─ 2096年12月15日 太平洋上 ─


「……マジかよ」


狭いコクピットに身を押し込んだ偵察員・美杉少尉の呟きが木霊する。それもそのはず眼下に見える光景を見れば誰しもそう呟くであろう程のものがそこにあった。

蒼海を踏みしだき長大な航跡を残しながら進む戦艦、その周りをミズスマシのようにチョロチョロ動いているのは護衛の巡洋艦や駆逐艦だろう。水平線とまでは言わないまでも美杉の視界を埋め尽くすだけの艦艇群が輪陣型を組み堂堂と進撃しているのだ。


「美杉、迎撃に注意しろよ」

「了解」


パイロットを勤める小石川卓大尉がレーダーを気にしながら後席にいる美杉に声をかけた。


2096年12月11日、偵察衛星によってハワイから侵攻を開始するウィルシア艦隊が確認された。真珠湾にいた艦艇ほぼ全てが出撃したことにより全面侵攻と判断した連合海軍作戦司令部はまず衛星により侵攻艦隊の規模を知った。

それは情報を知った作戦司令部の人間が顔面を蒼白にするほどの規模で「予想と現実を見る事は全く別物だ」というのは司令部の人間が改めて思ったことだった。


そこにいる全戦艦は転移世界最大の戦艦〈大和〉を凌ぐ超々ウルトラドレッドノートの群れ。補助艦艇との大きさの対比からいずれも主砲の口径が50センチ以上の主力艦が16隻。それに重・軽合わせて巡洋艦が30隻、駆逐艦が80隻。大型艦に対して多少少なめだったがそれでも十分に多いといえるだろう。

さらにその後方から風雅島上陸の主力となる巨大な揚陸艦と思しき艦が2隻、超大型航空母艦が2隻、護衛の補助艦艇が20隻確認できた。移動サービス部隊もかなりのもので給油艦や補給艦、工作艦を含む侵攻艦隊総数は300隻を超えていた。

衛星により艦隊の規模などはある程度の偵察は出来ていたがやはり目視による偵察も欠かせない為、トラックに駐屯するナーウィシアの航空母艦〈瑞天〉に搭載されている偵察仕様の〈疾風〉が行う事になった。


小石川と美杉の2人は〈瑞天〉の中でも飛行歴が長くベテランと言えるペア。彼らの乗る機体は新鋭機〈疾風〉を改造した偵察仕様で、鋭い機首にレーダーやセンサーを詰め込み翼下につり下げた戦術偵察用ポッドには電子カメラが装備されている。撮影した画像データや偵察結果はリンクにより瞬時に〈瑞天〉に送られ解析が行われるようになっていた。


「大尉、ウィルシアは本気みたいですね」

「ああ、これが訓練だったら連合海軍オレたちは楽だったんだがな。撮影を開始する」

「了解! カメラ作動……確認! どうぞ」

「よし! いくぞ」


(戦艦4隻を中心にした輪陣形が1、2、3……5つ。最後尾のは化け物が中心か)


美杉は 機材を操りながら眼下の様子を観察する。一際巨大な艦を中心に多少小型の戦艦が取り囲みんでいる。さらに外周りを囲っているのはおそらく1万トン級の重巡洋艦だろうが中心に居る戦艦と比べるとまるでタグボートのように見えた。それほどまでに中心にいる戦艦は巨大だった。


(俺たちは本当にあの艦隊に勝てるのかよ)


美杉の恐れにも似た呟きを残して偵察型〈疾風〉がウィルシア艦隊上空を駆け抜けていく。




連合海軍物語

第30話 大艦巨砲の祭典 その1


─ 2096年12月15日 超兵器〈グロース・シュトラール〉航海艦橋 ─

「提督! 連合の偵察機です、いかがされますか?」


参謀長が大将の階級章をつけた提督に向け話しかけている。ウィルシア第7艦隊総司令官アラン・サーペント・スミスはその言葉に顎に手を当て少し考えたあと、参謀長に向け笑いかけた。


「放っておけ。偵察機を撃ち落として功を誇るのも情けない話だからな」


その余裕ある態度に参謀長も同様の笑みを浮かべ頷くと後方に控えていた通信参謀にも聞こえるように返事をした。


「はっ、では後方の〈アウルス〉には手出し無用と打電しておきます」

「そうしてくれ」


参謀長が言うと同時に通信士が上陸艦隊にいる〈アウルス〉に向け通信を送った。 アランは素早い対応に満足そうに頷くと被っていた海軍帽を取りパタパタとあおいだ。旗艦である超兵器〈グロース・シュトラール〉の航海艦橋の中はクーラーが効いており決して暑いという事はない。

だがW.ハルゼーの再来と言われている豪胆な彼でも緊張しているのかもしれない、率いているのは前代未聞、世界最強の無敵艦隊アルマダなのだ。

ちなみにハルゼーというのはこの世界の第二次大戦において戦艦を主軸とした打撃艦隊を率いて活躍した合衆国の提督だ。性格は遅巧より拙速を尊び、艦隊を殴り込ませるタイプの作戦において傑出した指揮能力を示した。

第二次大戦でハワイに侵攻したウィルシア(この時は米国だったが)は日本海軍の八八八艦隊と激戦を繰り広げその戦功から今のウィルシアで彼の名は“勇猛果敢”の別名になっている。


「連合は出てくるでしょうか?」

「ヤツラが出てくるならこっちとしても手間がはぶける、我が艦隊の打撃力で一挙に殲滅するだけだ。オレとしてはこの陣容を見て降伏してくれるのが一番良いんだがな。それが叶わないならグアムあたりで決戦に持ち込みたい」


海軍帽を被りなおし顎に手を当てながら飛び去っていく偵察機を見て考えている。


「そうですね、それ以上だと補給に問題が出ます」


(だが連合海軍はそれにのってはこないだろうな。こちらの図体は大きい、普通なら補給線の寸断を狙い兵糧攻めで来る。ならグアム辺りでの決戦は難しいか)


「提督、こちら偵察機からの入電です。連合海軍はグアムから撤退、艦隊の一部は硫黄島に向かっている、との事です」


参謀長の言葉についさっきまで想像していた事が起きているのを確認し頷いた。


「そうか、やはり引き込む気でいるな。グアムを捨てたか」

「撤退した敵の艦隊は……硫黄島ですか」

「ただでさえ連合海軍は戦力不足なのにトラックにしないというのは変だな」


アランは手元のコンソールから偵察によって得た戦力配置を記したマップを開いて観察し腕を組む。連合海軍のほとんどの戦力はトラック諸島に集結している。ただでさえ戦力不足なのにこの艦隊だけが硫黄島に向かうというのは不自然だった。


「日本防衛の為ではないでしょうか? 先日日本とナーウィシアは同盟をしましたから」

「……」


無言のアランを訝しげに思い総参謀長が首を捻り呼びかけた。


「提督?」

「旧式を含むとはいえ戦艦3隻という数は侮れないか。艦隊の後ろで蠢動されると面倒だ、潰すぞ。超兵器〈アラハバキ〉とTF75の〈サウスダコタ〉級4隻とその護衛艦群を回せ」

「はっ! ですが……そうなるとこの分隊のエアカバーと補給の問題が出ます、本隊の空母〈アウルス〉2隻のうち1隻を外してTF75の護衛に当たらせた方が良いのでは?」


参謀長の言葉に少し考えるとアランは首を振った。


「さすがに本隊の護衛をおろそかにはできん、強襲揚陸艦〈デュアルクレイター〉には海兵隊将兵も乗っているからな」

「確かにそうですが」


アランの言葉にいささか不満そうに答える参謀長。海兵隊や陸軍なんぞ適当に護っていれば良いと思っているのかもしれない。


「政治的な問題だよ、これは。彼らはあの島の攻略に不可欠だ。それに彼らの安全も考えないとな、油断であの2隻を沈められたら海兵隊や陸軍は海軍を信用しなくなる。そうなったら侵攻作戦など行えんからな」


参謀長は尤もだというように頷いた。


「判りました。今回の戦力なら短時間でカタがつくでしょうからエアカバーは取りやめます」

「ああ、そうしてくれ。それと分隊の分も含めて補給艦隊への襲撃は空母と潜水艦だろう。〈アウルス〉艦載機は積極的に使い索敵して見つけ出し、戦力を集中して叩きつぶせ」

「イエスサー!」


(戦力を集中するのも良いが図体が大きすぎるというのも苦労するぜ)

アランが指揮するウィルシア第七艦隊は以下の陣容になっている。

まず太平洋艦隊旗艦を勤めるのは転移型超兵器・レーザー戦艦〈グロース・シュトラール〉。転移世界に存在した〈ナハト・シュトラール〉とは異母姉妹艦でレーザー兵装を主武装とした艦だった。大気圏内におけるレーザー兵器の実験艦として竣工した。

強力な各種レーザーを搭載しているが、その中でもこの艦の主武装となっているのは〈ナハト・シュトラール〉が搭載していた大口径レーザー兵器“光鉄槌”を更に強力化したもの。秘匿名“聖剣エクスカリバー”荷電粒子砲と呼ばれる光学兵器だった。もともと宇宙空間での使用を前提に基地防衛用の大口径砲台として開発された。そしてこれを元に艦艇用にダウンサイジングし搭載される事が決まっていた。来るべき宇宙戦艦時代の主兵装として準備されていたものだ。

〈グロース・シュトラール〉はレーザー兵器が主武装のため大気圏内では環境によってレーザーの衰退が激しく攻撃力が安定しない。そのため兵器としては使用できる条件が限定され使い勝手が悪く〈ナハト・シュトラール〉級2番艦〈プロミネンス〉と共に航宙艦の試金石テストベットとして生まれ変わる予定だった。

改装を受けおったのは転移世界最大の複合軍需企業コングロマリットでもあり宇宙開発・装備の第一人者“マーストリヒ”で〈グロース〉は宇宙戦艦、〈プロミネンス〉は〈オセラリス〉〈エステバリス〉などの第二世代機動兵器を搭載した機動兵器母艦に改造される計画だった。

だが〈プロミネンス〉は改装を受ける前に復活したテュランヌスとの紛争で失われ、〈グロース・シュトラール〉は機関の換装を終え本格的な対宇宙用の改造直前に転移に巻き込まれている。その為、この世界においてもっとも新しい相転移機関を搭載している超兵器だ。

この世界に存在する超兵器の出力は高い順から〈グロース・シュトラール〉〈エグザバイト〉〈蜃気楼〉〈イワト〉となっている。ナーウィシアの切り札でもあり現世型超兵器と言える〈和泉〉の搭載している機関出力は〈蜃気楼〉の約7割で〈イワト〉より若干落ちるくらい。これは転移世界では旧式となっている〈荒破吐-改〉と同程度の出力となっている。


転移型超兵器は〈グロース〉以外に2隻の〈荒破吐-改〉が参加している。転移世界の日本海軍が使用していた艦で明人の駆る〈エグザバイト〉のワンマンオペレートの実験に参加した艦だ。もともとはワンマンオペレート計画によって生まれた無人艦だがウィルシアが改装を行い有人の通常戦艦として使用されている。転移世界では超兵器初の量産艦として歴史に名を残す艦だがすでに旧式化し、他の艦より数段戦闘力が落ちる。それでもこの世界ではDFやレーザー兵器を搭載した強力な超兵器として存在している。


さらに転移兵器と同名を持つ現世型転移兵器・〈アラハバキ〉級ドリル戦艦1隻がいる。こちらは転移兵器ドリル戦艦〈アマテラス〉、改-アマテラス級〈イワト〉を参考にこちらの技術のみで建造した艦だ。

ドリル戦艦の名の通り艦首にある1基の巨大なドリル(元になっている〈アマテラス〉は1基、〈イワト〉は2基)と側舷から出ているカッターが特徴の色モノ戦艦で、艦首のドリルで衝角突撃をし接近戦を行うという時代を逆行した艦だった。

艦首から前檣楼に集中して配されたPDF発生装置で多重のDFを展開し敵の砲撃を弾き飛ばしながら突撃、艦首の巨大なドリルで敵艦の側舷に体当たりをし穴を開け浸水させる。装甲が薄い艦なら一撃で大穴を開くほどの威力をもっている。幾らダメコンが優れていても艦腹に大穴を開けられては出来ることなど限られてくるだろう。

