ナーウィシア・日本間の同盟セレモニーに参加し、日本からの輸送作戦を終えた第七戦隊は短い休暇を終えた後、前線に復帰していた。
沖田直属の第七戦隊は彼に命令を受けウィルシアの侵攻作戦の出鼻を挫くべく、敵の前線基地になっている島を攻撃を行うため蒼海を疾駆していた。
「艦長！ 司令部、月臣中佐から緊急入電デス！」
「なに？ なんと言ってきてる？」
【東北東150海里の敵航空施設に超巨大未確認飛行物体を確認。繰り返す、超巨大未確認飛行物体を確認。第七戦隊はただちに急行し迎撃せよ】
「・・・だそうですケド」
「超巨大未確認飛行物体だと？」
隼人は首を捻って送られてきた電文を再度読み返した。
「ねえ、艦長。未確認飛行物体って・・あの、いわゆる“ゆーほー”って奴デスかね？」
「この電文を読む限りではそうなのかな」
「常々超兵器には常識が通用しないとは理解していたが・・・UFOとは。艦長、幸い周囲には障害となる海上戦力は存在しない模様。本艦の火力を見せ付けてやりましょう！」
気負った暁副長が隼人に向けて進言した。
〈金剛〉がイージスシステムを搭載した対空戦闘・防御に特化された護衛艦だという事を彼は知っている。これまでの戦いで、特に対空戦闘においてずば抜けた性能を誇っていることを実際に見てきた。その自信が彼に豪語をさせていた。
「そうだな、命令を受けている以上放置する訳にはいかないか。変進！ 目標は東北東150海里の敵航空施設！ 敵未確認飛行物体を撃破する」
「了解！」
隼人の命令を受けた〈金剛〉以下第七戦隊は素早く東北東に変進をすると戦闘態勢に移行した。
連合海軍物語
第28話 未知との遭遇
─ 2096年12月10日 太平洋 〈金剛〉ＣＩＣ 隼人 ─
島に近づくにつれ第七戦隊に向けられた迎撃は激しくなっていた。
敵機が次々と入れ替わるようにやってきて対艦ミサイルを撃ち込んでくる。
〈金剛〉以下、第七戦隊を構成する３隻の先行試作型〈汐海〉級は小型艦艇特有の機敏さで右に左に転舵を繰り返す。無誘導の敵弾をかわしつつ誘導型のミサイルは搭載されているＶＬＳから発射したＳＭ-２ＭＲとＣＩＷＳで次々と撃破、基地に向けまっしぐらに突撃していく。
やがて瑞葉はやってくる敵機の中に変な形をした航空機が混じっているのを確認した。
「アレ、敵機の中になんか変なの混じってません？」
「検索をかけてみてくれ。データバンクが更新されていたはずだ」
瑞葉の言葉に隼人は更新されたデータバンクの検索を命じた。
バンクの更新をした葛城博士が接触してきた超兵器の艦長から得られたデータを元にデータベースを更新したと言っていた。転移兵器に関することならこのデータが最新のはずだった。
「少し待ってください・・・出ました！ コレって・・・ホントにゆーほー？」
出てきたデータを見て唖然とした表情を浮かべた瑞葉に向け隼人が聞く。
「どうした、瑞葉クン」
隼人に声をかけられ、慌てて報告する瑞葉。
「あ・・・スイマセン。円盤型航空機〈ハウニブー〉という機体デス！ 対艦ミサイルを搭載した２型。どうします？」
「まともに相手にするより発進基地を叩こう、その方が効率が良い」
（敵の基地を攻撃し滑走路を叩き潰す。これなら超兵器との戦いの最中に援護できないだろう）
〈金剛〉の艦首が島に向けられＤＦを張って出すことの可能な最大戦速の48ノットで突き進む。鋭い艦首が波を切り裂き、飛び散った飛沫が〈金剛〉の巨大な艦橋構造物まで飛んできた。
「ハープーンのデータ入力、終わったか？」
「終了しました！ 射程到達まであと３分」
ハープーンのデータ入力を行っていたスタッフに声をかけた。
〈金剛〉には連合空軍の戦略爆撃機〈富嶽〉が偵察を行ったデータが風雅島の司令部経由で回されてきている。偵察を行いウィルシア航空基地のデータ収集を行った〈富嶽〉は超巨大未確認飛行物体に撃墜された。
彼らの最後の通信が「我、“超巨大未確認飛行物体”に追撃を受く・・・」というものだった。この通信により超兵器らしき兵器が存在することが分かったのだ。その直後データ転送が行われ、辛うじて間に合った。
もしこのデータがなければ第七戦隊は島の至近にまで接近して砲撃という方法しか取れず、未確認の超兵器と基地航空隊の両方を相手に戦う事になり今よりずっと苦戦する事になっただろう。
いかに転移技術を用いた強力な兵器でもきちんとした索敵や精密なデータ収集を行わない限りその力が発揮できないという事も改めて確認できた。
そのことを理解している隼人は作戦中ではあったが戦死した〈富嶽〉クルーの為に短い時間の黙祷を捧げた。
「射程に入り次第、敵基地に向け発射！」
ちなみに〈金剛〉が搭載しているハープーンは転移時そのままの物ではなかった。本来この誘導ミサイルは対艦装備で貫通弾頭となっていたがこの世界のスタンダードとなっている51センチ砲搭載戦艦のバイタルパートの装甲が貫通できないという実験結果が出ているため、対地用の炸裂弾頭が開発された。
今回は敵航空基地撃破の為、〈金剛〉をはじめとする３隻の〈汐海〉級に搭載されたのはこちらの対地用だった。
