機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…



2195年、木星から、謎の兵器部隊が飛来し、火星への侵攻を始めた。

地球連合軍は、火星軌道上で謎の敵を迎え撃つが、圧倒的な科学力の差で惨敗。

そして、火星は謎の敵「木星蜥蜴」の支配下へと置かれることになる。

それから一年後のある日…



「んん。」



俺は、薄っぺらな布団の中で呻いていた。



生活感の欠片もない部屋の中で…



素朴なタンス、クローゼットにTV、前時代の遺物とも思える冷蔵庫…



ざぁぁ。



カーテンが引かれ、突如俺の闇の世界の中に光が広がる。そして、心地よい朝風が吹く… いきなりだったもので思わず目を細めてしまうのは人間として仕方の無いことであろう。



「まだ… いいだろぉ。」



俺はまだ、日の光の下を歩きたくは無い。光を照らした人物も分かっているために、俺は抵抗した。



「ふざけんな!!!」



こういう主人公のヒロインによくあるそれはもう好戦的な、声をその人物は発した。



事実だけどな…

 

だが、俺はそれでも起きたくない。

 

無駄な抵抗だと解っていても抵抗してやる。

 

俺は、布団の中に潜り込んだ。



「おらぁぁぁぁ、起きやがれこのだめ人間の代表格がぁぁぁぁぁぁぁ!」



まぁ、事実なために否定はしないが…



俺は、しぶしぶながら起き上がる。シーツが下に無いところを考えると、かなり遠くに蹴飛ばしてしまっていたようだ。



とりあえず挨拶をしておくべきだろうな。



「おはよ、飯井川楽花(イイガワ・ラクカ)さま」



「うむ。」

男張りに、髪を短くして、制服のスカートをそれはもう上げに上げている18の少女に対して、俺はもう慣れに慣れているために、突っ込まない。



布団から、子供のような柄のパジャマ姿で脱ぎ出ると、俺は洗面所の扉へと向かった。

 

俺は、自分の姿を洗面所の鏡で見ると嘆息する。



 まず、頭は寝癖まみれで、スパーサ○ヤ人と化しているし。寝ぼけ眼が、それをさらに似合うようにしている。唇は薄く、鼻は高いとはいいがたいが、決して低くは無い。輪郭はやせ気味だが18の俺には標準的にみえる。身長は、このごろ測っていないが、大体160後半くらいだっただろうか、体重は不健康な生活をしているために、正確には答えられないが、だいたい50kgほどだったと思う。体格は、やせ気味といった感じだ。



いたって、どこにでもいそうな感じの男だな、俺は。



とりあえず顔を洗う、寝ぼけている俺には、暖かいとはいえない春の水さえも気持ちよく感じた。寝癖を直して見るとかっこいいとは言わないまでも、まあまあとは言えるような顔つきになった。そして、制服に着替えようと、部屋に戻る。扉の前で仁王立ちしていた楽花を無視し、俺はクローゼットを開き、制服を取り出した。制服は、学生服を、ちょっといじったような感じのものだ。といってもネクタイを取りつける用のYシャツ以外は、殆ど学生服と変わりは無い。正直に言うとかなりダサい。これを作った奴のファッションセンスは0と推定… いや、確定できる。



と、そこで楽花の視線を感じた。さすがに恥ずかしいなこれは。



「おい、こっち見るなよ。」



「へーへー。」

 

いつもの気の抜けた返事が帰ってきて、楽花は、ソッポを向いた。

 

そして、音速の速度で、俺は着替え始める。完了までの時間なんと、10秒。ギネスブックにのるぜ、このタイムは。



「おい、終わったぞ〜」

 

そういうと背を向けていた楽花は、こちらを向き。



「じゃ、がっこ行こうか、照一。」

 

そう、犬河照一(イヌガワ・ショウイチ)それが俺の名前だったと思う。



 いや、それ以前に…



「お前、いい加減、窓から入るの止めてくれないか、なんか逆よぐお。」



 返事の代わりは、鳩尾に叩き込まれた凄まじい膝蹴りであった…





 そして、学校へと続く道で、何かのちょっとしたいたずらにより、俺の日常は大きく揺れ動くことになる。よいのか悪いのかは別として…





「ねぇ、ねぇ。あの人たちなんなのかな?」



 そして、それは起こった。



「頭から、血を流して倒れているように見えるけどな。俺には…」



 そう、そこには、トランクケースを抱えた(そこに血が多少なりともついているのは俺の目の錯覚だと思いたい)女性と、なにやら手首の腕時計を見て、叫んでいる男性。そして頭から血を流して倒れている同年代ほどの男性がいた。



