機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

「犬河照一、西暦2188年、11月7日生誕、血液型AB、IFS無し、出身地地球、現在職業大学生、年齢18、プロフィール、1歳の時に孤児となり、施設にて育つ。孤児となった原因は、両親の事故死、6歳の時に小学生となり、いたって普通の道を歩む、10歳の時教員の不注意による小学校炎上の事故に巻き込まれる、だが怪我はしていない。その後、15歳の時に受験、高校の入試に現役で受かる、そして、十七歳の時木星トカゲとの戦争が始まる。そして、18歳の時大学の受験に受かる。現在は、5月6日のために僅か一ヶ月あまりしか学校に通ってないことになるな。そして、今に至ると…なにか違うことはないか?」

「ありません。」

 俺は、答えた。全部が完璧にその通りと言うわけではないが、殆どがその通りだ。

 それに、あのことは、書かれていない。まぁ、それを言う気はないが…

「よろしい。では、いくつか質問をさせてもらう。いいかな?」

「はい。」

 まぁ、答えるくらいならいいだろう。それに、悪い人じゃなさそうだし(ゴートさんです)。

「まず、君がどうして、軍事基地に居たかそれを教えてもらえるかい。」

「それは、俺に聞くより、ユリカさんやジュンくんに聞いた方がいいと思いますけど…。」

 正直あの人たちのせいなんだし、と言う台詞を吐こうとして飲み込んだ。流石に失礼だよなぁ。

「フム、ではそうさせてもらうか…」

「え。」

俺は、少し驚いた。問い詰められるとばかり思っていたのだ。

「くくく、なぜ問い詰めないかと言う顔をしているな。」

 俺は、かくかくと首を縦に振った。

「あの艦長を見て、被害者を問い詰める気にはならんよ。」

「え、あの、艦長って?」

 俺は、条件反射のように質問を投げかけた。

「ん、ああ、そうか、犬河君は、知らなかったよな。ミスマル・ユリカこの戦艦の艦長だよ。」

「えぇ〜 あ、あの、いや、あんな人がぁ。」

「ははは、流石ににわかには信じられんわなぁ。だが、彼女は、地球連合大学 戦略シミュレーション実習では、トップ成績だったんだぞ。と言っても信じられんか…」

 俺は、カポーンと口をあけてその話を聞いていた。

「しかし、いきなりエステバリスに乗って、戦果を2機もあげた君が驚くほどの話ではあるまい。」

「エステバリスって、言うんですか? あのロボット?」

 金縛りから解けた俺は、軽い質問を投げかける。

「ああ、そうだよ。と言っても、君が乗った機体はウリバタケが、昨日、趣味で製作した物で、あんまりにもデリケート過ぎて使える奴が居なかったそうだ。ま、フルマニュアルだから当然だな。分解して、捨てるのにも金がかかるから放置して置いた物だそうだが… まったく、君は、すごいよ、そんなお払い箱の機体で戦果を2機もあげたのだから。」

 改めて、自分がやったことの無謀さを痛感させられる俺であった。

「この話を聞いて、自分が今生きていることが信じられない顔だな。」

「はい…」

 事実そんな感じだった。俺の頭の中は…

「所で、俺が乗ったその、エステバリスは、やっぱ分解されちまうんですか?」

「ん、民間人で、学生なのにそんなことが気になるのかい?」

「ええ、まぁ、一度と言っても命を預けた奴ですから…」

 それを聞いたゴートさんは、椅子から立ち上がり俺に語りかけた。

「いいか、犬河君、それは、軍人の台詞だ、元居た日常に返りたかったら、その台詞は二度と人前では言わない事だ。私としても君が民間とはいえ、戦艦に乗ることは避けてもらいたいのだよ。他人のお節介かもしれんがね。」

 俺は何も言い返せない…

「ま、とにかく君の質問に答えようか… たしかに君が乗ったエステバリスは、分解されパーツとして使われる予定だ。いいかい。」

「はい…」

 俺は、さっきの言葉のショックもあるだろうが、別のことが引っかかっているような気がした。

「ま、これで、一つ目の質問は終わりだ。君にしても私にしてもな。」

 俺は、この時にはっとなった。これは、ゴートさんより俺への質問だったのだ。だが、実際に質問して、答えてもらった数は俺のほうが多いじゃないか。それを一つ一つしっかりと説明してくれたのか、赤の他人の俺に…

