「ナデシコ2番艦、コスモスの進捗は現在88%

3番艦シャクヤクは59%まで進んでいます。」

会長室でアカツキにナデシコ級戦艦の報告をするエリナ。

「彼の調子はどうだい?」

「問題ありません。

昨日のテストでもサレナタイプの能力を引き出しています。

この実験結果があればスーパーエステバリスの

実戦投入が可能となりますが、かなり熟練したパイロットでないと

乗りこなせないでしょう。」

アカツキは実験結果のレポートを読みながら満足そうに頷く。

「そう言えばエリナ君。」

少し意地悪な笑みを浮かべエリナを見るアカツキ。

「な、何よ。」

「今日は随分とご機嫌だねぇ。いい事でもあったのかい?」

「な、無いわよ。」

真っ赤になりながら答えるエリナ。

ビジネスの席では常に冷酷ともいえる顔をしているエリナであったが

恋愛の事になると途端に顔に出てしまう。

アカツキはその様子を見るのが楽しかった。

「テンカワ君と夜遅くまで何をしていたのかい?」

「ちょ、ちょっと!変な勘ぐりは止めてよ。

アキト君からサレナタイプの改修案を聞いていただけよ!」

都内の高級レストランでかい?

そこまで言われるとエリナは黙り込んでしまった。

「君も中々、策士だよねぇ。

仕事にかこつけてデートに誘うだなんて・・・」

益々、真っ赤になるエリナであった。

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ Re Try 外伝 第5話 それぞれの決意、それぞれの旅立ち

 

 

 

 

 

 

 

「カズマ!あんたまたやったわね!」

「いつも言うとるやろ!ワイにも付き合いがあんねん!」

毎度おなじみの光景となったカズマとアヤの追いかけっこも

周りの人間にしてみれば一種の風物詩と言ったところであろう。

「アキトさん、紅茶のおかわりはいかがですか?」

プルセルがアキトに言う。

「ああ、貰おう。」

最近はサレナタイプのテストパイロットも兼任している為

中々家に居ないアキトが久しぶりに家に居るので

ついサービスしてしまうプルセルであった。

「アヤは、何を怒っているんだ?」

「この間、久しぶりに依頼が有ったんですけれど

その依頼料をカズマさんが・・・」

「飲み代に食いつぶした・・・」

アキトがプルセルの言葉に追従して言う。

「その通りです。」

「・・・学習すると言うことを知らないのか?あいつは・・・」

「本能だけで生きているみたいですから・・・」

アキトはその言葉に深く頷く。

「確かにそうだな。」

「でも・・・」

プルセルは楽しそうに言う。

「私、今までこんなに楽しい思いをしたことがありませんでした。

小さいときに両親が死んで今まで施設の中で育ち

必死になって勉強してネルガルに入ったのですが

笑ったことなんで無かったと思います。

時々、このままずっとアキトさんやカズマさん、

アヤさんにラピスちゃんと一緒に居られたら良いなって・・・」

そこまで言うとアキトは少し悲しい顔をして

「ずっと一緒と言うことは恐らくありえないだろう。

カズマはいずれ日本を飛び出し、世界へ・・・あるいは

月や火星に行って自分の道を貫くだろうし

アヤさんは飛天流を継いで道場を開くだろう。

ラピスはマシンチャイルドとしてではなく普通の女の子として

生きて欲しいが俺達に関わってしまっては最早それも望みが薄い。

せめてラピスが幸せになるまでは面倒を見るつもりだ。

それに・・・」

アキトが少し言いにくそうにしている。

何時の間にかアヤとカズマの追いかけっこも

カズマの頭がタンコブだらけになって終了しており

アキト達の傍に集まっている。

「俺には約束がある。

ナデシコに戻るという約束が・・・

その為にコスモスに乗り込むことになった。」

すなわち、それは別れの挨拶であるとその場にいた者全員が感じ取った。

「それは何時の事?」

アヤがアキトに尋ねる。

「3週間後だ。」

そして、その場は静かに解散となった。

 

 

 

 

 

 