それでいてこの世界の主力艦と同じ51センチ砲も搭載し38ノットを誇る快速艦である。ある意味、普通の戦艦よりやっかいで手に負えない艦と言えるかもしれない。

ただこの艦には弱点がある。DFが艦の前方に集中して配された分、後部主砲周りを除いてDFが展開できなかった。本来は後部全体にも展開すべきだったが如何せん現世型の悲しさ、この世界で造られる機関では出力が足りない。それを補う為に垂直装甲を斜めに配す事で装甲厚より高い防御力を持たせるなど様々に工夫している。〈アラハバキ〉級はウィルシアで一番最初に造られた超兵器だけにこの国の建艦技術の粋を集められており集大成とも言える艦だった。


超兵器以外ではこの世界の戦艦で改装によりDFを搭載した51センチ砲艦で〈ロードアイランド〉級戦艦8隻〈ロードアイランド〉〈モンタナ〉〈メリーランド〉〈ノースダコタ〉〈インディアナ〉〈アラバマ〉〈マサチューセッツ〉〈イリノイ〉がいた。〈ロードアイランド〉級は50口径51センチ3連装を4基12門を持ち、超兵器を除けばウィルシア最強の通常戦艦だ。ただでさえ強力な艦なのにDFを搭載した事と8隻という数をもって戦えば転移型超兵器にも勝る艦になっている。


同じくDFを未搭載の通常型戦艦〈サウスダコタ〉級が4隻〈サウスダコタ〉〈ミズーリ〉〈ニュージャージー〉〈テキサス〉が主力となっている。こちらも〈ロードアイランド〉と同様、50口径51センチ砲を搭載しているが3連装3基9門と若干火力が弱いが連合海軍の主力艦〈周防〉級と同じレベルなので特に問題にされず今回の作戦に参加している。


補助艦艇では転移兵器・超高速巡洋艦〈ヴィントシュトーシュ〉が2隻、最初からDF搭載した〈シカゴ〉級重巡8隻、通常型の〈ペンサコラ〉級重巡4隻、通常型〈タイコンデロガ〉級軽巡12隻、通常型〈キッド〉級駆逐艦80隻。


さらに本隊とも言える強襲揚陸部隊は現世型転移兵器・超大型強襲揚陸艦〈デュアルクレイター〉級2隻。〈デュアルクレイター〉は転移世界の米軍が使用していた〈エセックス〉級をベースに船体を拡張し双胴にした艦で主砲は20センチ連装砲を16門、各種機銃を搭載し速度は30ノット。艦載機は対潜ヘリを4機、攻撃ヘリ4機を搭載している。その他に対艦兵装として魚雷艇が積まれており雷撃母艦としての機能も持っていた。ラジコン誘導のホバー魚雷艇で、誘導魚雷を搭載しており敵艦を集中雷撃で撃沈する。この魚雷艇を片胴当たり20隻、合計40隻を搭載している。

もともとはサイズが大きいとはいえ普通の強襲揚陸艦として設計された〈デュアルクレイター〉だがこの大艦巨砲世界では「襲われた時に自分で敵を撃破できない艦はいらん」という無茶な意見がまかり通って搭載されたという経緯があった。


護衛部隊として対空型軽巡〈アトランタ〉級が4隻、〈キッド〉級駆逐艦16隻。航空攻撃対策として転移兵器・超大型空母〈アウルス〉級2隻、艦載機総数180機が準備されている。〈アウルス〉は《遺跡》の技術でようやく実用化された核融合型機関を搭載した原子力空母で〈改-ニミッツ〉級にあたる。こちらは転移世界の米軍が使用していた物だ。

艦載機は〈アウルス〉内に残されていたF-42〈ナイトメア〉を模倣しナーウィシアの3式戦〈飛燕〉を凌ぐ戦闘機として作り上げた艦上戦闘機F4〈ブリザード〉、スーパーホーネットを模倣した戦闘攻撃機FA2〈サンダーボルト〉、E2-C〈ホークアイ〉を模倣した艦上偵察機E1〈ビジョン〉を搭載している。転移世界より航空関係の技術力が劣るため、いずれも元となった機体の7割程度の能力しかもっていないがこの世界では十分高性能だった。


この巨大艦隊が連合海軍との決戦と連合海軍の最重要拠点・風雅島を目指し堂々と蒼海を踏みしだき侵攻していく。



─ 2096年12月15日 風雅島作戦指令室・沖田 ─


(ついにやってくるのか)


沖田は衛星写真を見ながら呟く。総数300隻にも及ぶ大艦隊に昔の事を思い出した。あのテュランヌスとの最終決戦時もこれに近い数のレジスタンス連合の艦艇を率いて戦ったのだ。その自分は司令部に閉じこもって観戦している。それを思うとあの戦いが酷く遠く懐かしく感じられた。そしてあの巨大艦隊を率いているのが元の世界でレジスタンスの仲間だったアラン・サーペント・スミス。諜報部門の調査により彼が指揮を執っているのを知ったのだ。転移世界とこちらでは同姓同名の別人とも言えるがそれでも沖田、いや影護四補にとっては向こうの世界では友人であり、ライバルだった男なので気になる名前だった。

向こうの世界でアランは猪突猛進を逆手に取られ一度はテュランヌスに苦杯を舐めさせられ艦隊を失っている。そういう意味ではこの世界で猛将ハルゼーの再来と言われているこちらの彼は向こうのアランに近いのかもしれない。

四補がテュランヌス太平洋方面総司令ゴーダ・スペリオルをニューギニア沖で超兵器〈ナハト・シュトラール〉と共に倒し太平洋の制海権を取り戻してからは再建なった米第7艦隊を率い、超兵器マレ・ブラッタ級3番艦〈ダイアンサス・シャンティ〉を自沈に追い込み終戦まで戦い抜いている。


その猛将が率いる艦隊と自らが指揮する艦隊が戦うというのは影護四補にとっては皮肉以外の何者でもなかった。もっとも四補だけの感傷ではあったが。沖田は一つ頭を振ると自分の使える戦力の再計算を始める。

ナーウィシアが保有する〈周防〉級戦艦は本国艦隊の4隻〈周防〉〈蝦夷〉〈日向〉〈伊勢〉、風雅島守備を受け持っている2隻〈扶桑〉〈山城〉、更に4個機動艦隊“青龍・朱雀・白虎・玄武”から抽出した46センチ搭載の巡洋戦艦〈比叡〉級の〈比叡〉〈飛騨〉〈蔵王〉〈白馬〉4隻の合計10隻。そのうちDFを搭載しているのは風雅島に配備されている〈扶桑〉〈山城〉の2隻のみとなっている。

日本海軍は本土守備艦隊である第一戦隊から〈周防〉級戦艦〈ながと〉〈しなの〉とトラック基地所属の同級の〈ひたち〉の3隻、旧式の〈武蔵〉級戦艦〈むさし〉〈おうみ〉2隻を主力にしているがいずれもDF未搭載だった。現在、日本では連合海軍の英雄・双岳隼人率いる第七戦隊に撃破された双胴戦艦〈はりま〉の修理とDF搭載を突貫工事で行っている。また2隻の周防級戦艦〈かい〉〈きい〉は搭載改装を終え訓練を始めたところだった。

それ以外の国、韓国・オーストラリア・東南アジア各国が加盟する環太平洋連合全体では旧式も含めた戦艦8隻(内訳は周防級4隻、武蔵級4隻)、戦艦総数23隻となっている。

もっとも総数だけは多いものの1/3は旧式戦艦であり、多国籍連合軍のためまとまりにかけている。その代表ともいえるのが中国海軍で改装を理由にグアムに駐屯していた周防級戦艦〈魯智深〉〈武松〉を引き上げ、今回の海戦の不参加を表明してきている。ウィルシアの侵攻が予想される今のタイミングで引き上げるという露骨なまでの対応はこの海戦後の戦力図を睨んだ返答だった。

ウィルシアの超兵器と戦えば最悪全滅、軽くても数隻は失われる。日本は本土を護る最強の戦艦戦隊である第一戦隊からすら2隻を抽出し連合海軍に提供している。中国としてはその弱体化している日本海軍との差を広げる絶好のチャンスと捉えていた。今の時点で中国は〈周防〉級5隻を保有しさらに3隻を建造中、日本も〈はりま〉を入れれば7隻とほぼ同数で拮抗しているからだ。

これで連合海軍と日本がウィルシア迎撃に失敗した場合、主力の戦艦総数は大きく落ち込みアジアの覇者は中国になりかねない。その事も考慮して日本海軍は第一戦隊を本土に残していたのだが状況はそんな事を許さなかった。日本海軍総司令である御統浩一郎は第一戦隊に所属する〈ながと〉〈しなの〉〈かい〉〈きい〉4隻の中から〈ながと〉〈しなの〉の2隻をトラックに送り出した。

その見返りとしてナーウィシアの機密ともいえる新開発された超高速給弾装置と新型砲弾、各種転移技術を提供された。そして浩一郎は釧路基地に展開している沖田直属の第一戦略爆撃兵団(戦略爆撃機〈飛鳥〉を20機、〈富嶽-改〉40機、護衛機として5式戦〈疾風〉80機)の指揮権を一時的に預かっている。万が一中国が日本に侵攻を行った場合、この戦略爆撃機を用い一撃で北京を壊滅させる事を暗に中国首脳部に伝えていた。


一方、沖田の切り札とも言える準超兵器級戦艦〈高千穂〉級は現在、ドックで改装と整備を行っており予定されているトラックの決戦には出せそうもない。かと言って突貫工事で艤装を行っている超兵器〈和泉〉も出撃できる程工事が進んでいない。

いずれにしても連合海軍首脳部がトラック沖海戦を望んでいる以上、沖田としては命令には逆らえない。兵力不足なのはもとより時間もないというジレンマ。にも関わらず彼は冷静に迎撃作戦の指揮を行っている。戦うからには絶対に勝つのが影護四補のモットーだったが現段階ではそれが望めない以上、勝てる戦力が整うまでは涙を飲んで機会を待つしかない。

沖田は椅子の背もたれに身体を預け目をつぶり昔を回想した。


四補は“真紅の夜明けライジングサン”時代に何度も超兵器と戦って艦を損傷し、最後には相打ちになり自艦を撃沈され失ってきた。


「自分の艦を生き残らせるのも実力ではないかね?」


あまりにも損失の多い結果に“真紅の夜明けライジングサン”にいたとある幹部に嫌味がてらそう言われもした。さすがの四補も前線に出ないその幹部に超兵器の恐ろしさが判るか、と怒鳴りたい気持ちだったがただ「そうですね」とのみ答えた。幹部は四補の態度にふんと鼻を鳴らすと去っていった。そのとき仲間割れをしている余裕は“真紅の夜明けライジングサン”には全くなかったからだ。


その屈辱を背負って激戦を生きのび───そして最後には勝つ。

そんな言葉が合うほどの経験を積んでいる。今より悪い状況は何度もあり、死地を彷徨うことはざらだった。その経験が今の彼、沖田十五に冷静さを与えている。一時的に敗者になることに躊躇いはなく、名より実を取ることが四補にとっての生き方だった。むしろ名に関してうるさいのは後方にいる政治家たちだ。

負ければ無能という評価を与えられ下手をすれば迎撃総司令という職を更迭されかねない。沖田としては無能という評価(実際はほど遠い評価だが)を貰わない程度に善戦しトラック沖海戦をほどほどに切り上げなければならない。

彼としては使える既存艦だけで損害を与えウィルシアの艦隊を風雅島に引き込む必要がある。偽装的な敗走が本格的な敗走にならないようにしつつ敵を油断させて侵攻を続けさせる状況を作り出さなければならない。そのあたりのさじ加減が非常に難しく沖田の頭を悩ませているという状況だった。


「沖田提督! ウィルシアが艦隊を分けました!」


ドアがノックされ月臣中佐が駆け込んでくる。沖田は背もたれに預けていた身体を起こし息を切らせている月臣を見た。


「分派だと!?」

「はい、超兵器1、〈サウスダコタ〉級4と護衛艦艇群です、方向は硫黄島」

「グアム駐留艦隊が後方で蠢動することを嫌ったか」

「そのようです……このままいけばグアム艦隊は全艦沈没、硫黄島守備隊も艦砲射撃で玉砕しかねません。それと艦隊司令の東少将から援軍要請が出ていますが」


沖田というかナーウィシアとしては日本と同盟を結んだ立場上、硫黄島の守備を空っぽにできなかった。本当ならただでさえ少ない艦を分けずに全ての艦をトラックに集中したかったが政治的配慮もあり仕方なくグアム駐留艦隊の打撃部隊を貼り付けておいたのだがそれが裏目に出ている。このままでは各個撃破され連合海軍の戦力はさらに落ちてしまう。