「では、二つ目の質問に行くぞ。いいかね?」

「はい。」

 俺は、少しこの人を見る目が変わった。

「君の経歴はうまく出来ているが、いくつか偽造されている所があるね。それは、どうしてかな? ああ、これは、興味本位の質問だ。何故君がいきなりであそこまでフルマニュアルのエステバリスを動かせたか。その謎がそこにあるような気がしてね…」

「それは… 違いますよ…」

 俺は、少し口調が暗くなっているのを自覚しながら言った。

「少なくとも、俺が、エステバリスで、2機も木星蜥蜴を撃墜したのは、まったくの偶然なんです。無茶苦茶に操縦したらたまたまって感じで…」

「フム… そうか?」

 ゴートさんはしばらく考え込み。

「まぁ、人には触れられたくない過去の一つや二つあるものだ。この質問は君が、しっかりと自分の口から話せるようになるまで待つことにしよう。…もっとも待つことが出来たならだが…な。」

 ゴートさんは、それ以上は何も追及してこなかった。

 くそ、俺は…

「まぁ、これで、私の質問は終わりだ。もうすぐ「ナデシコ」は、成層圏にでるな… まぁ用意しておけ。といってもするものもないだろうがな…」

 そういって、ゴートさんは席を立ち扉へと向かっていった。

 プシュー

 扉が閉まる音。俺はしばし暗くなった部屋で考え事をしていた。

 数分ほど考えた後、俺は部屋の扉へ向かった。

 

「う〜んと、ブリッジへはどうやって行くんだったかな…」

 そして、部屋を出てから数分後、俺は思いっきり迷子になっていた。だめジャン。

「とりあえず、この部屋に誰か居るみたいだし、道を聞いてみようか。」

 俺は、軽い気持ちで正面の在室中と表示が出ている扉を開く…

『レッツ・ゲキガンガー スリィィィィ!!!』

 物凄い音量、明るく熱血なBGM、そして、モニターの前で悶えている男、確かヤマ

「すとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉっっっぷ!!! 貴様、今俺の魂の名前を呼ばなかったな。いや、正確に言うと俺の触れられたくない現実その一の、言葉を思ったのでア〜ルな!!」

「いや、あの俺は…「この世紀の天才エステバリスライダー… ダイゴウジィィィィィ……… ガァァァァァァァァァァイ!! の名前で思わなかったな貴様ぁ!」

 あぁ、スッゴイ元気のいい人…そうか、あの時に何大活躍してやがんだとか、言った人はこの人か… 納得(いろんな意味で)

「ゆるせん、この俺を傷つけた罪、俺の部屋に土足で上がりこんだ罪、そしてゲキガンガーを侮辱した罪、よって貴様はこのダイゴウジ・ガイが、地球中のいや、宇宙中のゲキガンガーファンに代わって、天誅を与えてくれるわぁぁぁ!!」

「どれも俺には身に覚えがねぇよ!」

(とくに最後の)

「ふふふ、こうなれば、貴様とは拳で語りあわなくてはならないようだなぁ…」

「言って置くが、俺は犬河照一だ、貴様とは呼ぶな。」

 とか、言いつつ俺もヤ、いやダイゴウジ・ガイさんもファイティングポーズをとっている。やる気満々だ。違うことは俺には、右腕にIFSが無いと言う所か…

「ゆくぞ、照一!!」

「おう! ガイ!」

「流派!東方○は…なぶごべじゃぁ!!」

 ああ、本とに拳で語り合うんじゃなかったのか… しかし、今、素人の俺でも解るほどにメキリッと言う手ごたえが返ってきたんだが… 大丈夫かな?

 俺は、ぶん殴って、痙攣しながら倒れているヤマ、いやガイさんを、どうしようかと悩んでいた…

 そのとき…

ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!

 敵襲を知らせる警報が鳴った。

「敵襲か!」

 ガイさんが、飛び起きる。す、凄い。なんて回復力だ!

