地球と木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパおよび他衛星小惑星国家間反地球共同連合体、通称木連は、
『漆黒の戦神』らによって和平に導かれ、現在2231年ではネルガル重工のボソンジャンプと呼ばれる移動手段によって行き来できるようになっていた。しかし、技術が発達しても事故などは発生し、金もかかるので一般の人のほとんどは縁が無い。でも、軍、大企業や金持ちなどではこれほど優れた移動手段はなくさまざまな用途で使われていた。

これからの物語はボソンジャンプに魅入られた男の話である。



       
      



        

        

波乱万丈な人生


プロローグ 『〜ボソンジャンプに魅入られた男〜』
































[えっと、突然だけど明日暇?]

一人の男がパソコンでメールを打っていた。


男は胸ポケットからタバコを取り出し口に咥えて火をつけ、

フゥ…

吐き出した昇っていく煙を眺めている。

傍から見れば物思いに耽っているように見える。

ピピッ!

気の抜けるような音を出し、メール着信を告げた。

カタカタ、カタカタ、カタカタ

キーボードを叩く独特な音がオフィスに響くが、周りの喧騒に掻き消される。

そして暫くするとまたピピッと音が鳴る。

[…………え、OK!?じゃあさ、明日そっちに行くから!]

[…ん?地球と木連とじゃ無理だって?大丈夫だって、結構お金掛かったけどジャンプチケット手に入ったから。]

着信、返信の繰り返して

[じゃあとりあえ]

文字を打ち込んでいるときにプンっと音がして、突然パソコンの画面が真っ暗になった。

「ん?あれ?故障かな?」

っと男の間延びした声をだした。

男はカチャ、カチャとスイッチを入れたり切ったりを繰り返す。

すると突然横から

ドン!っと大きな音を立てながら湯飲みが置かれた。

「…マキビ部長、お茶です!」

「あ、ああ。ありがとう…。」

ちょっと目元がきつめだが、整った顔立ちのいわゆるお姉さま系の美人がそばに立っていた。

「部長…なにやってたんですか?」

笑顔を浮かべながら男に問う。

初めて見る人だと見惚れてしまうほどきれいな笑顔だった。

しかし男はその外見に騙されずに女の内心を知っていた。

「え、何って、その〜…メール?」

疑問系で答える男にすかさず

「誰と?」

っと返された。

「その〜彼女と…。」

「仕事もせずに?」

「ちょっと休憩中で…。」

「部長は今うちの会社の立場分かってるんですか!?休憩なんてしてる暇ないんですよ!!」

「分かってるよ。そんなに怒鳴らないで。」

「い〜え分ってません!分かってたらメールなんてできないでしょ!周りを見てください!」

女のかなりきつい言葉に男は周りを見る。





見ると、

「もうすこしお時間を…え、ええもちろんです。明日までには!え、ええ。必ず!」

「申し訳ありません!全力を持って復旧に当たりますので…分かりました。」

などと頭をペコペコと下げる社員。

「ちょっとそこ邪魔だよ!どいて!」

「早く持ってきて!」

っと怒鳴り声を上げながら手になんらかのディスクが沢山入っている箱を運ぶ者。

パソコンに向かい懸命に何かをしている人。

社員の言葉から推測すると何かを復旧するためにあわただしく働いていた。






「みんなは会社のためにがんばってるんですよ!なのに部長はメールなんて…まったく部『あ〜もう、分かったってば!』長たら…」

「やるから、するから。勘弁して。」

男は子供っぽくそう良いながらオフィスを出て行った。

「まったく…。でも、そこが良いんだよね。」

(でもあれでもうすぐ四十歳?信じられないわ)

そして女は愚痴を零しながら仕事に戻って行った。


















(あ〜、まったく麻子さんは口うるさいな。もっと静かならきっと男もよってくると思うんだけどな。)

