この外伝は株式会社光栄が発売している

“鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダー”を元に書かれています。

ネタバレを含んでいますので“鋼鉄の咆哮”をプレイされていない方は

読んでしまうとゲームの楽しみを奪う結果になります。

またこのゲームを楽しんだ方は作者が適当につけた

都合の良い設定に失望するかもしれませんがご容赦を(笑)。



この話は“鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダー”のエンディング、

その後を作者の妄想で作り上げた世界となっています。

本編“連合海軍物語”に登場する“超兵器”、

“異形の黒”の異名を持つ人物とそのパートナーを主役に話が進んでいきます。


“連合海軍物語”は“鋼鉄の咆哮2 ウォーシップコマンダー”を

ベースにしていますが外伝の世界とリンクしていますので、

同時に読んでいただけるとより楽しめるかと思います。

 

 

 



連合海軍物語

外伝0 鋼鉄の咆哮 ─ ウォーシップコマンダー ─


─ 西暦2120年 鋼鉄の咆哮1世界 概要 ─


人間は飽くことなく戦いを続け世界は揺らいでいた。

だが一人の英雄の登場と彼の駆る鋼鉄くろがねにより世界の揺らぎは止る。

そして彼の犠牲により世界に広がっていた戦乱は急速に終息していった。




ここは無数にある平行世界、その中のひとつ。

《遺跡》と呼ばれるオーバーテクノロジーが火星ではなく地球から発見されたという歴史をもつ世界。




2105年北極圏にあるコードネーム“ニブルヘイム”という場所から国連調査団により発見された通称《遺跡》と呼ばれるオーパーツ。

それを守るように周囲に巡らされた防衛機構から得られた超越技術により世界は劇的に変化を遂げた。その技術を解析することで得られたデータは分子生物学や重力機構・レーザー兵器をはじめとするさまざまな物に発展・応用されている。



特に分子生物学の進歩は凄まじく、《遺跡》に付着していたナノマシンを元に生体治療用のナノマシンやクローンが実用化され人間の外傷など治療に数ヶ月必要だったものが数週間程度で治癒するようになった。

仮に腕などが失われてもクローンにより作り出されたパーツを使用することで拒絶反応もなく失われたものを補えた。こういった状況でもあるが故に余程の事がない限り外傷が原因で死亡する事もなくなった。


またこのナノマシンを使用することで内的な病気もある程度克服されていた。もっとも生体ゆえにさまざまな要因で起きる原因不明と言われる病気も未だに残っており、ナノマシンを使用しても撲滅とまではいかなったが。



ここまで発展したクローン技術やナノマシンを使えば人が人工的にヒトを作り出す・・・その実現もそう遠い未来ではないとまで言われていたが、さすがに倫理的な反発が大きく各国ともシミュレーションや実験レベルといったところで留まっている。




もう一方の重力制御は2116年にドイツ系アメリカ企業マーストリヒ社を中心とした米国が世界初の月面都市の開発を成功。その成功に大きく貢献したのが《遺跡》の守護者ガーディアンと呼ばれる機構の中から得られた技術、重力力場の制御に関する理論だった。その理論を使い作られたのが重力波推進装置とディストーションフィールド(以下DF)と呼ばれる重力防御壁。

重力波推進は主に都市間の足となっている宇宙バスの推進力に使用されていた。

DFは制御により意図的に重力場を歪曲させ、隕石やゴミなどの衝突から船体を守るために装備された。出力にもよるがある程度の大きさの隕石の衝突を弾き飛ばして回避できる。このDFの存在により宇宙間航行はかなり安全になった。


さらにDFには光学兵器を歪曲させるという特性も見つかり、すぐに軍事利用にも反映された。


欠点としてDFを形成するのにかなりの出力が必要とされる事だった。今の主力機関となっている核パルスエンジンではDFを形成するのに出力が不足気味で年々大型化していた。

だが数年前に《遺跡》より“相転移機関”と呼ばれる推進装置が発見され解析・試作が行われていた。この機関はサイズの割に高出力で、実現できれば航宙船は大型化する核パルスエンジンを止め、すべてこの機関になるのではないかと言われているほどだった。

搭載サイズ、出力ともに優れた点をもつ機関だったが欠点もあった。この機関は真空を取り込み内部で転移させ無尽蔵のエネルギーを作り出すという事を行っているため100%の能力を発揮できる場所は宇宙のみ。大気圏中でも使用はできるが出力が制限される為、大気圏内では従来の核パルスエンジンが主体となっているのが現状だった。