「映画かドラマの撮影じゃねぇのか?」



 俺は、無理やりそう思う。が、どこにもカメラは置いてない。だいたいそうだとしたら立ち入り禁止になっているだろう。



「殺人の現場はっけ〜ん。って笑い事じゃないよね、これ。」



 少し眉間に青筋を浮かべた顔で、楽花は、言う。



「気になる… てか、目の前であんな光景見たら、普通は放っては置かない… 警察に連絡するにせよ。話を聞いてみるか、楽花、先に行ってろ。登校時刻に間に合わなかったら俺のことは諦めろ!!」



「え、え、え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜と、そうする。」



「少しは、心配しろっての… ったく。」



 そういって俺は、倒れている少年へ向かって走り出した。



 それが、あり得ないことだということなど俺にはわかるはずが無かった。







「ど、どうすんですか?」



「ど、どうって…放っておくわけにはいかないし、携帯もないし、時間もないし、身分きれいだし、病院もないし。」



「じゃ、じゃあ病院にまで、車で、運びましょうよ。行くところにも野戦病院があるかもしれないし。」



「だめ。」



「ど、どうしてですか?」



「私運転できない。」



「ぼ、僕が運転すればいいだけじゃないか。」



「見ず知らずの男性を、(しってるだろ)ひざの上におけって言うの。」



「そ、それは、くそ、こんなことなら三人乗りの車にしとけばよかったな。」



「焼いちゃおっか。」



「や、焼く。」



「そ、死体が出てこなければ殺人は立証されないでしょ(はーと)。」



「そ、そうですね・・・そうと決まれば早速・・・。(冷や汗)」

 

 なにやら凄くそれはもう怪しすぎる会話が聞こえる。



 嫌な予感の冷や汗を垂れ流しながらも、意を決して、俺は話しかけた。



「あ、あの〜どうかしたんですか〜?」



 俺の声にはっとなり、女性と倒れていないほうの男性が飛び跳ねる。



「し、しまったぁ! 人に見つかってしまった! ど、どうします。」



「まずいわ、死体を隠す前に人に見つかってしまうなんて。それも凶器(トランクケースのこと)を前にして。」



「あ、あので「このままにしては、僕たちの罪が時効を迎える前にばれてしまうよ。」



「危険だわ、それだけは避けないと。」



「して、方法は。」



「ふふふ、これしかないでしょう。」

 

 そういって女性が俺にブラスターを向ける。怖い怖すぎるぞ。てか、俺の言葉は聞く耳持たずか!



「あなたに怨みは無いけどね。」



「そうだ、君は見てはいけないものを見てしまったんだ。」



「骨も無くなるけど、成仏してね(骸)」



「骸ってなんなんだ〜!」



パキュン





すっごい乾いた音…



うわ、まじで撃ちやがった。



必死で避けたから、尻餅をついて、通学鞄を取り落としてしまった(腰を抜かしたとも言う)。



「は、ははは。」(俺の微妙な笑い)



 間一髪でブラスターを避けた俺だが、場の雰囲気は、まったくよくなっていない。寧ろ悪い…



 「ふふふ、逃げちゃだめじゃない少年。エネルギー(ブラスターの)が、勿体無いじゃないのよぉ…」



 目が、目が光ってやがる… 豆電球でも眼球に仕込んでいるのか!?



 いや、それ以前に! と、とにかく状況を! この状況から脱出せねば!



「あ、あの、血を一?くらい流して倒れている人は、ほうっておいていいんですか?」



俺の言葉に、女性と男性はハッとなる。



「そ、そうだったわ、急いでこのひとを病院に連れて行かないと。」



「そ、そうですね。」



いや、ってかいままで焼こうとしていたんじゃないのか。



「け、携帯とかコミュニケもってませんか。」



 持ってたとしてもいまさら貸す気にはなれんぞ。



「持っていませんよ。」



 正直に言っておこう。しかし、大学生にもなって持ってないって時代遅れか?



