<12月11日 ―晴れ>

 

ひょんな事から鬼塚家に居候が一人増えた。

美雪ちゃんにとっては、俺以外の男性が同じ屋根の下で生活するわけだが

今のところ、美雪ちゃんを困らせる事はしていない。

むしろ、美雪ちゃんがアキト君の恋人に興味を持ったようだ。

だが、アキト君の恋人と言うのが・・・

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 第14話 熱血アニメ』でいこう Bパート

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで今日からしばらくの間、このクラスに居座る事になった・・・」

「テンカワ=アキトです。」

空手部とのKファイトがあった翌日、アキトは大門高校の制服に身を包み

慶一郎のクラスに入る事になった。

「質問は各自でするように。それから、テンカワ君へのKファイト挑戦は放課後に行うように。

判ったな?御剣。」

「判ってるわよ。」

涼子は頬に片肘をつき、ぶっきらぼうに言う。

「じゃあ、その辺の空いている席に・・・そうだな、御剣の後ろにでも座ってくれ。」

そう言いながら出席簿を取り出し、

「じゃあ、出欠は・・・草gがサボリっと。」

慶一郎はグルリと教室内を見渡し、欠席している人物をチェックする。

「じゃあ、授業始めるぞ。え〜っと、今日は・・・」

アフガニスタンで、ゲリラにいた少年と一緒に、ソ連軍特殊部隊と戦闘をしたときからです。

厚顔の美少年こと神矢 大作が手を上げて言う。

「あのな、神矢。何度も同じ手を使うんじゃない。このクラスの期末考査の点数が

ほぼ絶望的なものになっているんだぞ。」

「先生だって、高校の授業なんて受験用の英語を教えていればいいのに

何時の間にか、現地でしか使えない実践的な英語を教えているじゃないですか。」

神矢の声に賛同するクラスの皆を見て、

「なぁ、このクラスは何時もこうなのか?」

「学校自体が・・・よ。」

自分が通っていた高校と、あまりにも違いすぎる雰囲気に押され戸惑うアキトに

何時もの事と、あきれた表情をする涼子であった。

 

 

 

休憩時間、アキトの周りには神矢 大作を中心に大勢の人間が集まっていた。

「テンカワ君は何処からきたの?」

「ど、何処って・・・よ、横須賀から・・・」

―嘘じゃないよな、200年後だけど・・・

「じゃぁ、趣味とかって何?」

「あ、りょ、料理とか・・・」

「すご〜い!」

アキトを囲む人々から感嘆の声があがる。

「彼女とかいるの?」

「あ、ああ・・・いるけれど・・・」

その言葉にクラスの半分は落胆の表情を、残りの半分は安堵の表情を浮かべた。

アキトの登場により、クラスの女子生徒の大半がアキトに興味を持ったが

彼女がいるという言葉で、アキトを取り囲んでいたほとんどの女子生徒が立ち去っていった。

「へ〜、彼女がいるんだ。」

涼子はアキトの方を振り向き言う。

「ああ。」

「その彼女にもらったの?美雪ちゃんが洗っていた昨日のマフラー?」

涼子は意地悪く言うが、アキトは何気なく

「ああ、そうだ。俺が守ろうとしている女性だ。」

と、あっさり肯定され言葉を無くした涼子であった。

 

 