 

 一方ブリッジでは、皆さんが、慌てふためいていました。

 ですが、流石は、二度目です、初めよりは慌てては居ません。当たり前ですが。

 あと、これで三度目ですが私はホシノ・ルリです。口調がこうなった場合は、大体私だと思ってください。

「やっぱり、強引に防衛線を突破するのが不味かったんじゃないですか?」

 ジュンさんが、そういいます。

「いや、連合軍のほうには連絡がいってるはずなのですが?」

 プロスペクターさん、通称プロスさんがいいます。初めてでしたね、早い話がマネージャーです。

 じゃぁ、何故、連合軍が停船勧告を出しながらこちらへ向かってくるのでしょう?

「ふふふ、なにいっているの? こんな、戦艦を軍が見逃すわけ無いじゃない。」

 ムネタケさんが、そういいます。怪しいです。

「さぁ、さっさと停船しなさい。でないと、軍の全てを敵に回すことになるわよ!」

「いやです。」

 艦長が言います。

「なにいってるの? まさか、この戦艦に乗っている軍人が私だけだと思っているの? 悪いけど、それは間違いよ。今頃、この戦艦の重要箇所を占拠しているころだわ。」

『残念ながら、それはまちがいだぜ、ムネタケさん。』

 そういう声とともに緊急回線で通信が入りました。そこには、縛り上げられている人たちが映っていました。おそらく彼らが、潜入した軍人さんでしょう。

「な、なんでよ。」

 明らかに動揺した声が聞こえます。

「ふふふ、契約違反で乗り込んできた軍人をマークしないわけ無いでしょう。」

 眼鏡を光らせて、プロスさんが、言います。

「くっ、そ、それでも、この包囲網を突破するなんて不可能よ! やれるもんならやってみなさい。2・3隻、道連れにするのがいいとこよ!」

 負け惜しみですね。どう聞いても…

「だったら、やって見せようじゃないですか!」

 あらら、ずいぶんと自信たっぷりな台詞ですね、艦長。

「総員、戦闘態勢に、移行してください。」

 威勢良く艦長は命令をくだします。

「ま、まさか…」

「そのまさかのようですね。」

 私が、口を開きます。

「エステバリス隊、と言ってもヤマダさんしかいないか、発進準備してください。」

『おうおう、もうとっくに出来てるぜ。しかし、俺の名前は・・・』

 意気旺盛なヤマダ・ジロウさんの声が聞こえます。その後の言葉は聞き取れませんでした。(私が音量を下げたからです)

「いいですか、敵は木星蜥蜴では無く、宇宙連合軍です。出来るだけアサルトピットを壊さない様にして下さい。」

 艦長から命令がでます。

『まかせろ! 強すぎる正義は、嫉妬の対象だ。だが、無駄に人命を無くす様な事はしないぜ。』

 ヤマダさんからの了解でしょうか? まぁとりあえずは、伝わったと言うことで…

 その時、宇宙連合軍から、通信が入りました。

『「ナデシコ」に告ぐ、こちらは、宇宙連合艦隊提督として命令する。ただちに停船せよ。私は宇宙連合艦隊提督ミスマル・コウイチロウである。』

 提督さんが、いきなり出ました。髭を生やしている所を見るとかなりの年配の方のようです。しかし、ミスマルって、何処かで?

「お父様。」

 と、艦長が、いいました。

『おぉ、ユリくわぁ。』

 提督さんの表情が、一気に緩みました。あ、そうか、そういえば艦長のお父さんて、宇宙連合艦隊の提督だったっけ。

「親馬鹿。」

 このシリーズでは初めて私がいった「馬鹿」です。

『しばらく、会ってない内に大きくなったなぁユリカぁ。』

「やだ、お父様ったら、昨日、お会いしたばかりですわ。」

『そ、そうだったな。』

「ご無沙汰しております提督。」

 ゴートさんが、いいました。昔、軍に居たんですねこの人は。

『う、うむ、「ナデシコ」に告ぐ、直ちに停船せよ。』

 ほかの人が居る事に気づいて元の顔に戻りました。

「折り合いは付けてあるはずですが…」

 プロスさんが、いいます。

『停船しなければ、第3防衛ラインの全力をもって実力行使にでる。理由は簡単だ。現在の宇宙連合軍には、「ナデシコ」程の強力な戦艦を手放すだけの余力が無い。言い訳は無用だ。YESかNOかで問いたい。』