「だあぁぁぁ!」

イケブクロのサンシャイン公園で

カズマは何時ものようにストリートファイトに明け暮れていた。

しかし、胸のモヤモヤは晴れる事無く

暴れれば暴れるほど益々イライラ感が溢れ出てきた。

やがて、挑戦者がいなくなると公園のベンチにドカリと座る。

「今日は随分荒れていますね。」

ユキヲがスポーツドリンクとタオルを差し出しながら言う。

「・・・なんでそう思うんや?」

「何時もでしたら、徹底的に相手を、散々からかってから大技で

相手を倒すのですが、今日は何だか別の相手と戦っているみたいでした。」

ニコリと笑いながらユキヲが言う。

「ちっ。」

図星を指されて不機嫌な顔をするカズマ。

「一体誰と戦っていたんです?」

「・・・アキトや。」

「アキトさんですか。そう言えば最近姿を見せませんね。」

「あいつは今、約束を果たそうとして必死になっとる。」

カズマは公園の噴水を見ながら言う。

「約束・・・ですか。」

「ああ、その為に行ってしまうんや。」

「それで?」

ユキヲがカズマを見ながら問い掛ける。

「それで、カズマさんはどうしたいんですか?」

「アキトの奴と一緒に行こうと思っとる。」

そう言ったカズマの表情は険しいものになっている。

「じゃあ、そうすれば良いじゃないですか。」

「せやかて、アヤのやつもおるし、ラピスやプルセルも居るんや。

昔みたいにアヤと二人だけやったら何も、こんなに悩まへんねん。」

そう言ったカズマを見ながらユキヲはクスリと笑い

「カズマさん、大丈夫ですよ。皆さんのとる行動は一つしかありませんから。」

普段、アキトの料理を食べにカズマの家を出入りしていたユキヲは

それとなくカズマの家の人間が何を考えているかわかるようになってきた。

「どないせいっちゅうんじゃ。」

「いいんですよ、カズマさんは思う通りの行動をすれば。」

「せやかて・・・」

「良いですか、アヤさんはラピスちゃんの後見人を引き受けています。

そのラピスちゃんはアキトさんの傍を離れるつもりは無いでしょうから

アキトさんについていきます。

プルセルさんはどうせネルガルの人脈を駆使してアキトさんの

行く所について行くでしょう。」

呆然としながらカズマはユキヲを見る。

「・・・どうしたんですか?」

「そないなるとワイはアキトについてってもええんやな?」

「そうですよ。でも、問題はどうやってついて行くかですけれど・・・」

「ええって、そんなん後で考えるわい。

それより、飲みにでも行こうか。」

カズマは立ち上がり言う。

中学生にお酒を勧めないで下さいよ。」

「何いっとんねん。ワイが飲もうゆうたんは麦茶のことや。」

泡の入った・・・でしょう?」

「ええから、行こうか。」

そう言ってカズマはユキヲを連れて夜の町へと消えていった。

―アカツキの奴に頼んだろ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか・・・行くか。」

「はい、今までお世話になりました。」

飛天神社の裏手にある飛天流道場・・・

道場の中にはオニヅカ=シュウサクとアヤが

道場の中央に正座して座っていた。

「明鏡止水・・・覚えておるか?」

「はい、ですが未だにその境地に達しておりません。」

「そうか、まだ道のりは長いようだな。」

「はい、ですが今回の事で少しでも近づくことが出来たらと思っております。」

シュウサクは深く瞑想し、やがて口を開く。

「アヤ・・・仕合うぞ。」

「え?」

「さっさと構えんか。」

そう言ってシュウサクは木刀をアヤに投げてよこす。

木刀を受取り、慌ててシュウサクと対峙するアヤ。

「本気で行くぞ。」

そう言うとシュウサクは凄まじい剣気をアヤに向けてくる。

―お師匠様・・・本気だ・・・

アヤは気を高め、シュウサクに剣を向ける。

―さすが・・・一分の隙も無いわね・・・

じり、じりと摺り足でお互いの位置を静かに変えていく。

それは、端から見るとただ単に向き合っているだけのように見える。

しかし、お互いの筋肉が少しでも違う動きを見せると

それに対応して己も動く。

やがて、二人の額にはビッシリと汗が噴き出ていく。

「どうした、渾身の力を篭めて打ち込んでこんか。」

シュウサクはそう言うと抜刀術の構えを取る。

「わかりました。行きます。」

そう言うとアヤも抜刀術の構えを取り、気合の声をあげ

神速の踏込みでシュウサクの間合いに飛び込む。

シュウサクもアヤが動くのとほぼ同時に木刀を抜き放つ。

一瞬の静寂の後・・・アヤの体が崩れ落ちる。

「まだまだ・・・適いませんね。」

少し荒い息遣いでシュウサクを見るアヤ。

「当然だ。ワシを誰だと思っておる。

と言いたいところだが実際ワシも危なかった。

ほんの少し、ワシのほうが経験値が上だっただけだ。」

そう言いながらアヤに手を貸すシュウサク。

