逆行者+突破者

第十六話「襲撃×殺撃」

 

 

 アキトは月に跳び、

 ナデシコは危機から救われた。

 だがそれにより、ナデシコは守護神を失ってしまった。

 その意味の大きさを、結果と言う現実で思い知らされてしまった。

 俺がいるブリッジには招かれざる人と人達がいた。

 一人は、白鳥 九十九。

 そして……………北辰達だ。

 

 

 

 油断していた。

 侵入者を初めから白鳥さんだけだと決め付けていた。

 戦いという物で、思い込む事が一番してはいけない事だとわかっていたのに!

 予想してしかるべきだった。

 アキトくんはもうかなり歴史を変えてしまっていたのだから。

 

 

 ………後悔などしても意味は無い。

 私はリボルバーのグリップを握りこむ。

 今はただ、ここをどう切り抜けるかだ!

 

 

 

 

「ほう、貴様が『鬼』か」

 

「その通りだよ、俺も有名になったね」

 

 俺はスケアクロウを着けた右手に力を入れる。

 勝算は………ある。

 俺が北辰を相手にし、ファル達が残り七人を抑える。

 最悪、アキトが来るまで持ちこたえればそれでいい。

 

「ふむ、残念だがお前の相手は我ではない」

 

 なんだと……?

 

「天狼!」

 

「はい」

 

 抑揚のない声で一人の奴が編み笠を外して出てくる。

 茶髪に黒目のその姿は、ひどく無個性な印象に見えた。

 歳は俺と同じ18、9歳くらいか。

 それこそ街中で会えば、気にせず通り過ぎるような奴だが……

 右手に刀、左手に逆手で短刀をぶら下げていて、

 放つ気配はあきらかに常人のそれとは違う!

 

 

 突然、そいつが眼前に迫る!

 強力な踏み込みによる急加速。

 刀を上段から振り下ろしてくる。

 迷わず爪で受け止める。

 だが短刀で胴を薙ごうと左手が迫る。

 

 こ…の……やろぉ!!

 

 靴のエッジで短刀を受け止め、蹴り返す。

 そいつはそのまま後ろに戻る。

 ふたたび、距離を開けて対峙する。

 

 いいぜ、殺り合おうじゃないか!

 

 

 

 

 なかなかに状況は最悪だ。

 頼みの綱だったツバキくんが敵の隠し球に抑えられている。

 そしてそうしているうちにミナトさんとレイナちゃんが、

 人質として連れ去られてしまった。

 白鳥さんがいるのがせめてもの救いか。

 そして私は………倒れて動けないでいる。

 

 

 

 私は北辰に向けて銃撃を放ったが、

 素早い横移動で全てかわされてしまった。

 さすがに裏の人間なだけはあるね。

 銃というものをよくご存知で。

 そして接近されての一撃を、銃身で受け止めたまでは良かったんだけど、

 続く二撃目の蹴りをかわしきれずに喰らってしまった。

 せいぜい当たる瞬間に後ろに跳んで気絶を免れる程度だ。

 

 

 

 そんなわけで意識はあるが急激な運動は出来そうにない。

 離さなかったリボルバーには銃弾が二発。

 後は気絶したふりをして隙を窺うしかない。

 

 

 そして、チャンスは来た。

 ハーリーくんを殺そうとした部下をヤガミくんが蹴り倒す。

 

 今っ!!

 

 一瞬、視線をそちらに向けた北辰の眉間と心臓に向けて、

 二発の銃弾をほぼ同時に撃ち出す。

 かわせるタイミングじゃない!しかし!

 信じられない反応速度で眉間の弾丸をかわし、

 心臓を狙った弾丸を肩で受ける。

 

「ふっ、お前は始めから警戒しておった。

 だが、この虚を突いた攻撃。見事と言っておこう」

 

「そりゃどうも。

 これでもやられたらやり返すたちでね」

 

 北辰は薄く笑っている。うわっ、気持ち悪い!

 でも確かに、これでこっちは弾切れ。

 だけど、私の『透見』には『見えて』いた。

 後、二秒……、一秒………、

 

 ガスッ!!

 

 ナオさんに反撃しようとした部下が、

 ブリッジの入り口から飛び出してきた人影に弾き飛ばされる。

 

 ほらね。

 

 とりあえず、私の役目は終わりかな。

 そういえば………ツバキくんの方はどうなっただろう?

