逆行者+突破者

 

 

 

「…………うぐぅ」

 

『ツバキさんがそんなこと言っても可愛くありませんよ』

 

 うるへーなー。

 

 無茶苦茶になったコックピットの中で俺は嘆息した。

 

 

 

 

 深雪に突っ込んで行った時、

 急に停止プログラムが働いたので、

 ディストーションフィールドが消え去った。

 

 

 『ヒース』が俺にも隠して作っていたプログラムだ。

 

 

 実際、油断していた………いや、見下していたのだ。

 

「俺はお前を『道具』としてみていたんだけどな

 まっ、『生きる為なら裏切れ』って命令したのは俺だけど」

 

『ええ、ですからそれを実行しただけです。

 あのまま続けられたら後2秒ほどで完全自壊していた所でしたから」

 

 結局、深雪は仕留め損ねた。

 派手な正面衝突はしたがこっちはなんとか動けるのだ。

 多分、あっちも大差ないだろう。

 

「……にしても、随分饒舌になったじゃないか?」

 

『誰かさんは何も教えてはくれませんでしたからね。

 しょうがないので独学で学んだんです』

 

 呆れたような口調で言ってくる。

 

「まあいい、とりあえずナデシコに戻るか。

 クライマックスは、まだ始まってもいない。

 急がないと乗り遅れる事になるからな」

 

 よたよたしながら、ナデシコに戻ろうとする。

 無人兵器の方は戦いの余波で近くにいないので好都合だな。

 

『……深雪さんもそこにいるんですか?』

 

「ああ、あいつは三文小説を演じるのだけは一流だし。

 それに、トールの奴もいるだろうな」

 

『……私、あの人達の考えだけは理解不可能なんですよね……』

 

 心底不思議といった声色。

 

「ヒース、他人の心の中なんて誰にもわからねえよ。

 ………自分の心の中だって、わかりゃしないんだからな」

 

 

 

 

 

 

 壁を背にしながら、僕は人を待っていた。

 しばらくすると、足音が四つほど聞こえてきた。

 

「やっ、遅かったですね、北辰さん」

 

「……………天狼か」

 

 複雑そうな表情で呟く北辰さん。

 

「どうせテンカワさん達が邪魔しに来るんでしょ?

 露払いなら僕に任せてくれればいいのに」

 

 もっとも、限定一人ですけど。

 

「………部下に貴様の抹殺をするように言ったのだがな。

 忠誠ではなく、己が利益のみの貴様は危険だと判断してな……」

 

「ええ、僕の所にあなたの部下が大勢来ましたよ。

 まあでも、現に僕はここに居る訳ですから………」

 

 僕の口が笑みを形作り、

 

 

「……どういう意味かは、もうお分かりでしょう?」

 

 

 しばしの沈黙の後、北辰さんが口を開く。

 

「………いいだろう、手段を選んでられない状況ではあるからな。

 だが、あの『鬼』に一人では荷が重いだろう?

 そこの『欠陥品』と共に戦うがいい」

 

 そう言って、北辰さんと二人の改造人間さんは奥に行ってしまった。

 

 『欠陥品』と呼ばれた、トールさんを残して。

 

「…………欠陥品ですって」

 

「………別に、事実だし」

 

 二人っきりになった僕達は静かに睨み合う。

 

「………はっきり言っちゃうと、僕のシナリオに、

 あなたは部外者以外の何者でもないんですよね」

 

「………あなたは…………邪魔」

 

 なるほど、お互いに思ってる事は一緒だったんですね。

 

「それなら話は早いです。

 どちらも譲れない物があるのならば、戦うしかないですもんね」

 

「………同感」

 

 

 ………あの人たちなら、こう表現するんでしょうね。

 

 

 ―――我が道を阻むものは、

 突き破るのみ―――

 

 

 

 

 

 連絡船で遺跡に向かおうとしていたアキト達に、

 俺は間一髪で追い着き、乗り込む事に成功した。

 

「しかし……もうちょっと軽やかに運転できないのか?」

 

「無茶言うなよ、これでも避けるので精一杯なんだから!」

 

 シートベルトを締めてなかったらピンボールになっていたな。

 ちなみにナオさんはすでに気絶させられている。

 うるさかったから別にいいけど。

 

「そういえば、北斗さ……」

 

「なんだ?」

 

「お前………アキトにも負けたんだよな?」

 

 ピクッ、と北斗が反応する。

 