「……残念だが援軍は送れない。作戦のフリーハンドを与え『独自の行動をせよ』と伝えてくれ」

「で、ですが日本近海にいる我が“玄武”と“白虎”の両機動部隊を使えば……」


沖田は月臣の言葉を聞き威圧を込めて彼の顔を見た。


「戦艦ごときに“玄武”と“白虎”を使い損耗させる訳にはいかない。仮にそこにいるのが〈高千穂〉や〈和泉〉だったとしてもだ。あの2つの艦隊はウィルシア補給線寸断の切り札、彼らには彼らの重要な任務があるんだ。増援戦力としての投入は認められない」

「て、提督」


沖田の言い様に月臣の顔が青ざめていた。彼もこの世界の住人である以上、沖田の下で働いていても大艦巨砲主義者には変わりがない。その彼の前で沖田は航空戦力と新鋭戦艦の名を出した上で「戦艦ごとき」と切って捨てたのだ、青ざめもするだろう。

さらにこの発言がナーウィシア内にいる戦艦擁護の艦隊派に聞かれようものなら沖田は暗殺されかねなかった。そういう二重の意味で月臣の顔は青ざめたのだ。ナーウィシア軍内で沖田は艦隊派でも航空派でもない中立派だと思われていたが今の発言を聞けば本音はどちらを主にしているのかが分かってしまう。

実際のところ、ナーウィシアの航空戦力は沖田が作りあげ育てたと言っても良い。航空派の人間からは“航空艦隊の父”とさえ言われている。それに加え積極的に新戦艦の開発も行っていたために中立という風に見られていたのだ。

これは沖田十五いや、航空主兵世界で育った影護四補からすれば当然のことだった。それは自分の育った世界の流れを見れば判ること。どう考えても特殊な状況を除けば戦艦より空母を主体とした航空戦力の方が対費用効果コストエフェクティブネスに優れている。作戦行動範囲、作戦状況により様々に変えられる兵装、空母自体の建造費や竣工時間も戦艦に比べて短く安い。

ただ沖田が完全航空主兵主義者と違っていたのは戦艦を完全否定している訳ではなく、使いどころさえ間違えなければ戦艦は使い道があると思っている点だった。戦艦が主戦力となっているこの世界では国力の象徴として。そしてそれを見せつける砲艦外交。実戦では艦隊決戦はもとより巨砲による砲撃支援にも使える。最後に超兵器に対抗するためのプラットフォームとして。

さらに言えばこの世界の《遺跡》との契約で「この世界をあるがままに戻す」という制限がある以上、完全に戦艦を捨て去り航空主兵にする事は出来なかった。もどかしい限りだがそれを選ぶのはこの世界の人間たちであり異邦人である影護四補という人間が勝手に決めて良い事ではないからだ。あくまで彼は間違った道を正しその行き先を示すだけの人間としてこの世界の《遺跡》に呼ばれた。


「月臣中佐、私の命令は変わらない。至急伝えたまえ、彼らには兵力だけではない、時間も必要なのだ」


沖田は浮かびそうになる苦渋の表情を無理やり引っ込め努めて事務的な口調をすると何でもないことのように言った。だが机の下にある白手袋をした拳は爪が食い込むほど握りしめられている。今の段階では艦隊にフリーハンドを与え独自の作戦行動でこの難局を乗り切ってもらうしかなかった。人の価値を知り人材収集癖をもつだけに今まで最前線で戦ってきたベテランの将兵たちを見殺しにするような選択をしたくはなかった。だが迎撃総司令という立場では局地的な戦闘結果よりこの後の戦局を考えなくてはいけない。


「了解しました」


沖田の内心を察したのか月臣も同じように事務的な口調で答えると今の命令を伝えるべく駆け出す。その後ろ姿を無表情に見送りドアが閉まるのを確認した沖田は深く息を継ぐと両手を口の前で組むとひっそりと呟いた。


「……この作戦には第三・第四機動艦隊と日本海軍の〈改-たいほう〉4隻が絶対必要なんだ」


それは納得できない自分を無理やり納得させようとするような独り言だった。



─ 2096年12月22日 硫黄島 ─

慌ただしさに包まれたグアム駐留艦隊司令部で東は先任参謀を待っていた。目を瞑り泰然自若を装っていたが指先がイライラと椅子を叩いている。仮にそんな事がなくても司令部の人間には東が苛立っている事は分かり切っていた。


───はっきり言って状況は酷く悪い。


援軍要請はしたものの味方が来る見込みはほとんど0。艦隊全ての戦力を持ってしてもウィルシアの分艦隊に及ばず、グアム駐留艦隊はこのままいけば敵戦艦群の巨砲で間違いなく消滅する。誰もがそう考えていたが口に出す者はいなかった。自分たちは伝統ある日本海軍、そしてその代表エリートとして連合海軍に参加しているという自負が不満を抑え込み任務を精励している状態だった。


「東提督!」


その慌ただしい司令部内に飛び込んでくる先任参謀。東に走り寄ってきた彼が声をかけると東は瞑っていた目をくわっと見開き問うた。


「どうだ?」

「……ダメです。迎撃司令部からは援軍は送れず、駐留艦隊司令の裁量にまかす、と。ですが偵察機からの戦力情報が送られてきました」

「そうか、それを元に参謀連に作戦を立てさせてくれ」

「はっ!」

「御統総司令からは?」


先任の言葉に東の拳がぎゅっと握りしめられた。今度の問いに先任参謀は悔しそうな口調と泣きそうな表情を浮かべる。


「……何も返答はありませんでした」

「……そうか」


東は無念の表情を浮かべそうになるのを何とかこらえそっけなく答えた。だが内心では憤りと諦めと疑問が入り混じりぐちゃぐちゃになっている。自らが所属する日本海軍上層部が何も言ってこないのだ、日本本土に何かあったのか? それとも単に返答を惜しむ事で援軍が送れないというのを知らせたかっただけなのか。

援軍が来ない事には最初から諦めがついている。援軍要請を行ったのは生き残る事を最後まで諦めないためだった。もしかしたら援軍が来るかもしれない、そんな淡い希望もあった。だが迎撃司令部からは援軍を拒絶され、自らが所属する日本海軍上層部からは無視された。

主戦場はトラックであり風雅島なのだ。戦力差が有りすぎる局所的な戦闘に貴重な戦艦を投入するほど連合海軍や日本海軍の台所事情は豊かではない。だが返答くらいは出来るはずなのだ、それなのに東の艦隊は無視されている。


(ワシは何のために戦っていたのだ?)


東はいまさらそんな疑問を持ったが少し考えたあと内心で苦笑した。そんなことは最初から分かり切っているじゃないか、と。


(ワシは自分の手で日本を護りたかった、だから日本海軍に入った。すでに護るべき価値もない国かもしれないがあそこには家族や仲間がいる。なら艦隊は全滅するかもしれないがワシのやるべき事は決まっているわな)


東は自分の得た答え向け心の中で大きく笑みを浮かべた。最後に自分の矜持を護るべく先任に向けて命令を下した。


「まあ、分かり切った事だったな。我が艦隊は硫黄島の将兵が撤兵出来るだけの時間稼ぎをする! 全艦出撃だ!! それと島にいる兵の撤退も急がせろ!!」

「はっ!」


先任参謀の報告に意気消沈していた司令部内だったが東の命令を受け慌ただしさが蘇る。自分たちの指揮官が決めた以上、彼らに出来るのは最善を尽くす事だけだった。





─ 2096年12月24日払暁 太平洋 ─


連合海軍グアム駐留艦隊とウィルシア別働隊は硫黄島から150キロの海域でお互いを視認しあった。すでに敵のレーダー波を感知しており両陣営とも戦闘体制は整っている。

参加艦艇は連合海軍が周防級戦艦〈とさ〉、〈比叡〉級巡洋戦艦〈筑波〉〈鞍馬〉の3隻、軽巡〈ちくま〉〈くま〉2隻、新鋭駆逐巡洋艦汐海級の〈しらゆき〉〈はつゆき〉、〈汐騒〉2型駆逐艦8隻に対して、ウィルシア別働隊は超兵器〈アラハバキ〉、戦艦〈サウスダコタ〉級4隻、〈ペンサコラ〉級通常重巡2隻、駆逐艦16隻と連合海軍の2倍の戦力。戦艦はいずれも51センチを搭載し、さらに超兵器の存在で2倍以上の戦力差を作り上げていた。

本来グアム駐留艦隊は戦艦4、重巡2、4個水雷戦隊の打撃艦隊と空母2隻を主軸とした機動艦隊の2つで構成されていたが機動艦隊は補給線寸断作戦の為に別行動を行っている。打撃部隊はこれ以前の戦いで〈かが〉と一個駆逐戦隊が沈められており、中国保有の2隻〈魯智深〉〈武松〉は先述した通り勝手に引き上げられて駐留艦隊の正規数に達していない。その為ナーウィシアが急遽〈比叡〉級の2隻〈筑波〉〈鞍馬〉を派遣していた。〈もがみ〉級重巡の〈なかつ〉〈なか〉、1個駆逐戦隊は硫黄島撤退のために残してある。輸送艦が足りないのでその代わりになっているのだった。

本来なら軽巡より打撃力のある重巡が海戦に参加すべきだったが重装甲のため速度が31ノットと遅く、老朽化した2隻の軽巡の代艦である最新鋭艦・汐海級2隻がいる為に残された。重巡はその船体の大きさを考慮されたおかげで海戦に参加きず、この二隻と1個駆逐隊の艦長たちは不満たらたらだったが東が理を説いてなんとか宥めたのだった。

東としてはどう考えても打撃力で勝てない以上、1ノットでも速い艦を参加させバケモノや敵戦艦の鼻つらを引き回して弾薬と燃料を無駄使いさせ撤退を狙うしかない。それと同時に味方が硫黄島から逃げ出す時間を与えようという作戦だった。同航戦となった場合、消耗戦に引きずりこまれるため基本的には距離をあけた反航戦を行い一撃離脱を繰り返す事で時間稼ぎを行う。

主力艦である〈とさ〉や〈筑波〉〈鞍馬〉と〈サウスダコタ〉級の速度がほぼ同じ33ノットだが、あの忌々しい超兵器バケモノは40ノット近い速度が出る。両軍合わせて最速艦は〈汐海〉級の〈はつゆき〉〈しらゆき〉60ノット(DF展開なし、展開した場合は48ノット)。〈とさ〉と2隻の巡洋戦艦は砲撃をしつつ敵艦を硫黄島より遠方に誘致し、タイミングを見計らって水雷戦隊を突撃させ雷撃で〈アラハバキ〉の足止めを行おうと思っている。撃沈は無理にしても〈アラハバキ〉の速力さえを落とせば格段に生き延びる確率が高まるからだ。

問題は敵の目的がグアム駐留艦隊の撃滅だけではなく硫黄島への艦砲射撃を任務としていた場合で、及び腰のこちらを無視して硫黄島に突入しかねない。そうなった場合、艦隊は彼らの前に立ちふさがるしかない。その後は消耗戦に引きずりこまれ、こちらの見積もりより短い時間で戦闘が終わる可能性が高い。敵艦隊を硫黄島に向かわせず引き付ける事が東にとって最重要課題となっている。



─ 2096年同日 超兵器〈アラハバキ〉CIC ─


連合海軍・ウィルシアTF75の両艦隊は40000mの距離をおき反航戦で戦闘を開始した。艦隊速度は双方33ノットという高速砲撃戦で砲弾を叩き込みあう。だが距離と相対速度66ノットいう速度差ではいかなレーダー照準でも敵艦を完璧に補足できず、一航過目ではむなしく水柱が立ち上がるばかりで命中弾が出なかった。

お互いに180度回頭し再度砲弾を撃ち込むも連合海軍は距離を置きつつ砲撃しており真っ正面から戦うつもりはないように見えた。もっとも真っ正面から戦っても連合海軍の勝ち目が薄いのは双方とも判りきっている。


(……ちっ、臆病者チキンめ!)


