その男は、深い眠りから覚めようとしていた・・・

普段なら、婚約者である女性が隣で幸せそうに眠っており

起こさないように注意しながら、体を起こすのだが

男の隣に、最愛の女性らしき気配がまったく無い・・・

うっすらと目を開け、いつもと違う天井を見る。

豪華な天井が見える・・・

やがて軽い倦怠感と共に意識が覚醒すると、ざわりとする感覚が全身を駆け巡る。

「ようやく、目を覚ましたか・・・」

その声を聞くのは実に3年ぶりだった・・・

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 第2部

〜第3話〜 再び帰るあの場所へ

 

 

 

 

連合宇宙軍の会議室では、明かりが落とされ

各幕僚達が顔をつき合わせていた。

「草壁 春樹・・・元木連中将で大戦後は行方不明、我々のみならず

各国の諜報機関やネルガルにより行方を探していました。」

ジュンが草壁の資料を提示しながら説明をする。

その資料には、木連時代の雑誌やニュース映像、

写真集などの映像が映し出されていた。

「生きていましたか・・・それも仲間を集めて・・・」

手元の資料を見ながら参謀長のムネタケが言う。

「草壁は、この3年間で各コロニーを転々としていたようです。

草壁に賛同するコロニーは、かなりの数に上っています。」

宙域図がスクリーンに写されジュンは説明を加える。

「L−1、L−2、L−3、L−5の各コロニーか・・・

草壁閣下とコロニーの不満分子が手を結んだようだな・・・」

苦虫を噛み潰したような表情で秋山は言う。

ちなみに大戦中、木連により攻撃を受けたL−4コロニーは、

大部分の住民が避難し、ゴーストタウン化して

現在では宇宙海賊の根城になりつつある。

宇宙軍や統合軍は何度か調査を行ったものの、

事前に察知されていたのか、いつも空振りに終わっている。

「秋山君、草壁と言う人物はどういった人物だったね?」

連合宇宙軍司令長官である、ミスマル=コウイチロウが秋山に尋ねる。

「そうですなぁ・・・正義を信じる熱血漢、理想の為なら死ねる男・・・

ただ、自分の信じる正義を他人に強要する節がありましたからなぁ・・・

常々、ボソンジャンプの有用性と危険性を説いてました。

そして、そのカリスマ性は無視できないものがあります。

事実、彼一人で木連を支配していた様なものですから。

しかも、今度はコロニーまで巻き込んで・・・」

秋山は目を伏せる。秋山の友人達は各コロニーで新たな人生を送っていた。

決して生活は楽ではないが、平和に暮らそうとしていた。

その彼らが、再び戦火に巻き込まれようとしているのだ。

「でも、資金は何処から流れたんでしょう?

あれだけの事を実行するとなれば、先立つものが必要でしょう?

理想だけで軍隊が動くなんて、まるで宗教戦争ですよ。」

ジュンは先程から浮かんでいた疑問を口にする。

木連を追い出され、コロニーを転々としていた草壁が、どうやって資金を調達したのか?

いや、そもそもコロニーを行き来するだけの資金なんて、どこから手に入れたのか?

人がコロニー間を移動すれば、入出記録が残されるはずである。

誰か協力者・・・しかも、強力なバックが裏に居ないと

これだけの事は出来ないのでは?

そんな疑問を、一人の女性が解決してくれた。

「ジュン君、その件に関して報告があるの。」

ナデシコB艦長であるミスマル=ユリカが立ち上がって報告しようとする。

「ああ、ユリカ。報告は座ったままで良いよ。」

「はい、お父様。」

「ユリカ・・・ここでは長官とか、ミスマル大将と呼びなさいって何時も言ってるだろう?」

「お父様こそ、ユリカではなくミスマル大佐とお呼びください。」

ユゥゥゥゥゥゥリカァァァァァァ!!

