「ところでアキト、お前・・・ポルトガル語って喋れるんか?」

「・・・お前はどうだ?」

ブラジルの公用語はポルトガル語・・・

二人は一番肝心な事を忘れていたことに気が付いた。

「どないするんや・・・」

「責任者だったら英語ぐらいできるだろう。」

「ほな、その英語はどのくらいできるんや?」

「・・・お前は?」

気まずい沈黙が二人を包み込む。

「・・・ま、何とかなるやろ。」

「・・・せやな。」

先行きは本当に不安であった。

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 外伝3 ようこそ『パーティ』会場へ

 

 

 

 

 

 

イケブクロのサンシャイン前公園・・・

ここに異様な一団が集まっていた。

週末ともなればここではストリートファイトに興じる若者であふれ返っているのだが

木曜日という事もあってファイト自体はあまり行なわれていない。

中央にある噴水前に陣取っているのは黒服の男達に囲まれた若い女性

杖を持って静かに瞑想している老人

薙刀を持っている女性・・・

それぞれある人物が来るのを待っていた。

そして・・・

「みんな、良く来てくれたわね。」

アヤが一番最後に現れた。しかしその顔は冴えない。

「いいのよ、あなたの頼みだったら。

それに日本に来て退屈してたんだから。」

そう言ったのは見事なボディラインを強調するように

チャイナドレスを着て長くウェーブの掛かった黒髪、左眼に泣き黒子、

整った顔立ちは間違いなく美人に属するであろう。

「ありがとう。」

続いてアヤは杖を突いている老人の元に向かっていく。

「お久しぶりです、師匠。」

「うむ。」

短くそう答える老人、よく見るとその瞳は鋭く猛禽類を思わせ

老人とは思えない程、背筋がまっすぐでかなり大柄な体躯をしている。

そして、その風貌はまさに侍と言った感じで、紺色の道着を着ている。

「アヤさん、私はあなたの為ではなくラピスちゃんの為に来ている事をお忘れないようにね。」

「ええ、わかっていますよ。先輩。」

そう言うとアヤは巫女装束に鉢金を付けた女性に挨拶をする。

その女性はまさに大和撫子といった感じで美しい黒髪を後ろで束ね

おっとりとした表情をしており、その所作もどこか優美なものを感じさせる。

「ところでアヤさん、どうかしたの?顔色が良くないみたいだけれど。」

チャイナドレスを着た女性が尋ねる。

「実は・・・」

アヤはプルセルの事を皆に話し始めた。

 

 

 

 

 

「なあ、アキト・・・」

「なんだ?」

肩を震わせながら答えるアキト。

「潜入出来たんはええけど・・・」

責任者は日系人らしく日本語も出来るようだった。

そこで二人はコックと給仕として採用されたのだが・・・

「・・・ぷっ・・・」

アキトは耐え切れずに噴出してしまった。

「笑うな!ワイかてこんな格好するんやったら引き受けんかったわい!」

カズマの格好はなんと言うか・・・

アラビアンナイトに出てきそうなターバンを巻き白い布で覆っただけという

「くくくくっ・・・ア、アラブ系関西人・・・」

まさにそんな格好だった。

「じゃかぁしぃ!そんな事より取引に使われとる子供っちゅうんは見つかったんか?」

「ああ、この屋敷の地下みたいだな。」

「どないして救出するつもりや。」

「俺が厨房で火事を起こす。その隙にカズマは子供達を。」

「ええで。しかし・・・」

「なんだ?」

「トイレの中でこんな話をするもんやないな。」

二人はトイレの個室の中で会話をしていた。

トイレの個室はかなり狭い。

何処のトイレでも落書きらしいものが書いてあるものだ。

恐らくF言葉で書き綴られているのだろうが

幸いアキト達には、何が書いてあるか読めなかった。

「・・・そうだな。じゃ、頼んだぞ。」

「ああ。」

そう言うと二人はそれぞれの持ち場に向かっていった。

アキトはまだ肩を振るわせたままだった。

―アキト・・・後で覚えてろや・・・

カズマは拳を震わせていた。

 

 

 

 

 

 

