零夜は一人、舞歌様のお屋敷を目指し、歩いていた。

 理由は、お屋敷の庭にいる北ちゃんに会うため。

 木連軍最強といわれている北ちゃんは毎日の鍛錬を欠かさない。

 なぜ今日の鍛練は舞歌様のお屋敷でやるのか知らないが、何か一つのこと を継続することはいいことだと思う。

 だが、それが鍛錬ということが少し悲しい。

 強さを得て、地球との戦争に勝つために戦って、戦って、戦いぬく。

 戦争に勝利したとして、その後、北ちゃんはどうなるのだろう。

 おそらく戦うことが生き甲斐となってしまっている北ちゃんは、どう生き ていくのだろう。 

 北ちゃんには幸せになってもらいたいと私は思っている。

 だから、鍛錬を日常化することはやめてほしかった。

 

「どうすれば、北ちゃんを変えられるのかな」

 

 

 答えが返ってくるはずもない質問を、私はつぶやいた。

 その次の瞬間・・・

 

「どわ〜、そこの人、どいてほしいでござるよ!!」

「え?え?え?」

 

 急にどけ、といわれても、考え事をしていた私には無理な話。

 と、いうことで、向こうから叫びながら走ってきた人と私は正面衝突。

 互いに倒れてしまった。

 

「いたたたたた・・・」

 

 地面にぶつけたお尻がいたい。

 私はお尻をさすりつつ、走ってきた人を見た。

 ・・・仰向けになったままピクリとも動かない。

 もしかして、打ち所が悪くてそのまま・・・・・・。

 あ、血も流れ始めた。

 

「け、警察、きゅ、救急車!」

 

 その時、私は一つの事実に気がついた。

 辺りには、誰もいない。 

 いるのは私のみ。

 そして、血を流し、倒れている人。

 

 どう見ても私が人殺しの犯人だ 

 

「あ、ま、まだ死んだって決まったわけじゃないよね」

 

 零夜は倒れている人の脈を調べた。

 脈はない。ただの死体のようだ。

 

「・・・・・・は、早く北ちゃんの所へ行かなきゃ」

「う、う〜ん」

「!!」 

 

 脈のない、死んでいるはずの人がゆっくりと動き始める。

 驚きのあまり、私は大きく後ろに跳躍し、間合いをとった。

 戦闘態勢をとり、死体?の襲撃に備える。

 

「おお、無事でござったか」

「あなたは無事じゃないみたいだけど・・・」 

「ん?ああ、この血のことでござるか。

 

 こんなもの、唾でもつけとけば治るでござるよ」

「さっき、脈がなかったのに・・・」

「・・・・・・た、たぶん、大丈夫でござるよ。って、え・・・」

 

 会話の最中に、冷静になった私は一つの事に気がついた。

 この血まみれの人物は、木星の者ではなく地球の者であるということに。

 理由は、着ている服にある。

 この服装は、確か地球で1600年頃にいた侍、という人たちがしていた 格好だ。

 刀という真剣の武器は持っていないようだが間違いない。

 

「・・・・・・・・・」

「私の顔がどうかしましたか?」

「・・・・・・・・・」

 

 無言でその人は私の顔を見続ける。

 知らない人に見られ続けるというのは、普通、気分がいいものではないは ずなのだが。

 なぜかこの時、私はその人から目が離せなかった。

 

「どこいった!あの侵入者は!!」

「あ、一郎少尉!あそこにいます!」

 

 新たに現れた人達のおかげで、私はようやく目を離すことができた。

 

「ま、まずいでござる」

 

 なんだかとても不思議その人は、謎を残したまま去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 木から吊されているサンドバックの前に北斗は立った。

 一度目を閉じ、精神集中。

 

「はあああああああ!!」

 

ドン!!!

バキィィィィィ!!

 

 

 俺の正拳突きがサンドバックに直撃、そして破壊。

 だが、それだけにとどまらず木まで粉々にしてしまった。

 なんともろい木だろうか。

 これは舞歌にもよく言っておかないとかなり危ないな。

 

「北ちゃん、いったいなにをしてるの・・・」

「見ればわかるだろう。鍛えているんだ」

「私には自然を破壊しているようにしか見えないんだけど・・・」

 

 零夜は呆れたように言い、何処からともなく2本のほうきを持ってきた。

 そのうちの一本を俺のほうに差し出す。

 

「なにをするつもりだ?」

「掃除しよう。 

 私も手伝うから」

「なんで、そんなこと」

 

 しなければならないんだ、と言い切る前に零夜は掃き始める。

 まあ、少し休憩しようと思っていたところだし、ちょうどいい息抜きにな るだろう。

 俺は素直に掃除を始める。

 ・・・なんで零夜は俺のほうを見て少し笑っているんだ?

