俺はいつの間にか見知らぬ通路に立っていた。

ここは一体何処なんだ?

俺は確か自分の部屋で新型駆逐巡洋艦の設計をしていたはずだが?

身体を動かそうとするが自分の意思では全く動かない。

おいおい、どうなっているんだ?

そうしている間にも身体は勝手に通路を歩いていく。

途中で壁に埋め込まれたプレート前で足を止めた。

このプレートを見るようだな。

んー、艦内案内図? 「艦」って事は・・・ここは軍艦内だよな。

なになに・・・この艦の名前は・・・Nadesico、ナデシコか。

 

花の名前なのか他に意味があるのか分からないが、

もし花の名前だとしたら軍艦名としては異例だな。

 

表示されていた艦型図も見るが・・・・・・。

うーん、前楼が異様に大きく変なデザインだよなあ、この艦。

艦型は双胴型だと思うんだがこれで高速が発揮できるのか?

 

それに機動戦艦? 新しい艦種だろうか。

順路を確認したのかまた身体が歩き出す。今度はどこに向かっているんだ?

俺は標識と先ほどの艦内案内図を思い出しながらあたりの様子を見る。

 

軍艦の通路ってよりはオフィスビルの廊下といった方が自然な感じだ。

しかし勝手に身体が動くのは不気味だ。

お、ここがブリッジみたいだな。

身体がブリッジの中に入っていく。

 

「なっ!」

 

俺は目前の光景に心底驚いた。

 

ち、ちょ、ちょ、ちょっとマテ、これは一体?

未来的な機器に囲まれたブリッジ。

さらに窓外は漆黒に散りばめられた星々、それに・・・地球?

おいおいおいおい!



ナデシコって宇宙戦艦なのかよ!

すげえよ、本当に宇宙戦艦なのか? 夢にまで見た

(というか夢を見ているのかもしれんが)

いつかは自分で設計したいと思っている艦種。

 

 

「あれれ〜、−−ト! どうしたの?」

 

艦長席と思われる場所にいた長い黒髪の美人が俺に話しかけてくる。

他の人間と制服のデザインが違うので艦長なのか?

 

「あ〜、わかった! アタシに逢いにきてくれたんだね。ユリカ、嬉しい!」

 

黒髪の美人に抱きつかれる。

 

「おい、ユリカ、みんなが見ているんだ離れろって!」


口が勝手に台詞を言う。

 

これは・・・誰の身体だか分からないが他人の身体にいるみたいだな。

だが身体が自由に動かない以上、こっちは傍観者として見ているしかなさそうだ。

しょうがない、これが夢でも楽しませてもらおう、なんてたって宇宙戦艦だし。

 

 

それにしても自分が宇宙戦艦に乗っているというのは感動だよなあ・・・・・・

 

 

 

 

連合海軍物語

第四話 ナーウィシア


 

− 第七駆逐隊根拠地 −

「か・・・かん・・・かんちょう! 艦長? 大丈夫ですか?」

 

心配そうな顔をして副長が俺の顔を覗き込んでいる。

 

「・・・はっ? あ、あれ、副長いつ来たんだ?」

「は? 先ほどですが。呼びかけても返答がないんでどうしたのかと思いましたよ」 

「ああ、すまない。煮詰まっていたんでちょっとぼーっとしていたようだ。

で、なにかあったのか?」

「あ、作業中すみません。本国から命令が来ました。

【第7駆逐隊は根拠地から一時撤収、帰還せよ】

との事です。代わりは第9駆逐隊が入るそうですよ」

「今の時期に撤収かぁ。後釜は第9か、あのハネッカエリが司令をしている隊だね」

「はねっかえりですか?」

「ああ、俺と同期の昴 亮子っていう女性が指令をしている」

 

俺は髪をショートカットにした美人だが気の強い顔を思い出す。



「昴って・・・ああ! ライオンズシックル隊ですか」

「そうだ。あいつが後を引き継ぐなら心配ないか。少しは本国で羽が伸ばせそうだね」

「ですね。それと沖田提督から伝言を預かってます」

 

