辺りをもうもうたる煙が立ち込め、時々爆発が起きる音がする中・・・

二人の男はお互い向き合っていた。

非常時であるはずなのに二人の顔には、そんな事を微塵も感じさせないものがあった。

一人の男はテンカワ=アキト。もう一人の男はスメラギ=トオル。

「ルリのことが気に入ったと言うのは本当らしいな。」

アキトは先程、ルリが幼い子供を連れて行くとき、スメラギがルリに向けて攻撃を仕掛けなかったことを思い出していた。

「ああ、貴重な実験体だ。しかも美しいからな。苦痛に歪む顔もさぞ美しいだろう。」

スメラギの顔が恍惚としたものに変る。

アキトとスメラギは互いに一撃を浴びせており、アキトの額からは一筋の血が流れ、内臓が悲鳴をあげていた。

対するスメラギは左腕があらぬ方向に曲がっていた。

「あんたと闘っていると時間を忘れそうだよ。」

「俺もだ。」

スメラギはその顔に笑顔を浮かべ、言う。アキトも口元をニヤリとさせる。

「今回は挨拶だけだって言うのに、ここまでやり合うなんて思わなかったな。」

「なんなら、決着をつけようか?」

アキトは少し、ハッタリをかます。本当は、立っているだけでもやっとの状態だ。

「いや、楽しみは後に取っておく主義でね。ルリさんにも、よろしく伝えといてくれ。」

すぐ側では、木連のゲキガンタイプが自爆しようとしている。

「伝えるのは良いが、完全に嫌われているぞ。」

スメラギは少し苦笑して、

「イヤよイヤよも好きの内って・・・」

「ルリは嫌いといったら、とことん嫌いになるからな。」

身もふたも無いアキトの言葉に、がっくりとうなだれながらスメラギは後退する。

「じゃあ、また合おうぜ。今度はお互いに手加減無しでな。」

そう言うと、スメラギは踵を返し、もうもうと立ち込める煙の中に去っていった。

アキトは、スメラギが立っていた方向を見ていたがやがて、ナデシコに通信を入れる。

「ルリ、状況を知らせてくれ。」

通信に現れたルリの表情には、明らかに蒼白と言う言葉が似合っていた。

『だ、大丈夫だったんですか?』

アキトは額から流れる血を拭いながら

「ああ、少しダメージを受けたが、神威の拳があったから、かろうじて退けた・・・と言ったところだな。」

ルリの顔に少し安堵の表情が浮かべられた。アキトはそれを見て、すぐ側に接近していたゲキガンタイプを見る。

「ルリ、アイツは自爆しそうなんだな?」

『はい、残り時間は、もうほとんどありません。』

『まさか、アイツをジャンプさせるつもりなの?』

エリナが突然通信に割り込む。

『ええ、もうこれしか方法がありません。』

ルリがエリナのほうを向き言う。アキトは持っていたCCをポケットから取り出す。

『アキトさん、必ず迎えに行きます。』

「わかった。」

アキトは持っていたCCを、全てゲキガンタイプに投げつけ、月をイメージする。

すると、ゲキガンタイプの上部に空間が発生し、ゲキガンタイプが吸い込まれていく。

数秒後、アキトもその空間に飲み込まれていく。

それにしても、スメラギか・・・強かったな。神威の拳が無ければどうなっていたか・・・

そう言えばミサキさんから預かっていたペンダント・・・まだ持っていたな・・・

アキトがそう思ったのと、ジャンプしたのは同時だった・・・

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 第14話 『熱血アニメ』でいこう Aパート

 

 

 

 

 

アキトは頬に冷たい風を感じ、目を開けた。

―冷たい感じの風?・・・何故だ?月にジャンプしたと思っていたのに・・・

アキトは改めて辺りを見回す。

夕暮れ時だろうか、太陽が沈みかけている。

自分の立っている場所・・・どこかの神社だろうか?石畳の長い階段の踊り場らしい・・・

そして、辺りに人は・・・

「アヤさん?どうしてそんな格好をしてるんだ?」

アキトはすぐ近くにいて、眉間を指で押さえつけている人物に問いかける。

その人物は可愛いと言うより美人、美人と言うよりはハンサムといった表現が似合う、セーラー服を着た女子高生であった。

長い髪をやや高めの位置でまとめ、ポニーテールにしているその姿は侍を髣髴させ、背中には竹刀袋を背負っている。

「どうして、私はこんなに何も無い空間から出てくる人物に、縁があるのかしら・・・」

「あの〜、アヤさん?」

ぶつぶつ文句をいっている女子高生に、恐る恐る問い掛けるアキト。

「あのねぇ、私の名前はアヤなんて名前じゃないわよ。

私の名前は御剣 涼子。」

「え?」

アキトはまじまじと、御剣 涼子と名乗った女子高生を見る。

確かに、アキトの知っている人物より若干、背丈が高い。

「それで?あんたの名前は?」

「あ、テ・・・テンカワ=アキト・・・」

涼子は懐に手を忍ばせ、素早い動作で棒手裏剣をアキトに向かい放つ。

アキトはとっさに手を伸ばし、棒手裏剣を掴み取る。

「あ、危ないじゃないか。当たったら死んでたぞ。」

「問答無用よ。私の知る限り、いきなり光と共に現れる輩に、ろくなのがいないんだから。」

無茶苦茶な理由をアキトは理解できずにいた。

涼子は竹刀袋から赤樫の木刀を取り出すと、アキトめがけて振り下ろす。

アキトは瞬間的に避けるが、涼子はアキトに止めを刺すために、何時の間にか取り出していた特殊警棒を

左腕に持ち、2刀流を駆使してアキトが木刀を避け、無防備となっていた肩口めがけて特殊警棒を突き出す。

アキトに特殊警棒が当たる瞬間・・・

−決まった!