 

 

 

 

 何度目かの接触。

 俺の腕に浅い切り傷を作り、また距離を置いて対峙する。

 パターンは決まっていた。

 俺のスケアクロウの一撃を、奴は短刀で受け流し、

 繰り出される奴の刀の一撃を、俺が紙一重でかわせない。

 おかげで俺は身体中切り傷だらけ。

 だがそんなことよりも、俺はひどく苛立っている事があった。

 奴があまりにも、型通りに動いてる気がしてならなかった。

 殺しの教科書があったなら、その通りに動いているような感じだ。

 それがひどくむかつく、苛立つ。

 

「ねぇ、仲間の方は心配じゃないの?」

 

 そいつはいきなり、俺に話し掛けてきた。

 残念な事に奴は俺の間合いのわずかだが外にいる。

 しかたなく、話に付き合う事にした。

 

「別に、俺はお前を殺すと決めたからな」

 

 これは今の俺の本音だ。

 今の俺にとってはナデシコの事も、アキトの事も頭にない。

 ただ、こいつを殺す。それだけが今の俺を支配している。

 

「仲間の為じゃなく、自分の為に人を殺すんですか、あなたは」

 

 初めて、そいつに明確な感情が現れた。

 その瞳に映るは、軽蔑と、怒り。

 

「そんな身勝手なわがままを、僕は許さない!」

 

「…………………」

 

 さっきまでの抑揚のない声が嘘のように、

 激しい怒りが声にこもる。

 

「自分勝手な殺人なんて、僕は認めない!

 あなたみたいな人が、罪のない人を傷つけていくんだ。

 だから今ここで、僕はあなたを殺す!!」

 

 

 …………ああ、わかった。

 今やっと、はっきり理解した。

 なぜこれほどまでに苛立つのか。

 こいつは………、

 

 

「俺はお前の存在を否定しない。

 だが俺は………お前が嫌いだ!!」

 

 右手を引いて腕に力を込める。

 

「そうですか………、

 ……僕もあなたが嫌いです!!」

 

 奴は今までより早い踏み込みで飛び込んでくる。

 

                    つむじ
 木連式弐刀術   旋風

 

 回転しながらの連撃。

 スピードではこいつの方が若干上だ。

 やられたら、防ぎきれない!

 

 しかし!

 

 ガスッ!!

 

「っ!?」

 

 突然、鳴り響いた音に、奴の動きが若干鈍る。

 

 まだ……、甘いっ!!

 

  さつげき     かいな
 殺撃の腕

 

 弓のように引き絞られた身体から、

 撃ち出される矢の如き貫手を放つ。

 

 ガキャァァァァァンッ!!!

 

 金属音を響かせながら吹き飛んでいく。

 心臓を貫くはずだったが、とっさに刀でガードされたか。

 だが、衝撃までは逃しきれなかったようだ。

 

「…うっ、……ぐはっ」

 

 息も絶え絶えに、起き上がっている。

 

 

 だがその時、北辰の部下達が一斉に逃げ始めた。

 さすがに戦神が来たからな。

 奴も同時に引き上げようとする。

 

「待てよっ!!」

 

 俺の声で、一瞬奴の動きが止まる。

 

「お互い殺し損ねたんだ。

 名前ぐらい名乗ったらどうだ?」

 

 ……わずかな逡巡の後、こちらに振り返りながら、

 

「………深雪。

 僕は天狼 深雪です」

 

 また抑揚のない声で、そう答えた。だから……、

 

「……ツバキ アヤトだ」

 

 こちらも、なるべく平坦な声で言ってやった。

 奴の姿が見えなくなっていく。

 

 

 そこまで意識を保っていたのはほとんど意地だったのだろう。

 急速に視界が狭まっていく。

 

 

 倒れる直前に、ようやく隣りの光景が認識できた。

 

 

 ―――アキトと北辰、戦ってたのか………。

 

 

 

 

 

 戦いは何を生むか………

 一方は己が為に戦う………

 ではもう一方は何が為に戦う?………

 ……戦いは誰を殺すか………

 

 

 

 

 

後書き

無識:格闘戦は難しい!!

ツバキ:本当は一番書きたかった所なのにな。

無:そうだよ〜、山場だったのに〜(泣)

ツ:愚痴はいいから、今回の新キャラについて言う事があるんだろう。

無:うむ、深雪くんの事ね。深雪なんて名前ですが男です。

  実は女だった、なんて事にはなりません。

ツ:今回の話だと、なんとなく正義バカっぽかったな。

無:ふっ、甘いな。

  深雪も人外大好きな私が考え出したキャラ。

  なまじ人間だから複雑怪奇な精神構造なのは確定事項!!!

ツ:ならそれをどこまで表現できるか、だな。

無:…………………それが一番難しいんだ(泣)

 

 

 

代理人の感想

 

格闘戦は難しい!

いや、全く同感。

私も毎度毎度作品の中で格闘シーンを書いていますが、

納得のいく物は中々書けないもんです。

まぁ、格闘シーンそのものじゃなくて前振りってのも結構重要なんですが。