CICにこもっている〈アラハバキ〉艦長ジョージ・ルクス大佐は内心で敵の臆病さを罵っていた。もっとも連合海軍が遠距離砲戦を挑んできている理由は十分分かり切っている。それでもなお不満を口に出してしまうのはやはり納得が出来ていないからだろう。


「キャッシャー司令、どうやら連合海軍てきは及び腰のようですね」


ルクス艦長の不満の混じった言葉にTF75を預かるホバート・キャッシャー少将は予想通りといった感じで答えた。


「おそらく味方が撤退するまで時間稼ぎをするつもりだろう」

「では?」


ジョージの期待のこもった視線を受けキャッシャーは教え子の質問に答える教師という表情を浮かべる。


「我々が受けた命令は敵艦隊の撃滅だ。だが私は硫黄島にいる連合軍も攻撃すべき対象だと思っている。特に滑走路は破壊すべき対象だ」

「確かに滑走路は破壊した方が良いと思いますが、彼らは見逃しても問題はないのでは?」


ジョージとしては見逃すつもりはなかったが司令の考えを聞きたくて問うたのだ。


ちなみに硫黄島には連合陸軍・海軍の航空基地はあるが対艦兵装をもっている5式戦〈疾風〉は沖田の命で真っ先に日本本土に移動していた。最新鋭機を操る彼らは出撃を望んだが沖田から最優先で自身と機体の保持という命令が出ている以上、無茶はできない。残されている3式戦〈飛燕-改〉にしても誘導対艦ミサイルである六式は支給されていたが島にあった物はナーウィシアの機動部隊〈玄武〉〈白虎〉に全て運びこまれ1発も残っていない。

通常爆弾や通常魚雷で戦艦を攻撃は出来たが被害も大きいことが予想されたため、攻撃したくても出来ないといった状況だった。仕方なく海鷲たちは撤退する味方の上空援護という役に甘んじている。


「そうだな。だが敵艦隊が時間稼ぎを狙っている以上、このままではいつまでたっても任務が達成できない。そこで彼らを無視し硫黄島を砲撃し嫌でも正面対決に持ち込む。彼らの目的が硫黄島の兵力の撤退なら必ず我らの前に立ちはだかるはずだ」


キャッシャーは「判ったかね?」と言いたげにやりと笑った。


「確かに彼らの目的が撤退の援護なら正面対決に持ち込むしかないですね」

「そういう事だ。彼らが戦闘を挑めるように艦速と航路を調整してくれ」

「イエスサー」



─ 2096年12月24日 戦艦〈とさ〉CIC ─

(まずい! 奴ら、ワシらを無視して硫黄島を!!)


「東提督! 敵が……」


剣を打ち合うがごとき3度目の交差戦が終わりレーダーと艦外カメラの映像を見ていた東は自分たちがもっとも恐れていた策を敵が使ってきた事に焦りを覚えた。ここまで速い段階でこの手を使ってくるとは思わなかったからだ。最低でもこちらを1隻は沈めてから行うものだと思っていた。だが旧式艦も含めた3隻ではとるに足りないと思われたのかウィルシアの艦隊は反転せず真っ直ぐに硫黄島に向かっている。


「艦隊進路180度!! その後最大戦速! 何としてでもウィルシアの前へ出ろ、急げ」


東の命令を受けた艦隊が見事な一斉回頭を行う。戦闘により撃ち減らされ与えられ、乗っている艦こそ使い古されていたが彼らは今まで戦い抜いてきたベテランなのだ。東の艦隊は艦速を最大の33ノットにし白波で舳先を洗いながらウィルシアに追いすがる。敵艦隊の速度は31ノット、30分もあれば砲戦距離にまで追いつける。

だが敵の意図が判っているだけに東の顔には苦渋が浮かんでいる。このままいけば同航戦になり消耗戦に引きずり込まれるのが見えている。敵はどうあっても自分たちの艦隊を見逃す気はないようだった。そして余力があれば硫黄島を艦砲射撃しようと思っている。


小憎らしいが東としては敵の意図に乗るしかない。さもなければ硫黄島の将兵は51センチという巨砲を使った艦砲射撃で吹き飛ばされるのだ。それだけは何としても防がなければならなかった。



─ 2096年同日 戦艦〈とさ〉CIC ─

キャッシャーとジョージはタイミングを計っていた。敵の先頭艦の射程内に最後尾にいる〈サウスダコタ〉が入ったと同時に急減速、取り舵を切り全砲塔が使えるT字を描き全門斉射で連合海軍を粉砕する。その為、連合海軍との砲戦を想定して敵が変進した場合の距離は計算し終わっており、弾はいつでも撃てるようにすでに装填してある。

そして連合艦隊からの発砲炎と砲撃音が確認できたと同時にキャッシャーは減速を命じた。予め当て舵を行い急激な回避行動が移れるようにしてあった。命令を受けた5隻の戦艦の速度が急激に落とし瘧が起こったように艦首を震わせながら大きく左に艦首を振る。それと同時に左舷側に向いていた全ての砲塔が火を噴いた。

その結果、〈サウスダコタ〉を狙っていた〈とさ〉の砲弾は着弾予想地点を外され巨大な水柱を立てただけだった。日本海軍の砲撃は散布界が小さい事でも知られており、その結果は砲撃の優秀さを物語る物だが今の場合は逆に広い方が良かった。


「な!!」


東は敵の機動に度肝を抜かれた。ウィルシア艦隊は敵前で大変進を行い進路を変えた。自分たちの戦力、3隻の戦艦のうち2隻が46センチの旧式艦とはいえウィルシアは良い度胸をしているとこんな場合にもかかわらず感心してしまった。


(自艦の防御性能を信じてこの変進を行ったのだろうな。我が方もあれくらい防御力があれば……)


自分のこの艦隊では防御力が不足し絶対に出来ない機動を敵は行っている。

そして速度が落ち補足されやすくなるにも関わらず敵がその機動を行った理由は───敵の部隊はT字を描くことで全ての砲が使える、一方自分たちは前部しか使えない。


「まずい、進路を変えろ!」


敵の艦上に次々と発砲炎が沸き起こり遠雷のような音が次々と蒼海に響き渡った。東の命令を受けた〈とさ〉艦長が慌てて速度を落とし面舵に切る。予め変進を考えていたウィルシア側と違い連合海軍側は全力で追っていた。その為、速度の乗っていた艦の機動は急激に変えられず惰性で暫く進んだあとようやく艦首を振り始める。

〈とさ〉の艦首が右に向き始め艦の傾きが激しくなる。乗組員がこのまま〈とさ〉は転覆するのではと思うほど前檣楼を傾むかせながら艦首を右に振っていく。〈とさ〉の後ろにいた〈筑波〉〈鞍馬〉もそれに続き艦首を右に向けた。

あらかた変進を終わったところで連合海軍3隻の周囲に水柱が高々と吹き上がった。ウィルシアの戦艦5隻、合計45門の50口径51センチ砲の威力は凄まじい。決して小型とは言えない〈とさ〉の艦体を小突き回し地震のように揺らした。


最後尾にいた〈サウスダコタ〉から放たれた砲弾が命中したのは連合海軍の回頭と斉射が終わった直後だった。〈サウスダコタ〉の放った9発のうち2発の51センチ砲弾が3番艦の位置にいた〈鞍馬〉に命中、その衝撃で6万トンを超える艦体が一瞬沈んだあと浮力の反動で少し海面から浮き上がった。それに伴い艦が揺れ改装に次ぐ改装で後付された部品で凹凸の多い前檣楼が二重三重にブレて見えた

* * * * *


〈鞍馬〉が属する〈比叡〉級は連合海軍が使用する戦艦の中でもっとも古い艦だ。全長288m、艦幅36mの艦型に45口径46センチ連装砲4基8門を搭載し最大速度33ノットを誇る艦として竣工、竣工当時は高速強武装艦としてその名を広めた。

その姿は転移世界の第二次大戦で大日本帝国海軍が使用した〈長門〉に似ている。〈長門〉を1.5倍にスケールアップし46センチ砲を搭載した艦といえば判りやすいかもしれない。違いは副砲でケースメイト方式ではなく連装砲塔が艦の中央構造物の左右に2基づつ配置されている点が違っている。

〈長門〉と姿は似ていても〈比叡〉級は速度を優先にした巡洋戦艦として竣工した為、主砲は46センチでも主装甲は50口径40センチ対応でしかない。さすがに砲塔は46センチ対応になっているが基本的に装甲厚を削り重量を減らす事で高速を得ている。

その為、46センチ以上の砲を搭載した戦艦との真っ向対決では非常に分が悪い。本来は持っている高速を生かし一撃離脱をするという戦闘方法が彼女には適していたが戦艦の速度が30ノットオーバーになっている現在、〈鞍馬〉の高速という優位性はあまりない。むしろ装甲の薄い事が災いして真っ向からの砲撃戦に向いていない点が問題視され、ナーウィシアでは対空火器を増設し機動部隊の護衛艦として使われている───。

* * * * *



直撃を受けた〈鞍馬〉の後楼は副長を始めたとした乗組員を瞬時に抹殺し木っ端微塵に爆砕、後楼の直後にあった3番砲塔は被弾により空き缶を叩きつぶしたようにひしゃげ2本の砲身のうち1本が吹き飛び、棒を投げたようにくるくると回転しながら海に落ちた。破壊された箇所から火災が起きもうもうと黒煙が上がりはじめ艦の周囲を覆っていく。


「被害極限急げ! それと各部被害報告」


その命中弾の衝撃を手近なものに捕まることでやりすごした〈鞍馬〉宮内艦長の命令にすぐに各部から返答が返ってくる。


「後檣楼に直撃1 後楼消失、副長行方不明!」

「3番砲塔に直撃1、破損により使用不能。弾薬庫の周囲の温度が上昇!!」

「弾薬庫に応急注水!」


間髪をいれずに宮内は命令を下す。一刻も早く処置をしないと弾薬庫の誘爆で〈鞍馬〉が轟沈しかねないからだ。


「了解!!」

「機関全力稼働可能!」


その報告に宮内は少しだけほっとしたが、現況を思い返し苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。後檣楼が消失する程の被害では副長を始めとした乗組員の生死はほぼ絶望的だ。さらに3番砲塔の破損によりただでさえ敵より劣る戦闘力が低下している。泰然自若が求められる艦長といえど完全に感情を抑えきることは無理があった。


宮内の懸念は自艦が完全に補足されてしまったことだった。45口径46センチ砲を搭載し40000mを超える射程距離があるとはいえ、弾を遠くに飛ばすのと当てるので全く意味が違う。すでに砲戦距離は35000mになり十分射程範囲に入っている。補足され直撃を受けた今、このままだと敵艦の砲撃で〈鞍馬〉がめった打ちにされてしまう。幸い射撃の直後だったので第三砲塔の誘爆はなかったもののいつまでこの僥倖が続くか判らなかった。


一方、〈鞍馬〉に直撃弾を出した〈サウスダコタ〉では歓声が上がっている。4人姉妹の長女として誕生した彼女は5隻の戦艦の中でもっとも年長だった。その彼女が一番若いアラハバキより先に命中弾を出した事で〈サウスダコタ〉に乗る乗組員の士気は天をつくほど上がっている。

この世界では戦艦の乗組員は基本的にエリートだがその中でも更に選ばれた人間しか乗ることのできない超兵器より先に命中弾を与えたのだ、その歓喜も事情を知っている人間が聞けば頷けるものだろう。特に〈アラハバキ〉の乗組員からはおばさん扱い・・・・・・されている〈サウスダコタ〉に乗る兵からすれば「優秀艦いいおんなになるにゃ時間が必要なんだよ。新鋭艦わかいばかりが戦艦おんなじゃないんだぜ」と言うかもしれない。


TF75から続けて放たれた第2射で今度は〈とさ〉に命中弾が出た。当てたのは〈アラハバキ〉と2番艦である〈ニュージャージー〉だった。〈とさ〉は2隻合計18発を撃ち込まれ後部甲板と第3砲塔天蓋に被弾。対51センチ防御をしている砲塔の装甲はこれに耐え、命中した敵弾は跳弾となりあらぬ方向に飛んでいく。後部甲板を襲った弾は上甲板を突き抜けその下にあった着弾観測用のヘリコプター格納庫を直撃し爆砕した。砲撃戦を行う事を考えていたのでヘリの燃料は抜かれ予備の航空燃料は厳重にしまわれていたため、火災はそれほどでもない。