「どうするつもりだ?」

老人がアヤに尋ねる。

「こうなってしまったのは私の責任です。」

アヤは拳を握りながら答える。

「あなたらしくありませんわね。」

巫女装束の女性が言う。

「でも!」

「良いですか?あなたの良いところは、何でも前向きに考える事ですわ。

あなたがウジウジしていると、こっちまで調子狂ってしまいますわ。」

そう言って巫女姿の女性は赤面しながらそっぽを向く。

「それに、まだこちらが負けたわけではない。

一人には発信機をつけておるのだろう?」

「はい。」

「先ずはそちらを叩くのが、先決であろう。」

優先事項をハッキリさせておかなければこの闘いは負ける。

老人はそう言って再び黙り込んだ。

「・・・メイファン、あなた達の組織力で大井埠頭を封鎖してちょうだい。」

アヤは少し考えて先程のチャイナドレスの女性・・・リー・メイファン(烈美芳)に言う。

「・・・封鎖だけでいいの?」

「・・・プルセルが大井埠頭に現れたら連絡して。

できればプルセルをあいつらより先に保護してちょうだい。」

「わかったわ。」

メイファンはそう答えると、黒服の男達に指示をして自身も去っていく。

「アカネ先輩・・・」

「何かしら?」

巫女姿の女性・・・キリバヤシ=アカネは先程の自身が発した台詞が

まだ恥ずかしいのか少し顔を赤らめている。

「お師匠様と一緒にラピスを助け出す手伝いをしてください。」

「お前はどうするのだ?」

杖を持った老人・・・オニヅカ=シュウサクがアヤに問い掛ける。

「もちろん私もあの子を助けに行きます。

それが私に今出来る事だと思いますから・・・」

そう言うとアヤは懐からラピスに取付けている発信機の反応を探す。

「場所はシンジュクみたいね。」

「ではさっさと参りますわよ。」

「そうだな、時間的に見てもギリギリだろう。」

そう言うとアヤ達はシンジュクに足を向けたのであった。

 

 

 

 

 

しばらくして・・・アキトが予告した通り厨房で火事が起きた。

アキトとしては厨房で火事を起こすのは料理人として忍びなかったのだが

どうせ後で吹き飛ばすんだからと割り切っていた。

アキトが火事を起こすのと同時にカズマはさらわれた子供達を救出に向かった。

子供の数は全部で6人、いずれもまだ幼い子供達だ。

カズマは子供達を誘導し、アキトと二人で盗んで

隠しておいたトラックへと向かう。

屋敷の中は火事の騒ぎで騒然としていた。

そんな中をカズマは悠然と子供達を引き連れて脱出していく。

「今回はトラブルも無しにいけそうやな。」

誰にとも無く呟く。

「アキトの奴・・・大丈夫やろか?」

やがてトラックの前に到着すると子供達を乗せ

カズマはトラックを発進させる。

屋敷の門ではさすがに警備の兵がいたが

カズマは制止を振り切り、強引に突破した。

だが、さすがに呆然と見逃してくれるほど甘くは無かった。

すぐに追っ手の車が殺到し発砲してきた。

「くっ!こんなんやったら、後ろの子供達が死んでしまうで。」

一応、後ろにいる子供たちのことを考えて運転しているカズマと

不審者を捕らえるために必死になっている者達では所詮勝負にならない。

これがカズマだけだったら、まだいくらでもやり方がある。

追っ手の車がカズマの運転するトラックと併走し、

運転していたカズマに銃口が向けられる。

―へへっ、短い人生やったな・・・

カズマが死を覚悟したその時

突然、追っ手の車が爆発した。

『すまない、カズマ。遅れてしまった。』

それはアキトの乗るエステバリスカスタムの所為だった。

「アキト!ほんま遅いで!もう少しでワイ死にそうやったんやぞ!」

カズマが笑いながらアキトに文句をいう。

カズマは予定よりアキトの到着が早かった事に気が付いていた。

―アキトの奴・・・一体全体どんな魔法を使ったんや?

