逆行者+突破者

第二十三話「喪失+鬼哭」

 

 

 ………時々思う。

 私は凄まじく残酷なのではないのだろうかと……。

 

 もしも皆が、私が『未来』を知っていた事を……、

 アキトくんが意識不明になり、ツバキくんが左手を壊す事という未来を、

 全て事前に知っていたのに、私が何もしなかったという事を気づいたなら……、

 みんなは、私を軽蔑する?罵倒する?それとも………殺されるかな?

 

 しかも、何もしなかった直接の理由が、

 ……別に、死にはしない……、だからなぁ。

 

 

 そして今も、私は未来の『点』を視ている。

 血の海に沈む……ツバキくんの姿を………。

 

 

 さて、今日はもう寝ますか。

 

 

 

 

 

 

 もしも、鳥が翼を一つもがれたら、もうその鳥は飛べない。

 もしも、チーターが片足をもがれたら、もうその速さは戻らない。

 獣にとって身体の一部が無くなる事は、死と同意義だ。

 例外は一部の再生能力を持つ動物か、人間ぐらいだな。

 

 ……では、俺は………左手を壊した俺は………。

 

 死んでいるも、同然なのだろうか………。

 

 

 俺はナデシコに戻っていた。

 今はイネスさんに、左手を見てもらっている。

 

「……だめね。かろうじて骨が残っている程度よ。

 もう一度動かすのは不可能ね」

 

「ええ、わかってます」

 

 医療室に来たのは、義理のようなものだ。

 メティスやチハヤがうるさかったしな。

 

 丁寧に巻いてくれた包帯の上から、さらにぐるぐる巻きにテーピングする。

 今にも崩れそうな左手を必死に繋ぎ止めるように。

 

「………………」

 

「先に言っておきますけど、義手なんて選択肢、俺にはありませんから」

 

 そんな物を使って生きる事に、何の意味があろうか。

 

「………変わったわね、ツバキ君。

 何故かしら、今のあなたからは、人間味というものが感じられないわ」

 

 ………それは当然の事だろう。

 なぜなら俺の今の感情は、人間には理解不能だからな。

 

「まあ、いくら温厚を基本としている俺でも、

 時には不機嫌になるときもありますよ」

 

 だが、そう言ってごまかして、俺は医療室を出て行った。

 

 

 

 

 

「あれ?珍しい組み合わせだね」

 

 私が食堂に行ってみると、メティちゃんとチハヤさんが一緒に居た。

 あっ、別に珍しいって事も無いか。

 いわゆるツバキくんつながりって事なんだし。

 

「あっ、ファルさん!」

 

「こんにちは」

 

「あ〜、こんちは。

 なに、二人揃ってって事は、ツバキくんの話でもしてたの?」

 

 同じ席につきながら、何気なく聞いてみると……、

 

「あ〜…………」

 

「………………」

 

 うわっ、いきなり二人とも暗くなっちゃったよ。

 

「その………今のツバキが怖いんです。

 別にどこがってわけでもなくて、なんかわかんないけど怖いって感じで……」

 

 メティちゃんは本当に困惑した表情で言う。

 うーむ、人間的には正しい反応なのよね。

 基本的にわかんないってのは恐怖の対象だからね〜。

 

「……やっぱり、私のせいじゃないかと」

 

 突然、チハヤさんが口をはさんでくる。

 

「きっかけは多分、あの左手だろうし、

 そうなった原因は、私になるんだし………」

 

「それは、チハヤさんのせいじゃないですよ!」

 

「そうそう、メティちゃんの言う通り。

 だいたいね、ツバキくんはただイライラしているだけなんだから。

 ほらっ、なんていうのかな………、

 トカゲだって切り離した尻尾が再生しなかったら、イライラするんじゃないかな?

 まあ、そういうようなもんよ」

 

「?………はあ」

 

「………えっ?」

 

 ありゃ、ちょっと例えが悪かったかな。

 

「まっ、今は近づかないのが無難かな。

 大丈夫よ!しばらくしたらいつも通りになるわよ」

 

 

 ………別に私は嘘をついていない。

 たとえ私が、先の事を見えていたとしても、

 それを言わないことは決して……嘘ではない。

 

 だから私は、無責任な発言を平気でした。

 

 

 

 

 それからほどなくして、クルーの幾人かが倒れた。

 だが、しばらくして全員、目を覚ました。

 そして………アキトくんも目を覚ました………。

 

 倒れた一人、ツバキくんに話を聞くと、

 

「どうやらアキトの記憶と同調していたみたいだ。

 だからIFSを持った者しか倒れなかった。

 ちなみに原因となった物はもうアキトが壊したがな」

 

「私たちの事は?」

 

「最後まで残ったアカツキさんとルリさんにはある程度ばれた。

 一応、適当に誤魔化しておいたけど……」

 

 まあ、その二人なら、信用できるだろう。

 もっとも、本当のことを話したなら、私たちの正気を疑うだろうけど。

 

 

 

 

 