アキトはカズマの先祖たる草g 静馬に会ってみたいと思っていた。

別に、会ってどうする訳でもなかったが、あのカズマの先祖である。

よく、親の顔が見てみたいと言うが、カズマに関してはそのDNAのルーツたる

静馬の言動を観察したい気分になっていた。

そんなときであった。校庭にバイクの排気音が聞こえた。

「どうやら来たみたいね。」

涼子が言うと大作も

「ええ、そうみたいですね。」

「来たって誰が?」

「あのバカよ。」

涼子の言うあのバカと言う言葉でアキトは静馬が来たのだと察した。

「ところで・・・草g 静馬ってどんな奴なんだ?」

「どんなって・・・赤ザル。若しくはアラブ系関西人。」

「ストリートバイパーズでは英雄でも、大門高校ではただの雑魚キャラになってしまってますね。」

「そうよね、何であんなバカが人気あるのか不思議よね〜。」

「あと、典型的なお姉ちゃんっ子って言うのも・・・」

「この世の中に存在している事自体が奇跡のような奴よね。」

「でも、音楽センスは両親の血を受け継いでいるって感じですよね。」

「あのバカが、世界的なミュージシャンにでもなろうものなら、日本の恥部を世界中に喧伝するようなものよね。」

アキトはあまりの言われように少し混乱していた。

そして、先日慶一郎から聞かされていた静馬の想像図に涼子と大作二人の意見を肉付けすると・・・

「・・・すまない、俺が悪かった・・・」

アキトは実物と会うのが少し嫌だな、と感じていた。

 

 

草g 静馬は学校に到着するなり、教室に・・・行かなかった。

先ず、静馬が向かったのは保健室のベットであった。

「あかん、昨日から飯抜きやったから腹へって死にそうや。ちょっと休ませてや。」

そう言うと、保健室にいた菱沼 奈々子女史の抗議も聞かずにそのまま寝入ってしまった。

「も〜、毎回毎回〜。」

少し間延びした声で奈々子が言うと、薬品棚から薬品を取り出した。

「ピカピカピカ〜ン。ク〜ロ〜ロ〜ホ〜ル〜ム〜。」

薬品瓶を掲げそう言うと、ガーゼにクロロホルムを染み込ませ、静馬の口元にかぶせる。

静馬は少し暴れたが、すぐに薬の効果に抗しきれず深い眠りに陥ってしまった。

「こ〜れ〜で〜、面倒が〜おきなくて〜済むわ〜。」

やはり、間延びした声でそう呟くと、自分の仕事に戻っていった。

この時、体調が悪く保健室で休んでいたある女子生徒は、そのときの奈々子女史を

まるで、天使の笑みを浮かべた悪魔のようだったと評した。

 

 

 

昼休み、昨日と違いアキトは自分で作った弁当を食べていた。

「へぇ、やっぱり料理人は違うわね。自分でお弁当作れるなんて。」

「いや、料理は趣味みたいなものだからな。」

ちなみに、涼子の昼ご飯は購買部で購入したパンと牛乳であった。

「へぇ、テンカワ君って料理人なんだ。それで昨日は食堂にいたのね。」

涼子と一緒にお弁当を食べていたひとみは、アキトの弁当の中身をチェックする。

「あんたの彼女にも、弁当を作ってあげてたの?」

「そう言えば、弁当を作った事はなかったな。」

「え、じゃあ何時も外食とかだったの?」

ひとみはアキトに尋ねるが

「いや、何時も俺がルリの分を作っていた。」

「あんたの手料理を?それに、ルリって・・・彼女の名前?」

「ああ。ホシノ=ルリと言う。」

「綺麗な名前ね。」

「いかにも可憐って名前ですよね。」

何時の間にか近くに来ていた大作が言う。

「・・・そうよね、御剣なんて如何にもって名前よね。」

涼子がとげとげしく言うと大作は慌てて

「い、いやだなぁ・・・何も涼子さんの事を言っている訳じゃないですよ。」

「ふ〜ん、そういう風に聞こえたんだけどなぁ。」

涼子はジト目で大作を見る。

「それで、写真とかあるの?」

ひとみの問いにアキトは

「残念ながら持っていないんだ。」

「えぇ〜!無いんですか?」

大作がそれなら僕が撮りましょうかと提案するが

アキトは丁重に断った。

−200年後にいる人間を撮る事なんて出来ないからな。

結局、草g 静馬は保健室でクロロホルムの影響によりぐっすり寝込んでいた為

ついに、授業に出る事は無かった。

 

 

