「・・・おにいちゃん、どこ?」





暗闇の中、少女は自分の身体を抱えるようにうずくまり、小さく震えながら小さな呟きを洩らした。


途方に暮れたその姿は親鳥からはぐれたひな鳥のようだった。

歳は10代前半だろうか、色素が薄い透けるような白い肌と長い銀色の髪は寒々しいこの世界にあって一層彼女を儚く見せていた。

さらに印象深いのは深紅の瞳。ルビーのような瞳にはただひたすら不安と怯えがあった。




それもそうだろう、目覚めてみると辺りは真っ暗。

いつも自分を見守っていた大好きな“おにいちゃん”もいない。
 
暗闇に支配されたこの世界では自分がどこにいるのか全く分からなかった。





「ねえ、おにいちゃん。アタシはここにいるよ、はやく・・・むかえにきて」





少女は寂しさに負け泣きそうになる。

目の端に涙が溜まりこぼれ落ちそうになった。




(───ほら、泣いてちゃ可愛い顔が台無しだろ?)




彼女の目の前には在りし日の彼・・・・・・、“おにいちゃん”がいた。

ぶっきらぼうな言葉ではあったが照れくさそうに言った彼の目は優しかった。

その視線で少女を見つめ、いつものように頭をなでてくれたのだ。




その時の約束───。




「そうだね、おにいちゃん。アタシなかない! あのときおにいちゃんと“やくそく”したんだもん、なかないってきめたんだもん!」



少女はこぼれ落ちそうだった涙を手でぬぐって唇をかみ締め小さな拳を握りしめた。そして目の前の幻影に向かって再度誓うのだ。






「だから・・・はやくむかえにきてね、おにいちゃん」





孤独な少女の希望、それは大好きな“おにいちゃん”にもう一度逢う事だった。








連合海軍物語

外伝1「異形の黒」


 

─ 西暦2120年12月24日 日本秩父 某研究所地下3階 ─

恋人たちが寄り添い、子供達はサンタのプレゼントを期待するクリスマスイブ。街にはイルミネーションが煌き、聖歌が流れ本来誰もが楽しみ心躍らせる日。



だが彼───黒いコートに身を包み、顔には大きめのバイザーをかけ愛銃を片手にした明人に寄り添っているのは可愛い彼女ではなく冷たいコンクリの壁だった。


その冷たい相方は今の自分にとって可愛い彼女より余程大事な、掛け替えのない物だというのを理解していた。




───明人は聖なるイブとは正反対の、硝煙と血の匂いが漂う深紅の祭に変えていく。流れるのはキリストの血ではなく研究員のそれだったが。




ガンガン!

 



飛んでくる銃弾を避けるため壁に身を寄せる。

相変わらず自分を狙った激しい銃撃が続き、コンクリの壁に命中した弾丸に削られ舞った破片がバイザーに当たり硬質な音をたてて落下する。

これをつけてなければ・・・・下手をすれば失明だな。 



これほど抵抗があるという事は・・・“彼女”は此処にいるのか?

ならここでのんびりとしている暇はない。
  

正直、俺は焦っていた。

誘拐されたのは知人の、というより同居人の娘だった。

俺とも浅からぬ関係のある銀色の髪をした“少女”。

その子を限られた時間内に取り戻すこと、それが“異形の黒”と呼ばれる俺の使命だった。

そして今日がその期限でもあった。



“異形の黒”とは物騒な名だが誰が付けたのかは知らない。

いつの間にかこう呼ばれていた。


自分が黒という色を好んで着ているというのもあるだろうが、大戦時に俺が艦長を務めた“異形の黒”───超兵器スティルス戦艦マレ・ブラッタ級2番艦〈サレナ〉が黒く塗られていたという事も一役かっているのかもしれない。



俺はコートの内側に吊してあった手榴弾を取り出しピンを抜き銃撃が行われている実験室のドアの前に転がし素早く身を隠す。

意図を察した警備兵が慌ててドアを閉め部屋の中へ逃げこんだ。

 


ドカン!