涼子は勝利を確信していた。

しかし、アキトはその攻撃を予測したかのように、特殊警棒を受け止めた。

−本気だ・・・

アキトはそう判断すると、受け止めた特殊警棒をグイッと引っ張り、

涼子の突進力を利用し、体勢を崩して鳩尾に拳を入れる。

涼子はウッとうなり、そのまま倒れこむ。

−・・・一体ここは何処なんだ?どうやら地球らしいが・・・アヤさんに似ている人は居るし・・・

とりあえずこの人を介抱しないと・・・この先は・・・神社みたいだからそこで休ませよう。

アキトは一人で納得すると涼子を抱えて神社の階段を上っていった。

 

 

 

鳥居をくぐり、本堂らしき建物の廊下に涼子を寝かせる。

「しかし、見れば見るほどアヤさんにそっくりだよな・・・

まさか、アヤさんの子供だったりして・・・」

そうアキトが涼子を見ながら呟いていると、石畳の階段から一人の大男が現れた。

アーミーパンツに使い古したTシャツ、革ジャンを着た男だ。手には買物袋を持っている。

「あん?御剣・・・そんなところで寝てると風邪引くぞ・・・」

大男は涼子の方を見てそう言い、続いてアキトを見る。

「お客さん・・・かな?」

「いや、いきなりこの子に襲われて・・・」

大男は頭を抱え、

「それは、すまなかったな。何せ、この娘は自称『世紀末のサムライ』だからな。」

大男が言うのを受けてアキトが恐る恐る尋ねる。

「こ、こんな事を聞くのはアホらしいと言うか、バカにされているのじゃないかと思うかもしれないが・・・今は何年、何月だ?」

大男はしばらく、アキトを見つめていたがやがて、

「今は1996年12月9日だ。ついでに、俺の名前は南雲 慶一郎。」

アキトは愕然とした。そして、つい

「そ、そんな・・・2週間前のつもりだったのが200年前だと?」

その言葉を慶一郎は聞き逃さなかった。

「200年前?と言う事はお前さん、200年後の未来から来たって言う事か?」

アキトは、しまったとばかりに口を押さえるが、もう遅かった。

「大体、時間ならともかく、年月日を聞くなんておかしいだろう?」

アキトは観念して、自分の名前と200年後の未来からきたことを白状した。

ついでに、先程の涼子とのやり取りも慶一郎に聞かせた。

「・・・まぁ、御剣にはトラウマになっていたんだろう・・・」

慶一郎が遠い目で神社の鳥居を見ていた。

アキトは慶一郎にも、何か深い理由があったのだろうと一人で納得していた。

そこに、ボブカットで巫女装束の少女がやってきた。

「慶一郎さん、どうしたの?」

アキトはその少女を見て思わず

「ミ、ミサキさん・・・」

と呟く。少女はアキトの方を向き、

「お母さんの名前を何で知っているの?」

少女は驚きと共にアキトに問い掛ける。

「い、いや・・・すまない。俺の知っている人物に似ていたから・・・」

しどろもどろに答えるアキト。

「こんな所じゃ御剣も風邪を引いてしまうから、取り敢えず母屋の方に行こうか。」

そう言うと慶一郎は涼子を抱えあげる。

「ああ、美雪ちゃん。すまないがこいつを居間まで案内してやってくれないか?

俺の知合いなんだ。」

慶一郎に言われコクンと頷く美雪。

「す、すまない・・・まだ頭が混乱していて・・・」

―過去に来たのは理解したが・・・まさか、この人たちって・・・

ふと気が付くと美雪がアキトを見上げている。

「な、何か?」

「血・・・出てる・・・」

アキトは額に手をやるとその手が血に染まる。

「あ、かすり傷だよ。」

「御剣にやられたのか?」

慶一郎が問い掛ける。

「い、いや・・・ここに来る前にちょっと・・・」

慶一郎はふ〜んと頷いただけで、深く追求はしなかった。

 

 