先ほどの女性にかなり酷い事を思っている先ほどの男はマキビ・ハリ。

世界的に超有名な『漆黒の戦神』らと一緒にいた人物である。

地球と木連との和平を叶え、っといってもそのほとんどが裏方だったが。

そして憧れのホシノ・ルリに恋をしていて、騙され、裏切られ、仕舞いには殺されそうにまでなってやっと自分の愚かさに気づいた鈍感少年だった人物。

波乱万丈な人生を歩んできた彼…

だが、ホシノ・ルリに失恋してからは彼は変わった。

超が付くほど不幸だったのが、幸福とまではいかないが、普通の人生を歩めるようになった。

今、彼は三十歳後半なのに見た目は二十歳代で、今では人工遺伝子操作生物開発法によって禁止されたマシンチャイルドなので職には困らない。

独身で見た目も結構良いので女性にもモテる。

アキトのような鈍感ではないので女性関係には苦労はしていない。

ただ、難点は人工遺伝子操作生物開発法は漆黒の戦神自らが制定した物なので、通常はマシンチャイルドを作れなく、貴重なので常に身の危険があるというところだ。

しかしその辺は、陰陽灯慈合気術という歴史に埋もれた超マイナーな法武術を皆伝したので平気だった。

本人曰く、「強くならなきゃ生きていけない。」っと北斗達に殺されそうになった時に誓ったのだ。

それは、某同盟と某組織の抗争の時…、といってもほとんど一方的な争いだった。

ちなみに超メジャーな武術は木連式柔。

漆黒の戦神や真紅の羅刹がやっていた武術が木連式柔という情報が流れ、男は戦神のように強くなりたい

と思い、女は羅刹のように男に負けたくない、と言う考えで世の中は空前の格闘技ブームなった。

それからハーリーは某組織を脱退し十二年間世間から身を隠し、その後で平凡な情報関係会社に就職した。


















ガチャ

扉を開け僕は自分専用の部屋に入った。

この部屋は入社して最初の健康診断のときにマシンチャイルドである事がばれてから、社長自ら僕専用に作ってくれたマシンチャイルドの性能を発揮できる部屋…らしい。

普通の機械では処理速度が追いつかないと言っていたっけ。

入社するまでそんなこと考えたことも無かったけど、言われてみればそうだった。

「さてと、さっさと片付けて明日の準備しよっと。」

専用のインターフェイスに手を載せ接続を開始する。

ピ、ピピ

接続を完了。

システム起動。

復旧開始。

周りに色々な文字が浮き出てくる。

「やっぱりオモイカネシリーズの様にいかないな。はぁ〜。」

一般企業にしては最高性能機器だが、ネルガルみたいなのは無理なのかな?

「まぁこれくらいの復旧なら今日中に終わるでしょ。」

「ならなんで早くやってくれなかったの?」

「うわ!…麻子さ〜ん、脅かさないでくださいよ。」

気配を感じて分かってはいたが、僕の後ろ突然声をかけたので不自然なく驚くフリをする。

「部長、今日の夜暇?良かったら今晩一緒しない?」

この言葉から分かるように彼女は僕に気があるみたいだ。

僕に彼女がいるのを知っていてモーションを仕掛けてくる。

遠距離恋愛なら入り込めるって思っているらしい。

「今日は明日の準備するから駄目ですよ。それに僕は彼女がいるんですから。」

丁寧にお断りを入れるが、

「良いじゃない。どうせ彼女って木星に居るんでしょ?今日の夜くらい…。ね?」

麻子さんはかなり強引だ。

僕はこの強引なタイプは嫌いだった。

「だから明日の準備があるから無理ですよ。」

「さっきから明日の準備って言ってるけど何?」

「明日木星に行くんですよ。」

「え!?木星にって…まさかボソンジャンプ?あれってかなりのお金が掛かるんじゃ…。」

「えぇ、でもそれくらいしないと会えないですから。」

「そう…。なら今度また誘います。それじゃあ。」

そう言いながらドアを開けて出て行った。

また誘うの?