沖田十五提督

公的には連合海軍中将で対ウィルシア技術本部長だ。

前線での働きと造船技術によって今の地位にある。

銀髪・長身痩躯でいつも自信に満ちあふれた笑みを浮かべ、

前線から後方に移ってもなお実戦馴れした古強者といった雰囲気をしている。

私的には・・・簡単に言ってしまうと俺の養父でもある。

戦場で大怪我をおって倒れていた俺を助けてくれたんだ。

おまけに身寄りがなかったので引き取られ彼の養子になった。


対外的に見れば俺は将官の息子でボンボンな訳だ。

もっともボンボンならこんな最前線にはいないだろうけど(笑)。

 

「提督はなんと?」

「良い話があるから期待するようにと」

「何だろう?」

「新型艦でもくれるんですかね?」

 

新型艦か、確か戦艦は一九号艦と零号艦を建造しているはずだが。

 

「新型は建造しているようだが完成したって話は聞かないけど」

「新型ですか?」

「ああ、ウィルシアの艦に対抗できるって話だ」

「じゃあそれでしょうかね」

「ま、楽しみにしてようか、副長。出航準備だ」

 

「了解、出航準備します」

 

数週間の航海をしナーウィシア本国に帰還した。

その間、通商破壊を狙った敵潜水艦との小競り合いもあったが

敵を撃沈し無事ナーウィシア本国へ戻ってきた。

 

− 隼人自宅 −

俺は久しぶりに本国に有る自分の宿舎に戻った。

大して広くないが心落ち着ける部屋だ。

荷物を放り出しコーヒーを淹れTVをつけると

 

「ナーウィシア建国の概要と世界情勢」

 

という番組がNHK(ナーウィシア国営放送)でやっていた。

 

出頭命令で指定された時間まで、まだ間があったのでこの番組を見る事にした。

俺たちにとっては当たり前の歴史だが知らない人間もいるかもしれないしな。

 

ナーウィシア本国の首都・水都はソロモン海にあるかつてはニューギニアと呼ばれた土地に存在する。

ナーウィシアは日系移民が主となっている国で言葉・通貨ともにニホンと同じ日本語・円だ。

 

2010年に起きた世界的な金融大恐慌、エネルギー問題などを引き金として第二次大戦が勃発、

ニホン国は貿易摩擦などで険悪となっていたアメリカ合衆国との戦争に突入した。

 

八八艦隊(戦艦8隻、高速戦艦8隻プラス大型航空母艦8隻を合わせて八八八艦隊とも言われる)を

主力とするニホンは4年の歳月を経て引き分けに持ち込み両国はハワイで講和をする。

 

戦争自体は恐竜的進化を遂げた巨大戦艦を主兵器とし、航空母艦、航空機や潜水艦などの補助兵器で戦われた。

航空機は大型化した戦艦に対してダメージを与え戦闘力を落とす事は出来たが沈める事は出来ず、

引き続き大艦巨砲主義が生き延びる事となる。

 

その為、兵器思想も戦艦や艦艇第一、航空機は襲ってきた物を排除できる程度の兵器で良く、

異次元で使われていたとされるイージスシステムなどの高価な対空兵装・システムは基礎研究だけになった。

 

恐慌の影響や兵器の大型・高額化により戦時の予算が圧迫され1国の力だけでは

相手国を全面降伏まで持ち込めるほどの余裕はなくなっていた。

その為、ニホン・アメリカともに国の破産よりはという事で引き分けという形で講和となった。

 

もちろん世界の警察官を標榜するアメリカは勝利と言いはっていたが

戦後の状況を見れば勝利などというのは戯言にすぎないのが分かる。

 

アメリカも戦争により国民の不満が爆発、南部諸州が反旗を翻して独立。

ニホンが引き分けに持ち込めたのはアメリカ国内で起きたテロや独立運動のおかげといって良い。

実際全兵力の半分以下しか日本との戦争では使われなかったからだ。

 

