− 金剛CIC 隼人 −

俺たちは〈こんごう〉改め〈金剛〉に搭載されている対空攻撃・迎撃システム、

イージスの修得訓練に出ていいた。


コンピュータシミュレーションと実戦さながらの実弾演習をしている。

もっともDFがあるので1発模擬ミサイルが当たったところで死ぬという事はない。

ある意味お気楽なものだ。

だが実際に模擬弾とはいえ弾が多数飛んでくるところを見れば

そんなお気楽さも吹き飛んでしまう訳だが。


元々この世界のものではないシステムの為、なかなか予定通りに修得できていなかった。



ドドドン!!




CIWSが最後の模擬ミサイルを撃墜した。


「どうだ?」

「まだまだですね、これでは敵の噴進・・・いえ、ミサイルに抜かれてしまいます」

「そうだな、5割程度の撃墜しかできないのでは実戦では使えないか」


俺は溜息をつきたくなる思いだった。

このシステムが実用化されれば小型艦は航空機の脅威からかなり逃れる事ができる。

戦艦などの大型艦は今の段階でもかなり沈みにくいが、

DFと組み合わせれば余程の事がない限り心配はいらなくなる。


「誘導装置の精度も甘いですし、一旦ラボに戻って調整した方が良いかもしれませんね」

「ああ、少し改造したい部分もあるしな。

それに葛城博士が言うにはこのシステムはブラックボックス化されている部分があるそうだ」

「何の為にブラックボックス化しているんですかね。

そんな事すれば整備が煩雑になるだけだと思うんですが」


暁副長が首を捻る。


「この金剛やイージスシステムの元になったのはウィルシア・・・

いや、向こう平成世界のアメリカ海軍艦だしな」

「万が一、ニホン海軍・・・じゃなくて自衛隊が敵に回ったら・・・ってヤツですかね」

「たぶんそんなところだろう」

「そんな怪しげなシステムを使って自国の防衛をしてますよネェ、

アタシには信じられないんだケド」


瑞葉クンも訳が分からないといった感じで首を捻っている。


「結局戦争に負けた国は何も言えないって事じゃないか。

あの歴史をみる限り独立国とはいえ、ほとんど属国みたいな状態だし」


搭載されていた電算機や艦内に残された私物などで向こうの世界を想像するしかない訳だが。


「艦長ッ! 伊那沙の港より入電!」

「どうした!」

「空飛ぶ超兵器が襲来、応援求むです!」


その報告を聞き想像してしまう。

空を飛ぶ超兵器? 今度は空中戦艦でも出てくるのか?


「はァ〜、また超兵器デスか」


瑞葉クンがやれやれといった感じでため息をついている。

確かに彼女が溜息をつきたくなるのも分かる。

ここしばらく超兵器とばかり戦っているし、たまには精神的に楽をしたいものだ。

だが、襲われている友軍がいる以上そんな事をいう訳にもいかない。


「艦長、伊那沙は我が軍の整備・補給基地があります。急いで救援に行きましょう!」

「ああ、艦隊DF解除、最大戦速! 伊那沙を救援に行く」

「了解!」

「それにしてもイージスが修得出来ていないのに空飛ぶ超兵器が相手とは」


もう少し、もう少し時間があれば完璧にこのシステムを習得出来万全の態勢で攻撃できるのに。


「ええ、間が悪過ぎです」

「きっとま〜たトンデモ兵器なんでしょうね、空を飛ぶ超兵器ですか、イージスがなくて大丈夫デスかネェ」


瑞葉クンの呟きを聞きながら

俺は間の悪さに歯噛みする思いで伊那沙の街へ進路を取った。


 

 

連合海軍物語

第16話 古都


「あさぁ、あさだよ〜っ、ご飯食べて仕事にいくよ〜っ」


ぼんやりした俺の頭の中にのんびりとした優しい声が聞こえてくる。

・・・うううっ、眠い。

・・・仕込みで遅かったんだからもうちょっと寝かせてくれよ、ユリカ。


薄く目を開けると自分の顔を覗き込むように女性の顔があった。

半分覚醒した頭では顔がボンヤリしてはっきり判別できない。

唯一分かるのは長い綺麗な黒髪が顔の周りにあるって事。


・・・でもユリカって誰だっけ。

・・・母さん、奥さん、彼女、妹、娘?