「正直、この道場をお前に継いで欲しかったのだが・・・」

「ゴメンなさい。

私は決めたんです。

ラピスが人間としてきちんと成長するまで、

私はあの子を守る為の剣になるって。」

シュウサクはアヤの瞳に一点の曇りが無いことを見抜いた。

「大切なものを守る為の剣になる・・・か。

飛天流の極意よな。

時代時代の困難から人々を守る為の剣・・・

大切なものを護るために剣を振るう。

アヤ、いい女になったな。」

アヤは少し顔を赤らめて

「何言っているんですか。」

「照れる事は無い。ワシがもう20年若ければ放ってはおらんぞ。」

そう言うと普段、険しい顔をしているシュウサクの顔が笑顔になる。

「アヤ、お主は帰るべき場所を手に入れたようだな。」

「はい。」

アヤの帰るべき場所・・・カズマやラピス、プルセルにアキト・・・

皆がいる場所、安らぎの場所・・・

「帰る場所があるのは良い事だ。

腕が互角のとき、最後に勝負を決めるのは・・・」

「己の心・・・ですね。」

「そうだ、忘れるな。」

そう言うとシュウサクは道場を後にする。

アヤはしばらく道場の中を眺めていたが

やがて、出口に向かい歩を進める。

そして、出口でもう一度、道場の中をぐるりと見回し

やがて、深々と一礼する。

その瞳には光るものが流れていた。

―今まで・・・ありがとうございました・・・

アヤがもう一度、顔を上げたときには

新たな決意を秘め道場を後にした。

そして、二度と道場を振り向く事は無かった。

―それにしても・・・どうやってアキトに付いて行こうかしら・・・

とりあえずアカツキ君に頼んでみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこは・・・こうした方が良いわよ。」

6畳一間の部屋の中には薄桃色の着物を着たラピスと

水色を主体とした着物を着たキリバヤシ=アカネがいた。

「そうか、この方が綺麗に見えるんだ。」

「そうよ、花を生けると言うのは心を表すものなの。

あなたの心は清く、美しいわ。

でも・・・今日は何か悩みでも有るのかしら?」

そう言われ、ビックリした表情を浮かべるラピス。

「どうして分かるの?」

「先程も言ったでしょう?生け花は心を生けるのだと。

今日のあなたが生けた花はどれも寂しそう。」

「・・・」

「話してごらんなさい。」

優しく言うアカネ。

「・・・アキトが・・・行っちゃうの。」

「何処に?」

「・・・アキトが帰るべきところ・・・」

ラピスは消えそうな声で言う。

「じゃあ、あなたはどうしたいのですか?」

アカネはラピスの肩を抱き言う。

「・・・アキトに付いて行きたい・・・」

「じゃあ、そうすれば?」

「ダメ、アキトが怒るから。」

ラピスの目には何時の間にか涙があふれていた。

アカネはラピスをぎゅっと抱きしめ

「いいのですよ、思いっきり泣きなさい。

あなたの年齢では感情を素直に表す事で大人になっていくものですから。」

すでにラピスはアカネの胸に顔を埋めて泣いている。

アカネは優しくラピスの髪をなでる。

しばらくその状態が続き、やがてラピスが泣き止む。

「・・・どう、少しは落ち着いた?」

「・・・うん。」

「そう。」

アカネはラピスの顔をハンカチで拭きながら

「良いじゃないの。付いてっちゃいなさいよ。」

「え?」

「それぐらい、笑って許せないような男だったらいっその事

私達の家に来なさい。歓迎するわよ。」

アカネはラピスに笑いかける。

「その代わり、あなたはアヤさんの側を離れない事。」

「え?でもアヤは・・・」

「ふふっ、アヤさんはあなたを守るようにアキト君から言われていたみたいなのよ。」

ラピスは改めてアキトの思慮深さを感じ取った。

「でも残念ね、折角優秀な弟子を見つけたのに・・・」

「ゴメンなさい。」

「いいのよ。また、帰って来た時にはうちに来て頂戴。

本格的な修行を付けてあげますから。」

「はい。」

「でも、アキト君の料理が食べられなくなるのはちょっと残念かな。」

そう言ってクスリと笑うと生け花の道具を片付け始める。

ラピスはその後姿を見ながら

「・・・ありがとう」

と呟く。

「先程、私が言った事・・・忘れないでね。

あなたは素直に生きることが出来たらきっと素晴らしい女性になるわ。」

肩越しに声をかけるアカネ。

心なしか若干声が震えているようにも感じる。

―・・・本当に、ありがとう・・・

絶対、帰ってくるから。

人として・・・

ラピスは心を閉ざしていた研究所時代の癖が中々抜けない事があったが

アヤに連れられてアカネの家を訪れたときから今日まで

作法や人としての心の持ち方を教えてくれたアカネに精一杯の感謝をしていた。

―・・・どうやってアキトに付いて行こうか・・・そうだ、アカツキに頼もう。

 