「こ、このひと瞳孔がひらきかけてますよ。」



「って、まずいじゃないですかぁ〜!」



突っ込みと悲鳴に近い台詞を言う俺。



「い、急いで病院へ。」







結局発見から、30分後に、男性は病院行きが決定した。

 

何故か俺も連れられて。



 しかし2人乗りの車で、4人も乗るのは普通に考えては無理なのだ、当たり前だが。



 その結果、けが人は助手席を倒して寝かせ、男性は運転席に座り、俺は運転席と助手席の間のスペースに座り(キツイぜこれは)その俺の上に女性が座るという無茶苦茶な構図になっていた。



 無論一番厳しいのは俺。



「いやぁ〜。助かったよ、ほんとに君がいてくれてさぁ。」



「俺は、全然助かってないんですけど。」



「まあ、まあ、困ったときはお互い様。」



言うとしても… それは、俺の台詞だ。

 

あとで、借りは返してもらうとしよう。



「あ、助けてもらったんだし、自己紹介位しておこうか、僕はアオイ・ジュンって言うんだ。」



「私は、ミスマル・ユリカだよ。」



 膝の上で無理やり動かれると痛いんだが、いろんな意味で。言って(思って)おくが俺をシートだと思ってるんじゃないだろうな、いくら俺でも痛覚はあるぞ。



 しかし、助けてやったんではなくて、無理矢理連行させられたと言った方が良いような気が…



「ああ、俺は… 犬河。犬河照一(イヌガワ・ショウイチ)だけど。」



「へー、見たところ学生みたいだねぇ。」



 首を回して、ジロジロと俺を、珍しい二足歩行動物のように見るユリカさん。



 何故か、反抗したくなった。少々皮肉を混ぜて言葉を紡ぐ。



「貴方たちも見たところ、軍属みたいですよ。」



「ふんふ〜ん、君なかなかするどいねえ〜。当たったときは『ぶいっ』って言うんだよ。」



 ……… 何言っているんだこの人は。



「すみませんけど… それって、流行なんですか?」



「本気にしないほうがいいよ、ユリカの言うことは。」



「は、はい。」



アオイ・ジュンくんの物凄く為になる台詞に俺は救われた。しかし、どちらも年齢は外見からは良く解らんな… 同い年か、年下にみえるけど… まあ、いきなりそんなこと聞くのも失礼だし、取り敢えずは同い年の扱いでいいよな。



「しかし、この人何処かで合ったきがするのよね〜」



ユリカさんがけが人の男性に対してそう言う。まぁ、この人の記憶力が初対面の俺でさえ危ぶんでいるのは気の所為だろうか。ああ、自分のことすら分からんよもう。

 

とまぁ、病院までの会話はこんな感じだった。







流れていく風景、まったく殺風景だ。病院が見えてきた。



 会話はかなり印象深いが、道のりなど俺はまるで覚えられなかった。

 

病院といってもテント作りのいかにも野戦病院という感じの所だ。

 

まあ、軍事用のドッグなんだし病院があっただけでも幸いというべきか。



ユリカさんと、ジュンさんは、けが人を頼むといって、俺に預けて何処かへ消えてしまった。とりあえず俺は、けが人を医者に引渡し(どうやらよほど大事だったらしく青い顔で駆け込んでいった)帰ろうと思ったら、出入り口で止められてしまっていた。



「身分証。」



そういう警備員さんたちに対して俺は、学生証しか身分を示すものがないとは言えず、途方に暮れていた。



ってか、補導されるよな… それは…



「え〜と、なんて言うか…」



 ポリポリと、コメカミの部分を掻きながら俺は、上手い言い訳は無いか、考える。



 全く、完璧に学校はフケる事になったし、今日は厄日だな…



「いいからさっさとしろ!」



 不味いな… 本気で切れそうだ… 確かに、こんな男に費やす時間が勿体無いのだろうが…



「それが…」

ドガァァン



 突如の爆発、俺の体は前に吹き飛ばされた。そのまま、地面と接物するように叩きつけられる。一瞬の呼吸困難。



「な! なんだ!」



俺は、すぐに身を捻り何があったのか確認する。

 

オレンジ色の、光が眼前を埋め尽くす。



 建物が、炎上していた。



 眩いばかりの光に照らし出されたのは…



 今まで、TVの中でしか知らなかった物。



 無人兵器と言う名の単語…



木星蜥蜴、バッタとジョロが、炎を背負い。無数に蠢いていた。



「う、うわ…」



 目の前に飛んできたものを見て俺は、吐き気を覚える。飛んできたものはかつては、人間を作っていたものだろうとは、容易に想像できてしまう… 嫌でも。



 じわりと、視界が掠れる… 恐怖だ。恐怖が心の中を支配しているんだ。



 情けなくっても、仕方が無いじゃないか! こんな物を見るのなんて… ぐ! 畜生!