手榴弾が爆発しドアが爆砕され粉々に吹き飛ぶ。


  

濛々と埃が立ち上る中、漆黒のコートをひるがえし銃を乱射しながら実験室に立てこもった敵警備兵たちの中へ突入した。

途中で愛用の銃をサイドホルスターに納め、腰に差してあった刃渡り60センチというナイフと言うには長すぎるコンバットナイフを引き抜き、当たるを幸いに手当たり次第に無力化していく。


  

数分後、警備兵をほとんど倒し部屋に残っていた2人の研究員を捕らえた。

銃を額に突きつけて誘拐された“彼女”の所在を問いただす。


  

「おい、あの娘はどこだ?」

「さぁ? 知らねえな。それに残念だったな色男、あのガキはあの方のモノだ、へっへっへ」


  

研究員の一人は下卑た笑みを浮かべ俺を嘲笑する。

俺は怒りにまかせ引き金を引いた。



ドン!






・・・・・・
ドチャ





「さぁ、アンタはどうする? コイツのようになるか?」




殺した男の頭を蹴り飛ばす。

どさりと倒れた男から脳漿と大量の血が流れ出しもう一人の白衣を真っ赤に染め上げる。

その赤を見て研究員はガクガクと震えほとんど泣き顔になる。




「あの子供は地下5F東奥にある“プリムローズ”の調整室にいるんだ。こ、これが鍵だ、こっ、殺さないでくれ!」

「そうか」


研究員の哀願を無視し引き金を引いた。


ドン!ドン!






・・・・・・
ドチャ




死んだ2人に一瞥をくれ出口に向かう。


(調整室だと・・・もうそこまでいっているのか)


少女に残された平穏という時間は無惨に砕かれつつあった。

もう一刻の猶予もなかった。





───間に合うか、間に合うのか俺は?




俺は嫌な想像を振り払うためさらにスピードを上げ廊下を突き進む。階を降り襲いかかる敵を蹴散らし目的の部屋を目指した。





───頼む、間に合ってくれ! じゃないとナギさんとの約束が・・・。


 

─ 西暦2120年12月24日 日本秩父 某研究所最下層 ─

研究所の最奥に彼らはいた。

モニタを通して明人の侵攻を眺めていた。

5人いるうちの1人は海軍の将官服を着、悠然と椅子に座り足を組んでいる。

あからさまに動揺を示している他の4人とは明らかに格が違った。

その目は狂気をたたえ自分の理想の為なら他人を踏みつぶす事も厭わない、その事がはっきりと分かる目だった。



「ヤツが“異形の黒”・・・か?」

「あの戦闘能力から推察するとそのようです」

「ひっ!」


  

まわりにいた幹部に動揺が走る。

あの鬼に自分たちが狩られる、そう想像したのかもしれない。
  



「あ、あれが我が研究所を4つを破壊し、研究員を殺害した“異形の黒”なのか!」


  

モニタの中では黒い鬼がなんの躊躇いも見せず研究者を撃ち殺していた。

中央の男はそれを気にもせず眺めている。

男の目に浮かぶのは狂気。

自らを至高の存在とし他人を従えることが当たり前だと思っている。



“傲岸不遜”───その言葉がこの将官服の人間を表すのにもっとも適したものだった。 




「ふむ。あれでは3人目の調整終了までここがもたんな。やむをえん、“アルファ”を渡す訳にはいかん、調整中だが・・・殺せ」



男は感情を感じさせない、冷たい声色でそう言い捨て扉に向け歩いていく。



「脱出する。“ベータ”と“ガンマ”は確実に連れていくぞ」

「はっ! “蜃気楼”様」



残った4人は慌てて彼の指示を部下に伝え実行する。

自分たちは隣の部屋に監禁されていた2人の少女を連れ出した。



一人は蒼みがかった銀髪をショートカットにした少女でほんの少し吊り目がちな顔は可愛いというより綺麗といった表現があうだろう。

もう一人は薄く赤みがかった(薄桃に見える)長い銀髪を後ろで結い上げポニーテールにした少女でショートカットの少女より顔つきは幼く可愛い妹といった表現があうかもしれない。

どちらも十代中盤といった感じだが外観は非凡だった。



2人に共通するのは人工的とも言えるほど整った顔つきとプロポーション、色素が薄いせいか全体的に儚いという印象。そして普通の人間ではありえない───ルビーのような深紅の瞳。



