『コッコッコッコッ』

 草壁や山崎が逮捕され、北辰を倒し、アキトの復讐が終わった日の翌朝、アカツキは廊下を歩いていた、その足が一つのドアの前で止まる。

  『ピンポーン』

 何ともレトロなチャイムが響くと数秒後、いつもの黒ずくめの格好のアキトのウインドウが現れる。

「・・・何の用だ、アカツキ」

「君達に話したい事が有ってね、開けてくれないかな」

「・・・・少し待ってくれ」

 数瞬後、『プシュ』と言う音と共にドアが開きアカツキが部屋に入る。

「グッモ―ニン、テンカワ君、ラピス君」

「アカツキ、何の用だ」

 無駄に穏やかな笑みを浮かべて朝の挨拶をするアカツキとは裏腹に、それには取り合わず、さっそく用件を尋ねるアキト、ラピスもただ彼を見ているだけだ。

「・・・つれないね〜、まっ、良いんだけどさ、それじゃあ単刀直入に言うけど テンカワ君、これからどうするつもりだい?」

「…火星の後継者の残党を狩る」

「君はバカかい?あの状況で逃げるなんて不可能だよ、もし逃げ延びた者がいたとしても警察や軍に任せて置けば十分なレベルさ」

「・・・・・・」

 そう言われたアキトは沈黙してしまう、どうやらそれ以外考えていなかった様だ。

「そこでだ、僕から提案があるんだけど、テンカワくん、普通の生活に戻ってみないかい?」

「・・・そんな事出来るわけ無いだろ、俺は復讐の為に多くの人間を殺してしまった、今さら普通の生活などに戻れる訳が無い」

「それが出来るんだよ、なんせ君は死んだ事になってるんだ、新しい人生を始めるにはこれ以上ないシチュエーションだよ」

「仮にそうだとしても俺にその資格は無い」

「君だけならそうかも知れないね、でもラピス君はどうかな?彼女は君の復讐に巻き込まれただけだ、幸せになる資格は十分あるだろう?そして彼女には君が必要だ、少なくとも今はまだ、ね」

「・・・・しかし、俺の体はもうボロボロだ、寿命も持って数ヶ月、そんな人間が傍にいてもラピスは幸せにはなれない」

「そう思っているのは君だけだと思うけどね・・、でも問題ないよ、実は昨日の夜ルリ君からメールが届いてね、メールには山崎達が君に行った実験のデータが添付されていたよ、ドクターならそのデータを元に君の治療が出来るそうだ、もちろん寿命も五感も完全回復とまでは行かないまでも生活に支障が無い位までは回復するってさ」

「なっ!! 戻るのか?」

「君も疑り深いね、さっきそう言ったばかりじゃないか」

「・・・・・・・・・・」

 アカツキの言葉を聞いて沈黙するアキト、しかし彼の顔にナノマシンのパターンが眩いほどに浮かび上がっているのを見ると、かなり動揺しているようだ。

「それにね、僕に良い考えが有るんだ、二人の願いがパーフェクトに叶う凄い提案だよ」

「・・・・何だ、それは」

 やけに嬉しそうなアカツキの顔にいやな予感を感じつつも内容を尋ねるアキト。

「実は僕の知り合いに寮の管理人をしてるおばあさんがいるんだけど、その人から「海外旅行に出かけるから信用できる人を紹介してくれ」って頼まれてたんだよ」

「・・・俺に寮の管理人になれと言うのか?俺にはそんな知識など無いぞ、それに、海外旅行と言っても長くても1ヶ月程度だろう?すぐにお払い箱だぞ」

「問題ないよ、寮の管理人なんてそう難しい物じゃない、それにあの人は旅行に出かけると暫く帰って来ない癖が有ってね、今回は大金が入ったって言ってたから2〜3年は戻らないんじゃないかな?」

「しかし・・・」

「そうそう、住人達は皆良い人達だって言ってたね、それに色んな人達がいるらしいからラピス君の情操教育のためにも凄くいいと思うよ?」

 それでも煮え切らないアキトにとどめの言葉を放つ、アキトは『ラピスのため』と言う言葉に非常に弱いのだ。

「・・・・・わかった」

 アカツキの言葉を聞き渋々と言った感じに了承の言葉を言うアキト。

「じゃあ決まりだね、すぐに君達の戸籍なんかを用意するから、アキト君とラピス君は治療を受ける為にドクターの下に向かってくれ」

「ああ、すまない、アカツキ」

「気にすることは無いよ、親友からのささやかなプレゼントだと思ってくれ」

 それを聞いたアキトは苦笑し、ラピスを促し部屋を出る、そして部屋を出たアキトは気づかなかった、アカツキの顔が某髭司令のごとくニヤけていたことに。

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 二週間後、治療を終えたアキトと瞳の色が金色から赤色になったラピスがネルガルの会長室でイネス、エリナ、アカツキらと対峙していた。

