逆行者+突破者

 

 

 

 こちらに気がつくと、深雪は笑顔すら浮かべて話し掛けてきた。

 

「グッドタイミング、ちょうど終わった所です。

 あっ、お三人はどうぞこの大穴からお入りください。

 僕が待っていたのはツバキさんだけでしたから。

 頑張って、ラスボスをぶっ殺してくださいね♪」

 

 目の前の惨状と深雪の癇に障る言動で、場が一気に凍りつく。

 

「行け、アキト。

 こんな奴に時間潰すのも勿体無いだろ。

 こいつとはきっちり、俺がけりをつける」

 

 有無は言わさんといった視線をアキトに向ける。

 

「…………わかった。

 行こう、北斗、ナオさん!」

 

 そして、三人は大穴に入っていった。

 

 

 

「それにしても……派手に殺したもんだな」

 

 左腕は縦に切り裂かれ、銀髪を撒き散らして、

 うつ伏せに倒れているトールを見る。

 

「邪魔でしたからね。

 少々てこずったのは、予想外でしたけど」

 

「………なるほど、妥当な理由だ」

 

 軽く溜め息をついて、右手にスケアクロウを付ける。

 

「ほら、ちゃっちゃと始めようぜ。

 お前ごときに五分も十分も時間かけてられないからな」

 

 今度は深雪が深々と溜め息をつく。

 

「情緒が無いですね〜。

 こういう場合、ここであったが百年目とか…」

 

「付き合ってられるか」

 

 深雪の戯言を一言で切り捨てて、駆け出した。

 

 

 

 

 

 まったくの無防備でこちらに向かってきたツバキさんは、

 これまた、大きく振りかぶって右腕を振り下ろしてきた。

 

 ………普通なら、即座に攻撃するんですけど、

 あえて何もせず、後方に回避した。

 

 空振りの右腕が地面を打つ。

 

 ドゴンッ!

 

 地面がクレーター状に陥没する。

 

 ……通常攻撃でゲージ半分は削りそうですね。

 格ゲーだったら絶対禁止キャラですよ。

 

 馬鹿な事を半瞬だけ考え、

 即座に身体は現実的な行動をとる。

 踵を鳴らし、ツバキさんの後ろに回りこむ。

 

 ツバキさんは振り向きざま裏拳を放ってきた。

 

 ザシュ!

 

 だが、逆に僕がその腕を斬り飛ばす。

 だけど、

 

 パシッ

 

 軽く受け止めてそのままくっつける。

 

「………非常識な人ですね。

 いったいどうやって殺せばいいんですか?」

 

「……頑張れば殺せるぞ」

 

 言いながら、スケアクロウを付けた右手を引き、構える。

 

 

 ふぅ、しょうがない。

 それじゃ、頑張って殺しますか。

 

 

 両手の刀を腰だめに構える。

 『疾風』の構え。

 

 

 

 

 ――――同時に、駆ける。

 

 

                          はやて
 木連式弐刀術 外式   疾風

 

 

   さつげき        かいな
 殺撃の腕

 

 

 バキャキィィィィィンンン!!!

 

 

 

 互いの武器が全力でぶつかり、

 長刀『凍月』と爪『スケアクロウ』は音を立てて壊れた。

 

 

 だが、まだ終わらない!

 

 回転の勢いを殺さず体を捻り、

 左手に、逆手に持った短刀『凍花』を振り上げる。

 

 

                          そよかぜ
 木連式弐刀術 追式   微風

 

 

 刃は吸い込まれるように喉に向かっていく。

 

 

 だがっ!

 

 ガキッ!!

 

 ツバキさんは歯で噛み止め、

 

 ガバキィィンン!!

 

 ―――噛み砕いた。

 

 

「………脆いな、弱すぎだ」

 

 左手を引き、こちらをまっすぐ睨んでくる。

 

 

 

 

 そして――――――爆発した。

 

 

  ごうげき         かいな
 轟撃の腕

 

 

 ドガァァァァァァンンン!!!