どう考えてもこんなに早くアキトが来るはず無いんやが・・・

『カズマ、子供達は無事か?』

「ああ、無事や。ちょっと刺激が強かったみたいやな。」

カズマが荷台を覗くと子供達は仲良く気絶していた。

『カズマは手はず通りこのまま空港に向かってくれ。

アカツキの専用機が到着しているはずだ。』

「了解や。アキトも程々にしとけよ。」

『わかっている。』

そう言うとアキトのエステバリスはブルーノの屋敷に向かって飛び立っていった。

「ホンマ、不思議なやっちゃ。」

そう言いながらもカズマは車を発進させる。

「この分やとラピスの授業参観には間に合いそうやな。」

カズマがトラックを走らせていると後ろから爆発が何回も聞こえてきた。

「アキトの奴・・・少しは手加減せいっちゅうねん。」

やがてトラックが空港に着くとアカツキの専用機が到着しており

アカツキ自ら子供達を専用機に乗せていった。

「ご苦労様、アキト君は?」

エリナがカズマに問い掛ける。

「まだ暴れとるで。」

そういいながら、今向かってきた方向を指差す。

時折天空に向かって対空射撃らしい光が夜空を照らすが

すぐに地上で爆発があり、やがて対空砲火もなくなっていった。

「・・・ばれないかしら?」

「一応、最新型の電磁迷彩システムを組み込んでいるから

我々の仕業だと言うのは恐らくわからないと思うよ。」

アカツキが何時の間にかやってきてカズマ達に言う。

「しかしエリナ君、今日は一段と気合が入っているね〜

アキト君に会えるのがそんなに嬉しいのかい?」

エリナは顔を真っ赤にさせながら

ち、違うわよ!こ、これは昨日のレセプションで・・・」

「あれ?レセプションで着ていたのは違う衣装だよねぇ。」

アカツキは完全にエリナをからかっている。

この前の書類の山に対する報復のつもりなのだろう。

「まったく、エリナの姉ちゃんといい、プルセルと言い・・・

なんでアキトの周りに女が集まるんや?

だって女性限定の人間磁石だから・・・

ナデシコのクルーがいたら恐らくそう答えるであろう。

暫くしてアキトが完全に屋敷を潰して帰還すると

アカツキたちは大急ぎで日本に向かって発進する事になる。

ラピス誘拐の報告がアカツキに入ってきたからである。

報告をアカツキと受け取ったカズマは青い顔をしてアカツキを見る。

「アカツキ!電話持ってへんか?」

そう言うとアカツキは懐から携帯電話を出しながら

「持っているけれど・・・」

そう言って携帯電話をカズマに渡す。

カズマは素早くダイヤルを押し携帯電話を耳に当てる。

「・・・なにやっとるんや・・・くっ!留守電に切り替わりよった・・・」

恐らく事務所に連絡を取っているのであろう。

エリナもシークレットサービスに連絡を取る。

「こうなれば・・・」

カズマは再び覚えているダイヤルを押し再び携帯電話に耳を当てる。

コール3回で電話の相手が出たようだ。

「・・・おう!ワイや!シズマや!<シズマさん!連絡がつかなくてこっちも心配してたんですよ!>

・・・スマン、それよりアヤの奴知らんか?<アヤさんですか?そう言えばさっきサンシャイン公園で・・・>

・・・見かけたんか!そんで、そん時の様子は!<は、はぁ・・・そう言われれば何か思いつめたような顔をしていたような・・・>

・・・スマンがアヤの奴を見つけてくれんか?<べ、別に良いですけれど・・・何かあったんですか?>

・・・アヤがキレるかもしれへん。<そう言えば・・・メイファンさんとアカネさんも見ましたけれど・・・>

・・・ひょっとして。<はい、シュウサク先生も居ましたよ。>

・・・だぁぁぁ!なに考えとんじゃい!<あの組み合わせだと東京が火の海になりますね。>

・・・何、冷静になって分析しとるんじゃい!<そ、そうですね。早速探します。>

・・・頼むで!見つけたら連絡してくれ!<解りました。>

・・・すぐそっちに向かう。」

そう言うと携帯電話をアカツキに放り投げる。

「最悪の事態や・・・」

真っ青な顔で、カズマの呟く最悪の事態はやがて現実味を帯びてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「メイファン様、宜しいのですか?」