「しかし、よかったのかい?味覚を戻さなくて、味覚は君の一番大事な感覚だろ?」

「だからこそさ、この戒めがある限り俺は自分の罪を忘れずにすむ、自己満足にすぎんが、これが俺の贖罪の方法だ、・・・ドクターに少し質問があるんだが・・・」

「あら、なにかしら?どんな質問にも詳しく、解りやすく、かつコンパクトに説明してあげるわ」

 その言葉に少しためらうアキトだが、一応聞いておかねばならないことなので 口を開く。

「・・・なぜラピスの瞳が赤になっているんだ」

「それは私の趣味よ」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・冗談よ」

 なんの躊躇もなくそう答えるイネスに痛いほどの沈黙が訪れる、さすがに気まずく なったのか本当の事を話し始める。

「本当の事を言うと金色の瞳はマシンチャイルドの証であると言う事が あまりに有名だからよ、それに一般的にはマシンチャイルドはホシノ ルリしか 存在しないと思われているし、そもそも法律で禁止されているわ、もしラピスの ことがどこからか知られる事になったらアキト君の望む普通の生活とやらに 支障がでるなんてもんじゃないでしょ?だからラピスの瞳の色を変えたのよ」

 珍しく手短にすませるイネスである、しかしアキトもそのぐらいの事は 解っているし、イネスもそれを知っているだろう。

(やっぱり趣味じゃないか)

 しかしあえてアキトはツッコまない、それを言ってしまうと今度こそ説明地獄が待っていると言う事が解っていたからである、代わりに違う言葉を口にする。

「今まで世話になったな、本当に感謝している・・・」

「おいおいなんだいずいぶん改まって、前にも言っただろう?気にすることは無いってさ、それに今回の事は君達に対する口止め料の意味もあるんだよね」

 事件の首謀者に対して口止めも無いだろうに、とも思うが、それがアカツキなりの 照れ隠しなのだと、アキトは思う。

「それでも、感謝しているよ、ラピス、お前もお礼を言うんだ」

 この期におよんでも何も言わないラピスにアキトが礼を言う様に促す、 リンクのせいか、ラピスにはすっかり言葉を口にしない癖がついてしまったのだ そしてそれを直すのもアキトの役目である。

「・・・アリガトウ」

 ラピスの声には感情と言う物がまるで篭っていないが、それでもその愛らしさに エリナはラピスを抱きしめる。

「ラピス、元気でね」

「・・・・・・」

 ラピスは何も言わない、しかし、それでも満足したのか、エリナはラピスを放す。

「じゃあ、行ってくる」

「気を付けてね」

「貴方達が幸せになる事を願ってるわ」

「時々遊びに行くよ」

 最後になにやら不吉な事が聞こえたような気がしたが、アキトは無視してネルガル 本社を後にした、こうして、彼と彼女の新しい人生は始まりをつげた。

 

 

END

 

 

あとがき

どうも初めまして、村人Aと言う者です。

私は今回初めて文章を書いてみたのですが、いや〜むちゃくちゃ難しいですね 管理人様や投稿作家の皆さんの気持ちが何分の一かでも解った様な気がします 私も何度も読み直してああでもない、こうでもないと随分悩みました。

次にこの作品についてですが、管理人様のナデひなを読んでいてふいに 『アキトが劇場版のままならどうなるだろう?』と思いまして、それで書き始めました、最初は投稿する気は無かったんですが暇な時にちょくちょく書いている内に 『結構良く書けてるんじゃないかな?』などと自惚れてしまいまして、投稿してしまいました。(こんな腐れSSを読んで不愉快な気分になった方ごめんなさい)

それと一応言っておきますが、このSSは続きません(断言)、しかも他のSSを書く気もありません、って言うか私には無理です、今回の事で自分には文才がこれっぽっちも無い事が解りましたから。

最後に、こんなSSを最後まで読んで下さった方ありがとうございます、心から感謝いたします。

 

 

管理人の感想

村人Aさんからの初投稿です。

火星の後継者を倒した後のお話ですか。

・・・でも、これだとタイトルの意味が(汗)

行き先をアカツキがはっきり言ってませんからねぇ

ま、状況を見れば、ひなた荘に向かう事は推測できるんですけどね。

もし宜しければ、この後の騒動を書いて欲しいです。