俺は復讐に燃えていた。

 ただ憎かった。俺の体から五感を奪い去り、俺から妻を奪った奴らがひたすら憎かった。

 その憎しみは奴らの本拠を潰した後も残っていた・・・




 周りは炎に囲まれていた。その中で復讐者は殺し続ける。

 動くもの全てに銃弾を撃ち込み、向かってくるものには容赦ない一撃を持って死を与えていた。

 炎はその間にも成長し続けていった。復讐者の心のように・・・

 「ここまでやれば十分か・・・」

 復讐者―――テンカワアキト―――はそう呟いた。

 もうそこまで火は迫っている。まだ息をしている者もいるがこの火では助からないだろう。

 目的の物―――脱出用ジャンプフィールド発生装置―――は破壊してある。

 アキトは胸に付いている小型ジャンプフィールド発生装置を起動させた。

 目的地はこの研究所を外から攻撃しているユーチャリスだ。


  ドゥギュゥウゥン


 ジャンプする直前、生き残ってた研究者の放った銃弾がアキトのジャンプフィールド発生装置を傷つける。


  ブブ・・ブ・・ブゥゥゥン


 「くっ、ジャンプフィールドが暴走している!」

 次の瞬間、アキトは消えていた。









「With Mithril」

〜プロローグ〜









 じりじりと焼ける日差し。

 アキトが横たわっている砂も熱い。

 「うわあっち〜っ!!!」

 アキトは飛び上がった。

 直に砂に触れていた頭を撫でながら一通り暴れた後、

 「何でこんなに熱く感じるんだ?」

 アキトは自分の眼前に手を持っていった。

 「目も見える・・・感覚が戻っているのか?」

 バイザーは足元に落ちていた。久しぶりの光は目が開けられないほど眩しかったので、それを拾い上げて装着した。

 アキトがいたのは砂漠だった。見渡す限り砂ばかり。空は忌々しいことに晴れ渡っている。

 万人には苦痛でしかない熱さも今のアキトには素晴らしいものだった。

 「とりあえず、ここにいても死ぬだけだな。」

 アキトは歩き出した。






 あれから二日が経過した。さすがに熱さは苦痛になり、つい感覚が戻ったことが忌々しく感じた。

 愚痴を言うのも疲れ、黙ってただひたすら歩いていた。

 携帯食はもう尽きていた。一食分しかなかったのである。






 そしてもう一日が経過したとき、とうとうアキトは意識を失った。









 何か声が聞こえる。・・・これはイスラム語だな。

 火星にいた頃友人にイスラム教徒がいて、教えてくれたお陰でそれなりには喋れる。

 「大丈夫ですか?」

 近くにいた少女が心配そうにしている。

 アキトは少女に向かって、

 「ああ・・・大丈夫だよ。」

 「よかった。脱水症状よ。」

 少女はホッと息を吐く。

 「・・そうか。悪いが、ここはどこだ?」

 「ええと・・・」

 少女は逡巡している。そのとき

 「知る必要はねぇぜ。」

 大柄でよく日焼けした男が割って入ってくる。野戦服を着、汚い格好をしている。

 「それよりもお前はなにもんだ?何も持たないでどうやって砂漠のど真ん中に居たんだ?」

 (今現在の状態がわからない。本当のことは伏せとくべきだ。俺は大罪人なんだから・・・)

 アキトの脳裏に様々な考えが浮かぶ、

 「俺はテンカワアキト。気が付いたら砂漠に倒れていた。」

 と、無難に答えた。

 「怪しいな、答えるのに時間がかかったじゃねぇ・・」



  ビィービィー



 「敵襲ーーーー!!敵襲ーーーー!!!」

 「ちぃっ!こんなときに!!」

 大男は小屋から慌てて出て行く。

 「いったい何が起こってるんだ?」

 アキトは少女に問いただす。

 取り乱していた少女は関係のあることからないことまで話してくれた。


 一言で言えば、彼女達はゲリラで討伐軍が襲ってきたらしい。


 アキトにとってはゲリラと言うものにはあまりいい印象はない。

 しかし助けてくれた恩がある。そう考えると、アキトは外に向かって走り出した。


 外では血が舞っていた。見た感じゲリラのほうが不利だった。


  バリバリッ


 アキトの右手の林を割って人型の機体が出てくる。

 「エステバリス?」

 その機体は、カーキ色をしており、腕が気持ち長い。頭部は蛙の様である。

 アキトの記憶にはまったくない機体だ。

 アキトが機体に見とれている間に誰かが悲鳴を上げた。

 「サ・・サベージだ!!!」

 「ASだと!!?・・マジだ!!みんな逃げろー!!」

 「しかも最新型のサベージだ!!!」

 サベージを確認した瞬間、ゲリラ達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 これは決してゲリラが情けないわけではない。

 それだけ脅威なのだ。アーム・スレイブというものが・・・


 アキトの胸中はそれに負けないくらい混乱していた。

 アーム・スレイブだと?たしかエステバリスが普及するまで使われてた陸戦兵器だ。

 乗るのにテクニックと経験が必要なことと宇宙での使用が出来ないことなどの理由で使用されなくなったものだ。

 それが最新型・・・。これはいったいどういうことなんだ!?