鬼塚家の居間・・・そこで、アキトは美雪から額の怪我の治療を受けていた。

「服・・・汚れてる。」

アキトはハッとなり、自分の姿を見やる。確かに、ジーンズは膝が破れ、トレーナーは伸びきっており

ルリにもらったマフラーは血と埃で黒ずんでいる。

「しまった・・・ルリに何て言おう・・・」

汚れたマフラーを手に取り、本当に困った表情をしているアキトを見て、美雪はクスリと笑い

「・・・洗えば汚れは落ちる。」

そう言うと、アキトからマフラーを受け取り、トコトコと去っていく。

暫くして、慶一郎が居間にやってくる。傍らには先程、アキトが気絶させた涼子を伴っていた。

「さっきはすまなかった。つい、攻撃がまともに入ってしまって・・・」

「いいわ、まったく・・・どうして私は何時もこうなのかしら・・・」

自己嫌悪に陥っている涼子を無視して、慶一郎が口を開く。

「さっきの話だが・・・200年後からどうやってここに来たんだ?」

いきなり確信を突く慶一郎に対して涼子が反応した。

「に、200年後〜?言う事に事かいて200年後ですって?」

しかし、まじめな顔をしているアキトを見て

「マジ?」

「ああ、信じられない話かもしれないが、俺の居た世界は西暦2196年だ。

ところで、この辺で大爆発とか起きなかったか?」

アキトは自分がジャンプさせた、ゲキガンタイプまでこっちに来ていたら大変だと思い、慶一郎に聞く。

「いや・・・謎のガス爆発事故程度ならあるが・・・」

慶一郎が潰したヤクザの組事務所のことであろう・・・

「大爆発は起きていないんだな?」

「ああ。」

アキトはその事を聞き、ホッと胸をなでおろした。

「・・・さっき、私を見てアヤって言ったわよね。」

鋭い視線でアキトを射抜く涼子。アキトは、話していいものかどうか迷った。

「御剣・・・タイムパラドクスって知ってるか?」

慶一郎は困惑しているアキトを見かねて涼子に言う。

「何それ?」

「俺も詳しい事をごちゃごちゃ言えるだけの知識なんて無いが

例えばお前が過去に行って、まだ結婚前のお前の父親を殺したとしよう。

そうしたらどうなる?」

「私は生まれてこない・・・」

「そうなったら、おまえ自身の存在が無くなってしまうって事だ。」

「あまりピンと来ないわね。」

アキトの姿を見て涼子が言う。

確かに、アキトの姿はボロボロでともすれば、言っている事は妄想かもしれないからだ。

「じゃあ、そのアヤって人は私の子孫・・・そういう事?」

「多分な。」

アキトはあまりにも似すぎているその姿から、間違いなく涼子の子孫はアヤだと確信した。

−しかし・・・ミサキさんの先祖はあの少女だという事だろうか・・・ナグモ=ミサキ・・・南雲 慶一郎・・・南雲・・・ナグモ・・・

「ところで、200年後の世界から来たんだったら、帰る方法はあるんだろうな。」

慶一郎がなにやら考え事をしているアキトに問う。

「あ、ああ・・・その事だが・・・」

アキトが話し掛けたその時

「・・・着替え。」

美雪がアキトの着替えを持ってきた。

「美雪ちゃん、着替えって言っても・・・」

慶一郎は、自分の服だとアキトにはサイズが違いすぎると思い、美雪に問い掛ける。

「お父さんの服。」

「いいのかい?美雪ちゃん。」

慶一郎が美雪に問い掛ける。美雪はコクリと頷き

「その方が、お父さんも喜ぶから・・・」

その言葉でアキトは全てを察した。

−彼女の父親は亡くなっている・・・

「・・・本当に、良いの?」

アキトはもう一度、美雪に問い掛ける。

美雪はアキトの着替えをアキトに手渡すと、居間から出て行った。

「美雪ちゃん・・・本当にいいのかな?」

涼子が、美雪が立ち去っていった方を見て言う。

「・・・やっぱり、着ないほうがいいのかな?」

アキトは慶一郎に向かい言う。しかし慶一郎は首を横に振り

「せっかく、美雪ちゃんが持ってきたんだ。着ない訳にはいかないだろう。」

「そうだな。」

そう言うと、アキトは美雪が持ってきた服に着替えるため、隣の部屋に入っていった。

「どう思う?あんたは。」

涼子が慶一郎に言う。

「あんたって・・・仮にも担任の教師に向かって、あんた呼ばわりは無いだろう。」

「ここは、学校じゃないんだから良いでしょう?」

涼子がしれっと言う。

「正直言うと、まだ信じられない。だが、お前を一撃で倒した実力は使えるな。」

「まさか、あのバカとやり合わせようなんて考えていないわよね。」

「その、まさかさ。」

慶一郎は笑みを浮かべた。

「ま、最近あのバカも調子付いているから、丁度いい刺激になるわね。」

「そう言う事だ。」

そこまで言うと、アキトが着替えを終えて居間に入ってきた。

「何の話です?」

「なんでもないわよ。」

「それより御剣、夕飯は食べていくのか?」

「こんな時間だし、食べていくわ。」

慶一郎の問いかけに即答する涼子であった。

「じゃ、適当にくつろいで居てくれ。」

そう言うと、慶一郎は台所に向かっていった。

「・・・あの人が料理を作っているのか?」

「そうよ、世界放浪中に料理の腕を上げたんだって。」

そう言われ、慶一郎に興味が湧いたアキトは、スッと立ち上がり台所に向かっていった。

「あんた、何するつもりなの?」

「ここまでお世話になった礼をしようと思って。」

そう言うと、台所に入っていった。

「何か手伝いましょうか?」

「いや、お客さんに手伝ってもらうなんて出来ないさ。」

そう言いながらも、見事な包丁捌きを見せる慶一郎に、アキトのコック魂が燃え上がる。

「俺、これでもコックですから。」

「そうかい?専門は?」

「中華です。師匠は世界中のどの料理でも出来ましたけれど、俺は中華が精一杯でしたから。

まぁ、中華といってもラーメン屋ですけどね。」

アキトはそう言いながら手を洗う。

「そうか、自分の店を持っているのか?」

「いや、屋台っす。」

アキトがそう言うと

「ほう、屋台でも立派な店じゃないか。」

「ありがとう。」

そう言いながら二人は鬼塚家の料理を作り始めた。

 

 

 

 

鬼塚家の食卓・・・鬼塚家の当主たる鬼塚鉄斎をヒエラルキーの頂点とし

さまざまな人間模様を繰り広げる場所である。

ここには現在、鬼塚 鉄斎、鬼塚 美雪、御剣 涼子、南雲 慶一郎、そしてテンカワ=アキトが食卓を囲んでいた。

「鉄斎先生、先程話したテンカワ=アキト君です。」

慶一郎は鉄斎に暫くアキトを預かるよう頼み込んだ。

鉄斎は何も言わず頷くのみであった。慶一郎を信用しているからでもあったからだ。

「すみません、突然押しかけてしまいまして。」

「いや、ワシの弟子が失礼をしたようだ。」

鉄斎は涼子を一目見て言う。

「しかし、御剣の攻撃をかわして一撃を入れるとは・・・お主、やるな?」

鉄斎はむしろその事に興味が湧いていた。

「そうよね、あんたのあの技・・・なんていうの?柔術に近かったようだけど・・・」

「ほう?」

鉄斎は、アキトを値踏みするようにアキトを見る。

「た、たまたま拳が鳩尾に入っただけですよ。」

アキトはコメカミに冷汗を流しながら弁明する。

アキトの目から見ても鉄斎は明らかに自分より強く感じられる。

「・・・アキト君、後で話があるのだが、道場まできてくれないか?」

「何だ、慶一郎。抜け駆けするつもりか?」

鉄斎はギロリと慶一郎を睨む。アキトは先程の話の続きを、慶一郎がしたいと思っていると察した。

「そんなつもりはありませんよ。こいつは本業としての話ですから。」

「本業?」

頭にクエスチョンマークを浮かべてアキトが問う。

「ああ、こいつはうちの高校の教師なの。」

「・・・格闘技の?」

アキトは慶一郎の図体を見ながら言う。

「英語教師だ。」

むっつりとして慶一郎が言う。

「・・・マジで?」

たっぷり20秒後にアキトが隣の涼子に尋ねる。

「とても見えないけれどね。」

涼子が言うと美雪はくすくすと笑っている。

「ここで話をしても構わん。」

鉄斎が言うと、慶一郎は少し逡巡したがやがて、口を開く。

「・・・明日から、うちの高校に来ないか?」

「高校?」

アキトは自分の高校時代を思い起こす。

―確か・・・高校は1年で中退したんだった・・・木連が攻めてこなければ今ごろは大学生くらいか・・・

「・・・高校生なの?」

美雪がアキトに問い掛ける。

「いや・・・色々あって高校は中退したんだ。」

「色々?」

美雪が不思議そうな顔をする。

その日、鬼塚家の食卓はアキトの話題で持ちきりになった。

アキトは久々に家族揃っての食事を味わった。

 