立派になって・・・胸が・・・じゃないよ。」

号泣しながらコウイチロウが言う。

「嫌だ、お父様ったら。セクハラで訴えられますよ。」

ユリカは胸を手で覆いながら言う。

「そんなつもりじゃないよ、父親として娘の成長は気になるからね。」

「うぉっほん!報告をお願いします。ミスマル大佐。」

何時までも続きそうだった親子劇を、咳払いで制したのはムネタケ参謀長であった。

ムネタケ参謀長は、何時の間にか耳栓をしてミスマル親子の音波攻撃を防いでいた。

他の面々は・・・音波攻撃からようやく立ち直りつつあった。

突然だったので、耳栓が間に合わなかったのだろう。

ユリカは、椅子に座りながら報告書を読み上げる。

「あ、はい。アマテラスで決起した人物のリスト上に、

クリムゾングループの関係者が多数見受けられます。

また、アマテラスで入手したデータによると

コロニー関係者としては『X−18999』コロニーの幹部がいます。

『X−18999』は未開発コロニーとして地球連合政府から

助成金が出されていましたが、先月から開発計画の放棄が決定され

支援金がストップしています。また、このコロニーの出資は

クリムゾングループが手がけていましたから

おそらく、クリムゾングループとコロニーからの資金が

草壁に渡ったものと推測されます。

またアマテラスの内部に、ボソンジャンプのブラックボックス・・・

通称”遺跡”に関する項目が存在します。しかも、これらの実験は全て非公式で行われ

一つの結論に達しています。」

そうしてユリカは、リョーコのエステバリスから送られてきた映像を皆に見せる。

その映像を見た出席者は驚きを隠せずにいた。

「・・・スメラギ・・・トオル・・・」

ジュンは搾り出すように呟く・・・自分が見た機体は、

最強の名を欲しいままにした機体だった。

しかし、そのパイロットは遺跡に取り込まれている。

「前の大戦時に死亡したと思われてましたが、遺跡に取り込まれています・・・

調べてみたら、彼は私と同じで火星生まれでした。と、言う事はA級ジャンパーである・・・

そして、A級ジャンパーを遺跡に取り込むこの方式はネルガルの調査により、

ボソンジャンプの誤差を、飛躍的に減少できる方式として

中間報告がなされていましたが、非人道的手段として地球連合議会に提出され

その方式は、特S級の機密文書として厳重に保管されています。

彼らが何らかの方法で、この方式に気が付いたものと思われます。

そして、これこそがヒサゴプランの正体だったと言うわけです。」

ユリカは次々とリョーコの機体から回収した映像をスクリーンに映し出す。

「では、謎の機動兵器は・・・あれは確かに曼珠沙華だったぞ!」

ジュンは声を荒げて言う。

「乗っているのはイツキさんです。・・・多分・・・」

ユリカは静かに言う。確たる証拠は今のところ無いが

あの声とリョーコの話で今は確信している。

「イツキ・・・カザマか・・・」

「・・・とにかく、現段階では推論にしか過ぎん。

我々としては、宇宙軍の職務を果たすだけだ。

各コロニーを刺激しないように、周辺航路の警備を強化。

この期に乗じて、宇宙海賊などに動かれては適わんからな。

繰り返すが、コロニー市民を刺激しないように。穏便に、かつ鋭い目で監視するように。

戦争に巻き込まれたコロニーは脆弱だからな。

・・・それから、コロニー『X−18999』へは緊急特別査察を行なう。

この任は、石崎大佐に当たってもらう。」

石崎大佐は、秋山や高杉と共に宇宙軍へ編入された元木連組である。

48歳と、比較的若い人材が多い宇宙軍や元優人部隊の中では

コウイチロウやムネタケ参謀に近い年代であった。

秋山達エリートと違い、現場からの叩き上げである。

また、秋山の婚約者は石崎の姪であるため、秋山とは親戚付き合いをしている。

火星決戦時の時は、秋山の要請で木星でクーデター準備を行なっていた。

いわば、秋山の部下だった高杉が表舞台に出る役者タイプだとすれば、

石崎は演出や大道具などの裏方を担当するタイプであった。

「わかりました。早速『X−18999』に向かいます。」

石崎は、短く答える。

「すまんな・・・もし、コロニーがすでに敵側に落ちているのであれば速やかに撤退するように。

今回の戦い・・・生き残る事が第一と考えるんだ!」

部下思いらしいコウイチロウの激で、各員はそれぞれの部署に戻っていった。

統合軍にかなりの人材を取られ、規模を縮小した宇宙軍ではあったが

残った人材はコウイチロウの子飼いとも言うべき部下達であったため

宇宙軍全体の風通しはかなり良くなっている。

だが、さすがのコウイチロウも事態が思ったより早く進展している事に気が付いていない。

コロニー側がすでに戦闘準備を終えている事に・・・

「ミスマル大佐、後で司令長官室に出頭するように。」

「はい、お父・・・長官。」

コウイチロウに呼び止められたユリカは敬礼し、その場を退いた。

 

 

 