・・・そんなはずはないか、俺には・・・家族の思い出などないのだから。

 

 

− 睡蓮楼 隼人 −

「・・・ん」


俺はそんな事を思いつつ心地よいまどろみから抜け出した。


「双岳さん、目が覚めましたか?」


俺の目の前には夢と同じように黒髪をした女性が優しく微笑んでいる。



「・・・えッ?」



一瞬、ここが何処か理解できなかった。

覚醒する寸前まで見ていたあの黒髪の女性と同じ髪の色。


状況を鑑みるにどうも俺は寝てしまったらしい。

え〜っとココは・・・って。いかん、時間は!


「慌てなくても大丈夫ですよ、寝ていたのはホンの少しですから」


そう言って隣で寝ていた彼女ははおかしそうに笑い、俺の頬をぷにぷにと突付く。


「ごめん、寝ちゃったみたいだね」

「疲れているんでしょう? おまけに頑張ってましたし」

「あはははは(赤)」


ミヤコさん、恥ずかしい事を言わんでください(大汗)


ちなみに今、俺は伊那沙の港にある睡蓮楼というお店にいる。

まあ簡単に言ってしまうと慰安所と言われるところだ。


超兵器〈始祖鳥〉から爆撃を受け伊那沙にあった軍施設と街はかなりの損害を受けた。

だが人々の力はそんな事を物ともせず、だいぶ街の復旧が進んでいた。

さすがニューギニアの未開の地を開拓し国を打ち立てたナーウィシア人ならではだと思う。


ま、それは兎も角。

きちんとした彼女がいない俺はこういう場所に来て心と身体を休めている訳。

俺がこういう場所で遊んでいるのを“例の彼女たち”も知っているかもしれないが

別になにも言われない。


もっとも彼女たちにはそういう事を言う権利もないし、

良い歳をした大人が全く遊んでないのは気持ち悪いらしい(汗)。

何より何時死ぬか分からない身なので好きにさせているといった方が良いのかもしれないな。


寛大と言えば寛大だが、もし彼女たちの誰かと一緒になったら後が怖いのも確かだ(大汗)。


「どうしたんですか、双岳さん。顔が青くなってますけど?」

「・・・え? ちょっと考え事、大した事じゃないよ」


あはははは(乾いた笑い)。

お仕置きをもらってあのお花畑はみたくないからな(汗)


「ふーん、本当ですか?」

「ええ」


俺は大きく頷く。

にこやかに笑いながらも内心を探るように俺の目を見る。


「・・・嘘つきですね(笑)」


そうして俺の二の腕の内側をぎゅうと抓る。


「・・・・・・スミマセン。結婚したらどうなるのかなって」

「双岳さんの場合、その夢は望めば簡単に手に入る物じゃないかなぁ」

彼女はその言葉を聴き少し首を捻ねった後、箱から球を取り出す事のように簡単に言う。


「そうかな?」

「んー、噂だけ聞いていれば簡単に出来そうですけど?」


そう言ってミヤコさんはくすくすと笑う。


「それって・・・俺が連合海軍最強の女たらしってヤツ?」


またいつもの噂かと憮然としながら聞いてみる。


「そうそう、港ごとに女ありと噂される双岳さんだし(笑)。

でも本当にそんな人ならわざわざこんなトコに来て私みたいなのを相手にはしないでしょう?」

「そういう言い方は嫌いだな」


自嘲を含んだその言い方に俺はちょっとイラついてしまった。


「ごめんなさい」

「いや、ゴメン。こっちこそ言い過ぎた」


俺は自分が言い過ぎた事に気づき頭を下げる。

彼女がこの仕事をやっているのには彼女なりの大事な理由があるのだ。


「でも双岳さんが“タラシ”かどうかはともかく、モテるのに彼女作らないんです?」


俺はタラシという部分に引っかかるものを覚えるんだが。


「もてるって誰が?」

「モチロン、アナタよ?」

「俺?」


はて、俺はそんなにモテたっけ? 女難なら有り余るほどあるんだが(涙)


