時間的に判断して・・・アナザー(苦笑)

 

 

ミリア、「ココロの棘」

 

 

 

 

 

「お邪魔だったかの?」

 

ドアを開けて部屋に入ってきた人物は、ベッドの上の患者に尋ねた。

 

「いいえ、そんなことはありません。」

 

ベッドの上で上半身を起こして、ベッド脇の通信機器に向かっていた佳人は微笑みを浮かべながら

歓迎の意を示した。

 

「その後の具合はどうだね。医者からは順調に回復していると聞いておるが。」

 

佳人のいるベッドに近づきながら老人が尋ねる。

 

「はい。おかげさまで大分良くなりました。」

 

「それはなにより。」

 

連合宇宙軍西欧方面軍総司令官グラシス中将は、破顔しつつベッドの脇に置かれた椅子を引き寄せると

それに腰掛けた。

 

「何か必要なものがあったら遠慮なく言ってほしい。ミリアさんは未来の孫の伴侶から

 託された大事な客人であると同時に、私にとってのもう一人の孫じゃからの。」

 

ミリアに慈愛のこもった視線を合わせつつ、やさしくそう告げる。

 

「ありがとうございます。」

 

グラシスの言葉に込められた想いに、心からの礼の言葉を述べたミリアだが、次の瞬間にはいたずらっぽ

く笑うと言葉を続ける。

 

「でも、随分気が早いのですね?」

 

「何がかの?」

 

わかっていながら確認するあたり、やはり一筋縄ではいかない狸である。

もっとも、ミリアにしてみればお茶目なおじいさんということになるのだが。

 

「テンカワさんのことです。」

 

「未来の孫の婿殿がどうかしたかの。」

 

あくまでとぼけるグラシスに、ミリアは笑いながら尋ねた。

 

「それでは、おじい様に質問です。テンカワさんは、サラさんとアリサさんどちらの伴侶なのですか?」

 

全ての事情を承知していながらこのような質問をしてくるあたり、ミリアも相当な玉なのかもしれない。

グラシスは苦笑を浮かべながらそう思った。

 

「それは、むろん、婿殿を捕まえた方の伴侶じゃよ。

 私としては二人同時の婿でもかまわないがの。」

 

その返事に一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべたミリアだが、こちらもまた苦笑を浮かべる。

 

「テンカワさんを捕まえることが並大抵なことではないとわかっていて、そのようなことをおっしゃるのですね。」

 

「うむ。孫達は障害が多ければ多いほどなんとしても彼を捕まえようとするじゃろうからの。」

 

しばしの沈黙の後、二人は一斉に笑い出した。

暖かい陽射しが降り注ぐ部屋の中で談笑する二人は、本当の祖父と孫にしか見えなかった。

しばらくしてミリアが笑いすぎで溢れた目元の涙をぬぐっていると、こちらも笑いを収めたグラシスが

ベッド脇の機器を見ながらミリアに確認する。

 

「ところで、そちらはヤガミ君からのメールかね。」

 

「はい。」

 

グラシスの質問に、頬に朱を散らしながら嬉しそうに答える。

そこには愛する者を得た人間だけが持つことのできる幸せの絶対領域が存在していた。

 

「私のSPだった時は気づかなかったが、ずいぶんとまめな男だったのだな。」

 

ミリアの喜ぶ様を楽しげに見ながら、感慨深げにつぶやく。

グラシスの中では、テンカワアキトと出会ったあの時まで、ヤガミナオに対する評価は可もなく不可もなく

といったごく平凡なものでしかなかった。しかし、その後の経緯を通して飄々とした雰囲気を持ちながらも

中心に一本、自分なりの貫くべき信念を持った得難い男であるとの修正評価がなされていた。

 

ただ、その修正の中には「まめな男」という項目はなかったのである。

 

「これも、愛すべき人を得たものの特権かの。」

 

思わず、そう述懐してしまうグラシスだったが、それを聞かされるミリアの方は頬だけでなく耳の先まで

真っ赤になっていた。

 

「じゃが、これで生きてゆく気力が湧いてくるじゃろう?」

 

それはこれまでの談笑とは違った、重い意味を持つ言葉だった。

その言葉を聞いたミリアは、それまでとは雰囲気を一変させそっと自らの胸に手をやった。

そこには、ミリアとヤガミナオにとって忘れることのできない傷痕が存在することをグラシスは知っていた。

そして、そんなミリアの様子を見守りながらも、グラシスにとってどうしても確認しておかなければならない

ことを確かめるために言葉を続けた。

 

「ミリアさん、貴方がテンカワアキトとヤガミナオを殺そうと思いつめるに至った経緯は聞いておる。

 じゃから、その時の想いをこの爺に吐き出すがいい。

 人はあまりにも重い想いを抱え続ければ、やがてその重みに潰されてしまう。」

 

そこでそっと一息いれ、ミリアを見つめる。

ミリアは、胸に手を当てた姿勢のまま微動だにしていなかった。

 

「貴方はヤガミ君を愛した。そしてヤガミ君も貴方を愛した。

 だからこそ、お互い伝えることのできぬことができてしまったじゃろう。」

 