長官室に出頭したユリカを待っていたのは副官であるサブロウタと

ようやく宇宙軍の制服が間に合ったエレであった。

「ナデシコC?」

サブロウタがコウイチロウに尋ねる。

「そうだ。エー、ビー、シーのCだ。

すでに月のネルガルドックで最終調整に当たっている。

現在はオモイカネの調整中だ。」

「君達には、宇宙軍の動きとは関係無しに遺跡の奪還を主な任務とした

独立ナデシコ部隊として別行動を行ってもらう。」

秋山は腕組みをしながら言う。ムネタケ参謀は、ソファーに座ってお茶を飲んでいる。

「じゃぁ、正規の軍人さんは使えませんね。

ただでさえ人手不足なんでしょうから・・・」

ユリカは頬に指を当てながら言う。

軍備を縮小された宇宙軍としては、コロニー周辺の警備と地球衛星軌道上の

警戒任務が精一杯で、とても遺跡奪還任務まで手が回らない。

宇宙軍にとって優秀な人材は多いが、数的にはギリギリである。

「その点は心配いらないでしょう。・・・その為に貴様が来たんだろう?」

エレは後ろを振り向きながら言う。

「相変わらず鋭いですなぁ?ドールマスター。」

長官室に据えられている水槽の陰からちょび髭にメガネ、赤いベストを着た男が現れる。

「ふん、貴様こそ相変わらずのようだ。スマイルリッパー。」

エレは腰に手を当て肩をすくめる。

「プロスさん?それにエレさんまで・・・」

ユリカは、突然現れた人物と関係がある自分の部下を交互に見る。

「あ、お久しぶりですユリカさん。去年の夏祭り以来ですなぁ。」

ニコニコしながらプロスはユリカに近寄って行く。

「今回の件はネルガルとしても、全面的にバックアップさせていただきます。」

「じゃぁ・・・」

「ええ、ちょっとした同窓会みたいなもんですよ。」

プロスはユリカと軽く握手しながら言う。

「すでに、月へはプルセルさん、アヤさん、カズマさん、ラピスさん、ユウタさんが向かっています。」

「じゃあ、ラピスちゃん達もいっしょに?」

サブロウタがビックリしたように言う。

「はい、ラピスさんが最終調整を行うんですから

ナデシコCの戦闘力は当社比で2.56倍です。」

「細かいッスね・・・」

「さ、時間がありません。手分けして行きましょう。

私とサブロウタさん、ユリカさんとエレさんの二手で行きましょう。」

プロスはサブロウタのツッコミを軽く流し、手早くリストをユリカに渡す。

「定時連絡は『日々平穏』で行いましょう。あそこなら美味しいご飯が食べれますから。」

そう言ってプロスはサブロウタと共に長官室を退室する。

「エレさん・・・プロスさんとはどういった関係?」

「・・・不倶戴天の敵同士・・・ですかね。」

ユリカの問いにエレは少し考えてから言う。

「ふぅぅぅん・・・でも今は違うんでしょう?」

「ええ、今は・・・ね。」

エレはそう言いながらユリカを促す。

「じゃぁ、お父様・・・行って来ます。」

「ああ・・・気を付けてな。エレ君・・・娘を頼んだよ?」

父親の顔でコウイチロウはエレに頭を下げる。

「はっ・・・解りました!」

エレは敬礼し、ユリカと共に長官室を退室した。

「・・・行きましたな・・・」

「ああ・・・」

秋山のつぶやきにコウイチロウが答える。

「また・・・戦争になりますなぁ・・・」

秋山は、軍務で当分会っていない婚約者を思い浮かべる。

「戦争・・・か・・・軍人である限り避けて通れない道だな・・・」

「まったく・・・やくざな商売ですなぁ・・・」

ムネタケはお茶をすすりながら言う。

まったくその通りとうなずく秋山・・・

コウイチロウは窓の外に映る街並みを見る。

「今度の事で痛感したよ・・・

戦争を終わらせる事より、平和を維持する方が難しい・・・

武力を持っている限りな・・・

そして、世の中は戦争を欲しているのではないかと・・・」

その言葉に、黙ってうなずくムネタケと秋山であった。

 

 

 

 

 

 

 

ネルガル月ドック・・・ここにはラピス達が居た。

ナデシコCは内部工事の真っ只中なので、月ドックの中枢ブロックにある

オモイカネ調整ルームで、オモイカネの最終調整を行なっていた。

もっとも、火星決戦時にエリナが取ったバックアップを復元し、

ナデシコBから得た戦闘データを分析、ナデシコC用に変換する作業が主であった。

また、メインオペレーターがラピスになったことにより、ラピスがオモイカネに慣れるのも

この作業の目的であった。したがって、ラピスがオモイカネの調製を行っている間・・・

カズマ達はヒマだった・・・

「・・・ヒマや・・・こないヒマやったら、来るんや無かった・・・」

赤いTシャツにカンフーズボンと、何時もの格好をしているカズマは

あまりの退屈さに、いじけて床に『のの字』を書いている。

(ビュン)少しは・・・(ビュン)黙りなさい・・・(ビュン)私達は・・・(ビュン)ラピスの・・・(ビュン)護衛なのよ・・・(ビュン)

剣道着を着たアヤが、素振りをしながら言う。

「せやかて、こっち来てから何も動きがあらへんやんか。」

「まぁ、待ちなさい・・・その内動きがあるわよ。」

素振りを止め、椅子にドカッと座るアヤ。

そこに、タオルが差し出される。

「ありがとう、ユウタ。」

ユウタからタオルを受け取り、汗を拭きながらアヤはガラスで仕切られた部屋の中に居るラピスを見る。

「ラピスがここに居る間は私たちも動けないわ。

敵の出方を待つ・・・これが私達に出来る最大限の事よ。」

「わかっとる・・・けどな、こない何もないんやったら、ひょっとして諦めたんとちゃうんか?」

「カズマさん・・・ひょっとして欲求不満ですか?」

プルセルは事務仕事をいったん止めカズマに尋ねる。

エリナから、月ドックの事務仕事を手伝うよう依頼された彼女は

月ドックの事務処理をやっていたのだった。

「ああ、思いっきり殴り飛ばす相手がおらんと、なんやこう・・・人生に潤いっちゅうもんが無いっちゅうか・・・」

カズマは拳を目の前で握りながら言う。

「月は大混乱みたいです。草壁に賛同する動きと、否定的な動き・・・

両方の意見が真っ向から対立してるみたいですが、表立った動きは無いみたいです。」

プルセルは、ニュース画面を起動し、横目で見ながら言う。

「そのうち動きがあるっちゅう事か。せやけど、何時になったら動きがあるんや。」

床に寝そべりながら、カズマは言う。

「なんなら、私が相手しようか?」

ユウタの差し出したスポーツドリンクを

一気に飲み干したアヤが、愛刀の『綾』を構える。

「お、久々にやるか?」

カズマはムクリと起き上がりながら言う。

その時だった、突然アラームが鳴り響きだした。

「なんや?避難訓練か?」

「違うでしょう。ラピス、何が起こってるの?」

ラピスは突然の事にビックリしたが、すぐさまオモイカネに月ドック内部の映像を出させる。

『アヤ、カズマ。敵がいっぱい来てるよ!』

ナデシコCにも、敵らしい人影と警備会社『アルギュロス』による銃撃戦が展開されていたが

どうにか敵の侵入を防いでいると言う状況だ。

むしろ、月ドック内部の警備がナデシコCの方に向いている為、

カズマ達の方がやや手薄になっていた。

「へへっ・・・退屈しのぎに丁度ええわ・・・」

「そうね、久しぶりに悪人を斬れるわ。」

二人の顔つきが一瞬にして変わる。

仙術紀行闘法『神威の拳』の使い手として、古流剣術『飛天流』の使い手として・・・

確実に言える事は、戦った相手が不幸だと言う事だけだ・・・

エアーの抜ける音がして、調整室の扉が開く。

「動くな!動くと−−−ドゲシィ!!

突然入り込んできた男が、カズマの飛び蹴りで倒される。

「プルとユウタは、ラピスのところに行って!あそこなら安全よ。」

その言葉を受けるのが早かったか、それともプルセルが動き出すのが早かったのか

一目散にプルセルは、ユウタを抱えてラピスのいる部屋に入る。

ラピスの居る調整室は、防弾ガラスで出来ており、多小の銃火器では歯が立たない。

殺到してきた黒服の男達を、一撃で叩きのめしていくカズマ達・・・

プルセルはラピスを庇いながらそれを見ていた。

「アヤ、嬉しそう・・・」

ラピスは呟く。プルセルはアヤの方を見る。

斬!