「ええ、女性たちが世話を焼きたがるでしょう?」

「確かに世話は焼きたがるけど。

彼女たちは俺で遊んでいるだけだよ、または仲の良い友達か」

「・・・重症かな(汗)」


なぜかミヤコさんは冷や汗を流して考え込んでいる。

何か考え込むようなこと言ったんだろうか、俺。


「それに素人を相手に適当に遊ぶ気にはなれないよ、そういうのは女性に失礼だしね。

軍艦に乗っている以上、いつ死ぬか分からない。

本気にしても最後まできちんと相手を幸せにするという責任が取れるかどうか・・・」

「双岳さんって・・・意外に真面目というか堅物なんですね」


マジマジと俺の顔を見て呟いている。


「意外って・・・それって褒め言葉?(苦笑)」

「もちろんです(笑)」

「でも気になる女性はいるよ、ただ現実の人なのか分からないんだ」

「気になる人ですか。現実かどうか分からないって・・・まさか幽霊とか?」


ちょっと恐そうに辺りをうかがうミヤコさん。

おばけとか全然平気そうに見えるのにそういう仕草が妙に可愛い。


「幽霊って訳じゃないんだ、夢に出てくる女性。

実物を見た事も逢った事もないけど何故か知っている女性がね。

でも俺から望んで逢えないし話せないでは場合によっては幽霊の方がマシかもしれないよ?」

「う〜ん、確かにそうかも。で、どんな女性なんです?」


彼女は瞳を輝かせ興味深そうに聞いてくる。


「一人は腰まである綺麗な黒髪の女性、

もう一人は青みがかった銀色の髪をツインテールにしている金色の瞳をした少女。

同じく金色の目で桃色の髪をした無表情な幼女なんだけど」


俺は夢の中に出てくるあの3人の特徴を思い出して説明する。


「・・・双岳さんは誰が好み? ってまさか・・・。

まあ、人の趣味はそれぞれですし♪」


俺から目をそらし冷汗をかき明後日の方を見ながら言うミヤコさん。

絶対誤解しているよな(汗)。


「おいおい、人格を疑うような想像は・・・」

「分かってますって。でも金色の瞳って珍しいですね」

「普通の人間ではああいった色はできない。

人間よりは妖精って言った方がしっくりくるような感じかな」

「妖精さんですか、なんかロマンチックですね」


ミヤコさんはそう呟き大事そうに自分の髪を指で梳く。


「それにしても・・・黒髪の女性ですかぁ、

もしかして・・・私ってその人の身代わり?」


意外な一言に焦る俺。

別にそんな気持ちで彼女のとこに来ている訳じゃ・・・ないはずだ、多分。


「酷いわッ! 双岳さん(涙)」


よよよと泣き崩れるミヤコさん。


「えッ? えッ? い、いや違うって、ミヤコさんはミヤコさんだろ! あの娘とは関係ないよ!!」

「分かってますよーだ」


といってちょっぴり舌を出して笑う。

俺はその仕草を見てからかわれている事に気づいた。

そう思った途端、余計に疲れが。

布団に突っ伏しちょっと恨みが篭った目で彼女を見る。


「・・・ミヤコさん、実は俺で遊んでない?(涙)」

「ゴメンナサイ、わかっちゃいました?(笑)」


いじけない、いじけないとでいうように俺の頭を撫で、笑いかける。

そしてその微笑を収めちらりと時計を見る彼女。


「そろそろかな?」

「ええ。双岳さん、この後どうします?」

「夕方までに艦に戻れば良いんで時間はあるけど」

「私もこれで終わりなので“楓”を迎えにいった後ですけど、一緒にご飯でもどうですか?」

「別に良いけど、楓ちゃんは元気?」

「ええ、元気すぎるくらいですよ」


そういって嬉しそうに笑った。



日下 古都(くさか みやこ)。

彼女と逢ったのは偶然の出来事が重なった結果だ。

休暇で上陸していた俺はお馴染みのように女難というか襲われている彼女を見つけた。

トチ狂った士官(後から聞いた話だと彼女が1回だけついた事のあるお客さんだとか。

いきなり結婚してくださいと言われたので断ったら態度が豹変し襲われたそうだ)