大井埠頭の閉鎖を完了したメイファンは部下に尋ねられる。

「龍政会のこと?いいのよ。どちらにしても私達が手を下す事になったのだから。」

メイファンは手下の男に答える。

「それにあいつらの御陰でホンコンに大量の麻薬が入り込んだわ。

そのお礼だけはキッチリしておかないとね。」

烈一族はホンコンを仕切っている裏の組織だ。

しかし最近の木星蜥蜴によるドンパチで組織の目にも綻びが生じ始めた。

その隙をぬって外国の組織による烈一族の切り崩しが始まっていた。

日本からは龍政会がホンコンに進出を始めていた。

龍政会は関東で最大の組織だ。

メイファンはこれを潰すために来日し、龍政会の動きを集めていたら

ラピス誘拐事件の情報を察知したのであった。

「あのアヤが泣きながらお願いするのだもの、こちらとしては手を貸さないとね。」

メイファンはそう呟く。すると傍にいた手下の男が不思議そうな顔をして尋ねる。

「アヤ様は泣いていたようには見えないのですが。」

「バカね、アヤは決して涙を見せないの。

アヤにとって己の正義を貫くためには時に非情にならなければならないわ。

本当はプルセルの事が心配でたまらないはずよ。

それでもラピスの救出を最優先とした。

アヤにとって見れば二人とも護りたい人だろうから

どちらかを選ぶのはどちらかを見捨てることになる。

だからアヤは泣く事が出来ない。

どちらかに涙を見せれば、どちらかをえこ贔屓した事になるからね。」

「そう言うものですか。」

「ええ、そうよ。でも私はアヤが泣いていることなんてお見通し。

多分アヤの師匠もアカネも気が付いているわ。」

そう言いながらメイファンはクスリと笑う。

「一つお聞きしても良いですか?」

「なあに?」

「メイファン様はアヤ様の事が嫌いなのですか?」

「いいえ、大好きよ。

殺したいくらいに。

そう言うメイファンの目は冷たく輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「アカツキ、話がある。」

アカツキの専用機で日本に向かう途中でアキトはアカツキに話し掛ける。

「なんだい、テンカワ君。」

「アカツキ、軍にコネは無いのか?」

「テンカワ君・・・君達のおかげで我々は軍と対立関係にあるんだよ。」

「しかし、工場は稼動しているのだろう?」

実際にネルガル傘下の兵器工場では軍で使う兵器を生産していた。

「確かに工場は動いているけれど・・・」

「近くにミサイルを作っている工場は無いのか?」

「そう言うことはエリナ君のほうが詳しいねぇ」

そう言うとアカツキはエリナを呼ぶ。

「なぁに?到着時刻はどんなに急いでもあと23時間よ。」

「いや、テンカワ君がこの辺りでミサイルを作っている工場は無いかと聞いてきてるんだけど・・・」

「それくらい、あなたならわかるでしょう?」

「いやぁ、それが皆目見当もつかなくて・・・」

「信じられないわね。・・・この辺りだとフロリダが一番近いわよ。」

現在パナマ上空だから本当に近くだ。

「大陸間弾道ミサイルもそこで作っているな。」

「ええ、そうだけど・・・」

「ならばミサイルの弾頭の中にエステバリスを収容し

俺ごと日本に向けて打ち出してくれ。」

アキトの言葉にアカツキとエリナは真っ青な顔をする。

「無茶だ、テンカワ君。途中で防衛システムに撃墜されてしまうぞ。」

「それにミサイルに乗っていくなんて・・・

どれほどのGが掛かるかわかっているの?」

口々に抗議するアカツキとエリナをアキトは軽く制し

「これしか方法が無い。」

アカツキはアキトに顔を近づけ小声でささやく。

「テンカワ君、ジャンプした方が良くないかい?」

「一般人にジャンプするところを見られたいのか?