一方アメリカの対戦国だったニホンは大戦前までは経済大国となっていたが

世界的恐慌や戦争の痛手により二流国に転落、追い討ちをかけるように

無能な政治家による失政で国民の一部がニホンという国に見切りをつけた。

 

見切りをつけた一部の人々は伝染病と戦争により無政府・無人島に近い状態になっていた

ニューギニアなどに入植し町を作りはじめる。

そうして作り上げた町がナーウィシア共和国建国の元となった。

 

生活環境は厳しく生活は楽ではなかった。だがその厳しい環境を人々は克服した。

ニホンでの失敗を反省しその失敗を教訓とした国づくりをしたナーウィシアは

ニホンより遥かに公正かつ国民に優しい国に育つ。

税金は収入税と消費税、各種娯楽税、一部の医療税のみで生活に必須な品物に税金などは一切掛からない。

一部の医療税にしても18歳〜60歳までが治療費の0.5割がかかるだけだ。

 

 

政治家も当代限りで世襲というものは一切認められず、親の地位を譲られるだけの2世議員などという存在は許されなかった。

2世と呼ばれる議員たちはきちんとした政治家登用試験(徹底的な身辺調査やモラルも審査される)を勝ち抜き、

国民の支持を受けた上でないと政治家として認められないからだ。

高いモラルが必要とされる職業なだけに、罪を犯すと一般人より厳しく罰せられ、罪状によっては銃殺もあった。

だが責任が重い分その給与は高額になっており責任と給与はバランスが取られている。

 

ニホンに残った人々も腐敗した政治家がでかい面をしているこの国よりはと続々と移民しすぐに国民数も増えた。

その移動のせいでニホンの国民数は最盛時の半分になり、ますます収入・生産力が減り完全に二流国と化した。

 

先述した世界状況でもあったので新しい国として活気に満ちた国に見えたのか様々な国からも移民してきた。

言ってしまうと国は小さいが第二のアメリカという状態になった。

外国から資本が続々と入り込み建国85年で経済大国と呼ばれるまでになった。

 

そんな状況のなか一流半として存在していた北部アメリカはカリブ海で偶然にも正体不明の超大型戦艦を手に入れる。

それを境に歴史が大きく動く。

 

「強いアメリカを再び!」

 

そうスローガンを叫ぶ大統領の顔には独裁者を髣髴させる笑みが浮かんでいた。

北部は南部アメリカとの戦争を開始、いつの間にか保持していた超絶的兵器をもって失われた南部の星を回復した。

南部を合併したと同時に大統領は演説する。

 

「これより我々の為の新しい歴史が始まる!

我々は生まれ変わらなければならない!

アメリカという古い皮を捨てウィルシアという美しい蝶になるのだ!!」

 

そう絶叫した大統領の顔は完全に狂人のそれと化していた。

それにも関わらず国の指導者層は大統領を支持。

ウィルシアは国連を脱退、持ち前の生産力をフルに使い世界制覇を目標に大戦を巻き起こす。

 

まずは引き分けとなったニホン国を含めた太平洋条約機構に宣戦を布告する。

先述した事情により故国を見捨てた人間が作った国という事でニホンとは関係は良くなかったが

(兄貴風を吹かすのでナーウィシア自体もニホンを良く思ってない訳だが)

ナーウィシアもその機構に属しているので自動的に参戦となった。

 

ウィルシアの持つ超絶兵器と大兵力になすすべもなく撃破される太平洋条約機構が保有する連合艦隊。

この戦により2/3が撃破され太平洋条約機構各国は協議を出し国連に持ち込む。

すでにウィルシアはヨーロッパ、中東にまで手を伸ばしていたので開催は簡単だった。

 

時間が経つにつれ各エリアの戦線は押され気味となり各国の兵力を有効に生かすため、

ウィルシアを除く国の署名により国連直属の地球連合軍が結成される。

すでに30の国はウィルシアの攻撃で消滅しており国同士の諍いなどしている暇がなくなっていたというのもある。

 

こうして地球連合陸海空軍が作られ今現在に至るといった趣旨の内容だった。

ちょっとお堅かったが自国の歴史を再確認するのは良い事だ。

 