「ぎゃぁ!!」

アヤに向かっていった男達は腕を切断され、足を斬られ耳を落とされている。

命だけはかろうじて助かっている状態ではあるが、

傷口から流れ出る血を必死に止めようとしている。

「おろかな・・・我が通った後には屍しか残らぬと言うのに・・・」

アヤは『綾』を構え一言つぶやく。

「あれ・・・最近やってる時代劇の主人公が言ってる台詞だね。」

「そういえばよく見てたね。」

ユウタとラピスが言う。二人は、時代劇の真似事をする余裕すらあった。

そして、アヤの通った後は修羅場が展開されていた。

「カズマも笑ってるよ。」

ユウタもカズマの姿を追っている。

カズマに銃を向けていた男達は、カズマの必殺技『炎の虎』で打ちのめされる。

「こいつ!」

ベキィ!!

アヤと違い、カズマは敵の攻撃を受けていた。

「ふん、ええパンチやな・・・けど、こんなんじゃワイは倒せへんで!」

だが、受けただけでダメージは無かった。

逆に向かってきた男の手をそのまま取る。

男は、何とか逃れようとするが、カズマの驚異的な握力で

男の手首が軋む・・・そして、カズマはそのままその男を敵に投げつけ、

ひるんだところに『炎の虎』が容赦なく襲い掛かった。

「おらおらおらおらおら!かかってこんかい!」

派手に吹き飛ばすカズマ、静かに斬り捨てていくアヤ・・・

静と動・・・二人はそんな表現がピッタリだとプルセルは思った。

同時に、あの二人に憧れるのは止めて頂戴と

アヤ達を応援するラピスとユウタに目を向け、深くため息をつくのであった。

しかし、多勢に無勢・・・次第に銃撃が激しくなり、

肉弾戦に持ち込めなくなると、カズマ達は一気に劣勢となった。

もちろん、ラピスによって隔壁閉鎖や自動消化装置のジェット水流で

ある程度の敵を排除しているが、最深部にある調整ルームから脱出するには

どうしても撤退ルートを確保する為に、目の前の敵が邪魔であった。

「こら、アカンな・・・」

「ええ、さすがはプロって所ね。内部構造は完璧に把握しているようね。

おまけに、棒手裏剣も使い切ったし・・・」

カズマとアヤは柱の陰に隠れながら言う。

それでも隙を見て、カズマが『炎の虎』で敵を排除しているのだが

次々と送られてくる増援に対処しきれなくなっていた。

しかも、ここを突破されれば、ラピスのいる部屋までわずかな距離しか残っていない。

足元には、ネルガルシークレットサービスに所属する男が絶命している。

その男が使用していた銃も、弾切れでカズマの足元に転がっていた。

もっとも、拳銃の腕前など無いに等しい為、牽制にしか使えなかったのだが・・・

「アヤ・・・ワイが時間を稼ぐ。姉ちゃん達を連れて逃げろ・・・」

「カズマ・・・しんがりなら私が・・・」

激しい撃の中、二人はお互い目もあわせずに言う。

「アホ!ここで二人とも倒れてもうたら、誰があいつらを守るねん。」

「でも・・・」

「ええか?ホンのわずかでも、ワイが年上や。

年長者の言う事は聞かなアカン。」

カズマはアヤの方を向く。

「カ・・・お兄ちゃん・・・」

「ワイを信じろ・・・」

アヤは、覚悟を決めた。それは、引くにしても過酷な条件が整いすぎている。

あてにならない援軍を待ちながら、戦闘の素人を3人・・・しかも、そのうち二人は子供である。

しかし、子供達と家族になることを決めたアヤは、何がなんでも子供達を守ろうと覚悟を決めた。

たとえ、その身に修羅を宿そうとも・・・

だがその時、突然激しい銃声と共にうめき声が聞こえ始めた。

アヤとカズマは、お互い目配せをする。

アヤはエチケットブラシの鏡を使い、通路の様子をうかがう。

先程までは、物陰から少しでも出ようものなら、すぐに銃弾の嵐が襲ってきていたのだが

敵の攻撃は全く行なわれなかった。

「敵が・・・いない?」

「どないなっとるんや?」

アヤとカズマは全神経を集中する。

「一人・・・ね。」

気配を察知し、アヤはカズマに言う。

「ああ、とにかくいくで。」

カズマとアヤが飛び出すと同時に、銃声が聞こえ何かが二人に向かってくる。

二人は本能的に避けると、攻撃態勢に移る。後ろでは何かがはじける音がする。

「まだいたのか!」

その男は、迷彩服を着ており、手にはショットガンを持っている。

接近戦に持ち込まれる事を察知したその男は、

ショットガンを放り投げ、ホルスターからハンドガンを抜く。

その間、お互いの距離が詰まり、カズマの神気が高まり、

アヤが居合の間合いに入ろうとした瞬間・・・

3人の目の前に、ラピスのウィンドウが開く。

『やめて、その人は敵じゃない!』

 

 

 

 

 

 