他の弾は近弾となって弾片被害で機銃が破壊され、配置に付いていた乗組員を殺傷した。〈とさ〉は周囲に沸き立った水柱に突っ込み、滝にも匹敵する勢いで落ちてくる海水が弾片の直撃を受け痛みにうめいていた乗組員をひっさらっていく。直撃ではないので艦自体の戦闘力の低下はなかったがこのままでは人員の損害が増えると考えた東は機銃と高角砲要員を艦内に避難させた。

2番艦の〈筑波〉も似たような状況だった。ウィルシア艦隊の3番艦〈ミズーリ〉4番艦〈テキサス〉の斉射は近弾になっておりこちらも断片被害が出ているが距離があったため深刻な被害は出てない。


ウィルシアの方は〈とさ〉から放たれた9発の砲弾のうち2発が〈アラハバキ〉に直撃弾を出たもののDFであっさりと弾き返されている。〈筑波〉から放たれた46センチ砲弾は第3射で〈ミズーリ〉を挟叉した。それを見た〈ミズーリ〉艦長が「ちっ!」と舌打ちをする。自艦の砲撃精度が連合に劣ることに腹だたしさを覚えながら気合いを入れるように「連合ごときに負けるな」と叱咤する。それに応えるように〈ミズーリ〉の主砲が〈とさ〉に向けて咆哮し爆炎を吐き出す。〈鞍馬〉が放った弾は〈サウスダコタ〉に遠弾となり水柱を立てただけだった。


「……まずいな」


東の呟きは見事に敵の策略に引っかかった事を自覚したからだ。敵は硫黄島ではなく、あくまで艦隊を叩きつぶす事を狙っている。そうでもなければあれほど速く小さく変進することも測距を終えている事も理由がつかない。

そこまで想像出来なかった東のミスだが、彼の精神はすでに疲れ切っており判断力が鈍っている。弱体な艦隊、援護が全く期待出来ない味方、硫黄島の将兵の安否など、さまざまな事柄が東の心に負担をかけ判断力を奪っていく。彼自身は死ぬ事を恐れはしないがこの精神的重圧から逃れられ誰かに変わって貰えるなら喜んで艦隊司令という地位を譲るだろう。


「距離をあけて反航戦に持ち込めないか?」

「同じような速度ですから……それに敵艦隊は自艦の装甲の厚さを信じているようで最短距離で迫ってきています」


先任参謀がどうしようもないといった感じで答えた。先ほどの砲撃で一度は反航戦になったもののウィルシアはすぐに取り舵を切って今度は連合海軍を追うという形になっている。硫黄島への進路が外れた事は良かったが完全に消耗戦になりかけている。〈とさ〉の周囲には敵から放たれた砲撃でひっきりなしに巨大な水柱が立ち上る。速度の緩急をつけ変進をこまめに行っているため直撃はないものの至近弾の断片被害により艦体を乱打され被害が徐々に重なっている。堅牢な51センチ砲塔は無事だったがこのままいけば他の構造物はいずれ耐えられなくなるだろう。


「当初の予定通り速度の速い護衛艦の雷撃戦でかき回して敵旗艦の足を止めてはどうでしょうか?」


東は決断を迫られた。本来ならもっと硫黄島から引き離した時点で行うはずだったが、このままいけばまず間違いなく〈とさ〉は再度命中弾を浴び戦闘力が落ちる。そうなっては遅い。万が一の場合、身体を張ってあのバケモノを止められるのは〈とさ〉だけなのだ。


「……それしかないか。戦艦が援護して何とか雷撃位置まで辿りつかせよう。〈とさ〉と〈筑波〉はこれまで通り敵戦艦を狙い間接的に援護、ダメージを受けた〈鞍馬〉は水雷戦隊の直接援護だ」


東は個艦の戦闘割振りを決めると先任参謀を見た。


「妥当だと思います」

「第一、第二水雷戦隊、突撃」


東の命令が薄暗いCICに響いた。



─ 2096年12月24日 軽巡〈くま〉戦闘艦橋 ─


戦艦隊の砲撃戦に巻き込まれないように距離をとっていた2個水雷戦隊。2隻の旧式軽巡〈くま〉〈ちくま〉、8隻の〈汐騒〉級駆逐艦、そして2隻の〈汐海〉級が艦隊司令の命令を受け進路を変える。小型艦だけに回頭は速く戦隊指揮艦〈くま〉の最高速度38ノットに合わせて敵艦隊に向け突撃していく。

〈汐騒〉級駆逐艦は隼人たち第七駆逐隊が使用していた物と同じ2型なので微弱ながらもDFが展開できる。そして〈汐海〉級はいわずもがな。この水雷戦隊でDFが展開出来ないのは旧式となった軽巡2隻だけだった。


「よし、ようやく出番が回ってきたか」


突撃命令が下されずイライラしながら戦艦隊の戦闘を見守っていた第一水雷戦隊旗艦・軽巡〈くま〉後藤田艦長の口から言葉が漏れた。


「雷撃で超兵器の足止めしろとの事ですが」

「問題は敵の水雷戦隊だな、さすがに倍の戦力は厳しいし重巡もいる。生半可な攻撃は却って俺たちが返り討ちにあう。こっちが討ち取られる可能性は高いな」


〈くま〉に座乗している司令の草加武少将がどうしたものかと唸る。その隣ではこの艦の艦長と参謀を勤める秋津稔大尉が同じような顔をして敵水雷戦隊を見ていた。


「では?」

「どうせ被害を受けるなら確実にあの超兵器を足止めしよう」


草加としては2隻の軽巡で重巡を牽制し、DFを搭載する〈汐騒〉級8隻を盾に使い2隻の〈汐海〉級を敵戦艦の至近にまで肉薄して確実に雷撃でダメージを与えるという作戦を練っている。最大戦速が48ノットで精度の高い6式誘導魚雷を積んでいるのはあの2艦だけだし、DFを積んでいるから最後まで戦闘力を残しているだろうという読みだった。

その代わり格上の艦種と戦う〈くま〉〈ちくま〉や2倍の戦力の盾になる8隻の汐騒級駆逐艦は大きなダメージを受ける事が予測できたが今の時点で考えられる方法はこれしかなかった。


「そうですね。ですが敵が来るのがもう少し遅ければ私たちもDF艦に……」



2番艦〈ちくま〉の後に後続する〈汐海〉級の精悍な姿を見た先任参謀の非建設的な愚痴に草加と後藤田は苦笑したあと改めて真面目な表情を作った。


「仕方ないさ、敵はこっちの都合など考えてはくれん。それに東司令官も援護をしてくれる、俺たちの戦いがこの後の戦闘に影響を与えるんだ、旧式だからって手を抜いていい訳じゃない。気合いをいれないとな」


秋津大尉の愚痴も仕方がないのかもしれない。日本本土で訓練を終えた〈汐海〉級2隻が硫黄島に到着したところでこの海戦が起こった。さすがにこの状況では訓練を終えた艦とはいえ〈くま〉より練度が劣る〈しらゆき〉や〈はつゆき〉へ指揮機能は移せず第1水雷戦隊旗艦は〈くま〉のままとなったのだ。


「はっ!」


司令と艦長の態度を見て自分が非建設的な愚痴を言ったという事に気づいた秋津参謀が赤面しそれを隠すようにビシリと敬礼する。


「突撃、我ニ続ケ」


草加の落ち着き払った口調が戦闘艦橋に響き渡った。





「連合の水雷戦隊が突撃してきます!」


連合艦隊の動きを察知したレーダー員と見張員から同時に報告が届く。その報告を聞いたキャッシャーが迎撃命令を下した。


「水雷戦隊、迎撃せよ」


連合と同じように砲撃戦に巻き込まれないように離れていた2隻の重巡と16隻の駆逐艦が艦隊から分離し戦隊ごとに5隊に分かれ、連合の駆逐艦を獲物に見立て猟犬が取り囲む如く疾駆する。連合の第一・第二水雷戦隊を包囲するように中央の2隊が若干下がった凹陣形で進撃。その先方に2隻の重巡〈チェスター〉〈アナハイム〉が20センチ砲に仰角をかけ水雷戦隊の先頭をいく軽巡に狙いを定めた。


その砲撃を阻止すべく〈鞍馬〉の46センチ砲が火を噴き敵重巡の前面に巨大な水柱を立てる。瀑布が〈チェスター〉の前に高々と立ち上り視界を遮った。


「戦艦は何やっているんだ、しっかり押さえておけ!」

「ちっ! こっちの数が多いんだ、さっさと敵を片づけろてんだ」


〈チェスター〉艦長サムスン大佐と〈アナハイム〉艦長ゲイツ大佐が同時に罵り声を上げる。46センチ砲弾が起こす巨大な水柱に巻き込まれないように回避つつ〈チェスター〉と〈アナハイム〉は再度砲を2隻の軽巡に向けた。




─ 2096年12月24日 軽巡〈くま〉戦闘艦橋 ─

(重巡は〈鞍馬〉が押さえているな、今なら敵駆逐隊は各個撃破できる!)


「取り舵15度!」


囲まれると察した草加は包囲網が完成する前に突破すべく先手を打つ。その意を受けた後藤田の声が戦闘艦橋に響いた。第一・二水雷戦隊は最後まで生き残って貰わなければならない〈汐海〉級2隻を右舷に置き、8隻の汐潮級駆逐艦のDFで護り単縦陣2列で突進。進路を変えた事で左舷には3隊の水雷戦隊が迫っているからだ。

さらに草加の命令を受け〈くま〉〈ちくま〉は隊列から分離し〈鞍馬〉の砲撃で足止めを食らっている重巡に向けて砲火を開く。立て続けに15センチ連装砲が火を噴き敵の重巡の周囲に水柱が上がる。それに負けじと敵の重巡も砲撃を開始する。初弾は2隻の軽巡のより外れたところに水柱が上ったが時間がたつにつれ徐々に近づいてくる。

一方、連合駆逐隊はウィルシアの第一水雷戦隊4隻に向けて駆逐艦8隻合計12.7センチ64門の集中砲火を浴びせた。その攻撃を受けたちまち炎上する敵駆逐艦4隻。連合海軍側も敵の反撃を食らったが〈しまかぜ〉〈うみかぜ〉の2隻がDFを貫通され小破しただけで包囲網を突破出来るかに見えたがそうは問屋が卸さなかった。

仇を取れとばかりに全速で突撃してきたウィルシアの3個駆逐隊12隻96門の砲撃を浴びる。立て続けに〈汐騒〉級のDF上で爆炎と炸裂光が煌めき最適角度を捕らえた砲弾がDFを貫通し煙突に穴を開け機銃をなぎ払った。直撃を受けた主砲の砲身が折れ曲がり砲塔が吹き飛ぶ。命中し炸裂した砲弾の破片が兵員を襲い艦上が朱に染まった。

〈汐騒〉級のDFは最適角度を捕らえた12.7センチ弾を防ぐほどの出力はない。このDFが防げるのはそれ以下の弾や弾片でしかなく、角度を捕らえられれば確実に貫通し被害が出る。それでもDFのないウィルシア側より被害は少なく、反撃を試み少なからずウィルシア側にダメージを与えた。


駆逐艦同士の壮絶な殴り合いでお互いの艦隊に被害を重ねていく。一際大きな轟音が響き、ウィルシア駆逐隊の集中砲撃により第一駆逐隊旗艦〈しまかぜ〉が魚雷発射管を直撃され誘爆を起こし轟沈。お返しとばかりに連合駆逐隊が放った魚雷が駆逐艦〈ナッソー〉と〈モリガン〉に命中、艦体をくの字に折れ曲がらせ沈没した。


今の段階で連合側が1隻沈没、2隻大破、残りの艦も小破以上の被害を被っている。一方、ウィルシア側は12隻中2隻沈没、2隻大破、残りも連合と同じように小破以上の被害を受けている。連合側より艦数が多いにも関わらず被害が大きいのはDFの有無がある為だろう。


「奴らを相手をするな! 俺たちは〈しらゆき〉〈はつゆき〉をあのバケモノの近くに送り届ける事が任務だ。このままバケモノに突撃する」


〈しまかぜ〉の最先任艦長が戦死したため、変わって第二駆逐隊の指揮官である〈いそかぜ〉艦長の命令が飛び、戦闘可能な〈汐騒〉級5隻が〈はつゆき〉〈しらゆき〉を護りつつ戦艦群に向けて突進する。それをさせじとウィルシアの水雷戦隊が追いすがり砲撃を行う。