彼女たちの意識は朦朧としていたが安全の為なのか手錠をかけられ、追い立てられるように部屋を出ていった。

 

 

─ 西暦2120年12月24日 日本秩父 某研究所プリムローズ調整室 ─

上からの命令によって不幸と不運を背負った3人の研究員が必死の形相で機材からのバックアップと研究施設の破壊を行っていた。


「おいおい、なんでこんな損な役回りをしなきゃいけないんだよ!」

「仕方ないだろ? あの方に逆らえばあの場で死んでいるのは俺たちだぞ?」

「ああ。さっさと片づけて脱出しようぜ」


  

研究員達が忙しく動き回っている部屋は白を基調としており、様々な機器が並んでいた。

部屋の中央には3つの強化プラスチック製のカプセル・・・薄い緑色をした液体が入った培養槽と思しきが物あった。

その中央のカプセルの中には全裸の少女が銀色の長い髪を海草のようにゆらめかせ、膝を抱えるように浮いていた。



だが研究員たちは少女を悠長に見ている暇はなかった。

普段であればその姿に劣情を起こす余裕もあっただろうが今はそんな気持ちがもてるはずもない。

一刻も早く作業を終わらせ、あの死神がくるより先にこの場所から離れたい、その気持ちで一杯だった。



機器を操り残されたデータをコピーし、終わった機材は銃で破壊していく。

機材が壊される度に培養槽の中の白い裸体が痙攣し跳ね上がった。


  

「おい、スキルのインストール中だがエラーが起こってもかまわん、重要度の高いデータだけバックアップを取って破壊しろよ」

「わかっている! だが勿体ないよな、こんな美人を殺しちゃうのは」


  

研究員は銃で機器を撃ち抜いて破壊し、データを取り終わった安心感か培養槽を見てつぶやいている。


  

「自分の命をネタにしてモノにする勇気があるなら構わないぜ?」

「じょ、冗談に決まっているだろ! 俺は異形の黒を敵に回す気はないよ!」


  
同僚に呆れた顔で言われた研究員は顔面を蒼白にし慌てて頭を振る。

急いで続きを行おうと別の機材に走り寄った。

その時、重々しい音を立ててロックされているはずのドアが開いた。

 


ガコン!




「・・・ふう、ちょっと遅かったようだな? 敵に回すってのは」


  

その音と声に研究員たちはいっせいにふりむいた。



ロックしたはずの扉が開かれて・・・いる・・・なぜだ!

自分たちはきちんと鍵をかけたはず、その思いが顔に出ていたのか明人が手に持っていた鍵を放り出した。



そのちゃりんという音で彼らは今の状況を思い出す。



目の前には黒いコートを着た男が立っている。

それは人であって人に有らざるモノ。

復讐と奪還という狂気を胸に秘めた黒い鬼。

返り血で赤黒く染まったコートからは血がしたたり落ち、床に紅い水溜まりを作っていく。


  

同じように紅く染まった長大なコンバットナイフを光らせ鬼が近づいてきた。


 

 

コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ

 



“異形の黒”は途中で培養カプセルを一瞥したあと、自分たちに顔を向けた。

大きなバイザーで半分くらい顔を隠していたが黒い男からは憤怒という感情が吹き出ていた。

ゆっくりと近づいてくる足音。 



そして天井からの蛍光灯の光でギラつくコンバットナイフ。 

研究員たちの恐怖は頂点に達した。

 

「あ・・・ああ、ああああ、あーっ


 

 

ぐちゃ。

 


─ 西暦2120年12月24日 某研究所プリムローズ調整室 明人 ─

俺は機材を操作し少女をカプセルから救い出す。

意識はないが脈拍もしっかりしている、命に別状はなさそうだ。

身体はともかく頭の中は弄られただろうが・・・。


最初に彼女を見た時、自分の探している少女だと気が付かなかった。

それもそのはず自分の知っている、探し求めた少女は10歳だったのだ。

それがいきなり少女と大人の境目のような年齢になっていた、驚かない方がおかしい。  


救い出したのは良いが全裸なのでとりあず自分のコートを少女に着せる。

血まみれで女の子に着せるようなシロモノではなくなっていたがこの状況では仕方ない。

何かないか視線で探しているとコートの濃厚な血の臭いで気がついたようだ。




「けほっ! ん?・・・お、おにいちゃん、遅い・・・・・・よ・・・う」


  