余談だが米国の成功を見て各国も次々と月面に進出し都市群の形成がはじまった。急進的な一派によりこれらの都市群をまとめ、地球からの独立を果たすという運動も始まっていた。月面独立運動がどうなるのか、世界はこれからの動向に注目していた。




今まで述べてきた超越技術は当然のように軍事目的にも用いられた。いや先に軍事目的がありその技術を派生させたのが民間用のシャトルや医療技術になったというべきか。


それら超越技術を積極的に取り込み、またはそのものを使用したオーバーテクノロジー兵器群は“超兵器”と呼ばれていた。

初期の超兵器は《遺跡》から得られたレーザー技術や従来の兵器ミサイルを装備していたがDFの存在により効果的な攻撃が得られない事が判明、それ故に廃れて久しかった昔懐かしい巨大な“艦砲”が復活し、絶滅してすでに半世紀も過ぎた時代に戦艦と呼ばれる艦種が蘇った。

超越兵器の土台として駆逐艦や重巡クラスの大きさでは搭載できるサイズが不足するのが目に見えていた。そのためプラットフォームとしての戦艦の復活は予想された事であり必然だったが、DFの存在がなければ航空機が進歩したこの世界では海上戦力としての戦艦は二度と復活できなかっただろう。


初期の頃は艦艇がメインだった超越技術だったが時代が進むにつれ世界初の月面都市〈フォン・ブラウン〉で一躍有名になった米マーストリヒ社が2117年に完成させた世界初の人型機動兵器〈アルストロメリア〉が陸戦に投入され、2122年には豪州に本拠地をもつ航空機メーカー・クリムゾン社が作り上げた51センチという巨砲を積んだ全翼型爆撃機〈ヴリルオーディン〉などが登場した。




各国ともこれらの兵器を常備し月面への進出による自国の権益を守るため宇宙軍の建軍を進めている状況だった。







─ 西暦2120年 鋼鉄の咆哮1世界 超兵器大戦の概要 ─

その超兵器を用いて行われた世界規模の大戦は全ての技術の基礎《遺跡》が一人の男の手に独占された事が原因だった。男の名はアレス・テレストリ、国連の遺跡研究機関“テュランヌス”の調査主任兼所長だった。彼は研究機関を乗っ取り、使用が制限されていた超越技術を無尽蔵に使う事で軍事組織“テュランヌス”を作り上げた。


2109年テュランヌスは月面開発で他国に遅れを取り焦っていた日本政府に超越技術の一部を売り渡すことを条件に組織の名前を冠した超大型航空戦艦〈テュランヌス〉を建造させた。その艦の完成をもって日本政府を屈服させ支配下においた。簡単に屈服してしまったのは政治家たちの保身と官僚たちのモラルの低さが招いた悲劇だったが、皮肉な事に彼らは降伏後、真っ先に“処分”された。



その日本動乱時に結成された抗テュランヌス組織“真紅の夜明けライジングサン”が日本を脱出、ハワイで米国に亡命しかの国の支援を受けつつ日本奪回を狙っていた。



その米国も日本を超兵器の開発・生産工場にした“テュランヌス”が量産した超兵器軍に太平洋艦隊が破られ、基幹基地となっていたハワイはパールハーバーにある海軍工廠を始めとする軍事インフラを徹底的に破壊され基地としての機能を完全に喪失、生き残った米艦隊は本土に撤退せざるを得なかった。


さらに旗艦〈テュランヌス〉以下超兵器・超大型航空母艦〈アウルス〉6隻を主軸とする航空艦隊が米国本土にある都市群と軍施設に対して空爆を開始、主要な生産施設と通信・発電などの重要施設はあらかた破壊され米国自慢の生産能力が奪われた。



この緊急事態に米国は急ぎ海外に派兵していた艦隊を呼び戻そうとしたが分散しすぎており本土からはあまりにも遠かった。またアレスの電光石火の超短期侵攻に後手を踏み間に合わなかった。散発的に向かってくる米国艦隊と航空隊を撃破したアレスは艦隊旗艦〈テュランヌス〉ただ1艦でワシントンを始めとする軍事中枢部を強襲、重力波動砲グラビティブラストで砲撃し壊滅させた。



大統領と軍首脳は辛うじてエアフォース・ワンで内陸に退避できたがいずれも重症を負っており途中で死亡。急遽、副大統領が指揮をとったが軍の中枢と指導者を失い、国中の軍需・重要施設が攻撃を受け生産能力を奪われたとあってはさすがの米国もすぐには反撃できそうになかった。


