− 某島地下神殿 −

そこには黒い箱が安置されていた。

天井から光が差し込み、箱が置かれた祭壇にスポットライトのように暖かな光が降り注いでいる。

その箱の表面には縄目模様が刻まれており、陽光を浴びてキラキラ光るさまは芸術品のようだ。

その箱の周りに光が浮かびあがる。

光は次々に沸き起こり箱を包んでいった。

さらに光が集まり周囲が真っ白に染まる。

そして唐突に光は失せた。

箱からは陽炎のように虹色の燐光が立ち上っている。


ヴヴヴヴヴ・・・ヴヴ・・・・。


箱は何かを伝えようとするかのように不規則に振動している。

その振動を人間の言葉で伝えるなら・・・箱はこう言っていた。

 

 

《守護セヨ・・・くろがね護人もりびとヨ》

《―― ヨリ・・・コノ世界ヲ守護セヨ》

《コノ世界ニ二ツノ摂理ハ不要いらず

《鋼の護人ヨ・・・鋼トシテ・・・おのガ使命ヲ・・・果タ・・・・・セ》

 

 

ほどなくして振動も止まり、再び神殿内に静寂が訪れた。

 

 

連合海軍物語

第12話 座礁艦


− 旗艦〈汐海〉艦橋 隼人 −

目が覚めるとそこはゴミ捨て場のような陰気な場所だった。

冷え切っているし暗いな・・・ココはどこだ?

闇に目が慣れるとそこにはゴミ以外に壊れたマネキンが、

いや人間が無造作に打ち捨てられていた。

誰もぴくりとも動かない、俺は人々から死臭を感じた。

前にもこんなことが・・・そうか、あの時俺は死にかけていたんだ。

幸せ・家族・未来を理不尽な力で全て奪われた。

そしてついには自分自身も失われようとしていた。

なんでこんな事になっちまったんだ?

 

・か・・・・

・・・ダイ

・デスカ

 

何かの雑音で気づいた。

ゆっくり目を開けると・・・ここは・・・艦橋?

俺は・・・一体どうなったんだ?

ぼんやりした頭を横に向けて周囲を確認する。

さっきの夢と違い人間は倒れていなかったが残骸の堆積場と化していた。


雑音の元を辿ると艦内通信機から艦橋の無事を問いただす声が聞こえている。


「艦橋、無事ですか! 艦長!」


応答しなきゃ・・・起きあがるべく反射的に腕を動かそうとするとその途端に左腕に激痛が走る。

 

「ぐうっ!!」

―――腕が・・・折れているのか。


脳天を突き抜けそうなその痛みでボンヤリした頭が醒め急激に思考が現実味を帯びた。


そうだ! 皆は、艦橋の皆は無事なのかッ!


「おい! 副長、瑞葉クン、みんな、生きているか! 返事をしろ!」

「・・・な、なんとか生きてますよ」


声も絶え絶えに副長が赤く染まった脇腹を押さえ瓦礫となった設備の影から出てくる。


「アタシも・・・生きてますヨぉ〜」


瑞葉クンは左片足を引きずりおでこにコブを作りながら瓦礫に半分

潰されかかった通信ブースから出てくる。


他のスタッフも起きあがり報告をしてくる。

皆大なり小なり怪我をしているようだが奇跡的に死者は出なかったようだ。


さっきのアレは現実の出来事じゃなかったのか、本当に良かった。


俺は起き上がり痛みを堪えつつ、艦内通話装置を取り上げ応答する。


「艦橋だ、重傷者多数、至急来てくれ」

「か、艦長! 無事だったんですね」

俺の無事な声を聞けたせいか通信機の相手は安心し無事を喜んでくれた。

「ああ、なんとかな」

「了解、至急救護班と一緒に向かいます!」


それはそうと艦はいったいどういう状況になっているんだ?