 頭を振って、何とか一時凌ぎにせよ。恐怖を追い出す。



 涙が薄れて、視界が舞い戻った。



 開かれた視界の中で、ギラリ、と一匹のバッタの赤い目が此方を向いて光った。



 ガチャリ、と不吉な音が爆発音で破れかけた鼓膜を震わせる…



 ズボンの中が、生暖かい液体で少々濡れた。最後の名誉で言って置くが、悪魔で肌着を少々濡らしただけだ。ズボンの裏側までは染みていないぞ! どちらにせよ格好悪いけどな…



「く、くそ。」



 大急ぎで立ち上がって俺は、走った。別に何か道が見えて走ったわけではない。止まっていては死ぬ、という衝動に駆られて俺は、走っていた。息が直ぐに上がってしまう… こんなことなら、もっと運動しときゃよかったな。



 だが、それでも火事場の馬鹿力と言う奴で、俺の体は、素早い速度で前に進んでいた。



 バァァン!



 直ぐ脇で、何処から発射されたミサイルが爆発した。



 熱風に煽れて、地面に再度接吻する。



 悲鳴など上げる間も無かった。



 その間に出来た事など、息を詰まらせる事だけだ。



 アスファルトが砕けて、破片が宙に舞い。俺の背中に降り注いだ。



 一際、大きな塊が、俺の頭の近くに落ちた。



 軽く50kgは、有るだろう塊だ。もしも頭に当たっていたら即死だった。



 だが、それに恐怖を感じる間なんて無い。



 “もしかしたら”などよりも、もっと具体的な“死の象徴”とやらが、俺の直ぐ背後にしのび寄っている。



 足を止めたらいけない。直ぐに殺される訳では無いにせよ、その瞬間がグッと近づく。



 弾け飛ぶ様に、俺は大地を蹴り飛ばした。



 数歩ほど言った所で、ズルリと、めくり上げられたアスファルトの下の地面に足を取られそうになる。



 目が、見えなくなってきた。



 心拍器官が、バクバクと音を立てて限界を超えて働いている。



 でも、それでも足りない。



 足りないんだ。



 このままじゃ、死んじまう! どうする! どうすれば良いんだよ!



 その時、ふと俺の目に留まったものが有った。緑色と言う、主人公機では珍しい。カラーリングを施されたロボットだ。それが、エステバリスというものだとは、後日知った。



 生身で走っているよりは、あそこの方が安全かな。



 運転など出来ないとか、そんな事などは思い浮かばなかった。



 俺は、思うが早いがそのロボットへ向かって走り出していた。







「ちょっと、状況は?」



 敵襲を告げる警報が、けたたましく艦内を満たします。今叫んだのはハルカ・ミナトという人です。



 あ、いきなり語り部が変わりましたが、私はホシノ・ルリという者です、以後お見知りおきを…。



「ちょっと何これ、避難訓練?」



 今の発言者は、メグミ・レイナードさんです。



「いえ、敵襲です。」



 メグミさんの顔が青くなります。ちょっとスラッといいすぎたかな。



「ちょっとちょっと、敵襲だってのになんで動かないのよ。この戦艦ははりぼてなの?」



今の発言者は、連合宇宙軍から派遣されてきたムネタケ・サダアキ副提督。説明はめんどくさいので、略。



「なんで、何にもしないの?対空砲火とか、迎撃機出すとかいろいろすることがあるでしょ、そんなことも分からないお馬鹿さんばかりなのこの艦は?」



「それは、仕方の無いことです。マスターキーがないのですから。」



 まったく表情を崩さずに、プロスペクターさんが、いいます。これまた、紹介は略。



「マスターキー?なんで、そんなもんついてんのよ?」



「クーデターなどによるこの艦の占拠をふせぐためです。」



 ここは、私が言いました。いろいろ細かい説明は略。



「あーもう、艦長はまだ来ないの? このままじゃ全員生き埋めじゃない。こんな死に方私はや〜よ。」



 いいと思う人が居たら見てみたいですね。と、そのとき



「お待たせしました〜! 私が艦長で〜す!。」



 年は、20そこそこ。ネルガルの白い制服を着た。能天気そうな女性が立っていました。



「まさか…」



「うそ?」



「…冗談でしょ?」



 みなさんの冷たい視線が集中する中彼女は



「はじめまして。私が艦長のミスマル・ユリカで〜す。ぶいっ!」







「く、そ〜。どうなってんだこりゃぁ?」



 非常用と書かれていた開閉ノブを回して、緑色のロボットのコックピットに入ってみたはいいが、レバーやら計器やらが、大量にくっついている… まったく分からん。



 なんでも、最近の機動兵器と言う物のコックピットは、シンプルに出来ていると聞いたことがあるんだが… どういうことだ? この落差は。



「なんだよこれ… オールもしくはフルマニュアル? 全手動だと、まぁ、俺はIFSだか、なんだったか… を持ってないから助かるが… それに、少しはオートで動かせるみたいだし…」