勘弁してよ…、このことが彼女にばれたら大変なのに…。







「ん、ん〜。あ〜疲れた。」

大きな伸びをしてハーリーは帰りの仕度をはじめた。

「さて、今は…やば!最終電車に遅れる!」

ハーリーは急いで会社を出て駅に向かって走る。

その途中で、ハーリーは急に立ち止まった。

ハーリーの目に入ったのは綺麗な首飾りだった。

「お兄さんどう?何か買って行かない?」

露店を広げていたのはまだ若い女性であった。

ハーリーは天使のレリーフを模った首飾りに見入っていた。

「あの、これは…いくらですか?」

「これ?お兄さんお目が高いね!これは私の中の自信作だよ。まぁその分ちょっと高めだけどね…。一万九千円ってとこかな。」

「一万九千円!?ほんとに!?」

ハーリーは驚いた。

それは高いから驚いたのではない。

見る者が見れば分かるだろう…。

その作品に籠められた思いがハーリーに伝わったのだ。

「そんなに驚くほど高いかい?」

女はハーリーの驚き方に高すぎるのかと思ったらしい。

確かに露店では高いほうになるだろうが、実際の価値を考えればそんなはことない。

「いや違うよ。安いから驚いたんだよ。この値段は妥当じゃない、もっと高くても良いくらいだよ。」

「ありがと、お兄さん!お世辞でもうれしいよ。…で、買うのかい?」

「うん、もちろんさ。」

そう言いながらハーリーは財布をだした。

「消費税は?」

「いらないよ。ところでお兄さんだから見せるけど、これ…。」

女はポケットから首飾りを取り出した。

取り出した首飾りも天使のレリーフを模っていた。

「これさぁ、私の父さんが作ったヤツなんだけど…。その私が作ったヤツこいつを真似て作ったんだよね。
良かったらこいつも買ってくれないかな?言っとくけどお兄さんだからだよ。」

ハーリーは二つの首飾りを見比べる。

暫く見入ってから、

「うん、こっちも買うよ。合わせていくら?」

「大負けに負けて、そうだな…五万ってとこでどう?」

「五万?ええっと、あったっけかな?」

ハーリーは普段カードで物を買うので五万という現金をもっているかどうか分からなかった。

そして財布を覗き込む。

財布にあったのは一万円札が四枚と五千円札が一枚と千円札が三枚。

「げ…、頼む。小銭入れに入っていて!」

祈るように言いながら小銭入れから全部だすと何とか千円分だ。

「良かった…。じゃあはい五万ね。」

「ありがと。確かに。包装する?」

「う〜んと、片方だけで。」

「はいよっと。」

軽い返事をしながら女は包装用の紙を取り出した。

「どっちする?」

「こっち。」

そしてハーリーは包装してもらった。

「じゃあ、また機会があれば買ってってね。」

「機会があればね。」

「まいどあり〜。」

じゃあね、っと言った感じで手を振りながら離れていくハーリー。

それから歩きながら包装されていない方を手にとって眺める。

「いい買い物したな…。よし。」

ハーリーは首飾りを着け、イルミネーションに照らされ窓に映された自分の姿を見た。

「結構にあってるじゃん。」

ピピ、ピピ

「ん、やば!…最終電車に乗り遅れた…。」

今になって急いでいたことを思い出したが、無情にも時計からの音は時間を告げる役割を果たす。

「どうしよう…。しゃあない、走るか。」

そう言ってハーリーは人気の無いほうに走り始めた。


















「ここからなら大丈夫かな?」

僕は辺りを見回して人が居ないのを確認した。

「よし…。」

体中に流れる気を足に集中させる。

さらに特別な呼吸をして気を増幅させ、感覚を鋭敏化させる。

「ふっ…。」

軽く息を吐いたとき背の低い建物に跳ぶ。

タン、タン、タン

リズミカルに足音を立てながら僕はビルとビルの間をまさしく飛ぶように駆け抜ける。

思えば入社初日にこれやったんだっけ?

そのときの地区新聞に「空飛ぶ猿!?」という不名誉なタイトルで見出しに載った。

それからはよほどの時じゃないとこんなことはしなくなった。

「そろそろ着くな…。あった。」

そしてその勢いのままマンションの自宅のベランダに着地した。

僕の家は襲われにくいようにマンションだ。

絶えず人が居れば、誘拐などの騒ぎになるようなことはされないからだ。

まぁ、されても撃退するけどね。

ベランダの窓のカギを開けて中に入った。

早く準備して寝きゃ。

















ジリリリリリ

けたたましい音がマンションの一室に響いた。

「ん〜。」

その部屋の住人は布団から手を音の鳴るほうに伸ばす。

ジリ…

目覚ましを止めて住人は眠たげな目を擦りながら時間を見る。

針は七時三十分を指していた。

その横に『ボソンジャンプ便出発時間;九時十分』と書かれた紙がある。

目を瞬かせもう一度それらを見る。

「あああああああ!乗り遅れるぅぅ!」

そこの住人ことハーリーは叫びながら猛スピードで着替えを始める。

「遅れる!遅れる!」

バカみたいにその言葉を繰り返し、着替えるや否や旅行用バックをもって出て行った。

暫くして、

「忘れ物〜!」

ドタドタドタ

ハーリーは机の引き出しから首飾りと包装されたものを取り出た。

「よし。」

そう言って首にかけたものを見る。

(似合ってる)

