連合海軍物語


外伝第一部 エピローグ「ザ・ゲームマスター」


─ 西暦2121年6月1日 アメリカ合衆国イリノイ州 シカゴ ─

メリか合衆国イリノイ州にあるシカゴ。ここは全米第3位の大都市であったが、ある企業の存在で第1位にのし上がった。広範囲に広がる市街地の中で一際高い高層ビルは“マーストリヒ”と呼ばれる会社の本社ビル。“白”を基調にした地上80階、地下10階という高層ビルが太陽の光を浴びて塩柱のように輝いている。

マーストリヒは世界初の月面都市を完成させ、同じく世界初の人型機動兵器を造り上げている。この世に存在し無数にある企業の中で飛びぬけた技術力を持つ会社だった。あまりの飛びぬけ具合に噂ではテュランヌス総統と共に行方知れずになった《遺跡》を密かに所持しているとまで言われていた。

ハードだけではなくソフト開発や、関連業務も行っている世界最大規模の複合企業体コングロマリットだった。

世界中に支社を作り、その国に投資や開発を行っており、その影響力と資金力は支社のある国の元首はおろか、本気になれば合衆国大統領をも動かすといわれていた。


そのマーストリヒ本社ビルの一番高い場所、地上80階にある会長室。この部屋の主はクッションの効いた豪奢な椅子に深々と身を沈め、アフタヌーンティーを楽しんでいた。傍には秘書と思しき40代中盤と思われる男。鍛え上げられた固太りの身体を仕立ての良いスーツで身を包んでいる。

それと樹脂フレームの角ブチ眼鏡。典型的なサラリーマンといういでたちだったが、発散する雰囲気がただのサラリーマンとは違っており、どこか似合っていない。この男も部屋の主と同じようにカップを手にしていた。


談笑していた二人だが邪魔をするように会長専用のプライベート電話が鳴った。この部屋の主は30代に届いたばかりの若者で、世界有数と言われる大会社の会長にはとても見えない。何より若いが故に会長職に必要な重厚・慎重さはなく、危うさと軽さが出ていた。青年は秘書との会話を一旦止めると煩わしげに長めの髪をかきあげ受話器を耳に当てた。


「ご無沙汰してます、兄さん。今日はどうしたんですか」

【・・・・・・】

「ああ、戦艦〈ルフトシュピーゲルング〉の礼? いえいえ、大した物じゃないんで恐縮ですけどね」

【・・・・・・】

「兄さんに奪取して頂いたデータ、あれのお礼ですよ。ええ、気にしないでください」

【・・・・・・】

「データですか? とても使いでのある代物ですね。あれを使えばマーストリヒは軍関連だけでなく医療や介護市場、それ以外の市場にも参入できるきっかけになります。

なにより人型の労働力は幾らでも需要がありますから。人間では人権問題で雇用できない危険な場所での作業から男の性処理おもちゃまでね」


青年は足を組みくっくっくと愉快そうに笑った。


「ええ、アスカや日本があそこまで完成度の高い物を作っているとは思いませんでしたよ。おかげでウチで開発していた物が抱えていている技術的問題もスルーでき大幅に進捗しました。結果はすでに・・・ね。日本から得た2人は研究が終わり次第、そちらに戻します、それに伴って〈ルフトシュピーゲルング〉の改装もしましょう」

【・・・・・・】

「もちろん、なるべく早くそちらに戻します。それと反攻用の戦力ですが駆逐艦が12隻、重巡3隻、超兵器は少し古いですがマレ・ブラッタ級の〈タッカ・シャントリエリ〉とこちらで新造した航空戦艦〈ムスペルヘイム〉、秘密基地で建造できるように〈潜水戦艦ノーチラス〉と〈装甲爆撃機アルケオプテリクス〉のデータもそちらに送ります。

艦載機は試作の〈ハウニブーIV〉と無人戦闘攻撃機UCAV〈アサルトバルキリー〉。機動兵器は型遅れになってますが、重力波推進を搭載した〈アルストロメリア改〉を補機を含めて15機、これに〈ルフトシュピーゲルング〉を合わせれば小さな国程度は壊滅させ征服できます。
あ、それとオーストラリアにある子会社クリムゾンで試作している〈無尾翼爆撃機ヴリル・オーディン〉のテストを依頼するかもしれません」

【・・・・・・】

「なに、兄さんが結果を出してくれさえすれば問題ありません、煩い重役連中の口を塞げます。僕を若造だとなめてかかってくる連中に辟易してますけど、そのあたりは抜かりはありませんよ」

【・・・・・・】

「前会長が急折して僕が指名されるとは思ってませんでしたから。幾ら僕が前会長の血縁でも重役連の中では一番の若輩、序列は低かったですし」

【・・・・・・】

「せっかく手に入れた地位ですから頑張りますよ。それに、兄さんがフォローしてくれるじゃないですか。貴方が動いてくれるだけでウチは儲かります。ですがやりすぎには注意してくださいよ、今は雌伏の時期なんでしょう」