その日の夕食・・・鬼塚家に集まったのは

家主の鬼塚 鉄斎を筆頭に鬼塚 美雪、美雪の親友である姫川 沙羅、

鉄斎の弟子である御剣 涼子、美雪の家庭教師をしている神矢 大作、

そして、居候組の南雲 慶一郎とテンカワ=アキト。

鬼塚家におけるヒエラルキーの最下層に位置するのは

アキトが昼間興味を抱いていたが結局、クロロホルムの力に抗しきれず

夕方まで保健室のベットで寝込んでいた草g 静馬その人であった。

もちろん、板張りの廊下で食事をしている。

今日の夕食は、石狩鍋であった。

「たまには皆で鍋っていうのも良いわね。」

「そうですね、久々に南雲先生の料理で日本食が出ましたよね。」

涼子と大作が箸で激しく肉の取り合いを演じながら言う。

「いや、これはテンカワ君が出汁を取ったんだ。」

「味は多分行けてる筈だと思うけれど・・・」

「うめぇよ、なぁ美雪。」

沙羅の言葉にコクリと頷く美雪であった。

美雪は3匹のネコに餌を与えながら自らも食事を取っている。

「ちょー待てぃ!何でワイはこんな板張りの廊下でラーメンすすっとんのや!」

今や猫にも劣る身分の静馬は抗議する。

「テンカワ君のラーメンは逸品だぞ。屋台を出していた程だからな。」

「そんなん、食うて見んと解らんわい!」

そう言いながらズズ〜っと麺をすする静馬に

「どうかな?ちょっと薄いかもしれないけれど・・・」

未来でアキトが使っていた醤油とは若干味が違っていたので、少し自信が無かったアキトであったが・・・

「・・・全部食べて見んと解らんわい。」

と言いながら、物凄い勢いでアキトが作ったラーメンを食べ始めた静馬であった。

「きっと美味しいんですよ。」

「ええ、そうみたいね。」

「ナギーったら・・・」

鉄斎は日本酒をあおりながら

「小僧も、ようやくまともな食事にありつけたようだの。」

と今までの不遇をチョッとだけ哀れんでいた。

美雪は石狩鍋を堪能していた。

食に関しては鉄斎と美雪はとてもチャレンジャーである。

今まで食べるどころか見た事も無いような料理を慶一郎が作っても

すべてそれを平らげていた。

アキトは二人が美味しそうに食べているのを見て満足していた。

「アキト君、草gとやるのか?」

「いいえ、まだ彼のほうが実力が上でしょう。」

慶一郎とアキトが話していると鉄斎が

「一度、雷蔵の所に行くと良い。」

短くそう言うと再び日本酒を飲み始める。

「雷蔵と言うのはそこにいる姫川さんのお爺さんで、姫川道場と言う柔術道場を開いている。」

慶一郎は小声で鉄斎の知合いだと教えると、沙羅にアキトを雷蔵に紹介して欲しいと頼む。

「ああ、良いよ。こんな美味い鍋を食わしてもらったんだ。ジジィに紹介するぐらいならお安いもんだ。」

アキトは沙羅に感謝した。ハーフであるはずの沙羅であるが、日本語が少し乱暴になっているのは

そのおじいさんの影響だろうとアキトは思っていた。

「所で、草g。今日はどうして遅刻したんだ?」

あらかた、片付き始めた鍋でおじやを作るためご飯を入れ始めた慶一郎が尋ねる。

「せや!コラァ!南雲ぉ!お前、姉やんにワイのテスト結果全て渡したやろ!