彼女の漆黒の瞳はぼんやりしていたが俺の顔を見てつぶやく。


  

おにいちゃん・・・か。


  

「スマン、手間取った」

「・・・もぅ」


  

仕方ないなぁと続けたそうな口調だったがそのまま気を失ってしまった。

俺を確認できたせいかその顔は安心感で満たされ、先ほどまでの不安げな顔つきとは違っていた。

その安心しきった表情に罪悪感を憶えてしまう。




(・・・すまん、俺の力が足りないばかりに)




だが今は後悔している暇はなかった。


  

培養槽や機材に爆薬をセットし、この娘を抱え脱出する。

途中、見つけておいた動力炉と人体実験室と思しき場所にも同じように爆薬をセットしておく。

これで二度とここは使えないだろう。


  

廃屋にカモフラージュされた研究施設から脱出した直後、

セットした爆弾の起爆装置を押す。盛大に爆発が起き施設は陥没した。


  

この娘の体調が気になるが時間がない、このままこの子の母親ナギさんの待つ病院へ向かおう。

ナギさんは俺の友人であり世話になったあの人、超兵器大戦を終わらせた英雄・影護四輔のパートナーだった。

俗な言い方をすれば内縁の妻という女性。



俺は隠してあった車に乗り込み・・・キーを回す。

眠っていたエンジンが目覚め唸りをあげはじめる。

車体は派手な音をたててスピンし方向を変え凄まじい勢いでこの少女の母親がいる病院へ向かいはじめる。



秘匿研究所は秩父山中にあったので最初は大して車もいなかったが都心に近づくにつれ多くなってくる。邪魔な車を追い越し場合によっては反対車線をも使い、横須賀にある病院を目指す。



さらにアクセルをベタ踏みし車を加速、時速は200キロまで達した。

もちろんスピード違反なのは知っている。

信号を無視し交差点に突っ込んでいく。

この車に驚いた他の車が衝突を起こすがそんな事を気にしている余裕はない。


  

通報があったのかパトカーが追ってきた。

そのサイレンの音が俺の苛立ちをますます高めていく。


  

「邪魔だ!」


  

俺は助手席に置いてあった手榴弾を手にしピンを引き抜いて窓の外にそっと落とす。

パトカーに直撃しないように微妙に時間をずらしておいた。

彼らを殺す事ではなく足止めが目的だからだ。


数秒後、パトカーたちの手前で手榴弾が爆発し足止めをする事に成功した。


  

途中で車を乗り捨て銀の少女を抱きかかえ病院へ走る。

血にまみれたこの格好では当然正面玄関からは無理だ、裏の急患用の出入口から中に入る。

俺は裏口に人がいないのを確認し中に入り込む。
  


「あの〜、どうかされました?」



裏口から入ったところで突然女性の声が聞こえた。

ちっ、運が悪い! 巡回の看護士か?

どうする、俺の格好を見て騒がれると面倒だ、そんな事で時間を取られたら間に合わない。




(・・・・殺ってしまうか?)




だが戦闘員でもない彼女を殺すには躊躇いがあり、その処遇を迷っているうちに静かに近づいてくる。

俺が抱えているこの少女が急患だと思ったのかもしれない。


  

薄暗い廊下でようやく俺の姿を確認して彼女は唖然とした。


  

脇のホルスターに拳銃をぶら下げ、腰には長大なコンバットナイフ。

全身が返り血と自分の血で汚れていれば驚かない方が不思議だ。


  

長い髪をお下げにして前に垂らし純白の白衣の胸には“玉村穂乃香”と書かれたネームプレート。

彼女は口をぱくぱくとしながら俺を見ていたが恐怖より職業意識の方が強かったのか苦情まで言ってきた。普通は人を呼ぶとかすると思うんだが。

  

「ちょっと困ります! そんな格好で」




その台詞にどこか的外れなものを感じ内心で苦笑する。

それにしても・・・叫び出さないとは意外にしっかりした女だな。 

もっとも叫び出されたらどうにかして口を塞がねばならかっただろうが。 

  
  

俺はその看護士を一睨みする。


  

「あ・・・れ?」


  