「いや、違うの。ヤガミ君の方はおそらく貴方の言葉を待っている。」

 

「だからこそ、ミリアさん、私は貴方が心配なのだ。」

 

「こう言っては何だが、ミリアさんはごく平凡な人生を歩んでこられた。

 それが、今回こんな血生臭い事件に巻き込まれた。」

 

「家族を失い、そして親しくしていた異性を殺そうを思いつめるに至った。」

 

「その過程で、貴方の心がどれほど傷ついたか察するにあまりある。」

 

「ヤガミ君の愛に包まれることでそのほとんどの傷は癒えるじゃろう。

 じゃが、それゆえに貴方は彼に殺意を抱いたことに罪の意識を持ち続け、心の奥底で苦しみ続けてい

 るはずじゃ。」

 

「おそらくは貴方自身にもわかっているはず。

 彼に何もかもを打ち明けても彼はそれを全て受けとめてくれるだろうことを。だが、貴方は躊躇っている。」

 

「ミリアさん、私は大切なものを守るために軍人になった。」

 

「だが、私が守ろうとしたものは次々と掌からこぼれていってしまった。

 もちろん、全て失われたわけではないがの。」

 

「それがひょんなことから新しい孫を得ることができた。そう、新たに守るべきものができたのじゃ。」

 

「だからこそ、だからこそ私はミリアさんの心を開放するための道を示したい。

 この歳になって、また大切なものが傷ついてゆく様を見たくはないのじゃ。」

 

「自分勝手なことをいっておると自分でもわかっておる。

 じゃが、これが私の正直な気持ちじゃ。」

 

グラシスはゆっくりとそこまで言い終えた。

そして、ミリアに視線を合わせたまま言葉を待った。

ミリアの想いの言葉を...

 

しばらくの間、沈黙が部屋を満たしていたが、やがて細い声が流れた。

 

「私は、この戦争で大切なものを全て失いました。」

 

胸に手を当てたまま、淡々と話すミリアの顔には何の感情も表れてはいなかった。

 

「悲しい。

 苦しい。

 ただ、それだけの感情しか存在しませんでした。

 そして、その感情のままあの人とテンカワさんを殺そうとしました。」

 

淡々と言葉を紡ぐミリアはまるで自動人形のようにも見えた。だが、グラシスはミリアの

独白を遮ることなく、ただ聞きつづけた。

 

「いえ、違います。今ならわかります。

 あの時の私は、自分で人生の幕を下ろすことができずに、あの人の手で幕を下ろしてもらうことを

 望んでいた。」

 

「そう、あの頃からすでに私はあの人を愛していたと今なら分かる。」

 

「それなのに、私はあの人に銃を向けた。」

 

「そして、あの人を撃った...」

 

そのままミリアは沈黙し、しばらくの間、静寂が場を覆った。

 

「でも...」

 

沈黙が破れると同時に、これまで無表情だったミリアの顔に突然、喜び、悲しみ、苦しみ、

怒りといった様々な感情の嵐が渦巻いた。

 

「でも、そんな私をあの人は受け止めてくれました。こんな自分勝手な私を。」

 

「それどころか、私の銃で撃たれながら言ってくれたんです。」

 

「愛していると。」

 

「私が必要だと。」

 

ミリアの瞳にうっすらと涙が盛り上がる。それでもグラシスはミリアを遮ることなくその感情の嵐の言葉

を聞いていた。

 

「私は、私は!あの人を愛しています!

 彼のいない人生なんて考えられません。

 でも、私は彼の隣にいてもいいのでしょうか?

 そんな資格があるのでしょうか?

 私は彼を銃で撃った!

 私は彼を殺そうとした!

 どんな理由があったとしても、それは決して消えないんです!」

 

それまで心の奥底にしまい込んでいた想いをぶちまけると、ミリアは己が手を血がにじむほど強く握り締めた。

ミリアの想いを聞いたグラシスはため息を吐くと同時に、彼女が想いを吐きだしたことにほっとしていた。

そして、彼女の想いに答えるべき人間を呼び入れることを決めた。

 

「それは、貴方だけの問題ではないじゃろう。一緒に考えるべき人間が必要じゃな。」

 

そう告げると部屋の入り口に向かって声をかける。

 

「そろそろおぬしの出番じゃぞ。」

 

その呼びかけに扉は応えた。

 

  がちゃり

 

扉の開く音と共に一人の男が入室してくる。

その男に目をやったミリアは叫んだ。

 

「ナオ!」

 

そう、そこにはここにいるはずのないヤガミナオがミリアを見つめて立っていた。

 

「どうしてここに!?」

 

「グラシス中将から連絡をもらったんだ。

 傷が癒えるにつれてミリアが思いつめた表情をすることが増えてきているとね。」

 

それを聞いたミリアは、はっとグラシスを見た後、顔を俯けた。

そんなミリアをじっと見つめながらナオはベッドに歩み寄った。

 

「ミリア。」

 

ベッドの脇に立ったナオはそっと呼びかける。

 

「・・・・・」

 

