キノコの死は少なからず動揺を与えていました。

嫌な奴でも、永遠に会えなくなると寂しくなるものです。

前回はその事に気付きました。

でも、それが切欠でしょうか?ユウタの声が出始めました。

まだ、少しずつですが話し始めています。

どうやら、イズミさんになついているようです・・・

くだらない駄洒落を教わっているのでしょうか?

それでも、私たちは今日も戦っています。

戦いを終わらせるために戦っています。

それが正しい事なのか判らないまま・・・

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 第18話 『水の音』は私の音

 

 

 

 

 

パシャン・・・

パシャン・・・

どこかから聞こえる水の音・・・

扉の向こうに広がる光景・・・

 

 

・・・久しぶりにあの夢を見ました・・・

清流を鮭の群が上っていく・・・

その様をアキトさんと一緒に見ている・・・

ピ・・・

『ルリちゃん、起きてる・・・って!』

「なんですか?メグミさん?」

なんだか怖い顔をしています。

『・・・ルリちゃん・・・隣に居る人は誰?・・・』

あ、そう言えば・・・アキトさんが隣に寝ているんでした・・・

「・・・アキトさん・・・」

私は極力冷静にメグミさんに言います。

『・・・ルリちゃん・・・後でゆっくり聞かせてもらうわ・・・』

「それより、何かあったんですか?」

『ルリちゃんにお客さんだって。』

言葉が刺々しいですよ・・・

「そう・・・ですか・・・判りました。すぐに行きます。」

お客さん・・・ピースランドの使者ですね。

『それから、アキトさんに何も手出ししていないでしょうね。』

「どうして、そう言う発想になるんですか?普通、逆だと思うんですけれど。」

『ルリちゃんなら、寝ているアキトさんに襲い掛かるわ。』

そんな・・・間違った認識です!

アキトさんも合意の上なんですから!

「と・・・とにかく、格納庫に向かいます。」

私はそう言うと、メグミさんとの通信を切りました。

「ん・・・ルリ・・・敵襲か?」

起こしてしまいましたか・・・

「いえ、ピースランドからの使者です。」

「そうか・・・ふっ・・・ルリ姫・・・私も同行しても宜しいでしょうか?」

急にアキトさんはベッドから飛び起き、私の前にひざまずきます。

「アキトさん・・・いえ、テンカワ=アキト。そなたは私のナイトです。

何処までも着いて来なさい。」

私とアキトさんは顔を見合わせます。

そして、お互いに笑いあいました。

「・・・アキトさん、あのピザ屋だけは行かないようにしましょう。」

「そうだな、あんなピザ屋に行く位なら、ユリカの料理を食べた方がましかもな。」

「共に、この世のモノとは思えませんから。」

そこまで言うと、お互い笑っていました。

でも・・・アキトさんの目は遠くを見ていました。

恐らく・・・ユリカさんの料理を思い出してしまったのでしょう。

ひょっとして・・・トラウマになっています?