 

 

 

 

 

 

「折角知合いに慣れたというのに・・・残念ね。」

都内のホテルの一室でプルセルはメイファンと会っていた。

二人の趣味が紅茶と言う事で意気投合し、何度か会っていたのだ。

「そうね、でもまた帰ってくるわ。」

「ふふっ、惚れた男を追いかけて行くなんて・・・

私の祖先に似てるわね。」

メイファンは遠い目をする。

「へぇ、どんな話なの?」

プルセルは興味津々といった感じでプルセルに聞く。

「それがね、祖先が14の時にある男が烈一族にやってきて

一族の武術の使い手たちを次々と倒していったらしいの。

そしたら、その時の長がその男を気に入って祖先の婿にしたらしいのよ。」

「それで?」

「ところが、男は修行中の身で旅立たなければならなかった。

そこで、祖先は男を逃がすために一緒に付いて行ったのだけれど

途中で怪我をして動けなくなり、泣く泣くホンコンに留まったの。」

「そのときに、もうその男の人に惚れていたんだ。」

「ええ、それから祖先はその男の花婿として花嫁修業を積んだらしいわ。

そして、組織の力を使って男が日本に居る事を突き止めると

男の元に向かった・・・

でも男は最初祖先の事に気が付かなかったみたいで

祖先も男には女が出来ていると思い最初は争いになったみたいだけれど

最後は祖先が戻る空港でお互いを認め合ったみたいなの。」

「いい話じゃないの。」

「でもね、この話には続きがあって・・・

祖先はその男を木箱に詰め込んでホンコンに拉致同然で連れ帰ったらしいの。」

プルセルは少し青い顔をする。

「そして、男は様々な手を駆使して逃げ出そうとして最後はどうやったのか

ホンコンを脱出したらしいの。」

「木箱に詰められたら誰だって怒るわ。」

メイファンはティーカップに注がれている紅茶を一口飲み

「その後の事は私も聞いていないわ。

祖先はその後の事は誰にも話さなかったらしいから・・・」

「話したくないことでもあったのかしら・・・」

「分からないわね。」

そう言っているとメイファンの部下が近寄ってきてメイファンに耳打ちをする。

プルセルは席を立ち

「じゃあ、帰ってきたら連絡するわね。」

「ゴメンなさい、私にも仕事があるから・・・」

「いいのよ、ご馳走様。」

「一つ言い忘れていたわ。祖先は何があってもあきらめなかった。

あなたも、あきらめちゃダメよ。」

「ええ、もうあきらめたりなんかしない。」

プルセルの瞳には決意の光がともっていた。

「それじゃぁ、また。」

そう言うとプルセルはホテルを後にする。

「プルセルさん・・・頑張ってね。」

メイファンは残った紅茶を一気に飲み干すと

今までとは違う・・・烈一族を統べる長の顔になり

男達に指示を与え始めた。

プルセルは夕食の買物をしながら

―あきらめない・・・か。

でも問題はどうやってアキトさんに付いて行くか・・・よね。

アカツキ会長に直訴でもしようかしら・・・

 

 

 

 

 

 