余談だがこの世界は未だに戦艦が主役の為、装甲や砲身などに使われる特殊鋼の開発・研究や冶金技術は転移世界より遙かに進んでいた。仮に向こうの世界で作られた51センチ装甲とこの世界で作られた装甲を比較した場合、この世界の方が薄く遙かに対弾性などに優れた物が出来る。
戦艦にとって驚異となる成形炸薬弾に対する研究も進んでおり、被害を極限するためセラミックなどを挟んだ複合装甲が使われていた。電磁装甲こそ作れないがその技術レベルはルナニウムを使用する事で強度を得た宇宙戦艦用の試作複合装甲に匹敵する物を通常技術のみで作る事が出来た。
話を元に戻す。
「艦長、射程に入りました！」
「攻撃開始！」
隼人は攻撃命令を下す。ガンナーが発射ボタンを押し込んでいく。
刹那、〈金剛〉艦上に設置されているMk141・4連装ミサイル発射機から轟音と共にハープーンが４発発射された。さらに転舵を行い、反対にある４発も時間差を付けて発射後、〈金剛〉は進路を変更した。
その時だった。レーダー員と暁副長の叫ぶような声がＣＩＣ内にあがった。
「巨大なノイズを確認！」
「超兵器です！ しかしこれは・・・想像以上のスピードです！ 通常の射撃方法で補足は難しいかもしれません」
レーダーを覗いていた暁副長が隼人に向け進言してきた。
「イージスのオートスペシャルで迎撃する、スタンバイ」
隼人の命令を受けたオペレータがイージスのセレクタを手動から全自動迎撃、オートスペシャルに変更した。
「上空に敵機影確認───来ます！！」
〈金剛〉の上空を巨大な円盤型飛行物体が凄まじいスピードでかけぬけていった。
「ふ、副長アレって・・・ＵＦＯデスよね？」
「そ、そうにしか見えないんだが」
瑞葉と副長はモニタに録画された映像を見て唖然としている。翼も尾翼もないドンブリを伏せたような姿が飛んでいったのだ。
飛んできた超兵器は隼人が高校生の頃に本で見た未確認飛行物体そのままだった。その本の中でアダムスキー型と言われる形をしたＵＦＯにそっくりで、さすがに唖然とするしかなかった。
底にはＵＦＯの特長？の半円をした突起が３つある。さらに四方に何か長い物が突き出ていた。
（あれが超巨大未確認飛行物体！ それに・・・あの細長いモノは何だ？ まさか円盤に主砲な訳ないよな？ もしそれが本当だったら・・・馬鹿げているよ、ホント）
隼人は自分の想像に呆れにも似た苦笑を浮かべ映像を見つめた。
「しかし・・・今までも超兵器はトンデモ度合いが高かったですが・・・あれは極め付きですね、イロモノと言って良いんじゃないでしょうか」
暁副長が冷汗を流しながら見ている。その言葉ＣＩＣにいる皆が頷いていた。
隼人は艦長席で腕を組みじっと映像を見つめている。
（だがあれなら・・・あの機体のデータさえ手に入れば宇宙戦艦は無理でも空中戦艦ならできそうだ、何とか拿捕できないものかな）
隼人はあの機体を何とかして確保できないかと思案していたが瑞葉の声に我に返った。
「ちょっとッ！ 艦長、な〜に惚けているんデスか？」
「え？」
（まずい、戦闘中だった）
自分の夢、宇宙戦艦の建造を夢想してしまい短い時間ではあったがつい妄想モードに入ってしまったようだ。
「ま〜た、あの機体を拿捕して空中戦艦を作ろうとか考えているんじゃないデスか？」
冷たい目で隼人を睨む瑞葉。
「い、いや、そんな事はないよ、はっはっは（汗）」
瑞葉の言葉に隼人は慌てて首をふり乾いた笑いで否定する。その様子を見た瑞葉はやっぱりというように口調を尖らせた。
（な、なんでそんな事が分かるんだ、彼女は）
「ど〜見てもそう思ってましたよね、アレ」
不機嫌になった瑞葉をたしなめるように暁副長が苦笑しながら声をかけた。
「まあ良いじゃないか、設計は艦長の趣味なんだし」
「そりゃ、そうですケドねえ」
のんびりした瑞葉と暁副長の様子を見てイージスのオペレータが困ったような表情を浮かべた。
「あの・・・お話中申し訳ありませんが、敵機が向かってくるんですけど」
申し訳なさそうにオペレータが言う。迎撃命令が出ていない事にあっ！ という表情を浮かべた暁副長が慌てて隼人に督促した。
「艦長、攻撃指示願います」
「すまん！ 全艦迎撃開始だ！」
ドドン！
お気楽極楽な第七戦隊の本領発揮のような一幕だったがその雰囲気をうち破るような巨大な発射音が海面に響き渡った。
遠雷のような音が聞こえ〈金剛〉の周囲500ｍの範囲にバカでかい水柱が２本立ち、さらに２本の水柱が突きたった。その水中衝撃波で改装後、満載で12000トンを超えた〈金剛〉の艦体が地震のように揺れた。
瀑布のような勢いで崩れ落ちてくる水柱の間を縫って駆け抜ける〈金剛〉。
「これは・・・主砲！？ この大きさは・・・かなりでかい主砲を積んでいますよ！」
「ヤツは戦艦並の主砲を積んでいるだと？！」
隼人と暁副長は異口同音の叫びをあげた。
「ＵＦＯが主砲って・・・一体（汗）」
口元を引きつらせた瑞葉の呟きにＣＩＣのスタッフ全員が同様の突っ込みを入れたい気分だろう。
「水柱を計測した結果、51センチ前後の砲です！」
観測部から報告があがって来た。
「〈周防〉級と同じか、そりゃデカいはずだ」