 

「なんで、北ちゃんは木を破壊するの?」

「俺は悪くない。

 木がもろすぎるんだ」

 

 これは本当の話だ。

 次々とサンドバックとともに粉々になる木を見て、始めは不思議に思った。

 だから一つ、実験をしてみた。

 両手を木に添え、軽く力を入れて押してみたのだ。

 すると、ほとんど抵抗もなく壊れる、壊れる。

 まるで豆腐に力をいれたような手応えだった。

 2,3本の木で試したが、結果は全部同じ。

 これはもう木が腐ってるとしか考えられない。

 

「・・・とりあえず、もう木を壊さないでね。

 舞歌様に怒られちゃうよ」

「む、わかった。なるべく努力する」

 

 舞歌が怒ることなど天文学的数字だと思うが・・・

 どっちかというと、この程度のことは予想通りといったところではないだ ろうか。

 

「あ、そういえばここに来る途中で変な人に会ったんだ」 

「どんな奴だ?」

「たぶん、地球の人だと思うけど」

「なんだと!なぜ、もっと早く言わなかったんだ!」

「え、なんで。そんなに興味があるの?」

 

 地球人と戦いたいと思っていたところだ。

 これは、まさに絶好の機会。

 

「よし、いくぞ、零夜!」

「あ、ま、待ってよ北ちゃん!」

「あ、そうだ。ちょっとまっててくれ」

 

 舞歌の屋敷内に入り、台所内をあさる。

 さっきから小腹がすいていたのだ。

 

「お、いいものがあった」

 

 俺はその黄色い物体の束を持って、零夜の待つ庭へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「木星の軍人をなめおって!

 見つけたら即刻射殺していいぞ!!」

「「「「は!」」」」

 

 気持ち悪いほどそろった敬礼をして、木星の軍人らは散開していく。

 一郎少尉と呼ばれていた男も、しばらくすると去っていった。

 

「もうそろそろ、出てもいいでござるな」

 

 屋根の上に身を潜めていた舞人は跳んで、地面に足音をたてないよう着地 した。

 

「まったく、これでは北斗殿を探す暇がないではござらんか」

 

 もうかれこれ、1時間近く逃走を続けている。

 疲れはほとんどなかったが、はっきりいってめんどくさい。

 だいたい、なんで拙者が追われなければならないのだろう。

 

「拙者、何か悪いことしたのでござろうか・・・」

 

 すこし、思い出してみよう。

 

 

 

―――約1時間前

 

 

 

 春の聖域から、木星への超長距離ボソンジャンプ。

 拙者は、いつのまにか兵器等が置いてある場所にいた。

 周囲にあるのは戦艦系のものばかりである。

 

「う、なんでござるか、この空気の汚さは」

 

 息をするのが辛いくらい汚い空気が、周囲に充満している。

 春の聖域の空気とは大違いだ。

 

「こんなとこにいたら死んでしまうでござるよ。 

 ・・・・・・おお、いい考えがうかんだでござる!」

 

 たぶん空気が汚いのはこの大量にある戦艦のせい に違いない。

 と、いうことは戦艦がなくなれば、ここの環境もかわるだろう。

 それならば、やることはただ一つ。

 え〜っと、何かいいものは・・・あった!

 

「それじゃあ、いくでござるか」

 

 近くの乗り込める戦艦内の操縦席へ突入する。

 

「どれが、攻撃のボタンでござろうか・・・

 ま、適当に押せばいいでござるか」

 

ポチ、ポチ、ポチ、ポチ。

 

「? なにもおきないで・・・・・・」

「アト、40秒デ・・・シマス」

「聞こえないでござるな。

 ボリュームをあげるでござるよ」

「アト、30秒デ自爆シマス!!!」

 

 その後、記憶があるのは修羅を戦艦内におとしたことだけ。

 まあ、拙者なんかよりずっと頑丈な武器だから大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

「う〜ん、なんで拙者が追いかけられねばならないのでござろう」

「一郎少尉!いました、こっちです!!」

「も、もう、いいかげんにしてほしいでござる〜」

 

 

 

 

 

 

 

