− 某島地下神殿 −


「・・・・・・馬鹿な」


広間の入口でわずかな人の呟きが響く。

その呟きは黒い箱に向かっている男には届いていない。

箱にかざされている男の両手の甲には不可思議な文様が浮かび上がり明滅している。


「こちらの予定以上の発達をしないと無理だというのか?」

―――。

「・・・分かっている。だが無作為にこの《遺跡》の技術は使えん」

―――。

「仕方ないというのか? それは本当に使わねばならないモノなのか」


男はその箱から返ってきた答えに眉をしかめる。

できれば使いたくはない技術だからだ。


「・・・先客がいたのか」

「!?」


突然冷ややかな声をかけられ男が慌てて振り返る。

広間の入り口には烏のような黒い男と銀の少女が立っていた。

ここが知られる事はないはずと思っていた男は侵入者の出現に慌て銃を抜く。


「何者だ?」

―――。


男のその問いに《遺跡》が答える。


「―――異形の黒だと・・・まさかお前が」




遺跡の代理人ゲートキーパーたる男の顔が驚愕に歪んだ。

 

 

連合海軍物語

第13話 作られた英雄


− ナーウィシア風雅島 葛城ラボ −

俺は帰国し葛城ラボに出頭していた。

曳航してきた不明艦を風雅島に搬入するという臨時の任務を与えられたのだ。


「すみません、博士。〈汐海〉だけじゃなく〈汐風〉〈汐音〉も・・・」


“司令官・艦長は艦と運命を共にすべし”という海軍の伝統に則れば、

俺は汐海と一緒に海没して死ななければならない。


「〈汐海〉や僚艦が失われた事は残念ですが・・・君が謝る必要はありません、

君は義務と任務を果たしたんです。

輸送船は多少被害があったものの、きちんとニホンに到着してます。

こちらの戦略目標は達せられてますからね。

むしろ私より双岳君の方がショックじゃないですか?」


博士は気遣うように俺の顔を見る。


「そうですね・・・3年、生死を共にした相棒、いや家族でしたから」


俺は海没処分される〈汐海〉を見て涙が止まらなかった。

2度とあの艦に乗れないのだという事がこれほど辛い事だと知らなかった。

〈汐海〉は量産型駆逐艦だ、新しく建造すれば再度同じスペックの艦には乗れるだろう。

だがその新しい〈汐海〉は3年生死をともにした“あの艦”ではないのだ。


俺の暗くなった顔を見て博士はその話題から話をそらすように仕事の話を続ける。


「艦の喪失に関して責任問題は起こらないと思いますよ。

実際、駆逐艦4隻で転移型超兵器を沈めてますからね、素晴らしい戦果です」

「俺が沈めた訳じゃないです(苦笑)。

それに俺は艦、いや駆逐隊の責任者なのに3隻も沈められ責任も取らず生きて戻ってきてしまいましたから」


実際のところ〈疾風のノイズ〉に致命傷を与えたのは俺ではなく、アレスやニュー、久保田たちなのだ。

あいつらが僚艦だった事は誇りに思うが俺は大した事はしてない。


「報告は受けたので知ってます。部下の功績は上司のものでもあるんですよ。

それと・・・“生きて戻ってきてしまいました”・・・ですか?」


普段は生真面目な博士の口調に怒りが込められる。


「何を馬鹿な事を言っているんです?