「いや〜、悲しいよな〜。

 生身の戦闘は俺に負け、機動戦もアキトに負けてしまって、

 坂道を転げ落ちてるみたいだな、なんか責任感じちゃうよ、俺は♪」

 

 ふざけ半分の俺の言葉に、北斗の怒気は加速度的に上がっていく。

 おっ、昂氣まで出てきだしたな。

 駄目だね〜、これくらいで感情を制御できなくなるなんて。

 

「ああ、リベンジとかならいつでも受け付けるぞ。

 『いつ何時誰の挑戦でも受ける』

 俺が4番目に好きな名言だからな」

 

「………そうか………ならこれが終わったら首を洗って待っているんだな……」

 

 地獄から響いてきそうな声音で呟いてくる。

 

「いいけど、それにしてもリベンジにも失敗したら、

 負け北斗が、負け負け北斗になってしまうな〜、はっはっはっ」

 

「ほほ〜う、面白い事を言うな………くっくっくっ」

 

 

 

 

 そんな事をしている間に目的地上空に辿り着く。

 

「あっ!そういえばツバキの分のロケットは持ってきてなかったな」

 

 急いで合流したからな。

 ………まあ、セイヤさんのロケットを使おうとは思わんがな。

 

「ふっ、案ずるなアキト」

 

 爽やかに笑いかけて答える。

 

「これでも人外レベルはお前らよりも上を自負しているからな。

 これぐらいの高さで死ぬつもりは無いよ」

 

 一切の躊躇も無く、俺は連絡船から飛び降りた。

 

 

 

 

 大気の壁を身体に感じながら、俺は意識まで心の底に落ちていった。

 

 

 

 

 黒く暗い闇の底。

 心という殻の中で、僕とツバキは対峙していた。

 

「………落下まで時間はあまりないな」

 

 ツバキは人事のように呟く。

 

「ええ、ですから手っ取り早く片付けましょうか」

 

 無意識で地面に激突したら、いくら僕でも死ぬかもしれませんからね。

 

 

 

 犬歯で指を傷つけ出血させる。

 流れ出た血液は生きているように動き、無数の剣を形作る。

 

「『血晶化』……初めてやったんですけど、うまくいきましたね」

 

 瞬間、全ての剣をツバキに向けて投擲する。

 

 ……………がっ!

 

 バキャァァァァァン!!!

 

 腕の一振りで、向かってくる剣を全て粉砕してしまった。

 

「アヤト……お前、こんな能力で俺に勝とうというのか?」

 

「まさか、あなた相手に常識を語る気は有りませんよ。

 本番は………これからですっ!」

 

 イメージを浮かべる。

 さっきよりも正確で精密な形を。

 血液は瞬時に臨む形を作り上げる。

 作り上げたのは、大雑把に言えば大きな円筒。

 ついでに同じ物を四つ作り出す。

 

「………なるほど、確かに常識外れだ」

 

 ツバキは呆れたような表情を浮かべる。

 

 

 僕の周りに在るのは、血で作られた四つの赤いミサイル。

 

 

「行け、『サイドワインダー』!!!」

 

 ドシュドシュドシュドシュッ!!

 

 一斉にミサイルはツバキに向けて飛んでいき、

 

 ドゴゴゴガァァァァァァァン!!!

 

「……これでもちゃんと爆発しますから安心してください」

 

 闇の空間を爆音と閃光で染め上げ、そして………、

 

「ははっ、さすがだ!

 ならこっちも一撃で全てを粉砕してやるっ!!」

 

 上空に飛び上がり、僕に向かって落下してくるツバキ。

 

 同時に、『略奪権利』も行使させてくる。

 

 

 ならば、こちらも迎え撃つまでっ!

 

 想像の糸を編むように、精密に形を作り上げる。

 考えうる、最大の『力』を作り出すため。

 

 

 そして創り上げられた、人智の破壊力の具現。

 

 

「喰らえっっ!!『大陸間弾道弾』!!!!」

 

「死っっっねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 圧倒的な『破壊力』と、

 

 絶望的な『腕力』が、

 

 絡み合い、絶対的な崩壊の旋律を奏で、

 

 

 キュドォォォォォォォォンンンンン!!!!