私は、パジャマから制服に着替え始めました。

「ルリ・・・無防備すぎるぞ。」

あ、アキトさんが居ましたね。

こちらを見ていませんけれど・・・ちょっと意地悪しましょうか。

「ふふっ・・・アキトさんなら、見られても問題ありませんよ。」

「い、いや・・・なんか・・・人が見たら・・・」

その時・・・

プシュ・・・

「ルリちゃん、プロスさんが・・・」

入ってきたのはミサキさん・・・鍵を掛けていたのですが・・・

そう言えば保安責任者なので、マスターキーを作ったってプロスさんが言っていましたね。

「あ、あの・・・ミサキさん?」

アキトさんが、その場で固まっているミサキさんに声をかけます。

でも、アキトさんはベットに腰掛けて、その隣で私が着替えている・・・

「黄昏よりも暗きもの・・・血の流れよりも紅きもの・・・」

ミサキさんの周囲から、神気が噴出し、目が怪しく光っています・・・

作品が違います!・・・じゃ無くてミサキさん、これは・・・」

「説明しましょう!」

・・・イネスさん・・・何処から出てきたんですか・・・

「お兄ちゃんの部屋は、最終兵器に襲われた時に使用不可能になったの。

それで、ルリちゃんの部屋に転がり込んでるって訳。」

「最終兵器って・・・」

テニシアン島の惨劇です。」

「ああ・・・」

ミサキさんもようやく思い出したようです。

アキトさんは顔を真っ青にしています。

「でも、それって随分前のことでしょう?」

「あの人たちはホウメイさんのところで、料理を習っていたそうですが

ホウメイさんはさじを投げたようです。」

「彼女達は、何度もお兄ちゃんの部屋に襲撃を掛けたから

ルリちゃんの所に逃げ込んだの。」

イネスさんがデフォルメ化されたユリカさん、メグミさん、リョーコさんを

何時の間にか取り出していたホワイトボードに書き込んでいます。

その横にはアキトさんでしょうか?ユリカさんたちから逃げて

私のところに逃げ込もうとしています。

でも、イネスさん・・・

「どうして私の絵は目つきが凶悪なんですか?」

イネスさんを睨みます。

「イメージ通りだと思うけれど?」

「じゃあ、イネスさんの絵は?」

なぜかイネスさんの絵はお姫様みたいなドレスを着ています。

「ウェディングドレス・・・」

顔を赤らめてイネスさんが言いました。

あまりの事に思わずあの台詞を言ってしまいました。

「・・・ばか・・・」

 

 

 

格納庫にはプロスさん、ユリカさんが居ました。

「ピース・・・平和だからピース・・・」

ユリカさんが言います。

「ピースランドの前身はテーマパークでした。」

「私も小さい時に行った事あるよ。アキトと感動の別れをした後だったんだよ!」

ユリカさんが目をキラキラさせてアキトさんに言います。

「感動・・・ねぇ・・・俺がお前に、強引に車に乗せられたんじゃなかったっけ?」

「えぇ〜違うよ〜。」

「コホン・・・現在のピースランドにはピース銀行があります。

戦争の御陰で、正体不明の振込先からどんどん金が集まっています。

世の中、金が全てと言うわけでは有りませんが、持っていると強いですから。」

「でも、ピース銀行にお金を預けている人っているの?」

「ですから、今回はルリさん、テンカワさんのお二人に来てもらったんです。」

「え?アキトもお金を預けているの?」

「ああ・・・将来のため・・・にな。」

「やだ、アキトったら・・・私との結婚資金だなんて・・・」

・・・この人は・・・どうしてここまで自分の都合よく考えれるんでしょう?

「とにかく!銀行を怒らせてはいけません。丁重にお迎えせねば・・・」

プロスさんが眼鏡を直しながら言います。

それにしても・・・

「趣味悪い飛行船・・・」

程なくして、趣味悪い飛行船から、ナデシコに連絡艇が到着しました。

連絡艇の扉が開いて中から出てきたのは、黒いマントに

とんがった帽子・・・まるで中世の人みたいです。

コスプレなら間に合っているんですけど・・・

私のところにコツコツと歩み寄ってきて

「・・・お迎えに上がりました、姫。」

ひ、姫〜?

プロスさんとユリカさんが驚いています。

「・・・そう言う挨拶は止めてください。それよりも、話を聞きたいのですけれど。」

「同感だな。とりあえず、貴賓室に行くか。」

私とアキトさんは、固まったままのプロスさん達の代りに、使者を案内しました。

・・・ちゃんと仕事してくださいよ。

「あ、あなたは?」

使者がアキトさんに問い掛けます。

「テンカワ=アキトだ。」

アキトさんはそう言うと使者と握手をしました。

「ほう・・・貴殿が・・・お噂は伺っておりますよ。」

いったい、どんな噂なんでしょうか?