敵戦艦の主砲弾を何発か食らい艦が沈んでいないのは奇跡だな。

俺は艦内通信機で各部に状況報告をさせる。


「こちら艦長、各部状況知らせ」

「無事でしたか、艦長! 機関予備室です。機関室損傷、シャフトが折れました。

推進力0、艦は漂流状態です」

「了解、被害を最小限に留めるようにしてくれ」

「了解ですッ!」

「艦首第一から第三ブロックまで破損、浸水が発生しダメコン中です」

「浸水は止まりそうか?」

「漂流状態で艦首からの水圧が少ないので助かってます」

「引き続き、ダメコンを急いでくれ」

「了解!」

「主砲指揮所です、第一第二それと・・・第四も破損、使用不可能です」

「復旧はできるか」

「完全にオシャカになってます、交換以外は無理です」

「わかった。負傷者を早急に手当し戦闘力の回復を急いでくれ」

「了解!」


次々と各部からの報告を受け艦の状態を把握する。

これじゃあ艦は大破状態か、戦艦の主砲の直撃を受けているんだ、当然と言えば当然の結果か。


俺は指揮・戦闘能力が喪失した旗艦から指揮権を二番艦の〈汐風〉に移そうとする。

だがアンテナが破壊されており通信は無理だった。


外を見ると〈汐風〉を先頭に3隻の僚艦が敵艦に向け突撃していた。

あの様子ならアレスが指揮権を継いだみたいだな。


そうしている内に応急処理班と愛さんがやってきた。

「隼人君、大丈夫ッ!?」

「あ、愛さん。腕が折れているようです」

 

俺は動かない左腕を指差す。

 

「あまり無茶しないでよね。本当に心配したんだから」

「すみません、でも生きているだけ良いと思うんですよ」

「当たり前よ、もし死んだら意地でも復活させてやるんだから!」

 

愛さんは涙目になって冗談なのか本気なのか分からない発言をすろ。

俺はその台詞に苦笑する、愛さんなら本気でやりかねないし。

彼女に折れた腕を固定してもらい痛み止めを打ってもらう。

こんな時、愛さんの腕が良い事にとても感謝をしたくなる。

副長の傷は幸いな事に浅く広範囲に破片が掠っただけだそうだ。

瑞葉クンは足とおでこに湿布を貼ってもらっただけで済んだ。

治療を受けつつ艦の状態をさらに把握していく。

人的被害は戦死者・負傷者ともに多数、

機関を破壊され、発電もできず主砲の半分以上が使えない。

艦は大破漂流という状態になっている。


予備バッテリーで内部機材は動かせそうだが万が一を考えると使えない。

この海域は潮の流れが早いようでみるみる戦闘区域から流されていく。

今の状態で襲われたらひとたまりもないのでこれは幸いか。

愛さんと医療チームは手早く治療を終えると次なる戦場に向かって駆け出していった。

 

 

− 超兵器〈シュトゥルムヴィント〉CIC ヤマダ −

なんとか戦場を離脱した〈シュトゥルムヴィント〉だったがついに機関が浸水し止まった。

「こちら機関室、もう限界です」

「艦長・・・残念ですがこの艦の命運は尽きました」


ヤマダはギリギリと歯を噛み締め床を睨みつける。

自分の操艦ミスが原因なだけに悔しさで腸が煮えくり返っている。

何度か深呼吸をし気持ちを落ち着ける。


「・・・そうか。こちらの乗組員を退艦、護衛の駆逐艦に移乗後、〈シュトゥルムヴィント〉は自沈させる」

「イエッサー」

「総員退艦!」


ヤマダは艦底にあるキングストン弁を開いて退艦命令を出し、

レイナードや艦橋にいたスタッフを連れ艦載艇乗り場へ向かう。

その途中でヤマダはいきなり立ち止まった。


「すまん、レイナード。先に脱出艇に行っててくれ」

「艦長、どこに行かれるんですか! まさかこのまま艦に残るなんて言わないでしょうね?」


レイナードがこのまま死ぬつもりですか?と問い詰めるような目でヤマダを睨む。


「おいおい馬鹿な事言うな、俺は必ず生きて国に還る。大事な物を取りに行きたいだけだ」

「ですが時間が」


ちらりと腕にはめた時計を見る。


「その時は構わねえ、先に行け。俺は後から海にでも飛び込む」

「・・・わかりました」


レイナードはこの1ヶ月でヤマダが一度言い出したら絶対に曲げない事を知っているので説得を諦めた。


「では・・・なるべく早く戻ってきてください」

「わかっている、心配すんなって」

 