5分後・・・警備会社『アルギュロス』から人員が派遣され

カズマ達が倒した男達を連れて行った。

「アルギュロス月支部のサガラ=コースケです。

こいつらの背後関係はこちらで調べます。」

ざんばらの髪にむっつり顔、への字口で迷彩服を着た二十歳前後の男性が

敬礼をしながら言う。肩には自動小銃をかけ、手にはショットガンをもっている。

先程、カズマ達と危うく戦いそうになった男だ。

あの時、ラピスの警告が遅れていたら、今頃はお互い無事ではなかっただろう。

「聞ける人間がおったらの。」

カズマは、アヤが切り捨てた男達を見る。

カズマとアヤが倒した男達は全員、命だけは無事だ・・・

が、本当に命だけ無事だと言うレベルである。

アルギュロスから派遣された医師が、ブツブツと文句を言いながら

男達をストレッチャーに乗せるよう指示していた。

「見事な切り口です。最初に倒した男から最後まで切り口が同じ・・・と言う事は

あなたの腕もかなりのものですが、その刀は、よほどの業物ですね?」

コースケはストレッチャーに乗せられた敵の切り口を見てアヤに尋ねる。

「ふふん、解る?先祖伝来なのよ。」

アヤは愛刀を見せながら自慢げに語る。

「それに、この男達・・・どうやったらこんなに・・・」

『こんな感じだよ。』

ラピスのウィンドウが現れ、カズマが戦っている様子を映す。

「・・・一瞬で5発もの拳を受けている・・・」

コースケはカズマが倒した男を見て言う。

「せや、その男は防御力が強そうやったから、手加減でけへんかった。」

「凄い・・・」

コースケは二人を感心した目で見る。

「あなたこそ、あれだけの人数相手に一人で・・・」

アヤはコースケが倒した男達を見る。

男達は全員、銃で撃たれているが使われたのは特殊粘着弾で

着弾と同時に、強力な接着剤が対象と床面をつなぎとめ、動きを拘束するものを使用していた。

「いえ、お二人が敵を引き付けている間に忍び寄る事ができたのです。

お陰で、敵に対して奇襲と言う最も有効な戦術を取ることが・・・」

「コースケ!あんた何サボってんの!」

スパァァァン!!

何時の間にか、コースケの後ろに近寄った少女が、ハリセンでコースケの頭を殴りつける。

「痛いじゃないか!カレン!」

「やかましい!大体あんたは仕事もせずに油売ってんじゃないわよ!」

カレンと呼ばれた少女は、コースケの鼻先に人差し指を突き出しながら言う。

「油は売ってないぞ?話をしていただけだ。」

「そう言うのを油を売るって言うのよ!大体、木連ではどうだったか知らないけど

あんたは今、警備会社の人間なのよ?再起不能になるまでボコにしてどうするの!」

スパァァァン!!

再びコースケの頭にハリセンがヒットする。

「むぅ・・・また見逃した・・・一体どこからその武器を出しているのだ?」

コースケが頭をさすりながら言う。

「ま、まぁ待てや姉ちゃん・・・ホンマにハリセンが何処から出とんのか解らんかったが・・・

こいつら倒したんはワイらも一緒や。ま、再起不能にしたんは、アヤの方が多いけどな。」

「あなたは?」

コースケを殴っていたカレンは手を止め、カズマに尋ねる。

そのコースケは、すでにボロボロになっていた。

「ワイはクサナギ=カズマ。こっちは妹のアヤや。」

コースケとカレンは、ジロジロとカズマ達を見た後

「「に・・・似てない・・・」」

二人同時に呟く。

「やかましい!それより、そっちの姉ちゃんは?」

「あ、申し遅れました。私はシラク=カレンと言います。

アルギュロス警備部主任をしていて、一応コースケの上司です。」

その少女はアッシュブロンドの髪で大きな瞳、スラリとした手足で

年の頃は18・9と言った所だろうか。アルギュロスの制服を着ていた。

「と、ところで・・・そのハリセンは何処から出したの?」

アヤがカレンの手に握られている武器を見て言う。

その疑問は、カズマも同じであった。

「それは・・・秘密です。」

人差し指を口に当て、ウィンクしながら言うカレンであった。

 

 

 

 

連合宇宙軍を出てすぐの交差点・・・そこでエレとユリカは信号待ちをしていた。

ちなみに、宇宙軍とは関係ないという事で二人とも私服である。

ユリカは水色のスーツを着込み、何処かのOLと言った感じだ。

一方のエレはショートパンツにタンクトップ、その上に紺のジャケットを着ていた。

二人とも美人と言うことで、道行く人たちは後ろを振り返っている。

「艦長、何処から行きますか?」

エレがリストを見ながら言う。

手には何も持っていないが彼女は確かに見ていた。

「う〜ん、ヒカルさんの所からにしましょう。

あそこならここから近いし、ヤマダさんも一緒に居るでしょうから。」

「解りました。」

ユリカとエレは、早速ヒカルのマンションに向かった。

ピンポ〜ン

呼び鈴を押して10秒後・・・ガチャリとドアが開き、

中から出て来たのは青いエプロンを付けたヤマダだった。

「おう、艦長。暫くだったな。」

「お久しぶりです、ヤマダさん。ちょっと良いですか?」

「ああ、とりあえず上がってくれよ。」

ヤマダは少しばつが悪そうに言う。ユリカとエレはヤマダに案内されるまま

リビングへと通される。そこは・・・修羅場だった・・・

「あ、艦長・・・もうちょっと待ってね、今仕上げるから・・・」

ヒカルは、ユリカに軽い挨拶をすると仕事に没頭し始める。

ユリカ達はヒカルの仕事が終わるのを待った。

ヒカルの仕事場はリビングに机を並べており、5人のアシスタントが

仕事を行なっているはずであったが、今はヒカルだけが仕事をしている。

ヤマダはそのヒカルを手伝っていた。やがて、一段楽したのか

ヒカルは手を休め、ユリカ達に向かう。

「ごめんね〜、〆切が近いってのにアシの子が急にお見合いやら何やらで

忙しくってさぁ〜。」

ヒカルは手を合わせながら言う。そして、エレの姿を確認すると

「えっと・・・アマノ=ヒカルで〜す。」

「連合陸軍少佐、エレ=メインティスです。」

「俺はヤマダ=ジロウ。ガイって呼んでくれ!」

三人がそれぞれ自己紹介をする。

「で?艦長、何があったの?」

ユリカはこれまでの事情を話す。そして、話がイツキとスメラギの話になったとき・・・

「・・・ヒカル、俺は行くぜ。」

ヤマダはスッと立ち上がりヒカルを見る。

「イツキと・・・話し合ってくる・・・多分、それしか出来ないだろうがな・・・」

「ヤマダ君・・・」

ヒカルは暫くヤマダを見る。そして、深くため息をつき

「解ったわ。でも、必ず帰ってきてね。」

意外そうな顔をしたのはユリカである。

「ヒカルさんは来ないんですか?」

ユリカはヒカルに尋ねる。

「ごめんね〜、最近体調が良くないの・・・

今は少し仕事量を減らしてるほどなのよ。」

「そうですか・・・無理しないで下さいね。」

ユリカは、それ以上無理に誘わなかった。

ヤマダも、ヒカルが戦場に再び立つ事には反対だったので

どうやってヒカルを説得しようか悩んでいたが、ヒカルの不参加は

意外でもあり、安心した面もあった。

ユリカ達はヤマダと軽く打ち合わせをした後、ヒカルのマンションを後にした。

「艦長・・・まずいって思ってませんか?」

「・・・何が?」

「アマノ=ヒカルの件です。エステバリス隊の戦力はこちらが圧倒的に不利なんですよ?

