逆行者+突破者

第十三話「死殺−円舞」

 

 

 「Moon Night」

 各地への出撃を任された遊撃部隊の名。

 「月」と「夜」の守護。

 そして・・・・・・、

 その闇で、静かに眠る、

 赫い鬼・・・、一つ。

 

 

 

 

 シュッ!

 ブゥン!!

 シュバッ!!

 

 手の中にある物の調整をしながら前の光景を見やる。

 アキトさんとナオさんの組み手。

 ナオさんの鋭い攻撃をアキトさんは全て紙一重でかわしていく。

 ・・・・・・まだ実力差は歴然ですね。

 そして、攻撃に転じたアキトさんの曲芸的な一撃で片が付いた。

 いくらか話した後、アキトさんは倒れたナオさんを置いて去っていた。

 

「大丈夫ですか〜、ナオさん」

 

「大丈夫だが・・・・・・、心底きついぞ。

 まったく、お前さんなら勝てるのか、アキトに?」

 

「まっとうな戦いでアキトさんに勝つのは諦めてますよ」

 

「それでそんなキョーアクなの作ってたのか?」

 

 その言葉を聞いて調整の終わったそれを右手にはめる。

 五指の指先に爪が取り付けてあるグローブ。

 

「スケアクロウっていうんですけどね。

 まっ、所詮は近接戦闘用ですから、たいしたことないですよ。

 ちなみに余った鉄板は靴底に付けました。

 これで骨の二、三本は踏み砕けますよ。いります?」

 

「いや、俺はいいけど。

 しかし、そんな装備作ってどうしようってんだ?」

 

 苦笑しながら答える。

 

「こういうのは僕の役目ですからね」

 

 そう言って僕もナオさんを置いてその場を離れる。

 

 

 

 

 移動キャンプから少し離れたところで待っていると、

 

「よっす。呼び出して悪かったね」

 

 ファルさんが駆け寄ってきた。

 

「別に僕の方はいいですよ。

 それよりそっちこそ遠くで大変だったでしょ」

 

「いやいや、何しろ急ぎだったからね〜」

 

 そういって書類を渡してくる。

 訝しげながらそれに目を通すと・・・・・・、

 

「・・・・・・っ!?これっ!!」

 

「私もさっき『見て』ね。間に合ってよかったよ」

 

 しかし、こんな情報をどうやって・・・、

 ・・・っと、ある考えが思い当たり、半眼でファルさんをにらむ。

 

「・・・『透見』・・・、使いましたね」

 

 ファルさんは涼しい顔をしているが冷や汗を一筋、たらす。

 

「いや・・・あの・・・、あんまりにも尻尾掴め無いからつい、ね」

 

 テヘッなんて可愛い子ぶってもごまかされません!

 

「今すぐ帰って寝なさい!」

 

「そうはいかないよ。

 さすがにアヤトくんでも人質付きじゃ荷が重いでしょ。

 ツバキくんだったらなおのことね」

 

 ・・・的を得ているだけに反論できない。

 

「・・・終わったらちゃんと寝てくださいよ」

 

「オッケー、オッケー!」

 

 それから詳しい段取りを話した後、僕はテントに戻った。

 多分もう、ナオさんの計画も進んでいるだろう。

 そう思いながら今日は負けられないと思った。

 アイツに。

 

 

 

 結局今朝は俺が勝った。

 まあ、しかたないだろう。

 出かけようとするアキトに一言、話す。

 

「いいか、アキト。何が起こっても軽率な行動だけはするなよ」

 

「・・・どういう意味だ?」

 

 訝しげに、だが真剣に聞いてくるアキトに、

 

「女のご機嫌を損ねるなよって事さ」

 

 なるべく深刻にならずにすんだかな。

 ひきつってるアキトを無視して、

 

「じゃ、お邪魔虫は消えるよ」

 

 その場を去った。

 

 

 

 

 デート自体はそれほど波乱もなく進んだ。

 アキトが苦労するのはいつものことだしな。

 俺は監視衛星の範囲外の位置をキープしながら尾行する。

 デートは無事終わり、メティスとミリアさんがアキト達と別れる。

 

 そして・・・、一台の車がメティスをさらっていく。

 すれ違い様に俺は車に発信機を取り付ける。

 これで敵の居場所を突き止められる。

 

 ・・・ミリアさんには悪いが今接触してしまうと、

 敵に俺の存在を知られることになるからな。

 慌てているミリアさんを残して俺は目的地に向かう。

 

 

 

 

 倒壊しかけたビル。

 その一室で、

 

「ふう、やっと泣き疲れて寝やがったか」

 

「そうか、それは都合が良かった。

 そいつに血の色は見せたくなかったからな」

 

「っ!?」

 

 敵は八人。窓際でメティスは寝ている。

 

「だれだっ!!てめぇは!?