とりあえず、シートに身を沈めて、そこいら辺のレバーをいじってみる。だが、なんの反応も無い。



「くそ、とにかく、電源はどこだ! 電源は! それ入れなきゃ話にならんぞ!」



 バチバチバチ! と、手当たり次第にスイッチを入れ続ける。



我武者羅にスイッチを押し続ける俺の思いに答えてくれたか。ぼぅとコンソールが、光った。電源が入ったのだ。



俺は、そのまま無茶苦茶に、そこら辺のレバーやスイッチを押す。



「この野郎、立て、次のステップは立て、立ちやがれぇぇぇぇえ!」



操作など、まるで解らない。でも、何やら自動動作と言う表示が、モニターの目前に出た。



ヴォォォォォォン!



錆びかけた機械音とともに緑色の鋼の巨体は立ち上がった。



と、そこまで行って、俺は操作盤を見渡す。

 

計器類は、全てアナログで統一されており、モニターはプラズマテレビを5個、十字上に取り付けたような感じだ。



 右側に、レバー等が取り付けてあり、左側には主にスイッチ類が多い。



 恐らく、動かす為のメインらしいスティックには、正面にあるトリガー(らしい物)が付いているコレだろう。あからさまにそれっぽい。



 まあ、それらは一先ず置いておく。



 俺の目を引いたのは、足元にある二つのペダルだった。



 オートマチックの自動車のような感じの奴だ。



「いいぞ、次は、っとこのペダルか? 歩くのは?」



そういって俺は、ペダルを思いっきり踏みつける。



ドゥゥン!



「うごわ!」



 スラスターが火を噴き、強烈なGが俺の体を襲った。猛烈な加速力だ。



 慣れれば、大したことは無くなるのだろうが、いかんせん俺は、初めてだ。初めてフェラーリの加速を体験した人間のように、この感覚を楽しむ事も出来ない。



 瞼が重くなるが、目を凝らす。



 しかし、これでどうすれば良いんだよ俺!



 ピーと、電子音が鳴る。



 なんだ、と理解する前に俺は、その原因と遭遇した。



「な、うわぁ!」



目の前に敵機バッタが居た。相対速度で、それは見る間に迫ってくる。



(まだだ、まだ死なない。まだ死なないぞオレはぁぁぁぁぁぁぁ!!)



 俺は、手元のスティックに付いていたトリガーの様な(事実トリガーだ)スイッチを押す。



 緑の巨人の腕が外れものすごい勢いでバッタに鉄拳をかました。(ワイヤードフィストだ)そして外れた腕が戻ってくる。



 拉げ、捻じれ、爆発するバッタ。



「く、うわぁぁぁぁぁぁ!」



目の前は火の海となった。無論避ける事など今の俺には出来はしない。



緑の巨人はそのまま業火の中へと突っ込む。



断続的な振動が、俺の居るコックピットを揺さぶる。

 

その強烈さに、俺は一瞬だけ気を失った。



 だが、直ぐに目を覚ます。



「いき…てる。」



 前の方の装甲に、皹が入ったくらいで済まされたようだ。



「えっと、ブレーキは、これか?」



 車流に、隣にあったペダルを踏む俺。



「のぶしぇぇ!」



 急ブレーキが掛かり、今度は、モニターに思いっきり頭を打ち付けた。



「いあたたたたた。」



 そこで、俺に通信が入った。



『おい、パイロット! って! なんだお前は!』



「え、え、あ、これか。」



 声が聞こえる方に目を向けると、直ぐに、通信機らしい物を見つける事が出来た。



『なんで、その機体を動かしているんだ。って! 言うかお前はなんだ! 志願者か、プロス!』



『いえ、私はこの方は知りませんよ。まあ、本人に聞いてい見るのが一番でしょう。さてはて、貴方は、どう言う経緯でその機体に?』



 ああ、なんか言っといた方が良いみたいだよな…



 俺は、記憶を手繰り寄せながら言った。



「え、え〜と、俺は、まず民間人で、けが人をここへ運んできて、一緒に来た人たちがどこかへ消えて、爆発が起こって、走り回ってるよりは安全だろうと思ってこのロボットに乗って、で、え〜と。」



『あ〜〜!』



やたらとでかい声が聞こえた。ぼ、ボリューム調整はどこなんだ。



『てめぇ! こら! 誰に断って俺より先に大活躍してやがんだよ!』



いや何だ! この通信は!