とりあえず、私たちは貴賓室にやってきました。

 

 

 

 

使者からもたらされた話はやはりピースランドへの招待でした。

「大体の事情はわかりました。ルリちゃん、暫く里帰りしたら?」

ユリカさんがニコニコしながら言います。

見え透いた手を・・・私のいない間に、アキトさんを落すつもりですね。

そうは行きませんよ。

「判りました。では、護衛にアキトさんをつけてもらいます。」

「え?」

「お姫様にはナイトが付き従うものです。」

「で、でも・・・」

ユリカさんはようやく過ちに気が付きました。

「そうですな・・・ついでにナデシコの皆さんも、わが国に招待しても宜しいのですが・・・」

使者がそう言います。

「え?良いの?」

「はい、わが国は前身がテーマパークですから・・・」

「やった!」

ユリカさんが喜んでいます。

「ただし、わが国での戦闘行為は一切禁じられていますので、

武器を持ち込む事は禁じます。宜しいですな?」

「と言う事は・・・ナデシコはピースランドに入れないって事ですか?」

「そうなります。」

「どうですか?艦長・・・ここは一つ選抜メンバーを選ぶと言う事で・・・」

「そうですね。うん、そうしましょう。」

ユリカさんは満面の笑みを浮かべます。

「では、私は一足先に戻って国王に伝えてきます。」

そう言うと、あの悪趣味な飛行船と共に使者は帰っていきました。

その後・・・ナデシコ艦内で、熾烈な選抜メンバー争奪戦が勃発したのは言うまでもありません。

 

結局・・・メンバーに選ばれたのは、ラピスにユウタ、保護者としてアヤさんとイズミさん。

メグミさんにミナトさん。そして、ミサキさんとカズマさん。

『どうして、ねぇ・・・なんで?』

ユリカさんが発進寸前のヒナギクを指差して叫んでいます。

「ねぇ、メグちゃん。ピースランドで思いっきり遊ぼうか。」

「そうですね、ミナトさん。ミサキさん達も一緒に行こうよ。」

「ワイ、このスペシャル絶叫コースターに乗ってみたいんや。」

「カズマ・・・子供みたいよ。」

「まぁ、アヤも子供達の前なんだから木刀を納めて・・・」

「ふっ・・・パーティ会場で男が言いました、木刀踊りませんか・・・くくっ」

みんな、思い思いにパンフレットを見ています。

『どうして?ねぇ、なんで?』

『説明しましょう、ラピスとユウタはお兄ちゃんの要望でメンバー入り、

アヤさんとイズミさんはその保護者だから。残りのメンバーを

艦長はアミダくじで選抜メンバーを決めようとしましたが

最後に自分で入れた線が、見事に裏目に出たというわけ。

あ、私のクマさん忘れないでね。』

さりげなく、自分の要望を入れていますね。

前回と違って荷物もちが沢山いますから大きいクマさんを買って行きましょうか。

「じゃぁ、発進するから。」

「ユリカさん、危ないですよ。」

私たちはナデシコを離れてピースランドに向かいました。

 

 

 