「でも大丈夫なんデスか？」
瑞葉が心配そうに隼人に聞いてきた。教師のような表情を浮かべた隼人は今の攻撃と状態で分かった事を説明をはじめた。本来なら某女史あたりが登場するシーンだろうが・・・。
「持っている砲が幾ら大きくても大丈夫だよ。目標として見たらこっちは小さい、それに不規則に移動している。
さらに門数も少なくあの移動スピード、撃っても速度差が大きすぎて移動する物体には不向き、そう簡単に当たりはしない。あの巨砲は静止目標を攻撃する為の物だと思うよ」
「では？」
「おそらくこっちに対する威嚇。もっと小型目標向きの兵器があるはずだ」
さらに巨大なアダムスキー型円盤は重力を無視した動きで艦対空ミサイルＳＭ-２をかわし近接信管による爆発を物ともせず〈金剛〉に向けて輪っかのようなレーザーを放ってきた。
迅雷の勢いで飛んできたレーザーが〈金剛〉のＤＦに弾かれた。
「ほらね」
（いや冷静に説明しないでくだサイよ、艦長）
得意げな隼人の口調に瑞葉は直撃で揺れるＣＩＣの中で呆れている。
「直撃！ ＤＦの出力80％です！」
「くそっ、これが本命の武装だろう。かなり威力のあるレーザーだ」
「立て続けに被弾するとまずいです」
ＤＦオペレータと暁副長が計器を見ている。
* * * * *
巨大なアダムスキー型円盤こと〈ヴリル・オーディン〉は転移世界に存在する地球圏最大の複合軍需企業マーストリヒ傘下の航空会社クリムゾンが造り上げた巨大なスティルス爆撃機だった。
同じ爆撃機である超大型双胴爆撃機〈始祖鳥〉と用途がダブリそうな感じがするが、〈始祖鳥〉が30トンにも及ぶ爆弾を搭載し、敵機の迎撃中でも絨毯爆撃を行えるだけの重装甲や対空迎撃能力が与えられているのに対し〈ヴリル・オーディン〉は別な能力が与えられていた。
ジェットの轟音やロケットのような激烈な推進光を出さない重力波推進を使う事で実現した隠密性と高機動。さらにこの巨体にもかかわらず音速を超えるスピードを使い、敵拠点に低空侵攻、要塞や橋、航空基地などのハードターゲットを巨大な51センチ砲の一撃で粉砕するという拠点侵攻機としての能力だった。
拠点侵攻機〈ヴリル・オーディン〉303号機は風雅島強襲艦隊の露払いとして太平洋に進出し、各所に存在する連合軍基地のハードターゲットを破壊すべく活動を開始しようとした矢先に第七戦隊との戦いになった。
そのような特性をもっている為、〈ヴリル・オーディン〉にとっては小さく機敏に移動する第七戦隊のような相手は自身の能力が発揮し辛く、あまり戦いたくない相手ではあった。
* * * * *
（あの重力を無視したような動きを見る限り、通常の対空迎撃方法ではとても無理だ。イージスシステムのオートスペシャルでも迎撃できるかどうか）
隼人は大きさも含めて化け物じみた機動を行う敵機にどう対処すべきか迷った。だが使える方法は１つしかない、そしてこの艦の対空護衛艦としての能力を信じるしかなかった。
「イージスシステム、オートスペシャル。迎撃だ」
「了解！」
艦中央にある次発装填機能付き80セルのＶＬＳから対空ミサイルＳＭ-２ＭＲが次々と飛び出す。
〈ヴリル・オーディン〉を追いかけるようにミサイルが向かっていく。
ドカンドカン！
命中か近接信管による爆発なのか分からなかったが爆炎と黒煙が蒼穹に広がった。
「やったァ〜！」
「良かった、補足できたか」
瑞葉の歓声と隼人の安堵した声がＣＩＣに響いた。
だがその喜びを否定するように爆煙の中から〈ヴリル・オーディン〉が凄まじい勢いで飛び出してくる。
機体に何発か被弾したようだが戦闘能力は全く衰えていない。
（ちっ、かなり強力なＤＦを積んでいるのか）
急速に〈ヴリル・オーディン〉が近づき、〈金剛〉に向け巨体を圧し掛かるようにして小型砲を撃ち込みながら飛び去っていく。
ダガガガガガガ！
〈金剛〉のＤＦ上に次々と跳弾が起こり火花が散った。
「バルカン砲か！」
ドカンドカン！
最適角度を捕らえた敵弾がＤＦをが貫通し〈金剛〉の後部に直撃、爆発が起こる。
「後部甲板に被弾！」
「ダメコン急げッ！！」
暁副長が命令を発しダメコン要員が走っていき消火活動を開始する。
「ＤＦを撃ち抜かれたみたいですね」
「角度が甘かったんだろう、こればかりはどうしようもないな」
隼人は悔しそうに飛び去った〈ヴリル・オーディン〉を睨んだ。
─ 第七戦隊２番艦・駆巡〈汐騒〉ＣＩＣ・ニュー ─
飛び去る〈ヴリル・オーディン〉に向けミサイルを撃ち込む。
だが誘導の精度もあり何発か外れた。近接信管による爆発ではあの機体には効果がない。
（ちっ、これでは有効的なダメージが与えられていないわ！）
〈汐騒〉艦長のニューは心の中で鋭く舌打ちした。
飛び去る敵機の下から細長い物が投下される。ゆっくりと着水したソレは真っ白い航跡を引きずりながら〈汐騒〉に向け突っ込んでくる。
「敵魚雷４接近！ 誘導！！」
「デコイ投射！」
〈汐騒〉足立副長が命令を下す。艦の後部から囮が投げ込まれ、騒音をたてる。それに向かって２本が進路を変えたが残り２本が艦目がけ突っ込んできた。それを見たニューが懸命に作業を行っているスタッフに向けて激励を飛ばす。