すでに水雷戦隊同士の砲雷撃戦は乱戦になっておりそれぞれ被害が出ている。水雷戦隊からの報告で隊列の先頭にいた第一駆旗艦〈しまかぜ〉が撃沈され〈さわかぜ〉〈はまかぜ〉2隻が大破漂流状態。それ以外の各艦もそれぞれに被害を受けているという。それでも敵駆逐隊の包囲を強引に突破し超兵器に向け進路を向けて突撃を開始したとの報告が来ていた。


「何とかやれそうだな」


敵重巡に向けられる〈鞍馬〉の援護射撃は砲塔別の各個照準なのか2本以上の水柱が立つこともなく、敵を牽制するのが精一杯という感じだ。幾ら20センチより発射速度が早い15センチと言えども連装4基8門しかなく砲力が弱い旧式軽巡にとってはありがたい援護だ。現在戦闘を行っているウィルシアの〈ペンサコラ〉級重巡は打撃専門艦で20センチ3連装4基12門、12.7センチ連装両用砲4基を装備し重火力を誇るが魚雷は搭載されていない。その相手に真っ正面から砲撃戦を挑むのは無謀だった。

〈くま〉から見える〈鞍馬〉は中破といった状態だった。〈鞍馬〉の艦上はいたるところで黒煙で覆われており近寄らなくても分かるほどの損害が見える。後楼が倒壊し、主砲も1基潰されており相当のダメージを受けている事が分かった。ただでさえ数少ない火力の1/4、いや残っている砲の1/3を重巡の牽制に使用しているのだ。


(〈鞍馬〉が行っているの時間稼ぎもそろそろ限界だ。あとは俺たちが何とかしないとな)


「〈鞍馬〉に通信、『貴艦の援護に感謝する、〈くま〉〈ちくま〉はこれより敵重巡に向けて突撃する。貴艦は自艦の防衛に専念されたし』」


その時だった。草加の命令に重なるように〈くま〉の艦首に〈アナハイム〉から放たれた砲弾が命中し、轟音と共に鋭い舳先が叩きつぶされた。その直撃で主錨が脱落して海に落ち、切れた鎖が蛇が身をくねらせるように宙を舞った。艦首がざっくりと裂け海水が怒濤のごとく流れ込み、水の負荷でつんのめるように艦の速度が落ちる。前部からの水圧で閉めてあった隔壁が破れて海水がさらに流れ込み〈くま〉の艦首がみるみる沈んでいく。

直撃を受け〈くま〉の戦闘艦橋が激しく揺れた。自ら繰艦をしていた後藤田は胸部を操舵輪に激しく叩きつけられ呼吸が止まり呻いた。艦橋では至るところで乗組員が転倒もしくは跳ね上げられて天井に激突して怪我を負い呻き声が上がっている。後藤田は頭を振りつつ慌てて司令席を確認した。幸い草加も椅子に掴まる事で何とか無事だったようだ。


「機関停止! 各部被害報告だ! それと救護班、戦闘艦橋に重傷者多数、来てくれ」

「了解」


後藤田は艦首に直撃を受けた事を悟ると胸の痛みを忘れようとするかのように立ち上がりマイクに被害報告を促した。

実際は報告を待つまでもなく艦橋から見えるだけで状態は判った。艦首は叩き潰され鋭い舳先が消失し海没寸前だった。前甲板は火の海となっており1番2番主砲は敵の20センチ砲弾を浴び、叩き潰され無惨な有様になっていた。どう考えても中にいた人間の生存は絶望的だった。艦首の被害も含めれば艦の状態は大破といってもいい。


「艦首大破、浸水発生!」

「隔壁封鎖急げ!!」

「1番2番主砲に直撃、使用不可!」

「負傷者の救助急げ」

「了解!」


後藤田の命令を受け次々と報告が上がってくるが、先ほどの直感は当たっていた。いずれの報告も艦の状態が最悪な状態を物語っており戦闘能力が失われている事が分かる。早ければ数十分で艦は沈没するだろう。行き足を止めた〈くま〉が再度直撃を受け戦闘艦橋が揺れた。


「浸水が再発! 隔壁が……」


報告を行っていた兵は新たに発生した浸水に飲まれたのか報告が途中で途切れた。スピーカーからはただゴウゴウという音が聞こえている。それもすぐに無くなった。


「隔壁封鎖、急げ!」


だが後藤田と部下達の奮戦も空しく、一端は止まった浸水が再度受けた直撃により隔壁が破れ〈くま〉の喫水は更に下がっていく。その報告と後藤田の苦闘を見ていた草加は静かに声をかけた。


「後藤田艦長、退艦命令を」

「……はっ」


後藤田は苦渋に満ちた表情を浮かべ不承不承頷いた。

そして退艦命令を受け戦闘艦橋から出ていく兵員たちに敬礼を行う。最後に艦橋を出ようとした草加はそれを見て慌てて中に戻り操舵輪に身体を結びつけようとしている後藤田を怒鳴りつける。


「艦長、一緒に脱出するぞ!!」

「ですが艦を失った私は……」


口びるを噛みしめ悔しそうに俯く。未だに古い伝統に縛られる日本海軍では艦長は艦の沈没に際して共にせずに帰還した場合、艦長の職を追われ陸に上がり閑職に回された。それがある為に海上一筋で生きてきた後藤田は躊躇っている。

草加も痛いほどその気持ちは分かるが簡単に艦長を死なせるほど連合海軍の人材に余裕はない。普段はおっとりした口調の草加だがさすがにこの状況では鋭さが先だった。


「何を馬鹿な事を言っている!? 歴戦の艦長を無駄死にさせてやるほど今の連合、いや日本海軍に余裕はない!! それに御統司令がそんな事を許すはずがないだろう」


新しく総司令官になった御統浩一郎は旧来の体制を打破し、海軍の古い体質を変えるために日夜奔走している。その姿を知っている草加は本土に戻って査問が行われた際には後藤田の事を全力で弁護しようと考えていた。


「わかりました」


縄を解いた後藤田が自分の後についてくるのを確認した草加は艦橋から駆け出す。


(すぐには艦に戻れないかもしれないが……いずれ復仇の機会は来るはずだ。だから今が死に場所はではない、耐るんだ艦長)


「司令! 艦長! ご無事でしたか!?」


脱出が遅いのを心配した兵と秋津大尉が駆け戻ってきた。


「馬鹿者! 総員退艦だぞ」


その姿を見た後藤田が怒鳴りつけた。彼らの気持ちは分かるが艦長としての命令が不履行になっていては指令系統に問題が出る、そう思ったのだ。だが内心では彼らの気持ちをありがたく思っていた。


「ですが……」


秋津大尉の困ったような顔に草加は後藤田をたしなめた。部下に慕われている後藤田を羨ましく思いつつも現状を考える。実際こんな事をしている暇はないほど〈くま〉の浸水は進んでいるのだ。


「艦長、察してやれ。それに急がないとこの艦の沈没に巻き込まれる」

「はっ、急ぐぞ」


後藤田の言葉を聞いた秋津大尉が先頭に立ち残りの人間も続いて〈くま〉の艦内を駆け抜けていく。


─ 2096年12月同日 戦艦〈鞍馬〉戦闘艦橋 ─

一方、砲塔ごとに各個照準で敵戦艦と重巡に向けている戦艦〈鞍馬〉は統一射撃が出来ず命中率が落ち苦戦している。前檣楼のトップにある15m測距儀と射撃レーダーは第一・第二砲塔を敵戦艦群に向けて発砲。後部にある第四砲塔は本来後檣楼の測距儀を使うはずだったが被弾により倒壊したため使用できず砲塔に備えている15m測距儀を使い重巡砲撃を行い射撃管制が分散している状態だった。

既に主砲と戦闘艦橋を除くいたる所で損害を受けているが回避を優先しているため幸い致命的な被害を免れている。それでも数回〈サウスダコタ〉級の散布界に入った為に直撃を受け被弾して若干速力が落ち隊列から徐々に脱落を始めた。


(まだか、まだ第一・第二水戦は魚雷の射程に届かないのか!?)


宮内の内心は焦りに埋められている。〈鞍馬〉の放つ主砲の轟音と異なる振動を感じ続いて艦が震えた。


(くっ、また直撃を受けたか)


「左舷中央に被弾! 高角砲全滅!!」

「一水・二水戦、敵超兵器に向け突撃開始」

その報告に宮内は〈鞍馬〉の指揮を執りつつ敵艦を見据える。何発かは命中しているはずなのに一向に砲撃が衰える様子がない。さすが51センチ砲艦の防御力を持っているサウスダコタ級だった。これが〈鞍馬〉と同じ46センチを搭載している〈ミシガン〉級なら相応のダメージを与えているところだろう。


「〈くま〉〈ちくま〉に敵弾命中! 行き足が止まりました!!」


その報告に慌てて〈くま〉〈ちくま〉のいた海域を見ると2隻の旧式軽巡は夥しい黒煙を吐き出し停止していた。〈くま〉は完全に艦首を沈め、〈ちくま〉は右舷に大きく傾いている。いずれも黒煙と火災に覆われ沈没も時間の問題のようだった。


(艦首が潰れているな。あれでは……〈くま〉は助からないか)


〈くま〉の艦首は完全に沈んでおりすでに前檣楼の根本まで海水に浸かっている。早く脱出しないと沈没の渦に巻き込まれかねない。軽巡という小型艦種であっても5500トンという重さが創り出す渦は人間など簡単に引きずり込む。艦の脇に下ろされたカッターが慌てて離れていくのを確認した宮内は安堵の溜息を漏らした。

守るべき対象が無くなったため重巡に向けていた第四砲塔を敵戦艦に向けるべく命令を下す。


「第四砲塔を敵戦艦へ。砲塔の測距儀も使って精度を上げろ」



─ 2096年12月同日 駆逐艦〈ダンカン〉戦闘艦橋 ─

一方連合駆逐隊の行動を訝しげに思う艦長もいる。連合海軍の行動は真っ向対決を避け時間稼ぎを行っているというのはウィルシア艦隊各艦の艦長が共通で認識している事だったが、それにも関わらず敵の2個駆逐隊の行動に疑問をもったのだ。


「おい、そういえば軽巡が2隻いなかったか?」


ウィルシア第44駆逐戦隊旗艦〈ダンカン〉艦長が隣にいた副長に聞く。海戦前にもたらされた偵察機からの報告でも軽巡は4隻となっており、そのうちの2隻は新鋭艦ということだったのだ。海戦直前にはその姿も確認出来ていおり、それが見あたらないのだ。戦闘開始からこのかたウィルシア艦隊は全艦が敵への攻撃で頭が一杯で気づいてなかった。

連合海軍の艦艇数が自分たちより少なく弱体の敵という事で侮りもあるのかもしれない。だが〈アナハイム〉と〈チェスター〉が敵軽巡2隻を撃沈破し敵駆逐隊に砲火を向け始めた事で周りを見る余裕が出来たのだ。


「そういえば姿が……。レーダー、そいつらを補足できないか?」

「少し待ってください……」


艦長の問いに副長がレーダーマンに探索を命令する。レーダーマンがモニタを覗き込み思案している。


(1列の駆逐艦にしては反応が所々大きい……軽巡は駆逐隊の反対側を併走しているのか?)


「艦長、もしかしたら軽巡は駆逐隊の反対側を併走しているのではないでしょうか。時々反応が大きくなります」


レーダーマンの答えに〈ダンカン〉艦長は敵の意図が判った。ただでさえ少ない艦数なのに新鋭艦を戦闘に参加させず温存している、そして駆逐隊と軽巡の向かう先は───。


「やつらはその2隻で旗艦を狙うつもりだ!!」

「ですが……幾ら敵の新鋭艦とはいえ、超兵器を相手にたった2隻の軽巡で攻撃など無謀を通り越して馬鹿としか思えません」

「向こうの狙っているのは撃沈じゃない、時間稼ぎだ。旗艦を雷撃して足止めを狙っているんだろう。旗艦が雷撃を受ければ当然、回避のために戦艦隊に混乱が起こる。その間に体勢を立て直すつもりかもしれん」


〈ダンカン〉艦長は苛立たしげに説明すると進路を変えるべく行動を起こした。


「フルスターボード!! 敵駆逐艦と旗艦の間に割り込むぞ。砲雷戦の用意!」


艦長の凛とした声が響き〈ダンカン〉以下第44水雷戦隊を構成する3隻は連合駆逐隊の追撃進路から急速に舳先を変え〈アラハバキ〉と軽巡の間に割り込むように進路を向けた。この艦長の行動がきっかけになり、停滞していた戦局は大きく動く事となった。




─ 2096年12月同日 駆逐艦〈いそかぜ〉戦闘艦橋 ─

(ちっ、気づかれたか!?)