「当然だ、お前の両親は海外にいるんだから、お姉さんに渡すのが筋と言うものだろう。」

「せやから、何でワイに渡さへんかったんや!」

「どうせ、お前に渡したらお姉さんまで渡らないだろう?」

「ぐ・・・」

図星を突かれ言葉をなくす静馬に

「そうよねぇ、あのお姉さんに知られたら・・・」

「間違いなく地獄行きでしょうからね。」

涼子と大作がそろって言う。

「ナギー、大丈夫?」

沙羅は心配そうに言うが、静馬の姉、草g 巴は美雪と沙羅の担任である。

巴がキレたら危険だと言う事を沙羅達は本能的に知っていた

どうしてだか解らないのだが、生徒達にとっては周知の事実であった。

「御陰でワイは晩飯抜きの上、姉やんの説教を朝まで聴かされたんや。」

「それで今日はここに来たんですね?ここに来れば最低でも人間が食べれる食事は出来ますから。」

大作が出来上がったばかりのおじやを頬張りながら言う。

「せや、ここに来れば人間として最低限の食事が・・・って、ワイは最低人間か!」

「いい加減、ケダモノ以下だって認識しなさいよ。」

「何やて、涼子!もいっぺん言うてみい!」

「ええ、何度でも言ってやるわよ!お姉ちゃんっ子!」

いきなり始まった口喧嘩にあきれ果てる一同。

「ホント、仲が良いんだな。」

と、アキトが未来におけるアヤとカズマの言い争いを思い出しながら言う。

「「誰がこんな奴と!」」

二人の息はやはりピッタリであった。

 

 

 

 

その夜・・・慶一郎は何時も通り鍛錬をしていた。

ただし、隣にアキトがいることを除けばの話ではあるが。

「昨日からずっと聞こうと思っていたんだが・・・」

「なんだ?」

「お前ほどの男にダメージを与えた奴って一体どんな奴なんだ?」

慶一郎のその言葉でアキトは一瞬、ビクリとするがすぐ

「狂気に支配されたモノ・・・だろうな。あいつは・・・」

「アキト君は神威の拳を使っていたんだろう?」

「ああ、奴が強い事は一目でわかったし、ルリを巻き添えにしたくなかったからな。」

アキトはそう言うと神気を練り始める。

「あんたの言っていた神気の練りこみ・・・どうやらコツが掴めて来たようだ。」

「そうか・・・いいか?神気を練りこみ、その使い方を覚えれば俺にも勝てるようになる。」

「まさか・・・まだまだ、あなたには敵わないですよ。」

アキトは神気の練りこみを続ける。

「余裕が出てきているな?・・・君自身、気が付いていないかもしれないが

君には特別な力がある。」

「特別な力?」

そうアキトが言うと同時に慶一郎の腕がアキトに迫ってくる。

しかし、アキトは慶一郎の腕が繰り出される寸前に・・・ほんの刹那ではあるが

動き始める。そして、慶一郎の腕は何もない空間を切り裂いた。

「これが、君の持っている特別な力だ。君は本能的に先の事がわかるんだ。

それは武道家にとって欲してやまないものだろう。」

アキトは慶一郎が何を言っているのかよく解らなかった。

慶一郎の腕が迫ってくるのが見えたから避けただけなのに・・・

そう思わずにいられなかった。

二人で鍛錬を続けるうち、慶一郎の拳には特定の型が存在しない事に気が付いた。

慶一郎は世界中のあらゆる格闘技の中で、使えそうな技をコンビネーションで使っているのだ。

そこで、アキトは気になっていた事を慶一郎に尋ねる。

「この構えに見覚えが?」

そう言うとアキトはスメラギが使っていた拳法の構えを取る。

両手を広げ、半身に立ち、どの方位からの攻撃にも対処し、自らも突撃できる構えだ。

「そうね、小林長護心意門拳・・・いわゆる少林拳よりも截拳道(ジークンドー)に

似ているわね・・・」

突然、道場の入り口から声が聞こえる。

慶一郎はギギィと首を入り口に向ける。

そこには妙齢の美女がチャイナドレスを着て立っていた。

「フェ、飛鈴!どうして此処に?」

慶一郎の額からは脂汗が出ている。

「妻が夫とクリスマスを過ごして何が悪いの?クリスマスが終わるまでずっと一緒よ。」

そう言いながら慶一郎に寄り添う。

「一緒って言ったって、まだ2週間も先だろうが!クリスマスは!」

「あなたと一緒に過ごす時間を少しでも増やそうと思っているのよ。」

いきなりの出来事にアキトはしばらく見入っていたが

「あの・・・どちら様で?」

アキトが恐る恐る尋ねる。

「慶一郎の妻で烈 飛鈴よ。」

ウィンクしながらアキトに答える飛鈴。

だぁー!離婚したと言っとるだろうが!