「くっくっくっくっ・・・」

アカツキは自分宛に送られてきたメールを見ながら一人で笑っていた。

アカツキ個人のプライベートメールであるのでエリナには

アカツキが仕事のやりすぎで壊れてしまったのかと思ったほどだ。

「会長?どうしました?」

「エリナ君、これ見てくれよ。」

アカツキが個人的な内容のメールをエリナに見せるのは初めてだった。

いかに会長秘書とは言え個人的なことに関与すべきではないからだ。

「クスッ・・・どうします?」

エリナはアカツキから見せられたメールをすべて読むと

やはり笑いがこぼれる。

「エリナ君はどうするんだい?」

「あら、私は操舵士としてもお役に立てると思っていたのですけれど?」

エリナがそう言うと

「ふぅ、君までもナデシコに乗ろうっていうのかい?」

そう言うとアカツキはエリナに書類を持ってこさせる。

そして、何事か書くとエリナに書類を渡す。

「それはテンカワ君には内緒だよ。」

「あら、どうしてですか?」

「そのほうが面白いから。」

そう言うとアカツキは何事か思案し始める。

「それにしても会長?」

「なんだい、エリナ君。」

「普段からこれだけ早く仕事をしていればこんなに

未決裁の書類がたまる事ないのですけれどね。」

アカツキはげんなりとした表情をして

「本当にこれ全部終わらせないとダメなの?」

「社長が現在空席となっていますから本来、社長が決裁していた書類も

全てこちらに来ていますから・・・」

ネルガルでは電子決裁が主流となっているが、重要なものは全て紙を使用している。

そして、重要なものほどアカツキに廻ってくる訳で・・・

「それが全て終わらないと会長がコスモスに乗り込むことはありませんよ。」

「エリナ君・・・」

「今日は制服のサイズ合わせがありますのでこれで失礼します。

明日までに終わらせて置いてください。」

そう言うと会長室を後にするエリナ。

「こ、これではいつまでたっても仕事が終わらない・・・」

何処から手をつけて良いのか分からずに呆然とするアカツキであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキトがコスモスに乗り込む朝・・・

朝といっても夜に近く、まだ太陽が出ていない。

「すまない。」

アキトは皆に黙っていってしまう事を詫びた。

事務所のテーブルの上には置手紙を置いておいた。

―ラピスの事はアヤさんにプルセルさん、カズマがいれば大丈夫だろう。

そう判断したアキトはラピスを巻き込まないために一人で

逃げ出すように出て行くことにした。

アキトはコスモスに行く前に自らの愛機となるブラックサレナの実験施設に足を向け

そのまま、ブラックサレナを受け取りコスモスに合流する事となっていた。

アキトは通いなれた道を歩きながらこれからのことを考えていた。

―クリムゾングループの暗躍も気に掛かるな・・・

結局、スズキ社長は行方がわからなかった・・・

ネルガルの情報収集能力だってプロスさんが居ないとは言え

かなりのものが有るはずなのに・・・

それに、ルリの遺伝子情報を持ち帰った北辰の事も気になる。

確かにマシンチャイルドの存在は木連にとって喉から手が出るほど

欲しいだろうから・・・もし、ルリと同じ存在を造ろうとしているのであれば

阻止しなくては・・・こればかりはネルガルの情報を待つしかないか・・・

やがてアキトはブラックサレナを研究していた実験施設にたどり着き

ブラックサレナを受け取る。

コックピットに乗り込み、アキトは大きく深呼吸する。

「これからはお前が俺の相棒だ・・・頼むぞ。」

アキトの声に答えるようにブラックサレナの目が光った。

かつては復讐の道具として使用していた機体だが

今では自分の心血を注いで作り上げた自分の愛機だ。

「テンカワ=アキト、ブラックサレナ発進するぞ!」

実験施設の重力カタパルトが作動し、ブラックサレナは朝日と共に

コスモスに向かって発進していった。

―復讐は何も生まない・・・闘うべきは過去ではなく今・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ブラックサレナ、到着。誘導を頼む。」