だが、ミリアは顔を俯けたまま返事をしない。

ナオはひとつため息をつくとベッドに腰掛けた。そして、俯いたままのミリアの頬に手を伸ばし、そっと自分の

方を向かせた。

ミリアは逆らうことなくナオの方を向く。

ナオとミリアの視線が交錯する。

 

やがてミリアがぽつりと言った。

 

「私は貴方を殺そうとした。」

 

「だが、俺は生きている。」

 

ミリアの瞳をじっと見詰めたまま、間髪入れずにナオが答える。

だが、ミリアは同じ言葉を繰り返す。

 

「私は貴方を殺そうとした。」

 

「たいしたことじゃない。」

 

そのナオの返事にミリアは激したように同じ言葉を叩き付ける。

 

「私は貴方を殺そうとしたのよ!」

 

だが、その言葉は全くナオを傷つけることはなかった。むしろ、その言葉を聞いてより優しく、だが思い

の丈を込めて伝えるべき言葉を舌にのせた。

 

「ばかだな...

 本当に俺にとってはたいしたことじゃないんだ。

 あの時もいっただろう。お前になら殺されてやるって。

 だから気にすることはないんだ。

 それに...」

 

そこで、ナオは不意に口をつぐむ。

 

「それに、何?」

 

激していたミリアも彼の言葉が気になったのか続きを促す。

 

「惚れた女に殺されるのは、男として最高の死に方の一つだ。」

 

真面目な顔で静かに、だが堂々とそう言ってのけたナオを思わずきょとんと見つめていた

ミリアは次の瞬間大声で笑い出していた。

そして、笑いながらナオの胸に顔を埋める。しばらくはミリアの笑い声だけが響いていたが、やがてそれは

すすり泣きに変わり、そのまま号泣へと変わって行った。

 

「ナオ、ナオッ、ナオォォッ!」

 

そんなミリアを、ナオはやさしく抱きしめた。

そして、そのままあやすようにそっと背をなでながら言葉を紡いだ。

 

「俺はお前の側にいる。

 一生離れることはない。

 いや、俺がお前を離さない。

 ミリア、この先何が起ころうとお前は俺のものだ。」

 

それを聞いたミリアはまるで子供のように泣きじゃくりながらナオにしがみつく。

ナオもそんなミリアを力の限り抱きしめる。

 

そして、そのまま時が流れる...

 

やがて、ミリアがナオの腕の中でゆっくりと顔を上げた。瞼が赤く腫れ上がり、涙でぐしゃぐしゃだったが、

思うさま思いの丈を吐き出したせいか、その顔は晴れやかだった。

 

そんなミリアの両頬を手でそっと挟み、ナオは告げた。

 

「死が二人を分かつまで俺達はずっと一緒だ。

 決して離さないよ、ミリア、俺のファムファタール...」

 

その後の二人に言葉は要らなかった。

 

     カチャッ

 

そんな二人の恋人を背にグラシスはそっと扉を閉めた。

彼らの未来に幸多かれとつぶやきながら...

 

 

 

 

独り言

 

ファムファタール=運命の女

だと思ったんだが間違ってないよな(汗)

他にも解釈があったと思ったが、まあよしとしよう。

それにしても...

なぜ、こんな話ができたんだろう(謎)

最初に妄想したのはミリアとグラシスが談笑しているシーンだけだったんだが。

そう、冒頭の部分だけだった...

それがいつのまにか、こんなヘビィに感じる話になってしまった!

誰の仕業だ?

決して私の責任ではない...と思いたい(汗)

まあ、それはさておき、とりあえず謝っておこう。

ミリアのファンの方々ごめんなさい。

思いっきり泣かせてしまいました。

でも、泣いてるミリアもかわいいでしょ?(爆)

しかし、ナオ...

お前かっこよすぎ...

何か、いいとこばっかもっていきやがって...

...ひょっとして本編18話2日目の憂さをここではらしてないか?

ところで、これで人気投票の票は動くかな(苦笑)

メグミSSを投稿した効果がなくなってしまうかも(核爆)

 

もし、この作品を読んで気に入った方がいらっしゃいましたら感想を頂けると嬉しいです。

それでは皆さん、また来週メグミSSでお会いしませう〜!

#ほんとに来週投稿できんのかよ...

 

 

 

 

 

管理人の感想(爆)

 

 

鳥井南斗さんから8回目の投稿です!!

・・・渋いぞ、ナオ(爆)

でも、お前この時期ナデシコに乗ってて月にいただろうが(苦笑)

可哀相だが、これアナザー扱いな。

 

○○「おい!! てめ〜駄作者!!」

 

・・・言いえて妙だな、その駄作者って(苦笑)

でも、これで何の躊躇いもなくこの作品をアナザー扱いにできるぜ(笑)

 

○○「が〜〜〜〜〜〜〜!!!

    覚えてろよ、この野郎!! 何時か泣かしちゃる!!」

 

ふ、来るなら来い!!

俺は逃げ足だけ、早いんだぜ!!

 

それでは、鳥井南斗さん投稿有難うございました!!

 

さて、感想のメールを出す時には、この 鳥井南斗さん の名前をクリックして下さいね!!

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