「慌てずに処理しなさい、貴方たちなら出来るわ」
「了解、任せてください！」
ズズン！！
艦首と側舷にあるソナーからデータを受け取り艦の脇に装備されている40ミリＣＩＷＳが咆哮し２本の魚雷を撃破する。撃破された２本の水柱が〈汐騒〉の左舷に高々と上がった。
「も〜！ あのＵＦＯはナンデモ積んでいるんじゃないの？」
ニューは飛び去っていく巨大円盤に向けて罵った。
─ 第七戦隊４番艦・駆巡〈汐音〉ＣＩＣ・久保田 ─
〈ヴリル・オーディン〉が光った瞬間、次々とリングレーザーが〈汐音〉に向けて飛んできて直撃した。
ドガン！ ドカン！
「ＤＦに直撃２！ ＤＦ飽和しました！ 消失！」
「前甲板に被弾！」
凄まじい勢いで前部甲板に火の手が上がる。
「一番二番主砲破損、使用不可能！」
「くそっ、ダメコン急げ。１番２番、弾薬庫に注水だ」
「了解！」
赤城副長の命令を受け前甲板に向けダメコン要員が走っていき燃えさかる砲塔にホースから海水を浴びせ消火活動する。さらに誘爆を防ぐ為、弾薬庫に海水が注水された。その為、〈汐音〉の速度が若干下がった。
「ちっ、やられちまったな」
久保田が鋭く舌打ちし、燃え盛かっている前甲板を見た。
「ええ、悔しいですが。もう少しＤＦの出力があれば何とかなったかもしれません」
「これ以上はこの艦のサイズでは無理だろ」
頭をぼりぼりと掻いた久保田が悔しさのあまり床を蹴りつけた。
「そうですね、よほど画期的な出力を持つ機関ができないと。ＤＦ回復しそうか」
赤城副長が聞く。ＤＦを調整しているスタッフが四苦八苦しながら何とか復帰させようとしている。
「何とか・・・少しずつ回復はしてますが、ＰＤＦ１番２番、負荷により破損！ 残りもダメージあります、しばらくはまともに動きません」
久保田は再度、床を蹴りつけると先頭をいく旗艦〈金剛〉に向け攻撃をしている〈ヴリル・オーディン〉を睨みつけた。
─ 2096年12月10日 太平洋 〈金剛〉ＣＩＣ 隼人 ─
第七戦隊の攻撃は〈ヴリル・オーディン〉の厚いＤＦと多彩な装備による攻撃で翻弄され効果があまり上がっていない。はっきり言うと打つ手がなかった。転移世界が誇る対空護衛艦もＤＦに対して無力ではないにしても苦労している。
第七戦隊には一撃で〈ヴリル・オーディン〉のＤＦを貫通し本体に直接攻撃を加えるような武器がなかった。飽和攻撃をしようにもあのトリッキーな動きと速度ではミサイルの誘導を集中できるかどうか。
進路を不断に変え〈ヴリル・オーディン〉が〈金剛〉に向かってくる。その時だった、スコープを睨んでいたレーダー員はレーダーに極小さなノイズが出る事に気づいた。それは反応がとても小さく一瞬で消えるため、今気づいた。
「あれ？ レーダーにノイズが・・・」
「どうした？」
「ええ、レーダーに小さなノイズが出ます、極短時間ですが」
キュオン！ キュオン！
〈ヴリル・オーディン〉の真下に小さな水柱が２つ立った。
「なんだ？」
その様子を見た隼人が首を捻る。隣にいる副長が艦外カメラをズームアップし海面の様子を観察した。
「艦長、あれ・・・弾が突き抜けているんじゃないですか？」
「まさか・・・そこまで貫通威力がある弾か」
キュオン！
さらに機体の下にもう１つ水柱が立った。
〈ヴリル・オーディン〉はいきなり爆発、煙を吐き出しガクリと傾いた。
「艦長、チャンスですよ！」
その様子に目を見張った暁副長が叫ぶ。
「ああ、イージスで全艦のミサイルを誘導、飽和攻撃をかける！ 撃て！」
「発射後、次発装填急げ！」
〈金剛〉と〈汐海〉級３隻から同時に残ったミサイルが発射され、〈金剛〉のイージスが誘導し〈ヴリル・オーディン〉に向けて飛んでいく。
〈ヴリル・オーディン〉も必死に回避しようとするが先ほどの爆発で推進器がやられたのか機敏さが失せ高度も徐々に下がり始めた。
「主砲、撃て！」
それを見た隼人は対空砲も兼ねている主砲を使い〈ヴリル・オーディン〉に向けて砲撃も開始する。
ガンガンガン！
〈ヴリル・オーディン〉のＤＦに直撃し、さらに周囲で近接信管による爆発が続く。
その中からでもしぶとくレーザーを放ち反撃してくる。飛んできたレーザーは〈金剛〉のＤＦで弾かれ直接的なダメージはない。
「ＤＦ、現在50％！ 回復中ですがいつもより遅いです」
「これ以上貰うと消えかねないな」
その報告に浮き出た冷や汗を拭う隼人。
「予備バッテリーを使用しても直撃すると消費が激しいですね」
「ああ、さっきの被弾でバッテリーも兼ねている装甲が破損したからな」
〈ヴリル・オーディン〉は進路をこまめに変え、50.8センチ砲が次々と火を噴き、最後の悪あがきともいうべき攻撃を行う。だが〈金剛〉より離れた位置にバカでかい水柱が立つだけで被害はない。〈金剛〉以下〈汐海〉級３隻の激しい対空攻撃で機体が翻弄され正確な照準がついてないのだろう。
だが油断して直撃を貰えば第七戦隊は簡単に沈む。隼人は慎重に〈金剛〉を繰艦し不断に速度と進路を変え〈ヴリル・オーディン〉の主砲をかわし反撃を行う。
そうこうしている内についに〈ヴリル・オーディン〉に有効打を与えたのか炸裂以外の火が上がった。