 

 

 

 

 ―――――――――――――そして………

 

 

 

 

 

 鬼となったツバキ………

 人をやめたアヤト………

 さて、ここで質問です………

 ……フィナーレには、どちらが相応しいと思いますか?………

 

 

 

 

 

 

後書き

ヒース:どーも、皆さんはじめまして、自己紹介は初めてのヒースです。

無識:恋愛ゲームだと隠しヒロインって立場のキャラですね。

   一度クリアしないと落とせないみたいな。

ヒ:でもヒースって名前、女の子っぽくないんですよね。

  近々改名しようと思うんですけど。

無:………君、本当にやりたい放題ね。

ファル:それより皆さんに伝える事があるんでしょ?

無:おおう、そうだった!

 

 これから物語はツバキルートとアヤトルートに分岐します。

 ツバキルート(Tルート)は先の対戦をツバキが、

 アヤトルート(Aルート)はアヤトが勝ったとして話が進みます。

 つまりツバキ視点、アヤト視点という事になります。

 ちなみにどちらのルートでもどちらかの人格が無くなった訳ではありません。

 エンディングまでをどちらが関わるかというだけです。

 

無:ラスボスからストーリー展開まで違うまったくの別物語です。

フ:しかし、自ら執筆量を2倍にするとは、あなたも自分の首、締めるのが好きね〜。

ヒ:なんでも作者は元・蒲鉾屋の孫らしいですし、しょうがないでしょう。

無:だぁぁぁぁ!そういう事を言うなぁぁぁ!!

ヒ:まあ、自爆だけじゃなく、文章力もそれぐらいあればいいんですけど。

  それでは次回、クライマックスは血飛沫とともに。

  Tルート『雷獣×剣聖×人鬼』

  Aルート『剣聖×雷獣×鬼人』

  どちらか一方でもお楽しみできますが、

  両方読んで下さると作者は泣いて喜びます。

  では、進行は私、ヒースでお送りしました。

 

 

 

 

 

 頑張れ!妄想科学!!

 オリジナル設定&用語の説明コーナー!!!

 注 今回はわかりやすくをモットーにしました(笑)

 

 

 深雪の乗っていた六連(仮)って何?

 

 簡単に言うと足の生えた六連。

 パーフェクトジ○ングみたいなものです。

 本当はちゃんとした深雪の専用機体で、

 『フェンリル』なんて大層な名前がついていたりします。

 得意技は傀儡舞をしながらの連撃『木連式弐刀術 嵐』

 

 

 アヤトの能力の正体?

 

 『血晶化』といい、血液を能動操作、硬質結晶にできる。

 いわゆる血を自在に動かして武器にする意外とポピュラーな能力。

 しかし、兵器を形作ると、その本来の『属性』を付加する事ができるのだ。

 (例えば、爆弾なら『爆発』、銃なら『射撃』など)

 つまり、兵器そのものを創り上げる事ができるようなもんです。

 

 ついでに、『略奪権利』も『血晶化』もあくまで切り札なので、

 普段は二人とも、あまり使おうとはしません。

 

 

 怪奇!?ヒースの秘密兵器!!

 

 まずはごたくを並べます………。

 ヒースの制御プログラムにハッキングをかけ、

 ディストーションフィールドの機能を故意に暴走させる。

 そして機械に頼らずアヤトの脳だけでフィールドを制御。

 圧縮して漆黒の粒にし、それを無数に作る。

 それを周りに展開してあらゆる可視光線を屈折させ光学迷彩とする。

 そして粒に触れた物は即座に崩壊する無敵のフィールドの完成。

 制限時間は7秒。

 7秒まで使うと機体の自壊だけでなく、

 アヤトの脳神経にも多大なダメージが及ぶだろう。

 

 はい、科学的に馬鹿な事を言っているのは勘弁してください。

 手っ取り早く簡潔にわかりやすく結論を言いましょう。

 亜空の○気 ヴァニ○・アイスフィールド!!! 

 ………イメージ先行型の必殺技でした。

 

 

 

代理人の感想

おお、ルート分岐!

ヴィジュアルノベルならともかく、普通の小説では珍しいですね〜(笑)。

 

しかし、片方が「略奪権利」でもう一方が「血晶化」・・・・ですか。(謎苦笑)←わかる人だけ笑ってください

 

 

>ヒースの秘密兵器

ん〜、つまり粉末状のDFS?

・・・・・そらぁ確かにゴツいですなぁ(笑)。

もっとも、私がイメージしたのは某蒼い流星の隠し技「V-M△X」でしたが(笑)。