───街が燃えていた。

突然大きな飛行機が飛んできて海軍の施設がある場所に向け爆弾や細長い棒みたいな物で攻撃している。

一瞬の呆然の後、私は走り出す。

あそこには・・・あの人が働いている、早く無事を確認しなきゃ!

鞄から携帯を取り出しかけてみるが回線が混雑して連絡がつかない。

この街の人間はあの施設で働いている人が多い、皆同じ思いをしているのだろう。


大きな飛行機はあらかた軍港を燃やし尽くすと今度は街に向け攻撃してきた。

弾が飛んできていたる処で爆発が起きる。

私は泣き叫んでいる楓を抱きかかえ、あの人がいる軍港に向けひたすら逃げる。


───ねぇ、コレって夢じゃないの?


私は今の現実を認めたくなかった。生まれ育った街が灰燼と化していく。

学校の途中で買い食いしたパン屋も通った中学校も小さい頃遊んだ公園も燃えていた。


───きっと夢なんだろうな、早く目が覚めて欲しい


そんな事を考えていた罰が当たったのか何かに足を取られ転げる。

咄嗟に楓を抱きかかえる腕を上げる。

娘は無事だったが片手を思いっきり地面で擦ってしまった。

手の平を見ると石や破片で傷ついたのか血が流れ出しずきずきと痛む。

夢って痛みを感じる事ができるのかな?

私は足を取られた物を見る───元は人間だった物。


───やっぱり夢じゃないんだ。


私は泣きたくなる衝動と嘔吐感を必死におさえしっかり楓を抱きかかえてよろよろと立ち上がる。

そしてあの人のいる軍港へ向け走り始める。


彼女が必至に走っているその上空、

始祖鳥から放たれる業火で伊那沙の街は焼き尽くされようとしていた。


 

 

連合海軍物語

第17話 始祖鳥の業火


俺は〈金剛〉の第一砲塔の上で横になり物思いにふけっていた。

艦長らしくない行動だが仕方ない。

兵達は気をきかせてか声をかけてくる者はいない。

そんな俺の物思いを中断させる人間が現れた。


「隼人くん、何しているの?」

「あ、愛さん」


そう声をかけて砲塔に登ってくる愛さん。


「スカートでこんなところ登ってきたら丸見えですよ?」

「大丈夫、下にいた兵は全て眠らせたわ」


眠らせたって・・・一体なにをしたんです? 貴女は(汗)


「で、どうしたの? ぼーっとして」

「ねえ、愛さん」


俺は真っ青な空を見たまま愛さんに問いかける。

目の前の青空を背景にあの時のミヤコさんの涙を浮かべた顔が、言葉が何度もリフレインする。


――― なんでもっと早くきてくれなかったんですか?

――― そうすればあの人は生きていたかもしれないのに。


「何?」

「戦争で全ての人間を救う方法ってないんでしょうか」


そんなことは愛さんに聞かなくても分かっている。

在り得ないんだ、絶対に。


「そうねえ・・・幾ら君に艦長や司令官としての才能があっても、

仮に乗っているのが超兵器だったとしても全ての人間を救えない。

分かっているんでしょう? で、なんでそんな事を言うの」


愛さんは心配そうに俺の顔を覗き込む。


「仲良くなった市民に「なんでもっと早く来てくれなかったの?

そうすればあの人は生きていたかもしれない」って。 」

 

 

− 半年前 伊那沙の街−

「接舷急げ、すぐに救助活動に入るぞ!!」


俺たちが到着した時、伊那沙の街は〈始祖鳥〉の爆撃と艦砲射撃を受け大混乱状態だった。

遠距離から発射したスタンダードミサイルはイージスに導かれ超兵器を攻撃、

幸い〈始祖鳥〉はDFは積んでいなかったようで、ダメージを与え追い払う事に成功はした。

だが練度不足と今までの航空機以上に分厚い装甲により撃墜まで追い込めなかった。


俺は次席指揮官アレスの指揮する先代汐騒級駆逐艦から名前を引き継いだ駆巡〈汐風〉を警戒に残し、

破壊から免れた埠頭に艦隊を寄せ救出活動にとりかかる。


「副長! 民間人の負傷者は多数にのぼるだろう。

おそらく艦の内部だけじゃ足りない、艦の外に野戦病院の設置を。急げ!」

「了解ッ!

あ、艦長、救援物資ですが多分軍の物だけでは足りないと思います。

私に知り合いがいますのでそこからも調達しましょう!」

「そんな事できるのか?」


俺は暁副長の意外な提案に驚く。


「まかせてください。こうなった原因のひとつに我々の未熟があるんです」


暁副長は携帯を取り出しどこかへ連絡を取り始める。


「あ、エリナか? 私だ、伊那沙の街へ医療品を中心とした救援物資を送ってくれないか?