 

 

 

 

 

 

「…………起きな、死んじゃいないだろ」

 

 俺の声で、吹き飛ばされた深雪はムクッと起き上がる。

 

「…………………なんで、殺さなかったんですか?」

 

 悲しそうに、呟く。

 

「わかってたからな、お前の目的は。

 お前は、『俺に』『この場所で』『あの瞬間に』『殺されたかった』……そうだろ?」

 

 深雪は一瞬だけ驚愕を浮かべ、すぐに無表情に戻る。

「……そこまで、理解していらしたとは………」

 

 

 結局、こいつは死にたがり。

 いわゆる間接的自殺志願者って所か。

 それも、傍迷惑な事に完璧主義な。

 

 

「最終決戦の地でライバルに華々しく殺されるって所か。

 なるほど、陳腐すぎて今日日小説でも見かけない死に方だな」

 

 馬鹿らしい価値観としか言い様が無いが、まあそこらへんは自由か。

 

「……でもツバキさんなら、例え気づいたとしても、

 躊躇無く僕を殺すと思ったんですけど………」

 

 それこそ泣きそうな声で深雪は言ってくる。

 

「だから甘いんだよ、お前は。

 いいか?俺はお前が嫌いなんだ」

 

 きょとんとした目でこっちを見る深雪。

 

 

「考えたわけだよ、お前に一番屈辱を味あわせる方法を。

 答えは簡単だ………殺さなきゃいい。

 それだけで、お前にシナリオをぶち壊された『屈辱』を感じさせられる」

 

 

 呆然としている深雪の顔を見て俺は満足する。

 

「そんな顔が見たかったんだ。

 せっかく完成しそうな砂の城を壊されたガキみたいなお前の顔を」

 

 もはや振り返らず、俺は遺跡の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 ツバキさんが去って、しばらくして、

 僕はこみ上げてくる笑いを抑えきれなくなった。

 

「はは……あははは………あははははははははっ!」

 

 人間、どうしようもなくなると笑うしかないんですね。

 まさか、そんな理由で殺されないとは夢にも思わなかった。

 

 せめて、納得のいくいい死に方をしたい。

 

 そんな些細な願いを踏みにじるなんて、なんて酷い人だろう。

 

 

 ひとしきり笑うと徐々に落ち着いてきた。

 

「……道は険しい、人生そんなに甘くない………か」

 

 しょうがない、また一から出直しだ。

 今度はあんな捻くれた人じゃなく、素直な人を使おう。

 

 

 ふと、足元を見やると銀縁の眼鏡が落ちていた。

 これは………トールさんのだったな。

 

「はあ……こんな事なら、トールさんを使っておけば良かった」

 

 いまだ、放置されたままのトールさんをチラリと見て、

 

 

 

「殺しちゃって……………ごめんなさい」

 

 

 

 拾い上げた眼鏡を握り潰した。

 

 

 

 

 

 

 見苦しいまでに生き続けようとする信念………

 華麗に物語を完結しようとする願い………

 形の異なる二つの希望………

 ……あるいは、形の異なる二つの絶望………

 

 

 

 

 

 

後書き

無識:色々引っ張ってきましたけど、

   結局深雪ってこういう奴なんですよね。

ヒース:気に入らない死より気に入った死を自分で作る……ですか。

無:深雪も遠大な野望より個人的な願望を選ぶ人ですから。

  こりずにまた気に入った死に方を計画するでしょう。

ヒ:ツバキさんもすっかり悪役チックですね。

無:深雪が死を望んでなかったら容赦無くぶち殺していたでしょうね。

  それでは、次回予告を頼むぞ!

ヒ:長らく続いた逆行者+突破者もいよいよ完結!

  最後もやっぱり血飛沫が飛び散るか!?

  それとも大好きな笑い溢れる御都合エンドか!?

  まさか無謀にも泣きを演出するか、へっぽこ作者!?

  Tルート「遺跡=孤独」&エピローグをお待ちください。

無:Aルートもどうぞよろしくおねがいします。

 

 

代理人の感想

・・・・・・・とことん性格の悪いやっちゃな(爆)。

まぁ、深雪は深雪で十分傍迷惑ですけど(苦笑)。