「じゃぁ、NOです。」

 あっさりと艦長がいいました。

『ユリカぁ、おまえまでぇ。お父さんの言うことが聞けないのかぁ。』

「では、そういうことで。」

『待て、ユリカぁ、話はブツ・・・・・・・・

 私が通信を切りました。ちょっと面白かったです。

「艦長よかったんですか?」

 私が聞きます。

「ええ、もう決心しちゃったから…」

 

『デルフォリウム九機接近。ヤマダさん発進してください。』

『だから、俺の名前はダイゴウ… って、シカトかよ!』

『さっさと行っちゃってください。』

『はい。(冷や汗)』

 そういって、青いエステバリスが発進して行く。俺は、展望室でその光景を眺めていた。

 ああ、この船の人たちの声が聞こえるのは、通信している人が、オープン回線だと言う事に気づいてないからだ。そして、遠くから来る。九つの光点に青いエステバリスが、突撃して行く。俺は何となく、その光景を眺めていた。俺は何も出来ない… そう何も出来ないのだ…

 しかし、あのエステバリスは、少し突込み過ぎではないだろうか? それは、まぁ、一機しかないんだから、当然の行動かもしれないが…

 一機しか… 本当に一機しかないのか。

 俺は馬鹿な考えが頭をよぎったのに気づき、思いっきり頭を振りその考えを追い払う。

 そんな、俺が行ったって足手纏いになるだけだ。それに、ゴートさんも言ってたじゃないか、この命はたまたま落とし損ねただけだと…

 そう、少なくとも俺にはそう聞こえた…

 そして、今、青いエステバリスは、回避運動に徹している。戦力差が、数の上では9:1だ。逃げて逃げて、そして敵が一塊になった所に戦艦の主砲をぶっ放し、一気に殲滅する。そういう作戦だろう。

 だが、いくら何でも戦力差が有り過ぎだ。このままでは遅かれ早かれ、青いエステバリスは、被弾は免れない。そして、被弾する事=機動能力の低下=撃墜、に繋がることになる。そんなことは素人の俺にも解る。

 今も危ない攻撃が、青いエステバリスを掠めている。

 どうすればいい。俺は、どうすればいい。あの青いエステバリスには、あのダイゴウジ・ガイ(ヤマダ・ジロウ)が、乗っている。一回遇っただけだが気持ちのいい奴だった。(出会い頭に思いっきり殴り飛ばしたが…)それに、死んで気持ちのいい様な奴ではない。

 だからといって、そこまで、思い立った理由は何だ? 俺がそう思った理由は? くそ、なんなんだよ。こんな感じははじめてだ。

 理由は、何だよ俺! 理由は!  理由… なんだよ、簡単な事じゃないか?

 俺は、俺なりの結論に辿り着くと苦笑いを浮かべた。

 人の命を助けるのに… 理由なんているかよ!!!

 今は、これでいい。そう、これでいいんだ。他の事は後で考えればいい。

 思うが早いが、俺はそこに張ってあった艦内の見取り図を見る。

 エレベーターを降りて、後は基本的には一直線だ。いくら方向音痴の俺でも、迷うことは無いな。

 俺は、エレベーターのスイッチをプッシュすると。そのまま飛び込むようにしてエレベーターに乗り込んだ。

 

 俺は、エレベーターから、転がるように飛び降りると、格納庫への一直線の道を全力疾走で走った。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 くそ、見取り図じゃよく解らなかったが、格納庫までの距離は、思っていた以上に有り過ぎだ。ちゃんと体鍛えときゃなぁ…

 何度目かの後悔をして俺は、バテバテで、格納庫に辿り着いた。

「おう、お前か。しかし、急ぎ過ぎじゃねぇのか? 心配しなくても帰り用の大気圏突入用ポットは、どこにも行きゃしないよ。」

 スパナを持って眼鏡をかけた、いかにも整備員さんっぽい人が、そういう、この声は聞いた事があるぞ、確か… ウリバタケ・セイヤさんって言ってたな。

「いえ、そうじゃないんです…」

俺は、自分では、格好つけてるなぁと思っていた。(半分苦笑)