「あら、烈一族の掟では死ぬまで二人は夫婦よ。」

「・・・あんたも大変だな・・・」

アキトは、昼間も校医の菱沼 奈々子女史に追いかけられていたのを思い出していた。

「そ、それで・・・飛鈴。さっきの話だが・・・」

慶一郎は、必死に飛鈴を引き剥がそうと画策しながら言う。

「ええ、私も見たことが無いような拳法だけれど・・・何となく、截拳道に似てると思うんだけどね・・・」

「俺も、それは感じていたが・・・中国拳法はある事情からそれほど詳しくはないんだ。

聖獣拳なら判るんだが・・・」

飛鈴がそっぽを向く。かつて、世界放浪の旅に慶一郎が出かけたとき、先ず最初に香港に足を踏み入れた。

ところが、香港に慶一郎が足を踏み入れたとき烈一族による勘違いで

烈一族の手の者に襲撃を受けたが、慶一郎はこれを全て退けた。

しかし、流石の慶一郎も当時は銃を持った相手との闘いに長けておらず、

烈一族の手下に取り囲まれ、銃で脅されたためやむを得ず、降伏する。

慶一郎が連れていかれたのは烈一族の本拠地だった。

そこで、烈一族に伝わる聖獣拳の使い手たちと闘い、勝利したときに慶一郎は何時の間にか

烈一族の後継者である、その頃はまだ14歳の少女だった烈 飛鈴と結婚する事になったのであった。

ところが、慶一郎はその時、世界放浪の旅に出たばかりであり、香港に何時までもとどまる事が出来なかった。

そこで、香港を密かに出ようと決意し、彼女と一緒に香港を出ようとしたが・・・

飛鈴が銃で撃たれ、いっしょに旅をする事は困難だと判断した慶一郎は飛鈴を香港に残し、世界放浪の旅に出た。

そして、月日が流れ大人の女性に成長した飛鈴は慶一郎と一緒になる為、日本にやってきたが・・・

「その時、結婚したんですね?」

「いや、その時俺は彼女の事が判らなかったんだ。」

「でも、最終的には結婚したのよね。」

飛鈴が慶一郎の腕にすがりつくように言う。

だから!夫をいきなり木箱に詰め込んで、貨物扱いで空輸するような嫁はいらんと言っただろう!

「まぁ、照れちゃって。」

「やめろ!飛鈴!」

慶一郎と飛鈴はお互いじゃれ合っているように見える。

その時・・・

「慶一郎さん、差し入れ・・・」

美雪がお茶をお盆の上に載せて持ってきたが、慶一郎と飛鈴の姿を見て

・・・お邪魔しました。どうぞ、ごゆっくり。

そう冷たく言うと、お盆を美雪にしてはやや乱暴に床に置き去っていった。

「ああ!美雪ちゃん!違うんだ!」

「あら、何が違うのかしら?」

「いい加減離れろ!飛鈴!」

「もう、ホントは嬉しいくせに。」

慶一郎はアキトに目で必死にSOSのサインを送るが

「あ、それじゃ俺、お邪魔みたいですから・・・」

「頼む!行かないでくれ〜!」

「やっと二人っきりになれるわね。」

「だから、離れろ〜!」

アキトは先程、美雪が立ち去った方向に走り出していた。

慶一郎の『裏切り者〜』と言う声を背に受けて・・・

 

 

 

 

 