耳がガンガンするぞ!



「え、え『民間人が偶然ロボットに乗り込むだと! 俺より燃えるシュチュエーションをしていいと思っているのか貴様!』



「ヤマダ、ちょっと黙ってろ。」



バキ!



すっごい善い音。



骨の一本くらい逝ったのかな、ヤマダって人。



『あ、あ〜話を元に戻すぞ、経緯は解ったから、お前の名前と身元は〜『あ〜、犬河さ〜ん』



またしてもでかい声、これか! ボリューム調整は!しかし、どっかで聞いた…ってあ〜〜〜〜〜〜〜。



『な、なんであなたがエステバリスに乗ってるんですか。』



む、この声はジュンくんのものだな。



「あんたらが、俺にここから出る方法も教えずにどっか行ったからだよ。」



『あ。』/『あ。』



取り敢えずは、自分の非を認めてくれた。有難い事だ。



『え〜い、ちょっと位。私に指示をさせ『なにぃぃぃぃ!』



み、耳がおかしくなりそうだぞ、俺。いい加減。



『う、ウリバタケ『てめ〜なんでそんな機体を動かせる!! この形式番号は、俺が「趣味」で改造したフル・マニュアル操作のトンでもないバージョンだぞ!お前みたいな奴がちょっとのオートで動かせるのかよ!』



しゅ、趣味か、趣味なのか〜〜〜〜。(基本的にそれ)



俺は、この人たちをいろんな意味で恐怖していた。



とくに、ロボットを趣味で全手動に改造する神経を…。



『えーい、邪魔ばかり入りやがる。ええ、君、鼓膜は大丈夫か、犬河君といったな、指示は聞こえるか?』



「指示は、どうにか… でも鼓膜はちょっと… もともと破れかけてたし…」



『若いんだから、努力と根性と何とかでカバーしろ。ちなみに俺はゴート・ホーリだ。君は民間人だが、生き残りたかったら私の指示を聞いてくれ。』



「は、はい!」



 とりあえず、この人は“まだ”マトモそうだ。



『よし、良い奴だ。では、作せ『な、なんで民間人がエステバリスに乗ってんのよ?』



「いや、俺に言われても・・・。」



しらけろ! しらけるのだ! 俺!



『ちょっと、これ始末書じゃすまな『ビービー!』



警告の電子音。俺は、はっとしてモニターを見る。

Warning! Warning! Warning!



ROCK ON!



画面中央に赤い警告文字。くそ、ロックオンされたのか!



なんだか、レーダーぽい物を見る。敵を示す赤い影が、右側に居た。それも2体。



敵で良いんだよな! 赤いマーカーってさ。



「ちっくしょぉぉぉ!」



俺は、進んだほうのペダルを踏みつける。また強烈なGが襲ってきたが、覚悟は出来ていた。先ほどよりは堪えない。



白い煙が、俺の機体の真横に突き立つ。爆発。機体が激しく揺さぶられる。



『え〜い、やっぱいきなりじゃ完璧にゃ動かせんか。てっきりお前さんが天才だと思っていたぜ。』



「そ、そんな無茶苦茶な買い被りをしないでくださいよ!」



通信機のノー天気な声に俺は、マジで切羽詰って反論する。



『あ、ちなみに俺はウリバタケ・セイヤだ。今から動作説明をするから耳の穴かっぽじって、よく聞いときな。』



「さ、先に言って下さいよ、そういう重要な事は!」



『まま、気にするな。』



「気にしますよ!」



『いいか、その機体はまずそのまんま全部とはいかないまでも、殆どがマニュアル操作、すなわち手動だ。これによって、ま、動かすのはやたらと大変だが、お前さんみたいなIFSを持っていない奴でも動かすことは出来る。』



まぁ、そこまでは分かる。

CERA-FUL! BACK!