を叩きのめし憲兵に突き出して助けたのだ。


民間人への暴行は重罪だ、軍法会議で裁かれそれなりの処分は食らうだろう。

俺に意趣返しをしてくる可能性もあるが、奴らなど大した事はない。

返り討ちにして今度こそ海軍から叩き出してやるだけだ。


ミヤコさんは楓ちゃんという娘さんを幼稚園に迎えに行く途中に襲われたらしい。

いちおう心配なので幼稚園まで一緒についていった。

断ったんだが、お礼ですと強引に食事を一緒にした。


それで縁が切れたと思ったんだが・・・。


たまたま遊びに来たこの場所で彼女と再会した訳だ。

その時はさすがにビックリしてお互い凄い気まずかった訳だが(苦笑)


彼女は旦那さんと死別し、女手一つで楓ちゃんを育てている。

戦時下なので働く場所がなく仕方なくこの仕事をしているという。

彼女にとって大事なのは自分ではなく何より娘さんなのだろう。

それを知ってから時々彼女の元へ通うようになった。


最初は話しだけで帰るつもりだったんだが彼女がそれを許さなかった。

望んだ仕事ではないけどプロとしてやっている以上

それはプライドが許さないと押し切られた。

彼女の妙に義理堅いというか、そういうきちんとしたプロ意識には俺も頭が下がる思いだ。


「あ、おじちゃん!」


ミヤコさんと一緒に手をつないで歩いてきた楓ちゃんの第一声がコレだった。


「・・・楓ちゃん。おじちゃんじゃなく、“おにいちゃん”って呼んで、ね?(涙)」


涙目になって小さなレディにお願いする。

俺はまだ25! あ、先日誕生日だったんで26だッ!!

結婚もしてないし、せめて30まではおにいちゃんと呼ばれたいんだ!

俺は心の中で拳を握り締め絶叫した。


「だって楓。おにいちゃんって呼んであげてね」


俺のその心の叫びが聞こえたのかミヤコさんが楓ちゃんにお願いしてくれた。


「は〜い。おにいちゃんあそぼ〜!」

「はい、ありがとう。何して遊ぼっか?」


俺はとてとてと歩いてくる楓ちゃんと視線の高さを合わせ、軽く頭をなでた後抱き上げる。

ミヤコさんはそんな俺と楓ちゃんを見て微笑んでいた。


「どうしました?」

「さっき双岳さん、家族や家庭が持てるか不安って言ってましたよね?」

「ええ」

「充分・・・“ぱぱ”してますよ(笑)」

「え、そうかなあ」


なんか妙に照れるな、面と向かってそう言われると。

俺は照れ隠しにそっぽを向いた。

 

 

− 瑞葉&愛 −

買い物に来ていた私たちは偶然艦長を見かけてしまった。

艦長は可愛らしい幼女を抱き上げ、黒髪の女性に微笑んでいた。

思わず見惚れてしまうくらい優しい顔をしてる。


「ねえ、愛さん?」


アタシは同じように惚けている愛さんに声をかけた。


「なに?」

「艦長、良い顔してますね」

「そうね、艦の中じゃあんな顔しないものね。

笑っていてもどこか張りつめたモノを持っているし」


溜息をつきつつそう答える愛さん。


「ナンカ・・・悔しいなあ」

「私もよ」


愛さんもアタシと同じ気持ちなんだね。

あの黒髪の女性に嫉妬してる。


たぶんだけど・・・あの女性も艦長の事を。


艦長を想う気持ちだけならアタシや愛さんもあの女性に負けない自信がある。

だけど・・・艦長にあの顔をさせてあげる事のできない私たちは“女”として完全に負けてる。

好きな男性に安らぎが与えられない、それは同じ“女”としては屈辱だと思う。

彼女は私たちが持ってない“何か”を持っている。

今の私たちはそれを得る事ができないのかな。


「さ、瑞葉ちゃん。艦長に見つからない内に消えましょ」

「ハイ」


アタシは後ろ髪を引かれる思いでその場所から離れた。

 