そう思っいながらハーリーは指で天使のレリーフはじいた。

「って、こんなことしてる場合じゃない!」

急いで玄関を出てカギを閉めてから下に人が居ないのを気配で確かめるハーリー。

そして、

「よっと。」

飛び降りた。

タン

かなりの高さから降りたのに着地したときの音は以外にも小さかった。

それからハーリーは急いでタクシーを拾った。

タクシーには『特急』と派手にペイントされている。

「お客さん、目的地は?」

(人のよさそうな運転手みたいだ。)

「羽田ジャンプ乗まで!急いで!」

そう言って一万円札三枚を取り出してタクシーの運ちゃんに握らせる。

するとちゃっかりお札を懐に入れて、ハンドルを握る。

「了解!しっかりシートベルト締めてナ!あと喋るなよ、舌噛み千切るぜ!」

(噛み千切るって…大丈夫か!?)

どこと無く喋り方が変なのでちょっと不安に思うハーリー。

「準備オッケーです。」

ハーリーの返事に運ちゃんが頷いた。

「ヒャッホウ〜!吐ばすぜベイビー。」

ハンドルを握ると性格が変わるのか、それとも握らせたお金に問題があるのか良く分からない、それだけ

でなく顔まで変わっているのでますます不安に思っているハーリー。

(字が違〜う!)

ハーリーはそんなことを思った。

それからはハーリーにとって初めての世界だった。

まずはハーリーの目にさえも留まらぬ速さでシフトチェンジ!

アクセル全快でコーナーにさしかかる。

ぶつかりそうになってからの急激なブレーキに車の荷重がフロントに、そしてリアを滑らせドリフト!

絶妙なカウンターをあてコーナーを突っ走る!

「死にゅ〜〜!」

なれない車での初めて感覚。

普通ならなんとも無いはずのスピードを車で感じると未知の体験だ。

「ひゃっひゃっひゃ!まだまだ!そら!ほら!」

「うわわわぁぁぁ!」

明らかにハーリーの反応で遊んでいるとしか思えない発言の運ちゃん。

あまりの恐怖に目をつぶるハーリー。

(大丈夫…大丈夫。見えなければ怖くない。怖くない…)

呪文のように何度も何度も心の中で呟く。

そして普通の車では体験できないことが起きた。

突然横につぶされるようなGがハーリーに襲い掛かった!

「今度はなに!?」

いきなりの圧迫感に思わず声を出し目を開ける。

窓を…外を見るとガードレールが二重になっていた。

ガードレールが二重だと落ちたら死ぬと言う意味だ。

(何で峠に居るの!?)

そう思ったハーリーは運転席のほうを見る。

そして運転手をみたハーリーは後悔することになた。

「あ〜、たり〜。」

なぜなら運ちゃんはそう言いながらタバコを取り出して火をつける。

(あんたハンドルどうした!?)

心の中で絶叫するハーリーをよそに、

「はぁ〜うめぇ〜。生き返るぅ〜。」

本当に生き返ったような感じで吸う運ちゃん。

(こっちは死ぬぅ〜!)

その思いに負けないよう

「あ、あのハンドルは…?」

とおそるおそる聞くハーリーに、

「ハンドル?んなもの握って無くても大丈夫だ。ほら最近の車って自動操縦ってあるだろ。」

「あ、っそうなんだ…。僕は車に疎いからそういうのはちょっと…。」

運ちゃんは心配なさげで言うのでそれを鵜呑みにする。

「まあこの車には付いてないけどな…。」

そんな感じで興味なさそうに呟きながら煙を吐き出す運ちゃん。

「もういやだ〜〜!」

こんどは心の思いを口から吐き出した、ハーリーの絶叫!

だがそんなことを気にしない運ちゃん。

タバコを吸い終わってからの運ちゃんは凄かった。

それは生き返ったと言うセリフは嘘じゃないことをハーリーに確信させる。

まさに神業のヒール・アンド・トウ!