ああ、爆撃を受け被害が甚大なんだ、大至急頼む。補給ルートは君に任せるから。

瑠璃が? そうか・・・あの子も子供じゃないんだ、何か考えがあるんだろう。

じゃあ頼むよ」


そう言い電話を切る。


「手配をつけ次第こちらに送るそうです。では私は外の指揮を執ります!」


そう言って暁副長は外に駆け出していった。


「個人で物資を送るって・・・副長って一体、何者なんデスかねえ?」


その様子を見ていた瑞葉クンが不思議そうな顔で暁副長の出て行った扉を見ている。


「そんな詮索はあとにするぞ。

瑞葉クン、司令部に救援要請だ! 街の被害甚大、至急救助部隊を」


「あ・・・了解デスっ!」


俺の命令を聞き即座に返事をし連絡を取り始める。


「最低限の人員を残し手漉き要員、民間人の救助に当たるぞ。

レーダー手、警戒を怠るな。もし何かあったらすぐ連絡をくれ」


立て続けに命令を出し艦外での指揮を執る為、レーダー手に声をかける。


「まかせてください! 今度こそあの化け物を撃ち落としてやりますよ!」


外の様子を見て興奮したのか彼の顔は朱に染まり多少興奮気味になっている。


「ああ、頼んだぞ」


俺は彼の肩を叩き救助活動をするため艦の外に出て唖然とする。

至るところで火災が起き、建物が崩れかかり人が救いを求めている。


「まずいな、あのままだと助け出す前に焼死する。

〈金剛〉の消化ホースで届くところはあるか?」

「あの辺りまで何とか」

「じゃあ急いで頼む」

「了解!」


数人の乗組員が艦に設置されている消化ホースを引っ張り出し、

消化機材が届く範囲で汲み上げた海水をかけ火災消化を始める。


すでに野戦病院の体をなしている艦外のテントをベースに指揮を執りつつ、

ドック群や街の損害状態を把握していく。



───軍のドックや補給所は壊滅、街も半分が焼けているか。



「おいッ! なんでもっと早く来ねぇんだ、テメエ!!」


背後から怒鳴り声がかかりいきなり男が殴りかかってくる。

俺は男の拳を軽くスウェーしかわす。

瞬時に彩ちゃんと後藤氏がその男を取り押えるが俺は彼の顔を見て首を振り解放させる。

その男は泣いていたのだ。


「てめえらがもっと早く来れば娘は・・・畜生、畜生っ!!」


男はへなへなと座りこみ拳を何度も地面に叩きつけている。


「申し訳ない、我々の力が足りないばかりに・・・」


俺は深々と頭を下げその言葉を発するだけで精一杯だった。

それ以上の言葉を発しても彼の娘を救えなかった事には変わりないからだ。

そのテントにいた〈金剛〉乗組員たちは気まずそうに顔をうつむけ怪我人を治療する事に専念していた。

この男にどんな言葉をかければ良いのか俺には分からなかった。

多分どんな言葉を発しても今の彼には届かないんじゃないかって。


「艦長! 新たな怪我人が来るそうです」

「分かった、急いでテントを増設して治療を開始してくれ」

「了解!!」

「ぼさっとするな! 急ぐぞ」

「了解!!」


その報告を聞きこれ幸いとばかりにがむしゃらに任務を遂行することで彼のことを忘れようとした。

俺は逃げ出したんだ、彼の存在から。

その様子を見ていた他の市民はこのままでは座りこみ男泣きをしていた彼が治療の邪魔になると思ったのか、

慰めの言葉をかけ、肩を抱いてテントから去っていった。


だけどその逃げ出したツケを・・・罰なのだろうか、俺はミヤコさんの口から聞く事になった。

 

 

− 金剛 第一主砲塔上 隼人 −

「そう・・・良く知っている人に言われるのはとても辛いわね」

「はい、俺としてはベストを尽くしているんですが」

「貴方が手を抜いているとは思ってないわ。

本当は仕方ないでは済まないけど、私たちの立場ではそう思うしかない。

私たちは犠牲者の方たちに対して誠意を込めて頭を下げる、これしかできないと思うの」

「やっぱりそれしかないんでしょうね」


愛さんに聞かずとも分かっているのだ。

俺は再度溜息をつき空を見る。


「隼人君、貴方はなんで軍に入ったの?」

「俺ですか? 俺は身近な人たちの幸せが守れる力が欲しかったから一番手っ取り早そうな軍に入りました」

「へえ、何か意外ね。私はてっきり“世界平和”とか言うのかと思っていたけど?」


愛さんは意外といった感じで俺を見る。

その目はどこかで見た事があると思ったら初めて会った時の瑞葉クンの顔だった。


「同じ事を瑞葉クンからも言われた事がありますよ」


俺は苦笑しながら愛さんに答える。そんなに俺って正義感が強いように見えるのかな。


「でもそんな殊勝な気持ちで入ったんじゃありません、

その《力》となるなら地位・金・力なんでも欲しかった。

あの時の俺はこの方法しかないと思ってました・・・・・・ガキだったんですね」

「そうなんだ」

「最近思うんです、俺が軍に入ったのは間違いじゃないかって」

「後悔してるの?」


彼女が寝転がっている俺の顔を覗き込む。


「入隊した事は後悔はしていません。でも俺が欲しかった《力》とは・・・」


言葉を紡ぐうちに自暴自棄になりかける俺の心。


愛さんの細い指が俺の口に当てられ言葉をさえぎる。


「戦争は理不尽な力でみんなから大切な“日常”を奪っていく。

平時は退屈で退屈で仕方がない平和な“日常”。


私は平和な“日常”が嫌でこの艦に乗ったわ。でも・・・ようやく分かった。

人はなかなか手近にある幸せに気づかないんだって。

足元にある大事な“日常”に気づかず目の前にある煌びやかなモノに目を奪われる。

失くして初めてその大事さが分かる、何より大切な“日常”。

だからその退屈でも愛すべき“日常”を理不尽に奪っていく戦争はおこしちゃいけないし、

戦争を起こさない努力を怠ってはいけない。

大変なことよね、大事だっていう気持ちを認識できないままそういう努力をしなくちゃいけないのは。


でもね、私たちはその大事さを知ってしまったし知っている。

なら退屈でもとても大事な“日常”を知っている私たちが“みんなの日常”を守るため戦う。


世界平和も良いけど・・・そんな小さな事を守るためで良いと思うわ。

だから貴方の言っていた身近な人の平和を守る《力》が欲しいという気持ちは尊い。

貴方の選択は・・・私は間違っていないと思う。

だから・・・一緒に頑張ろうね、隼人君」


そう言って潮風で巻き上げられた金髪を軽く押さえ愛さんは俺に微笑んだ。


「ありがとう、愛さん」


俺は相談にのってくれた愛さんに礼を言う。

愛さんの言葉を俺自身完全に納得できた訳じゃない。

でも今は愛さんの言葉を受け取ろう。


「別にお礼を言われる事じゃないわ。

私は沖田提督から依頼されてこの艦の医師をやっているし、貴方のメンタルアドバイザーでもあるんだから」

 

 

− 金剛 第一主砲塔上 愛 −

―――気がついてないんだろうな、彼は。

私は優しく笑っている彼の顔を見てそう思う。


でも私はそれはそれで良いと思っている。彼が私を選んでくれるなら私は喜んでついていくだろう。

今の彼には恋愛事にかまける余裕はないし、

連合海軍の英雄という立場からその事以前に果たすべき大きな義務と責任がある。



―――ちょっと頼りなくて優しすぎる英雄さん。



何より戦争という現実に直面して彼自身が大きく成長しようとしている。

そのきっかけや機会を私の我侭で潰したくはない。


でも・・・若い頃のように後先考えずガムシャラに彼の元へ飛び込んでいけたら・・・。

良い意味でなのか悪い意味で“大人”になったのか私には分からない。

何よりそういう風に考えていることが歳をとったという事なのだろうか。



―――これって息子を暖かく見守る母親?



そう思った私は自分で自分に向け苦笑してしまう。



―――私はまだそんな事を考える歳じゃないわよ。



内心で苦笑を納め再度彼の顔を見る。



―――彼が自分で望んだ《力》。



その《力》が彼をどう変えていくのかまだ分からない。




私は私にできる事をしてゆっくり彼を見守っていけば良い、

流れる水の如くゆっくりゆったりと。

 

 

− 金剛CIC 隼人 −

第七戦隊は護衛作戦の指令を受けニホン海軍の拠点の1つ、トラック諸島に行った帰り道だった。

俺は愛さんに励まされたあの日から任務を果たしつつ日々を送っていた。

その俺に向けレーダー手から報告がくる。


「艦長ッ、民間漁船からの通信を確認! 馬鹿でかい飛行機が海上スレスレ飛んでいるそうです」

「馬鹿でかい飛行機だと?」


馬鹿でかい飛行機?

俺は瞬時に当てはまりそうな機種を思い出す。

連合空軍が使用している大型戦略爆撃機〈富嶽〉、同じくスティルス戦略爆撃機〈飛鳥〉、それとヤツしかいない。

〈富嶽〉や〈飛鳥〉はそこまでの低空侵攻能力は持っていない、だとするとやはり〈始祖鳥〉か?!