まだボソンジャンプは実験段階だ。

ネルガルとしてはまだ公表するつもりは無いんだろう?」

アキトは小声でアカツキに言う。

「確かに・・・しかしミサイルに乗っていくというのも荒唐無稽な話だと思うけど?」

「それは心配ない。カズマも一緒に行くからな。」

「どう言う事だい?」

アカツキが怪訝な顔をする。

「俺のエステに搭載されている重力制御システムは

ウリバタケさんが改造した物だ。

俺の計算では10G程度に中和できるはずだ。」

そう言うとアキトはカズマの所に向かっていった。

「会長、本当に大丈夫でしょうか。」

エリナは少し青い顔をしている。

10Gと言えば普通アクロバット飛行機が急旋回するときのGだ。

Gをキャンセルするには血液の流れを筋肉によってコントロールする方法があるが

訓練をつまないととても出来たものではない。

それに筋肉によって血液の流れをコントロールするのも限界がある。

アクロバット飛行では一瞬だけだが今回は一瞬なんて生易しいものではない。

「エリナ君、テンカワ君が大丈夫だと言うからには大丈夫なんだろう。

それよりフロリダ工場に連絡してくれないかい。」

そんなエリナの心配を見抜いたのであろう。

アカツキは軽い口調でエリナに言う。

「はい、弾道ミサイルの改造と緊急実験の連絡、

それに伴うアメリカ、日本国両政府に対する無償での兵器供与を行ないます。」

さすがに会長秘書をしているだけはある。

瞬時にアカツキが指示する前に方向を打ち出したのだ。

「ま、そんな所だろうね。」

エリナは早速連絡をとり始める。

「それにしてもミサイルに乗っていくなんて・・・

アニメの見すぎじゃないかね?テンカワ君・・・」

アカツキは誰にともなく呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、こんなガキ連れてくるだけで大金が手に入るんだ。チョロイな。」

龍政会の事務所で男が拳銃をもてあそびながら言う。

「本当ですね。ま、資金が入るのは良いことっす。」

「そうだな、でも本当はあっちに加わりたかったんだがな。」

男は少し悔しそうに言う。

「そうですねぇ。こんなガキの監視より、あっちで女を抱くほうがよかったっすよ。」

「どうせ殺すんだからな。」

男達はゲラゲラと下卑た笑いをする。

ラピスは薬をかがされているのかソファーに眠らされている。

ここには常に20人の組員がいるがそれでもまだ男の脳裏に引っかかる事があった。

「ねぇ、アニキ・・・そういえばこのガキが住んでいた所って

クサナギの所じゃないですか?」

「あぁん?あのクサナギか?んな訳ねぇだろう。

あのクサナギの所にいたんだったらさらっちまう前に殺されてるさ。」

男達はそう言って笑っていた。

「なるほど、今回は弟子の監督不行き届きかもしれんな。」

不意に老人の声が聞こえてきた。

「誰だ!」

男達は警戒しながら声のするほうを見る。

事務所で外に繋がっている扉は一つだけだ。

男達はそちらを見る。

すると、扉の向こう側からセルロイドでできたゲキガンガーのお面をつけ

紺色の胴着を着た老人が姿を現した。

「・・・なんだ?てめぇは・・・」

男達は少し困惑しながら尋ねる。

「地球をキョアック星人の手から守るために密かに研究所で作られた。」

そう言いながら老人は手にもっていた杖のを目の前にかざす。

それは仕込み杖となっており中から真剣が姿を現す。

「悪人であればこのゲキガンソードにて成敗いたす。覚悟せい!」

「その通りですわ。」

次に巫女姿で薙刀を持った女性が姿を現す。

こちらもセルロイドで出来たナチュラルライチのお面をつけている。

「世にはびこる悪はこの私が許しませんわ。」

「ふ・・・ふざけるな!」

そう言って男が一人老人に銃を向けるが

それよりも早く老人が動く。

一瞬後にゴトリと銃を男が落とす。

「くっ、何しやがったんだ・・・」

そう言いながら銃を取ろうとするが上手く掴めない。

ボタボタとどす黒い液体が男の目の前に流れ出す。

「どうした?早くその銃を手で取らんか。」

老人が言う。

男の額から冷や汗が流れ出す。

自分は今、銃を取ろうとしている。でも取れない・・・

腕は必死に床を触っているのだがその感触が無い・・・

男は必死になって自分の考えを否定しようと努力した。

しかし巫女装束の女性が

「腕が無くては銃を掴む事は出来ませんわ。」

と事実をはっきりと言ったことで男の中で何かが崩れた。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁ」

「煩いですわ。」

そう言うと巫女装束の女性は男の後頭部に薙刀の柄で叩く。

ぐらりと倒れ込み男は気絶した。

「ち、近づくな!

この女の子がどうなっても良いのか!