 

 

静寂があたりを支配し、ピンと張り詰めた空気が漂う中

アキトは慶一郎に言われた通り、鬼塚家の道場にやってきた。

慶一郎はそれまで、自己流の鍛練をしていたがアキトがやってくると

鍛錬を止め、アキトを招き寄せた。

「アキト君、聞きたいことは山ほどあるが、まず君の実力を見せてもらおうか。」

「ちょっと、いきなりなんですか。」

アキトは狼狽して慶一郎に言う。

「君は戦争をしてきたね?」

ギクリとなるアキト・・・

「しかも多くの人を殺してきた。」

「何故そう思う?」

アキトは慶一郎を見ながら言う。すでにアキトは慶一郎に対し、油断無く構えている。

「俺も前、傭兵部隊にいたことがあるから判るんだが・・・戦争をやっている奴の匂いってもんはすぐにわかる。

それに、御剣を一撃で倒した実力に興味があってね。」

慶一郎にとって、未来の事などどうでも良かった。

涼子の言っていた柔術らしき技に興味があるだけだったのだ。

「じゃぁ、行きますよ。」

アキトは自分よりも頭3つは違う慶一郎に対し、戦闘態勢を取った。

―南雲 慶一郎・・・この男・・・強い・・・

アキトは出会った時から慶一郎の実力が、桁外れだと感じていた。

そして、慶一郎も油断無くアキトを見ていた。

「だっ!」

アキトの放った蹴りは慶一郎の足元を狙ったものだ。その巨体では素早い動きは出来ないと踏んだ一撃だったが

慶一郎は、いともあっさりアキトの攻撃を避け、逆に丸太のような腕をアキトに向ける。

アキトは慶一郎の拳を避けながら慶一郎の懐に入り、慶一郎の顔面めがけて逆に拳を放つ。

しかし、慶一郎はその攻撃すら避けた。そして、慶一郎はアキトのボディを狙い膝蹴りを入れるが

アキトは避けられた拳をそのまま慶一郎の肩に起き、突進の勢いを利用してそのまま慶一郎の頭上を飛び越え

慶一郎の背後に立つ。慶一郎はすぐさま振り向きアキトに言う。

「ふむ、いかにダメージがまだ残っているとは言え、ここまでの力があるとは。」

アキトはギョッとして慶一郎を見る。

「気付かないと思っていたのか?ボディに一撃を食らっていて、なおこんな動きができるとは・・・」

「その事を俺はあんたに話したか?」

慶一郎は首を横に振り、

「なぁに、無意識のうちに、ボディを庇っているのが判ったからそう思っただけだ。」

アキトは慶一郎の洞察力にいたく感心した。そして、気を落ち着け独特の呼吸法を始める。

「!!神威の拳!!一体何処でそれを!」

「・・・詳しくは言えないが・・・恐らくあんたの子孫だろうな。」

アキトは神気を拳に集中させる。

「そうか、ならこっちも遠慮なく行かせてもらおう。」

そう言うと慶一郎も独特の呼吸法を始める。

―間違いないな。この大男がミサキさんの先祖だ・・・

アキトはそう確信した。

お互いの体から金色の神気が立ち込める。

「神飛拳!」

「龍威拳!」

お互いの技がぶつかり合い、一瞬均衡を保っていたが・・・

「ぐはぁ!」

吹き飛ばされたのはアキトであった。

「ふぅ、中々やるな。だが、神気の練りこみがまだまだ甘い。」

慶一郎は、吹き飛ばされたアキトを見て言う。

しかし、その頬につうっと一筋の血が流れる。

―まさか、さっきの一撃がかすめていたのか?

慶一郎は、アキトの底知れない実力に戦慄した。

と、同時にアキトの力になってやろうと、柄にも無い事を考え付いていた。

「ぐ・・・かはっ!」

アキトがどうにか立ち上がろうとしている。

「無理するな。ダメージが足にきている。」

「さ、さすがですね・・・ミサキさんの一撃より・・・強い・・・」

慶一郎は、なんとなくアキトの言っているミサキと言うのが、自分の子孫ではないかと思った。

「ほう?その人がアキト君に神威の拳を教えたのか。」

「・・・そうだ。」

アキトは立ち上がる事は不可能だと判断し、その場にしゃがみこんでしまった。

「まぁ、詳しくは聞かん事にするが・・・初歩の神威の拳では俺を倒す事など出来んぞ。」

「初歩?」

アキトが怪訝な顔つきで慶一郎に問い返す。

「ああ、神威の拳は奥が深いのさ。たとえば、神気を練りこむとこういったことが出来る。」

そう言うと、慶一郎はその巨体に似合わない神速の歩法を見せる。

「旋駆けと言う。神気を練りこむと慣性や重力すら中和する事も出来る。」

そう言いながら慶一郎は、空中に浮かんで見せた。

アキトはきょとんとしているが、やがて慶一郎に

「お願いだ。神威の拳について詳しく教えてくれ。」

その瞳に、並々ならぬ決意を感じ取った慶一郎は黙って頷くのであった。

―皆を護る為に俺は強くならなくてはならない・・・

アキトはスメラギと闘った時、苦戦した自分が許せないでいたのであった。

 

 

 