「漁船がSOSを発信!! ・・・くッ・・・通信途絶えました、撃沈されたようです」


通報してくれた漁船は撃沈されてしまったのか・・・くそッ。

その報告を聞いたレーダー手からも報告があがってくる。


「ちょっと待ってください・・・これは・・・大型ノイズを確認、ヤツです! 始祖鳥がッ!!」

「なにッ!! どこに向かっている?」

「この進路は・・・伊那沙ですッ!!」

「バカな・・・伊那沙の軍施設はほとんど復旧していない、戦略・戦術的に意味のない街だぞ?」

「ですが進路はこのまま行けば伊那沙の直上を通過します」


俺はなぜ〈始祖鳥〉があの街にこだわるのか分からなかった。


「あの化け物、徹底的に伊那沙を焼き払うつもりなのか」


その報告を聞き暁副長が最悪の結末を言う。

軍の資材や民間企業から援助された物を使いようやく復興しかけた街に降り注ぐ

爆弾やミサイル、その中を逃げ惑う市民・・・その結末を想像する。


断じてそんな事はさせないッ!!

今度こそあの街を、俺に殴りかかってきたあの男を含めた市民を、

そして俺はミヤコさんや楓ちゃんを必ず守ってみせる!!


「オペレータ、〈始祖鳥〉の進路データを空軍に回して迎撃態勢を整えるように要請。

向こうも知っているかもしれないが念の為だ」

「了解っ!!」


次に瑞葉クンを見て命令する。


「瑞葉クン、伊那沙防衛隊の桜井大佐に空襲警報を出すように」

「了解っ!!」



「艦隊最大戦速!! レーダー、スタンダードでいけるか?」

「残念ですが・・・まだ距離があります。〈始祖鳥〉は現在230ノット(703キロ/時)で

伊那沙の街へ侵攻、本艦から200キロ、街からの距離230キロです」


その数値を聞き疑問に思う。

〈金剛〉の主レーダーたるSPY-1の最大探知能力は条件にもよるが対空なら300〜400キロに及ぶのだ。

スタンダードSM-2改良ミサイル“天雷”の飛距離は最大166キロ。


「なぜそこまで近づかれるまで気づかなかった?」

「恐らくですが民間の通信にあった海上スレスレを飛んでいる・・・

〈始祖鳥〉は超低空飛行で侵攻してきたためレーダーにかからなかったのでは?」


俺の質問を受けたオペレータが通信の内容から〈始祖鳥〉の行動を想像し報告する。


「前回、こちらのミサイルを食らって痛い目を見てますからね、

それを考えると高空からの侵攻はしないでしょう」


さらに補足するように暁副長が言う。


「くそッ、イージスシステムもこういう場合はあまり役にたたないか」

「仕方ありませんよ、今は全力で〈始祖鳥〉の侵攻を阻止しないと」

「ああ、もちろんだ。対空迎撃準備!!」


俺の命令に艦内に警報が鳴り響きCIWSやVLSの発射態勢が整えられ、

次々と水密扉が閉められて瞬時に攻撃態勢が完了する。

データリンクが発動し僚艦たちが発射するミサイルの誘導も可能になる。

異世界から転移してきたイージス艦〈金剛〉は持てる対空攻撃・迎撃能力を発揮すべく準備を終えた。


あの時は俺たちの腕が未熟でヤツを取り逃した。

だが・・・今度は逃がさん。

あの時と違いイージスの習熟は完了し100%の力が出せる。

そしてあの化け物を撃破する為の策を葛城博士と共にねっている。


だから早くこっちに気づいて向かってこい、〈始祖鳥〉!!

 

 

 

− アルケオプテリクス コクピット −

「カーソン機長、本当にあの街を攻撃されるんですか?」

「俺に二言はない」

「ですが、あの街は前回の攻撃で軍施設は壊滅しています、いまさら攻撃する意味は・・・」

「やかましいッ!!」


ヒステリックな怒鳴り声を浴びせられたハーティ副機長は黙り込む。


「前回は油断からこの最新鋭超大型双胴爆撃機アルテオプテリクスがダメージを受けた。

幸い航空機とは思えない重装甲で墜落するほどの被害は受けなかったが」


副機長はこの転移兵器のスペックを思い出す。

この超大型爆撃機はある任務の為に開発された機体だそうだ。

胴体を2つ持つ双胴型と言われる構造を持ち、

胴体の後部から生えている翼は逆ガル型後退翼で8発ものジェットエンジンがつけられている。

2つの胴体の先端にはメインコクピットが2つあり、万が一片方が被弾しても大丈夫になっている。

そのコクピット後方にある砲術センターから遠隔操作される40ミリ機銃でハリネズミのように武装。


この機体は8発ものジェットエンジンを積んでいるにも関わらず最大700キロしかでない。

その出力は何に食われているのか?

巨大な機体というのもあるが、実は航空機とは思えない20センチ砲にも耐えられる新開発された複合装甲と

たった4門だが積んでいる65口径30.5センチの“主砲”、この2つのせいだった。

この2つの要素から“超空の戦艦”とも渾名され畏怖されている。


施された装甲は飛行機としては破格で文字通り鉄塊が飛んでいるといえるだろう。

“主砲”も対空攻撃には大して役にたたないものの、対地攻撃には絶大な威力を発揮した。

他には空対空ミサイルや艦船攻撃用の誘導魚雷、誘導爆弾、40ミリ機銃などを積んでいる。


まさに化け物、いや気が狂った最凶兵器。

そんな機体にあつらえたように蛇のように粘着でキチガイじみた機長。

素晴らしい、まさにこの世の呪いを一身に受けた機体だ。

きっと伏せられている本作戦とやらも外道な作戦に違いない、畜生そんな作戦など糞食らえだ。


太平洋戦線に投入されたのは試作3号機で未だ謎に包まれている本作戦でこの機体が使えるかどうか、

その試験評価の為に欧州から移動してきたのだ。


前回ナーウィシア領海の島を攻撃したのはそこに大規模な軍施設があった事と、

攻撃対象とされる風雅島への侵攻・攻撃を想定したシミュレーションだった。

その攻撃は途中まで上手くいき敵航空機の迎撃をなんなく排除し、島にあった軍施設は壊滅した。


ところが優秀だがヒステリーでサディスティックな馬鹿な機長が街への攻撃を指示したのだ。

戦争をやっているのだ、軍施設は仕方がない。

だが街には一般人が多数いる、人道上攻撃するべきではない。

しかし軍の命令は絶対、俺はカーソン機長に従い街を攻撃するしかなかった。


攻撃をしている最中、どこからともなくミサイルが飛んできてこの機体は被弾し戦場を離脱。

謎のミサイル攻撃を受け離脱できた事を俺は内心では喜んでいた。

あのまま攻撃を続けていれば攻撃能力を持たない民間人を虐殺したとして鬼畜・外道と呼ばれただろう。


「それは承知してます、おかげで修理にかなり時間がかかりました。ですがあの街は民間人しか・・・」

「皆殺しだ」


機長はそうボソリと言った。

何を言っているんだ、この人は?