ワシントンを壊滅した兵器、“重力波動砲”は超越技術の中でも封印されていた兵器だった。旗艦〈テュランヌス〉には発見されたばかりのオリジナル相転移機関が搭載されており使用が可能だった。その機関から生み出される莫大なエネルギーを重力波に変換し収束させる事でレーザーのように放つ事ができる。

その威力は絶大で研究当時の予測では大陸を破壊できるといった物だったが、比喩ではなく本当に行えたのだ。あまりの威力にアレスがそれ以降“重力波動砲”を使用しなくなった事からも威力の凄さが分かるというものだった。



五大湖周辺にある重工業地帯を押さえた“テュランヌス”はさらに超兵器の生産を加速、その超兵器をもって大西洋に進出、イギリス・ドイツ・フランスなどEU諸国が連合した艦隊を撃破して欧州の制海制空権を手に入れたアレスは《遺跡》の発見地であったニブルヘイムを自らの基地とした。未だに《遺跡》を守る機構は稼動しており、仮に他国に侵攻されても制圧される危険性が少なかった。


こうして軍事組織“テュランヌス”は5つの海の制海制空権を支配し、制圧した幾つかの国を兵器生産国とすることで世界の半分を支配、という状況が出現したのだった。



だがアレスの思惑を超えた出来事が起こった。レジスタンスの存在は彼も予想していたが壊滅させたはずのハワイにいた“真紅の夜明けライジングサン”が制圧された各国のレジスタンス組織と連携し、テュランヌスを翻弄し始めたのだ。



アレスの予想では各国のレジスタンスを糾合できるだけの人間は米国か英国だと思っていたのでそちらのレジスタンス狩を優先していた。彼が日本で見た愚劣で自己中心的な人間ばかりではとても他国の人間をまとめあげるような事は出来ないと判断していたゆえに隙を突かれた。アレスは人種差別主義者ではなかったが、結果的に追い詰められれば“しぶとい”日本人を見くびりすぎていた事だけは確かだった。


堂々たる艦隊戦なら並ぶべき者がないテュランヌス海軍だったがレジスタンスとの戦いは正規軍との戦い以上にテュランヌス海軍を苦しめた。各国のレジスタンスは生き残った施設で極秘裏に建造した軍艦を用い、奇襲や一撃離脱戦を仕掛け一進一退の攻防が繰り返されていた。



そんな状況の最中、“真紅の夜明けライジングサン”に一人の男が身を投じた。名は影護かげもり四輔しほ、元日本海軍(第二次朝鮮動乱で自衛隊という組織は消滅しており日本海軍となっていた)の技術中尉だった。その彼を追うように知人の新城しんじょうナギという女性も一緒にオペレータとして参加する事になった。この二人の参加がその後の歴史を大きく変えた。



技術屋だったとはいえ元日本海軍の士官だった四輔は経験を買われ完成したばかりの新鋭駆逐艦の艦長として“発進のとき”を迎えた。四輔はこの駆逐艦に〈雪風〉の名を与えた。

〈雪風〉は第二次大戦時の駆逐艦で、旧帝国海軍の武勲艦であり幸運の代名詞として日本海軍ではあまりにも有名だった。その名を使ったのは幸運と武勲をあやかろうという気持ちだった。洒落に近かったがそれだけ戦況は逼迫していたということだ。

初陣はキスカ島沖を航行するテュランヌス海軍輸送部隊の奇襲・撃滅だった。作戦は成功し階級を上げた四輔は引き続き駆逐艦〈雪風〉の艦長を務める事になった。



真紅の夜明けライジングサン”司令部から伝えられる作戦は空母撃破や輸送艦隊護衛など様々な状況の上、戦力不足な組織が行う作戦としては困難なものが多かった。四輔には艦長、いや指揮官としての才能があったのか、後にライバルとなる太平洋艦隊司令ゴーダ・スペリオル率いるテュランヌス海軍との戦闘に辛うじて勝利していった。



何度も艦を変え死線を彷徨い泥沼のような戦いを続けるうち、ついに四輔はこの戦争の原因となった“超兵器”巨大潜水艦〈レムレース〉と遭遇する。


圧倒的な力でレジスタンスの艦艇を蹴散らす超兵器。


その超兵器に釣られた売国奴たちのせいで自分を含めた日本海軍は戦う事を許されず、軍としての義務を果たす前から敗北という不名誉が与えられ、ついには消え果てた。その苦い思いを胸に四輔は〈レムレース〉に立ち向かっていった。海戦の結果、相打ちとなる形で〈レムレース〉と四輔の駆る重巡〈伊吹〉は沈んだ。