彼女は腰が抜けたようにへたりこんだ。


  

「少しの間、邪魔しないでくれ。2580室にいる女性に用がある」

「え? 2580室の女性って・・・あ、ちょっと!!」


  

俺は看護士を残し全力で病室へ向かう。

彼女の訝しげな表情と言葉に嫌な予感をおさえることができない。


  

軽いとはいえ少女を抱えての全力疾走。

限界を迎えている身体が悲鳴をあげている。

ここ2週間、満足に睡眠時間や食事も取らず、ひたすらこの少女の所在を探していた。


今の俺には睡眠や食事の時間など邪魔なだけだ。

この思考をする時間すら惜しい。


  

昔は毎日のように見舞いに訪れていたのでこの病院の構造は分かっている。

もう少し、もう少しだ。頼むから間に合ってくれ!

階段を駆け上がり周りの迷惑を気にもせず廊下を走り抜ける。


ようやくたどり着いたドアの前で深呼吸し、心を落ち着ける。

そして・・・そっとドアを開け中に入った。


  

白いベッドに横たわったその女性、彼女の顔には白い布がかけられていた。


・・・間に合わなかった、のか。


  

最後に一目でも無事な娘の顔を・・・見せてやる事ができなかった。

そして最後の言葉を聞くことも。


  

少女をそっと隣のベッドに降ろしナギさんの寝ているベッドに近づく。


  

意志の力だけで支えていた身体が限界を超えた。

膝がガクガクと震えへたり込みそうになるがそれでも彼女の元へ行こうとする。


  

俺の感情は彼女の死顔など見たくないと拒否している、

だが理性は彼女の死を確認しようとしていた。


  

いやだ、見たくない!


  

どれだけ敵に囲まれ死地を迎えようと笑い飛ばすことのできる俺。

その俺が彼女の死顔を見る、たったそれだけの事に恐怖している。

さっきの戦闘で血まみれになった手が、震える指先が白い布をそっと取る。


  

痩せこけてしまった白い顔。

ショートカットにされた栗色の髪からは艶が失われていた。


  

これが・・・あの明るく太陽のように笑っていた顔?

彼女の明るさとお気楽さは俺だけでなく四輔をはじめとした“真紅の夜明けライジングサン”艦隊乗組員の気持ちを明るくし、不利な局面で暗くなりがちな雰囲気を陽光のごとく照らしたのだ。


俺は痩せてしまった頬をそっとなでる。


  

彼女が一体なにをしたというんだ?


  

ただ影護四輔の事が大好きで。


「でも・・・影護さんの事、好きなんでしょう?」

「エ〜っ、何で知っているの? やっぱりバレバレなのかなァ(赤)」


  

ただ影護四輔の側に居たくて。


「戦場に出るのは危ないですよ、いくら四輔の事が心配でも」

「アタシねえ、どんなに危険でもアノ人と・・・・四輔さんとずっと一緒にいたいの。

だから一番頑張ってきた研究も捨てたし、この艦に乗っているんだよ?」


  

ただ影護四輔との子供が欲しくて。


「え? じゃあ・・・もしかして?」

「ウン、出来た・・・の。あの人の赤ちゃん」


  

たったそれだけの為に懸命に生きてきた彼女。


  

そして俺の命の恩人である四輔。

世界最強の戦艦艦長で大戦を終わらせた英雄。

彼女はその人の大事なパートナーだ。

いやパートナーだった。



だったという過去形の言い方をしているのはその彼は最終決戦で敵艦の自爆に巻き込まれ行方不明になってしまったからだ。必死の捜索にもかかわらず遺体すら発見されなかった。



それ以来、彼女ナギさんは大きく変わってしまった。

その結末と彼女の変化を知った時、四輔に命を救われた俺は支えを失った彼女と娘を見守ると決めた。



明るかった笑顔は消えいつも寂しそうに外を見て行方不明になった彼が戻ってくるのを待っていた。

その中で自分の目標を見つけだし、少女を得る事でようやく彼女の精神は落ち着いた。

少女が来てからの4年間、俺たちは幸せだった。



だが少女が誘拐された際、彼女は俺を庇い銃で撃たれ重傷を負った。

さらにもともと衰弱気味だった身体は撃たれた傷と少女を失った痛みで急速に衰えた。  

俺は彼女が負傷した時、必ず少女を助け出すと約束し所属する組織“真紅の夜明けライジングサン”の諜報網を使い今まで探索を続けようやく見つけだしたのだ。



囚われていると思われる施設を襲撃し少女を捜す、その繰り返しだった。

そしてようやく救出し彼女の元へ少女を連れ帰ってきた。

なのに・・・彼女との約束を守る事ができず、彼女の最後を看取る事すらできなかった。


  