「聞こえなかったか? この機体を傷つけた愚者たちに鉄槌を下す」

「なにを馬鹿な・・・民間人がこの機体を傷つ・・・」

ドン!!


俺はその先を言う事ができなかった。

なぜなら俺の胸には穴があい・・・て・・・い。


「俺の邪魔をするな」


カーソン機長の狂的な視線を受けた副機長がドサリと崩れ落ちる。

機長の手には硝煙の上がる拳銃があり、その様子を見た他のスタッフは凝固する。


「ミサイル、発射準備だ」

「イ、イエッサー!!」

 

 

 

− 金剛CIC 隼人 −

「〈始祖鳥〉からミサイル12発発射されました、目標、伊那沙です!!」

「くそっ、空軍は何しているんだッ!!」

「スクランブルした空軍機は・・・戦闘爆撃機〈飛燕〉6機、今〈始祖鳥〉と接触しました!」


電算機で解析された状況が図式化されメインモニタに映し出され、

味方機の通信を傍受しスピーカーから流れ出す。


「ゴーストバスターリーダーより各機、化物を確認。

畜生! パーティに遅刻したぞ。

バスター1、2飛んでいったミサイルの迎撃に向かえ」

「バスター1了解」「バスター2了解」

「残りは化物相手だ。いくぞ!!」


各機の返事が続き〈飛燕〉編隊から2機が伊那沙を狙ったミサイルに向かい、残機は〈始祖鳥〉に向け攻撃態勢に入る。


「艦長、さらに第二機動部隊〈朱雀〉から増援です、〈飛燕〉が40機、〈始祖鳥〉に向かってきます」


モニタには新たな輝点が浮かび〈始祖鳥〉へ向かっていく。

果たして44機の戦爆であの化物が防げるのか?


「〈始祖鳥〉と伊那沙に向けたミサイル、イージスでの捕捉可能になりましたッ!!」

「あの2機が外す事も有り得る、ミサイルの方を捕捉してくれ。準備が整い次第、射撃開始」

「了解!!」

 

 

 

− 金剛CIC 隼人 −

「艦長、敵ミサイルを補足完了しました」

「SM-2発射。ミサイルを撃ち次第、あの2機に警告してくれ」

「了解デスっ・・・あ、艦長、バスター1から艦長に話があるそうです、モニタに回しますか?」

「ああ、頼む」


俺に話? この緊急時にそんな事をしている暇はないはずなんだが。


「こちらバスター1。貴官が連合海軍の英雄、双岳少佐ですか」

「俺が英雄かどうかなんてどうでもいい。

そんな事より〈金剛〉からそっちの追っている敵ミサイルを迎撃する為、ミサイルを発射した。

巻き添えになる可能性がある、一時的に退避してくれ。

もし撃ち漏らしがあったらそちらで処理をお願いする」

「海軍は俺たちの獲物を獲るつもりですか?」


俺の言葉にこのパイロットは海軍空軍の仕切りを持ち出してきた。

この緊急時にこの馬鹿は何を言っているんだ?

今は海軍空軍などと馬鹿げた事を言っている暇はないはずだろうが!

俺はあまりに状況が分かっていないパイロットに怒りが爆発し怒声をあげる。


「この緊急時に海軍空軍なんて言っている場合かッ!! 貴官は何の為にその機体に乗っているんだ!!」


CICに俺の怒声が響きわたり、その剣幕にスタッフの数人はカメのように首を引っ込め俺の事を見ている。


「も、申し訳ない。そちらの件は了解した、撃ち漏らしはまかせてくれ」


その剣幕に恐れをなしたのかパイロットはすぐに謝罪しこちらの警告を受け取ってくれるようだ。


「ああ、よろしくお願いする」


通信が切られCICはいつもの音に満たされる。

俺は怒りに任せパイロットを怒鳴りつけてしまった事を後悔しつつ冷静になろうと深呼吸をする。


「艦長・・・」

「ごめん、瑞葉クン。驚かせたみたいだね」



− 飛燕 バスター1 −

〈金剛〉と言われる艦から発射されたミサイルは化け物が放ったミサイルに次々と命中し落としていく。

だが爆風の関係で進路がずれたのか3発のミサイルが爆煙の中から飛び出してくる。

そのミサイルに向け俺とバスター2の〈飛燕〉はAAMを使い撃破行動に移る。


敵機と違いミサイルは小さくこっちのAAMと同じくらいの速度を持っている。

あの小さな的に上手く当てられるのか?

俺のこめかみに冷や汗が一筋流れる。

断続的な音だったのがピーという長音になる、敵ミサイルをロックオンした音だ。

俺は〈飛燕〉から2発のAAMを発射し、見事に撃破した。

ペアのバスター2も1発に命中させ撃破したようだ。


だが俺は目の前の光景を見て焦った。

島が・・・伊那沙の街が見えてきたのだ。


マジかよ! この距離じゃ残りの1発に向け悠長にロックオンをしている暇はない。

バスター2と同時攻撃して何とかするしかない。

だが発射された4発のAAMは敵ミサイルを撃破する事なく飛び去っていく。


くそったれが!! こっちのミサイルがはずれやがった!!


畜生、海軍に馬鹿にされたままでたまるかっての。

それに俺だって市民たちの事を考えていない訳じゃない!!

あのミサイルを防いであの海軍の英雄殿の鼻をあかしてやる。


一直線に飛んでいるミサイルに向け増速した〈飛燕〉を突っ込ませると同時に射出シートで脱出する。

俺の当たれという願いも空しくミサイルと〈飛燕〉はギリギリで当たらず愛機は海に水柱を立てただけだった。

生き残った1発のミサイルは伊那沙へ最終加速をはじめた。

 

− 金剛CIC 瑞葉 −

「バスター1、ミサイルに特攻しました」


アタシはモニタに映っている光景が信じられなかった。

さっき艦長に怒声を浴びせられたあの人が生き残ったミサイルに向け機体をぶつけようとして特攻したのだ。


「なんだと?!」


暁副長が驚きの声を上げモニタを注視する。

重なったブリップはやがてミサイルの色だけになり街へ向かっていった。

その重なった場所から救難信号が発信されているのを確認した。


「あ・・・救難信号が出てます、バスター1は脱出したようです」

「そうか良かった。だがミサイルが・・・」

心配そうな顔をしていた副長に安堵の表情が戻る。

アタシと暁副長はモニタを呆然と見ている艦長が気になり、おそるおそる横顔を見る。


艦長の横顔は今まで見たことがないくらい蒼白な顔色をしていた。

 

 

− 飛燕航空隊 −

「各機、攻撃開始!!」


攻撃隊長から命令が下され44機の〈飛燕〉は鈍重な大型草食動物を襲う

小型肉食動物の様に四方から〈始祖鳥〉を囲みAAM(空対空)ミサイルを打ち込んでくる。


だが打ち込まれたAAMは巨大な機体の見えざる盾、ディストーションフィールドの上で空しく爆発しただけだった。

〈始祖鳥〉の方からも反撃とばかりにAAMが発射され、直撃を食らった〈飛燕〉が吹き飛び、

近接信管が作動したミサイルは爆発と同時に散弾を撒き散らし〈飛燕〉に損傷を与えていく。

さらに装備された40ミリ機銃が火を噴き、AAMと〈飛燕〉を撃破する。


数機の〈飛燕〉はこのままだと埒があかないと思ったのか2本の太い胴体の先端にあるコクピット目掛け、

20ミリ機関砲を打ち込むべく突撃を開始した。

 