圧倒的な戦闘能力と技術差を目の当たりにした四輔は超兵器に対抗するのはやはり超兵器だけと結論づけ“真紅の夜明けライジングサン”の協力と自らが蓄えた知識と従軍経験を生かした独自の艦の建造を始めた。その艦はブロック工法で短時間で建艦できるように工夫され“テュランヌス”の超兵器開発・生産国となってしまったかつての故国・日本から組織が秘密裏に得た超越技術を元に急ピッチで建造、1年後に完成した。





───超兵器級戦艦〈近江〉





〈近江〉という名前は旧帝国海軍の戦艦命名に乗っ取り四輔の出身地だった滋賀県の旧名から取られた。


完成した〈近江〉は友軍が地獄のセラム海で脱出行を行い壊滅と引き換えにもたらしたテュランヌスの機密武装ディストーションフィールドと相転移機関を搭載した。さらに既存艦と違っているのは兵器をユニット化して交換・搭載する事で任務に応じて変更でき様々なシチュエーションに対応できるようになっていた。


武装は主砲65口径51センチ3連装6基18門を搭載し、対地・対空・対艦・対潜用には米国のレジスタンス“星条旗スタースパングルドバナー”から導入した米国オリジナルのイージスシステム・フライトV(AEGIS-F5J)とVLS、近距離対空砲としてパルスレーザー、側舷に装備された対魚雷・対空・対小型艦艇用の40ミリCIWSとまさに“超兵器”と言える艦だった。


この超兵器級戦艦を見た“真紅の夜明けライジングサン”は四輔に〈近江〉に続く超兵器の設計を任せた。奇襲などの作戦が多い組織のため光学・電波迷彩を装備したスティルス戦艦〈マレ・ブラッタ〉と敵の旗艦・航空戦艦〈テュランヌス〉に対抗するための最終兵器として重力波動砲を装備した〈ヴォルケンクラッツァー〉の基礎設計を手がけた。

〈ヴォルケンクラッツァー〉とは“摩天楼”を意味し、全ての砲身を最大仰角にすると丈高い艦橋と合わせて摩天楼の如くそびえているように見えたため、組織に亡命してきたドイツ造船官、四輔の後を引き継いだワルター・フォン・エーベルがその名をつけた。

それ以外にも四輔がおこなった小型艦艇の改修など“真紅の夜明けライジングサン”の造船関連に彼の技術士官としての腕が生かされた。



だが四輔の八面六臂の活躍を快く思わぬ人間もいた。“真紅の夜明けライジングサン”はアメリカのレジスタンス組織“星条旗スタースパングルドバナー”と協力体制になっており、作戦によっては“星条旗スタースパングルドバナー”の提督たちと合同で行うことが多々あった。その“星条旗スタースパングルドバナー”の提督ジョナサン・ハーバート・クルーガーは四輔の才能と活躍に嫉妬し苦々しい表情を浮かべていた。


それもそのはずクルーガーの野望、それはこの大戦に勝利した英雄として新たに強いアメリカを再建し、その大統領に収まることだった。自分以上の戦功をあげ続ける四輔を苦境に陥らせようとわざと困難な任務を与えたが、四輔は持ち前の頭脳と経験、頼もしい仲間たちや〈近江〉共にクルーガーの陰謀を打ち砕き任務をこなしていった。

クルーガーが四輔を排除しようとしている動きを知ったレジスタンスの同志が合流したこともあった。加わった同志の中には決戦直前まで四輔の僚艦を勤めることになった人間もいた。



その頃には数々の戦功で階級を上げた四輔は大佐になっており、テュランヌス海軍には“レジスタンスの切れ者”として名を知られる存在となっていた。その為、ただの大尉や少佐だった頃と違いクルーガーも直接的に手を下す事ができなくなっていた。


苛立つクルーガーを尻目に太平洋戦線は四輔の活躍で太平洋艦隊司令官ゴーダをニューギニア沖に追い詰め、大型レーザー兵器“光の鉄槌”を搭載した新型艦、超兵器級戦艦〈ナハト・シュトラール〉を激戦の末、ゴーダと共に葬リ去った。満身創痍の巨艦は司令官と共にニューギニア沖の海底深くに沈んでいった。



ついに“真紅の夜明けライジングサン”と“星条旗スタースパングルドバナー”は日本と米国の一部を開放する事に成功したのだ。





テュランヌスの無能者どもめ ヤツ一人を殺せんのか!!