「…つまりだ、お前の考えていることは解る。だが、お前が行って何になる? 無駄死にするだけだろ…」

 ウリバタケさんが、さっきまでとは似ても似つかぬ声を出した。

「そんな、ことするよりは、さっさとお家に帰って、彼女とよろしくするもよし、親孝行するもよし、テスト勉強に没頭するもよし… そういう有意義な事をした方がいいんじゃないのか…」

「それは… 俺も解っています…」

「いや、お前は解ってないね。」

 ウリバタケさんが、大声で言った。

「お前も、これは解っていると思うが、第三防衛ラインの最後には、木星蜥蜴侵入防止用のバリアーが、張ってある。これを越えちまうと、無論、大気圏突入用ポットでは、地球に帰ることは、出来ない。「ナデシコ」は、このまま火星に行く予定だしな。つまりだ、此処でお前がヤマダを助けるためとは言え戦闘をするということは、「ナデシコ」が、その目的を終えるまで地球には、帰れないと言う事だぞ。それも、何年かかるかわからんし、生きて帰れるとも限らん。お前のことを地球で待っている人だって居るんだろ。だったら…」

「確かに、待ってくれている人は、居ます。ですけどそれが、ガイさんを見捨てていい理由にはなりません。」

 俺は大声を出した。しかし、待っている人って? 思いっきり自分で言って解らん。

「馬鹿野郎! 正義の味方にでもなったつもりか! 最初のような偶然が、何度も続くと思っているのか! 現実は、甘くないんだぞ! その落とし損ねた命を無駄に使うのか犬河!」

「正義の味方なんてなりたくも有りません。それに、命を秤にかける気もありません。」

「まぁ、そういうだろうだが、最初に言ったようにお前が行ってなんになる。お前が足引っ張って、二人ともやられてさよ〜ならだ!」

「確かに、二人とも死ぬ確率が高いです。その代わりにガイさんが生き残る可能性も出て来きますよ。無論、二人とも生き残ると言う意味でね!」

「そこまで、考え至った理由は!」

「“親友”を助けるのに理由が要りますか!?」

 とっさに、親友という単語を出してしまったが、後悔は無かった。

「くくく、」

 ウリバタケさんが笑い始める。

「そうか、“親友”か、ヤマダもいい“親友”を持ったな…」

 殴りつけたのは置いといてと、

「出会って、三秒で仲良くなっちゃいましたよ…」

 事実だ。と思いたい。

「はは、解った解った。出してやるよ。ただし条件がある。」

「なんですか?」

「まず、ノーマルスーツを着ろ、真空なんだからな… って、もう着替えたのか!?」

 ふ、また着替えのギネス記録更新か… なめるなよ俺を!

「ま、まぁ、次に行くぞ、それは、簡単だ。長距離からの援護に徹しろ。突っ込んでいくのは、危なっかしくてな。」

「はい、わかりました。」

 俺は、肯定の声を出す。

「そして、最後だ。」

 そういって、ウリバタケさんは、ポケットから薬剤のような物を取り出す。

「こいつは、内服用の“ナノマシン”だ、お前、IFS持ってないから、ディストーションフィールド張れんだろ。飲んで行け。」

「デミグラスソース?」

 ちょっとぼけてみた。俺。

「アホ、まぁ、早い話がバリアーみたいなもんだ。それ無しじゃ、やっぱ危なっかしくてな。それにあんまりエステ壊されても困るんだぞ!」

「“ナノマシン”か…」

 あんまりいい思い出ないな。

 俺は、受け取った薬剤の様な“ナノマシン”をジロリと見ていた。

「言って置くが、それを飲んだからってIFSが、付くわけじゃないぞ、ディストーションフィールド張るだけのために俺が作ったもんだからなぁ。」

まてよ、殆どの戦艦に乗る人は、ちゃんとIFS付けてるよな、俺がおかしいんだよな。って事は…

「じゃあ、俺が来ること解ってたんですか!?」

 マジですか、俺が鈍いだけですか?