急激に進路を変えた敵駆逐隊を見て〈いそかぜ〉艦長が舌打ちした。〈くま〉〈ちくま〉を撃破した2隻の重巡と12隻の駆逐艦うち3隻が急に進路を変え自分たちと超兵器の間に割り込むような機動を始めたのだ。現在の距離は20000m、〈汐海〉級の持つ6式誘導魚雷の射程は速力45ノットで射程距離は11km、残り9000mの距離を敵戦艦や分離した3隻の駆逐艦の砲撃をあの2隻だけで何とかするしかない。


(もう少し接近したかったが……仕方ない、この辺りが潮時だ)


「〈しらゆき〉に通信。『敵はこちらの意図を察した模様』」


〈いそかぜ〉からの通信を受け〈しらゆき〉〈はつゆき〉は駆逐隊の影から飛び出すように増速しDFを展開しない最大戦速の60ノットで〈アラハバキ〉に向け突撃を開始する。第一・第二駆逐隊の5隻も2隻の〈汐海〉級の援護の為、追ってくるウィルシアの2個水雷戦隊8隻に対してT字を書くように進路を変える。生き残っている主砲が左舷に向き高初速独特の甲高い音を立てて砲弾を吐き出しはじめた。

たちまち連合・ウィルシアの駆逐隊の周りに射撃による直撃の閃光が咲散り爆炎が沸き起こった。再び壮絶な殴りあいが再開される。ウィルシアの水雷戦隊が雷撃をかわす為に激しく転舵し蛇がのたうつような航跡が残され、かわし切れなかった〈ターク〉が被雷し轟沈した。

〈あまつかぜ〉のDFが立て続けに直撃を受け貫通した砲弾が前楼に命中、装甲など無きに等しいそれを倒壊させ艦首脳陣を抹殺して指揮機能を失い黒煙をあげながら停止する。


「頼むぞ、〈しらゆき〉〈はつゆき〉。俺たちが生き残るにはお前たち2隻の攻撃にかかっているんだ」


〈いそかぜ〉艦長は慌しく操艦と砲撃の指揮を取りつつ急速に遠ざかる2隻の〈汐海〉級を見ながら心の中でつぶやいた。


─ 2096年12月同日 〈しらゆき〉CIC ─


〈しらゆき〉〈はつゆき〉を狙い敵〈サウスダコタ〉級戦艦の連装12.7cm両用砲が火を噴いた。だが〈はつゆき〉の後方に水柱が上がるだけだった。主砲は〈とさ〉や2隻の戦艦との砲撃で手が離せないのだろう。だが〈くま〉〈ちくま〉を撃破した〈ペンサコラ〉級重巡2隻と駆逐艦3隻が追撃を行い、自分たちを撃沈しようと砲撃を繰り返してきているのだ、油断できる状態ではなかった。

DFを切った〈汐海〉級は60ノットを叩き出す。その最大戦速を緩急と大角度変進を行うことで敵艦の照準を惑し、何とかではあったが徐々に接近できている。狙われやすい速度の低下や変進時にはDFを展開しているため、いまのところ艦自体に直撃は受けていない。だがDFに命中した12.7cm砲弾が起こす命中音は乗組員たちの神経を確実に圧迫してくる。いつDFを貫通されるかわからないからだ。


6式の射程まであと数百mのところで〈しらゆき〉と超兵器の間に3隻の駆逐艦が割り込んでくるのが見えた。敵艦の艦上に発射炎が煌き、〈しらゆき〉のDFに直撃の炸裂光が起こった。


「主砲、反撃だ! 撃て!!」


〈しらゆき〉艦長斉藤祐中佐の命令が飛ぶと同時に2隻の〈汐海〉級が搭載している連装速射砲がその駆逐艦に向けて猛射される。次々と命中し爆炎が上がるがその駆逐艦は引かず、いっそう激しい反撃を行ってくる。重巡も有効射程に入ったようで砲撃を行ってきており、囲まれるのは時間の問題だった。


(これで超兵器に命中させられるか? だが……ここまで来て進路は変えられん)


敵駆逐艦との砲撃戦を行っている間にすでに6式の射程距離には到達している。ナーウィシアの第七戦隊も、連合海軍の英雄もこの魚雷を用い敵超兵器に打撃を与えたという。ならこの魚雷の性能を信じるしかなかった。


「6式、撃て!!」


斉藤大佐の命令を受け、転舵をした〈しらゆき〉〈はつゆき〉の艦腹から放たれた8本の誘導魚雷が飛び込み、しばらく直進したあと綺麗な曲線を描きつつ45ノットの雷速で〈アラハバキ〉の下腹目がけて走りよっていく。



─ 2096年12月同日 〈アラハバキ〉CIC ─

「魚雷接近! 誘導」

「ちぃ! 誘導魚雷か、迎撃しろ!!」


ジョージの命令を受け〈アラハバキ〉の甲板の端に設置してあるボフォース40ミリ機銃が海中に向けて乱射される。射撃が巻き起こす激しい水しぶきとは違う大きな水柱が2本立ち上った。〈アラハバキ〉の迎撃で2本が撃破された。その攻撃をすり抜けた6本が迫るがその間に汐海級を追ってきた〈ダンカン〉以下3隻の駆逐艦が旗艦を護るべく全速で突進し身を挺して誘導魚雷の進路に割り込んだ。敵軽巡の砲撃を受け被弾しながらもダミーを投げ込み派手に動くことで旗艦に向かう魚雷を逸らそうとする。

彼らのまさに必死な努力は半分だけ実った。2本がダミーに向けて突っ込んで自爆し、2本が〈ダンカン〉、残り4本のうち各1本づつが〈ダンカン〉の後に続く僚艦〈ベンハム〉〈スラッシャー〉に向けて進路を変えた。〈ダンカン〉は艦首と艦尾に魚雷が命中し、その爆発の衝撃でジャンプをするように艦体が一瞬海上から浮き上がる。艦首と艦尾を吹き飛ばされた〈ダンカン〉はそのまま横倒しになり轟沈した。残りの2隻もスクリューもろとも艦尾を吹き飛ばされ停止し艦首を持ち上げ始めている。

味方の駆逐艦が自分たちを護る為に轟沈するのを見たジョージの怒号が〈アラハバキ〉のCICに響き渡る。


「目標、敵軽巡だ、ヤツラを逃がすな!」


その意を受け〈アラハバキ〉の前部砲塔2基が〈とさ〉に向けられていた砲塔がゆっくりと回転し照準を2隻に変え火を噴く。12.7cm弾とは比較にならない轟音と炎を吐き出した。10000mの距離など51センチの射程にとって至近距離だ。僅かな時間をおいて放たれた6発が雷撃を終え逃げにかかった〈しらゆき〉〈はつゆき〉に襲いかかった。“軽巡サイズの超兵器”と言われDFを搭載した汐海級でも51センチ砲弾の直撃は考慮されていない。

〈しらゆき〉の後部に直撃した51センチ砲弾2発は展開されたDFを軽々と撃ち破り後部にある2基の15cm連装両用速射砲をスクラップに変え艦内に突入して爆発した。轟音と共にすでにスクラップになっていた砲塔が軽々と吹き飛び海に落ちて水柱を立てる。弾薬庫に雪崩こんだ火炎が一度に砲弾と誘導魚雷を誘爆させた。その爆発力で〈しらゆき〉は艦の中央から引き裂けてちぎれ飛び、雪崩れ込んだ海水で彼女は艦首を高々と持ち上げて急速に沈んでいった。当然斉藤艦長が退艦命令出している暇もなく乗組員のほとんどが〈しらゆき〉とともに沈んでいった。

一方〈はつゆき〉のほうはDFを貫通したものの直撃にはならず至近弾となって巨大な水柱を吹き上げた。だが海中で爆発した51センチ砲弾の強烈な衝撃波により艦底を痛め艦艇の弱点とも言えるスクリューを損傷。48ノットの韋駄天を誇っていた〈はつゆき〉は急激に速度が落ちていく。


「〈しらゆき〉轟沈!!」

「〈はつゆき〉より通信! 『ワレ、スクリュー破損』」


東や艦隊司令部が2隻に起きた惨状を呆然として見守る中それは起こった。


推進力を失うと同時にただの浮き砲台になった〈はつゆき〉に向け〈アラハバキ〉が突撃してくる。〈はつゆき〉の乗組員が間近に迫る巨艦に必死の形相で15cm連装砲を撃ちまくるがDFに阻まれまるで歯が立たない。それを見て彼らが絶望的な表情と涙を浮かべた時、艦首のドリルが凄まじい轟音とともに〈はつゆき〉の艦体に撃ち込まれ乗組員達ははじき飛ばされた。大半の人間はこのときの衝撃で壁や床に叩きつけられ死亡している。

ドリルは〈はつゆき〉の側舷に大穴を開け、突撃の勢いでそのまま横倒しにし彼女を踏み潰したのだ。5000トンの船体を支える竜骨が20倍近い重量にのし掛かかられ悲鳴のような音をたてて折れる音が聞こえてきそうだった。10万トン近い艦にのし掛かられては5000トンの軽巡などひとたまりもない。そのまま横倒しになり沈んでいった。


「外道め!! 戦闘力を失った艦を沈めるのか!!」


ギリリと東の奥歯が鳴った。

目の前に起こっている出来事は4年前の小笠原海戦そのままだった。東は軽巡〈はやせ〉の艦長として参加し、至近であのバケモノの威力を見ていた。51センチ砲の直撃を受け轟沈する重巡、艦首ドリルを食らって大穴を開けられた戦艦が急激に横倒しになって爆沈し、バケモノに体当たりを食らってのし掛かられて蟻のように踏み潰されて沈む駆逐艦。

二度と見たくないと思っていた光景が繰り返されたのだ。今まで自制していた東の理性が切れた。


「〈しらゆき〉〈はつゆき〉の仇を取るぞ! 全艦目標は超兵器!」


東の獅子吼がCICに響き渡った。その命令を聞き慌てて先任参謀が止めにかかった。


「提督!! お止めください、それでは作戦が」

「黙れ! ヤツを沈めなければ勝ち目はない」


先任参謀の忠告にも耳をかさず命令を下す東。生き残っている艦が全ての砲を〈アラハバキ〉に向け射撃を開始を始めた。




─ 2096年12月同日 昼 ─

一方、戦艦〈鞍馬〉に2度目の奇跡はなかった。

東の命令を受け照準を〈アラハバキ〉に向けた時だった。〈サウスダコタ〉が放った51センチ砲弾は〈鞍馬〉2番砲塔に直撃し天蓋を貫通しリフトに飛び込み遅動信管を作動させた。揚弾途中の砲弾が誘爆し、吹き上がった火炎がさらに砲に装填された弾を誘爆させる。その爆発は強固な装甲で拡散する事が許されず怒濤の勢いで艦内の隔壁を突き破り火の海に変えていった。

〈鞍馬〉の艦内では誘爆による衝撃波で身体を刻まれ、即死出来ない程度の火傷を負った人間が呻きを上げながら必死の形相で艦内から脱出しようとしている。だが彼らの努力は無駄だった。火災炎は艦内を縦横無尽に駆け回り至るところに火をつけ手の施しようのない火災を起こし彼らの退路を奪っていく。燃焼により酸素が薄くなりのどを掻き毟って倒れ二度と動かなくなった。

ついに弾薬庫の隔壁を突破し中にしまわれていた大量の46センチ砲弾が誘爆を起こした。この爆発の衝撃は旧式艦には耐えられないほどの打撃を与えた。駆逐艦1隻にも相当する重さを持つ46センチ砲塔が重力を無視したように軽々と吹き飛ぶ。第二砲塔の基部から天高く吹き上がった火災は前檣楼を舐め、複雑な形状をしていたそれを松明のように燃え上がらせた。


戦闘艦橋に居た宮内は敵の砲弾が命中したと悟った瞬間、激しい衝撃で床に投げ出され身体を強打した。


「……くっ、はぁ」


背中を強打した事により肺の中の空気を一度に吐き出してしまい痛みに呻いて顔を上げた時、宮内の視界が真っ赤に染まった。凄まじい振動と共に対衝撃ガラスに真っ白なひびが入りついで割れ人工の火災炎が戦闘艦橋に雪崩みそこにいた宮内を初めとする人間たちを呻き声すら上げさせずに瞬時に焼き殺したのだ。