時間もそろそろなので沖田提督のオフィスに顔を出す。

 

− 沖田の執務室 −

「双岳中尉、入ります!」

敬礼。

「ご苦労、中尉。ま、そこに座ってくれ」

「はっ」

 

俺は薦められたソファーに座ると提督も反対側に座った。

 

「久しぶりだな、元気にしていたか?」

「提督もご壮健そうで」

「はっはっは、そう簡単にはくたばらんよ」

 

相変わらずというか気さくな提督らしい言い方なんだよな。

 

「で、今回は?」

「第7駆逐隊の所属が変わった。それに伴い双岳中尉は大尉に昇進だ」

「良いんですか? 昇進を乱発すると軍の寿命が短くなりますよ?」

 

俺は皮肉ともとれる内容で聞いてみる。

 

「分かっている。だが人の上に立ち人を従わせるにはそれなりの地位と言う物も必要なんだよ」

「分かりました。所属が変わったというのは?」

「今までは東部方面第7艦隊の指揮下にあった訳だが、7艦がウィルシアとの戦いで壊滅している訳だしな。

7艦は抜本的な再編成にはいる」

 

そういう状況であっため俺たちは駆逐隊だけで戦わざるを得なかったのだ。

本来なら7艦本隊の指揮下に入り作戦を遂行するはずだったんだが、

その前に敵の全面攻勢が行われ旗艦は撃沈、司令部壊滅という大打撃を受けていた。

 

「で、今度の所属はどこに変わったんでしょうか?」

「第7駆逐隊は今日より対ウィルシア技術本部長直属の遊撃実験艦隊として働いてもらう」

「提督直属の実験艦隊ですか?」

「ああ、連合海軍第一三独立実験艦隊は知っているか?」

「はい」

 

第一三独立実験艦隊は名前どおり試作艦や試作兵器を実戦で試す部隊だ。

かなりの権限を与えられ作戦はほぼフリーハンドというある意味、軍とは言えない艦隊になっている。

 

「なら話は早い。中尉たちの任務は一三艦隊と同じ物だ。

大まかな指示は出すが基本的に作戦は中尉・・・いや大尉が立ててくれてかまわん、様々な運用方法を考えてくれ。

責任は重いがやりがいのある仕事だ」

「そうですね。ですが一三艦隊は?」

「今あの部隊はナーウィシア主体で建造した次期連合海軍主力の一九号艦、

正式名称は【高千穂級】の試験運用で手一杯でな」

「一九号艦ですか、噂は聞いてます」

「60口径41センチ砲を18門搭載し40ノット超の超高速戦艦だ」

「戦艦で40ノット? それに普通の艦の2倍の門数を持っているんですか!」

 

しかし18門というのは凄いな。早く実物を拝みたいもんだ。

 

「ああ、46センチや51センチと比べ一発あたりは弱いが60口径の砲身長と門数、装填速度の速さで攻撃力をカバーした」

「すごいですね」

「ウィルシアのあの艦たちの技術を多少流用した。出力はまだまだだがネオンアーマーも装備できた。

「準超兵器」級戦艦といった方が良いかな」

「準超兵器?」

 

俺は聞きなれない「準超兵器」と「ネオンアーマー」という単語を聞き返す。

 

「ああ、ウィルシアが使用する超絶兵器を「超兵器」、そう呼ぶ事になったんだ」

「そうなんですか。それにネオンアーマーっていうのは」

「簡単に言ってしまうと艦の周りに重力場を作り空間を歪ませ弾をはじく防御機構だ。

ネオンアーマーは試作品の名称でな、正式名称はディストーションフィールドという」

「じゃあ、DFを装備すれば無敵になるとか?」

「おいおい、ゲームじゃないんだ。そんな訳ないだろう」

 

そう言って提督は苦笑する。

 