『了解、コンピューターの指示に従ってください。』

「ん?どこかで聞いたことがあるような声だったが・・・」

コスモスに着艦すると、アカツキが出迎えてくれた。

「ようこそ、ナデシコ級2番艦。コスモスへ」

「アカツキ、仕事は終わったのか?」

よく見るとアカツキの目の下にクマが出来ている。

「ふっ・・・聞かないでくれよ。」

相当苦労したらしい、何時ものアカツキから感じられる御気楽感がまったく無い。

「なに言っているの、まだ仕事は山ほどあるのよ。」

エリナが近づいてきてアカツキに言う。

「・・・テンカワ君・・・」

「手伝わないぞ。」

アカツキは絶句しながらトボトボと歩いていく。

アキトの脳裏にはドナドナが流れていた。

「さて、アキト君。」

「何だ?」

「一緒にナデシコに乗り込むクルーを紹介するわ。付いてきて。」

エリナに連れられてコスモスの会議室に連れてこられると

アキトは驚愕した。

「ナデシコのパイロット見習兼保安部のクサナギ=カズマや。よろしゅう。」

「同じくナデシコのパイロット見習兼保安部のクサナギ=アヤよ。宜しく。」

「ナデシコ副オペレーターのラピス=ラズリ。」

「ナデシコ副通信士のプルセル=キンケードです。」

アキトが驚きのあまり口をパクパクさせていると

「なんや、そないに嬉しいんか。」

「ど、ど・・・」

「どうしてって・・・アカツキ君に頼んだの。」

アヤが言う。

「で、で・・・」

「アカツキ会長はアヤさんたちを臨時として雇う事に決めたらしいの。」

プルセルが言う。

「し、し・・・」

「私達はアキトに付いていくよ。ダメ?」

ラピスの言葉でようやく状況が飲み込めたアキト。

「テンカワ君、彼女らの熱意に僕は深く感動してねぇ。」

明らかに面白がっているアカツキ。

「アキト・・・」

カズマが近寄ってくる。

「カズマ・・・」

ガシィ!

いきなりアキトを殴りつけるカズマ。

「黙っとった事はこれで勘弁したるわ。」

それはカズマにとって照れ隠しであった。

「さて、感動の対面も果たした事だし。

これから僕らは連合宇宙軍と共に月に向かうよ。」

宇宙軍が予定している月奪還作戦の一翼を担っているらしい。

アカツキは色々と説明をする。

「カズマとアヤ君はパイロットとしてはまだ未熟だから

これからテンカワ君にびっしりと鍛えてもらうと良い。」

「へへっ、頼むで。」

「よろしくね。」

カズマとアヤはアキトに言う。

「・・・ナデシコのパイロットとなるには相当の努力が必要だぞ。」

「おっ、特訓か。アヤの好きな展開やな。」

「別に滝に打たれるわけじゃないぞ。」

「アカツキ君もパイロットとしてナデシコに乗り込むんでしょう?」

「ああ、その事で君達にお願いがあるんだ。

僕の事は伏せておいてくれないかな。」

「どうして?」

ラピスが質問する。

「ナデシコの内部にもスズキの息が掛かった人間がいると思って

ほぼ間違いないだろう。それに、正体を隠してって言うのも

中々楽しそうじゃないか。」

「そうか・・・その連中をおびき寄せるために・・・」

アヤがアカツキとプルセルを見る。

「そう言うこと。僕の護衛にはゴート君たちがいるから良いとして・・・」

アカツキはラピスとプルセルを見る。

「安心して、ラピスは私が守るわ。」

「アヤさん・・・頼みます。」

アキトはラピスの後見人を自称するアヤを信頼していた。

アヤもラピスを守るための剣になると誓った以上、己の全能力を使って

ラピスを守るつもりだ。

「じゃあ、ワイがプルセルの姉ちゃんを護ったるわ。」

カズマが言う。

「頼むぞ。」

「じゃあ、そう言うことで・・・そろそろ行きますか。」

アカツキが言うと皆が答える。

「「「「おー!」」」」

そう言うと後はそれぞれが笑っていた。

アキトは知っていた。どんなに苦しいときでも

笑える強さがナデシコにはあった。

彼らは間違いなくナデシコのクルーであると・・・

 

 

 

 

 

 


 

 

作者:と言うわけで機動戦艦ナデシコ Re Try 外伝 は終了です。これでようやく本編に戻れます。

プルセル:難産だったみたいね、今回の話は。

作者:やっぱりシリアスな話は無理だなって感じた。

プルセル:前回のお面シリーズは結構好評だった見たいね。

作者:あのお面は一体何処から出したのかって質問もあったしね。

プルセル:本当は何処から出したのですか?

作者:アヤ達がつけていたお面はアヤのスポーツバックの中に常備されている。

プルセル:じゃぁ、カズマさんがつけていたGガンのお面は?

作者:実はアキトが用意していた。

プルセル:リオデジャネイロで使い忘れたネタだったのね?

作者:うん。それから今回はるろうにネタが随所に見られると思うけれど・・・

プルセル:アヤさんがシュウサク師匠と仕合うシーンなんてモロだと思いますよ。

作者:まぁ、そう言わずに・・・では次回でまたお会いしましょう。

プルセル:私の出番がなくなるなんて事はありませんよね?

作者:・・・・・・・・・・・・・・・

プルセル:なんですか?その沈黙は?

 

 

―ようやく本編に戻れる・・・ルリ様のお仕置きが・・・

 

 

 

代理人の感想

そりゃあ「文章量÷キャラ数=出番」の式が成り立つ以上、

キャラが多ければ多いほど一人一人の出番は減るに決まってますね(笑)。