 

− 隼人 −

「でも、どうして家族がもてないかもしれないなんて心配したんです?」

「俺、実は孤児なんですよ。戦場で大怪我をして倒れていたところを養父に助けられたんだ」

「え・・・」

「養父も手伝ってくれて俺の家族を捜したんだけど、見つからなくて彼に引き取られた。

ただ彼も軍人だったからほとんど家にいなくて、近くに住んでいた女の子とその家族の世話になっていた。

結局その子に凄い迷惑をかけちゃったし」

「そうなんですか、いろいろ大変だったんですね」

「まあ平凡とは言えない人生だけど。

おまけにその怪我が原因なのかそれ以前の記憶がね・・・思い出せないんだ」


その事については随分悩んだが、最近では「分からないものは分からない」って事で

割り切りができるようになった。

だがあの夢を見るようになってますます自分が分からなくなった。

だから出来るなら知りたいんだ、俺が何者なのか。


「じゃあ双岳さんは記憶喪失なんですか?」

「みたいだね。もしかしたら思い出せない記憶の中に家族の記憶があるのかもしれない・・・

そんなきちんとした家族や家庭を知らない俺がその幸せを手に入れたら

上手くやっていけるのか不安になったってだけなんだ」

 

 

− ミヤコ −

「そうなんですか・・・じゃあ双岳さんがそんな簡単に相手を決められない理由も分かります」


双岳さん、家族や家庭ってものにとても憧れているけど、

それと同じくらい反対の気持ちもあるみたい。

いざ自分がその立場になったら・・・と考えると恐れを抱いている。


もし戦死をしたら? 上手くいかなかったら? 自分自身だけじゃなく相手も不幸になる。

そんな思いをする・させるくらいなら一人で生きている方が良いくらいは考えているのかもしれない。


私もあの人と一緒になった時や楓が生まれた時、そういう心配をしたもの。

でも私の場合は楓の育児で手一杯だったから

その事をいつまでも思っている暇もなかったけど。


でも双岳さん、そんな事考えていたんだ。

彼は連合海軍の英雄だし、そんな立場なら女性も選り取り見取りなのに。

英雄って言うからもっと人間離れしているなんでも超人みたいな人かと思ってたんだけど、

なんか普通の人で安心しちゃった。


でも、私こんな事を考えているなんて以前の私では考えられない事。

あの仕事をやるようになってから男性の内心が何となく読めるようになってしまったし。


お店の中だとどんなに威張った参謀でも偉い将軍でも普通の兵隊でもやる事は一緒、

飾るものが何もないから動作や会話からその人の本質ってものが段々見えるようになった。


それまでの私は天然ってほどではないけど、そういう事を見ようとは思わなかった。

あの人が死ぬまで幸せだったからそんな事を気にかける必要もなかったし。


でも、あの仕事は騙し騙されが普通にある。ウブなままではとても出来ない。

私も否応なく憶えたけど今は少しだけありがたいかもしれない。


「大丈夫ですよ、充分にこなせますって。

もっとも・・・艦長職より簡単にはこなせないかもしれまんせんよ?」

 

 

− 隼人 −

「もっとも・・・艦長職より簡単にはこなせないかもしれまんせんよ?」

「そりゃ手強いよ(苦笑)」


艦長職より簡単にはこなせないか、もしそうならかなり手強いんだろうな。


「そういえば双岳さん、出撃は何時ですか?」


楓ちゃんと手をつなぎレストランへ向かっている途中、

ミヤコさんが聞いてくる。


「ゴメン、軍機で教えられないんだ」

「あ、そうですね」

「それが何か?」

「いえ、ご飯を食べた後にでも」

 