  

・・・ちくしょう、俺は非力だ。 

  



“異形の黒”などと大層な異名を付けられ恐れられてもこの母子の幸せすら守れない。


  

この娘の“プリムローズ”としての覚醒を阻止することも。


  

カタっ


  

「え?」

「・・・母さん?」


  

小さな物音がした。

振り返ると少女がベッドから起きあがり俺を、そしてベッドに横たわる母を見ていた。


  

「ねえ、おにいちゃん、母さんは」


  
その声は凍てつき震えていた。

まるで自分の見ているものは夢だというように。




俺は黙って首を横に振る。


  

「う、うそ・・・嘘だよね?」

「・・・」

「おにいちゃんは嘘が下手なんだから!」

「・・・すまん」




「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


  

俺は見てしまった。

彼女の大きく見開かれた眼、瞳は・・・漆黒ではなく深紅だった。





それは・・・人が作り出したヒト・人工生命体“プリムローズ軍事用レプリス”としての証。


  


日付が西暦2120年12月25日に変わったその日。

慈悲深い神さまが俺たちにくれたクリスマスプレゼントは“復讐”という名前だった。





この日以来、平和だった俺と少女の時間と運命は大きく変わり続ける事になった。

 

 


− あとがきという名の戯言 −

ども、作者でございます。という事で改定後の1話ですが基本的な流れは変えてません。

追加したのは細かい描写と試作型プリムローズXmfh-000002ぜろぜろぜろとんでに“ベータ”と同000003ぜろぜろぜろとんでさん“ガンマ”を登場させています。本当は本編・連合海軍〜の異形の黒パート最終話で出てくるはずだったんですがチョロチョロと名前が出てくるので紹介がてら登場させました。髪の色が某マシンチャイルドたちを想像させますが意図はありませんです(笑)

それとちょい役ゲストとしてプリムローズのネタ、KIDから発売されている
My Merry MayMy Merry Maybeから“玉村穂乃香”嬢を登場させてますが多分、出てくるのはこれっきりじゃないかと。ファンの皆様、すみません。

ほのかは好きなんだけど、優しすぎて外伝では使えませんぜ(泣)。彼女を出すと自己犠牲で真っ先に★になってしまいそうだし。頑張って出せても渡良瀬教授の助手としてだけど、知っている人は人は知っている通りその関係だと・・・違和感バリバリ(苦笑)

第2話から大幅に時間軸と回想の修正をしています。なるべく時間の流れに沿った形に直してありますので以前より読みやすくなっているはずです、たぶん(汗)。

それと前回、代理人さんに音読10回の刑(笑)を言い渡されていますので試してみました。確かに効果あると思いますが恥ずかしいっすね、コレは(苦笑)。

相変わらず忙しいですが7本同時進行は止めるべきでしたねえ、1本あたりの時間が減っているので読みづらいと言われるのも仕方ないかと自嘲。忙しさにかまければ1〜2ヶ月くらい更新できなってしまいます。そうするとテンションも落ちて未完(人によってはこのまま終わった方が良いかもしれませんケド(笑)なんて事になりかねないので空き時間を使ってネタ作りと執筆を進めたりしています。

 

 

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

話としても文章としても読みやすくなってますねー。えらい。w

ここまでの展開は既出なので感想はまだですが、これからの展開は期待しています。

 

>明人は聖なるイブとは正反対の、硝煙と血の匂いが漂う深紅の祭に変えていく。

この一文、目的語が無いので気持ち悪いです。

「聖なるイブを正反対の、硝煙と血の匂いが漂う真紅の祭りに変えていく」、

「聖なるイブをそれとは正反対の、硝煙と血の匂いが漂う真紅の祭りに変えていく」などならいいんですが。