 

− アルケオプテリクス コクピット −

「機長、敵機正面ッ、おそらくコックピットを狙っています!!」

「雑魚どもに用はない、さっさと撃ち落とせ」


・・・ふん、なめられたモンだな。

このアルケオプテリクスをデカイだけの爆撃機だと思うなよ。

前回の被弾でこの機体にはDFが装備されたんだ。

そんなヤワな攻撃じゃあ落とせないぜ。


クックックック・・・・・・良い、実に良い気分だ。

馬鹿どもが、せいぜい無駄な足掻きをして死んでいけ。


「主砲、散弾で敵機を迎撃、発射準備しろ!!」

「イエッサー! 散弾装填・・・OKです」

「ファイア!!」

 

− 飛燕航空隊 −

ズズン!!



〈始祖鳥〉の上面にある4門の30.5センチ砲が火を噴く!!

飛び出した砲弾は正面からコクピットを狙い突撃してきた〈飛燕〉の直前で近接信管が作動、

砲弾が炸裂し円錐状に焼夷弾や断片、仕込まれていた鉄球が花火のように広がり突撃してきた〈飛燕〉を包み込む。


その鉄の嵐に脆弱なジェット機が耐えられる訳もなく爆発四散し6つの花が蒼穹に咲く。


「馬鹿なッ、AAMが全く効かない! 敵機はDFを積んでいるぞ」

「航空機にあんなでかい主砲だと!!」

「本当に俺たちに向かって撃ちやがった」

「ありゃあ、花火かよ!!」

「ヴァンパイアリーダーよりパレス、敵はDFを装備している。

それと“主砲”を使用、弾は散弾を使っている。

ゴーストリーダーを含む6機が撃墜。

各機散開!! 固まるな、回り込んで後部からエンジンを狙え!!」

「了解!」

 

− 金剛CIC 隼人 −

俺はミサイルが街に着弾したという報告を聞き愕然とした。

だが今はそんな状態になっている暇はない。

なんとしてでもあの〈始祖鳥〉を撃墜し、これ以上あの街に被害を及ぼさないようにしないと。

そんなことを思っている俺に再度衝撃的な報告が入ってきた。


「〈始祖鳥〉がDFを持っているだと?」


馬鹿な・・・前回の攻撃ではDFはもってなかった。

この半年で向こうもさらに改良されたというのか?


「それに“主砲”ですか。どうやら改良されたのは向こうも一緒のようですね」


この通信に暁副長が苦々しく呟く。

本当ならDFの装備されてなかった前回が一番被害を出さずに〈始祖鳥〉を撃破できたのだ。


「くそっ、兵装が尽きた機は帰投しろ。こちらも・・・ミサイルの残弾0、帰投する!!」


隊長機の通信と同時に攻撃隊は〈始祖鳥〉から距離を置き始める。

〈始祖鳥〉のDFで彼らのミサイルは撃ち尽くしてしまった。

残りの20ミリ機関砲ではあの化け物のDFは貫通できない。

被害らしい被害も与えられないまま42機の〈飛燕〉のうち22機が撃墜された。


「航空隊撤収します!!」


モニタに映る航空機を示す点が〈始祖鳥〉からどんどん離れていく。


「艦長、どうされますか」

「航空隊のおかげで時間は稼げた。

まず遠距離からミサイル攻撃。

こちらに注意を向けさせ〈金剛〉にギリギリまで引き寄せ、ミサイル、主砲弾を一挙に叩きつけて撃破しよう」

「〈始祖鳥〉はかなりの重装甲、おまけにDFまで装備しているようですし、

遠距離からの及び腰の攻撃では前回の二の舞になりますか」


あの化け物は駆逐艦どころか下手すれば重巡より厚い装甲を持っているようなのだ。

前回の攻撃ではDFがない状態でSM-2を最低でも2〜3発は食らっているのに〈始祖鳥〉は墜落していない。


その重装甲プラスDFの組み合わせではミサイルでは心もとない。

航空隊のAAMもほとんどがDFに防がれダメージらしいダメージを与えていない。

最終的には主砲を使わないと撃墜できないかもしれないな。


「ああ、牽制の遠距離攻撃でどれだけダメージが与えられるか分からないが、

航空隊が当てにならない以上、今はこの方法でヤツを撃墜する」

「では、あの作戦を?」

「ああ、オペレータ、SM-2ER(長射程型)改、“天雷”にデータ入力開始。切り札だ、ギリギリまで待て」

「了解ですッ!!」

「SM-2ER撃て!!」


〈金剛〉艦橋の後ろに移設されたVLSがバクンと開き、20発の通常型スタンダードSM-2が飛び出していく。

盛大な排煙を引きずりながら垂直に飛び上がるその様は滝が逆流したようにすら見える。

途中で角度を変えたSM-2は〈始祖鳥〉に向け飛んでいく。

 

− アルケオプテリクス コクピット −

「機長、5時の方向よりAAM20発、接近中!!」

「なにィ、敵機は撤退したんじゃなかったのか!」

「これは・・・艦隊補足しました、4隻。この艦隊からの攻撃のようです」

「やってくれるじゃねえか、ミサイルを迎撃しつつその艦隊を殺るぞ」


8発のエンジンが唸りをあげて増速し機首をミサイルを発射したという艦隊の方へ向ける。

その間にも機銃がミサイルを迎撃するが迎撃網を逃れたSM-2がDFに防がれ爆発する。


「機長、DF80%です」

「ほお、さっきのハエどもより高性能なモンを持っているらしいな」


どうやらコイツラが前回この機体にミサイルをブチ当ててくれたヤツか。

っくっくっく、なら前回のお礼をしないと怒られちまうよな、あの方によ。

 

 

− 金剛CIC 隼人 −

「艦長、〈始祖鳥〉がこちらに向かってきます!!」

「ふぅ。これで伊那沙へ攻撃は避けられたか」

「ですが・・・艦長、これからが本番ですよ」

「ああ、化け物に本物の対空戦闘ってヤツを見せてやる」


俺は暁副長に向けそう宣言するとモニタを見つめる。

一直線に突っ込んでくる〈始祖鳥〉。

ギリギリまで引き付け一挙に叩き潰す!