− レストラン −

俺とミヤコさんはコーヒー、楓ちゃんはおこさまランチについていたオレンジジュースを飲みながら

他愛もない話題でおしゃべりをし食後のゆったりとした時間を楽しんでいた。


「あ。これ・・・私からのプレゼントです。もらっていただけないでしょうか?」


そう言ってミヤコさんはカバンから小さな紙包みを出し俺に手渡してくれる。

俺はありがたく受け取りその小さな紙袋を見ると緋守神社と書かれていた。

確かこの街にあった神社の名前のはず、ミヤコさんは古風ながらも“お守り”をプレゼントしてくれたようだ。


「これ、お守りですか?」

「ええ、この街にある神社のものですけど」

「ありがとう。でも懐かしいなあ」


お守り・・・か。昔、同じようにお守りをもらった事があるんだ。

艦に置いてある俺の愛刀《雪花》の柄頭につけられた擦り切れてボロボロになったお守り。


「懐かしい?」

「いや、ミヤコさんと同じようにお守りをくれた女の子がいたんですよ」

「へ〜、けっこう古風な女性ですね」


ミヤコさんは自分を棚にあげてそんな発言をしている。


「もっともお約束で“安産のお守り”でしたけどね。

俺にどうしろって言うんですかね、気持ちは凄い嬉しかったんですが」


俺はその時の事を思い出す。

ニホンのナガサキシティにある兵科大学に入る為、街を出ていく時に貰ったのだ。

あんな別れ方をした為、しばらくは逢えないかもしれないと思っていた。

だけど彼女は見送りに来てくれた。


そしてぶっきらぼうに“安産のお守り”を渡してくれた赤毛の少女を思いだす。


「絶対にワタシの知らないところで死んじゃ駄目なんだからねッ!!」


あの時からいや、それ以前から散々迷惑をかけっぱなしになっているよな、彩ちゃんには。


「ふふふふ。確かにお約束かもね、でも私のは大丈夫。

それとも・・・そういう方がいるんでしたら“恋愛成就”の方が良かったかな(笑)」

「いや、俺はこっちの方が良いですよ(汗)」

「そう?」


いかにも残念という表情をする彼女。

俺は手元の袋からお守りを出し、どんな願がかけられているのか見る。


「“武運長久”ですか。ありがとう、ミヤコさん」

「どういたしまして」


俺は腕時計を見て時間を確認する。まだ艦に戻るまでに時間はあるか。


「じゃあ俺からもお返しをさせてください。ミヤコさん、ちょっと良いですか」

「別に構わないけど?」


ミヤコさんと楓ちゃんを連れ広場のベンチにまでやってきた。


「ここでちょっと待っててください」

「ええ」



− ミヤコ −

私と楓をベンチに座らせ双岳さんは急いで駆けていった。

お返しって言っていたけど何をやろうとしているんだろ?

しばらく待っていると双岳さんが息を切らせて戻ってきた。

その手には小さな紙袋を2つ下げられていた。


「すいません、お待たせしました」

「そんなに息を切らせてまで走らなくても」

「お待たせするのは申し訳ないじゃないですか。

じゃあミヤコさん、改めて俺から」


そう言って1つ目の小さな紙袋を私に、もう1個は楓に渡してくれた。



− 隼人 −


レストランの近くにあったアクセサリーショップに行ってきた。


プレゼントなどロクにした事がないので2人に何をあげれば良いのかかなり悩んだが

さすがに愛さんや瑞葉クンに聞く訳にもいかないしな。

そんな事をすればお仕置きを受け、あのお花畑を見る事は確実だ。

俺はMでもないし自殺志願者じゃないからな(汗)