一方、その報告を聞いたクルーガーは激怒しカップを床に叩き付けた。



ゴーダ戦死で太平洋戦線はひと時の平和を得た。日本中が喜びに沸く式典で超兵器の今後について“星条旗スタースパングルドバナー”のメンバーと話あう機会があった。その席でクルーガーはテュランヌスと同じように超兵器を量産し完膚なきまでにテュランヌスを撃滅することを主張した。

一方、ゴーダを戦死させ、日本を開放しついに提督の称号を得た四輔は逆に超兵器の開発を止めるべきと主張した。真っ向から対立する四輔とクルーガー。どちらも組織にとっての中心人物である為に、結論は一時保留となった。



日本を開放できた“真紅の夜明けライジングサン”だったがEU各国のレジスタンスの協力も得てきたため、組織の全権を持たせた代理人として四輔と彼の率いる艦隊をEU方面へ派遣した。欧州戦線には“大西洋の堕天使”の異名を持つテュランヌス大西洋艦隊司令ロゼ・アゼッタ中将率いる〈アウルス〉級8隻を基幹とした強大な機動部隊“告死天使”がいた。


太平洋司令官ゴーダは大艦巨砲主義でもあった為(彼は潜水艦隊を直属としており、ただの戦艦馬鹿ではない事を証明している)砲撃戦が主体だったが、ロゼは航空主兵主義の為、雲霞のごとく襲い掛かる航空機との戦いが主体になった。

太平洋戦線ではこれほどまでの空襲・機動戦はなく、最初は勝手が分からず苦戦したが“切れ者”の異名を持つ四輔だ、1度戦えば航空戦のコツを掴み他のレジスタンスと協力しロゼと熾烈な戦いを繰り広げていった。



ところが〈近江〉は幾度も偶然とは思えない敵の待ち伏せに合った。四輔は自分たちの情報が意図的に漏洩されていると予測し偽情報を流して逆にロゼを罠にかけ、ついには彼女をサン・ビセンテ沖におびき出し旗艦となっていた超兵器・超大型空母〈アウルス〉を含む空母4隻を撃沈し大西洋艦隊司令部を撃滅に追い込んだ。



この戦いの結果、今次大戦はレジスタンス側の勝利はほぼ確定した。あとは“ニブルヘイム”に籠もっているアレスと超兵器・航空戦艦〈テュランヌス〉を撃破すれば世界は平和になる。その想いを胸に世界中のレジスタンスの主要メンバーが集まった会合で以前話し合われた超兵器のその後について四輔の案が了承されたのだ。

これ以上超兵器による惨禍を防ぐため、“真紅の夜明けライジングサン”が開発している〈ヴォルケンクラッツァー〉を始めとするレジスタンス保有の超兵器は今建造している艦で開発を終了するという取り決めが交わされた。超兵器という存在が巻きこした戦乱と被害はあまりにも大きすぎた結果だった。


その席で納得できなかったのがクルーガーだった。重力波動砲で吹き飛ばされたワシントンの例を持ち出し、彼の提唱する超兵器計画を実行し徹底的にテュランヌスを撃滅する。復讐する権利は我にあり! と吠え立てた。

だが今更超兵器を開発・量産したところで使い道がない。試作艦に近い超兵器は莫大な建造費用がかかるのだ。使いでのない兵器に金をかけるくらいなら荒廃した自国を復興するのに使う、それがクルーガーを除くメンバーの意思だった。



四輔は会議が終了し憤懣やるかたない様子で去っていくクルーガーの背中を見て嫌な感じを覚えた。あの提督は何かをしでかす、そんな予感があった。


“ニブルヘイム”にいたアレスは欧州に残っている残存艦艇を集め、レジスタンス側との間に何度も海戦が起こった。その最中、“真紅の夜明けライジングサン”が開発中だった最終超兵器〈ヴォルケンクラッツァー〉が視察に来ていたクルーガーと共に行方不明になったという情報が飛び込んできた。四輔は動揺する乗組員を叱咤し戦いに意識を向かわせた。彼の心中はやはりという気持ちで一杯だったが。



〈近江〉はEU連合の艦隊と共にニブルヘイムから出撃してきたアレスの駆る旗艦〈テュランヌス〉を含む艦隊との最終血戦に赴いた。〈テュランヌス〉以外の超兵器と一般艦艇は貴下の艦隊とEU連合に任せアレスと四輔はお互い単艦同士の一騎打ちに挑んだ。



両艦とも海上に浮いている氷山を盾にしてレーダーを無効化させるため、ドッグファイトのように〈テュランヌス〉と〈近江〉は相手に対して有利な位置につこうと機動を続ける。