「よし！ とどめをさすぞ」
〈ヴリル・オーディン〉はスピードも落ち更に高度も下がりつつあるのでＶＬＳから発射されるＳＭ-２や主砲、ＣＩＷＳを含めそれこそ全装備を使い攻撃する。
僚艦も含め４隻からの猛烈な砲撃による弾幕に〈ヴリル・オーディン〉の巨体は鋼鉄の砂嵐に巻き込まれたように外装が削られて爆発し、部品を飛び散らせる。
次々と〈ヴリル・オーディン〉の周りに爆発が起こり、さらに一際大きく爆発を起こすとガクッと大きく傾きそのまま海に向け墜落していく。
飛び石のように一度二度と水面を跳ねた後、着水し大爆発を起し沈みはじめた。
（あちゃ〜、あれでは回収は不可能だよな）
隼人はそれを見て額を押さえ心の中で溜息をついた。
（拿捕が難しいのは分かっていたが・・・空中戦艦が作れるかもしれなかったのに）
軽く頭を振った隼人は思い直した。
（ま、超兵器を相手にして無事に生きて帰れるだけ良い事なんだよな）
そう考え直し大爆発して沈んでいく〈ヴリル・オーディン〉を見つめた。観測員やレーダーから報告が上がってきた。
「超巨大飛行物体、撃墜を確認！！ 着水と同時に爆発しました」
「すごかったデスね、アタシUFOなんて初めてみました！！」
「だから・・・あれは超兵器でUFOじゃないって（汗）」
瑞葉は興奮気味に副長に向け話しかけ、それを呆れたように隼人が見ている。ＣＩＣの人間も気が抜けたようにほっとしていた。
暁副長はひとしきり瑞葉の相手にしたあと、〈ヴリル・オーディン〉が爆発し沈んだ位置から立ち上る細い黒煙を見て真面目な顔をつくるとぽそりと言葉を漏らした。
「敵の超兵器もどんどん強力になっていきますね。いつか我々もこの波の下に・・・」
その言葉を聞いて隼人や瑞葉、他の人間も副長を見つめた。それに気づいた暁副長は慌てて独り言を撤回した。
「いえ、失言でした。すみやかに帰還しましょう、艦長」
「ああ、第七戦隊、帰投するぞ」
隼人の号令にＣＩＣが喜びにわいた。
─ 2096年同日 太平洋 ？？？ ─
「・・・遊んでやるか」
黒いヘルメットとパイロットスーツに身を包んだ男の口元が歪む。
─ 2096年同日 太平洋 〈金剛〉ＣＩＣ 隼人 ─
ところが帰投しようと進路を変えた直後、異変が起こる。レーダーにはっきりとノイズが映ったのだ。レーダーに映るノイズは超兵器出現の予告ともいえた。
「不明機直上！ 高度60！！」
「なに！ 識別は？」
暁副長が慌てて艦外モニタを見るが未確認機は太陽を背にしているのでその姿を目視はできなかった。
「敵味方信号反応なし！」
「ちっ、対空迎撃、全装備自由」
隼人が命令を下すと同時に観測部からも報告が来る。
「不明機、サイズでました！ 10ｍ前後です」
「10ｍ？ 随分中途半端なサイズだな、戦闘機としては小さいが」
その報告を受け隼人は不思議に思った。
「不明機、発砲！」
キュオン！
真上から放たれた砲弾は〈金剛〉のＤＦを軽々と突き抜け右舷至近に水柱を立たせる。その水柱は大きくない、せいぜい駆逐艦が載せられる程度の砲だ。崩れ落ちてきた水柱が〈金剛〉の前甲板に落ち洗い流した。
「な、ＤＦを突き抜けただと！！」
立ち上る水柱に副長が驚きの声をあげる。隼人はその水柱を見て敵の攻撃が尋常じゃない事に気づいた。
（10ｍ程度のサイズでこの艦のＤＦを軽々と破れる兵器を持っているのか！ さっきの超兵器は・・・こいつにやられたんだ！）
「取り舵30！ イージス、オートスペシャル」
「オートスペシャル開始します！」
隼人は手加減をすれば〈金剛〉が沈められると思い最初からイージスを全自動攻撃モードにし、攻撃命令を下した。〈金剛〉から不明機に向けＳＭ-２やＣＩＷＳの弾幕が上がる。だが右舷側のＣＩＷＳが火を噴かない。
「どうした、右舷！ 弾幕薄いぞ！」
「駄目です、不明機は常に金剛の真っ正面、もしくは直上を位置取りしてます！」
「なに？ だとすると正面と直上に向けられる砲と誘導のＶＬＳしか迎撃できないのか。僚艦からの攻撃は！」
「かわされているようです！」
「ば、馬鹿な！ イージス艦を含む対空護衛艦４隻の攻撃だぞ」
レーダーからの報告に暁副長の顔が驚愕に引きつり唸った。
（くそ、ずいぶん向こうには余裕があるようだな）
「モニタ映像、修正完了、でました！」
ようやく解析の終わった画像が出てきた。その映っている映像を見て静まりかえるＣＩＣ。
その機体は太陽を背にしており逆光のせいで輪郭が金色に浮かび上がっている。その内側は闇を凝縮したような漆黒。
浮かび上がるシルエット、それは─────人型だった。
「ろ、ろ、ろ、ロ、ロっ、ロボットデスよ、アレ！ アレッ！」
「なにぃいいいい！ 超兵器にはそんなモンまでいるのか！！」
「スゲー！ アニメかよ！」
〈金剛〉のＣＩＣはおろかその機体を確認した艦橋も大騒ぎになっている。
ＵＦＯ型の超兵器もトンデモ兵器だったが今度は極めつけ、ロボット。幾ら訓練されたクルーでも驚かない方がおかしい。
「・・・黒い、機動兵器だと？」