一人でも欠けると戦線が維持できなくなる・・・」

「わかってる。でも、本人の意思が大切よ。」

ユリカはエレを見つめる。

「それに・・・・それに、体調不良なんだからしょうがないよ。」

ユリカはヒカルの真意が解り掛けていた。体調不良とはおそらく・・・

「そうですね。」

エレも、何となく解り掛けていた。そして、それは自分が望んでも

決して叶わない願いが叶ったのだと・・・

ユリカとエレは、リストに書かれている次の人物の元へ歩き出した。

リストには、『ウリバタケ=セイヤ』と書かれていた。

 

 

 

サブロウタはヒマを持て余していた。

実際、ユリカ達と別れて協力者に連絡を取る・・・

そうしようとしたのだが、プロスが連絡をテキパキと取り、

サブロウタの分まで終わらせてしまったためだ。

この辺の交渉術は巧みなものがあり、サブロウタは舌を巻いていた。

もっとも、プロスがナデシコにおいて信頼できる人物であり、

元ナデシコクルーも、再びナデシコに乗れるとあって、すんなり話が進んだ為だ。

「あ、ところでプロスさん。」

「はい、何ですか?」

プロスは仕事の手を休め、サブロウタの方を向く。

「さっき、少佐の事を『ドールマスター』って呼んでましたけど・・・」

「ああ、エレさんの事ですね?」

プロスは、ニコニコしながらメガネを取る。

「古い・・・そう、古い話ですよ。」

「もしかして、プロスさんの良い人ですか?」

サブロウタが身を乗り出して言う。

「いえいえ、そんなんじゃありませんよ。」

「ホントっスか?」

プロスは、暫く考え込みやがて口を開く。

「・・・彼女は・・・脳と脊髄の一部以外、全身が義体なんですよ。」

「義体・・・サイボーグって事ですか!」

サブロウタは立ち上がる。

彼の身近に居る人物の中では、白鳥 九十九の腕と足が義手と義足になっている。

かつて、イネスとウリバタケにより取り付けられた物も、

元々はマーベリック社の義手を二人が勝手に改造したものだと聞いている。

「はい、彼女は幼い頃、現代でも治療できない難病に掛かりまして

死を待つだけとなりました。でも、ある企業がこの少女に

義体化手術を施しました。脳と脊髄の一部を摘出して義体に移す。」

「そ・・・そんな・・・」

サブロウタは信じられなかった。技術的には可能であろうが

倫理委員会や宗教団体がそんな事を知れば黙っていないだろう。

「信じられないのは解ります。ですが、これは事実です。」

「でも、そんな事・・・誰が・・・」

「マーベリック社・・・ご存知ですな?