生きて帰ってくるのは軍人として当然の事です。

“司令官・艦長は艦と運命を共にすべし”という浪漫も戦記漫画の中でなら良いでしょう。

ですがこれほど馬鹿馬鹿しい事はありません、理不尽極まりない。

その伝統は君の持っている技術や経験、人間としての生を否定し馬鹿にしてます。

双岳君、もし艦を失った事を悔やむなら泥水を啜ってでも生きて還り、何度でも再起するんです。

それが貴方の為にもなり、ひいては国の為になります」

「・・・博士」


俺は博士の剣幕に驚いた。

技術者という仕事柄もっと冷静な人だと思っていたからだ。

その視線を受け博士はすっと視線をそらす。


「すみません、柄にもなく熱くなってしまいましたね」


照れくさそうにボリボリと頭を掻き笑って俺に謝る。


「いえ」

「でも本当に生還してくれて良かったです。ただでさえ人的資源が危ういんです、

ベテランの君が艦と共に沈まなくて本当に良かったですよ」

「ありがとうございます」


俺は博士の心遣いが嬉しかった。



「しかし・・・一個駆逐隊だけで良く倒せましたねえ」

「前回似たような性格の艦(蒼い突風)と戦ってますしね。

こっちは向こうより足が遅い分、小回りがきくんで旋回時は内側内側へ進路を向け、

艦尾を狙って雷撃と集中砲火で向こうの足を殺そうと」


俺はあの時の光景を思い出し状況を博士に説明する。


「なるほど超高速ゆえに操艦は難しく、駆逐艦と比べると旋回性能も悪いとこをついた訳ですか」

「ええ。ですが・・・あまりにも速度差がありすぎてなかなかうまくいきませんでした」

「それは仕方ないですよ、30ノット、時速にすれば50キロも速度差があるんです」

「今回は運が良かったと思っています。

あの時、敵艦が速度を落とし進路を変えた事が良く分からないですが」

「何かしらトラブルが起こったのかもしれませんね。

でも今回の海戦で上手く弱点を突けば通常艦艇でも転移型を撃破できる事が証明されました。

結局は超兵器といえど海に浮かぶ鉄の箱、必ず沈むという事です」



「そうだ、ラボのドックで艦の改装をお願いして良いですか?」


俺は帰還する間考えていた事を実行できないかと思い博士に提案してみる。


「構いませんが・・・何をやるんですか?」

「〈汐海〉の代わりの艦を作りたいんですよ」

「うーん、今あなたに渡せる艦がないんですよねえ」

 

その俺の台詞に博士は困ったように頭を掻き建造ドックを眺める。

俺は博士の台詞を聞き海軍大国ナーウィシアに艦艇の余裕がないのか考える。

 

ナーウィシアはニホン、中国と並び太平洋の連合海軍の主要国だが、

自国で使用する艦以外にも自力で建艦できない連合参加国用にも艦艇を建造している。

その為、建造された艦は片っ端から諸外国に売却され、その金がさらに別の艦の開発・建造に割り当てられている。

兵器売却は高い利潤を生み出しナーウィシアを潤す。

そのやり口が気に入らない、口さがない国などはナーウィシアを死の商人呼ばわりし非難している。

他の国からすれば羨ましいと思うだろうが実を言えば現状では大して儲けは出ていない。

ナーウィシアの場合、兵器基礎から研究・開発している為、莫大な研究費用に予算を取られ利潤が食われてしまう。

利潤だけを追求するなら兵器開発などせず、完成された兵器をライセンス生産しそれを売却した方が余程儲かるのだ。

ライセンス料にしても基礎開発をするよりは余程安いし。

 

「〈高千穂〉級は4隻目が竣工しましたが艤装が残っているので戦隊が組めません。

零号艦もようやく竣工したとはいえ、同じく艤装が残ってます」

「え? 零号艦が!」

 

俺はその言葉を聞き嬉しくなった。

ようやく・・・あの艦が形になりつつあるのか。

連合海軍初、超兵器級のドリル戦艦。

 

「ええ、あなたに設計に関わっていただいたあの零号艦です」

「いつ頃使えそうですか?」

「あと2年くらいはかかります」

「そんなにかかりますか」

 

だがその喜びもその言葉を聞いてガックリくる。

あと2年もあの艦が使えないのは厳しいよな。

 