「艦長、距離50キロです」

「了解、イージス、オートスペシャル!!」


その宣言と共にモードを切り替えられたイージスシステムは敵機を撃墜すべく最適な行動を起こし始める。

艦の中央にあるVLSから次々とSM-2ER改“天雷”が発射され、

それと同時にリンクされた3隻の〈汐海〉級に搭載されているVLSや16連装ミサイル発射基からも“天雷”が発射される。

イージスに導かれ〈金剛〉から発射された20発、〈汐海〉級3隻合計78発、

総計98発ものミサイルが〈始祖鳥〉に向け殺到していく。

この数は完全な飽和攻撃だった。



本来は〈始祖鳥〉にはDFがないという事で飽和攻撃までは予定してなかった。

だがDFを搭載しているという情報がもたらされた為、急遽飽和攻撃に切り替えた。


俺たちは前回の襲撃で〈始祖鳥〉が装備している重装甲により、

ダメージを与えはしたものの取り逃がした戦訓を活かすべく葛城博士と共に作戦を立案した。

そして確実にこの化け物を屠るべく、開発されたのがSM-2ER改“天雷”だった。


この攻撃に使われた“天雷”は搭載されたチップに3Dモデルを覚えさせる事で、

目標へのピンポイント攻撃をする事が可能なのだ。


前回〈始祖鳥〉が襲撃した時、撮影された画像などからできる限り正確にポリゴンモデルが作成された。

イージスで敵の近くに誘導されたあとミサイルのチップは記憶したモデルを使用して目標を形を解析し、

一致する場合その場所に向け攻撃するという仕組みだ。


さらにイージスは同時に12の目標を補足できる。

この12の目標を“天雷”に覚えさせたマップに割り当て誘導させたのだ。

飽和攻撃という戦法にこの正確無比な誘導と〈始祖鳥〉の弱点だけを狙ったピンポイント攻撃。


このシステムを開発するにあたり博士やシステム技術者には迷惑をかけっぱなしだったが、

だが試行錯誤の末に完成したシステムをイージスに組みこみ、

この半年間修練をしつつ〈始祖鳥〉を待っていたんだ。




− アルケオプテリクス コクピット −

「機長、敵艦からミサイル・・・畜生、多すぎて正確な数は分かりません!! 恐らく100」

「100だと!!」


俺の驚きはその数だけではなかった。

飛んできたミサイルがエンジンやコクピットをピンポイントで狙ってくるじゃねえか。

さらにかわしたと思ったミサイルがぐるりと方向をかえ再度こっちに向かってくる。

なんなんだ、あのミサイルは!! こいつらは一体?!

俺の驚きの声が上がる間もなくエンジンが被弾し爆発を起こす。


「機銃による迎撃が追いつきません!」

「エンジン被弾!! 推力・DFともに出力落ちます!」


弱ったDFを貫くように次々にミサイルが命中する。

いくらこの機体が重装甲でもここまでくらっちまったらヤベエぞ。


「被弾多数、機体の制御が・・・ギャア!」


ミサイルの断片が防弾ガラスを突き破りコクピットにいた航海士をボロ雑巾に変える。

俺の手を離れつつある機体を無理に捻じ伏せ、敵艦隊旗艦と思わしき先頭艦へ向けアルケオプテリクスを突撃させる。

「くそったれが!!!

テメエ等も死にやがれれれえぇ!!!」

 

 

− 金剛CIC 隼人 −

〈始祖鳥〉が〈金剛〉めがけ最後の足掻きとばかりに燃え盛る機体を特攻をしてくる。

巨大な〈始祖鳥〉は〈火鳥〉となり〈金剛〉を道連れにしようと突っ込んでくる。

最後まで化け物ぶりを見せ付けるのか、ヤツはッ!!


「DF解除、最大戦速! ヤツを叩き落せ」


〈金剛〉に搭載されたイージスシステムが突っ込んでくる〈始祖鳥〉に向け、

全自動制御された15.2センチ連装速射砲6門、VLS、CIWSが猛烈な勢いで射撃を開始する。

もちろん僚艦たちもイージスシステムからデータを受け取り〈始祖鳥〉に向け全自動射撃を開始する。

イージスシステムは〈始祖鳥〉から剥離する部品などを脅威判定し、正確無比なレーダー管制射撃を行い

次々に命中させる。

その砲弾は1発も外れる事無く〈始祖鳥〉の機体を直撃し、巨大な機体を打ち据えていく。


まだか! まだか! まだなのかッ! まだ落ちないのかッ!!

太長い2つの機首の一つが15.2センチ砲の直撃を食らい叩き潰され、

VLSから発射されたSM-2は巨大な尾翼を吹き飛ばし、

1分間に4500発と桁違いの発射速度をもつCIWSが20センチ砲弾にも耐えられるはずの複合装甲を削りとっていく。


燃え盛る〈始祖鳥〉の執念はついに〈金剛〉を捕らえる事はできず、

数百メートル先で空中分解し盛大な水飛沫を上げ墜落、水中で大爆発を起こした。

その爆発の衝撃と破片が〈金剛〉に襲いかかるがBS装甲で強化されたDFはなんなく持ちこたえる。


「やっと、あの化け物を倒したんですね」

 

 

 

− 金剛CIC 隼人 −

第七戦隊は戦いを終え伊那沙の街へ帰還する。

〈始祖鳥〉が放ったミサイルが街へ飛び込んだのは分かっている。

俺は焦る気持ちに落ち着かず艦の外を映したモニタを見る。

伊那沙の港が見えていた。

街の小高い丘のあたりに細長い煙が立ち昇っていた。

あの辺りは・・・睡蓮楼があるんじゃないか!!


俺はイライラしながら接岸を待つ。


「暁副長、スマン! 後を頼む」


ズンっと腹に響く接岸音と共に同時に副長の返事も聞かずCICから外へ飛び出した。

 

 

− 金剛CIC 瑞葉&暁 −

「暁副長、良いんですか?」

「ん? 艦長の事かい? 若くて良いね。

いや、違った。まあ・・・仕方ないな、艦長は戻ってきたら説教とお仕置きだね」


やれやれと言った感じで頭を掻く暁副長。


「お仕置きですか?」

「御劔君がやるかい?」

「・・・いえ」


流れ弾が伊那沙の街に飛び込んだ時、血相を変えた艦長。

アタシは艦長が何処に向かったか想像がついている。


きっとあの黒髪の女性のところ。


はっきり言ってこんな事をする艦長は軍人としては認められない。

いついかなる時でも責任を果たす―――あの卒業式の日、白鳥九十九教官に教えられた事だ。

今の艦長は私たち乗組員に対して無責任だと思う。


でも本来、艦長は義務と責任を忘れるような人じゃない。

市民を救えなかった事をまた責められ、ここ数日ずっと何かを考えているようだった。

そんな艦長にアタシは何も言えなかった。

愛さんが何かしらフォローを入れていたみたいだけど、そういう部分は年の功だと思う。


艦長の事はあの黒髪の彼女にまかせよう、きっと艦長のことを理解し救ってくれる。


アタシは自分の義務と責任を思い出し仕事に戻る。

そんなアタシを興味深そうに暁副長が眺めていた。

 

 

− 伊那沙の街中 隼人 −

俺は全速力で街を、睡蓮楼に続く坂道を駆け上がる。

その姿を見て何事かと驚く人々。

空襲警報が解除され自分の家に帰宅するのだろう。

人々の無事な姿を見て俺は今回は守れたと安心する。


だが・・・あのミサイルの当たった辺りは。

ミヤコさんは律儀な性格の為、店の出勤も下手すると1時間近くも前に出ている。

まだ開店時間になっていないとはいえ、十分彼女がいる時間だ。

坂道で段々息が苦しくなるが足を緩める訳にはいかない、彼女の無事を確認するまでは。

目の前に半壊した睡蓮楼の姿が見えてくる。

よりにもよって・・・直撃はしなかったものの爆風で半壊したところはミヤコさんの部屋がある部分だ。


俺はまた身近な人を守れなかったのか?