クソッ!表の兵隊は何をしてるんだ!」

アニキと呼ばれていた男はラピスを人質に取ってこの場を逃れようと

ラピスが寝ていたソファに銃を向ける。

「あら?それは止めたほうが宜しいと思いますわよ。」

「そうだな。命が惜しければ止めたほうがいい。」

ナチュラルライチとゲキガンガーは共にそう言う。

「な、何言ってるんだ!」

そう言うと同時に男はゆっくりとラピスが寝ているソファを見る。

するとそこにはラピスの姿は無く

代わりに青い段ビラ模様の入った幕末の京都を

警護していた新撰組をイメージさせる着物を着て

手には朱鞘の日本刀を持った女性がいた。

そしてやはりセルロイドのお面をつけていた

「そ、それはキャラクターが違うのでは・・・」

男が呟く。

そのお面は幕末の京都で人斬りと呼ばれ

明治の世では流浪人として剣を振るっていた人物だった。

「問答無用でござる」

そう言うと神速の抜刀術で男が手にしていた拳銃を弾き飛ばす。

「なっ!」

「衣装がこれしかなかったからでござる。」

「て、てめぇ!

誰かいないのか!」

「居る筈有りませんわ。」

「そうでござる。お主の手下は拙者たちが成敗いたした。」

「後はお前だけだ。」

ナチュラルライチ、流浪人、ゲキガンガーの順で言う。

男は完全に頭に血が上っていた。

関東最大の組織として龍政会は名をあげたのだ。

その龍政会がこんなふざけたお面をつけた一党にやられる・・・

そんな事はあってはならない・・・

そう思ったとき男は事務所に飾られていた日本刀を手にとった。

「あ〜あ、手にとってしまいましたわね。」

「うむ、そのまま降参していたほうが良かったのにな。」

ゲキガンガーとナチュラルライチが男を哀れむ。

「ふざけんな!俺はこれでも全国大会で優勝したほどの腕前だぞ!」

その男が言う通り刀を構えたその姿には隙が無い。

だが、流浪人のお面をつけた女性はフッと軽く笑う。

「たとえ全国大会で優勝したとしても拙者には敵わんでござるよ。」

あくまでも流浪人の口調で言う。

「ふ、ふざけるな!」

そう言うと男は鋭く踏み込み上段から真っ直ぐに刀を振り下ろす。

しかし次の瞬間、流浪人は男の横に移動していた。

「たいした腕でござるな。しかし道を説くための剣では

拙者には触れる事は出来ないでござるよ。」

そう言うと流浪人はくるりと背中を向ける。

「せ、背中を向けるとはいい度胸だ!」

そう言うと男は再び刀を上段に振り上げる。

が、しかし・・・男の視界が急に上を向く。

男の目には天井が映っていた。

「ガハッ!」

背中をしたたかに打ちつけた男はしばらく悶絶した後

どうにか起き上がろうとするが上手くバランスが取れない。

何とか周りにあったものを使って上半身を起こす。

そして、男が最初に目にしたのはブーツだと思った・・・

しかしどす黒い液体がブーツから流れ出ている・・・

「腕を上げたな、このワシですら太刀筋がぼんやりとしか見えなかったぞ。」

ゲキガンガーの仮面をかぶった男が言う。

「恐縮です。」

あまりに非現実的な出来事に男の頭は混乱する。

ひぎゃぁぁぁぁぁ!!!お、おでのあじがぁぁぁぁぁぁ!!!

ひとしきり叫ぶと男はぱたりと気を失ってしまった。

―この師匠にしてこの弟子ありですわね・・・

やってることがまるで一緒ですもの・・・

ナチュラルライチのお面をかぶったアカネはげっそりしていた。

 

 

 

 

「テンカワ君、準備は良いかい?」

ミサイル発射管制室でアカツキはアキトに通信を入れる。

「ああ、いつでも良いぞ。」

「ちょーまてぃ!