ヤマダはにやりと笑い脱出艇の場所とは反対に駆け出す。

レイナードはヤマダを見送ると脱出艇へ向け歩きだす。


一方ヤマダは艦長室へ直行する。

そして部屋の中からあのゲキガンガー超合金を引っつかみ脱出艇に向かう。


――――甥っ子の形見をこんなところで無くす訳にはいかねえ。

――――必ず生きて還ってコイツと一緒に墓前で帰還報告するんだ。

 

− 旗艦〈汐海〉艦橋 隼人 −

すでに漂流してから1時間がたった。未だ救援は現れず艦は潮に流されどんどん戦場から離れていた。

艦橋にいた皆が心配になり始めた時、後部射撃レーダーから報告が来た。

 

「艦橋、後部射撃レーダーです。今まで予備バッテリーで何とか生きていたんですが・・・」

「どうした?」

「その落ちる間際にレーダーに若干のノイズ反応・・・・・を確認しました」

「ノイズ?」

「ええ、直後に電源が落ち再度確認できなかったんですが」


その間にもどんどん艦は流され、すでに戦場は見えなくなっていた。

ドーンドーンという戦闘音も聞こえない。

戦闘が終ったのかもしれない。あいつら・・・無事なんだろうか?

まるで何かに引き寄せられるように流されていく〈汐海〉。


「ちょっと待ってください・・・前方に島・・・いえ礁湖を確認、あれはッ!」

「どうした、報告を続けてくれ」


一体彼は何を見つけたんだ?


「艦が座礁しています、目視による観測ですが10000トン近い重巡クラスです」

 

一緒に通信を聞いていた副長が疑問を呈する。

 

「こんなところに座礁艦というのも変ですね」

「ああ、見てみよう」


その報告を受け俺と副長、瑞葉クンは甲板に出る。

俺は艦橋を見上げ自分の運の良さに驚いた。

しかし・・・見事に艦橋が倒壊しているな、良く生きていたもんだ。


「見事なまでに倒壊してますね」

「ああ、生きているのが奇跡だよ、本当に」

「艦〜長、アレですよね?」


手をヒサシ代わりにして日光を遮り目を細め見ていた瑞葉クンが声を上げる。

俺も指さされた方向を見る。


そこには確かに軍艦と思しき艦影があった。

報告にあった通り座礁しているようでこちらに艦首を向け若干傾いていた。

この潮の流れはあの礁湖に流れこんでいたんだな。


しかし・・・今まで見た事がない艦型をしている。

軍艦として目立つはずの武装は小さな主砲が前部1門しか確認できない。

艦型は刺さりそうな鋭い艦首もそうだが前楼が異様に大きく、

前楼と一体化したマストにはレーダーと思わしきアンテナが多数設置されている。

 

俺は座礁艦を見て違和感を覚える。なんだ、あの艦は・・・。

副長と瑞葉クンが驚きの声を上げ、俺に報告してくる。

 

「艦長! このままだと礁湖に突っ込んで艦が座礁しますよ!」

「うわ、まずいデスよ〜!」

「なにィ!!」

 

俺は海流の先を見る。確かにこのままだと礁湖の入り口に突っ込んで座礁してしまう。

座礁することで沈没がなくなるのはありがたい。

だがこのままだと座礁の衝撃でさらに更に怪我人が増えそうだ。

乗組員に注意を促すべく慌てて倒壊した艦橋に走り込み艦内放送用マイクに怒鳴る。


「総員、衝撃注意! 何かに捕まれ、座礁するぞ」


ゴゴン!