大門高校・・・都立高校であるにもかかわらず自由な校風は、全て校長の藤堂 鷹王の人となりに集まっていた。

マカボニーの机に両肘を付き、サングラス越しに慶一郎を見ている姿は、まさに悪の首領そのものと言っても過言ではなかった。

「・・・南雲君、無茶を言わんでくれ。」

「そこを何とか。編入が無理なら短期留学とか・・・何とかもみ消してくださいよ。」

慶一郎はアキトを鍛えるためには実戦経験が一番だと判断し、大門高校への編入を目論んだ。

「もみ消すって・・・まるで、私がいつも事件をもみ消すかのような発言は止めたまえ。」

「もみ消しているでしょうが。・・・何なら例の件も踏まえてKファイトで片をつけますか?」

アキトはただ黙って見学するしかすべが無かった。

―この状況では口は鋏めないな。それにしても高校生活をこの年になって経験できるとは・・・

アキトはすでに状況を楽しむ側になっていた。藤堂はしばらく考え込んでいたが、やがて

「・・・わかった。Kファイトでケリを付けよう。対戦相手は・・・空手部で良いか。」

そう言うと藤堂はどこかに連絡を取り始めた。

「・・・ああ、私だ。至急、委員会全員を集めてくれ。<ひょっとして、新しい挑戦者ですか?>

・・・そうだ、Kファイトを行う。今日の放課後、場所は体育館。

対戦カードは空手部対テンカワ=アキトだ。<テンカワ=アキト?どんな技を使うんですか?>

・・・そのくらいの情報は自分達で集めたまえ。では、頼むぞ。」

そう言うと、藤堂は受話器を置きアキトに向かい

「話は聞いてのとおりだ。君が空手部全員に勝利する事が出来たら、君の留学を認めよう。」

藤堂は受けられた側が、対戦内容を決定するシステムを利用して、

慶一郎の目論見を潰す算段をした。まともに戦っても、慶一郎に勝てる見込みは無いのだが

慶一郎が出てこなければ、勝算は自分にあると思ったのだった。

藤堂校長の打算が、その表情をただでさえ悪の首領に見えるのだが、今日は更に不気味なこと極まりなくなっていた。

 

 

大門高校の昼休み・・・期末考査試験も終了し、開放感あふれる人々の喧騒は

ある放送により、いっそう大きなものとなった。

ピンポンパンポ〜ン

『Kファイト実行委員会より連絡します。

本日の放課後、体育館においてKファイトスペシャルマッチを開催いたします。

対戦カードは南雲 慶一郎 対 藤堂 鷹王の代理戦争、

テンカワ=アキト 対 空手部全員と言うカード。

悪の首領の刺客が勝つか、はたまた地上最強の男の刺客が勝つか、

見所ある一戦です。』

放送が終わると、一斉にKファイトの話題で持ちきりとなった。

「ねぇ、涼子ちゃん。どうして頭を抱えているの?」

食堂でキツネうどんを食べていた涼子は、放送が終わると同時に頭を抱えていた。

−いくらあのバカとやり合わせるためだけに高校に連れてきたからって、いきなりKファイトは無いでしょう・・・

涼子に声を掛けた人物、結城ひとみは何故、涼子が頭を抱えているのかわからず、困惑していた。

「ったく・・・いくらあのバカと戦わせる為とはいえ・・・」

「涼子ちゃん、何か知っているの?」

ひとみは、あからさまに不機嫌な顔をしている涼子に尋ねる。

「あ、空手部の対戦相手にちょっと心当たりがあるから・・・」

「何?訳あり?」

ひとみが興味津々の顔つきで涼子に問う。

「涼子さん、テンカワ=アキトの事を知っているんですか?」

突然声を掛けてきたのは、ちょっと間違えば中学生にも間違われるのではないかと思われるほど

童顔で、さらさらの髪の毛には天使の輪が浮かんでいる

大門高校における厚顔の美少年こと、神矢 大作であった。

「大作君、そんなの直接本人に聞けばいいじゃないの。」

涼子が至極当然のことを言う。

「その本人が見えないから、涼子さんに聞いているんじゃないですか。」

少し頬を膨らませながら抗議する大作に指を突きつけ

「何言ってるの。テンカワ=アキトならあんたの後ろにいるじゃない。」

そう言うと涼子は、食べかけのキツネうどんを食べ始める。

大作とひとみは涼子が指差した方向を見る。

そこは確か厨房だったはずだが・・・と二人が思いながら振り向くと、普段見慣れない顔がそこにあった。

「う〜ん、確かにコックを目指していただけあって味付けも絶妙ね。」

涼子の一言でその見慣れない男が・・・しかも食堂で、料理を作っている男がテンカワ=アキトだと

大作とひとみは確信したのであった。

 

 

 

話は少しさかのぼる。校長室でいきなりKファイトの対戦云々を聞かされたアキトは、当然慶一郎にKファイトとは何かを尋ねた。

「Kファイトと言うのは、学校内で起きるトラブルを合法的に解決しようとしたシステムだ。

Kファイトは挑戦を受けた側がルールを決定できるシステムで、

例えば100m走であったり、将棋だったり・・・」

「格闘技だったりと言うわけか。」

アキトは慶一郎の言わんとする事を察し、そう発言した。

「ま、そう言う事だ。」

「ちなみにKファイトのKと言うのは?」

「ケンカのKだそうだ。」

アキトはやっぱり・・・と言う顔をして慶一郎に再び問い掛ける。

「俺をこの学校に連れてきたのには訳があるんだろう?」

「ああ、この学校にはもう一人神威の拳の使い手がいてな。

そいつの相手を君にしてもらいたいと思ってな。」

慶一郎は相手は獣のような奴だと言った。

「・・・そいつの名は?」

慶一郎から話を聞くうち、自分の知っている人物にそっくりだと感じ始めていた。

アキトは、自分の考えが当たっていないように祈りながら慶一郎に問い掛ける。

「ああ、草g 静馬。現在のKファイト提唱者でもある。」

やっぱり〜!

いきなり頭を抱えるアキトを見て慶一郎は

「ま、まさか・・・御剣や俺に加え草gの子孫も・・・」

「・・・ああ、多分そうだ。」

あまりの偶然に、お互い頭を抱える慶一郎とアキトであった。

「・・・ところで、放課後までどうする?」

慶一郎はアキトに言う。現在はまだ10時をまわった所だ。

「何処か適当なところで休んでいるよ。」

「そうか、じゃあ放課後になったら、あそこに見える体育館に来てくれ。

俺は仕事があるからな。」

そう言うと慶一郎は教室に向かい歩いていった。

「あの姿は教師としては反則だよな・・・」

アキトはとりあえず食堂で休む事としたのであった。

 

 