 この混乱はアキトの冷静さを完全に霧散させていた。

 アキトは自分のすぐそばに銃弾が食い込むまで気が付かなかった。


 ドウン


 破壊された木箱の破片が体に刺さる。

 「くそっ!俺としたことが・・・」

 慌てて逃げるアキト。それを許さないように容赦なく銃弾が浴びせられる。

 しかし、冷静さを取り戻したアキトにはそれを避けることなどはたやすいことだった。




 一時間後、ゲリラを追いかけることを諦めた討伐軍は撤退して行った。





 「で、お前は討伐軍の手先じゃないんだな。」

 さっきの大男がアキトに疑惑の目を向ける。

 「ああ。そうだ。」

 「それにしちゃぁ、タイミングが良すぎる。

 お前が来て二、三日経ったらいきなり敵が襲い掛かってきた。

 それもお前が起きてすぐだ!!」

 大男が床を殴る。

 今は逃げ延びたゲリラが集まっている。

 今後どうするか決めるのだ。その中で議題に上ったのはアキトをどうするかと言うことだった。

 大男率いる、処刑派。

 また、アキトを治療した少女を含める、穏健派。

 中立派。

 その議論が繰り広げられていた。今のとこ処刑派の方が有利だった。

 「しかし、彼も傷を負っている。これが仲間でない証拠になる。」

 「いや、見たところ、傷は木の破片によって受けている。これは向こうが避けて撃ってそのときたまたま当っただけかもしれない。」

 「しかし、もし彼が討伐軍の味方じゃ無かった場合、我々はそこらの悪人と同じになってしまう。」

 「だからと言って、このまま放って置いて俺達がやられたら意味がねぇ!」

 その議論に決着をつけたのは、アキトの一言だった。

 「わかった、それなら俺を殺せばいい。」

 そう言ってアキトは近くにあった銃を、処刑派のリーダーである大男に向かって投げて背を向けた。

 「・・・よし、本人がそう言うんなら良いよな・・・じゃ、いくぜ。」

 最初からこうすれば良かったんだ。アキトはそう思った。俺のような異分子が入ってきたんだから彼らの輪が崩れたんだ。

 どの道、今は200年も過去なんだ。その頃はまだ火星に有人の宇宙船が行ったか行ってないかの時代。

 到底ボソンジャンプで元の時代に帰ることは出来ない。もし帰られてとしてもまた、復讐が続くだけだ。

 生きていることに未練も何も無い。

 「・・そこを退け、サーラ。」

 アキトの後ろでアキトを治療した少女――サーラが立ち塞がっていた。

 「いやっ!退いたらアキトを殺すんでしょ。なら退かない!」

 それに続いて穏健派の一人が言う。

 「彼は自ら殺してくれと言ったんだ。そんな彼が討伐軍とは考えられない。」

 それに穏健派と中立派が賛同する。

 「ぐぐ・・・。くそっ!」

 大男は銃を床にたたきつける。

 穏健派のリーダーである老人がアキトに向かって言った。

 「さて、君には二つの選択肢がある。

 一つ、ここで捕虜となること。これはお勧めできんがな。ずっと牢屋の中に入れられて、飯も余り出てこない。

 食い扶持を削るときは捕虜から始まるじゃろう。

 二つ、我々と共に戦うこと。

 さてどちらを選ぶ?まあおぬしはまだ見たところ十四、五歳だ。ワシは共に戦うことを勧めるがな。」

 アキトは驚いていた。自分は確か二十歳を超えていた。多少童顔だが、年を五つも間違えられるほどではない。

 よく見ると目線が低いような気がする。考えてみれば体に感覚が戻ったのも体の若返りが原因かもしれない。

 考えてもわからないだろう。アキトは伏せていた視線を上げた。


 アキトが逡巡していると勘違いをしたのだろう、サーラから痛いほどの視線がアキトに浴びせられていた。

 「・・・共に戦います。」

 そう言った瞬間、サーラの顔がほころぶ。

 「そうか、ワシは・・・」

 そういって老人はここにいる面々の紹介をしていった。






 そうして二年の月日が過ぎていった。

 大男達との仲も良くなり、戦闘の大体に勝利してきた。

 アキトは人間離れした戦闘技術を持って貢献し、いつしか『砂漠の鬼神』と言われていた。

 ただ、アキトはこう呼ばれることを嫌っていたが・・・。

 この二年間ゲリラは平和だった。サーラにも恋人が出来、アキトも味覚が戻ったので調理場に立つようになっていった。

 アキトから復讐の思いは、ほとんど消えていた。と言うよりも対象がいないので諦めたと言ったほうが正しいのだろう。


 しかし、平和は長続きしなかった。といっても別にゲリラが壊滅したわけではない。

 穏健派のリーダーが老衰したため内部分裂が起こったのだ。

 こうしてゲリラは解散した。アキトは居場所を失ってしまった。




 あれから半年、アキトは傭兵団に身を寄せていた。

 コックになろうとしたが余りにも名が知られすぎて、どこも雇ってくれなかったことと、その強さから勧誘がしつこかったからだ。


 そして現在、同僚に勧められてとある訓練キャンプに来ていた。