隼人は目を細めモニターに映っている機体を見る。騒がしいＣＩＣの中で彼だけが冷静さを保っていた。あの夢の中でアキトは黒い機動兵器を駆っていた。
また紫の時と同じように目の前にノイズがちらつき目眩がし身体が浮き上がるような感覚をおぼえた。
* * * * *
襲いかかる弾幕をかいくぐり、敵機に向け左手に持ったハンドカノンを撃つ。
次々と爆発・四散する敵機。コクピットのアキトに通信が届きエアウィンドウが開いた。
「・・・アキト。２時方向俯角１５度、距離５０に戦艦１、装甲巡洋艦２、敵機６回り込んでくる」
「機種は」
ウィンドウボールに囲まれたラピスの左手は猛烈な勢いでキーを叩き、視線を次々と入れ替わるサブウィンドウに向けた。彼女の真紅の瞳や顔にはナノマシンの活発な活動によりパターンが現れ輝いている。ラピスはアイポイントカーソルの機能をもつ真紅の瞳で目まぐるしく視線を動かし必要な情報を見る為にサブウィンドウを入れ替えた。〈サレナ〉の管制と〈ユーチャリス〉の繰艦、自艦の火器管制処理を同時に行いながら、視線だけでサブウィンドウを確認、処理していく。
「・・・〈クーゲル〉」
〈ユーチャリス〉にいるラピスの管制指示を受けたアキトの〈ブラック・サレナ〉が虚空を駆け抜けていく。
推力を上げた〈サレナ〉に向け〈ステルンクーゲル〉から砲撃が放たれた。背中に装備している巨大なウィングバインダーが展開され右に稼働させる事で重量移動を起い、さらにスラスターを加えることで急激に機体を右に捻り込み〈クーゲル〉からの銃撃をかわした。
凄まじい横からのＧがアキトに襲いかかり、機体のフレームがミシミシとイヤな音をたてた。それを無視し立て続けにハンドカノンを連射。射撃の直撃を受け２機の〈クーゲル〉が四肢を撒き散らしながら四散し、もう１機は右腕を吹き飛ばされ逃げ出す。残りの３機は回避運動に入った。
さらに増速した〈サレナ〉はハンドカノンをラッチに固定すると右腕を吹き飛ばされた〈クーゲル〉の懐に飛び込みＤＦをまとった拳をコクピットに向け叩き込んだ。ボコリと胸部が陥没し動きを止めた〈クーゲル〉を足場にし方向を変えて離脱。その瞬間、他の〈クーゲル〉からの狙撃が胸部を潰された味方機に当たって爆発した。
多対一の戦いを続ける黒き機動兵器の背後に１隻の戦艦が浮かび上がる。三角錐状の艦体に円状のエンジン部分を組み合わせた優美な姿、そして艦色は“無垢”をイメージした白。
感情と心を凍結され戦う事でしか自身の存在意義を維持できないプリムローズ、ラピス・ラズリ。彼女と併せて“無垢なる刃”のコードネームが与えられた純白の戦艦〈ユーチャリス〉。
その優美な姿とは裏腹に重力波動砲２門、連装レールガン６基１２門という重武装を誇る艦が前方の敵艦に向けて立て続けにレールガンの射撃を開始。その後、急激に艦首を下げ戦艦と装甲巡洋艦の重力波動砲をかわした。
その動きは鈍重な戦艦とは思えないくらい素早く、下手をすると新米が指揮する駆逐艦より速かった。
先に〈ユーチャリス〉が放った砲弾が戦艦と装甲巡洋艦のＤＦを撃ち抜き次々と爆発が起きる。〈ユーチャリス〉は一端下げた槍先のような鋭い艦首を捻り上げるように持ち上げると敵戦艦の艦底方向から重力波動砲を撃つ。
漆黒の奔流が戦艦と装甲巡洋艦を飲み込み次々と爆発が起こった。もう１隻の装甲巡洋艦はかろうじてかわしたがダメージを受けていた。
アキトは残っている機動兵器を無視すると残った装甲巡洋艦に向けて全速力で突っ込んでいく。慌てたように巡洋艦から対空砲やミサイルが放たれるが〈サレナ〉は擦り抜けるようにかわす。
ミサイルの近接信管による爆発で機体が揺さぶられる。ハンドレールガンで装甲巡洋艦のＰＤＦを破壊し前檣に向けて突撃。
機体後部に装備されているテールバインダーのアンカークローが伸び前檣に突き立つ。それを支点に〈サレナ〉は艦橋の周り１周し高速で離脱にかかった。それと同時に伸ばしたテールバインダーが機体から外れ、その勢いで艦橋とセンサーが集中している部分に絡まった。
装甲巡洋艦の艦長が一瞬、訝しげな表情を浮かべたがハッとしたところでそれは起きた。
「これは爆導さ・・・」
絡まったテールバインダーが次々と爆発し艦橋の窓を叩き割り、センサーを吹き飛ばす。そこに〈ユーチャリス〉からの重力波動砲が襲いかかり装甲巡洋艦は消し飛んだ。
「・・・アキト、敵を殲滅」
感情を感じさせない平坦な声でラピスが報告してくる。
乗艦を撃沈され戻る場所を失い戦意を喪失した残りの〈クーゲル〉を簡単に仕留めた〈サレナ〉が〈ユーチャリス〉の艦橋の脇に浮かんだ。機体を覆う漆黒の装甲はかすかに青白い光を帯び淡く光っている。その感じは映画やドラマで見る亡霊を彷彿させた。
〈サレナ〉は相転移機関を搭載する事により得られた余剰の電力で漆黒の装甲を帯電させ電磁装甲化している。この機体が神出鬼没なのとあわせて〈ゴースト〉と呼ばれる由縁だった。
さらに機体前面に装備された複数のＰＤＦ発生装置にもバースト寸前になるほど流れ込み、それを多重にすることで戦艦並の強度を誇るＤＦを作り出していた。それ故に無謀な程の突撃が出来た。
「了解、ドックに帰還するぞ」
冷え切ったアキトの声が虚空に木霊した。