「大質量弾は威力を弱めこそするが貫通するし、小口径の弾でも角度が悪ければ貫通する。

それと実用化できてないのでシミュレーションのみだがビームなどの光学兵装も防御できる。

どちらかというとこっちの方が主体になるんだが」

「そうなんですか、さすがにそう上手くはいかないんですね」

「ただ、DFがあるとないでは大きく差がでるぞ。

駆逐艦に載せられるDFは弾片被害や機銃弾程度は防御できる。

これらを気にせずに突撃できるのは凄いと思わないか?」

「確かにそうですね。

艦が傷ついても修理すれば済みますが、人的被害は一朝一夕には無理です」

「そういう事だ」

 

「で、「高千穂」級をいただけるんですか?」

「残念だがまだ渡せる状態じゃない」

「そうなんですか」

 

やはり無理かぁ、ちょっとがっかりだな。やっぱり戦艦は海軍の憧れだし。

 

「そんなにガッカリした顔をするな。いずれ高千穂級1〜4番艦をお前に渡す」

 

やばい、ツイ顔に出てしまったみたいだな。

 

「では実験艦隊としての任務は」

「現在乗っている汐騒級の戦備向上をしてもらうことだ」

「バージョンアップですか?」

「そうだ。まずは駆逐艦クラスの試作兵器を搭載し運用実績を取ってもらう。

ま、初任務だからな、さすがに試作戦艦の運用はまかせられん」

 

苦笑気味に提督は言う。

 

「残念ですが、了解しました」

「おいおい、戦艦ばかりが大事じゃないんだ。こういう普通の艦の性能向上が一番大事なんだぞ?」

 

真面目な顔に変わり俺を諭そうとする。

言葉が足りなかったみたいだ。

 

「すみません、小型艦をバカにしたつもりはなかったんですが」

「分かっていれば良い。詳しい事は葛城博士に聞いてくれ」

「では、葛城ラボへ向かいます」

 

「ああ、隼人」

提督は俺を「中尉」ではなく「隼人」と呼んだ。

 

「どうだ? 久しぶりに一緒に夕飯でも食わないか?」

「光栄です、閣下」

 

俺はおどけて敬礼する。

それを見て提督はにやりと笑った。

 

 

 

 

− 沖縄料理屋「海人」 −

「てっきり夕飯なんて言うから海軍料亭かと思ったよ」

「なんだ、芸者付きのそっちの方が良かったのか?(笑)」

 

今、俺とオヤジ(沖田提督)は本格的な沖縄料理を食べさせるという「小料理屋 海人」にいる。

 

「え? いや、そんな事はないんだけど」

「はっはっは、そのうち連れて行ってやる」

「いや、そんなトコ行ったら・・・お仕置きが・・・ゴニョゴニョ

 

お仕置きという単語を聞いたオヤジはびくっと一瞬動きを止める。

ん、どうしたんだろう?

いつものオヤジなら面白半分で俺を連れて行こうとするんだが。

 

「そうか、それじゃ止めた方が良いかもしれんな」

 

明後日の方を向きぼそりと呟く。

 

「ま、嫌な事は忘れて飲んだ方が良いぞ! ほら」

 

そう言ってオリオンビールを俺のグラスに注ぐ。

さすがにオヤジとは言え上役に注がれるのは気分が悪いので俺もオヤジのグラスに注ぐ。

 

「「乾杯!」」

 

グラスがカチンと硬質な音をたて良く冷えたビールを喉に流し込む。

ナーウィシアは熱帯地域なのでなおさらビールが美味く感じるんだ。

 

「ふー、これはたまらんな」

「ええ」

 

2人とも一気に飲み干しお互いのグラスに注ぐ。

 

「隼人、どうだ? 軍は」

 

オヤジはそう聞きつつウミブドウを皿に取る。

 

「どう・・・と言われても。忙しいよ、任務の他に葛城博士から出された造船の宿題とかあるし」

 

俺はテビチを皿に取って頬張る。

 