「ああ、なんと言うか… やりそうな気がしたからなぁ…」

 視線が泳いでいる。後で、しっかりと理由を問い詰めんとな。

「と、とにかく早く、がんばってるガイさんのとこへ行きます。解体してませんよね。」

「当たり前だ! 一番端っこに有るよ。お前さんのエステは。ああ、それと…」

「まだ、何かあるんですか!」

「装備は、3番倉庫の奴、持って行っていいって言われたと言え。」

「3番倉庫? 何かやばい物でも入ってるんですか?」

「いや、お前さんのエステ用、いや、正確に言うとフルマニュアルエステバリス型の専用装備だ。理由は、使って見りゃわかる。」

「はぁ、それではそう言っていいんですね。」

「ああ、そう言え。」

 そうして、俺は走り出した。そのために後ろの会話は聞こえなかった。

 

「やっぱ、聞いてましたか、ゴートさん。」

「まったく、民間人を戦場に送り出しおってよくそんな口が叩ける…」

「ははは、若いんですから当たり前ですよ。それに貴方もやるかもしれないとは、思っていたでしょ。」

「説得の通じる奴ではない事は、解っていたがな…」

「それに、あいつのデーター見ましたか?」

「いや、まだだが? そのデーターがどうか、したのか?」

「あいつ、腕部だけとは言え、マニュピレーターを手動に切り替えてたんですよ… それも、「ナデシコ」に飛ぶ前にね。」

「な、そ、それで着地を成功させたのか!?」

「ええ、そうです。並みの奴なら、腕部のバランスが取れずに即転倒なのに、あいつは、見事に着地を決めました。」

「ううむ。」

「ひょっとしたら乗りこなすかもしれませんよ。あのお払い箱の筈のジャジャ馬をね…」

 

「え、っと3番倉庫の奴、持ってっていいとウリバタケさんに言われたんですが。」

 難なく緑のエステバリスに乗せて貰えた俺だが、装備を聞かれてそう答えたら、場の雰囲気が凍った。

「まじかよ、あれ使うのかよ。」

「でも、班長の言うことだぜ。聞かんと大変なことになりかねんぞ、どうする。」

「やるしか、ないでしょ。」

「やっぱ?」

 まずいのか、そんなに、まずい装備なのか3番倉庫の中身ってのわぁぁぁぁぁ。嫌な予感がプンプンするぜ。

「あの、あんまり、こだわらなくてもいいですから…」

 早く行かせてください、と言う言葉を俺は、飲み込んだ。

 機械音と共に、床が開いて。下から、エレベーターが、せりあがって来たからだ。(趣味だなぁオイ)そこには、20世紀程の時代の何と言うか… ヘッケラー&コックPSG−1を模した様な形の巨大な銃が、無造作に置いてあった。

「ああ、これは、使用弾10cmの鉄鋼弾で、最大装弾数54発、セミオートライフル、全長5m、全幅1m、最大有効射程100000km、驚くべきは弾丸の初速は、時速20000kmだと言う事でしょうね(マテやこら)、弾丸こそ小さいですが、やはり、貫通力と、射程の長さが大きな特徴でしょうね。敵の射程距離外からボカスカ撃ちまくれますよ。だたし、使う時は、反動が大きいので注意してください。この武器の通称は、“ライジングブレード”です。」

 作業員の説明など全く聞いていなかった。それより俺は、呆れ半分、感心半分の感情で、それ“ライジングブレード”を見ていた。

「それじゃ、持って行きますね…」

「はい、くれぐれも“注意”してくださいよ。」

 作業員の人が言った“注意”という言葉が引っ掛かったが、俺は、緑のエステバリスの腕部マニュピレーターを手動に切り替えると、肘を伸ばさせつつ、指を開き、手首の角度を合わせて、“ライジングブレード”のグリップに当て、指を閉じて、確りと握らせる。力加減を強くしすぎても、グリップを握りつぶしかねないので、細心の注意が必要な作業だ。俺自身気づいていないが、その動作を3秒でやっていた。作業員さん達の目が感嘆に歪むのにも気づいていなかった。(一度やっただけなのに、レバーの位置も完全に把握出来ていた)