ピースランドに着くと、最初に私とアキトさんは王城に向かいました。

「じゃぁ、みんな楽しんで来てくれ。」

「明日は、ルリルリたちも一緒に遊べるわよね。」

「ええ、そのつもりですよ。」

皆はテーマパークに向かって歩いていきました。

「でもアキトさん、その格好・・・」

アキトさんは何時もの黒ずくめの格好です。

私は淡いピンクのドレスを着ています。

「・・・やっぱり変か?」

「いえ・・・良いです。」

まぁ、あきらめていますし・・・何よりアキトさんのパーソナルカラーですから・・・

暫く歩き、私たちは王城にたどり着きました。門では昨日、ナデシコに来た使者が待っていました。

「おお、姫・・・仰っていただければ、お迎えに参りましたのに・・・」

「そこまで気を使わなくても良いです。

それに、今回の里帰りはあくまでも一時的なものです。」

「・・・姫・・・国王も王妃も・・・ご兄弟も皆、あなたのお帰りを心待ちにしておられます。」

「残念だが、それはまだ無理だ。この戦争が終わるまではな。」

アキトさんが言います。

「そうですか・・・ではご案内します。」

案内されたところは謁見の間。

「おお、そなたがルリか!私が父だ!」

プレミア国王が大仰に言います。

「そして、母・・・」

「あらあら、大きくなって・・・」

目から流れ落ちた涙がきらりと光ります。

一体どうやっているんでしょうか・・・

「そして、弟達。」

「「「「「「ようこそ!ルリさん、僕らのお姉さま!」」」」」」

・・・同じ顔が6人も・・・どうやって見分けているんでしょう・・・

「皆、お前の家族だ!」

プレミア国王は一気に階段を駆け下りて私のところに来ます。

「ずうっと、ここで暮らしても良いんだぞ?」

「父・・・私にも紹介させて下さい。」

「ん?」

「テンカワ=アキトさんです。」

「初めまして・・・」

実際には初めてではないのですが、父にとっては初めてですよね。

「私の恋人です。」

「な!」

皆固まっています。

「こ、こ、こ・・・」

父はアキトさんを指差して鶏のようです。

「ゆ、許さんぞ!私は何も聞いていないぞ!」

「ええ、言っていませんし・・・私たちは初対面なんですから。」

「あなた・・・ルリは本気のようです。」

母が私たちのところにやってきて言います。

「何故判る!芝居かもしれないんだぞ!」

「では・・・こうしましょう。テンカワ殿、あなたの力を見せてください。

真にルリを守る事が出来得る人物かどうか・・・それを見極めたいと思います。」

「・・・決闘・・・ですか・・・」

「ええ、宜しいですね・・・あなた。」

「ああ、テンカワ殿が負けたらルリ、お前はここで暮らすのだ。」

「アキトさんが勝ったら?」

「好きにするがいい。」

そう言うと、家臣の一人に何事か告げました。

「すみません、アキトさん・・・」

「なに、使えているナイトが弱いんじゃ任せてもらえないだろう?」

「・・・そうですね。」

私たちが話をしていると、家臣の一人に案内されて闘技場らしきところにやってきました。

「やっぱり、マネばかりですね。ここ・・・ローマのコロシアムですよ。」

「まぁ、そう言う国なんだと割り切れば良いさ・・・」

『レディース・エンド・ジェントルマン!本日はスペシャルマッチをお送りします!

わが国が誇る最強の戦士!ビスケル!』

わぁぁぁぁぁぁぁ・・・

結構人気有るみたいですね・・・あの筋肉ダルマ・・・

『対戦相手は、テンカワ=アキト!』

ぶぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・

ブーイングの嵐ですね・・・まぁ、黒ずくめの格好してますし・・・

悪役なんでしょうか・・・

「あれ?アキトさんにルリちゃん?」

「あ、本当だ・・・ルリルリ・・・何してんの?」

メグミさんにミナトさん・・・

観客席から私たちを見ています。

「いえ・・・色々、事情がありまして・・・」

『始め!』

わぁぁぁぁぁぁ・・・

一際大きな歓声がかけられた後・・・一瞬で静寂になりました。

『う・・・ウィナー!テンカワ=アキト!』

一瞬でしたね・・・まぁ、見掛け倒しの筋肉ダルマなんて本気を出すまでも有りませんし・・・

『さぁ!新たなチャンピョンに挑戦する勇者はいないか!3人までなら許可します!』

まぁ、アキトさんに挑戦するような人は・・・

「ワイらが挑んだろか。」

「そうね、どうやら本気のアキト君と戦えそうだわ。」

「こんなチャンス・・・滅多にないものね。」

そう言いながら現れたのはカズマさんにアヤさん・・・そしてミサキさん・・・

「アヤー!頑張れー!」

「ラピス!あなた達もいたのですか?」

私は観客席に向かって言います。

「テーマパークで遊んでいたら、アキトがコロシアムで闘うって言ってたから

皆で来たの。ルリ姉こそ如何してココに?」

「私たちはアキトさんの力を見てもらうために・・・」

その時、唐突に辺りの照明が消え、スポットライトが父に当たります。

『国王のプレミアである!テンカワ=アキトに勝利すれば望みのものを進呈しよう!