「うぉぉ!」



轟音とともに、敵の拳(足)が俺の機体のすぐ脇を通る。



気がついたら俺は、敵に完全に囲まれていた。



とりあえずブレーキを踏む。くそ、三百六十度バッタやジョロだらけだ。



「ど、どうすればいいんですか?」



『フム、見事に囲まれてしまったな、こういう場合、ワイヤードフィストは使わないほうが良いな。戻ってくるときに必然的に動きが止まる。そこを漬け込まれるぞ。』



「ワ、ワイヤードフィスト?」



『ウム、さっきお前が使ったろ、腕が飛んでく奴。』



 ああ、あれか。適当にやったら出たんだよなあれ…



『とにかく、装備を変換するぞ。右側に自動動作って、白い枠に囲まれてるスイッチ類が、あるだろ。』



「は、はい。」



『そこの、装備変換って書いてあるスイッチを押せ。といってもイミディエットナイフしかないだろうがな。』



 言われたとおりのスイッチを押すと選択画面が正面に出た、警戒して敵がゆっくり近づいて来てくれるから良いものも一気に飛び掛られたらアウトだな、俺。



『選択画面がでたろ、ポーズしている訳じゃないからな、気を抜くなよ。』



「はい。」



『そこに、一つだけある変換装備、イミディエットナイフを選択しろ。』



 俺は、最初、選択ってどうやって、って思ったが、スティックのトリガーを引くと簡単に選択できた。横に動かすと別なところに行くようだ。そして機械音とともに、右腕が動き、腰の辺りからナイフを取り出した。



『いいか、自動動作時のイミディエットナイフは、手元のスティックのトリガーを引けば使えるけど、「突き」しかできない。手動動作のときは、いろいろ使えるんだけどな。とりあえず突破したら海へ向かって突っ切れ。そっちでまってんぞ。』



「は、はい。」



『ウリバタケ…貴様、俺の役目の作戦指示の役割取ったな。』



『油断したゴートさん、貴方が悪いんですよ。』



 即刻俺は通信機械のスイッチを切ると、左の画面に出ている地図で、海の方向を確認する。方向転換はどうすれば、と思ったが、自動動作のところに、方向転換のスイッチがあった。それを押し、スティックを操作して、海の方向へ向きを変える。



「いくぞ………」



 敵のバッタやジョロも、気配を察知したか警戒を固めたようだった。



 次の瞬間、俺は、ペダルを思いっきり踏み込んでいた。



 どうやらこれは、背中のスラスターのペダルだったようだ。俺はいまさら気づいた。



 敵が、見る間に大きくなってくる。



 CARE-FUL! RIGHT!



CARE-FUL! LEFT!



CARE-FUL! BACK!



CARE-FUL! ROCK ON!



 凄まじい量の警告が画面前方に木魂する。だが、かまっていられない。



 タイミングを見て、俺はスティックのトリガーを引いた。



 俺の機体が、イミディエットナイフを正面に突き出す。見事それはバッタを貫いた。だが、俺は、そのままそいつを押すようにしてスラスターを噴かせている。バッタがストッパーになってしまった。これでは勿論進む訳が無い。



 悪かったな、引き抜くやり方を知らないだよ。



 俺は、辺りを見回した。「腕部マニュピレーター手動操作切り替え」というスイッチが目に止まった。



 ふむふむ、どうやら手動操作時の右腕の操作は、右側のレバー類とスティックで、出来るそうだな。



 簡単にそこに書いてあった説明を読んで納得する俺。馬鹿?



 ま、とにかくこいつを引き抜かないことには、俺は、進めない。敵さんだってそう何分も放っておくわきゃ無いだろう。



 俺は、覚悟を決めるとそのスイッチを押した。







「もっと早く、海上に出れないんですか!」



ジュンさんの悲痛な叫びが聞こえます。また、変わりましたが私はルリです。

 

犬河という人のエステバリスは見事に木星蜥蜴の大群に囲まれちゃってます。ウリバタケさんは、楽観的に説明しましたが、自力での突破は絶望的でしょう。皆さん固唾を飲んで見守っています。



 私は一度も彼に会ってはいませんが、やはり、名前を知った人が居なくなるのは悲しいです。出来れば助けてあげたいと思っています。ですが「ナデシコ」が、海上に出るまでに後3分は、かかります。その間、彼が持ちこたえる可能性は12、3%。高いとはいい難い数字です。今は神様に祈る他は在りません。そのときです。



「い、犬河とか、言う人のエステバリスが敵の包囲を突破、こちらに向かっています。」



 オペレーターのメグミさんの笑顔で叫んだ声が、「ナデシコ」のブリッジに歓声を上げさせます。



「やった〜。」/「し、始末書くらいでよさそう。」/「やっぱあいつは天才だぜ。」/「驚きましたな。ぜひわが社に雇い入れたい。」/「ふはは、正義の味方に対しての当然の結果だ。」/「わぁ〜、あの人のこと諦めて彼に新しく私の王子様になってもらおうかな〜。」/「はぁ、よかったぁ。」