「で?それがどうして食堂でまかないをやっているの?」

涼子がアキトに鋭いツッコミをする。

「いや、忙しそうだったからつい・・・」

実は、アキトにインプットされている食堂勤務魂が食堂で忙しそうにしている人たちを見て

『手伝いましょう』と廻りの従業員が止める間もなく包丁を握り、たまねぎを刻んでいたのだった。

「涼子さん、そろそろ良いでしょう?僕にも話させてくださいよ。」

そう言いながら、大作は涼子の隣にやってくる。

涼子は露骨に嫌な顔をする。身長差が有りすぎるため、大作が近くに立つと一際涼子が大きく見えるためであった。

「テンカワ=アキトさんと言いましたよね。空手部全員に勝つ自信はあるんですか?」

「有るに決まっているでしょう。何しろこいつは、私を一撃で倒す実力があるんですから。」

涼子が大作の隣から口をはさむ。大作とひとみはひとしきり驚いた。

まだ皆伝まで至っていないとは言え、涼子は飛天流剣術の使い手である。

その涼子が一撃で倒されるとはよほど油断していたか、相手の実力が高かったかのどちらかである。

涼子に限って油断する事は、最近なくなってきており、ひとみと池袋まで出かけても

以前では苦戦していた相手でも、今ではあっさり撃退するほどになっていたからである。

「い、いや・・・その・・・」

大作とひとみがあまりにも騒ぐのでアキトは困惑していた。

「二人とも、騒ぎすぎよ。」

涼子が静かに言う。その言いようが、あまりにも冷たい声だったので二人は一瞬で固まってしまった。

「いい、空手部を全員倒したら、次は私の番だからね。」

涼子は静かにそう言うと、残っていたキツネうどんの汁を全部飲み干し、颯爽と歩いていった。

「あ〜あ、涼子さんを怒らせてしまいましたね。」

「ああなると、涼子ちゃん手がつけられないわよ。」

大作とひとみはアキトに言うが

「・・・ま、何とかなるだろう。」

と一言いい、食堂の仕事に専念していった。

 

 

 

そして、放課後・・・

「さぁ、やってまいりました大門高校名物Kファイト!

今回のカードは南雲 慶一郎 対 藤堂 鷹王 です。

ご存知の通り、Kファイトには挑まれた側に選択権があるわけですが

何をトチ狂ったか空手部全員を手駒にして代理戦争を仕掛けると言う

まさに悪の首領のお手本となるべき事を平気でやってのけたのは

わが大門高校の校長だ〜!」

「君は私を誉めているのかね、けなしているのかね。」

「だまれ、グラサン。」

ぴしゃりと言われ、解説席で黙り込む藤堂を尻目にアキトは慶一郎に

「いつもこんな感じなのか?」

「ああ、気にするな。いっている事は大体事実だ。」

慶一郎はにべも無くいう。

「さて、校長の手駒は空手部全員と言う事ですが対する南雲 慶一郎の代理人は

はっきり言ってデータ不足ですが一部情報によると我が校のタカラジェンヌ、

大門高校が誇る世紀末のサムライ、御剣 涼子を一撃で倒した実力を持っているとの噂です。

果たして、裏では絶対何かやっている、悪の首領たる校長の手先、空手部が勝つのか。

はたまた、地上最強の教師、人間サイズの怪獣、教師のコスプレが一番似合わない教師

南雲 慶一郎の代理人、テンカワ=アキトが勝つのか。注目の一戦が今始まります。」

そのアナウンスを聞いた藤堂は解説席近くにいた涼子に青い顔をして

「御剣君、その話は本当かね。」

「ええ、不本意だけどね。」

そう言うと、藤堂は自分の打算が崩れたのではないかと思い始めていた。

「・・・あんたの事・・・無茶苦茶言われてるぞ・・・」

「・・・まぁ、言われる事は大体当たっているから・・・」

アキトは慶一郎に言うが慶一郎はいつもの事だからと放っておいた。

「たった今入った情報によりますと、御剣 涼子を倒した事は事実だそうです!

これはまさしく、悪の首領が『そんなはずじゃなかったのに〜』と、叫びながら逃げるパターンだ!

まぁ、このスルメ親父がそんな事をしても可愛くありませんが。」

「本名を言いたまえ、本名を!それに私はスルメ臭くない!」

「煩いグラサンは放っておいて、Kファイト!開始です!

ルールは相手を気絶、あるいはダウン後10カウントで勝負を決めます。

絞め技、関節技、投げ技、ダウン攻撃を含む、すなわち何でもあり『バーリ・トゥード』のストリートファイトルールです!」

アキトは怪訝な顔をして、

「何でもありって言うのは・・・」

「言い忘れておりました!この何でもありと言うのは相手を殺したり

急所を攻撃したり、一瞬で再起不能に陥れる技は含まれておりません!」

アキトの言葉を途中でさえぎり、環は更にギブアップあり、急所及び背面への攻撃、相手を死に至らしめる技は禁止と宣言した。

「・・・結構不便なルールだな・・・何でもありというのに・・・」

「お前もそう思うか・・・」

慶一郎とアキトは、お互い使える技が少なくなるよな、と愚痴を言い合っている。

「君達・・・一般的に殺人は今のご時世ではご法度だよ。」

藤堂が顔に縦線を入れながら、解説をしている。

ギャラリーも大きく頷いていた。

「ルールの確認は良いですね?それでは、Kファイト!レディ!ゴー!」

そして、ゴングが体育館に鳴り響いた。

空手部は全部で13人、その中でアキトは一番強そうな人物を探した。

そして、一人ほどがっしりした体型をした一人の男を見出した。

普通に考えれば13対1の闘いである。空手部が負ける訳はないと踏んでいたギャラリーだが

一人だけ慶一郎は違う考えをしていた。

―・・・昨日のアキト君の動きは明らかに1対多数を想定したものが多かった。

一撃必殺を信条としているから、空手部には可哀想だが全員、気絶だな。

慶一郎が思いにふけっていると、アキトの周囲は空手部により完全に囲まれてしまった。

しかし、アキトはそんな事などお構いなしに先程からずっと一人の男を見ていた。

「この中で一番できるのはあんただな。」

アキトは無造作にそう言う。

「さぁ、テンカワ=アキトが最初に目をつけたのは、なんと空手部主将の古賀 大地だ〜!

他の部員になど目もくれていません!無視です!完全に無視してます!」

環のアナウンスに逆上したのか、空手部が一斉にアキトに向かい襲い掛かる。

しかし、アキトは一瞬で空手部の同時攻撃を避け、それぞれに攻撃を加えていく。

「あ〜っと!空手部1年、次期主将の噂も高い平井 守!ダウン!