悩んだ結果・・・結局シルバーのペンダントにした。

これなら気を使わせるほど高くもないし負担にならないだろう。


「開けても良いですか?」

「どうぞ」


ミヤコさんが俺に断り箱を開ける。

中には蒼い石を使ったシルバーのペンダントが入っている。


「あ〜、まま、ずる〜い〜、かえでもほしいのぉ!」


そのプレゼントを見て楓ちゃんが駄々をこねはじめる。

そのことも想定済みで楓ちゃんの分も買ってあるんだけど。


もし男の子だったら流行のゲキガンガーの超合金と言いたいが

楓ちゃん、女の子なのでミヤコさんのペンダントに使われている蒼い石と同じ物を散りばめた髪止めだ。


「はい、楓ちゃんはこれね」

「はぇ〜、きれ〜」

「じゃ、ままが付けてあげるね」


ぱちんぱちんと良い音がして綺麗に髪がまとめられていく。


「ほら、楓、可愛くなったわよ〜」


そう言ってバッグから鏡を出して見せる彼女。

嬉しそうに鏡を見ていた楓ちゃんだったが・・・。


「でも・・・まま。これみえぇないよぅ」

「え? あははは、そうね」

「みえるのがいい〜!」


じたばたと暴れる楓ちゃん。

しまった、プレゼントの選択をミスったか。

もっとお子様向け、しかも女の子向けのプレゼント・・・うーん、うーん。

お人形の方が、いやいや・・・ままごとセットの方が。

真面目に何をあげたら良かったのか迷う。


「困ったわねぇ・・・あッ!」


自分のペンダントを見て俺を見る。

その動作で彼女の言いたいことが分かった。


「別に構いませんよ(笑)」

「しょうがないわね、ままのを貸してあげるね」


そういって自分のかけていたペンダントを楓ちゃんの首にかけてあげる。

楓ちゃんにはちょっと大きすぎるけど。


「わ〜い! みぇる〜きえいだね〜」

「しょうがないわねえ(苦笑)」


機嫌がコロっとなおった楓ちゃんを見て苦笑するミヤコさん。


「ま、良いじゃないですか。楓ちゃんも喜んでいるし」

「それもそうね」


なんて平和な時間なんだろう。

近くの基地から発進した輸送機が俺たちの上をゆっくりと飛んでいった。


「きゃああああぅ!!」

「楓っ?」

「えッ?」


急に頭を抱えうずくまって泣き出した。

どうしたんだ、一体?


「ひこうき、でっかいひこーき、こわいのぉ!」

「でっかいひこーき?」

「大丈夫よ、楓。あれは大丈夫だから・・・ね」


楓ちゃんを抱きしめ背中をぽんぽんと叩いて落ち着かせている。

しばらくしてようやく楓ちゃんのパニックは収まり泣き疲れたのか寝てしまった。

ミヤコさんは楓ちゃんを起こさないように背負い立ち上がった。


「ミヤコさん、“でっかいひこーき”って」

「ええ、半年前、大きな飛行機が飛んできてこの街に爆弾を落としていきました」

「その事は知っています」

「その時、私の家とあの人は焼けて無くなりました。

そのせいで楓は大きな飛行機を凄く怖がるんです」


ミヤコさん、旦那さんを亡くしたって言っていたけど、まさかあの始祖鳥アルケオプテリクス空襲業火で亡くなっていたのか。

俺は内心で絶句するしかなかった。

万全の態勢を整える事ができないまま戦いに臨み、なんとか街を壊滅から救えはした。

だが始祖鳥をとり逃し撃墜する事ができなかった。

いずれあの化け物始祖鳥は他の街を襲うだろう、そうなったらまたミヤコさんと同じ立場の人間を作ってしまう。


連合海軍の英雄か・・・そんな偉そうな立場を持ちながら俺は知り合いの家族すら守れていない。

この時ほど“英雄”なんて言葉がうとましく思った事はなかった。

そして今の俺が彼女に出来る事は頭を下げる事だけだ。


「・・・すみません」

「え? なんで双岳さんが謝るんですか?」

「すみません、あなた方を守れませんでした」

「じゃあ、あの大きな飛行機が飛んできた時、いたんですか?」

「ええ、いました」

「軍艦が4隻駆けつけてきてその飛行機を追い払い街の人々の救援活動をしたのって」

「それ・・・俺の艦です」


「・・・そうですか」

 

 

− 隼人 −

痛いほどの沈黙とはこういう事なんだろうな。

俺は彼女の内心を思うとこれ以上声をかける事ができなかった。

俯いていた彼女がゆっくりと顔をあげ・・・


「どうして・・・どうしてもっと早く来てくれなかったんですか?