いきなり気絶させて目覚めるとミサイルん中っちゅうんはどうなっとんじゃい!」

カズマがアキトの襟首をつかむ。

「いや、説明するのが面倒だったからだけだ。」

「なんや、そうやったんか。そんなら早う言うてくれればええのに・・・

ってそんなんで納得するかー!」

「ミサイルに乗って一気に日本まで行く。

これで納得したか?」

アキトはカズマの腕をつかみ襟首から手を下ろさせる。

「ミサイルっちゅうて・・・もしかして物凄いGが加わるんちゃうか?」

「大丈夫だ、俺のエステは特別製でな。

重力制御システムのおかげで多少のGならキャンセルできる。」

カズマはジト目でアキトを見て

「Gってどのくらいや・・・」

「ほんの10G程度だ。」

「ほおか、たったそんだけか・・・って、おい!」

「アクロバット飛行の急旋回を常に受けている状態だ。」

アキトは真面目な顔で言う。

「ほぉ、それは凄いなぁ・・・」

「アクロバット飛行をやったことがあるのか?」

「ない!けど、何とかなるやろ。」

―もしかしたら失明するか最悪の場合、脳死状態になってしまうことがあるのは

黙っておいた方がいいのかなぁ・・・

アキトとカズマの会話を聞きながらアカツキは思ったがアキトが大丈夫と言っているのだからと

気持ちを切り替えミサイルの発射準備を急がせる。

「それにしてもミサイルを使うなんて・・・振られたのかねぇ。エリナ君?」

「いいえ、ビジネスは常にギブアンドテイクですわ。

ボソンジャンプの実験は断られてしまいましたけど

サレナタイプのテストパイロットは断られていませんわ。」

アカツキは少し引きながら

「ま、まさかアレに乗せようなんて・・・怖い事を考えるねぇ。」

「ミサイルの弾頭に乗ろうって人がサレナタイプに乗れないはずは無いわ。

それにアキト君のエステバリスに搭載されている重力制御システム・・・興味あるわ。」

「ビジネスライクだネェ・・・ま、僕としてもサレナタイプのテストパイロットは必要だからねぇ。」

「そうでしょう。渡りに船ってこの事を言うのよね。」

―ま、いいか。そのほうが面白くなりそうだし・・・

その直後、アキトとカズマを乗せた大陸間弾道ミサイルは日本方面に向かって発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アヤ様が言っておられた女性を発見しました。」