荒い息を吐きながら睡蓮楼の前に立ち尽くし呆然とする。

 

 

 

− 睡蓮楼前・隼人 −

「双・・・岳さん?」

「ハァハァ・・・・・・え?」


その声に振り返ると楓ちゃんを連れたミヤコさんが立っていた。


「ミヤコさん、無事だったのか!」

 

 

− 睡蓮楼前・ミヤコ −

私は楓と一緒に抱きしめられてしまった。

双岳さんと関わりになるのを避けようとしていたはずなのに。

 

 

− 睡蓮楼前・隼人 −

「でもいつもなら店にいるんじゃ・・・」

「ええ、いつもでしたら。でも朝方、楓がぐずりが収まらなくてお休みをいただいていたんです」

「そうなんだ、良かった。じゃあ無事なのは楓ちゃんのおかげかな」

「どうでしょう?

楓がぐずったのは貴方から頂いた銀のペンダントが欲しいって駄々こねていたんです。

本当に貴方から頂いた物がお守りになってしまいましたね」

「あ、あはあはははははは」


俺は乾いた笑いが出てへたへたと座り込んでしまった。

全速力で坂を駆け上がってきたというのもあるが、

ミヤコさんが生きていたのが分かって脱力したといった方が良い。


「だ、大丈夫ですかッ!」

「ああ、大丈夫、ちょっと疲れただけ」

「ここにいると邪魔みたいです、向こうの公園に行きましょう」


ミヤコさんは辺りの雰囲気を察し、近くの公園へ移動する事を提案してくる。

確かに戦闘が終わった直後に海軍仕官がこんな場所にヘタリこんでいたら変か。

俺は疲労しただるい身体を引きずってミヤコさんについていく。

 

 

 

− 睡蓮楼近くの公園・隼人 −

俺とミヤコさん、楓ちゃんはあのプレゼントを渡した公園にやってきた。

ミヤコさんは楓ちゃんを抱っこすると海の見えるベンチに座り海を眺めていた。

しばらくすると彼女が口を開く。


「双岳さん。私、ニホンに疎開する事にしました。

以前から考えていたんです、やはりナーウィシアだと心配で」


彼女の意外な言葉にちょっとビックリすると同時に仕方ないかと思う。

俺はベストを尽くしているが現実問題として彼女たち市民を完全に守りきれているとは言えない。

ならなるべく安全な地へというのは当たり前だ。

俺に何かできる事はないか彼女に聞いてみる。


「そうなんだ。寂しくなるね、じゃあ俺に何か手伝える事はないかな。

たとえば・・・船の手配とか」

「ありがとう、その気持ちだけで十分です。

それに大丈夫ですって! 今度のニホン行きの輸送船に乗れる事になりました。

あの仕事で多少の貯蓄も出来ましたからニホンに行ってもしばらくは暮らしていけます」


良かった、次の輸送船でニホンへ行けるのか。


「そうなんだ、なら安心だね」

「ええ」

「次のニホン便というと・・・月曜か、ちょっと見送りにはいけないかな」


確か月曜は次の作戦会議があったはず。

見送りに行けない事を残念に思いながら俺は海を見ていた。


「気を使ってくれてありがとう、大丈夫よ」

 

 

− 睡蓮楼近くの公園・ミヤコ −

私は戦いが終わった直後だということを思い出し双岳さんに聞いてみる。


「艦は大丈夫なんですか、戦いが終わった直後でしょう?」

「副長にまかせて接岸と同時にここに駆けつけました」


彼の言葉に私は困ってしまう、彼の心配はとても嬉しい。

だから余計に言葉がきつくなってしまった。


「双岳さん、気持ちはとても嬉しいんですが・・・・・・そういう事しちゃ駄目です。

貴方は艦長でしょう? 乗組員たちに対する責任があります。

最後までご自分の責任を果たしてください、それがプロってものです。」

 

 

 

− 睡蓮楼近くの公園・隼人 −

「双岳さん、気持ちはとても嬉しいんですが・・・・・・そういう事しちゃ駄目です。

貴方は艦長でしょう? 乗組員たちに対する責任があります。

最後までご自分の責任を果たしてください、それがプロってものです。」


彼女は俺の顔を見つめ厳しい口調で軽率な行動を諌め、艦長としての責任を思い出させる。

ああ、そうだ。俺は何をやっているんだ?

市民を、知り合いを心配するのは良い、人として当たり前の事だ。

だが俺には第七戦隊司令という地位に伴う責任があった。

4隻の乗組員、1200余名に対する責任が。


「そうですね、ちょっと軽率だった」


俺は素直に彼女に頭を下げる。


「でも・・・心配してくれてありがとう。それに・・・ごめんなさい」


ミヤコさんは海を見つめながら俺に聞こえるか聞こえないかの小さな呟きだった。


俺たちはその後、無言のまま公園のベンチで海を見ていた。

 

 

 

− 翌週月曜日 伊那沙港 −

伊那沙の港にニホン行きの輸送船が停泊している。


私を含めこの輸送船に乗りニホンへ向かう人間を見送りに来てくれる人たちがいた。

彼らは別れを惜しみ抱き合ったり握手していたり。

ここを離れるのは一時的なのか永遠なのか。


私も自分の見送りに来てくれた人たちに挨拶をする。

ご近所さんや学校の同級生、短かったけどあの仕事で仲良くなった女の子たち。

そして亡くなってしまったあの人の同僚たち。


「ここはアンタの街なんだから必ず帰ってくるんだよ」

「向こうに行っても連絡頂戴ね」

「アイツの墓はここにあるんだ、寂しがるといけないから」


様々に声をかけてくれる友人・知人。

私のあの人は亡くなったけどまだこれだけ心配してくれる人たちがいるんだ。

だけどその中でも一番心配してくれたであろうあの人の姿はない。



―――私が見送りに来なくて良いと言ったんだし、来てくれるはずもないかな。



「皆さんありがとうございます。私、必ず帰ってきますから」


一抹の寂しさもあり涙がこぼれてしまう。

涙をこらえ見送りに来てくれた人々に深々と頭を下げ別れを告げる。

私のその姿を見て泣き出してしまう友人。

その彼女を抱きしめいつも楓にしているように背中を優しく叩いてあげる。


名残は尽きなかったが汽笛が鳴り出航時間になった。


私はちっぽけな鞄1つを持ち楓の手を引いて輸送船に乗り込んだ。

戦災で私の家族は楓一人になり家財はこの鞄1つで納まってしまうくらいになった。


船が動き出しゆっくり埠頭を離れる。

私はみんなに手を大きく振り最後の別れを告げる。

そして自分の生まれ育った街に一時的な別れを告げた。

 