アキトは境内に上る階段に座っていた美雪を発見した。

何時も美雪に寄り添っている子猫たちの姿は見えない。

「美雪ちゃん、どうしたの?」

アキトは出来る限り優しい声で美雪に話し掛ける。

「・・・か・・・しいの・・・」

消え入りそうな声で美雪が呟く。

「え?」

「なんだか・・・おかしいの。」

「どうしたんだい?何がおかしいんだ?」

「あの人と慶一郎さんが一緒にいる所を見たら・・・

胸の奥が張り裂けそうになるの・・・

前に、あの人が来た時はこんな気持ちにならなかったのに・・・」

アキトはゆっくりと美雪の側により、隣に腰掛けた。

「美雪ちゃん、南雲先生が飛鈴さんに取られたって思っているんじゃない?」

アキトがそう言うと美雪はゆっくりとアキトの方を向く。

「南雲先生は美雪ちゃんを守る為に戦っているんだと思うよ。」

「私を・・・守る為に・・・戦う?」

「ああ、そう見えるな。」

美雪はかつて慶一郎が自分に言った事を思い出していた。

『俺が君を守る。君を悲しませる全てのものから・・・』

確かにそういった。その時は何も感じなかったけれど

誕生日に慶一郎からもらった花を今でも大切に育てている。

不思議な事に、寒空でも炎天下でも枯れる事のない花だが

美雪は、その花をなによりも大切な宝物にしている。

「私・・・」

「俺には恋人がいる。昨日話したよな?」

突然、アキトに言われ思わず頷く美雪。

「ルリという名前なんだが、彼女は美雪ちゃんより2歳年下なんだ。」

「え?」

美雪がビックリして言う。

「まぁ、色々言われるけれどね。・・・彼女と初めて出会った時には、正直何も感じなかった。

むしろ、彼女は感情が乏しく、何を考えているのかさっぱり解らなかったんだ。」

美雪は黙ってアキトの言葉を聞く。丁度、ルリが自分の姿と重なったからだ。

「でも、ある事件がきっかけで、彼女にも人間らしい感情をむしろ人並み以上に持っていたんだって

そう思ったんだ。今まで押さえつけていたモノが一気に噴出した・・・そんな感じかな?」

アキトはふと、美雪を見る。美雪は黙ってうつむいている。

以前のルリは丁度、今の美雪みたいに黙って自分の話を聞いていた。

たとえ、ゲキガンガーの話をしていてもだ。

ある時、『テンカワさんはどうして戦うんですか?』と聞かれた。

今考えてみれば、正義のためとか地球のためじゃなく、みんなの大切な思い出のため・・・

ルリが自分で勝ち取った居場所を守る為に戦ったのではないだろうか・・・

そして、自分が自分らしく居られる場所・・・時・・・

「・・・美雪ちゃんは・・・ご両親を事故で亡くされたそうだね。」

美雪の肩がビクンと震える。

「・・・多分、美雪ちゃんは南雲先生が自分を見ているのは

自分を通してお母さんを見ているって思っていないかい?」

美雪はハッと顔をあげ、アキトを見る。

「でも違うよ。南雲先生は美雪ちゃんの幸せを守る為にここに居るんだ。

たとえ、美雪ちゃんに嫌われようとも・・・ね。

それに、南雲先生が見ているのは、美雪ちゃんのお母さんでも失った時間でもない。

美雪ちゃんが幸せになる未来を、美雪ちゃんに見ているんだ。

それは、美雪ちゃんが幸せになる事を誰よりも祈っているからなんだ。

だから、南雲先生は美雪ちゃんが幸せになるまで守ってくれるよ。」

アキトはスッと立ち上がり、

「美雪ちゃんは南雲先生のこと・・・嫌いかい?」

美雪はフルフルと首を横に振る。

「南雲先生も美雪ちゃんの事を嫌ったりなんかしないさ。

断言してもいいけどね。」

そう言うとアキトは美雪を見る。美雪はアキトをその漆黒の瞳で見ながら

「アキトさんは・・・ルリさんの事・・・」

「ああ、愛しているし・・・この腕で守りたいと思っている。」

「そう。」

「それに、ルリと・・・約束をしたんだ。」

「約束?」

「ああ、ルリの笑顔を守る為に俺は戦っている。

だから、ルリも笑顔でいろって。」

そう言ったアキトの顔は誇らしげだった。

美雪は不思議な感情を抱いていた。それが、何であるかは自分でもわからなかった。