〈テュランヌス〉から発艦した新型攻撃機XFA-00〈アサルトバルキリー〉が〈近江〉に向けてミサイルを撃ち込み、それを迎撃するイージスとパルスレーザー。お返しとばかり〈近江〉が51センチ砲を交互撃ち方にし隙のない鋼鉄の豪雨を降らせれば〈テュランヌス〉からは56センチ砲弾がうなりを挙げて飛び出し〈近江〉の至近に巨大な水柱が立ち上り、盾にした氷山が打ち砕かれる。


お互い持てる兵器をフルに使用して相手の戦闘能力を奪い、艦を沈めようと次々に攻撃を繰り出し両艦は共にダメージを受け中破した。

まさに死闘、血戦と呼ぶべき戦いが続く。だがその死闘の結末は実にあっけなかった。



突然、戦場に現れた漆黒の奔流が〈テュランヌス〉に命中し一撃で沈めたのだ。いや沈めたなどという生易しい表現では足りなく、超巨大な航空戦艦が叩き潰され蒸発し塵すら残らなかった、当然生存者は0。



漆黒の奔流は重力波動砲の証、その装備を持つのは目の前で漆黒の奔流に飲みこまれ蒸発した〈テュランヌス〉の他はただ1隻。“真紅の夜明けライジングサン”の最終兵器であり、クルーガーと共に行方不明になっていた〈ヴォルケンクラッツァー〉だけだった。



通信が開かれ四輔とクルーガーは相対した。

助けてもらった事に対する礼を述べる四輔だったがクルーガーは嘲笑を浮かべ



「別に貴様に礼を言われる筋合いはない。私は役立たずを処分しただけだ」と。



そしてこう言い切ったのだ。


「私は“星条旗スタースパングルドバナー”の提督ではない、新生テュランヌス総帥だ。貴様を必ず殺しこの世界を手に入れる」



四輔に超兵器計画と自らの野望を頓挫させられたクルーガーの怒りと憎しみと才能に対する嫉妬はついに彼をテュランヌスに寝返えさせる事になった。半完成状態だった〈ヴォルケンクラッツァー〉を“真紅の夜明けライジングサン”より奪取し、この艦を使用してニブルヘイムを攻略してテュランヌスをアレスの手から奪い取ったのだ。


この時の四輔とクルーガーの通信がレジスタンス連合にとって新たな死戦のプロローグとなった。


レーザー兵器などを搭載した新型艦を投入し、超兵器の量産化に成功したクルーガーは“緑神”のコードネームをもつ〈荒覇吐アラハバキ〉級戦艦や“異形の黒”と呼ばれ、四輔の艦隊にも参加している〈マレ・ブラッタ〉級戦艦などを投入して戦局の挽回を図る。クルーガーの作り出した超兵器艦隊の猛威にEU連合艦隊は劣勢に陥った。その矢面に立ち損害を受けながらも次々と撃破していく〈近江〉と僚艦たち“真紅の夜明けライジングサン”艦隊。

太平洋戦線から続く戦闘を潜り抜けてきた歴戦の艦隊、その彼らをもってしてもニブルヘイムに辿りついた時、〈近江〉のほかに僚艦はいなかった。〈近江〉は彼らの献身的な活躍のおかげで致命的な損傷もなく〈ヴォルケンクラッツァー〉の元へ辿りついた。


旗艦を護るために奮戦した僚艦たちはこれまでの戦いで次々と脱落し、最後まで残っていた四輔の親友・明人が艦長を勤めるマレ・ブラッタ級2番艦〈サレナ〉は決戦直前の海戦で強敵ナハト・シュトラール級2番艦〈プロミネンス〉と戦い相打ちになって撃破した。



巨大な湾内の中央に氷山のように擬装された〈ヴォルケンクラッツァー〉がいた。ついに“真紅の夜明けライジングサン”が保有する最強の戦艦同士が合間見えたのだった。どちらも一人の男を生みの親としていたのは皮肉以外の何者でもなかったが。

自分が設計した艦と戦う、ネームシップ〈マレ・ブラッタ〉が奪取された時もそうだったが組織の為に設計した艦が自分に向かってくる、四輔は苦笑を禁じえなかった。だがその強敵は自分が基礎設計をしただけに欠点は知り尽くしていたのは救いだった。


重力波動砲は強力な兵装だが生み出された総電力を使うため、普段張られている強力なDFが弱まるのだ。その欠点を防ぐために強靭な装甲を持たせていたがDFに比べればやっかいではない。また撃った直後、発射の反動で艦が後ろに下がり身動きがしばらく取れないというのも欠点の一つだった。その隙を突いて艦首に装備されている重力波ブレードを破壊すれば勝機は見える。