 

− 金剛CIC・瑞葉 −

「はァ・・・アタシってオバカ」


アタシは自嘲し溜息をつく。


「御劔君、ご苦労様」


暁副長が微笑を浮かべそんな事を言ってアタシにコーヒーを渡してくれる。

アタシはお礼を述べそのコーヒーを受け取って啜る。

彼はアタシの顔を見、何も言わず微笑んでいる。


「ナニ、笑っているんデス、暁副長?」

「ん・・・いや、なんでもないよ」


彼はそう言って手を振り自分の席に戻る。


あの言い草―――絶対アタシのお節介を知っているとみた。


仕方ないじゃない、ニホンに知り合いがいないって言うんだから。

それに艦長が大事に思っている女性なんだし。


アタシはキャプテンシートを見る、艦長はおらず艦橋から外に出ていた。


「あ〜あ、バっカみたい」


再度アタシの口から聞こえるか聞こえないかの愚痴が出てしまう。


敵に塩を送るってヤツだよね、コレって。

自分で決め行動した事だけど自分のお人好し加減に呆れるくらいだった。

でも・・・口で言うほど後悔はしてないんだけどネ(苦笑)。



〈金剛〉以下3隻の第七戦隊は急遽、対潜作戦が命じられ作戦を遂行中だった。

 

 

− 輸送船・ミヤコ −

「ままぁ、だいじょーぶ?」


ずっと港を見ていた私を心配するように楓が聞いてくる。


「え? うん、大丈夫よ楓」


私はこの娘の為に強くなる。

いや、強くならなきゃいけないんだ。

私は目じりに浮かんだ涙を袖でガシガシとこすり、娘を抱き上げてこの海の先にあるというニホンを想像していた。


ニホン、初めて行く国。

一体どんな国なんだろう。

ニュースでどんな国かは見た事がある。

私のおばあちゃんから聞いた話だとナーウィシアと違って四季っていうものがある国だそうだ。

四季かぁ、南国育ちの私たちはその四季というものについていけるだろうか?

いろいろ心配は尽きないけど・・・。



まず向こうに着いたらあの女性に紹介された青葉家・・・を訪ねて―――。

 

 

 

− 輸送船・ミヤコ −

「ただいま右側を軍艦が通ります。揺れる事がありますので手近な物にお捕まりください」


そんな放送が流れた。


私は背後から4隻並んで進んでくる軍艦を眺めていた。

彼らは輸送船の近くにくるとスピードを落とした。


輸送船の横を通りすぎるとき何気なく先頭の軍艦を見ると艦橋(って言うの?)の

横に真っ白な制服を着た人間が立っているのを見つけた。


「あ〜っ!!」


楓が突然驚いた声をあげ小さな指を使って輸送船の隣を進む軍艦に向ける。

そしてその軍艦に乗っていたその人は良く見知った顔だった。


「え、双岳さん?」


彼は私と楓に気づき楓に手を振ると私に向かってビシっと敬礼をした。


「今日、出撃だったんだ」


私は彼に軽く手を振る。

近くにいた老婆が驚いた顔をしていた。

そのまま彼と彼の軍艦は輸送船を追い抜きスピードを上げると視界から消えていった。


「のう・・・娘さんや、あの海軍さんは旦那さんかね?」

「いえ、残念ですけど知り合いです。でも、そうなってくれたら良いなと思ってます」

「そうかい、良い男っぷりだねぇ。ああいう良い男はしっかり捕まえておきなよ」

「ええ、できれば私もそうしたいです」

「私もあと40年若ければねえ。でも、あたしの旦那も負けて・・・」


私は老婆の他愛のないおしゃべりにつき合いながら考えていた。


双岳さん、今は・・・いろいろ心の整理がつきません。

それにもう戦争で大切な人を亡くすのは耐えられない。

だから今は貴方の前から消えます。

 

 

――― もし貴方がこの戦争で生き残って帰ってきたら・・・。

 

 

私はそれまでに自分の気持ちを整理しておきます。

そしてそれが本物かどうか確かめに貴方に逢いに行きます。

 

 

 

 

――― だから、それまで武運長久を・・・大切なあの人に。

 


− あとがきという名の戯言 −

瑞葉:最後まで読んでくださってありがとうございます。

隼人:ありがとうございます。

瑞葉:そーいえば前回の戯言で古都さんの事について話すって言ってましたよね?

隼人:ああ、そうだっけ。古都さんと楓ちゃんは本来死ぬべき人だったんだけど・・・。

瑞葉:えええっ、古都さんや楓ちゃん死んじゃうんデスか?!

隼人:そう、戦禍に巻き込まれてとかじゃなく、射殺。

瑞葉:・・・どうやったらそういう経緯になるんです?

隼人:心の底にあった怒りと悲しみをずっと押し殺していたんだけど、俺があの場にいた事を知ってしまう。

俺を恨んでもしょうがないのは分かっていても暴走した想いが身近にいた軍人(俺)に向けられる。

刺し殺そうとした瞬間、娘の楓ちゃんもろとも護衛のSPたちに有無を言わさず射殺され俺が愕然とする、

英雄、軍、戦争って何なんなんだよっていう課題を残して。

だいぶ端折っているけどこんな感じだった。

瑞葉:うわ〜、古都さんはともかく楓ちゃん全然関係ないじゃないですか。無理心中じゃないンデスか、ソレ。

隼人:それに近いと思う。戦禍で旦那と財産一式を失い、

さらに娘の命も巻き込んで自分まで・・・流石に後味が悪くなってお約束って言われる事が分かっててこのオチにした。

瑞葉:どうなんでしょうねえ、本来の結末って。

隼人:はっきり言って分からない。キャラの意義について「感想代理人(-1)座談会」を読み返してみたけど

ストーリー的にこれで良かったのかどうか。 

瑞葉:じゃあ役なしなんですか?

隼人:いや、瑞葉クンのインターミッションに出てきた白鳥九十九教官と同じ役割を与えているよ。

いかなる時でも責任の自覚をしろっていう。

ただそれが書ききれているかは別問題なんだけどね(苦笑)。

瑞葉:でも今回は年上の女性たちが目だってましたよね、古都さんもそうだし愛さんも。

隼人:そういう瑞葉クンも最後の最後でなにかやってたんじゃないか?

瑞葉:(ギクっ)ま、まあ良いじゃないデスか、そんな事。

あ、時間のようデスよ。次回のタイトルは・・・また未定ですか、しょうがないですネ。

隼人:(逃げたな、瑞葉クン)

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

なんと言うか。

話には「読んでて気持ちが上向くもの」と「読んでて気持ちが下向くもの」がありますよね。

前者はハッピーエンド、後者はバッドエンドと言い換えても構いませんが。

「お約束」もハッピーエンドなら人は喜びますが、お約束のバッドエンドというのは非常に気が滅入る物だと思います。

そう言う意味で、今回は始祖鳥のリベンジというベタな展開も含め、結構良かったかなと。