カウンターをあてない四輪ドリフト!

対向車線もなんのその!

速度メーターは230kmをさしていた。

それをみたハーリーはついに恐怖に負け…。

「うひゃひゃひゃひゃぁ!」

ハーリー、昇天。

この後、ハーリーは神を見たとか見なかったとか…。


















「お客さん着きましたよ!お客さん!」

「うひゃひゃひゃひゃひゃぁ!」

「お客さん!!」

ドゴ!

容赦ない右ストレートを頬にぶちかます。

「…はぁ!僕はいったい…。」

正気に戻ったハーリーは時計を見た。

「間に合う!運転手さんありがとう!」

「いやな〜に。そんなことないさ。」

それじゃあっと運ちゃんと分かれてホームに駆け込むハーリー。

それを見た運ちゃんは、

「わけ〜のにてーしたもんだ。俺のに乗ると大抵の客は白目を剥いて気絶して、おまけに吐くのに。」

そして一言。

「うで、なまったかな〜。」

運ちゃんの客はそうなることからどうやらハンドルを握ると性格が変わるタイプだったようだ。

だが最後のセリフは…?

そんなこんなでハーリーはジャンプ便に間に合った。


















「ご乗車まことにありがとうございます。こちらは木連行きの21便です。それでは短いですがよい旅を!」

アナウンスがシャトル内に響き渡る。

シャトルの外見は飛行機とそれほど変わりは無い。

そしてそのシャトルでは、そわそわしている人達が居る。

おそらく初めてのボソンジャンプなのだろう。

慣れてる人は新聞などを読んでいるようだ。

もちろんハーリーは何度もジャンプしているので緊張もせずに、のんびりとジュースをのみながら雑誌を読んでいる。

「あっちに着いたら最初にどこいこうかな?やっぱ真奈美に任せたほうが良いかな?」

ここで初めて出てきたがハーリーの彼女の名前は辻 真奈美。

ちなみに二十四歳だ。

観光雑誌を見ながらあれやこれやら考えていたハーリーは微妙な振動を感知した。

シャトルのエンジンが点火したのだ。

滑走路は無く、相転移エンジンが付いてるわけじゃないのにどういう訳か垂直に離陸。

そしてシャトルは徐々に機首をあげていった。

まずはじめに大気圏外に出てからジャンプを経由地点に向けて行う。

そこからさらに二度ほど目的地に向かうのが普通だ。

「では大気圏を脱出します。シートベルトをお付けください。」

アナウンスが流れて、減圧されたGが体に掛かる。

それからまもなくして、Gが感じられなくなった時に、

「うわぁ!」

と何処からか感嘆の声があがた。

ハーリーはそちらを見た。

そこには小さな女の子が窓に顔をへばりつけて外を見ていた。

その子の隣には母親がいて、豪華な宝石を身に着けている。

(お金持ちの旅行かな?)

そして一度目のジャンプ。

一瞬の違和感を終え、初めての乗客はなにやらキョロキョロと辺りを見てる。

「お外に月が見える〜!」

先ほどの女の子が一瞬で景色が変わったので驚いていた。

そう、ジャンプは地球→月という順番で行う。

そして月から火星へ。

そこからチューリップを使って木連圏内に行く。

連続ジャンプはパイロットに負担を掛けるということなので火星からの長距離ジャンプはチューリップを使うのだ。

そして安全のためにパイロットは四人居る。

一人は予備で残りの人が三回のジャンプをそれぞれ担当する。

「では二度目のジャンプに入ります。」

再びアナウンス。

また一瞬の違和感。

外を見ればもうすでに火星が見えた。

それからチューリップの在るところまでは通常航海だ。

「おい!チューリップだ!」

誰かのその一声で皆が一斉に外を見るがハーリーのいる右側の窓からは見えなかった。


ゾクッ!