テンカワ=アキトの見事なカウンター攻撃!それにしても・・・

まるで、戦いの中で踊っているかのようです!」

まさに、その言葉がしっくり来るであろう。アキトは相手を殺さないように、手加減をしていた為

相手の攻撃を受け流し、その力を利用して、あるものは味方同士で接触し、戦闘不能となったところにアキトが別の空手部員を投げつけ

また、あるものは味方同士の接触で攻撃の糸口をなくしていたところにアキトの攻撃を受けて吹き飛ばされ

そのまま気絶し、あっという間に空手部は壊滅してしまった。

「い・・・一瞬で12人の空手部員を!?バ、化物か!」

空手部顧問の金田が青ざめる。本来であれば、藤堂の我侭から始まった戦いで

相手が素人だと思っていた為、2、3人で軽く揉んでしまえと言っていたのに

アキトの挑発に乗り、古賀以外の全員が同時に襲い掛かったと言うのに・・・

大門高校の空手部は全国でもトップクラスの実力がある。その空手部全員を

一瞬で叩きのめしたのだ・・・こんな芸当が出来るのは、慶一郎ぐらいのものだろうと思っていたからだ。

「なるほど、相手の力を受け流し、同時に二人以上の敵を倒す・・・乱戦では空手は結構不利だからな。」

それまで静観していた・・・正確には乱戦となった戦いに加わるのは、

自分の力を半分も出せないと判断した古賀の英断でもあった。

「だが、それも相手の攻撃があってからだ。自ら動くのではない後の先ってとこか。」

「さて、どうかな?」

アキトが先程から、自ら攻撃を仕掛けていない事を察した古賀はアキトに1対1を挑む。

古賀は両足を左右に開き、拳を顎の高さに構えた。

どっしりとした構えは、典型的なストロングスタイルでは有るが

流石に一部の隙も感じさせなかった。

古賀はアキトとの間合いを取り、自らのリーチを生かした戦いをしようとした。

しかし、アキトは古賀の言葉を否定するように自ら動き始める。

古賀は反射的に向かってくるアキトに対し、正面から拳を繰り出す。

しかしアキトは最初からその攻撃が分かっていたかのように、古賀の拳を避けながら

古賀の首に飛びつく。そして、古賀の背後に立ったアキトは古賀の首を支点にして

古賀を持ち上げ、そのまま古賀の頚動脈を絞める。

古賀の顔が見る見る青くなっていき、アキトの腕を叩いたところでアキトは腕をほどいた。

古賀は貪るように空気を吸い込むが、目の焦点は虚ろになり、唇も青紫色をしている。

審判をしていた柔道部顧問の小関は大きく手を振り、古賀のギブアップ負けを宣言した。

「テ、テンカワ=アキトの勝利です!

空手部主将古賀の一撃を見事に返しました。」

「古賀君の一撃は全国トップレベルだ。しかし、その攻撃を避けたとなると

アキト君の実力は相当のものがあるね。」

「おお!グラサン親父がまともな解説をしています!」

周囲の喧騒をよそに、慶一郎と涼子が話をしている。

「ねぇ、昨日も思っていたんだけれどアイツの闘い方ってちょっと異様じゃない?」

「ああ、御剣も気が付いたか。アキト君の戦い方は古賀が指摘した通り、後の先だ。いや、それだけじゃないと思うがな。

・・・ところで御剣・・・相手と向き合ったとき、相手の攻撃をどうやって読む?」

慶一郎に問われ涼子は少し考え込むがやがて、

「う〜ん・・・相手の筋肉の動きとか目線で何処に攻撃を仕掛けようとしているかを見て・・・かな?」

「俺もそうだ。まぁ、相手の位置関係なんかは相手の気を探って掴んでいるが

アキト君はその方法じゃない。」

自らが倒した空手部員や古賀を気遣っているアキトを見ながら、慶一郎は続ける。

「俺も昨日、対戦してみたが実力は御剣のほうが上だろう。

だが、10回中9回はアキト君が勝つだろうな。」

「何ですって!」

涼子は慶一郎の胸倉を掴んで言う。

「まぁ、落ち着け。」

慶一郎は、涼子の腕を自らの胸倉から外しながら言う。

「アキト君は、一瞬先の事がわかるんだろう。」

「はい?何ですって?」

涼子は信じられない思いでいた。

「考えても見ろ、いかに後の先といっても、周りを取り囲んだ相手の動きを全部理解できるか?

アキト君は知っていたんだんだよ。空手部の皆が次にどう動くかを。」

「そ、それって・・・」

「ああ、武道家にとっての一瞬は命取りになる。そういった戦いを日常的にこなしていたんだろう。

でなければ、あれだけの技術を身に付ける事など出来ないだろうからな。」

本人は気付いていないだろうがな。と慶一郎は言葉を続けた。

アキトは、Kファイト実行委員会を中心に新聞部や報道部に質問攻めにあっていた。

人間、質問攻めにあうと誰かにすがりたくなるものだ。アキトは、慶一郎に救難信号を目で送るが、慶一郎は自分で解決しろとばかりに目をそらす。

アキトは絶望的な戦いを経験する羽目になる。

「ところで、一回はどうやったら勝てるの?」

「・・・アキト君が攻撃を避けるのではなく、受け止める状況を作り出す。

ヒントはここまでだな。」

「いいわよ、それで。これから先は私自身が考えてみる。」

慶一郎はその言葉を受けて、涼子の肩を叩き

「まぁ、頑張る事だな。」

「何処行くの?」

「なに、大人気ない事をしてしまった後片付けさ。」

そう言うと、慶一郎は解説席に座っている藤堂の下に行き

「これで、文句は無いですね。アキト君を俺のクラスに留学生として転入させます。それと、例の件ですが・・・」

藤堂は苦虫を噛み潰したような顔をして

「好きにしたまえ。ただし、3学期に入ってからだ。」

と短く言う。

慶一郎が藤堂のもとから離れてしばらく経ち、藤堂は呟く。

「・・・まったく・・・四葉中学への再研修を断られたからと言って・・・」

どうやら、慶一郎にも私情があったようだ・・・

 

 

 

その日・・・草g 静馬は姿を見せなかった・・・

 

 

 

 


 

アキト:性懲りも無くまた・・・今度はそのまんま、リアバウのキャラが出てきてるし・・・

作者:元々、この話を入れたくて、この連載はじめたようなものだから・・・

アキト:しかも、無理が無いか?この設定。

作者:その為に、ミサキからペンダントを受け取っていただろう?