「初めて超兵器級戦艦を造る訳ですからいろいろと問題がね」

「仕方ないです。でも艦のアテはありますよ」

「ほう?」

「〈疾風のノイズ〉との戦闘で大破・漂流した時に礁湖で座礁している巡洋艦を見つけたという報告は聞いていますか?」

「ええ、きてますよ。ではその艦を」

「はい、ただ調査次第では無理かもしれませんけど」

「まあ・・・旭日旗を掲げていたようですしね」

「報告書に憶測を書く訳にはいかなかったので書いてません。

この巡洋艦ですが今の用兵思想と合わない不思議な艦です」

「ほう、たとえばどんなところでしょうか?」


博士のメガネがキラリと光る。


「10000トン近い艦型なのに武装が貧弱で12.8センチ単装砲がたったの1門しかないんですよ」

「たった1基しかも単装砲ですか」

「ええ。それと噴進弾と機銃座が数基、垂直型の噴進弾多数ですか。

それとDFは当然ですが装甲が皆無です」

「装甲が皆無・・・もちろん軍艦ですよね? 巡洋艦と言ってましたし」

「ええ、どう見ても軍艦です、商用船ではありません」

「装甲がないまま戦闘ですか・・・そのまま突撃すれば簡単に自殺できそうな艦ですね、特攻艦ならぬ自殺艦なのかな?」

「自殺艦ですか?(苦笑)。でもダメコンは充実しているようです、使い捨て艦にしては兵器が多すぎませんか?」

「確かにそうですね」

「あと大型レーダーを装備しているようです。

システム自体は不明な点が多すぎて簡単には理解できそうにない物でしたが」

「ふむ、大型レーダーですか、情報収集艦や偵察艦という可能性もありますね」

「外観だけ見ても奇妙で大きな前楼や恐ろしく鋭利な艦首、後部には発着甲板がありました」

「ヘリコプターなら発着できそうですか?」

「それなら可能かもしれません」

「実物を見てみないと何とも言えませんね。聞けば聞くほど不思議な艦です。で、その肝心な艦は到着しているんですか?」

「はい、先ほど風雅島へ到着しました」

「なんだ、それなら早く言ってくださいよ。へぇ〜、実物はどんな感じかな、楽しみですね」


博士は知的好奇心が燃え上がったのか凄い楽しそうにしている。

ほっとけばスキップも踏みそうな勢いだな。


「では、地下ドックに移動します」


俺はその言葉を聞き曳航してきた不明艦をドックに入ようと博士に報告する。


「ちょっと待ってください」


博士は携帯を取り出しドックの管理責任者と話をしている。


「できれば人払いができる方が良いですね。そうですか、分かりました」


携帯の通話ボタンを押し通話を切る。


「どこでしょうか?」

「地下7番ドックへ入れてください」


7番ドックはドック群の中でも一番奥にあり機密度の高い艦や実験艦を入れるのに使われている。

これまでは零号艦が入渠していたが先日竣工し艤装段階になったので空いたようだ。


許可が降りたので牽引したまま地下ドックに座礁艦を入れる。

ようやく臨時でやっていた不明艦の輸送任務は終了した。

 

 

− ナーウィシア風雅島 兵員食堂 −

不明艦の曳航任務が終了し2週間がたっていた。

第七駆逐隊は取り合えず1ヶ月の休暇が与えられ乗組員はそれぞれの休暇を楽しんでいる。

で、俺はというと報告書のまとめをやったりとなかなか仕事が終らない状態だった。

ようやくひと段落がついたので食堂で昼飯でも食おうとしたところで

副長と瑞葉クンに会い一緒に食事をしてくつろいでいた。

俺はコーヒーを入れに席を立ちカップへ注いでいると葛城博士がやってきた。


「あれ、博士も食事ですか?」

「いえ、私はコーヒーをもらいに来ただけです。ここのコーヒーは入れ方が巧くてラボでも人気なんですよ。

あ、そんなことはどうでも良くて。双岳君ちょっと良いですか?」


博士は食堂のおばちゃんからコーヒーポットを受け取り俺と一緒に瑞葉クンと副長のいるテーブルに来た。


「構いませんが、どうされたんですか」

「いいからちょっと来てください」


どうしたんだろう、博士らしくなく妙に強引だし。


「あ、葛城博士こんにちはァ。」

「博士、ご苦労さまです」


瑞葉クンと副長はそれぞれ博士に挨拶をする。

「こんにちは」

「アレ〜、艦長どうしたんデスかぁ?」

「ごめん、ちょっと博士に呼び出されたので行ってくるよ」

「あなた達は〈汐海〉乗組員ですね、時間はありますか?」


博士は俺だけではなく2人にも来るように言う。

一体何が目的なんだろうか?