と大きな衝撃が起こりガリガリと艦底をこする嫌な音がし艦が激震する。

俺たちは投げ出されないように必至に残骸に捕まり耐える。

しばらくガリガリと音がしていたがようやく艦の動きが止まる。

 

「な、なんとか止まったようですね」


副長が安堵の溜息をもらす。


「ああ、これで沈没って事はなくなり一安心だ」


瑞葉クンが驚きの表情を浮かべ座礁艦の後尾を指さしている。


「艦長、アレ! 見てください!!」


俺はその声を聞き艦尾に目を向ける。


「あれは・・・旭日旗だ!」


座礁艦の艦尾には旭日旗が掲げられ、艦尾には〈こんごう・・・・〉と書かれていた。

 

俺たち以外にも乗組員が甲板に集まりだし座礁艦を見て騒いでいる。

座礁することで沈没という危険から逃れられた為、みんな安心しているのだろう。

俺と副長はこれからの事とあの〈こんごう〉と艦尾にかかれた艦をどうするか話し合っていた。

 

「旭日旗? それに〈こんごう〉って書いてありますけど・・・ニホン海軍の艦なんデスかね?」

「確かにニホン海軍に〈こんごう〉って名前の巡洋戦艦はありましたが・・・

アレはどう見ても軽巡もしくは重巡サイズです。

それに巡洋戦艦〈こんごう〉は小笠原海戦でウィルシア戦艦〈ミシガン〉と戦って戦没しています」

 

小笠原海戦で同名の戦艦は沈没しているか。

あ、小笠原海戦は4年前に起きた海戦で、通常艦同士の戦いだった。

中立国だったハワイをウィルシアが占領し、パールハーバーを基地にしてニホンに侵攻してきた。

圧倒的な戦力でさらにグアム、硫黄島を奪取されニホンは制海権を失った。

その失われた制海権を奪還する為、ニホンとナーウィシアを主体とした

連合海軍艦隊が編成されウィルシアを迎え撃った。

それはまさに決戦と呼ぶに相応しい大海戦となった。

ウィルシアの参加艦艇数は戦闘・支援・補給部隊を合わせ120隻、戦艦だけでも16隻が参加している。

対する連合海軍側は近海という有利さもあり参加艦艇は

戦闘艦艇と支援艦のみの編成で戦艦15隻をはじめとする60隻。

その中には2091年当時、竣工したばかりのナーウィシア海軍新鋭戦艦〈筑後〉級2隻が参加。

50口径46センチ3連装4基12門を搭載し世界最強の砲撃力で敵艦を次々と撃沈、勝利に貢献。

この海戦で連合海軍は旧式だったニホンの巡洋戦艦〈こんごう〉、ナーウィシアの新鋭巡洋戦艦〈鞍馬〉、

ニホン戦艦〈むさし〉〈ひたち〉、ナーウィシア戦艦〈陸奥〉の5隻が撃沈された。

ウィルシアは旗艦ユナイテッドステーツをはじめ戦艦9隻を失い戦線を縮小、

その勢いを駆り連合海軍はグアムまでを奪還した。

 

(余談だが第8話でドレッドノート級潜水戦艦アイオワに沈められた

ニホン海軍が使用していた周防級戦艦〈むつ〉はこの戦いで、

ナーウィシア海軍の戦艦〈陸奥〉が戦没し名前が未使用になったのでニホン海軍が使用する事となった。

だが結果として再度ウィルシアに〈むつ〉が沈められた為、

“縁起が悪い”と言われしばらく艦名リストからは外される事になった。不憫である)

 