ハーリーの背筋に悪寒が走った。

「なんだ…。」

ハーリーはいやな予感がした。

(これは…そう…例えばお仕置きの直前の様な…)

「それではみなさま、これからチューリップの中に入ります。」

「それでは覚悟、よろしいですか?」

アナウンスの最後の冗談がハーリーには死神の声に聞こえた。

「は〜い!」

女の子の元気な声が響き、乗客の数名は微笑んだ。

その少女版女神の様な声さえハーリーには届いていない。

「考えすぎだ…。なんどもジャンプはしてきたじゃないか。」

そう言い聞かせる。

「神様、仏様、…。どうか無事に着きますように。」

さらにハーリーは車で見た神にまで必死に祈る。

なぜそこまで懸命になるのかは、ハーリーの勘は外れたことが無いからだ。

例えば某同盟に情報が漏れたとき…

某組織に尻尾きりされたとき…

前の彼女に浮気がばれたとき…

まだまだあるが、とにかくハーリーは自分の勘の凄さを知っている。

「それでは、ジャンプします。」

死神のアナウンスが流れる。

ハーリーが覚えてるのはそこまでだった。


















………ピッ、ピッ、ピッ…

……う、る、さ、い………

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ…

「うるさ〜い!」

ガバッ!

布団から起き上がり辺りを見る。

カーテンで周りは遮られている

あれここは?

病院。

私は誰?

ってマキビ・ハリだろ。

なに一人ツッコミしてるんだろ僕は…。

先ほどから相変わらずピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ…と音がする

僕を起こした単調な音。

本当にここは…?

気配を殺し感覚を研ぎ澄まして様子を伺う。

自分の胸に何かが付いてるのに気が付いた。

そこから延びているコードを辿ってみると、

「ああ、なるほど。」

さっきからの音は心電図か…。

そして胸に沢山ついている物を外す。

すると、

ピーーーーーーーーーー!

やっぱり心電図。

うるさいな〜、まったく。

そしてすぐに僕の体が警告を発した。

ん?気配…。

こちに近づいてくる!?

まずい、武器が無い。

だか、ふと後ろを見ると花瓶があった。

それを手に取り、シーツで覆い、軽く叩く。

すると、

パリ

耳を澄まさないと聞き取れないくらいの割れた音がした。

そして割った花瓶を手に取る。

それを軽くシーツに添えて、スっと擬音が聞こえるようなくらいに動かす。

動かした場所を指でそっと撫でると綺麗に裂けていた。

割れたビンの口で切ったのだ。

「良し、使える。」

ダッダッダッダ

足音が聞こえる。

よほど急いでいるのか先程の気配の持ち主がもうほんの近くまで来ていた。

そして息を殺し気配も殺して、今さっき手に入れた武器を隠す。

バン!

音で扉が開いたみたいだ。

僕を恨むなよ…、恨むなら自分の不運を恨めよ。

このとき僕はすでに相手を殺すつもりでいた。

「ハーリー!大丈夫か!」

大声で、しかもフレンドリーに声を掛けられたので躊躇する。

バサ!

そしてカーテンが開けられた!

そこに現れたのは、

「…サブロウタさん?」


















「おい、ハーリー。ほんとに大丈夫か?」

隣で心配そうに声を掛けてくれるサブロウタさんがいる。

今、僕は、記憶が確かならナデシコCのブリッチに向かう通路を歩いている。

「大丈夫ですよ。」

………………。

………………。

………………。

………………。

会話が続かな〜い!

内心、僕は焦った。

頭の中は大混乱で今自分が何をしてたのか必死に思い出している。

「な〜んっかおかしいんだよな。お前、本当にハーリーか?」

ギクッ!

まずい…、今は状況把握に専念しよう。

「え、ええ僕はマキビ・ハリですよ。そういえばどうして僕は医務室に?」

「それも覚えてないのかよ…。そんなんじゃ軍人失格だぞ。」

そんな何気ないサブロウタさんとの会話。

しかし、ズキっと『軍人』と言う言葉に、僕の心は反応してしまった…。

そっか、今僕は軍人なんだ…。

「覚えてないから…、教えてください…。」

「お、おいおい、失格なんて嘘だって!そんな落ち込むなよな〜。」

どうやら昔を思い出して沈んだ心の内を落ち込んだと解釈したみたいだ。

サブロウタさん、やさしいな…。

「やだな〜、落ち込んだフリですよ。そんなんに引っかかるなんてサブロウタさん単純ですよ。」

「何〜!ふざけんなこのやろ〜。」

「やめてくださいって!」

頭をぐりぐりしてくるので嫌がるフリをする。

こんなに僕って幸せだったんだ。

この思い守ってみせる!