* * * * *
隼人は眩暈を覚え床に膝をついた。その様子を見た瑞葉が声を上げ、暁副長が慌てて駆け寄った。
「か、艦長！ 大丈夫デスか！！」
「しっかりしてください！」
「くっ・・・ああ、少し眩暈がしただけだ」
隼人は暁副長の手を借りて立ち上がり軽く頭を振ると大丈夫だというように副長と瑞葉に頷いた。そして視線を異形が映っているモニタに移す。
モニタの中では漆黒の機動兵器が舞うがごとき機動で砲弾やＶＬＳをかわし、手に持った銃でミサイルを狙撃して叩き落している。
（ふん、いい動きをするじゃないか。あれは・・・〈サレナ〉か？ いや、色は同じ漆黒だが形が違う）
隼人はモニタに映る機動兵器の外観をじっと見つめる。
隼人は愛機〈ブラック・サレナ〉の姿を思い出す。
〈サレナ〉はシンプルな丸みを帯びた姿をしていたがモニタの機動兵器は鬼を模したような刺々しい姿をしている。頭部からは２本の角に見立てたアンテナが出ており、頭部の一部と腰部、足先の一部が白くペイントされており、そして〈サレナ〉よりずっと人型に近い。
もっとも違っていたのは背部だった。〈サレナ〉には一対の巨大なウィングバインダーと１本のテールバインダーを装備していたが、今見ている機体にはウィングバインダーはなく、その代わり４本の腕のようにも見える太いテールバインダーがあった。その４本の可動型テールバインダーの先端にはアンカークローがついている。そしてそのテールバインダーはまるで生物のように蠢いていた。
隼人が鋭い視線でモニタを見つめているのを訝った暁副長が声をかけた。
「艦長？ どうしました？」
「・・・え？」
彼に呼びかけられ隼人は我にかえった。
（俺は今・・・何を考えていたんだ・・・？）
─ 2096年同日 太平洋 〈汐音〉ＣＩＣ 久保田 ─
第七戦隊の攻撃を軽々とかわしている黒いロボット。その存在と攻撃をかわす技量を見て乗組員が騒いでいる。
「オタつくな！」
久保田は一喝し艦橋中の喧噪を静めた。そしてモニタを睨みつけると吐き捨てるように言う。
「ナメられているな、アイツに」
その言葉に赤城副長も深く頷いた。
「そのようですね」
「一泡吹かせてやろうぜ、ヤツに」
（あのロボットが本気になれば装甲を施したとはいえ、重巡以下の装甲しかない〈金剛〉は瞬時に沈む）
４隻の中で一番強力な〈金剛〉のＤＦを軽々と貫く兵器なら真上から砲塔を撃ち抜いて誘爆・轟沈させる事も難しくない。砲弾の貫通能力は装甲に対して垂直が一番ある、〈金剛〉の15センチ砲塔程度なら余裕で貫通するだろう。
「司令に進言だ！ 〈金剛〉のイージスをフルに使って４隻同時にミサイルを発射、飽和攻撃を」
「了解」
通信士が慌てて旗艦に向けて通信を始める。腕を組んだ久保田は仁王立ちをしモニタ内のロボットを睨みつけた。
─ 2096年同日 太平洋 〈金剛〉ＣＩＣ 隼人 ─
「〈汐音〉艦長から進言がきてます。飽和攻撃を仕掛けたらどうかと」
「ああ、許可する」
隼人はあの機動兵器がどれだけの能力を持っているか見る事にした。
僚艦から次々とミサイルが発射され〈金剛〉のイージスシステムが４艦のミサイルを誘導、黒い機動兵器に向け飽和攻撃をかける。
─ 2096年同日 太平洋 〈汐音〉ＣＩＣ 久保田 ─
「貰った！」
ドドドドドン！
久保田は全方向から襲いかかるミサイルで撃破され墜落する不明機を想像した。その想像を実現とするべく黒いロボットに向け次々とミサイルが殺到し爆発が連鎖し蒼穹に爆炎が舞う。
その様子を見て久保田は安堵の溜息をついた。これで今回の戦が終わる、そう思ったのかもしれない。だが、その安堵を嘲笑うように驚愕の表情を浮かべたレーダー員から震えを帯びた声があがった。
「反応・・・消えてません！」
爆炎と爆煙の収まった中にソレは浮いていた。機体は青白い光を帯び左手にいつの間にか剣らしき物を持っている。
そして久保田もレーダー員と同じように愕然とした表情を浮かべた。
「・・・ばかな」
（あれだけの飽和攻撃を食らって撃墜どころか無傷だと！！）
愕然としている久保田に向け目視で見ている見張員の絶叫する声が聞こえた。
「敵、急降下ッ！」
「全力で迎撃しろ！！」
久保田の絶叫がＣＩＣに木霊した。
─ 2096年同日 太平洋 〈金剛〉ＣＩＣ 隼人 ─
漆黒の機体がぼんやりと青白い光を身にまとった瞬間、身を翻し旗艦に向け急降下を開始する。
その機体に向け４隻の艦からＶＬＳやＣＩＷＳが猛射された。
漆黒の機動兵器は撃ち込まれる砲弾をぎりぎりでかわし近接信管が作動するより早くすり抜け手に持った銃でミサイルを狙撃する。背中から延びていた４本のテールバインダーがヘビが鎌首をもたげるように動き、後ろから襲いかかるＳＭ-２に向けビームを連射、次々と爆発するミサイル。
「あれは・・・電磁装甲！？ それにビーム兵器だと！？」
漆黒の機体はさらに手に持った剣でミサイルを切り飛ばし一気に駆け抜けた。漆黒の機体の背後で爆発が起こった。鬼神のごとき戦闘能力を見て瑞葉が乾いた笑いをあげる。
「あは、あは、あは、あははは・・・全く効いてませんケド（汗）」