その後、ウィルシアは手を焼いた〈筑後〉級を撃沈するため、

速度・砲撃力ともにその上をいく新造現世型超兵器〈アラハバキ〉級戦艦・アラハバキを投入、

グアム沖海戦が勃発し2番艦〈越後〉は撃沈され、

旗艦〈筑後〉はアラハバキに特攻、自爆自沈しナーウィシア艦隊は壊滅した。

〈筑後〉の特攻で共に沈んだ〈アラハバキ〉はサルベージされナーウィシアの超兵器技術の元となった訳だ。

〈筑後〉級では通常型戦艦はともかく〈アラハバキ〉級に勝てないとされ、

完成していた2隻で建造が打ち切られてしまう。

その後、速度・砲撃力をより強力な物とした周防級戦艦が設計・建造されることになった。

 

「でも変だな、今は戦時だ。艦名を書くという事はないはずだが」

「そうですよね。それにしても〈汐海〉が座礁して大きな音がしたのに人が出てきませんネ、気味が悪いデスよ」

「どうします? 艦長」

「短艇を出して向こうに移ってみよう。向こうも座礁して困っているはずだからな」


座礁する前は多少動いていた艦の電源はすっかり落ちているので人力で何とか短艇を降ろす。

乗りこむのは俺と普段は艦内警備をしている陸戦隊だ。

ゆっくりと座礁艦〈こんごう〉に近づく。

流れも早いので飲まれないように慎重に移動しようやく辿り着く。

タラップは・・・降りてないか。陸戦隊員の一人がかぎ爪を付けたロープを投げて引っかけ艦に登る。

隊員がタラップを降ろし単艇から陸戦隊員と一緒に乗りこんだ。

 

 

− 超兵器〈シュトゥルムヴィント〉CIC ヤマダ −

「ヤマ「だから・・・」艦長、早くしてください!」

「おう、悪ぃ、何とか間に合ったか」

「大多数の兵は護衛艦に移りました。あとは我々だけです」

「そうか」


ヤマダとレイナードは駆逐艦に移乗し沈みつつある〈シュトゥルムヴィント〉を見上げる。


―――短い付き合いになっちまったな。

多分、俺は転移艦を沈められた事で左遷されるだろうけどよ、

必ず這い上がってお前の仇をとってやる。

ヤマダは心の中で呟く。


隣ではレイナードが黙って敬礼をしている。

ヤマダもレイナードに習い敬礼する。

〈シュトゥルムヴィント〉は魚雷を食らった部分から前のめりになりそのまま沈んでいった。

 

 

− 巡洋艦〈こんごう〉艦上 隼人 −

万が一の可能性もあるので軍刀にあつらえた小太刀・雪花(古流師匠に貰った)を

腰にぶら下げ、銃を抜いて慎重に進んでいく。

だが人の気配という物を感じない。

俺は古流を習った関係で人の気配という物に敏感だがそれでも察知できない。

前楼にあったハッチを開け中に入ると同時に物陰に身を隠す。

やはり人の気配がないな、一体どうなっているんだこの艦は?


隊を2つに分け艦橋と機関室を見に行く事にした。

短距離無線を使い連絡を取り合いつつ二隊は進んでいく。

周りを見る、艦内の表示はニホン語か。

慎重に艦橋に向け歩を進めるが特に不思議な事も起きない。

ただ壁についている人の形をした染みが不気味だ。


無線機から陸戦隊長の土方中尉から報告がくる。


「今、機関室に着きました。艦長、やはり人はいないようですね」

「そうか、でも油断はするな。注意しろよ?」

「了解です」

「1時間で調査を終了、上甲板で集合だ」

「了解」


通信を切る。

こちらも艦橋に着いたようだ。


「いくぞ」

声を潜めて後続の隊員に告げ、飛び込もうとすると隊員に止められる。


「艦長は負傷されております、まずは自分が」

「すまん」


まず隊員が飛び込み、

それに続き俺も艦橋に飛び込む!