このとき僕は人生で最大の誓いを立てた。

「ところで今何年ですか?できれば日付も教えてください。」

「まじで大丈夫かよ〜。病院に行ったほうが良いんじゃないか?」

「宇宙に病院なんてあるわけ無いでしょ!」

「そりゃそうだ。っで今は『フゥィーン、フゥィーン、フゥィーン…』なんだ!?緊急事態か!?」

突然エマージェンシー・コール独特の嫌な警告音が艦内の隅々に響き渡る。

艦内で休憩を取っていた人たちは持ち場にそれぞれ急いでいた。

「行くぞハーリー!」

「わかってます!」

サブロウタさんの掛け声に僕は覚悟を決めた………………が、やはり気になる。

いったい今はいつなんだ!


















パイロットのサブロウタさんと別れ、僕はブリッチに向かって走っている。

ブリッチへの道は、やはり体で覚えてるようだ。

すぐそこにブリッチの扉が見えた。

バン!

止まろうとしたが勢い余って扉に手を叩きつけてしまった。

体が小さくなり、頭と体が混乱してるみたいだ。

「遅いです!何やってたんですか!?」

入るや否やすぐに艦長らしき人が怒鳴る。

この声はルリさん!

「すいません!状況は!?」

すぐに謝罪をし状況を聞く。

ルリさんは僕の反応に驚いているようだ。

そりゃそうだ、僕はルリさんに叱られたりすると必ず狼狽していたはずだ。

だが今の僕の精神年齢はルリさんの倍以上はある。

そんなんじゃ動じない。

それからすぐに自分の席に座り接続。

状況を把握して驚いた。

「ユーチャリス!」

そんな!こんな時間に戻っていたのか!

「…もう直ぐユリカさんが退院されるのですよ!!せめて、せめて顔を出すくらい―――いいじゃないで
すか!!」

ルリさんの心からの叫び声が通信機の向こうにいるテンカワさんに伝わる。

しかし、ユーチャリスはジャンプフィールドの生成を開始する。

「アキトさん!!」

再びルリさん叫び声。

もはや絶叫だ。

「…俺とユリカの道が交わる事はもうありえ無い。そうルリ、君と同じ道を歩む事も無い。もし、全てが…よそう、それは言っても仕方が無い事だ。」

その絶叫を聞いてもテンカワさんの気持ちは変わらない。

やっぱりテンカワさんは優しいや…。

すでにジャンプフィールドの生成を完成させユーチャリスがジャンプ直前に入った。

「させません!!アキトさん!!」

ルリさんの声の後にすぐ、

ドガッッッンンン!!!!!

ナデシコCに大きな振動が襲ってきた。

ルリさんが強襲用のビームアンカーを打ち込むよう命令したのだ。

まずい!!このままだと他の乗員が死んじゃう!

ランダムジャンプで生き残ったのは僕と、サブロウタさん、そしてルリさんだけだ。

「艦長!このままだと危険です!!早く離れないと!」

そんな僕の警告もルリさんには届いていなかった。

ルリさんはモニターに浮かぶユーチャリスにしか意識が向いていない。

くそ!どうする!このまま皆をみすてるのか!

僕の頭はもはやパンク寸前だ。

起きたら突然ナデシコCにいたこと、サブロウタさんが生きていることや前の世界にいた真奈美のこと、そのたものもろが僕の頭を侵していく。

それらすべて、今いることこの全部が夢ならなんて良いだろう。

しかしその儚い望みは首にぶら下がっている天使のレリーフが否定して、起きてからの頭痛で確信する。

くそぉ!!

どうすりゃ良いんだ!

















ハーリーの心の葛藤をよそに、時間は残酷にも止まらない。

事態はもうすでに取り返しがつかないとこまで来てしまったのだ。

「し、しかし、アキトさんが!!」

ルリがアキトに向かって言う。

「俺達は何とでもなる!!ナデシコCの乗員全員が、ジャンパーの措置を受けているのか?このままジャンプに巻き込まれたら、措置を受けていない者が全員死ぬぞ!!」

アキトが言う。 

「!!!!ハーリー君!!急いでアンカーを切り離して!!ディストーション・フィールド緊急展開!!」

ルリの命令がハーリーに下る。

しかし、ハーリーはもう無駄だということが分かっていた。

それでも、

「はい!!」

しかしもう遅かった。

(歴史は繰り返すのか!くそったれ!)