わが国の戦士を倒すほどの実力だ!3対1でやってもらう!』

「ふっ・・・アキト・・・覚悟せぇや・・・」

卑怯です・・・3対1なんて・・・こうなれば・・・

「私も闘います!」

『ル、ルリ!そなたが戦う理由なんて何処にも無い!こっちに来なさい!』

「イヤです。」

そう言うと、私はアキトさんの隣に立ちます。

「ルリ・・・」

「アキトさん・・・」

私とアキトさんはお互いに頷くと、カズマさんたちに向かいます。

「ルリちゃん・・・」

「手加減無用ですよ、ミサキさん。」

「・・・その格好でやるの?」

「あ・・・」

そうでした・・・私、ドレスのままです。

「そう言う皆さんも、普段着じゃないですか。」

「そう言えば・・・」

アヤさんはお気に入りのジーンズをはいていますし

ミサキさんも、この前ヨコスカで買ったって言うワンピースを着ています。

『皆様、戦闘衣装に着替えるため10分間休憩を取ります!10分後試合開始です!』

「では、こちらへ・・・」

私とアキトさんはコロシアムのスタッフに案内されてロッカールームにやってきました。

「こちらの衣装の中からお好きなのを選んでください。着替えはスタッフが手伝います。」

そう言いながら数人の女性が入ってきました。

それにしても・・・

メイド服体操服・・・スクール水着・・・何なんだ?コレは・・・」

「こっちは巫女装束セーラー服・・・ブレザーまで・・・」

「こちらには、あらゆる衣装がそろっています。

専門のスタッフも用意させていただきましたので

オーダーメイドでも簡単なものならすぐに作れます。」

スタッフの一人が言います。いや・・・コスプレ専門店か何かですか?

「じゃぁ、アキトさんと同じ格好にしてください。」

「お、おい・・・ルリ・・・」

「良いでしょう?中は・・・動きやすいスパッツにTシャツで・・・」

用意されたのは黒いマントにバイザー。

「ふふ・・・プリンセス・オブ・エレクトロン・フェアリーってとこでしょうか?」

「まぁ、言いか。メイド服とか選ばなかっただけでも・・・」

「あ、アキトさんはそちらの趣味がありましたか。

言っていただければ夜はメイド服を着ますけれど・・・」

「き、着なくていい・・・」

アキトさん、思いっきり困惑しています。

「さて、行きましょうか?プリンス・オブ・ダークネス。」

「ああ、だが今はルリのナイトだからダーク・ナイトでいい。」

「悪者・・・ですね。」

ホント、悪の親玉って感じがします。

 

 

 

 

闘技場に到着すると、先にカズマさん達が待っていました。

「お、ご両人お揃いで。」

カズマさんは赤いTシャツにカンフーズボン。

アヤさんは若武者を想定させる剣道着。

ミサキさんは迷彩服を着ています。

「へへっ、いつも通りにはいかんで、アキト!」

「本気でいくわよ、アキト君。」

「ルリちゃんにも容赦しないからね。」

カズマさん達は本気のようですね。

「アキトさん・・・」

「俺がカズマとアヤさんの相手をする。ルリはミサキさんの相手を・・・」

「判りました。」

「怪我・・・するなよ。」

「はい・・・」

そう言うと、アキトさんは私にキスをします。

なななななななななななな!