銃を構え周りを見回すが拍子抜けするほど静かで誰もいなかった。

俺はちょっと気恥ずかしさを感じつつさらに後続を呼ぶ。


「やはり誰もいないようですね」


あたりを警戒しつつ陸戦副隊長の宗像少尉が話しかけてくる。


「みたいだな。さっきも言ったように1時間で調査を完了する」


俺は銃をしまいつつ周りを見回す。


「了解、私は部下を連れて他を見てきます」

「無茶はするなよ?」

「了解、では1時間後」

「ああ」


俺は艦橋内を歩き見ていく。


中の機材は電源が落ちており触るのは躊躇われるな、

マニュアルでもあれば使い方が分かるんだが。

さらに見ていくとプレートがあり、そこにはJMSDF・日本海上自衛隊と書かれている。

海上自衛隊? この艦の所属する組織名だろうか、変な名前だが。

でもニホン海軍にそんな組織あったかな、組織図を思い出そうとするが無理だった。


「艦長! これマニュアルじゃないでしょうか」


そう言って隊員が持ってきたのは分厚い本だった。

表紙にはA・U・G・S Systemと書かれている。


「イージスシステム?」


パラパラとめくって見るが細かい概要から書かれており短時間では理解できない、これは持ち帰ってゆっくり読んでみるか。

艦橋の外を覗くと貧相な主砲? と思わしき単装砲塔と甲板にはタイル状の物が並んでいる。

しかし10000トン近いにも関わらず貧相な武装だな、これで水上打撃戦が出来るのか?

甲板にあるあのタイル状の物も気になるし。

装甲と呼べるものもなさそうだし下手すれば駆逐艦の砲撃を食らっただけで爆沈しかねなさそうな艦だ。

マストに設置された多数のレーダー装備がある事を考えると電子管制艦か偵察艦という可能性もある。


いろいろなところを見て回り調査するだけで簡単に1時間はたってしまった。

集合時間となったので艦内から押収したマニュアル数冊を片手に俺は上甲板に移動する。



「全員揃ったか」

「はっ」


隊員が敬礼し全員が揃っている事を報告する。


「どうだった?」

「艦底に座礁の影響で若干の浸水がありましたが応急処置をしておきました。

それと機関室も医務室も人がまったくいませんでした。

それから乗組員のものらしき私物もありましたが特に変わった事はありません。

人がいないというのも変ですが・・・なんとなく我々の知っている艦とは違うような気がします。」

「ああ、俺もそれは感じた」


旭日旗もある事からニホン海軍に関係する艦だと思われるが・・・この艦は異質だ、

設計思想がナーウィシアはおろか俺の知っているニホン海軍とも違う。ウィルシアとも違うように思える。


「もしかしてウィルシアの兵器が艤装しているとか」

「どうだろうな。

外観だけなら兎も角、艦内表記どころかマニュアルまで日本語だった事を考えるとその説はあまり考えられないと思う」

俺は片手に持っているマニュアル類を軽く持ち上げる。


「では?」

「この艦は曳航していく」


幸い艦の状態は良好だ。旗艦さえ動けば自力航行もできそうだが安全をとって曳航した方が良いだろう。

この艦をニホン海軍に渡すのは葛城博士に見てもらってからでも遅くはないはずだ。


「〈汐海〉はどうされます?」

「派手に壊れたからな。できれば曳航していきたいが艦首と艦尾がああではな」


俺は36センチ砲弾を被弾し叩き潰された艦首と艦尾を見る。

艦首・艦尾は様々なゴミが混じった廃棄物運搬船にような有様になっており、

あそこまで叩き潰されてしまうと直しようがない。

このままドック入りするなら兎も角、曳航すると水圧がかかって止まっていた浸水が発生しかねない。

結局は途中で沈める事になるだろう。


〈シュトゥルムヴィント〉を排除したとはいえのんびり曳航していく時間がないのは間違いない。


「〈汐海〉は破棄する、途中まで曳航し僚艦の雷撃で海没処分するしかないだろうな」

「良いんですか、艦長ッ!」


泣きそうな顔をして隊員が聞いてくる。


「しかたない、試作兵器とシステムを搭載しているんだ、

ウィルシアの手に渡る事は絶対に防がないとな」

「・・・そうですね、仕方ありませんか」

「ああ、俺だって沈めたくはないさ!