 地球人に会った、といっても別に居場所をしっているわけではない。

 なんだか追われていたみたいだし、もう捕まってるかもしれない。

 再び会うことは、どう考えても難しいだろう。

 と、何回もいってるのに北ちゃんは地球人に会うと言って、話を聞いてく れなかった。

 私は夜遅くまで歩き回ることも覚悟していたのだが。

 実は、その地球人、あっけなく見つけて、今、北ちゃんと対峙している。

 あれだけ、騒がしくしていれば当然といえば当然か。

 ちなみに、さっき流してた血は止まっている。

 

「お前、名前は何という」

「舞うという字と人という字で舞人でござるよ」

「そうか、舞人か。

 さっそくだが、俺と勝負してもらおうか」

 

 格好いいよ、北ちゃん。

 さっき、舞歌様のお屋敷から持ってきたバナナさ え持ってなかったらね。

 

「北ちゃん、北ちゃん」

「なんだ、零夜」

「そのバナナ捨てないと」

「む、そうだな」

 

 それでは、気を取り直して。

 

「今、ちょっと忙しいのでござるが・・・」

「言い訳はきかん!」

 

 北ちゃんの全身から舞人に向けて、すさまじい殺気が放たれる。

 私に向けられているものではないのに、私は微動だにできなくなってしま った。

 これなら、殺気が向けられている舞人は、殺気だけで死んでしまってもお かしくない。

 だが、舞人は死んではいない。

 それどころか、まったく表情を変えずニコニコしている。

 北ちゃんの殺気はすべて受け流されているようだった。

 

「やるな!だが、これならどうだ!!」

 

 北ちゃんは接近戦に持ち込むべく、舞人に向かって突撃した。

 木などゴミのように粉砕する北ちゃんの一撃。

 当たれば、骨も砕けるはずだ。

 

「すごい攻撃でござるな。

 だが、それも当たらなければ意味がないでござるよ」

「くっ!」

 

 北ちゃんは焦り、舞人は涼しい顔をしている。

 つまり、北ちゃんが押されているといっても過言ではない。

 舞人はなぜか攻撃をしてこないが、もし、してきたら・・・・・・

 考えたくはないが北ちゃんは負けてしまうかもしれない。

 

「みつけたぞ、侵入者!射殺してくれる!」

 

 無謀にもブラスターを持った男が激戦地にむかってくる。

 止めておけばいいのに。

 そんなに、死に急ぎたいのだろうか。

 

「邪魔だ!失せろ!」

 

 案の上、ブラスターを持つ男はキレてる北ちゃんに吹き飛ばされ、壁に激 突した。

 ピクピクと痙攣をしているところをみると、まだ生きてるようだ。

 

「ひえええ、痛そうでござるな」

「よそ見をしている暇があるのか!」

「あるで、ござるよ」

 

 風をおこすほど速い動きで舞人は動いた。

 舞人が消えたように私の目にはうつった。

 北ちゃんも、目では追えてたものの、体がまったくついていけなかったよ うで、悔しそうな顔をしている。

 

「俺の負けだ。殺せ・・・・・・」

「北ちゃん!」

 

 私は、勝つことを諦め、その場に座り込んでしまった北ちゃんに駆け寄っ た。

 

「お願いです!

 北ちゃんを殺さないで!

 変わりに私を殺していいから!」

「零夜!余計なことはするな!」

「一つ・・・アドバイスをするでござるよ」

 

 舞人が喋り始めた瞬間、周囲の空気が変わった。

 それは北ちゃんにも効果があったようで、舞人の言葉に静かに耳を傾けて いるようだった。

 

「名前は、なんというのでござるか?」

「北斗だ」

「北斗殿は・・・どこか張り詰めた鋼線のようなきがするでござる。

 そんな物になるのではなく、しなやかな柳になったほうがいい。

 そうすれば、もっと強くなれるでござるよ」

 

 それだけ言うと、舞人は私達に背を向け、歩き始めた。

 

「ま、まて、俺を殺してから」

「その願いは聞けぬでござるな。

 それでは、バイバイでござるよ」

 

 舞人―――舞ちゃんはその場を格好よく去るはずだった。

 が・・・・・・・・・・・・

 

「ま、舞人!待て!」

「だから、拙者は殺さないでござるよ」

「舞ちゃん、足下!危ない!」

「あ・・・・・・」

 

 

ゴン!

 

 

 私と北ちゃんの注意の言葉もむなしく、舞ちゃんは滑って、転んで、後頭 部を地に激突させた。

 さっき、北ちゃんが捨てたバナナを踏みつけて・・・・・・。

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ?

いやそれ以外に云い様が(爆)。