煩いですよ、父。

『それでは、両者準備は良いな!』

審判のおじさんが問い掛けてきました。

私たちはゆっくりと頷くと戦闘態勢をとります。

『試合、開始!』

その言葉と同時にアヤさんとカズマさんの相手をアキトさんが、

私がミサキさんの相手をするように動きます。

「私はルリちゃんの相手?」

「ええ、そうなります。」

「本気でいくからね。」

「望むところです。」

そう言うと、私とミサキさんはお互いに神気を練り始めました。

 

 

 

「アキト!いくで!」

「カズマ、また吹き飛ばされたいのか?」

「へっ、そう簡単には・・・」

「行かないわよ!」

アヤさんの木刀が、アキトさんをかすめます。

アキトさんは防御に精一杯で、神気を練るヒマがありません。

その間にカズマさんの体から神気が溢れ出し、真っ赤な炎となります。

こっちを早く片付けてアキトさんのところに向かわないと・・・

でも、ミサキさんに勝てる自信なんて有りません。

「何処を見てるの?」

まずい!ミサキさんが一気に近づいてきました。

私はミサキさんの一撃を避けて再び間合いを取ります。

「さすがに、当たらないわね。」

あ、危なかったです・・・神速の歩法・・・旋駆けを習っていなかったら・・・

「くっ・・・」

さすがに保安部最強だけあります。

「行くわよ、ルリちゃん。」

あの構え・・・ミサキさんの奥義を出すつもりですね・・・

こっちも答えなければ・・・

 

炎の虎!

「くっ!」

アキトさんは、カズマさんとアヤさんのコンビネーションに翻弄されています。

「アキト君、死んでもらうわ!」

アヤさんが一気に勝負を決めに行きます。

凄いラッシュです・・・

でも、その攻撃を全て受け止め、受け流しいます。

「アヤー!がんばれー!」

観客席からラピスの声が聞こえてきます。

「負けられないわ、あの子の為にも。」

「ラピスも随分、明るくなった。感謝はしている。」

「だったら負けてくれない?」

「そう言うわけには・・・いかないさ。」

アキトさんはアヤさんの横をするりと抜け出し、カズマさんの目の前に一瞬でやってきます。

「待ってたで!アキトォ!」

まずいです!カズマさんのあの体勢は・・・

 

 

「ルリちゃん、覚悟してね。」

「くっ!」

ミサキさんが拳を一気に繰り出します。

覇王氷神拳!

水龍陣・盾!

ミサキさんが繰り出した技を私は何とか受け止めます。

時間稼ぎにしかならないですが、アキトさんがやってくるまでは・・・

「やるわね、でもこれなら!」

ミサキさんは神気を使った攻撃は防がれると察知して

私に体術勝負を挑んできます。

「かかりましたね?水龍陣・捕!

私の神気がミサキさんの足元を絡め取ります。

「甘いわ。」

ミサキさんはジャンプで避けると一気に私の側に着地します。

「終わりね。」

 

 

 

紅い牙!

カズマさんが打ち出した技はアキトさんに避けられます。

―もう一つ!

さらに左手からも、紅い牙が打ち出されて・・・さらに・・・

紅牙三連!

3連撃では、幾らアキトさんといえども避けられなかったのか

その場でとまります。

「いっくで〜!俺の拳が真っ赤に燃える〜!おんどれをしばけと轟き叫ぶぅ!

焔舞!紅い牙!炎の虎!紅蓮散弾脚ぅ!」

練り上げた神気を一気に放出しています。

アキトさんはその攻撃を受けて、倒れ・・・ない?

「カズマ・・・惜しかったな。」

そう言うと、アキトさんはスッと座り込む形になります。

後ろから近づいていたアヤさんの気配を感じ取ったようですね。

アヤさんの木刀がカズマさんの顔面にめり込みます。

「アヤさん・・・幾らカズマでもコレは・・・」

「カズマだから大丈夫よ。」

「それよりも、アヤさん・・・もう止めないか?」

「いいえ、まだよ!」

そう言うと、アヤさんは木刀を腰に構え、抜刀術の構えを取ります。

「やむを得ないな。」

アキトさんは極端に背中を丸め、両手を前方に差し出し、つま先立ちでやや腰の引けた格好を取ります。

「・・・いくわよ!飛天流・絶刀!残月剣!