 訓練の内容はかなりきついが、一度地獄を見たアキトにとっては軽いほどだった。

 復讐に焦がれていたときはこんなもんじゃなかったもんな。

 ジャンプしてきてから二年半。アキトは昔の記憶どうり体を動かせるように体を鍛えてきた。

 傭兵団に入っていたお陰でASの操縦も覚えた。実際この訓練所でも戦闘なら常にトップだった。

 「お前がアキトテンカワか?」

 小柄で筋肉質な男がアキトに向かって話しかける。

 「はい、そうですよ。」

 厨房を借りて料理していたアキトはその男の方を向きもせず、答える。

 「こら、テンカワこちらを向かんと厨房は貸してやらんぞ。」

 男に付いて来たエスティス少佐が文句を言う。

 「それは困ります。もう少し待って下さい。あと少しで完成しますから。」

 エスティス少佐が男に向かって話しかける。

 「すまんな、マッカラン。こいつは料理に関しては譲らん奴でな。」

 「いえ、構いません、少佐。私が束ねる部隊もこいつ以上に癖がある奴ばかりですよ。」

 「それは違いない。」

 二人の男が声を上げて笑う。

 そこにアキトが声をかけた。

 「終わりました。少佐と・・」

 「こちらはゲイル・マッカラン大尉だ。」

 エスティス少佐がマッカランの紹介をする。

 「よろしく、テンカワアキト」

 マッカランが握手を求める。

 「こちらこそ、大尉。ちょうどいいんで、お二人ともテーブルに座っていてください。」

 握手を返し、アキトは言う。

 エスティスとマッカランが席に着くと同時にアキトは準備を始める。

 用意されたのは海老のクリームシチューだった。

 「何時もながら見事な腕だな。」

 「本当にあいつが作ったのですか?」

 エスティスは何時ものことだから驚かなかったが、マッカランにとっては驚きだった。

 若干十七歳でAS以外の成績はほとんど一位の成績を誇り、それ以外でも常にトップスリーに入る。

 ASにしても知識に関しては普通だが、戦闘訓練に関しては常に一位だった。

 そんな男が料理はプロ級、と聞いたときマッカランは少佐がジョークを言っていると思っていた。

 「ん?その顔を見ると私の言っていたことをただのジョークだと思っていたな、マッカラン。」

 「はい、正直驚きました。見てくれだけじゃなく味も良い。」

 「テンカワが始め厨房を貸してくれと言った日はものすごく怒ったがこれを食べさせられて、つい許可を出してしまった。

 今じゃあ、食堂よりもうまいと、限定二十枚の食券がすぐに売れてしまい、

 五ドルの食券がざらに十ドルを軽く超えて売買されているほどだ。」

 「そんな、褒めすぎですよ大尉。」

 「おっ、テンカワ、洗い物は終わったのか?」

 アキトが洗い物を終えて話しに入ってくる。

 「はい、終わりました。・・で、話って何ですか?」

 「うむ、テンカワ率直に言ってこの傭兵部隊に入る気は無いか?」

 マッカランがそう問う。

 「入る気が無かったら、こんな訓練受けません。」

 「入る意思があるととっていいんだな?」

 「はい。」

 「分かった。テンカワ、明日ここを出て私と一緒に来てもらう。

 お前はこれから軍曹として私の下で働いてもらう。よってこれは上官命令だ。」

 「分かりました。大尉、一つ条件を言っていいでしょうか?」

 「なんだ?」

 「行った先でも調理場を貸してください。」

 と、アキトが言い終わった瞬間、三人の男達は大笑いをした。






 ちなみにアキトの最後の夕食の食券は百十ドルを超えた。






 後書き

 作:はじめまして、nelioです。
   なんか勝手に進んで行ってしまいました。
   構想だけで話が勝手に進むとは思いも・・・

 女:その分、話がめちゃくちゃだったりして。

 作:うっ、痛いところを付く。ってお前はサーラ。

 サ:そうよ。だって本当じゃない。
   それに私の名前なんて適当に付けてあるし、他のゲリラの皆なんて名前すらないんだから。

 作:うっ。

 サ:その上、私はアキト以外の男とくっついちゃってるし。

 作:それは最初から決まっていたことでめんどくさいからってわけじゃあない。

 サ:なによ、私の計画では庇ってくれたことに感謝したアキトが私とくっつく予定だったのに〜。

 作:計画ってことはそれを考慮に入れて庇ったんだな。

 サ:う・・そんなことないわよ。

 作:ならなぜ詰まった?

 サ:う〜〜〜〜もう帰る。

 作:あ・・ま、いいか。それではこれを読んでくださった方、ありがとうございます。ではまた。

 

 

 

代理人の感想

取合えず・・・・イスラム語ってなんやねん(爆)。

 

それはさておき。

ん〜と、ナデシコ+フルメタみたいですが・・・過去の話になるのかな? これは。

でも、まだ話は始まってないようなんで取り敢えずは次回に。

でも、「次を読みたい!」と思わせるのが第一話の役割であるので、

その点はチョット残念でしたね。