マーベリック社は医療技術において、我が社やクリムゾングループより

数段上の実力があります。IFSの基本設計にしても元々は

マーベリック社のナノマシン医療技術が根幹にありますからな。

そのマーベリック社が彼女に義体化手術を極秘裏に行いました。

ですが、幼い少女が義体となった自分の体をコントロールするのは

それは想像を絶するものだったと聞きます。

たとえ、命が助かったとしても精神が破綻するだろうとも・・・

成長に合わせて義体を取替え、何度も手術をして・・・

彼女が18になった時、ようやく義体を取り替えなくても良くなりました。

それと同時に、マーベリック社との契約を結んだのです。」

プロスは一口コーヒーを飲むと、話を続けた。

「マーベリック社との契約は、私もよく知りませんが

会社の命令に背くような行為を行えば、即座に存在を抹消されるとの事です。」

「存在を抹消?それは穏やかじゃないな。」

「ええ、ですがマーベリック社としては義体技術を独占する事で

我が社やクリムゾングループに対抗できるわけですから・・・

いわば、存在自体が機密事項です。そして、マーベリック社のテストを兼ねて

色々な所で諜報活動からボランティア活動まで幅広く活動してました。」

「その時に・・・」

サブロウタはプロスの裏の顔を知っているので、その時に知り合った・・・

もしくは、やりあったのだろうと感じた。

「私がナデシコの乗組員を探している時、連合陸軍に

彼女の名前を見つけたんです。彼女はヨーロッパ戦線で

連合陸軍に所属し、彼女のいる部隊は常に前線で戦っていました。

その時の通り名が『ドールマスター』つまり、義体使いと言うわけです。」

「どうして、ナデシコにスカウトしなかったんですか?」

サブロウタが尋ねる。

「しましたよ。ですが、彼女は基地の・・・街の人間を見捨てて行く事は出来ない・・・

そう言ったんです。もっとも、マーベリック社との契約がある以上、

ネルガルに彼女を引き抜く事などできないんですけどね。」

「何かを護るために戦う・・・か。」

サブロウタは天井を見上げ言う。

彼の脳裏には、黒衣の青年と電子の妖精が浮かんだ。

「彼女は戦争が終わると、その街で復興支援活動をおこなってました。

マーベリック社の施設がその街にあったので、

そのままボランティアとして留まったそうです。」

「へぇ〜。それがまたどうして、艦長の護衛を?」

「詳しくは解りませんが、その街が何者かによって

壊滅状態となったそうで・・・我々も調査をしたのですが

なにしろ生き残っている人が少なく、証拠が少ないので・・・

彼女は、ほとんど唯一の生き残りでしたし、

その時の事を詳しく教えてくれませんでしたから・・・

事件後、彼女はマーベリック社に復帰しました。

丁度その頃、我が社とマーベリック社の業務提携がまとまりましたので、

私が艦長の護衛にと、会長に彼女を推薦したのです。

いわば、人材交流とでも言いますか。」

サブロウタは、ふぅんと鼻を鳴らして、目の前に置かれた資料を見る。

そこには、白鳥 九十九の誘拐事件と、アマテラスで起きた事件の詳細報告書があった。

「やれやれだねぇ・・・これじゃぁ、秋山大佐や月臣大佐も気が休まらないだろうに・・・」

一介の大尉レベルでは入手できないような資料のはずだが、

プロスが高杉の為に用意したものである。

もっとも、指示したのはアカツキであったのだが、

高杉としても情報は欲しかったので、正直ビックリしていたところである。

「そうですなぁ・・・ユリカさんには、エレさんが・・・ミナトさんにはミサキさんが

そして、ユキナさんにはジュンさんと月臣大佐が護衛をしてますからなぁ・・・」

ふと、サブロウタは疑問に感じた事を口にする。

「あれ?白鳥大佐の救出はしないんすか?」

「それに関しては会長が自ら動かれるそうで・・・

エリナさんも、その件に関しては会長から何も聞いてないようで

相当ストレスが溜まっているようです。」

プロスはため息をつきながら言う。

おかげで、ネルガル本社に行くとエリナの愚痴と小言をエンドレスで聞かされ

イネス印の胃薬を大量に飲む羽目になるのだ。

「どうするんだ?あの極楽トンボ・・・」

「さぁ・・・とにかく、会長には会長の考えがあるようですから・・・」

プロスは、仕事を再開する。

サブロウタも、それ以上は何も情報を引き出せないと諦めたのか

だらしなく、椅子にもたれるのであった。

 

 

 

ウリバタケの家に着いたユリカ達は、オリエの出迎えを受けていた。

「どうぞ・・・で、何の御用でしょう?」

オリエはお茶を出しながら言う。

「ご主人は?」

エレが辺りを見ながら言う。

「今、出かけてるんですよ。あの・・・主人に何か・・・」

オリエは妊娠しており、臨月といったところだろうか。

男の子と女の子の兄妹がこちらを見ている。

「そうですか。近くまで来たので寄っただけです。

赤ちゃん・・・楽しみですね。」

ユリカは、子供達にニッコリ笑い手を振りながら言う。

エレはそんなユリカを静かに見るだけだった。

 

 

 

 

日々平穏・・・狭く、普通の大衆食堂的雰囲気があるこの店は

隠れた名店として各界の著名人がお忍びで訪れている。

表には準備中の木札が吊るされており、のれんもまだ出てない状態だ。

しかし、店内には4人の客がいた。

一足先に店に来ていたプロスとサブロウタ、そしてウリバタケの家から

直接店に来たユリカとエレである。

「そうですか・・・ヒカルさんは不参加ですか・・・」

ラーメンの汁を全部のみ干したプロスが言う。

「ええ、でも代わりにヤマダさんが参加してくれます。」

本当は、ヤマダも参加すべきでは無いとユリカは思っていたのだが

ヤマダの決意を変えることは出来ないだろうと考えていた。

「ウリバタケ氏には声を掛けない方が良いと思います。

臨月の奥さんが居る様子ですし・・・」

エレは自分専用の携帯端末を操作しながら言う。

首筋にアダプターを取り付け、そのアダプターから

インターフェイスケーブルが携帯端末につなげられている。

二組に分かれたリストを統合、参加・不参加を各セクションごとに分けていた。

「イズミさんの方は私が話をしておきましょう。」

「あれ?ミナトさんは?」

エレが操作する端末を横目で見ながら、ユリカはふと尋ねる。

「ミナトさんはミサキさんと一緒に、こちらへ向かっているはずです。」

プロスが言うのと同時に、店のドアが開く。

「こんにちわ〜。」

日々平穏の扉を開け入ってきたのは、先程話題になったミナトとミサキであった。

「お久しぶりですなぁ、ミナトさん。」

「ええ、プロスさんもお久しぶり。艦長も元気そうね。」

「ミナトさん、お久しぶりです。」

ユリカ達はお互いの再会を喜び合う。

「じゃぁ〜ん。」

ミナトは持ってきた荷物の中からウィスキーのボトルを取り出す。

「久しぶりの再開に・・・どう?」

「お、いいねぇ・・・と言いたいが、今夜はチョッと用事があるんで。」

サブロウタは残念そうに言う。

「私も、イズミさんの所へ行くので遠慮しておきますよ。」

プロスもそう言うと席を立つ。

「じゃぁ、私達だけで。」

ユリカはそう言うとエレを見る。

「エレさんはどうします?」

「私は艦長の護衛を兼ねています。

艦長が残るのであれば残ります。」

「ユリカさん、その人は・・・」

ミサキがユリカに尋ねる。

「この人は、連合陸軍から出向してきたエレさん。」

「エレ=メインティスです。」

「ナグモ=ミサキです。」

エレとミサキは握手をする。

「どうでも良いけど、これから店が始まるんだけどねぇ。」

ホウメイが仕込みをしながら言う。

「あ、じゃぁ閉店時間になるまで、何処か行かない?」

「艦長、まずホウメイさんも一緒に飲むかどうか、聞いてないじゃないの。」

ミナトがユリカを諭しながらホウメイを見る。ホウメイは笑いながらユリカ達に返事をする。

「あたいは構わないよ。店が終わるまで待っててくれるかい?」

「じゃぁ、皆で遊びに行って来ます。」

ユリカ達はそう言うと、店を出て行った。

サブロウタもイソイソと店を出て行ったようだ。

「プロスさん、今回の闘い・・・相当厳しいんだろう?」

「ええ・・・実際敵の動きが、こちらの予想をはるかに上回っています。」

「そうかい・・・」

プロスは掛け値無しにそう思っていた。

「ま、何とかなるでしょう。」

プロスは、お金をカウンターに置くと店を出て行った。

「さ、今日も張り切っていくとするかねえ。」

ホウメイは、暖簾を出し、営業中の札をかける。

彼女の戦場は、この小さな店に存在するのであった。

 