あいつとは3年の付き合いだったんだからな」


俺はボロボロになった〈汐海〉を眺め溜息をつく。

俺の戦友、いや家族をこの手の沈めたくはない。

だが今はそんな事を言っている暇はない。




「あ、味方が救助に来てくれたようですよ!」


水平線の向こうに艦隊が見えた。



− 戦闘報告書 −

2095.05.12

ニ-325輸送作戦において海戦が発生。

参加艦艇

ウィルシア海軍転移型超兵器〈シュトゥルムヴィント〉、駆逐艦4隻。

ナーウィシア海軍第七駆逐隊、試作駆逐艦〈汐騒-改〉4隻、同軍第二護衛隊〈汐騒〉級駆逐艦(対潜型)4隻。

敵駆逐隊は輸送船団を狙い第二護衛隊と戦闘。撃沈2隻・撃破2隻、我が方の被害沈没1隻・中破1。

輸送船は1隻が中破、他に弾片被害などで乗組員に若干の人的被害。

一方、第七駆逐隊は転移型超兵器を大破・自沈に追い込むも、敵の反撃により被害甚大で“壊滅”と判定。

戦闘終了後、1隻を残し曳航に耐え切れないと判断された3隻は自沈処理とした。



特記:戦闘後、座礁していた重巡洋艦サイズの不明艦を拿捕。風雅島へ損傷艦と共に調査の為、曳航。

 


− あとがきという名の戯言 −

瑞葉:最後まで読んでいただきありがとうございます。

隼人:ようやく座礁から助け出されたし謎の艦(笑)も出てきたね。

瑞葉:そうですねえ、でもこの戦艦全盛の世界であの艦は役にたつんですかネ?

隼人:どうかなぁ、装備されているミサイルは戦艦の装甲を撃ち抜けないと思うけど。

この世界でスタンダードの周防級はバイタルパートは900ミリの複合装甲で覆われているって設定だよ。

ちなみに大和は650ミリが最大になっている。

瑞葉:うわ〜、どう考えても殴り合いは無理じゃないデスか。

隼人:ま、あの艦にはあの艦なりの使いどころと役どころがあるって事で(笑)。

瑞葉:そうデスか、どんな感じになるやら。あ、そうだ!

隼人:なに?

瑞葉:前にキャラのモデルがって話が有りましたケド・・・アタシってないんですか?

隼人:作者に聞いた方が早そうだね。

作者:ども、作者っす。ルックスだけは決まっているよ、漫画版に出てくるコンタクトにしたヒカル。

彩ちゃんはカグヤガールズのムラサメ。

未だ出てこない瑠璃ちゃんは今のトコ漫画の最後に出てきた髪を切ったメグミをもっと幼くした感じだけど・・・変わるかも。

瑞葉:うーん、ただでさえキャラ薄いんですからCGでも描いた方が良いんじゃないデスか?

作者:CGか〜、作者が現役だったのは大昔(16色時代)の頃だから厳しいな(汗)。

隼人:ま、気が向いたら描いてよ。

作者:そうだね、それで少しでもキャラが立つならそうしようか。

瑞葉:あ、時間のようデス。次回連合海軍物語第13話「作られた英雄(仮)」の後書きでお会いしまショ

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

戦闘艦の艦橋って、確か2,30mはあるんだよなぁ(笑)。

レーダーやらなんやらで艦を動かしているなら艦橋じゃなくてCICにいるはずだし、

そうなると駆逐艦とは言え砲戦をするからにはそれなりの高さが必要になるわけで。

・・・よく生きてたな(笑)。

 

ところで「イージス」のつづりは「AEGIS」じゃありませんでしたか?

それとも現実世界のイージスとは別物なのかな。