「・・・（汗）」
すでに暁副長は愕然を通り越し唖然どころか呆然になっている。
突撃してくる機体に隼人は信じられない物を見るような目を向けた。あの夢で見、自分が駆っている〈ブラック・サレナ〉を彷彿させる勢いで自分に襲いかかってくる漆黒の機体。知らぬ間に隼人の額には冷汗が流れ、鼓動が高まり、あの機体をもっと間近で見ようと自然に身体が動いた。
「すまん、暁副長！ 俺は艦橋に上がる」
「あ、艦長！」
呆然としていた暁副長が慌てて止めようとするが、隼人はＣＩＣを飛び出し艦橋に続く階段を駆け上った。艦橋のドアを勢い良く開け、窓に近づく。その様子に唖然とした表情を浮かべる艦橋要員たち。
隼人は無謀な突撃を敢行し、正面から向かってくる弾幕に怯みもしないパイロットの度胸に恐れ入った。
（自分に向かってくる弾幕が恐くないのか？ ヤツは！）
漆黒は艦首２００ｍのところ、海面ギリギリで機体を持ち上げると進路を〈金剛〉に向け突撃してきた。
（まずい、このままだと〈金剛〉が撃破される！）
隼人は慌てて手元のマイクを引っつかみＣＩＣに向け攻撃命令を下した。
「主砲迎撃！」
「了解！」
だが数射もしないうちに砲撃が止まってしまった。
「どうした！」
「駄目です、潜りこまれました、主砲の俯角足りません！」
そしてこの艦の最後の守り手、魚雷迎撃用の40ミリ機銃が漆黒の機体に向けて咆哮する。
漆黒の機体は右にロールをうちその銃弾をもかわしていくが、ついに捕らえた！
だが次々と命中した弾丸は弾き飛ばされ致命傷を与えていない。
「やはり・・・ＤＦか」
主砲の狙えない超低高度５ｍを波飛沫どころか後方に海水の壁を作り上げながら凄まじい勢いで突っ込んでくる漆黒の機体は〈金剛〉のＤＦ直前で剣を振り下ろす！
バチンという音にと共にＤＦが・・・一瞬消えた。
消えたＤＦを突破し黒い機体は艦橋を目がけて向かってくる。
「ぶつかるぞ、伏せろ！」
その命令と迫りくる機体のスピードに艦橋にいた皆が慌てて床に伏せた。だが隼人は伏せる事なく仁王立ちし漆黒を睨みつけた。
隼人は漆黒の機体がぶつかる直前に艦橋内を覗くように鬼面の赤い目を光らせたのを見ていた。
〈金剛〉の艦橋を機体を捻ることでギリギリで避けた機体が離脱にかかる。
その後を追うように第七戦隊全艦が攻撃するが、漆黒の機体は苦もなくかわしきり水平線の向こうに消えると同時にレーダーからも消失した。
─ 2096年同日 太平洋 不明機 明人 ─
「旧式艦とはいえ、さすがイージスを積んだ艦か。なかなかの対空砲火だな、幾つか被弾したか」
黒いパイロットは感情を感じさせない声で呟くと赤く灯る警告灯を見る。
そしておもむろに通信機のスイッチを入れた。
「ブラック-オセラリス、帰投する」
− あとがきという名の戯言 −
瑞葉：最後まで読んでいただきありがとうございます！
隼人：ありがとうございます。
瑞葉：って事で今回の超兵器はＵＦＯこと〈ヴリル・オーディン〉が相手でしたね、ついでにというか２体の黒い機動兵器もデスけど。
隼人：そうだね、〈ブラック・サレナ〉と〈ブラック・オセラリス〉。どちらも相転移機関を搭載した機動兵器だけど。
瑞葉：この２機って重力波動砲は使わないんですか？ 相転移機関を搭載した場合、だいたいのＳＳでは使うじゃないデスか。
隼人：今のところ使う予定はないよ、あくまで防御のみにしか使わない。っていうか使っちゃうと艦船型の超兵器や戦艦いらないし（苦笑）。
瑞葉：あ！ 確かにそうですネ。あのサイズで戦艦を凌ぐ攻撃力を持っていたら他はいらないか。母艦となる空母があればイイ訳デスね。
隼人：そう、〈サレナ〉の方は技術的に可能だけど、〈オセラリス〉の方はこのサイズに載せられる、小型化する技術が出来てないんだ。転移世界では相転移機関は動力としての小型化が最優先だったから。攻撃兵器はその後になっているけど。まあ攻撃力に関しては別な物を用意してあるから。
瑞葉：ま〜た、変なネタを使おうとしているんデスかね、作者。
隼人：どうだろうね、とりあえず重力波動砲は使わないってことで。
瑞葉：了解デス。ついに風雅島侵攻作戦デスか、どうなるんデスかね。
隼人：とりあえず俺たち下っぱは戦略に関われないから沖田提督次第じゃないか。
瑞葉：そうデスね、見せ場が一杯あるといいケド。
隼人：見せ場かあ・・・この部分のプロット見せてもらったけど・・・。
瑞葉：え？ え？ どうなんデス？
隼人：ま、お楽しみってことだよ、うん。
瑞葉：え〜〜〜！！ ズル〜イ、艦長！ 自分だけ知っているなんて。教えてくだサイよ！
隼人：まあまあ。あ、そろそろ時間だよ。
瑞葉：ぶう、そうやってまた誤魔化す。いいデスよ〜だ。次回、連合海軍物語29話「前哨戦」デス。
代理人の感想
ばかうけ。
つーか「ハウニブー」（ナチスが開発していたといわれる円盤型戦闘機）と来たもんだ！（爆笑）
いやー、最高。
それはそれとして「フライングパンケーキ」はともかく、人型兵器は前に出てきましたよね？
CICのスタッフも見てたような記憶があるのですが、そうすると彼らの反応が腑に落ちないような。
それとも勘違いだったかな？