ハーリーは悔やむ、頭が痛いや混乱していた、は言い訳だ。

そのことをもっとも理解しているのがハーリー。

(ならせめて、次の世界で動きやすいように体のイメージだ!ジャンプはイメージがすべて。考えろ自分を!)

だが、ハーリーは一般人とは違う。

波乱万丈の人生のなかでさまざまな経験をつんできた。

それらの経験から学んだことは、『過ぎたことを悔やむな!反省と後悔は違う!次に向かって反省を生かせ』だ。

酷い様だがハーリーの生きてきた人生は正にそのもの、そして今もそれを実践する。

(陰陽灯慈合気術はイメージが全て、完全なイメージを身に着けるのに十年間もイメージだけをしてきたんだ!自分を信じろ!)

それからまもなく虹色の光に包まれた戦艦二隻はその世界から忽然と消えた。


















う…ここは?

また過去か…。

いったい僕は何回ランダムジャンプすればいいんだ?

ボグ!

「いった〜!なにすんだ!?」

突然の後頭部強襲にまたもや意識が刈り取られそうになった。

「さぼんないで!ハーリーのせいでアキトに会うのが遅れちゃったらどうするの!?」

頭を抑えながら振り返ると桃色の髪をした女の子がいる。

「もしかしてラピス?」

パコーン!

動揺して思わず口に出しちゃった言葉にラピスがいい反応をしてくれる。

「もしかしてもじゃない!なにくるってるの?」

「あ〜ちょっと呆けてたみたい。顔洗ってくる。」

そう言ってラピスから逃げて部屋を出る。

「ちょっとまちなさいよ!!」

ラピスの静止を呼びかけるのを無視して鏡のある場所を探す。

お手洗いはどこかな?

暫く歩きまわっているとWCと書かれた札が見え、入ろうとして清掃のおばさんに水をぶっ掛けられた。

「なんだかな〜。やっぱり僕ってかなり不幸だよな。」

もはや独り言を言ってないとやってられない気持ちになってくる。

洗面所で顔を洗って鏡を見と、そこには子供のころの姿があった。

「くそぉ!!だれだよ!ジャンプはイメージが全てって言ったやつ!!」

そこで僕は雄叫びをあげた。


































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あとがき

初めて投稿する桃次郎と言う者です。

実は私は脇役好きなのでして、今回の作品は主にハーリーを主人公としていきます。

もちろん、脇役好きだからといって本編の主役を、この作品の場合は管理人.Ben氏の『時の流れに』を
主軸としているので蔑ろにする気はありません。

アキト達の活躍の場面もちゃんとあります。

主人公最高主義にはしないのですが、ただ自分の独断や考えなどでかなり逸脱するかもしれません。

が、その辺はご容赦ください。

こんな稚拙な文章なので読んでくれる人はいないかもしれませんが、がんばっていきたいと思います。

こんな私ですが、どうかよろしくお願いします。

 後、できましたら感想をください。

「ここをこんな感じにしたほうが良い」「構成がしっかりしていない。」「そんな感じでは読者は分から
ない」などと言った何でも良いのでよろしければください。

ただ、「くそだ!」「死ね!」「つまんない」と言った感想は、どこがどうくそなのか、どう死ねなのか
、どうしてつまんないのかを書いて送ってください。

私はバカなので単語で聞かれると分かりません。



ここまで、読んでくださった皆さん、ありがとうございます。

次回はいつになるか分かりませんがそれでもよろしければ見捨てないで読んでやってください。


 それと、この場を借りてBen氏に申し上げます。

実はこの作品の中にBen氏の「時の流れに」をほぼパクッタ会話がありますがご容赦ください。

一応、『投稿作家独自の設定・キャラクター・ネタの流用に関するガイドライン』を読みましたがここで
も一言お断りを述べさせていただきます。

「パクリました。ごめんなさい!」


管理人の感想

桃次郎さんからの投稿です。

精神年齢なら四十才を越えているのに、相変わらずのハーリーですw

もう人生に弄ばれているというか、不幸を招き寄せる体質というか・・・ご愁傷様です。

本人いわく要領は良くなったらしいのですが、周りの環境が駄目ですね。

・・・彼に幸福は訪れるのでしょうか?