自分のプランでは制動スタビライザーを装備することでその欠点を克服する事ができるはずだったが、それを思いついたのは開発から外れてしばらくたってからだった。



四輔は撃ち込まれ来る砲弾をDFでしのぎ〈ヴォルケンクラッツァー〉が重力波動砲を使う隙をわざとつくり、撃たせたのだ。

DFを張るタイミングを外して直撃すればアレスが乗った〈テュランヌス〉のように塵すら残らない。




───この危険な賭けに四輔は勝った。




超兵器を量産し世界を戦火に巻き込もうとするクルーガーにだけは負ける訳にはいかなかった。最初のうちは故国を取り戻す、その思いで戦っていた。だがこれまでの戦いで四輔は戦争で苦しむ人々を見、人が死ぬのを嫌というほど感じてきた。


時間が経つにつれ一刻も早く戦争を終わらせ誰もが笑顔でいられる世界を作りたいと想うようになった。何より“発進のとき”以来、今まで自分を勇気づけ支え続けてくれた〈近江〉のオペレータ、自分の愛する新城ナギと共に過ごしたい。

自分の作り出した平和の中で自分を慕ってこの戦争に飛び込んできた彼女を幸せに───その想いが四輔を駆り立て〈近江〉とともに死線を潜り抜けてきた理由のひとつだった。もうひとつは戦争という狂気に酔っている自分に気づいたのだ。それが分かった以上、戦争や戦いはごめんだった。


〈ヴォルケンクラッツァー〉から放たれた漆黒の奔流は〈近江〉が引き出せる最大出力で張られ、さらに設定値を変更して艦前面に集中したDFに弾き飛ばされ天に帰っていった。その威力は〈近江〉のDF発生装置に負荷をかけ2度と使い物にならないほどの損傷を与え破壊した。





「全砲門、艦首を狙え! 〈近江〉突撃だ!」





四輔の号令に〈近江〉のスタッフたちは自身のもつ最高の技量で応えた。〈近江〉から放たれる砲弾は次々と重力波動砲を撃った反動で弱まったDFを貫いて〈ヴォルケンクラッツァー〉に命中し、艦首にあった重力波ブレードが破壊された。〈ヴォルケンクラッツァー〉も負けじと残っている80センチ主砲やレーザーを振りかざし〈近江〉に向け撃つ。レーザーとミサイルが〈近江〉に直撃し上甲板に火災が起こった。

だが一番威力のある80センチ砲は巨砲ゆえに発射速度が遅く、15秒に1回に撃てる〈近江〉の主砲に撃ち負けDFを貫き次々とレーザーをはじめとした艦上の装備を破壊、ついには戦闘能力を喪失させた。



〈近江〉の方も戦闘力を残しているとはいえ、数発の80センチ砲弾を浴び半数の第一、四、五砲塔が叩き潰されていた。さらにその爆発の余波で後楼が倒壊し直撃したミサイルやレーザーで艦上で火災が発生、大破に近い状態だった。これ以上戦えば両艦とも沈む。四輔は戦闘力を喪失した〈ヴォルケンクラッツァー〉に降伏を呼びかけた。


10分後、【受諾する】という返事が返ってきた。


〈ヴォルケンクラッツァー〉が降伏文書調印の場所として指定されており、指定が拒否された場合、乗組員を脱出させないまま〈近江〉に特攻する。 


当然この返事は人が死ぬのを見たくないと思っている四輔に対する露骨なまでの嫌がらせであり罠の存在を感じさせるものだ。クルーガーが四輔に対し執念とも言えるほどの思いをもって害しようとする事が分かっている幕僚たちは止めた。 


それに対し四輔は答える。


「罠という可能性は高いのは分かっている。だけどあの艦にはクルーガー以外の乗組員も乗っているんだ。 戦闘力を喪失した艦を沈めれば彼らも死ぬだろう。 
俺はこれ以上、人が死ぬのを見たくないんだ。それに裏切者とはいえクルーガーも元“星条旗スタースパングルドバナー”提督、話し合えば最後には分かると信じているよ」 


幕僚たちにそう説明し、最後に心配そうに自分を見るナギに微笑みながら言う。 


「心配するなって、必ず帰って来るから。そうしたら・・・」 


そう言いながら彼女の頭を撫でた後、彼は自分の夢だった平和とナギとの時間のために講和の場所に指定された危険な敵艦に乗りこんだ。 



そして・・・やはり罠だった。



艦隊戦ではついに勝てなかったクルーガーが四輔の甘さを利用し確実に抹殺すべく自分の命をもチップにした策。クルーガーは四輔が艦に乗りこみ形だけの会談を行っている最中に大破した〈ヴォルケンクラッツァー〉を自爆させ、キノコ雲と共に自らと仇敵を葬った。