【・・・・・・】

「わかりました。そういえばウチから送り込んだ2人はどうですか? 性格に難があるけど腕は超一流・・・・・・・・・・・・・・の人材なんですが。はっはっは、そうですか、お役に立っているならこれからもそういう基準の人間を派遣しますんで。

ええ、今の状態では多少人間的に壊れていても、腕のたつ人間を集めて少数精鋭にしないと」

【・・・・・・】

「ええ、では。兄さんもお元気で」


電話を切った青年、マーストリヒ会長タツキ・M・ソウマが秘書の方に顔を向け肩を竦めた。


「相変わらずのようですね、兄上は」


秘書は会長のしぐさを見て苦笑しつつカップを傾けた。


「まあ、それが取り得みたいな人だから。でも兄さんは軍人で金勘定が下手だからこのまま暴走されてあの艦を使われちゃうと困るんですよね。威力が有り過ぎる兵器を積んでいるし」

「会長の言われる、“コントロールのない暴力は憎しみしか生み出さないが、極めて正確にコントロールされた暴力は金を生み出す”。これは・・・」


秘書はポケットから電卓を取り出すと弄びパチパチと弾いた。


「私にとってはね、至言ですよ」


そう言って自分の主に向けにこりと笑った。


「オベッカじゃなく本気でそう言ってくれるのは貴方だけなんですよね、その至言ってヤツ。でもワイズ、君は電卓が好きなんですねえ」


タツキは呆れたように電卓を弄ぶ秘書を見た。彼は常に電卓を持ち歩き弄ぶ癖があるのを知っている。


「ああ、これですか? イメージ作りってヤツですよ」


ワイズ・ベクターはにこやかに笑い、手で弄んでいた電卓を一瞥するとかけていた伊達眼鏡をくいっと持ち上げた。


「ですが・・・本当は大斧えものがないと寂しいだけです」


眼鏡の奥の瞳がすうっと細められ剣呑な光を帯びるが一瞬でそれも掻き消えた。


「やれやれ、世界に冠たるマーストリヒの主席秘書は刃物愛好家だったんですね。ま、それは良いとして、兄さんとあの2人の暴走を抑える人が必要ですか」


青年は秘書に向け苦笑していたが言葉の途中から表情を改めた。椅子に背を預け腕を組み思案している姿を見てベクターが提案を出す。


「会長、私が兄上の下に行きましょう」

「僕としては頭もきれてSPとしても腕がたつ、懐刀を手放したくはないんだけどなあ・・・仕方がないか。手間をかけるけど頼むよ、ワイズ」


タツキは預けていた背を起こしすっかり冷めてしまった紅茶を飲んだ。


「おまかせください、不肖ワイズ・A・ベクターが兄上をサポートさせていただきます」

「ま、君に任せておけば資金面での暴走は無くなるからね」

「ええ、私がいる限り無駄遣いはビタ一文させません。では会長、さっそく行きます」


ベクターは立ち上がると自分のカバンを取りドアに向かった。


「ああ、兄さんは〈蜃気楼ルフトシュピーゲルング〉を引き取りにニューポートニューズの造船所にいるよ。彼には僕から連絡しておくから」

「はい、では」


うやうやしい一礼と共にベクターがドアの向こうに消え、重々しい音と共に会長室のドアが閉まった。

青年は再び深々と椅子に背を預けると物思いにふける。


兄さんは軍事力で世界を制する気でいるけど、僕は経済力で征服してみせる。所詮、軍事力は経済の上に成り立つものでしかないからね。今のところそれは上手くいっている、月面での権利は裏も表もかなりの部分まで取得できているし。

このままいけばマーストリヒはそう遠くない未来に月面での鉱物採掘の権利を一手に握れる。それは月の鉱物に依存している地球の未来を我が社が握れるという事。

その為には月独立派の連中や宇宙海賊たちにも資金を提供してもう少しマシな武装をしてもらわないと。じゃないと簡単に制圧され他の国々はウチの商品を買わないで済ませようとするだろうし。どうせやるなら双方とも死に物狂いで戦ってもらわないと見物人としては楽しくないですからね。


ウチのライバルとなるアスカの機動兵器も今の時点ではシステムに欠陥がある失敗作という報告がきているし、現に幾つかの国で行った〈エステバリス〉のデモも好評、こちらが優位にたっている。それと抱き合わせで設計に入った専用艦を軍に売り込みもしている。


機動兵器はともかく、問題はアスカが艦艇建造を得意とするところかな。向こうが造りあげた最新鋭艦エグザバイトに対してすでに対抗艦ルフトシュピーゲルングが出来上がっているけど。なるべく早くにその正確なスペックを調べ上げ次期艦艇建造計画に盛り込まないと。

そのうち実戦で〈ルフトシュピーゲルング〉、我が艦の力を見せつければ良いでしょう、その為のステージを準備しないといけませんね。それにしても・・・この艦の性能を見たら吃驚するでしょうね、世界中の軍関係者は。


さぁ・・・これからの戦火ゲームを制御するのは僕。
そう! 僕ことマーストリヒ会長タツキ・M・ソウマが歴史シナリオを作り出すゲームマスター。
マスターとして派手に戦火ゲームを盛り上げ、創り出した歴史シナリオ通りに物語を進めさせる・・・僕の腕の見せ所ってやつですよね!