「ええ、有りますが」

「ではあなた達も来てください、面白い物が見られますよ」

「「・・・はぁ」」


俺たち3人は葛城博士の後に続きラボの会議室に入ると

スタッフがモニタと再生機のコードを繋ぎ準備をしている。

博士はモニタを指差し、


「取りあえずこれから始まる映像を見ていただけますか」

「分かりました、この映像を見れば良いんですね」

「ええ、見た後で感想をください」


映像が始まり軽快な音楽と共に制作会社の名前らしきものがクレジットされる。


「日本海上自衛隊?」

「へんな部隊名ですね、宣伝部隊なのカナ」


日本海上自衛隊って・・・あの〈こんごう〉が所属していると思われる組織の名前だ。

俺はそんなことを思い出しならがモニタを見る。

そこには異様なというか不思議な物語が映し出されていた。


1941年12月8日、日本海軍空母6隻による真珠湾奇襲

占領されてしまった東南アジアの資源地帯とマレー

零式艦上戦闘機と言われるレシプロ戦闘機の活躍

そして日本海軍は勢力を拡大、ナーウィシアのあるニューギニアまで侵攻する

1942年、ミッドウェイ海戦でアメリカ軍の攻撃を受け日本海軍空母4隻喪失

1944年10月、海軍艦艇をすり潰したフィリピン沖での大海戦

1945年〈大和〉と名付けられた中型・・戦艦の沖縄特攻

広島・長崎への原子爆弾の投下

特攻作戦拡大

1945年8月そして終戦。

サンフランシスコでの講和条約と日米安全保障条約締結

自衛隊という組織の発足


次々に竣工する護衛艦と言われる海上自衛隊の艦。

アメリカ海軍の大型空母と合同演習する自衛隊。


「これは・・・!?」

「なっ! 歴史が違っていますよ」

「エ〜っ、ナニこれ! おかしいデスよ! 博士、コレ映画じゃないんですか?」


俺たちは映像の途中にも関わらず驚きの声を上げる。

そりゃそうだろう、自分の知っている歴史とは全然違うのだ。

これは映画かなにかと思った瑞葉クンが博士に聞いた。


「映画に見えましたか?」


酷く冷静に返事をする博士。


「だって・・・ニホンがアメリカに負け全面降伏したっていうのはおかしいです、引き分けてるんデスよ。

講和したのだってサンフランシスコじゃなくてハワイですし」

「それに第二次大戦がなんで・・・1941年、我々の知っている時代より70年も前に起こっているんだ」

「ああ、おまけに大艦巨砲主義が終わり、航空母艦が主体の航空主兵になっていたりする」


そう、映像の中では戦艦がほとんど出てくることはなく、空母や航空機が活躍していた。


「戦艦が役立たずになってましたよね」

「馬鹿な! 大艦巨砲は不滅のはずだ!」


拳を握りしめ絶叫する副長。

大艦巨砲を信仰し戦艦を愛する副長にとって航空機や空母が主体など有り得ない事だろう。


「それにあの原爆という兵器」

「ええ、無差別殺戮兵器デス。核の兵器使用を禁止したシドニー条約を無視した卑劣な兵器ですヨ」


燃え尽きただの更地になったヒロシマの街

そして炭化した人間や放射能でボロボロになった人々。


「博士、この映像は・・・一体?」

「以前、双岳君には話しましたよね。

ウィルシアが使う超兵器、その一部の艦はこの世界では到底実現できない技術で作られている、

まるで別の世界から転移してきたとしか思えないと」

「ええ・・ってまさか! もしかしてこの映像は。

博士の言っていた事・・・本当に超兵器は時空間転移してきた戦闘艦って言うんですかっ!?」

「ええ、当たってしまったようですよ、私自身信じたくありませんでしたが」


実を言えば以前博士にこの事を説明された時、俺は信じていなかったのだ。

博士が与太を飛ばす人ではないのは十分知っているのだが時空間転移してきたと言われても現実味が薄かった。

それは俺に限った事ではなく、他の連合海軍将兵にとっても同じだ。

せいぜいウィルシアが極秘で開発した斬新なとか脅威的な新兵器程度としか思っていない。

転移してきた兵器と言っても鼻で笑われるのがオチだろう。


「時空間転移って・・・そんな馬鹿な!! じゃあこの映像は本物なんデスかっ!?」

「あんじゃああああ、そりゃあ!!」


博士の言葉を聞きパニック状態になる2人。

あらかじめ聞いてなければ俺も同じ状態になったろう。


「嘘っ・・・だって時空間転移って・・・。

ゲームやアニメじゃないんデスよ、信じられませんよ!」


博士は軽く頭を振り、映像を映したモニタを見る。


「残念ですが・・・私たちの前に証拠はあります。

今見てもらった映像はあなた達が曳航してきた〈こんごう〉から発見された物です。

この映像はたぶん新兵の教育用でしょう」

「これ・・・本物の映像なんですか」

「ええ、この〈こんごう〉の存在以外にも、超兵器が我々の世界にいるという現実があります」


そう言ってモニタを見る。


「それに〈こんごう〉に搭載されていた電算機の中を解析した結果、あの映像を裏付けるようなデータが続々と出てきました」

「どのようなものなんデスか?」

「今の映像を見てもらえば分かる通り向こうの世界では戦艦という艦種は死に絶え空母や航空機が全盛になっています」

「そのようですね」

「あの艦、〈こんごう〉はイージスという特に対空攻撃・防御を専門にしたシステムを積んだ艦のようです。