アキト:ジャンプフィールド発生装置で元の時代に戻れるんじゃないのか?

作者:そんな過去の設定なんて忘れた。と言うより、デートするときにそんなもの持っていくか?コミュニケがあれば連絡が取れるんだから。

アキト:ミサキさんの祖先は慶一郎ではなかったのか?

作者:慶一郎×美雪・・・慶一郎が誰と一緒になったかは便宜上こうさせてもらった。ミサキのイメージは美雪を少し大人にしてロングヘアにした感じかな。

アキト:まぁ、駄目人間度150%だからな。美雪の猫耳にすっかり感化されて・・・

作者:ほっとけ!

アキト:ネタばらしだな。「い・・・一瞬で12人の空手部を!?ば、化物か!」・・・これって・・・

作者:ファーストガンダムの有名なシーンの一つ。

アキト:宇宙に出たガンダムがリックドム隊を一瞬で葬り去ったシーンだな。

作者:まぁ、多数対一なんて無茶をやるところは一緒だよね。

アキト:なんか、先読みの能力なんて作って・・・

作者:どうも、筋肉の動きとか気の流れっていわれても、納得できないだろうから・・・自分自身納得出来ないしね。

アキト:それで先読み・・・一瞬後の事がわかっても何にも出来ないと思うんだけれど・・・

作者:そんな事は無い。例えば右ストレートが来ると判っていれば、よける事だって反撃する事だって出来る。

アキト:反応できるからって運動能力が上がるわけじゃないだろう?

作者:まぁ、イメージとしては新世紀GPXサイバーフォーミュラの中に出てくる”ゼロの領域”ってところかな。

アキト:アレは普通じゃ見えないものが見えてくる、知覚の限界って設定じゃ無かったっけ?

作者:似たようなものだろう。たとえ先のことがわかっていても、自分の運動能力に限界はあるんだから。

アキト:しかし、多くのSS作家が敬遠する話を本編として取り入れるとは・・・

作者:見直したかい?

アキト:あきれるだけだ。大体、収束つかなくなるんじゃないのか?

作者:ちゃんと帰還経由は考えてあるって。

アキト:コールドスリープとか?

作者:まぁ、それも一つの手ではあるけれどね。

アキト:多分、あの方法だろう?

作者:ま、まぁ・・・事象の螺旋でってとこかな?

アキト:前回みたいにダラダラと長引くんじゃないのか?

作者:いや、今回は3話くらいを目標にしているから。

アキト:前回も最初のプロットでは1話完結だったような・・・

作者:古い話を・・・今回は本当に3話で終わるから。

アキト:そうしないとルリに何をされるか・・・

作者:そ、それは言わないで・・・

 

 

・・・と、言うわけでリアバウ編の始まりです。設定自体は最新刊が出る前に考えていたので

例の大会が開催されていたりホームレス教師になっていません。

 

 

 

代理人の嘘っぱち次回予告

 

ジャンプの先に人の出会いが待っていた。

アヤ、ミサキ、そしてまだ見ぬ神威の拳の使い手が。

Kファイトの喧騒の中、人は涙するしかないのだろうか?

そして藤堂は笑う。「慶一郎無能なり」と。

「機動戦艦ナデシコ Re Try」 次回 「召喚教師強襲」

君は、生き延びることができるか。

 

わかる人だけ笑ってください(爆)。

 

 

ここから代理人の感想

あっはっはっはっは!(爆笑)

こいつぁ一本取られましたね!

まさか、熱血アニメ編をこう持ってくるとは、いやお見事。

 

とりあえず最も気になった事について一言。

 

>慶一郎×美雪

鬼畜め。(核爆)

 

#だってさ〜、年齢差15歳ですよ〜? しかも美雪は作中では14歳だし。

 

それと涼子への説明の部分ですがタイムパラドックスを持ち出すより、

単に「タイムワープ」の話をした方がわかりやすかったんじゃないでしょうか。

「矛盾」は今の所どこにも起きてないわけですしね。

涼子がアレで納得したのがむしろ不思議です(^^;

 

後、文章の文法的間違いが今回は多めだったのでちょっと列挙して見ましょうか。

 

>辺りをもうもうたる煙が立ち込め、時々爆発が起きる音がする中・・・

 「辺りに煙が立ちこめ」か、「辺りを煙が満たし」のどちらかがよろしいかと思われます。

 また、「爆発」と言うのはそれ自体に動詞的ニュアンスを含む名詞ですから

 「『爆発』が『起きる』音」と動詞を二つ重ねるのは間違いではないにしろ、くどいかなと。

 

>「に、200年後〜?言う事に事かいて200年後ですって?」

 「言うに事欠いて」でしょう。

 

>藤堂校長の打算が、その表情をただでさえ悪の首領に見えるのだが、今日は更に不気味なこと極まりなくなっていた。

 この文章は「○○が、〜〜を、××する」と言う形になっていますので

 ここは「打算」が「表情」を「不気味な事極まりなくなっていた」ではなく

 「不気味な事極まりなく『していた』」が適切です。

 

>相手が素人だと思っていた為、2、3人で軽く揉んでしまえと言っていたのに
>アキトの挑発に乗り、古賀以外の全員が同時に襲い掛かったと言うのに・・・

 これも間違いと言うわけではありませんが、同じ単語、ここでは「のに」を連発すると文章がクドくなります。

 連発して強調を狙うという技法もありますが、「のに」を強調しても仕方ないですし(笑)。

 

>古賀は反射的に向かってくるアキトに対し、正面から拳を繰り出す。

 前後を見ないでこの一文だけを見ると、「アキト君が反射的に向かってくる」ように見えます。

 「反射的に」が古賀を形容するならば、「反射的に古賀は」か「反射的に正面から拳を繰り出す」かと。

 

 

こんな所でしょうか?

ではまた。