Distraction Days

 SOMEDAY1

 

 

 

 漆黒の海で二体の機体が泳いでいる。

 争っている……いや、一方はじゃれているようなものだ。

 漆黒の機体は青い機体を鮮やかにかわし、

 牽制程度の攻撃しかしない。

 明らかに遊ばれている。

 

 やがて、青い機体は特攻覚悟で突進してくる。

 漆黒の、黒百合の名を持つ機体は何事も無かったようにかわし、

 コックピットに正確にライフルを撃ち込む。

 

 爆発する青い機体。

 

 

 漆黒の海に、YOU WIN!!の文字が踊った。

 

 

 

 

 

 さして集中もしてなかった画面から目を離すと、

 周りの声が耳に入ってくる。

 

「これで三十人抜きだぜっ!誰だよいったいっ!?」

 

「お前、テンカワを知らないのか?

 ここいらじゃブラックサレナ使わして右に出るもん無いぜっ!」

 

「DFS使用版だったらもっとすげえぜっ!

 なんたって格ゲーばりに超必使うからな」

 

「DFSってレバー二回転とかだろ。

 普通の人間じゃバーチャのシステムで使えねえって」

 

「噂だと本当の持ち機体は、あの隠しのブローディアらしいぜ。

 テンカワにそんなの使われたらぜってえ勝てねえって」

 

「普通の奴じゃダリアは扱いきれねえからな」

 

 ……少しうるさくなってきたな。

 

「あれっ?アキやん、やめんの?」

 

 隣りで食い入るように画面を見ていたコースケが問う。

 

「ああ、続きはコースケがやっていいよ」

 

「うわ、アキやんの後ってきついんよな〜」

 

 口ではそう言いながら楽しそうに席に座る。

 

「やっぱり男は夜天光や〜、錫っ杖っ、錫っ杖っ♪」

 

 そんな声を聞きながら、俺は『バーチャ・エステ』から、

 ……ネルガル、クリムゾンの共同開発のゲーム機から離れた。

 

 

 

 

 ………何やってんだろうな、俺は………。

 ゲームセンターの片隅で煙草をくわえながら自問するが、

 答えなど、一つしか思いつかない。

 

 逃げている。

 

 何から?

 

 ………過去から。

 

 なぜ?

 

 ………………わからない。

 

 

 

 

 

『俺が帰るべき場所は・・・ナデシコだ!!

 皆が揃っているナデシコだ!!

 何処に跳ばされ様と、俺は絶対に帰って来る!!

 例え、遥かな距離だろうと、時を超えても―――』

 

 ………あの時、俺は遺跡と共にボソンジャンプした。

 必ず帰ってくることを信じて。

 

 

 

 目覚めた時、草の感触でまた過去に戻ったと思った。

 だが、それは間違いだった……いや、確かに過去に戻っていた。

 でも………それはまったく別の過去だった。

 

 

 戦争なんて何一つ無かった。

 地球と木連はとっくに和平を成功させており、

 ボソンジャンプも、便利な移動手段として使われ、

 エステバリスは……ゲームの中だけの存在にとどまっていた。

 

 絵に描いたような平和が、そこにはあった。

 このゲームセンターの約半数は木連人などと、誰も気にしない事実だ。

 

 そんな事を考えながら、この、

 ユートピアコロニーのゲームセンター『Mars』を眺めていた。

 

 

 

 

「いや〜、14人までは記録伸ばせてたんですよ。

 でもむっちゃ強いDFSサレナが出てきたもんだから、

 もう、コテンパンにやられちゃいました。

 あいつだったら、アキやんともいい勝負すると思うんすよね」

 

「そっか、今度あったら手合わせしてみようかな」

 

 ゲームが終わったコースケと夕空の道を歩く。

 

「カズやんもバイトのし過ぎっすよね〜。

 この頃ゲーセンにも顔見せへんし」

 

「そういうなよ、カズミだって事情があるんだからさ」

 

 コースケ………シンドウ コウスケと、

 カズミ………カンザキ カズミとは良くゲーセンで出会い、

 お互いをゲームの腕で認め合い、友達になった。

 二人とも、ブラック夜天光とブラックアルストロメリアで、

 恐れられており、俺のブラックサレナと合わせて、

 『火星の黒い三連星』と呼ばれている……不本意だが。

 

 まあ、今の俺にとって数少ない親友である事には間違いない。

 

「そんじゃ、また『Mars』で会おうな〜!」

 

 分かれ道で手を振って走るコースケを見送り、

 俺も家路へと急いだ。

 

 

 

 

 誰もいない家に着き、すっかり暗くなった夜空を見上げる。

 

 ここでは色んな事が変わっていた。

 

 俺はナノマシンを持っていなかった。

 このため今は、機械を動かす事もままならない。

 

 身体も全盛期とは比べるべくも無い。

 技術はあれど、身体がついていかない。

 鍛える理由も、わからないし……。

 

 そして………ナデシコは存在すらもしていなかった。

 ナデシコクルーも精一杯探した。

 地球に訪れたのだって一度や二度ではない。

 だが………誰一人として見つけられなかった。

 驚いたのは、ネルガルの社長がアカツキでなかった事だ。

 ネルガルがあるのに、アカツキも、エリナさんも、プロスさんもいない。

 なんて、矛盾した世界だろう。

 

 俺は、この世界では三年前に両親と交通事故に巻き込まれ、

 両親は死に、俺だけ生き残ったらしいという事。

 見たことも無い叔父が俺を引きとり、

 最近、親の保険金で一人暮らしを始めた直後だったらしい。

 

 

 ああ、それともうひとつ……、

 

 目が覚めた時、俺は………味覚を完全に失っていた。

 

 

 細かい事はまったく分からない。

 だが、医者ははっきりと言った。

 

 『もう元に戻る事はありえない』

 

 

 絶望した俺は、高校にも行かず、遊びふけていた。

 

 

 …………逃げていた。

 

 

 

 この平和な火星で………俺は………、

 

 

 何も出来ず………一人ぼっちで………、

 

 

 

 ただ、逃げ続ける事しか出来なかった………。

 

 

 

 

 

 ………Once Again………END

 

 …………To Next Day…………

 

 

 

 

 

後書き

世間じゃ最強で主人公らしいアキトが多いのに、

ここのアキトは無気力で駄目駄目です。

ナデシコメンバーも現在は行方知らずですし。

色々無茶な設定ですが、気長に見守ってください。

 

 

 

代理人の感想

ほほ〜。

ま、掴みはOKッ! という感じでしょうか。

やはり始まりからして個性的であった方が期待は持てますしね(笑)。