システム自体はまだ未完成のようで穴だらけでしたがね。

その為、直接的な対艦打撃兵装がないというか・・・あちらの世界では噴進弾、

いえミサイルが主兵装になっていて艦同士が艦載砲で殴り合うなんて場面はないんですよ」

「でも噴進弾だと主砲とそんなに変わりない飛距離デスよね?」


瑞葉クンが疑問を持ち博士に質問している。


「ところがミサイルと呼ばれる向こうの兵器は高度な自己誘導を備え、

射程が100キロ以上もあるような兵器なんです」

「エエ〜っ! 噴進弾・・・いえ“みさいる”が100キロって・・・主砲が全然届かないじゃないデスか」

「そのミサイルを航空機が搭載できたら・・・それ以上の飛距離がでるのは分かってますよね?」

「まったくお話にならなくなりますね。でもあの程度では戦艦の装甲で防げ撃沈にまでいかないのでは?」

さらに副長が疑問を呈する。こちらの戦艦は51センチ砲を防御する為の装甲が張られているのだ。


「そうですね、多分こちらの戦艦なら十分防御できあのミサイルでは撃沈できないでしょう。

戦艦にしても全部が全部バイタルパート並みの装甲で覆われている訳ではないですよね?」

「物理的に無理です」

「そうです、そうなれば当然バイタルパート以外は被害を受けます。

レーダーなどに被弾した場合、戦闘力が極端に落ちます。

いいですか、暁副長。あくまで撃沈は戦闘の結果でしかないんです」


博士は一旦言葉を切り副長を見る。


「もうひとつ。強靭な装甲がない戦艦以外の艦艇はどうします?」

「そ、それは・・・」

「艦隊は戦艦のみで構成されている訳ではありません、当然戦艦以外の艦艇にも被害が出ます。

戦艦並みの装甲がない艦艇はそれなりの被害が出るでしょう。

敵の戦闘力を喪失させる、または極端に低下させるという目的が達成でき、

なおかつ艦砲よりはるかに射程が長くこちらを完璧にアウトレンジできるミサイルの方が役にたちませんか?」

「・・・・・・確かに」


副長はうな垂れてしまう。


「そういう事です。それが向こうの世界で戦艦や水上打撃艦船が絶滅した理由ですよ」


映像の中では凄まじい勢いでミサイルを撃ち出す〈こんごう〉の姿があった。


向こうの世界ではこの艦が主役となっているのか。

俺たちの世界の戦艦と比べると貧弱ですぐに沈んでしまいそうな玩具に見える。

兵器の方向性が変わればこれほど差が出るものなのか。


「それともう一つ分かった事があります。

〈こんごう〉の存在で時空間転移をしてきた艦がいるという事は証明されました」

「ええ、まだ信じられませんが」

「すぐには納得できないですが仕方ありません、まずは現実を見ましょう。

重要な点ですが〈こんごう〉のいた世界と我々の世界では戦艦と空母、

兵器の方向性は違えど技術レベル的にはそれほど差がないんです」

「ではウィルシアの転移型超兵器は・・・

我々や〈こんごう〉の世界より遥かに技術の発達した別の世界から来ているって事ですか!?」

「ええ、その通りです」


予想された事だがやはり改めて言葉にされてしまうと衝撃的だ。


「なんてこったッ! 私たちは技術力の隔絶した未来艦と戦って勝たないといけないって事ですかッ!!」

「はぁ〜、それじゃ勝ち目がないんじゃないですか、博士」


頭を抱えこむ副長。すでに諦めたというか呆れたようにつぶやく瑞葉クン。

そりゃそうだろう、ただでさえ連合海軍にとって戦況は芳しくない。

生産能力も連合海軍全体で比較してようやく同等といったレベル。

そういった状況で遥かに技術力の高い未来艦とも言える敵を相手にするのだ。

勝てると思う方がどうかしているだろう。

そしてその超絶技術は必ずウィルシアの艦艇に反映される。


「確かにこのままだと全く勝ち目はありません」


俺は帰還した時に博士から言われた言葉を思い出す。

超兵器と言えども水に浮かぶ艦、絶対に沈まないという事はない。


「でも俺たちは転移型超兵器、〈疾風のノイズ・シュトゥルムヴィント〉を沈めました」

「あれは装甲の薄い巡洋戦艦ですよ、艦長」


その俺の台詞を聞き副長が突っ込みを入れる。


「そうですね、〈疾風のノイズ〉は転移型の中でもローテクで造られている艦だと思います。

ですが我々には〈こんごう〉の世界にはなかった重力場を操るDFという技術があります。

また転移型超兵器が搭載している相転移機関の情報をウィルシアより奪取し研究開発中です。

最終的にはその機関を用いて撃つ事のできる艦載砲、重力波動砲グラビティブラストという兵器も視野に入れています」


耳慣れない重力波動砲という単語を聞き博士にその兵器の事を聞いて見る。


「重力波動砲ですか?」

「ええ、ビームと同じように密度の濃い重力波を収束し撃つ事ができます」

「威力はどのくらいあるんデスか?」


博士の話を聞き若干先行きが明るくなったと感じたのか瑞葉クンが威力を聞いている。

俺もその重力波動砲がどのくらいの威力があるのか知りたかった。


「私の試算だと直撃で戦艦5、6隻は轟沈できます」

「はぁ・・・5、6隻ですか?」


博士がなんでもないですよみたいに軽く発言した為、一瞬その威力が分かりかねた。

でも冷静になって考えてみる。直撃で5、6隻が轟沈? ・・・ってオイオイっ!?