「はっはっは! その歳で宿題か、大変だな。博士もお前を相当見込んでいるみたいだな。

うん、直送なだけに新鮮だ」

「まあ、ありがたい話なんだけどさ。テビチもいけるよ」

「そうか、じゃそれをくれ。で、今は何をやっているんだ?」

「5000トン級の駆逐艦を設計しているよ。はい、ドーゾ」

「お、ありがとさん。うん、これもイケるな。5000トンか、軽巡クラスの超大型駆逐艦か」

「用途的には昔計画されていた駆逐巡洋艦って扱いが合っているかもしれないけどね。・・・モグモグ」

「あったな、多用途任務用の駆巡が。ぷはー、ビールお代わり」

「はーい、ちょっとまってくださいね!」

「でもさ、どうして没になったの? あ、俺も」

「はいはい、ビール2つ」

「あれか、やはりコストの問題だな。多用途とは言っても中途半端な仕様で設計されていたんでな。

結局それ専用の艦に勝てなかった。ソーメンチャンプルーも追加で」

「あーい」

「でもこの駆巡が上手くいけば予算に対して効果的じゃない? あ、俺はソーキを」

「はい、ビール2つお待ち! あとソーキですね!」

「ああ、ありがとう。あの当時は今ほどの技術や装備がなかったからな。

鳴かず飛ばずといった艦になってしまったんで没になった。ごきゅごきゅ」

「はい、ソーメンチャンプルーとソーキお待ちどうです」

「じゃあ今なら可能性はあるって事か。んー良いなあこのソーキ」

「あ、隼人ワシにもくれ。出来上がったら設計図を博士のとこに出して検討してもらえば良い」

「そうだね、完成しているから出してチェックしてもらうよ。あ、俺もチャンブルー食いたい」

 

というように沖縄料理に舌鼓を打ちつつ造船談義に花を咲かせる。

オヤジも造船の事になるといつも以上に楽しそうに饒舌になる。

いつの間にか飲み物がビールから泡盛に代わり、ツマミもトウフヨウをちびちびとなめるように食べる。

 

「どうだ? 彼女の一人くらい出来たのか?」

「忙しくて無理だよ」

「そうか? ワシの元にはいろいろ噂が聞こえてくるんだが・・・」

 

そう言って首を捻る。

 

「噂って?」

「双岳艦長は「港ごとに女あり」とかな。「連合海軍最強の女たらし」とかだが(笑)」

 

そう言ってにやりと笑う。

 

「・・・・・・はい?(汗)」

 

俺は一瞬で酔いが醒める。

 

誰がそんな無責任な噂を流しているんだ?

確かに上陸ごとに・・・

買い物途中で財布をなくし泣いている幼女にお金を貸してあげたり

(その子の母親が返してくれたが、幼女が俺のお嫁さんになると駄々こねた)、

襲われている少女を助けたり(お礼に付き合ってくださいとか言われた)、

道に迷った娘さんを案内したり(一緒にご飯どうですか?と誘われた)、

フラれて自殺しようと思った女性を思いとどまらせたり(私と一緒に死んでくださいと言われた・・・勘弁してくれ(汗)、

夫婦喧嘩をしていた老婆を止めたり(さすがに言いたくないな、これは(大汗)

などなど

 

なぜか女性絡みのイベントばかりあるんだが(汗)。

俺は前世で余程女性に酷い事をしたんじゃないか? と思うくらい女難の卦があるようだ。

それにしても・・・どう考えてもそんな噂に結びつかないはずだけど。

悩んでいる俺を見てオヤジが急に真面目な顔になり聞いてくる。

 

「最近、おかしな夢とか見ないか?」

「うーん・・・夢ではないけど白昼夢というか慨視感みたいなものを見る時はあるけど」

「どんな?」

「見た事ない戦艦の中にいたり、長い黒髪の女性や蒼銀の髪と金色の目をもった少女と話していたりするんだけど」

 

ここに来る前に見た夢?の事を話す。

 

「いつからだ?」

「軍務につくようになってからかな。でも段々見る回数が多くなっているけど、それがどうかしたの?」

「いや・・・お前は記憶障害を持っているんだ、もし何かあったら久遠女史に相談しろよ? 彼女は優秀だからな」

「ああ、分かったけど」

「じゃあ正式な彼女はいない訳だな? ワシにお見合い相手の心当たりがある。同僚(中将)の娘さんでな・・・」

「ちょ、ちょっと待ってよ、お見合いって。

年功序列で言えば俺の世話よりオヤジの方が先だろ?」

 

