アキト・・・ルリちゃん・・・」

艦長席にもたれながら、ユリカは黒い王子と電子の妖精を思い出すのであった。

ナデシコがアマテラスを離脱すると同時に、アマテラスは大爆発を起こした。

それは、新たなる戦乱の始まりを告げる、花火のようだった・・・

 


作者:と言う訳で、第2話をお届けしました。

高杉:いやぁ、劇場版そのまんまかと思ってましたよ。

作者:実際、その通りなんだけど新キャラが登場しちゃったからね。

高杉:ハーリーの奴、とことん可哀想だな・・・

作者:ま、不幸キャラNo.1だからね。

高杉:でも、その新キャラって何か・・・

作者:エレはハーリーの代わりとしてナデシコのオペレーターになってもらいました。

    実際の話、ユリカの補佐をするにはハーリー君じゃ役不足だし。

高杉:色々と設定がありそうだよね。

作者:今の所、光学迷彩、15mを飛ぶ事が出来る体、そして・・・

高杉:首筋にアダプターを装着、電脳化・・・ココまで言うと解る人がいるんじゃ・・・

作者:たぶんね。

高杉:それにしても、ミスマル=ユリカの代りがスメラギ=トオルだなんて・・・

作者:だって、他に人が居なかったから・・・

高杉:このための伏線って言いたいんだろ?

作者:その通り!

高杉:なに偉そうにしてるんだか・・・

作者:では、次回機動戦艦ナデシコ Re Try 第2部〜第3話〜をお楽しみに!

高杉:ついに、あの人が登場!

作者:え?ガイの事?

 

 

―またしても、ハーリー君出番なし!このまま出番なし決定か!

 

 

 

代理人の感想

オペレーターで護衛で諜報員で参謀?

 

・・・ナンボなんでもそりゃ無茶でしょ(苦笑)。

つーか、オペレーターに補佐とか護衛をやらせてる時点で恐ろしく愚かなシフトでは(爆)。

万が一のことがあったらそれでナデシコ自体も動かなくなるんですよ?

他に正オペレーターがいれば別ですが、そう言う描写もないし。

(つーか、いるんだったらハーリーが出てきますわな普通)