 皆さんそれぞれの喜びを口にします。私も意識はしてませんが笑っていると思います。



「彼の到達する時間もあと3分丁度、間に合いそうですね。」



 ミナトさんの、少し気が抜けた声が聞こえます。そのとき彼から通信が入りました。



『おいおい、海へ向かうのはいいが、それでどうしろと…』



「ああ、そのまま海へ向かってダイブしろ。」



 ウリバタケさんとゴートさんが、喧嘩しながらそういってます。



『だ、ダイブ?』



「そうです、ダイブです。」



 初めて彼との会話がこの台詞でした。



『いや、それは。』



「うるさいなぁ、後先考えずに突っ込みゃいいんだよ。」



 ヤマダさん(本人はダイゴウジ・ガイとか言ってますが)が、そういいます。



『俺に死ねと…』



「大ジョーぶい、ユリカ達がちゃんと助けるよ、だから何も考えずに海にダイブしちゃってくださ〜い。」



『いや、けどなぁ…』



「ほらほら、そんなこと言ってる間にもう、海まで50m〜」



 ミナトさん、何気に楽しんでるようです。



『うぉ、ええい、こうなりゃもうなるようになれぇぇぇ!!』



 半場、ヤケクソ気味な犬河さんの声が響く中。エステバリスの反応が「ナデシコ」と重なります。ジャストタイミングで「ナデシコ」は浮上しました。







「うわわ、海から陸地がぁ! てあれ?」



 騙されたつもりで海へ飛んでみた俺だが、突如下から何かが湧き上がってきたのだ。それは最初は地面かと思った、だが、着地の際の機体との接触によって響いたのが金属音で有った為に、人工物であるとわかった。



『やっほ〜、ほらね! 見事にばっちGooooで、間に合ったでしょ!』



ユリカさんだなこの声は………



「あ、ああ。」



 でも、上手く口が回らない。



『そういえば、貴方は当たり前のことですが、見るのは初めてですな。これはネルガル社製新造宇宙戦艦「ナデシコ」です。』



さっき、一度だけ聞いた声だな… 脇で。



「宇宙… 戦艦…」



 俺は自分でも間抜けな声を出していると思った。んなもんつくんなら国家予算の借金返済に当てろってんだ。だいたい、なんで民間の会社がこんなもの作ってんだ?



『まぁ、詳しい説明は後ほどと言う事で…では、艦長さん、締めは頼みますよ。』



『はい、では皆さん!』



『敵! グラビティブラスト射程距離内に全部入ります!』



『充電はさっきから終わってます。』



『照準…よし!』



『よし…いきますよぉ。』



 機械音が響く、何かが作動しているようだ。それは次第に大きくなっていく。



『あ、何かにしがみついていた方がよいと思いますよ… 犬河どの。』



「そうさせてもらいます…」



 俺は「ナデシコ」の甲板上の何かは分からないが突起物に機体のマニュピレーターを引っ掛け、俺もシートにしがみついた。



 なにやら、そうしなければならないという予感と言うか… 確信があった。



 ごごごごごごご



 機体が小刻みに揺れる。俺は、シートを握る手に力を込めた。



 「ナデシコ」の艦首部だろうか、昔のアニメのようにそこが開き始める。揺れがだんだん強くなってくる。



『グラビティブラスト………発射ぁぁぁぁぁぁ!』



 次の瞬間、俺の体に強烈なGがかかった。凄まじいほどの反動が俺を押しつぶさんばかりに飛び掛ってくる。



 俺は、かろうじてそこで起こっていることを確認できた。



 艦首が開いたそこから、黒い光線のようなものが伸び、敵の木星蜥蜴を、押し潰して行くさまが………



 グジャ/グワジャ/ドォン/バキャ



 気持ちが良いとは言いがたい音が響く。おそらく聞いたのは外に出ていた。俺だけだっただろう。後に残ったのは、原型を留めていない残骸と、抉られた様な穴だけだった…



「…………」



 僅かではあるが俺はこの時木星蜥蜴に同情していた。本当に僅かだが…

 



 

 皆が気づいているだろうが、この世界には無くてはならない人物の存在が抜けている。

 

それは、ちょっとした運命のいたずらだったのかもしれない。



 だが、運命の歯車は狂い始めた。



 これからこの世界は、犬河照一は、どこへ向かうのだろう。



 それは、誰も知らない。知るはずの無い。



「未来」と言う名の………「物語」である。

 

 

機動戦艦ナデシコ 英雄なき世界にて…

第一話

END

第二話へと続く…