そうすればあの人は死なずに済んだかもしれないのに・・・」


その言葉を聴き、俺の身体はその場で硬直した。

口内が乾き何かをしゃべろうとしても舌が張り付いて声が出ない。

俺は彼女の顔をじっと見つめるしかなかった。

 

− ミヤコ −

あの人が死んだのは双岳さんのせいじゃない、

双岳さんを責めたところで死んだ人間は戻ってこない。

家が焼けて無一文になってあの仕事をはじめたのも。

それは分かっている、分かっているけど。


悪いのはみんな戦争のせい・・・でも双岳さんがあの場に居た事を知ってしまった。

今は双岳さんの顔がまともに見れない。

このまま口を開けばもっと彼を罵ってしまいそうで。


「ごめんなさい、今日は帰ります」


私は必至にそれだけを口にして双岳さんから背を向けて。

早く、早くここから去りたい。じゃないと・・・。

 

− 隼人 −

「あ、ミヤコさん!」


俺は楓ちゃんを抱いて去っていくミヤコさんを見送る事しかできなかった。

そう・・・あの時、彩ちゃんが出て行った時のように。

 


− あとがきという名の戯言 −

瑞葉:最後まで読んでいただきありがとうございます。

隼人:今回登場した古都さんだけど、最初はインターミッションに出てきたホウメイガールズの春海ちゃんを使おうと思っていたんだ。

瑞葉:へえ、そうなんデスか、なんで春海ちゃんじゃないんデス?

隼人:仕事が仕事だしファンのいる原作キャラを使うのはまずいかなと思って急遽オリキャラの古都さんを作ったんだ。

それにホウメイガールズには大事な役割を割り当てているんでここで使う訳にはいかないって理由もある。

瑞葉:確かにマズイかもしれませんねえ。それにしても大事な理由デスか。

隼人:ま、大事な理由はおいおいって事で。田舎臭くて純朴、そういった感じのキャラにしたかったんだけど

前編を書き終わってみると人をからかうのが趣味な舞歌系キャラになっているし(汗)

瑞葉:ありがちですねえ(笑)

隼人:ま、古都さんについては後編が終わってから書くとして。代理人氏が書いていたイージスがこの世界で役にたつのかだけど。

瑞葉:役にたつんですか?

隼人:対戦艦戦に対してはまったく(苦笑)。弾を撃ち落として対空防御の一環としては使えるんだろうけど。

瑞葉:じゃあ、意味ないんじゃないですか?

隼人:書ききれるかどうか分からないけど。

まず、大艦巨砲主義でおざなりになっていた対空戦と護衛戦レベルの底上げ。

平成世界で莫大な予算と半世紀の月日をかけて進歩した護衛戦のノウハウや防空システムを

1隻の転移艦で導入できたのはこの世界としては大きな成果だと思うよ。

イージスを積む事で航空機から受ける損害を減らし、戦艦はより色々な作戦を行え、より沈まなくなる。

それと艦隊を構成しているのは戦艦だけじゃないって事。

確かに航空機では恐竜的進化をしたこの世界の超巨大戦艦を沈めるのは難しいけど被害は受けるから。

それ以下の艦たちは装甲が戦艦ほどないしDF強度はそれほどでもない。

立てて続けに対艦ミサイルを食らうとあっという間にDFが飽和して直接の打撃になる。

イージスは戦艦よりも小型艦の方に大きなメリットがあるけど。

DFがもっとも効果的に使えるのは光学兵器に対してだから。

瑞葉:そうなんですか、戦艦はほとんど無敵状態になりません、ソレ?

隼人:まあね、あくまで大艦巨砲の世界だからまずは戦艦優先って事で。

瑞葉:それとあの航空機型の超兵器の存在デスか?

隼人:そう、始祖鳥や円盤型爆撃機ヴリルオーディンがいるんで

とりあえず自艦が防御できればいいやっていう今までの対空システムでは撃墜までできない。そこでイージスの登場って訳だ。

瑞葉:じゃあ後編はイージスVS航空機型超兵器って訳デスか。

隼人:そうなんだけどね〜、上手く書ききれるかちょっと心配だけどね。

瑞葉:ですね。あ、時間のようデス。次回連合海軍物語17話「始祖鳥の業火」です。

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

あー・・・・さすがにちょっとありがちすぎるかなぁ(苦笑)。

ありがちというか、ワンパターンというか。

ギャグやいわゆる王道ならばワンパターンもいいもんですが、

こういう泣かせるシーンなどのワンパターンはちと。

慰安所でどうこうって状況設定自体は良かったんですけどね。