アヤさんが抜いた・・・

アキトさんに迫った木刀がポンと跳ね上がります。その直後、アキトさんの拳が

アヤさんの鳩尾に入ります。

「か・・」

「ふぅ・・・危なかった・・・」

 

 

私の目の前に来たミサキさんは、私に向かって拳を繰り出します。

コレなら・・・

私はその拳にしがみ付くような格好になると、一気に肘を極めにかかります。

「甘いわよ、ルリちゃん。」

ミサキさんは私を壁にぶつけるつもりみたいです。

「甘いのはミサキさんです。」

「え?」

私が前もってミサキさんの足に、水龍の陣・捕を仕掛けていましたから

ミサキさんの足は動きません。

「くっ!」

ミサキさんは片腕で私に拳を向けますが、それより早く私が飛びのきます。

丁度その時、アキトさんが私のところにやってきます。

「ルリ、よく耐えたな。」

「はい、でも・・・この辺が限界です。」

そう言うと、私はペタリとしゃがみこみました。

「後は、任せろ・・・」

そう言うと、アキトさんはミサキさんに立ち向かいます。

「ミサキさん、降参・・・はしないよな。」

「ええ、せっかくアキトさんと戦えるんですもの。」

「じゃぁ、本気の一撃ってのをやってみるか。」

そう言うと、アキトさんは神気を練り始めます。

ミサキさんも、私の時とは比べ物にならないほどの神気を出しています。

ひょっとして、手加減されていましたか?

それにしても、凄い気です。耐えるのがやっとです。

観客席の皆さんは失神している人が出始めています。

「いくわよ!覇王氷撃破!

天覇龍凰拳!

アキトさんとミサキさんの神気がぶつかり合い、そして・・・

「きゃぁ!」

吹き飛ばされたのはミサキさん。

「ふぅ・・・終わった。」

アキトさんはホッと息をつくと私のところにやってきました。

「ルリ、立てるか?」

「ええ、何とか・・・と言いたいのですが駄目みたいです。」

「そうか。」

そう言うとアキトさんは私を抱きかかえました。

「・・・ちょっと、やりすぎかな?」

「・・・そう・・・ですね・・・」

審判をしていたおじさんも、観客席のみんなもそろって失神していますし

カズマさん達も気絶したままです。

『テンカワ殿、見事です。ルリも強くなって・・・』

母の声がします。貴賓室にいるようですね。

『一度、綺麗になってから王城に来て頂戴。舞踏会を開きます。

今、侍女が向かっていますから、その者達に案内させます。』

「母、お願いがあります。私の大切な仲間も招きたいのですが。」

『判っております。』

そう言うと、お城の侍女たちがやってきて、私たちを案内してくれました。

 

 

 

案内されたのは大きなお風呂・・・

そこにはミナトさん達も案内されてきました。

「ルリルリ、コレは一体・・・」

「今夜、舞踏会をするそうですから、ミナトさん達も舞踏会に招待されたようです。」

「私たちも?」

メグミさんが言います。

「衣装は好きなのを選んで欲しいって。ミサキさん達もですよ。」

「わ、私はドレスなんて・・・」

「そ、そうね・・・に、似合わないし・・・」

ミサキさん達は戸惑っているようですね。

「ラピスはドレスを着てみましょうか。」

「うん、アヤは着ないの?」

「う・・・」

ラピスには弱いようですから、この攻撃は効いた様ですね。

「わ、判ったわよ・・・」

アヤさんは渋々承知しました。

 

 