当然シナリオを壊そうとする悪質なプレイヤーもいるでしょう、そういったイレギュラーに対してはまず絡め手ですか。金、地位、異性、いずれもマーストリヒが行使できる力です。もしそれでも駄目な場合は・・・退場して貰いましょう。

その戦火ゲームを盛り上げた結果、マーストリヒは月・地球を合わせた経済帝国になる。さらに火星へ向けての開発と権利の取得が行われ・・・。ふふふふ、僕の行く先は光輝に満ち溢れているじゃないですか。


この輝かしい未来の為・・・僕の至言通りあなた方をコントロールして差し上げましょう。そして貴方には派手に踊り狂ってもらいますよ、我が異母兄弟あにうえ。ジョナサン・ハーバート・クルーガー元“星条旗スタースパングルドバナー”提督、いや新生テュランヌス総帥にはね。


青年の狂ったような哄笑は分厚い会長室のドアに阻まれ外に漏れることはなかった。





連合海軍物語外伝 第一部 完

 




− あとがきという名の戯言 −

ども、作者っす。最後まで読んでいただきありがとうございます。

という事で第一部終了です、本当に最後まで読んでいただきありがとうございました。

ついに〈ヴォルケンクラッツァー〉の自爆で影護四補と共に死んだはずの宿敵の復活です。明人にとっても四補を殺し、ナギの幸せを奪った怨敵クルーガーとクルーガーの異母兄弟であるマーストリヒ会長タツキの野望により世界が戦火に引きずりこまれていきます。

そしてタツキと同じ苗字をもつ相馬祐樹との関係は? クルーガーが生きていたという事は影護四補も生きているのか? 伐折羅と明人の決着は? などなど、とりあえず伏線張りまくったつもりですが伏線として認識されていない物も多数(汗)。

いやいや、それより大見得きったのはいいけど上手く世界が書ききれるかの方が大問題かも(大汗)。タツキの野望がちゃっちい戦略で自爆・誤爆しないように策を練らないと・・・ヤンかラインハルト並みの知力が欲しいとこです。世界を混乱に落として一見儲からなさそうに見えて実は自分が大儲けるような壮大な戦略かあ。


さて、煽っておいてナンですが(笑)。第二部開始は連合〜本編でムネタケ指揮する第9任務部隊旗艦・超兵器〈アマテラス〉と隼人たちの戦い終了後になります。なるべく早く開始するつもりですが、連合本編進行と同時にネタ構築、執筆です。死ねるかも(汗)


■代理人さま
>うーん、折角出てきたのに・・・当て馬?(爆死)>紗々羅
>因縁あるキャラの使い方としてはちょっと勿体無かったかも。

身も蓋もない言い方をすると確かに当て馬なんですが(苦笑)。

もちろん、そんな勿体無いことはしませんです。紗々羅は外伝第二部のヒロインなので頑張って明人にアプローチして貰います、場合によっては女郎蜘蛛の如く網を張って明人をベッドに引きずり込みあれやこれやと(笑)。ま、それは冗談ですがマジで第二部最終話近くのエピソードは18禁になりそうなんでどうしたものか。

それと敵側の狂女・伐折羅もヒロインです。紗々羅エンド、伐折羅エンドはすでに出来ているのでそこに至る過程に・・・ってギャルゲーだわ、紗々羅エンドって(爆)


>ですから、どうしても理解してもらわなければならない伏線は、誰でも分かるように書かなきゃいけないんですねー。
確かにそうですね、重箱の隅を突付くような伏線では気づかれない可能性の方が高いです(苦笑)。隅の伏線を気づいてくれた人の為の楽しみも入れたりしているんですが大概、邪魔とか言われたり(汗)

>テーブルトークのマスターやってるときにそれで何度・・いやいや、げふんげふん。
あ、これ分かります。TRPは何度がやった事ありますが、あまりにも馬鹿げた事や突飛な事するとマスターの眉間に皺とこめかみに青筋が(笑)。キャラ属性が悪な前にプレイヤーが悪だったのかも。

 

 

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

これで外伝は締めと。

まぁ、エピローグとはいえ事実上余話というか次回への伏線のようですが。

 

>隅の伏線を気づいてくれた人の為の楽しみも入れたりしているんですが大概、邪魔とか言われたり(汗)

まぁ、そういうのはあまり入れすぎてもダメですね。

さりげなく入れて分かる人だけクスリとしてもらうのが理想でしょうか。

 

>キャラ属性が悪な前にプレイヤーが悪だったのかも。

これは完全に余談ですが、テーブルトークってのは「皆で楽しむ」物なんですね。

自分が楽しむのもいいけど、他のプレイヤーとマスターを楽しませるのもプレイヤーの義務のうちです。