「って・・・・そりゃ、凄いですよ! それなら超兵器も一蹴できるんじゃないですか?」


俺たちは試算とはいえその威力に驚きの声を上げる。

その喜びようと驚きようを見て博士が苦笑しながら言う。

さっきまでの暗い絶望的な顔をしていた人間とは思えないくらい明るい顔をしているからだろう。


「まあ技術の出所が向こうですし、DFを装備しています。

試算の結果がそのままとは思えませんがそのくらいは期待できる兵器です。

それに出力が飛躍的に上がるのでDFもかなり強化できますしね」

「それなら一方的に殺られるって事はないか」


嬉しそうに副長がつぶやいている。

そりゃ軍人とはいえ一方的に殺られ虐殺されるなら戦場に出る気も起きないだろう。

何より敵に対して一矢もむくえず、犬死というのは軍人にとって一番の恥だ。

どうせ死ぬなら意義のある死に方をしたい、副長はそう思っているようだった。


「この事は沖田提督は知っておられるんですか」

「ええ、真っ先に報告してあります。提督から君に話すように許可が出ましたしね。

でも提督も最初は頭を抱えてましたよ、やっぱり」

「そりゃそうでしょうね、未来艦が敵だなんて」


親父はこの報告を聞いて一体どう思ったんだろう。

先行きが明るくない戦況と非力な戦力で、強力無比な敵艦や敵国ウィルシアと戦うのだ。

親父の性格を考えると何もせずに諦めるという事は絶対にない。

何かしら手を打ち戦局を挽回させようとするだろう。

それに親父ならそんな状況でも何とかしてしまうという思いを抱かせるのだ。

まるで小説や漫画で描かれるような“英雄”って奴みたいに。

 

 