それぞれドレスを着て大広間にやってきました。

「おお、ルリ姫・・・綺麗だぞ。」

父が駆け寄ってきて誉めてくれました。

「ささ、こっちに・・・」

私は父に案内されて壇上に上がりました。

「ルリ姫だ、私たちの長女である。」

おぉぉぉぉぉぉ・・・

皆さん、歓声を上げています。

「ルリ、せめて今夜だけは私たちの娘になって頂戴。」

「母・・・」

「全てが終わったら、帰って来てくれとは言わないから・・・たまには顔を出して頂戴。」

「・・・はい・・・」

私の目から涙が零れ落ちました。

母は全てお見通しみたいですね。

アキトさんは、メグミさんやミサキさん、ラピスに囲まれています。

アヤさんとカズマさんはいつも通り喧嘩をしていますし

ユウタはイズミさんと二人で料理を頬張っています。

イズミさんも何だか、母親みたいです。

「ふふ、ルリ・・・テンカワ殿はモテるみたいですね。」

「・・・女性限定の人間磁石ですから・・・」

「ルリ、浮気の一つや二つ・・・許すぐらいの度胸が無いと逃げられますよ。」

「母・・・」

「それに、この国は一夫多妻制・・・最後に勝つのは正妻ですよ。」

「はい。」

「頑張りなさい。でも、まだ私は祖母にはなりたくありませんよ。」

「・・・母・・・」

「でも、若いおばあちゃんて言うのも良いわね。これからはテンカワ殿ではなく、息子として呼ぶべきかしら?」

母が笑っています。

その日の宴は・・・全員が酔いつぶれるまで続きました・・・

私は、母の温もりを感じながら眠りについたのでした。

 

 

 

 

おまけ

 

帰りのヒナギク内部で・・・

「カズマ、そう言えば今日はえらく不機嫌だな。」

「アキト・・・さすがにワイでもあの料理は・・・いや、料理と言うのは冒涜やな。」

まさか・・・一緒に行っていたのはミサキさんとアヤさんでしたから・・・

「ピザを食べたんですね?」

「ええ、よく解ったわね?私たちがピザを食べたって。」

「元祖本家とか言ってなかったか?」

「言ってたわ。」

という事は・・・

「あのオヤジ・・・まずい物をまずいと言われて腹立ててたら、商売にならんで。」

「私も久しぶりにむかついたわ。」

「そうね、二人が暴れる理由は判るわ。」

「ミサキ、お前が一番暴れとったで。」

「そうそう、いきなりオヤジを殴り倒してたわよ。」

「アヤだって、弟子の人たちを木刀でタコ殴りにしてたじゃない。」

3人の口論が始まりました。

「可哀想に・・・二度と営業できない体になったんだろうな・・・」

アキトさんが遠い目で呟きます。

「そうですね・・・」

「ねぇ、そんなに不味いの?」

ラピスが尋ねてきます。

「「「この世のものとは思えん((ないわ))!!!」」」

3人とも共通の認識みたいですね。

こうして、私たちは前回よりも多くの荷物をもって

バカばっかのナデシコに戻りました。

 

 

 

 

 


 

 

ルリ:私たちのデートは?

作者:検閲により削除・・・

ルリ:黄昏よりも暗きもの・・・血の流れよりも紅きもの・・・

作者:だぁ!それは良いから!

ルリ:私とアキトさんのデートを何で書かないんですか!

作者:それだけだと、さすがに18禁になりそうな雰囲気だったので大幅に書き直した。

ルリ:別に良いのに・・・

作者:そんな事言うから世間で暴力我侭少女と言われるんだ。

ルリ:はっ・・・私の清楚なイメージが・・・

作者:戻らないと思うよ。

ルリ:それよりも、カズマさん達との対決・・・

作者:久しぶりに闘わせて見たいって思ったから・・・

ルリ:私まで巻き込んで・・・

作者:良いじゃないの。母上様からのお許しも得た事だし・・・結婚式はピースランドで?

ルリ:い、いえ・・・やっぱり結婚式は身内だけで・・・って何言わすんですか!

作者:まぁ、次回は新艦長コンテストだね。

ルリ:私の最大の見せ場ですね。

作者:あれ?リョーコちゃんじゃなかったっけ?

ルリ:私ですよ。リョーコさんはおまけです。

作者:ま、そう言うことにしておこうか。

ルリ:それでは次回 機動戦艦ナデシコ Re Try 第19話 明日の『艦長』は君だ! です。

作者:案外、ラピスがメインだったりして・・・

 

 

 

―単純にコンテスト形式にするのはワンパターンかな・・・

 

 

 

代理人の感想

いつも思うんだけど・・・・何故アキトはロリコン呼ばわりされないのだろう(爆)

この世界のルリはティーンですらないというに・・・