「美雪ちゃん。君は今までの事がすべて夢だと思うかい?」

「・・・夢?」

「ああ、つらい事も楽しい事も・・・俺とこうして話している事も全て・・・夢だと思うかい?」

美雪は首を横に振る。

「ルリが言ったんだ。今、私がいるこの場所は自分で勝ち取った大切な思い出だって。

人に与えられるんじゃなく、自分の力で掴み取った居場所・・・」

「大切な・・・思い出・・・」

「そして、思い出は未来があるから作られるんだ。」

「未来・・・」

美雪はそう言うと、スッと立ち上がり道場の方に向かっていった。

アキトは満足そうに頷くと、建物の陰に隠れている人物に

「大丈夫ですよ、あの子は強い。きっと自分の生き方を見つけられますよ。」

「そうか・・・」

物陰から出てきた人物・・・鬼塚 鉄斎はアキトに短く、ありがとうと礼を言う。

「いえ・・・美雪ちゃんと似ている子を知っているだけですから・・・」

アキトは少し照れたように笑った。

「お主は不思議だの。ワシや、慶一郎は美雪が自分で立ち上がるのを待っているだけだったのに・・・」

「俺は、何もしてませんよ。美雪ちゃんが立ち上がれないのなら、そっと背中を押してやる。

その位の手助けは許されるんじゃないですか?」

「そうだな・・・」

鉄斎はそう呟くと、母屋のほうに消えていった。

「俺には・・・そんな事を言う資格なんて無いのにな・・・」

アキトは冬の夜空を見上げていた。

 

 

 

 

次の日・・・

アキトは慶一郎に無言のプレッシャーを受けながら

鬼塚家の朝食を作っていた。

慶一郎の隣には飛鈴と美雪がそれぞれ座っていた。

美雪と飛鈴がにらみ合っているところを見ると、昨晩は

苛烈な攻防戦があったのであろう・・・

 

 

 


 

慶一郎:こら・・・

作者:何か?

慶一郎:貴様が前回慶一郎×美雪って書いたから世間一般様から鬼畜とか犯罪者と呼ばれるようになったじゃないか!

作者:だって、ホントの事だろ?

慶一郎:俺はノーマルだ!

作者:じゃあ、美雪ちゃんと飛鈴が海で溺れていたらどっちを助ける?

慶一郎:美雪ちゃん。

作者:・・・即答したね・・・

慶一郎:い、いや・・・だから、美雪ちゃんが溺れていたら助けるのは当然というか義務というか・・・

作者:今更何言ってるんだか。

慶一郎:くっ・・・少し、ネタばらしでもしてやるか。アフガニスタンの少年ゲリラって・・・

作者:ああ・・・

 

謎のハリセン美少女K:くぉぉら!ソースケ!また爆発物を校内に持ち込んで!

謎の戦争ボケ男Sゴールを守れといわれたからだ。

謎のハリセン美少女K:守る意味が違〜う!

すぱぁぁぁぁぁん!

謎の戦争ボケ男S何時も思うのだがそのハリセンは何処から出しているのだ?

謎のハリセン美少女K:やかましい!オトメのヒミツよ!

謎の戦争ボケ男Sむう・・・

 

慶一郎:・・・なるほど・・・彼か・・・

作者:そう言うこと。

慶一郎:所で、石狩鍋でおじやって作るのか?

作者:・・・家ではどんな鍋をしても最後にご飯を入れるけれど・・・

慶一郎:北海道の人に聞いてみたいな。

作者:という事で誰か教えてください。

慶一郎:しかも、完全なる花嫁を出しおって・・・

作者:途中まで道場のシーンを書いていたら、男くさくなりすぎて誰かを登場させる必要が出てきたから・・・

慶一郎:俺は大迷惑だ。

作者:まぁ、花が増えるのはいいことだと思いなよ。

慶一郎:次回でこの話は終わるんだろう?

作者:そのつもり。

慶一郎:どうやって終わらすんだ?

作者:・・・それは・・・ヒ・ミ・ツ・って事で・・・

 

・・・う〜ん・・・謎の戦争ボケ男・・・登場させたくなっちゃった。

 

 

代理人の感想

私の実家でも石狩鍋の後にはおじやをしますねぇ。

まぁ、うどんの時もありますが・・・。

ちなみに実家は東京なので参考にはなりません(笑)。

 

ちなみに飛鈴はチャイナドレスよりスーツのほうが似合うかもと思ったり思わなかったり。