「すげぇぜ!」

「だから、出すことを許したのかな?」

「あんなこと俺には、一生かかっても無理だ。」

 と、言う会話も気づいていなかった。肘を曲げ、エステバリスの脇に、“ライジングブレード”を持ってくる。そこで、通信が入った。

『よぉ、良い調子じゃねぇか犬河!』

 ウリバタケさん、だな、不真面目な口調に戻っているが。

「まぁ、機体が良いんですよ。」

『馬鹿野郎、いくら機体の状態が良くっても、並みの奴がそんなのを動かせるか…』

「え、なんですか?」

 聞き取れなかったので、俺は、聞き返した。

『いんや、こっちの話だ。所でお前、当たり前だが、宇宙戦は、初めてだよな?』

「宇宙に出るのも初めてですよ。」

 ホントです。はい。

『まず始めに、まぁ“ナノマシン”飲んどけや。』

 俺は、意を決して、薬剤のような“ナノマシン”を、飲み込む。

「う…」

『感想は?』

「この世のものとは、思えない味ですね。」

 ま、まずすぎだ〜

『ま、話を戻すが、宇宙戦では、“足”は、基本的に使わなくていいぞ。殆どスラスターだからな。』

「はぁ、そうですか。」

 まだ、味が抜けてないんですけど。

『だが、宇宙戦でのスラスターは、前後左右の他に上下と言う軌道が含まれる。だから、ペダルが6個に増えてるだろ?』

「ええ、確かに…」

 ペダルが、昔の家庭用ゲーム機の、コントローラーの十字キーのようになっているのが、4つ、そして、その右側にある。上、下と書いてある2つのペダルは、そのまんまの意味であろう。

「地上戦より、楽な気がするなぁ…」

『だが、敵も同じだけの逃げ道を持っている事になる。』

「それは、大変ですね…」

『それに、エステは、基本的に「ナデシコ」の重力波ビームを受けて動いている。重力波ビームの影響圏内では、ほぼ半永久的に動く事が出来るが、それを抜けたら、殆ど自由に動く事が出来ん。広い宇宙では、そう言う事があるから、大変なんだ。』

 宇宙の塵になるのだけは、勘弁だな…

『ちなみに、“ライジングブレード”を撃つ時は、普通に人差し指を操作して、トリガーを引けば良い。銃系の武器を持たせると自動的に照準モードになるからな、腕を操作して、確りと狙いを付けろよ。それに、敵は“人間”だ… 覚悟しておけ。』

 “人間”という言葉にプレッシャーが、かかった。

『まぁ、ヤマダをあんまり待たせるのは、まずいからなここら辺で説明を打ち切るぞ、帰ったら、ちゃんと動かせるまでしごいてやるそうだぞ。皆が…』

「み、皆って…」

『ええ、この戦艦にのってる連中(ヤマダを除いた)全員の意見だ。覚悟しておけよ。』

「え、ってことは皆知ってんですか?」

『艦長、以下全員モニターしてま〜す。(ヤマダさんを除いた)』

「ぎゃ〜!、あ、あんな恥ずかしい台詞までモニターしてたんですか?」

『アッタリめぇだろ、若いってのは迂闊だねぇ。バッチリ録画してるぜ。さ〜て、どうしよ〜かな〜。このテープ。』

「あ、遊ばないでください!」

 ん、待てよ… そうだ、この手があった。

「あ、所で艦長さん。俺を撃とうとした事の件ですが、それは、どうなったんですか?」

『え。』

 思ったとおりの反応だな…

「危うくブラスターで、撃たれて死ぬとこだったんですよ。しかも、口止めされていますよね? その借りは、どうしましょうか?」

 場の雰囲気が、一気に変わるのが解る。

『艦ちょぉ〜〜〜。』(俺とジュンを除いた全員)

 ふ、狙い通りだ。

「と、言う訳で、この件に関しては、口外しないようにと、これ以上追求しないように。ガイに言うなんてもっての他で。」

『くそ、艦長が居なけりゃ… 俺も迂闊だったか… ヤマダの奴の照れた顔が見れると思っていたのに…』

 ふ、俺を陥れようなんて、10年遅いんですよ、ウリバタケさん。

「じゃぁ、とにかく行きますよ。」

『ああ、もう。行って来い、帰って来い。』

「犬河照一、エステバリス… いっきま〜〜す!!」

 一度言って見たかったんだよな。これ…

 そういって、俺のエステバリスは、宇宙へと飛び出していった。

 

 

機動戦艦ナデシコ

英雄なき世界にて…

第2話 上

END

第2話 下へと続く