− ウィルシア海軍サンディエゴ基地 −

ウィルシア海軍提督服を来た男はオフィスに座り仕事の合間のお茶をしていた。

最高級の豆を使ったコーヒーの香りは男の疲れを癒し仕事の能率を上げる。


「閣下、宸襟をお騒がせして申し訳ありません」

黒いコートとサングラスをした男が閣下と呼ばれた男の前にスッと現れる。


男にとりこの時間は何物にも代え難き時間、

その時間を邪魔された事に怒りを覚えたが男に直属するSPが現れた事自体、

何かしら変化があったという事を理解し気分を落ち着ける。


「構わん、お前たちが直接報告に来るくらいだ、何かあったのか?」

「ハッ! 2つご報告が。まず〈シュトゥルムヴィント〉が撃沈されました」

「そうか、元々廃棄か標的艦として終るはずだった旧式艦・・・

失われた所で大して惜しくないはない。

囮が勤まればと思って持ってきた程度だからな、沈める手間がはぶけで助かったな。

で、沈めたのはどこの艦だ?」

「ナーウィシア海軍駆逐隊です。

DFを展開できる駆逐艦との事、この戦いで向こうも壊滅したようですが」

「ふん、出来損ない現世型超兵器の技術で作られた駆逐艦か。旧式艦と出来損ない、良い勝負だな」


男はさもおかしいといった感じで嘲笑する。


「そしてこちらが本題なのですが・・・」


コートの男は言いづらそうに、だが義務を放棄する事もできず報告をする。


「実は・・・“異形の黒”が現れました」

「!!」


その報告を聞き男の手にあったカップの中身が漣を立てる。

カップをデスクに戻し両拳を顔の前で組み合わせる。


「奴め・・・生きていたのか」


そう呟いたきり男は沈黙する。

男の目は驚愕からだんだんと怒りに変わっていく。


「どうされますか、閣下」


その沈黙に耐え切れずコートは問う。


「見つけ出し必ずあの艦を沈めろ」

「・・・御意。ですが意見を言う事をお許しください」

「かまわん、言ってみろ」


尊大な口調でコートの提案を許可する。


「あの艦に勝てる超兵器は閣下の・・・」


提督服姿の男はすっと手を上げコートの言葉を遮る。


「分かっている。

本来はワシが出撃し奴を沈めるのが一番効率的だ、だが・・・」


男の手はデスクにあった端末機を操作し背後のあるドックを映し出す。

広大なドックに黒々とした影が横たわっていた。


その影はまさに鈍鉄色をした巨大な竜とも言うべき姿。

三角形を意識した流麗な艦体、側舷からは翼のような大小4枚の制動スタビライザーがあり

一見は戦艦というよりスティルス性を高めた航空機を想像させる。


流麗な姿と反して搭載された武装は凶悪極まりなかった。

長大な艦首には重力波動砲グラビティブラストと言われる強力無比な艦砲を備え、

副砲として80センチ3連装9門を備える、まさに大艦巨砲主義の申し子とも言うべき存在。

他にも対小型艦用レールガン、対空・対地攻撃用の汎用VLSや対空レーザーなど多彩な装備が施され、

この一艦で様々な任務をこなせる能力を与えられていた。


だがその巨竜蜃気楼も“黒”との戦いで疲弊していた。

今は傷を癒し再び“黒”とその“主”と戦うべく今は眠りについている。


男は次々とモニタ映像を変えていく。

カメラが俯瞰となり巨竜の隣を映し出す。

そこには突貫工事で建造される、

翼をなくした亜竜ヴォルケンクラッツァー・ツヴァイが鎮座している。

巨竜との大きな違いは側舷からはえている制動スタビライザーがない点だ。

そのせいでより航空機といったイメージが強い巨竜より戦艦らしく見える。

元となった艦とは艦首と艦尾周りのデザインも違っているが

艦橋や武装レイアウトが同じなので準同型艦といえるだろう。

その艦首には巨竜と同じ重力波動砲が装備され副砲も同じ80センチ。

休眠中の巨竜の代わりを務めるべく生まれ出でた最強の現世型超兵器・・・・・・


次に映し出されたのは様々な武装を施された12体の白い巨人エステバリス

十二神将という名を戴く鋼の鬼神たちは“黒”との再戦を待ち望んでいた。

先代の鬼神たちアルストロメリアが“黒”に破れ、新たに降臨した鬼 神機動兵器


さらに映像を変えると真っ白な研究室が写し出される。

研究室内を忙しそうに歩き回る研究者たち。

中央には2つのカプセルがあり、薄緑色をした液体が満たされていた。

その中には薄蒼色の髪をショートカットにした少女と

同じようにカプセルに浮かぶ薄桃色の髪をポニーテールにした少女が全裸で浮かんでいる。

研究者たちが何かの機材を操作すると液体が泡立ち2対の目が開かれる。

瞳はルビーを思わせる深紅、その瞳の中でナノマシンの光芒が煌いた。


そして最後の映像に現れた・・・金色の縄目模様をした黒い箱。

全てはこの黒い箱から始まった。


男が見ていた映像全てが“黒”とその“主”を殺す為に用意した武器だった。

そしていずれの武器もこの世界を統べるに相応しい力。


「艦を沈める事が叶わぬなら・・・必ず奴とプリムローズ・プロトタイプアルファを殺せ。

いいな、十二神将?」


この世界のもう一人の門番ゲートキーパーたる男の冷え切った低い声がオフィスに木霊した。




− 風雅島・沖田のオフィス −

俺は親父、いや沖田提督に呼び出されオフィスに出頭していた。


開口一番、親父は深々と俺に頭を下げる


「すまん、隼人。ワシは反対したのだが止める事が出来なかった」

「は? ど、どういう事。なんで親父、いや総司令が頭を下げるんですか?」


俺はいきなり養父、公的な場では海軍中将に頭を下げられ慌てて理由を聞く。


「実はな・・・お前の名前が軍の広報に載る事になった」

「広報ですか? 別に構わないと思いますが」


親父は俺の“なんでもないんじゃないですか?”というお気楽な返答を聞き苛立たしそうに見る。


「それはそうなんだが・・・お前は“作られた英雄”になるんだぞ。

その事がどういう事態を引き起こすか分からないか?」

「別に・・・軍の広報に少し載るだけだろ?」