俺は慌てて牽制をかける。

 

「・・・うっ(汗)」

 

言葉に詰まるオヤジ。

 

「なんでオヤジは結婚しないんだ? 海軍中将で名誉も金もあるのに」

 

はっきり言うと・・・オヤジはモテナイどころかとてもモテル。

地位も名誉もあるのにそれを鼻にかけず、気さくで面白い。

長身痩躯でルックスも良い方だ。

俺が知っているだけでも10人にお付き合いを申し込まれている。

それも下は10代後半の美少女から上は40代の熟女まで様々なタイプに。

オヤジは相手を傷つけないようにやんわりと断っていた。

だから次の言葉も真実だと思ってしまった。

 

「ま〜あ、なんだ。ワシには心に決めた女性がな・・・いるんだよ」

ちょっと沈痛な顔をし視線を下に向けそう言う。

「え? マジでそんな女性いたんだ」

俺はオヤジの隠れた一面を見て驚く。

 

「もちろん・・・嘘だ」

 

顔を上げにやりと笑う。

 

「はぁ? もしかして・・・」

「は〜っはっはっは! そんな訳ないだろう? 好みがうるさいんだよ、ワシはな(大笑)」

「くっそー、からかって!」

 

俺はからかわれた不愉快さを泡盛に向け一気にあおる。

そんな俺をオヤジは楽しそうに見ていた。

オヤジが刹那の瞬間浮かべた寂しそうな顔を俺は見逃していた。

 

 


− あとがきという名の戯言 −

隼人:今回の戯言の相手は・・・副長か

副長:ええ、そのようですね。

読んでくださった方々ありがとうございます。


隼人:3話の海戦から一転して第4話はこの連合海軍物語世界の背景、

ナーウィシアやウィルシアの成り立ちと世界情勢、

あと俺の養父沖田提督との話だった訳だが。

副長:私としてはタイトル前にあった話が興味深いですね

隼人:そうだよ、副長! 俺、
宇宙戦艦に乗ったんだよ!

副長:良いですね〜私も宇宙戦艦に乗りたいですよ、漢の浪漫ですから。

隼人:だよな! あの艦でガンガン戦ってみたいよ。

主砲はもとより
煙突ミサイルとか艦首魚雷とかも使ってさ。

副長:お〜、まさに宇宙戦艦、漢の浪漫ですね!

ユリカ:あの〜、ナデシコにそんなモノないんですけど


隼人・副長:え? あなたはミスマル-ユリカ艦長!

ユリカ:ん〜双岳さんって廊下で艦型図見たんですよね? 煙突って有りました?

隼人:・・・そういえば無かったような。

ユリカ:艦首魚雷もそうなんですけど

隼人・副長:なんですと〜!

ユリカ:ご期待に添えなくて申し訳ないんですけど

隼人:ほ、本当に宇宙戦艦なのか、あの艦は

副長:信じられませんねえ

ユリカ:ついでに言うと対空火器もほとんどないですし

隼人:対空火器もない?

ユリカ:ええ、連射できる主砲もありません

副長:連射できる主砲もない?

ユリカ:ええ

副長:本当に戦闘艦なんですか、その艦は(汗)

ユリカ:微妙ですけど

隼人:・・・副長、俺・・・・・・決めたよ。

副長:どうしたんですか、艦長?

隼人:ナデシコを手に入れ、連射できる主砲、由緒有る煙突ミサイル艦首魚雷を装備して


真宇宙戦艦ヤ○ト-ナデシコ
を造るよ!

副長:おおっ、それしかないですよ!

○○:ちょ〜っと待ったぁ! ナデシコはお前らの好きにはさせねえよ。

隼人・副長:ナニヤツ?

瓜畑:そういう事をやるんならな、俺も一枚噛ませてくれねえか?

隼人・副長:貴方はマッドな整備班長!