もっとも宮内が意識できたのは視界が真っ赤になった所まででだが苦痛を味合わずにに即死できたのは幸せだったのかもしれない。そして砲塔に直撃したすぐ後に命中した〈テキサス〉の51センチ砲弾が焼けただれ無人となった前檣楼を爆砕して吹き飛ばし宮内をはじめとした乗り組み員の死体もろとも水葬に伏した。

〈鞍馬〉の前檣楼を失った艦体は第二砲塔の直下から裂け前部と後部に分断されそれぞれが艦首と艦尾を逆立てて急速に沈んでいった。


「〈鞍馬〉が!!」


見張員からの声は震え悲鳴に限りなく近い。東はその光景を見て感情にまかせた自分の下した命令の結果に茫然自失になった。だがウィルシアは東にその後悔を続けさせてくれる暇を与えてはくれない。


〈サウスダコタ〉級2隻の射撃を受け2番手にいた〈筑波〉が被弾した。すでに〈筑波〉は満身創痍であり、良く浮いているものだと言っても良いくらいの被害を受けている。〈とさ〉から見ると艦上は火災と黒煙で覆われ相当のダメージを受けているのは判った。実際、〈筑波〉は後楼が倒壊し高角砲が叩き潰され煙突やマストが蹴り倒されスクラップ運搬船と言っても良いくらいになっている。前檣楼こそ無事ではあったが至るところに断片被害によりささくれだっている。

4基の連装砲塔のうち2基は叩き潰されて使用不能、残り2基で懸命に反撃をしているが戦闘開始直後と比べ命中率が酷く悪い。被弾は内部にまでおよびレーダーシステムの回線を切断、前檣楼トップにある15m測距儀での光学射撃になっているからだ。その〈筑波〉の艦首の水面下に〈ニュージャージー〉の砲撃が命中し大穴を開けた。

被弾箇所から爆炎が沸き立ちついで水柱が立ちぼる。開いた穴から怒涛の勢いで海水が流れ込みあっという間に乗組員を溺死させていく。岩本の命令で隔壁を閉めなんとか沈没だけは免れた〈筑波〉だったが大量浸水で艦首を重そうに沈めながら〈筑波〉は隊列から脱落し完全に止まってしまった。


〈とさ〉も2発被弾し前甲板に大穴を開けられ1番砲塔至近の直撃によりバーベットが損傷、使用不可能になった。さらにマストの根本に被弾し砲弾がそれを裁ち切りった。右舷に倒れ高角砲の上にのしかかり玩具のように潰す。至近弾の破片により艦上の被害が重なっていく。〈とさ〉も懸命に反撃に転じているがほとんどが〈アラハバキ〉のDFに阻まれ、打撃を与えたのは3発のみ。それにしてもDF貫通の際に威力が落ち戦闘力を衰えさせるほどのダメージを与えていない。


「……くっ、ワシらはここまでなのか」


拳を震わせながら東は呟き、壁面パネルに映る異形の艦を睨み付けた。CICは静寂に包まれており自らの指揮官が下す最後の命令を待っている。巨大なドリルを持つバケモノの艦首がゆっくりと回頭しはっきりと〈とさ〉に向けられた。



─ 2096年12月24日 〈アラハバキ〉CIC ─

「よし! 艦長、敵旗艦を沈めるぞ!」


味方の砲撃で敵2番艦は大破して脱落、3番艦は轟沈し残りが先頭を行く〈スオウ〉級だけになったのを確認するとキャッシャーが命令を下し、艦長がもちろんとばかりに頷いた。〈スオウ〉級から命中弾を3発受け、左舷の側舷ノコギリ(カッター)と高角砲群が壊滅して使用不可能になっている。先ほど受けた2発の雷撃も浸水は完全に止まっている。浸水を食い止めている内部の隔壁の厚みは衝角突撃を行う〈アラハバキ〉にとって生命線のような物なので通常の戦艦より分厚く、細かに分かれて艦の構造を補強しており、多少の衝撃で破れる事はまずない。

主砲や艦首ドリルに被害はなく戦闘航海に支障はまったくない。護衛艦同士の戦いはすでに敗残兵狩りに近いものになっており、邪魔をされるという可能性も低い。

あとはあのスオウ級を嬲るように小突き回してやれば良い。

勝ちが決まっているつまらない戦に借り出され内心不満だったジョージがようやく愉悦の表情を浮かべた時、滞空レーダーのオペレータから報告が来た。


「敵航空機が1機、上空を飛来しています!」

「1機だと? 放っておけ!!」


愉悦に水を差されたジョージは苛立たしげに返事をすると残っている〈とさ〉を沈めるべく進路を変えた。艦首に装備されているドリルが甲高い、耳障りな音を立て回転を始めた。〈アラハバキ〉は雷撃を受けていたがそれでも艦速は30ノットを超える速度を出す事ができる。98000トンの巨体が加速し急速に〈とさ〉に迫る。


ところが〈アラハバキ〉の行く手を遮るように巨大な赤い水柱が1本、2本と立ち上り、最終的には16本の水柱が〈アラハバキ〉を取り囲むように立ち上った。そして重力に引かれ瀑布のような勢いで海水が艦上に雪崩落ちてくる。さらに至近弾の衝撃で〈アラハバキ〉は大きく揺れた。


「敵弾、挟叉!」

「新たなレーダー波確認!」

「なんだ! この馬鹿でかい水柱は……」


吹き上がった水柱は明らかに〈アラハバキ〉が搭載する51センチ砲より大きかった。さらに30秒後、後続していた〈ニュージャージー〉が3発被弾し猛烈な火災を起こし隊列から脱落した。濛々と黒煙を吹き上げながら〈ニュージャージー〉は傾いている。その向こうの水平線にタライのようなシルエットが浮かぶ。それは段々と大きくなり、ついには広大な横幅を持つ戦艦の姿になった。


「双胴戦艦だと!?」


艦長は双胴戦艦という見慣れない艦型にあっけにとられた。先ほどの水柱の巨大さを考えると自艦より大きな主砲を積んでいる事に思い至り息を飲む。モニタに映る艦型は日本海軍艦の特徴、パゴタマストだった。敵は明らかに日本海軍の新鋭戦艦。ジョージはようやくつまらない戦から開放される時がきた事を悟った。モニタに映る新たな艦に不敵な笑みを浮かべ自身に気合いを入れるように呟く。


「我が艦よりでかい砲をもつ新鋭艦だろうがただの戦艦・・・・・。こっちは超兵器だ、負けはせん!!」



─ 2096年同日 ??? ─


「我が日本海軍にここまでの事をしてくれたんだ、無料タダで帰れると思うなよ、ウィルシア」


殺気がこもった低い声で呟く〈はりま〉艦長の左袖が空調の風でゆらゆらと揺れていた。




───日本海軍の誇る双胴戦艦〈はりま〉、ついに参戦。



− あとがきという名の戯言 −

瑞葉:最後まで読んでいただいてありがとうございマス! というかかなり時期外してますけどメリークリスマス!、昨年はお世話になりました、明けましておめでとうございます、卒業入学、入社おめでとうございます。で、良いデスか?

隼人:こらこら、瑞葉クンそんな時期はずれをまとめて言わない(大汗)。本当なら年末か年始の早い時期に投稿するはずだったのに。80%は書きあがっていたのにね。

瑞葉:80%も書きあがっているのになんで今頃なんデスか?

隼人:あーそれはね、繁忙ということもあったけど年末年始でゲームの大作が結構発売されたんだ。で、買ったは良いけどやる暇がなくて積んでおく状態だったのをようやく繁忙を抜けた今、やっているという最中なんだ。それに〈無垢なる刃〉の1話目改訂版と2話目も書き進めていたようだね。

瑞葉:はぁ〜相変わらず自分の限界というものを知らない作者デスねえ。まぁ、それはともかくまたまた投稿までに間が空いちゃいました事は事実です。ホラ〜艦長、数少ない読者さんにお詫びしないと。

隼人:な、なんでオレが(汗)。それはともかく遅れているのは確かか。誠に申し訳ないす。作者のダレ&スランプ&多忙(ゲーム含)で筆の進みが悪いです。こつこつとは書き進めているんだけどね、一応。文面もずいぶん書き直したりしているんだけどあまり変化がないような。

瑞葉:作者に鞭で気合いを入れてきましょうか?

隼人:こらこら、そんな事したら余計筆が進まなくなるよ。

瑞葉:さて話を変えマスけど前回の予告だと話の名が「トラック沖海戦」でしたが、いきなり本チャンではまずい? という事で前哨戦・硫黄島沖海戦から風雅島沖海戦までのお話は「大艦巨砲の祭典」という名前になりました。

隼人:この名前は鋼鉄の咆哮2の特別ステージ「大艦巨砲の祭典」から取っているんだね。

瑞葉:ええ、戦艦が主役すいじょうだげきせんの話デスし。それにしても「大艦巨砲の祭典」ですかぁ、思い出し笑いしそうデスね。

隼人:そうそう。敵が対レーザー用の電磁防壁を持っているのでレーザーが使用できず実弾兵装だけで戦うってお話だね。その中で大艦巨砲命の副長が大暴走するんだよね。まあ連合〜では俺たちは参加してないから硫黄島海戦の情報を聞いた副長が〜って形になるんだけど。

瑞葉:超兵器なのにレーザー兵器をもたない粋な“漢の浪漫”が判る艦ってことで〈ハリマ〉がボスで登場して、夕日を背景に殴りあって(砲撃しあって)最終的には副長との間に友情が芽生えてしまうという(笑)。

隼人:はちゃめちゃななストーリーだけどね(苦笑)。確かに〈ハリマ〉は超兵器としては珍しくレーザー兵器を搭載してないのは確か。その分、対61センチ防御なんつーケタ違いの物理防御をもっているから下手な艦砲では返り討ちにあうし。

瑞葉:
でもこのステージに至るまでに“レールガン”を艦載しているからあっという間に沈めてしまうじゃないデスか。

隼人:それでも3発で沈む通常戦艦に比べると硬いよ。

瑞葉:
そりゃ超兵器?デスから簡単に沈んじゃマズイですよー。それと〈ハリマ〉の名前が出たところでこちら側の〈はりま〉が出撃ですか。今回はさすがに活躍するんデスよね? アタシたちの時はただのやられ役でしたけど。それに最後に出てきた〈はりま〉艦長って……?

隼人:艦長が誰かは次のお楽しみだよ。もちろん、登場させたのは活躍させる為に出しているんだから(笑)。名前と停泊しているだけだった〈高千穂〉も残り2ステージで新司令の登場と本格的に戦闘行動が書かれる予定。

瑞葉:へえ、どんな話になるんデスかね〜。それはともかく〈和泉〉って活躍できるんデスかねえ? 一番「戦艦」が活躍できそうなこの山場に出番がないとかなり厳しいんじゃないデスか?

隼人:うっ! 確かにそうなんだけど(汗)。うーむ、プロットでも〈高千穂〉が主役になっているし。本来は風雅島沖でピンチになった〈高千穂〉や俺たちを助けるために〈和泉〉が出撃してくるはずだったんだけど。それにこの話中では俺たちが〈金剛〉、いや、イージス艦に乗っていないといけない理由があるんだけど。

瑞葉:そうなんデスか? でも〈和泉〉ってイージス積んでいるんじゃなかったでしたっけ?

隼人:うあ……そういや。戦艦は個人兵器じゃないから短時間でというのはやっぱり無理があるし。〈エグザバイト〉のようにワンマンオペレート艦って訳じゃないからね。今のO.O.S.は省人数化の為だし。〈和泉〉が完全なワンマンオペレート艦になるのは戦後だから。

瑞葉:戦後ですか? そりゃまた長い話ですネ。そうするとますます〈和泉〉の出番がないような。

隼人:矛盾が出てきちゃったな、どうしようか。

瑞葉:作者が死ぬだけでしょう(笑) あ、もう時間デスね。次回、連合海軍物語31話「大艦巨砲の祭典2」デス。

 

 

 

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代理人の感想

美味しいところで出てきたなぁ(笑)。

片腕の艦長・・・・龍虎王伝奇第二部? は、ないか、さすがに(笑)。