 

ユリカ達と別れたサブロウタは、連合宇宙軍本部ビルに入っていった。

地下2階にある、パイロット用のシミュレーターがそこにはあった。

「遅いぞ、サブ。」

「スンマセン、中尉。」

サブロウタに声をかけたのはリョーコだった。

彼女は、アマテラスの一件以来、宇宙軍の訓練施設で

サブロウタと共に戦闘シミュレーションをこなしていた。

統合軍にもシミュレーターはあるのだが、

宇宙軍の使っているシミュレーターは、かなり特殊仕様であった。

前大戦時、ナデシコで開発されたこのシミュレーターは

一部のパイロットしかクリア出来ない過酷なシミュレーターとして

宇宙軍に収められ、現在では利用する人が居なくなっていた。

「それにしても、これってデートですかねぇ?中尉。」

「バカ、さっさと用意しろ!」

頬を赤くしながら、リョーコはシミュレーターに入る。

「やれやれ・・・圧倒的に不利だよな・・・今回は・・・」

サブロウタは頭をかきながらシミュレーターに入る。

ここから先は、パイロット同士の時間だ・・・

リョーコとサブロウタの訓練は夜中まで続いたのだった。

 

 

 

 

バー『花目子』・・・ステージでは、名物ママがウクレレをかき鳴らしていた。

もっとも、飲みに来ている客はそんなママのステージなど

見向きもせず、ホステスと飲んでいる。

そんな中、カウンター席では一人でウィスキーをロックで飲んでいる

サラリーマン風の男性がいた。

「ママの知り合いですか?」

バーテンがそのサラリーマン風の男性に問いかける。

「いえ、戦友です。」

やがて、ママがステージを終えカウンター席にやってくる。

「久しぶり、プロスさん。」

「ええ、イズミさんも・・・」

イズミはプロスの横に座ると、バーテンがウィスキーを差し出す。

「ありがとう。」

バーテンは黙ってコップを洗い始める。

「で?何があったの?」

イズミは、ウィスキーを一口飲むとプロスに尋ねる。

「ええ、実は・・・ナデシコに力を貸してほしいのです。」

「良いわよ。」

イズミは即答した。プロスは、まだ何も話していないのに即答をしたイズミに尋ねる。

「まだ・・・何もお話していませんが・・・」

「ナデシコが動くのに理由なんているのかしら?」

「・・・それもそうですね。」

イズミの答えにプロスは満足する。

ナデシコは自分達の艦だ。誰かがそう言っていた。

プロスは契約書を懐から取り出すとイズミに差し出す。

「相変わらずね。」

「契約は命ですから。」

イズミは微笑みながら、プロスの差し出した契約書をロクに読まずサインする。

「よろしいのですか?何が書いてあるか読まずに・・・」

「良いのよ。どうせ今回の戦いは、そんなに長くないんでしょう?」

イズミの問いにプロスは軽くうなずく。

「ですが、敵は強力ですよ。」

「リョーコが負けたんだって?この前、聞いたわ。」

「多数の敵相手ですから、仕方ないんですけどね。」

プロスは、グラスの中の氷を見つめる。

「また、苦労をかけますな・・・」

「良いのよ、私はナデシコが好きだから・・・」

イズミは、バーテンを呼ぶと何事か指示する。

バーテンは、カウンターを出て店の片隅に置いてあるピアノに向かう。

そして、バラードを弾き始める。古い・・・ノスタルジックな曲だ・・・

たしか、20世紀の”カサブランカ”という映画の中で使われていた曲だったとプロスは記憶していた。

オールドムービーファンのバーテンが好んで弾く曲だった。

「・・・心に染みますなぁ・・・」

「ええ・・・そうね・・・」

店にいた他の客も、ピアノの音に聞き惚れていた。

その夜・・・イズミは従業員達に店を閉める事を宣言した。

もちろん、再就職先はネルガルが保証するとプロスから説明があった。

しかし・・・従業員達はイズミの帰りを、この店で待つと言った。

イズミの帰ってくる場所は、この店なのだとプロスは思った。

「人は皆、帰ってくる場所を持っている・・・ですなぁ。」

「プロスさん・・・みんな、ありがとう。」

イズミは深々と頭を下げるのであった。

 

 


 

作者:はい、ということで機動戦艦ナデシコReTry 第2部、第3話をお届けしました。

カズマ:どや、ワイの活躍は!これで全国25万8千7百38人のファンが納得するっちゅうねん。

作者:うわっ!細か!って、そんなにファンが居たのか?

カズマ:細かいことは気にしたらアカンで。それより、とうとう出しおったな。

作者:コースケ達の事?

カズマ:せや。まさか、このままレギュラー獲得するんちゃうか?

作者:いや、多分無い。彼らは単なるゲストキャラだから・・・

カズマ:そのうち、清純風武闘派アイドルとか出すんちゃうか?

作者:おお!そのキャラがいたか・・・でも、俺は凛ちゃん派だからなぁ・・・

カズマ:また、ベタなキャラを・・・

作者:あ、でも舞穂ちゃんも良いしなぁ・・・あ、玖里子さんも捨てがたいし・・・

カズマ:だぁぁぁ!!誰でもええんちゃうか!

作者:この際、2年B組をだしちゃおうか?

カズマ:ラピスだけでも手一杯やっちゅうねん・・・

作者:と、言う事で・・・次回、機動戦艦ナデシコ Re Try 第2部 第4話をお楽しみに!

カズマ:ワイらの出番が益々増えるっちゅうことやな?

作者:え?そ・・・それは・・・

 

 

代理人の感想

むー、元ネタ探し大会と言うか。(笑)

まぁ、割とメジャーなタイトルばっかりなんで難しくはありませんが。

逆に話自体の印象は薄いですけど(爆)