 『漆黒の戦鬼』の仲間かっ?!」

 

 その言葉を無視して俺は問う。

 

「お前達は俺の道を阻んだ。

 もしもそれがお前達の本意でなければ今すぐ消えろ」

 

「何を訳のわからない事を、

 こっちには人質が・・・」

 

 ドンッ!ドンッ!!

 

「ぐわっ?!」「ぎゃっ!!」

 

 窓から飛んできた銃弾が、窓際の敵二人の腕を貫く。

 直後に窓から白い人影が飛び込んでくる。

 銀色のリボルバーから硝煙をたなびかせながら・・・。

 

「私はあなた達を殺す気は無いよ。でも・・・」

 

「くっ!!」

 

 敵が引き金を引こうとする。

 そうか、お前達は選択したか・・・

 俺は右手の爪を一閃する。

 

「あなた達にその『鬼』は止められない」

 

 敵の首が飛び、血の雨を降らす・・・

 

 殺戮が・・・始まる・・・・・・

 

 

 

 

 その部屋は凄惨の極みと言えた。

 壁や床といわず天井まで血で汚れ、

 死体は全て暴力的な力のみで絶命している。

 首の無い者、心臓を貫かれた者、延髄を踏み砕かれた者・・・

 ・・・やめよう、私の気が滅入る。

 抱えたメティちゃんを見て思う。

 確かに・・・これは見せられないよね。

 そして気配を感じて、入り口に銃口を向ける。

 居たのは・・・同じく銃を構えたテツヤという男。

 

「まさか、こんなにも早く手を打ってくるとはな」

 

 この光景を見て表面上だけでも平静を装ってる。

 それなりにたいした奴だ。

 

「英雄の仲間に殺し屋が居たらいけないか」

 

 凍りつくような声でツバキくんは答える。

 

「まったく、切り札も使えずに死ぬとはな。

 どこまでもついてないね、俺は」

 

 自嘲気味に笑う。

 

 

「使えばいいさ、切り札って奴を」

 

 突然、ツバキくんがそんなことを言う。

 

「それで英雄に挑戦してみろよ」

 

「なぜ・・・そんな事を言う?」

 

 呆れている、というより心底不思議と言う口調で言ってくる。

 

「今回はたまたまお前らが俺の道を阻んだ。

 そしてこいつらは選択した。だから殺したんだ。

 お前がアキトの道を阻むつもりなら、俺はそれを止める気は無い」

 

「・・・・・・・・・」

 

「戦ってみな。こんな鬼でなく、英雄ってやつとな」

 

 

 テツヤはしばしの沈黙の後、姿を消した。

 そして私たちもビルを後にする。

 

「はい、メティちゃんはあんたが運んでいく!」

 

「なっ?!ファルが運べばいいだろうが」

 

「助けたお姫様を運ぶのは王子様の役目!」

 

「なにをわけのわからないことを・・・・・・」

 

 やや強引に寝ているメティちゃんをツバキくんに渡す。

 

「それにしても見逃してよかったの?」

 

「別に。ブラックサレナもそろそろ着くしな。

 アキトなら大丈夫だろう」

 

「ならいいけど・・・・・・あっ!

 アキトくん達に連絡しなくちゃね。心配してるだろうから」

 

 私が連絡していいのかなって気付いたのは、

 アキトくんにお前、誰だといわれた後だった。

 

 

 

「そういえばさ、何でメティちゃんを殺すことが、

 ツバキくんの道を阻むことになるの?」

 

 背負っているメティスを見ながら答える。

 

「・・・こいつとの賭け。まだ終わってなかったからな」

 

 

 

 そして、基地に帰ってきた俺には、

 緋色の鬼の二つ名が付けられた。

 誰が名付けたか知らないが、なかなかセンスのある名前だ。

 

 

 

 

 呑み込むはずの嵐は・・・・・・・・・

 より大きな暴風によりかき消された・・・・・・・・・

 屍山血河を築きつつ・・・・・・・・・

 ・・・・・・血染めの鬼はただ前に進む・・・・・・・・・

 

 

 

 

後書き

無識:殺っちゃいました。

   予想してた対象とは違うと思いますけど。

ツバキ:この作者に少女を殺す度胸はありません。

ファル:書き始めた時の目標がまずメティちゃんを助ける、だったしね。

無:今回はシリアス時メインウェポンに、

  切ってよし、突いてよしの爪、スケアクロウと、

  鉄板(正確には馬蹄型)付きのブーツが出てきました。

ツ:いきなりエグイ使い方でしたけど。

無:エンタイトルツーベース君とは別の意味で気に入ってます。

 

 

 

代理人の感想

 

む〜、ほっとしたと言うか拍子抜けと言うか(苦笑)。

まぁここでメティちゃんを殺せる様な人だったら外道大王の称号は確実でしょう(爆)。

 

ちなみに「スケアクロウ」ですが・・・一瞬「パワーアップバージョン」の手の部分かと思いました(核爆)。