こうして足掛け5年続いた世界規模の大戦は終わりを迎えた。


超兵器大戦を終わらせた英雄、影護四輔は自分の願いを見届ける事なく〈ヴォルケンクラッツァー〉の大爆発に巻き込まれクルーガーと共に行方不明になった。周りは極寒の北極海、たとえ逃げられたとしても凍死は免れる事はできず生存は絶望視され数日間行われた捜索はついに打ち切られた。


そしてこの大戦の元凶だった《遺跡》はクルーガーがどこかに隠したのかいつの間にかニブルヘイムから持ち出され消えていた。今現在も各国が《遺跡》の行方を捜索している。




超兵器大戦が終結して早6年、英雄の犠牲により落ち着いたかと思われた世界には新たな戦乱が巻き起ころうとしていた。

 

 


− あとがきという名の戯言 −


最後まで読んでいただきありがとうございます。

ようやく公開(後悔(笑)している外伝のリライトが終わりました。いや〜この0話は新規だった為に手間どってしまいました。外伝は意図的に人の名前と時間軸をはっきりさせなかったのと回想が複雑になりすぎて時間軸が分かりづらく話が暴走しているように見えたようです。代理人氏からの感想で“外伝は意味がない”という感想をいただいたのでその辺りを整理して時間軸と背景をはっきりさせました。

ただ深遠某慮(笑)でそうしていたのを止めた分、狙っていたものを何かでフォローするしかない訳で。こうしてまたもやプロットの大変更となってしまい苦労するんですよねえ、学習能力のない作者らしいかも。外伝は個人的に思いっきり趣味のキャラ“彼女”が使えるため本編より楽しんで書いている分、苦労を感じないのは救いかもしれません。


今回の改訂ではっきりさせた人名は明人の親友で超兵器大戦を終わらせた英雄・影護四輔とその恋人の新城ナギです。ゲームをプレイした方はお分かりかと思いますが、オペレータのナギ(苗字は創作)は主人公を尊敬し慕ってレジスタンスに身を投じたという設定になっています。なのでありがちですがこういう関係になってます、今のところは。

改訂前では“あの人”という書き方をされていた外伝の影の主役・影護四輔ですが、苗字から分かるようにActionで有名な“トカゲな人”の先祖という事になっています。さすがに影の主役ゆえ、あそこまで爬虫類顔してませんが、あの人は突然変異という事で納得させました(汗)。名前の四輔ですが、北辰(北極星を含む北極五星と四輔四星)の中に含まれ、北極星の周りを警護する四輔(四弼)からきてます。

最初はもうちょっと男らしい名前にしたかったのですがなかなかこれだ、と思う名前が北辰の中になく結局、四輔という女の名前のようなよみがなを持ってしまいました。まあこれはこれで良いかと思ってます。

外伝0は“鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダー”のあらすじな訳ですがナデシコとの設定を融合させている為、歴史はこういう流れになっています。軍事組織“テュランヌス”の成り立ちは作者のオリジナルで、すげー適当です(汗)。

という事で次の1話からは超兵器大戦後のお話になります。話的には改訂する前とあまり変化はありませんが、シーンの追記や少女の妹たちが出てくるくらいでしょうか。

では、しばらく外伝の方にお付き合いくださいませ(笑)。

 

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

あーもう、文章が読みにくいですよ。

どこが主語でどこが述語だかわかりゃしない。

 

五大湖周辺にある重工業地帯を押さえた“テュランヌス”はさらに超兵器の生産を加速、その超兵器をもって大西洋に進出、イギリス・ドイツ・フランスなどEU諸国が連合した艦隊を撃破して欧州の制海制空権を手に入れたアレスは《遺跡》の発見地であったニブルヘイムを自らの基地とした。

 

ここで問題です。上の文章の主語と述語、目的語は?(爆)

 

答え: 主語=アレス 述語=した(基地とした) 目的語=ニブルヘイム

 

つまり、この文章の本体は

アレスはニブルヘイムを自らの基地とした。

だけであって、他は全部修飾なんですよ。

修飾部が長すぎる上に、その修飾部の主語と述語が入り乱れてるから読んでて頭痛がします。

 

瑞羽さんはとりあえず、書いたら音読十回の刑!(爆)

いや本当にこう言う無茶苦茶な文章を修正するのには有効な手段ですよ、音読は。