瓜畑:・・・おい、マッドは余計だ。

で、煙突ミサイルと艦首魚雷だな、できるぜ。他にはあるか?

 

副長:やはり人型に変形しないと

瓜畑:ロボットは前々から考えてある。ただ人型になると
巡航追撃機みたいなデザインになりそうでなあ・・・。

隼人:いやいや、人型はマンネリだろ、艦首から巨大な刃が出てくるとか

瓜畑:そうだな・・・それにDF纏わせればチューリップなんぞ簡単に切れそうだ。

隼人:普通は航空機甲板で戦闘状態になるとくるっとひっくり返って主砲が出てくるとかは

副長:そりゃ無理がありませんか

瓜畑:いや、可能だ。このウリバタケに不可能はねえ

 

ユリカ:・・・・ぽーっ ←惚けている

 


瑞葉:アレ? 貴女はユリカさんじゃないデスか?

ユリカ:ええ、そうです。貴女は?

瑞葉:アタシは御劔瑞葉、貴女の後釜ですヨ

ユリカ:後釜?

瑞葉:ヒロインってことデス(笑)

ユリカ:え〜、瑞葉ちゃんヒロインなんだ! ユリカと一緒だね!

瑞葉:でも・・・どうしたんデス? こんな所でぽーっとして

ユリカ:えーっとね、双岳さんと副長さんがナデシコを
奪取して真宇宙戦艦ヤ○ト-ナデシコを造ると言っているの

瑞葉:あ〜の〜戦艦バカたちは人様の艦をナンだと・・・待ってて引っ張ってクるから!

ユリカ「・・・あ」

 

顔を背けにやりと笑うユリカ

 

瑞葉:ちょ〜っと艦〜長! 人様の艦を奪取するってどういう事デスか?

隼人:いや、あまりにもナデシコが宇宙戦艦らしくないから由緒ある装備を・・・

瑞葉:で?

副長:漢の浪漫を追求しようと・・・ゴニョゴニョ

瓜畑:おい、お嬢ちゃん、良いじゃねえか

瑞葉:アタシをお嬢ちゃんって呼ぶな!by 北斗

瓜畑:うごっ!

隼人:おい、バインダーの
はやめろって(大汗)

瑞葉:ふっ、新兵器ですよ。このバインダーの角には金髪の女性がくれた・・・

確か
ルナニウムとか言っていた金属が仕込んであります

瓜畑:おい、そんなモノで殴られたら死んじまうだろうが!

瑞葉:もう復活したんですか?

瓜畑:へっ、伊達に同盟のお仕置きを受けている訳じゃねえからな

瑞葉:ヘェ、じゃあ遠慮なくこの新兵器の実験ができるワケですネ

瓜畑:・・・(汗)。おい、お前らの・・・

 

隼人・副長:班長にお任せしました〜!

 

トンズラする隼人と副長。

 

瓜畑:あ、逃げんなよ、コラ!(汗)

瑞葉:さぁ・・・覚悟はイイですカ?

瓜畑:・・・お、おい、冗談だろ?(大汗)

瑞葉:さぁ〜、歯ぁ食いしばれ〜!

 

ガスっ!

 

ユリカ:じゃあ、瑞葉ちゃん、ナデシコ奪取を阻止してくれてありがとう。お邪魔しました(ぺこり)

瑞葉:いえいえ、どういたしまして(笑)

ユリカ:じゃ、またね!

 

ズルズルと引きずられていく整備班長の顔は・・・恐怖に彩られていた。

瑞葉:あ、こっちも挨拶しなくちゃ。じゃあ第4話後編の戯言でお会いしましょ!

 

瑞葉:さ、艦長と副長を捕まえなくっちゃ

 

 

代理人の感想

むー、やっぱりこれくらいの基礎知識は欲しかったかなーと。

正直、こういった状況が判ってるのと判ってないのでは話への没入度も全く違ってきますので。

 

ところで状況は「世界征服を企む悪の帝国対汎地球連合軍」なわけですな。

なんつーか、まるっきりスーパーロボット大戦の世界だ。w