「いいか、こういう事だ」


親父が語ってくれたのはロクでもない話だった。

戦況が思わしくなく士気が落ちている将兵や連合国を鼓舞するため、

宣伝を兼ねた英雄を作ろうという計画が統合本部で持ち上がっているというのだ。

その候補として駆逐艦4隻という寡兵を率いて転移型超兵器を撃沈した双岳大尉、

すなわち俺を起用する事が決められたのだそうだ。


親父はそんな事になれば養子とはいえ俺がどんな目に遭うか危惧し

統合本部へ直接乗り込んだというのだ。

だが統合本部の意思は固くその作戦を撤回する事まで出来なかった、そういう事らしい。


さらに親父が言うにはこの作戦は両刃の剣だそうだ。

確かに寡兵で強大な敵を沈めた個人の名前を出し大衆にまで公表すれば兵や国民に対して

英雄や連合海軍を身近に感じさせ共感させやすく士気も上がるだろう。


だが当然この情報は敵国の知る事になりその“英雄”を戦闘でもテロでも良い、

抹殺する事で大いに民兵の士気を下げる事ができる。


それ以外にも兵という公的な時間以外、

私人の立場であっても暗殺やテロの対象にされ心が休まる時はないという。

そういう事態が起こった場合、当人以外の民間人が巻き添えを食う可能性が高い。


その為、個人に責任を負わせるような事態を招かないように、

戦闘で大なる戦果を挙げても個人の名は公表しない。

また軍の機密の点からも普通は部隊名も公表されない。


親父は撤回できぬならとその点を危惧し俺の周囲に護衛の手配を要求したそうだ。

作ったばかりの英雄が抹殺されることを恐れた統合本部は了承したという。


俺はあまりの話に辞表を出す事も辞さなかったが

統合本部は絶対に受理しないだろうという事を提督に言われた。


結局、俺は統合本部によって“作られた英雄”という役をこなすしかなかった。

少なくとも戦争が終るか、または俺が戦死するまでは。


俺は親父がしみじみと言った言葉が酷く心に残った。


「作られた英雄は孤独だ、常に結果を出さないと味方からすら抹殺されかねない」


親父は自分がそういう立場であったかのように寂しそうに呟くのを聞いた。



− 数日後 −

沖田はこの事を最大に利用すべく統合本部に新造艦の建造を掛け合う。

最優先で最新技術を投入した隼人専用の実験艦の建造を承諾させた。

その対象となったのは技術調査の終了したあの転移艦〈こんごう〉だった。


− さらに数日後 −

連合海軍広報部は駆逐艦4隻という寡兵で

ウィルシア海軍の使用する超絶兵器を撃沈した第七駆逐隊と

その隊を指揮する双岳隼人大尉の功績を大々的に発表した。

この功績により双岳大尉は勲章が授与され少佐に昇進する事となった。



連合海軍統合本部の取ったこの方策が双岳隼人、ひいてはその周りにいる人間たちの運命を

大きく変えた事を実行した統合本部は知らなかった。




− あとがきという名の戯言 −

瑞葉:最後まで読んでくださってありがとうございます

隼人:ありがとうございます。

瑞葉:今回は以前代理人さんに指摘された部分を使ってませんか? 艦長が「転移艦」の存在を知らされたのにやけにそっけないって。

隼人:言われてみれば確かにドライすぎる反応だなと思ったのと他のキャラに「転移艦」の存在を知らさなきゃいけなかったんで幸いとばかりに使ってみたんだけど。

瑞葉:じゃあこれがその反映って奴デスか?

隼人:もともと〈こんごう〉の出現は予定された事だし。俺や他のキャラも現物を間近で見れば納得いくかなという事で。

瑞葉:それと無茶苦茶すぎる敵がいません? 重力波動砲が標準装備っていう2艦。

隼人:はははは・・・そうかもね。まあ〈蜃気楼〉はゲーム中でも別格で登場するんで良いんじゃないかな。さすがにプリムローズやエステは積んでないけど(汗)。

瑞葉:でも転移についてはナデシコでは有名な黒い箱(笑)で一応の説明つけてますけど・・・良かったんデスかねえ?

隼人:バレになっちゃうけどゲームの中では「なぜ超兵器がこの世界に転移してきたか?」に関して明確な説明がないし。

転移は蜃気楼の意思、そして蜃気楼の存在は「一切、謎」っていう卑怯というか何も考えてないんじゃないっすか? みたいな説明で終っちゃうから(汗)。

瑞葉:確かに。世界を滅ぼす意志で終ってますねえ。

そういえばキャラに関してもまっとうな設定をもった人、いませんし。

鋼鉄2だと艦長=作戦能力に長け有能で造船官など何でも出来ちゃう人、副長=大艦巨砲主義者で熱血馬鹿、通信士=艦長を尊敬しているお気楽な女性士官という程度ですか。

隼人:まあね、その程度だから好き勝手設定して動かせる余地があるんだけどさ

瑞葉:キャラを作るのが大変デスけどね(笑)

隼人:それを言わないでくれ(涙)

瑞葉:あ、それと前回思いっきり誤植して代理人さんに指摘されてますね、イージスのスペル。

隼人:ぎくっ(大汗)

瑞葉:もー、投稿前にきちんとチェックしておかないと駄目デスよ!

隼人:
ごもっともです、今回出てきているイージスは現実世界と同じ物ですので。

それと艦橋に関しては新型機関を詰め込んだせいでで艦内に余裕がなく、CIC(に近いもの)は艦橋に設置されているという設定です。

うわ〜、これも本文中で説明する設定やんけ(汗)

瑞葉:はぁ〜、物書きとしては大成しそうにないですねえ、作者は。

隼人:はははははは(涙)

瑞葉:そろそろ時間デスね。じゃあ次回・・・てタイトル決まってないようですケド。次の戯言でお会いしましょう!

 

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代理人の感想

うーん・・・・こう言ってはなんですが、副長のキャラクターが初めてつかめたというか(笑)。

今回大艦巨砲の衰退にショックを受けるシーンを見るまで、

こう言う大艦巨砲万歳な熱血馬鹿というイメージが全然わかりませんでしたので。

やはり小説ですから、ある程度デフォルメしたキャラクター性を見せておいた方がいいんじゃないかと思います。