メイファンの部下が言う。

「アヤの方はどうなってるの?」

「はい、作戦は無事終了。現在こちらに向かっているとの事です。

あと5分くらいすればこちらに到着するとの事です。」

メイファンは少し怪訝な顔をする。

「少し早くありませんか?」

「運転手がアヤ様ですから・・・」

メイファンはそういわれて納得する。

以前アヤが免許を取りたての頃・・・

アヤに誘われてアカネとメイファンの3人でドライブに出かけた。

しかし彼女と親しい女性と彼女の身内は

用事があるといって待ち合わせ場所に現れなかった。

結局、女3人でドライブをすることになったのだが・・・

アカネとメイファンは身を持って二人が現れなかった理由を理解したのであった。

『ハンドルを握ると性格が変わる・・・

と言うより本来の性格が最大限でてくる・・・』

メイファンはそう評した。

「・・・アカネも良く乗る決心をしましたね。」

身震いしながらメイファンは言う。

「そうですね・・・」

「それより彼女を何とかしないと・・・」

そう言ってプルセルを保護するように部下の男達に命令する。

メイファン達が偵察したところ相手はエステバリスを持ってきているみたいだ。

おそらくスズキ社長より供与されたのであろう。

ヤクザのおもちゃにしては少々危険なおもちゃである。

ラピスが無事に救出された今、無理に彼女が姿を現す必要はない。

そうメイファンは判断した。

しばらくしてメイファンの部下達はプルセルを

メイファンの元に連れてきた。

「あなた達は・・・」

「安心して、私はアヤの親友で

烈 美芳。」

「リーって・・・もしかしてホンコン最大の・・・」

メイファンの正体を知り顔が青くなるプルセル。

「さすがに知っているみたいね。」

「ええ、色々と・・・」

そう言っているうちにアヤ達がメイファン達の所に到着した。

「アヤ、やっぱり早かったわね・・・」

後部座席で目を回しているアカネを見て

―アカネには悪いですけれどアヤと別行動していて正解でしたわ。

顔に縦線が入りながらそう思っていた。

「アヤさん・・・」

プルセルがアヤの所に歩いていく。

アヤは何も言わずにプルセルの頬を叩く。

「・・・ゴメンナサイ・・・私・・・」

「もういいのよ。今ので勝手に行ってしまった事は忘れるわ。」

アヤは笑顔で言う。

「そういえばラピスちゃんは?」

「無事よ。まだ薬の所為で眠っているけれど・・・」

―薬ではなくあなたの運転で気絶しているのでは・・・

その言葉を聞いてメイファンは思ったのだが口には出さないでいた。

誰でも命は惜しいものである。

「ところで、このまま帰るつもりか?」

シュウサクがアヤに尋ねる。

「いいえ、お師匠様もそんなつもりは無いんでしょう?」

「そうだな、丁度新しい技を研究中なのだ。」

ヤクザ相手に技の実験をするつもりである。

「メイファンもこのまま帰るつもりは無いんでしょう?」

「ええ、龍政会は潰さなくてはなりませんからね。」

「私も行きますわ。」

ふらふらとしながらアカネが車から降りてくる。

「先輩・・・生きてらしたんですね。」

「・・・臨死体験はしましたけれどね。」

少し残念そうな口調でアヤが言うが

アカネがすぐさま切替す。

「あの・・・私も行きます。」

プルセルが遠慮気味に言う。

「・・・いいわよ。」

アヤは少し逡巡してから言う。

「ありがとうございます。」

「その代わり、あなたにはラピスを頼むわ。」

「え?」

明らかに戸惑いを見せるプルセルにさらに言う。

「あなたは何があってもラピスの命を護ってね。

これは最優先事項よ。

どこぞの宇宙人教師みたいな台詞を言う。

「はい。」

「安心して、私の部下達もあなたの護衛をするわ。」

「ありがとうございます。」

メイファンはプルセルに言う。

「さぁ、行きましょうか。」

アヤの言葉に頷く皆。

プルセルはラピスを抱きながら思う。

―すべての決着を今つけなくっちゃ・・・

 

 

 

 

 

「そろそろ日本領空だ。」

アキトがカズマに言うが既にカズマは返事をする余裕がない。

―くっ、こっちはこのGに耐えとるだけで精一杯っちゅうのに

平気な顔しとる・・・

必死になって暴力的に襲ってくるGに耐えながらアキトを恨めしそうに見る。

やがてミサイルとの切り離しポイントが近づく。

「切り離し30秒前・・・20秒前・・・10秒前・・・5、4、3、2、1切り離し!」

弾道ミサイルの先端部が割れ、中からエステバリスが現れる。

「このままラピスに付けた発信機の反応地点に向かう。」

「す、好きにしてくれや・・・」

そう言うとカズマはがっくりと崩れ落ちた。

「カズマ、狭いんだから邪魔にならないように崩れ落ちてくれ。」

結構残酷な事を言うアキトであった。

 

 

 

 

 

 


 

ラピス:私の出番が無い。

作者:おお!凄い!前回は喋って動いていたのに今回は気絶しているし。

ラピス:台詞すら無い。

作者:大丈夫、次回は出番がちゃんとある

ラピス:本当に?

作者:・・・と思う。

ラピス:しなければ・・・破壊神降臨・・・

作者:わかりました!

ラピス:ネタ晴らし。烈 美芳・・・

作者:ご存知!完全なる花嫁『烈 飛玲』の子孫。

ラピス:結局地上最強の男との関係は?

作者:無かったと見たほうがいい。

ラピス:オニヅカ=シュウサク・・・

作者:もちろん、人間凶器トリオの一人。鬼塚鉄斎の血縁。

ラピス:でも飛天流の後継者は御剣 涼子では・・・

作者:この場合、後継者が鬼塚の名を継ぐと考えてくれればいい。

ラピス:キリバヤシ=アカネ・・・

作者:コミック版で登場してテレビ版では静馬より出番が多かった霧林あずみの子孫。

ラピス:こちらは純粋に子孫と考えるの?

作者:おう、これはすんなり決まったキャラクターだった。

ラピス:カズマが電話していた相手は?

作者:この外伝はリアバウキャラの子孫が出るから・・・

ラピス:出入りのときはお面をかぶる・・・

作者:地上最強の男はいつもかぶっているからね。

ラピス:流浪人・・・

作者:るろうに剣心から。他に適当なキャラが思いつかなかったし・・・

ラピス:アヤの運転・・・

作者:TV版で静馬の姉がスピード狂だった性格を譲り受けたという設定。

ラピス:最優先事項・・・

作者:知っている人も多いはず。ご存知”おねティ”より。

ラピス:次回は私がメインよね。

作者:ちょっと休ませて・・・

ラピス:次回作を書くのが最優先事項よ。

作者:わ、わかりました!

 

・・・ホント、あんな美人の先生が居たら毎日楽しいだろうな・・・

 

 

 

 

代理人の感想

TVは見てないんでノーコメント。

・・・・正確には五分で切ったんですが(爆)。