プロローグ

 

 

 

 ジリリリリリリリ!! 妙な機械音が聴覚を刺激する。

 別に深く寝てはいなかった春山舞人(ハルヤマ マイト)は、ゆっくりとまぶたを開けた。

 周囲には見渡す限り大自然が広がり、人工的なものはほとんどない。

 生物も、いるのは自然の中で育つものだけ。

 人間という生物はまったく存在しなかった。

 まだ、鳴り響いている機械音――時計の音を止め、木に寄りかかっていた体をゆっくりと動かす。

 側に置いておいた魔刀・修羅(以下 修羅)を手に取り、立ち上がる。

 

「さて、そろそろ行くとするでござるか」

 

 別に、これといってすることはないのだが、ここでずっと寝ているのも退 屈だ。

 散歩でもして、暇を潰すとしよう。

 ・・・昼寝も散歩もあまり変わらないような気がしたが・・・・・・まあ、 いいだろう。

 

「ん〜、舞ちゃんの髪、サラサラで気持ちいい」

「紅葉殿、無断で髪に触れるのはやめてほしいのでござるが・・・」

「舞ちゃんが悪いんだよん。 

 こんなに髪質がいいんだから、触らないともったいないでしょ」

 

 気配をまったく感じさせずに、舞人の背後に現れた秋野紅葉(アキノ モ ミジ)は舞人の髪で遊び続ける。

 

「あと、舞ちゃんと呼ぶのもやめるでござるよ。

 拙者は男なのだから、もう少しそれらしい呼び名があるでござろう」

 

 舞人は長い後ろ髪を紐で結んでいて、顔も少々女性っぽい。

 だが、女性ではないのだ。

 はっきり言って、舞ちゃん等という女々しい呼び名で呼ばれて、気分がいいわけはなかった。

 

「じゃあ、春ちゃんでいいかな?」

「舞人が一番いいのでござるが・・・」 

「え〜、そんな男っぽい呼び名は舞ちゃんには似合わないって。 

「せっかく綺麗で、 女の子 っぽい顔なんだから やっぱり、ちゃん付けで呼ぶのがいいよ」

「・・・舞ちゃんでいいでござる・・・・・・」

 

 さすが、紅葉殿というべきか。

 相変わらず人が気にしていることをサラリと言ってのける。

 故意に言うのならまだしも、意識せずに言うのでタチが悪い。

 一体、何回この無意識攻撃をうけたことか。

 ・・・考え出すと、精神的にわるいのでやめておこう。

 

「で、一体、何の用でござる?」 

「さすが、舞ちゃん。話が早い」 

「早いもなにも、用もないのに秋の聖域の長が春の聖域に来るわけはないでござろう」 

 

 秋の聖域、春の聖域。

 そして、夏の聖域、冬の聖域という世界がある。

 聖域はそれぞれの季節と深い関係があり、四季が存在するのも聖域のおかげだ。

 舞人は春の長で、春の聖域を守護している。

 長は何があっても聖域を守らねばならないので、めったなことでは聖域から出ることはない。

 

「秋の聖域は、紅葉殿が居なくても大丈夫なのでござるか?」

「っていうか、私達が長になってから聖域になにか異常が起きたことないじゃない」 

 

 確かに、紅葉殿の言うとおりである。

 舞人が長になってから2196年経つが、何か起こるわけでもなく、ただ、平和な日々が続いただけだ。

 

「ほんと、暇だよね。長なんて辞めて、どっか・・・ 

 地球とか、木星とかに遊びにいきたいよ」

「平和ということは、いいことでござるよ」

 

 本当にそう思う。

 戦闘など、約3000年前に経験したもので十分だ。

 

「あ〜あ、戦争でも起きてくれないかな」

 

 かなり物騒な言葉だが、聞かなかったことにしておこう。

 

 

 

 

 

「突然のお呼び出し、いかなる用でござるか?」

 

 すべての聖域を束ねる天神四季(アマガミ シキ)に舞人は尋ねた。

 紅葉殿から聞かされた話では、何か緊急の用事あるとのこと。

 一体、何の用だろうか。

 

「おお、久しいな、舞人よ。

 こうして会うのは、実に『用件を早く話すでござるよ』

 

 舞人は四季の話を遮る。

 こんなところ、本当は来たくなかったが、紅葉が頭を下げてお願いするか ら仕方なく来たのだ。

 一刻もはやく用件を聞き、四季の顔を視界から消したかった。

 

「・・・なぜ、紅葉殿を拙者のもとによこしたのでござるか」

「テレパスで、お主を呼び出しても、お主はワシの話を拒否するじゃろう」  

「貴様が自分で春の聖域まで来ればよいでござろう!」 

 

 自分は動かず、他人を動かすクセは顕在のようだ。

 3000年前から、まったく進歩していない四季を、今すぐに修羅で切り 裂きたい衝動にかられたが、どうにか抑える。

 

「我慢は体に毒じゃぞ。

 動かんから、その刀でワシの命をとってみるがよい」

 

 こんな、やすい挑発に乗るわけにはいかない。

 一度、深呼吸をして舞人は気分を落ち着かせる。

 

「用件を・・・・・・早く、言うでござるよ・・・」

 

 どうにか、絞り出した言葉。

 そんな舞人をみて、四季は嬉しそうな表情をする。

 醜悪で、気持ちの悪い四季の顔を、舞人は視界の外へ追いやった。

 

「殺して欲しい人物がおるんじゃ。

 それも、3日以内にな」

 

 

 

 

 

 高ぶっていた感情が、穏やかになっていく。

 舞人の大切な場所、春の聖域のおかげだ

 この場所があるから舞人は長を、四季に使える立場を続ける。

 もし、春の聖域の存在が消えたら、四季を殺しにかかるだろう。

 たとえ、命をおとそうとも。

 

「舞ちゃん、心の準備はいいかな?」

 

 紅葉のいつもと変わらない笑顔を見て、思わず舞人は笑顔になる。

 

「紅葉殿、春の聖域のこと、頼んだでござるよ。」

「まかせといて。

 何があっても絶対に私が守るから」

 

 紅葉殿の右手が輝きはじめた。

 紅葉殿はその右手で舞人の頭に触れる。

 

「ジャンプ」 

 

 紅葉殿の短い言葉とともに、舞人は春の聖域から旅だった。

 影護北斗という人物を抹殺するために。

 

 

 

代理人の感想

2196年前・・・・キリストの生まれた歳ですなぁ(笑)。

まぁ、取りあえずは最強オリキャラ物にしか見えませんが挽回を期待して。