 その日、僕の元に一つの暗号文が届いた。

 宛て先は………あの人か。

 書いてあったのは一つの命令。

 さっそく舞歌さんに外出許可を貰い、出ようとした時、

 

「あれ?天狼さん、どこヘ行くんですか?」

 

 偶然、道で紫苑さんと北斗さんに会った。

 

「いやぁ、ただの野暮用ですよ」

 

 不思議そうにしている紫苑さんに笑顔でそう言い、

 ジュラルミンケースを持って僕は立ち去った。

 

「………………」

 

 ……北斗さんの針の視線を背中に感じながら。

 

 

 

 

 

 月にあるネルガルのドッグに、ナデシコは到着した。

 月面シティには行けないが、ドッグ内では自由な時間が与えられた。

 俺はドック内の暗がりを、一人で歩いていた。

 一人になりたかったし、なにより………予感があったのかもしれない。

 

 そして、人の途絶えたその場所で、

 俺は深雪と再会した。

 

 

「おまえ、何でこんな所に居るんだ?」

 

「何でって……愚問じゃないですか」

 

 何をいまさらといった雰囲気で答える深雪。

 その声は恐ろしく無感情であり、その瞳は殺意と虚ろで満ちていた。

 すでに深雪は、剥き身の刀を二本とも持っていた。

 俺もスケアクロウを右手につける。

 ……左手が使えないから少々手間取ったが。

 

「そんじゃ、やろうか」

 

「ええ」

 

 次の瞬間には、俺は深雪に向かって駆け出していた。

 

 

 射程距離まで後、三歩。

 深雪は動かない。

 後、二歩。

 まだ深雪は動かない。

 後、一歩。

 右手を振りかぶり、一気に切り裂く。

 深雪はぎりぎりで横にかわす。

 だがそれは予想の内、すかさず右手を翻して二撃目を……!

 

 キィィィンッ!!

 

 深雪の反撃のスピードは、予想を遥かに上回っていた。

 とっさに受け止めたが体勢が崩れ、思わず左手でバランスを取ろうとして、

 

 メキィッッ!!

 

「っつ!」

 

 左手の骨が砕けたか……。

 

「へぇ〜、本当に左手、使えないんですね」

 

 その、深雪の声は………、

 

 ………背後から聞こえた。

 

 

 ザシュッッッ!!!

 

 

 

「……っっっっっっっ!!!」

 

 俺の無音の声。

 

 灼熱ようなの痛み。

 

 血液の流出による耐え難い寒さ。

 

 そして……、

 

 ドシャッ!!

 

 俺の目の前に落ちてきた………左腕。

 深雪によって斬り飛ばされた、壊れた左腕。

 

「……どうせ壊れているなら、いらないでしょ?」

 

 感情の無い深雪の音が、かろうじて耳に響く。

 

 そうか……これが俺と深雪の力量の差か。

 最初から、深雪は俺の事など歯牙にもかけていなかったというわけか。

 ……口の中で血の味が広がる。

 

「ふ〜ん、ツバキさんの瞳って、赤っていうより血色なんですね」

 

 前で声がしたので顔を上げると、深雪が俺を見下ろしていた。

 瞬間、半ば反射行動的に右手の貫手を放つ。

 だが、そんな攻撃当たるわけが無く、あっさりかわされ、

 目の前に短刀を突きつけ………、

 

 

 

 

 そのまま、短刀は左眼は抉っていた。

 

 

 

 

 

 

 短刀についた眼球の欠片を振り払い、

 血の海に倒れているツバキさんを見下ろす。

 

 ……さて、あっちの拉致も終わっている頃ですね。

 そばに落ちていた左腕をなんとなく拾い上げ、

 ツバキさんの身体と一緒に持っていく。

 ……身体だけ見たら、ツバキさんって子供ですから、

 運ぶのが楽でラッキーです。

 ツバキさんも引きずられなくて良かったですね♪

 

 

 

 

 

 

 壊しては創る………

 創っては壊す………

 破壊と創造は世界の理………

 ……新たなものはいつも、破壊から生まれる………

 

 

 

 

 

 

後書き

無識:え〜、いきなりですがすいません。

   事情により、更新が思いっきり遅れてしまいまして。

トール:……実はその事情、まだ継続中。

無:はっはっはっ、私には意味さっぱだな!

ト:……現実逃避。

深雪:それにしてもまたえぐい事やってますね〜。

無:お前が言うな、お前が!

深:ちなみに作者のえぐい好きは月姫が多分に起因してます。

無:おう!トリプルアルク最高!!

ツバキ:それにしても………俺はいったいどうなる?

無:案ずるな、なんたってお前は主人公!

  愛と熱血と根性で奇跡を起こせ!!

  ピンチを乗り越えた先にはパワーアップが待ってるぞ!!

ファル:大分過剰表現が混じっているわね。

ト:……そんなわけで次回「邂逅×昇華」をどうぞよろしく。

 

 

代理人の予想

1、メタルサイボーグで復活(顔が半分機械)

2、バイオサイボーグで復活(左腕がタコの足になっている)

3、クローンで復活(分身が十二人ほどいる)

 

 

さあどれっ(爆)!