機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

暑苦しいな…

 まぁ、8人もエレベーターに乗ってちゃなぁ。

 空気が、こもる。

「おい、ジュン。顔色悪りぃけどどうかしたのか。」

 ヤ、いや、ガイが理由を聞いてくる。

「これだけの事が一日に一気に起こっちゃぁ、疲れもするさ…」

 もう、本能からそう言えと御告げが来ている。

「ええと、「サツキミドリ二号」の残骸の中に、もう一個0Gフレームが、取り残されているんでしたっけ?」

 ユリカ… こんなコンディションで話題を振るのは止めてくれ。

「ああ、そうだけど。」

 リョーコって、言ったっけ? 緑色の髪の人がそう言う、僕には未来を見る力など無いけど、何故か今はその先が見えた。

「んじゃぁ、それの回収を頼みます。艦長命令です。」

 はぁ、やっぱり。

「人使いの荒い艦だぜ。」

 リョーコさんが言う。

 とくに僕のね。艦長が、しっかりしてくれれば、副長としての僕の仕事は余りないんだけど… そう、“しっかり”してくれればね。

「そう言えば私、ここへ来る時ちょっと外壁壊しちゃったんだけど大丈夫だった? 一応穴は塞いどいたけど。」

 眼鏡をかけた人、ヒカルさんがそう言う。

「警戒態勢解除。」

 ゴートさんの素早い対応に僕は目を見張った。

「ところで、この艦にいる2人のパイロットは誰なんですか? 職場仲間として会っておきたいんですけど。」

「ああ、ヒカルさん、それなら前に居ますよ。」

 ユリカが、言った。

「「「へ?」」」

 イズミさん、リョーコさん、ヒカルさんが間抜けな顔をする。

 そうだろうね、自分じゃとても言えないよ。

「はい、自己紹介。」

 ユリカに促され、僕は重い1t程の口を開く。

「パイロット兼副長のアオイ・ジュンです…」

 み、皆さん。そ、そんなに口をカポーンと開けなくても…

「んで、もう一人。」

「おうおう! 俺の名前はぐご。」

 ゴートさんが、ガイに見事なヘッドロックをかける。

「喋れないそうだ… 代理として私が言おう。彼は、パイロットのヤマダ・ジロウだ。ちなみに私は、ゴート・ホーリだ。」

「「「はぁ。」」」

 気の抜け抜けの返事。まぁ、仕方ないか。こんなんだし… しかし、見事に息が合っているなぁ。

「あと、もう1人いるんですけど…」

「ほぇ? さっきの報告書では、2人って。」

 僕が、パイロットになっちゃったから人数が合わなくなったんだな。

 ちぃん

 エレベーターが、目的の階に着く音がした。

「む、着いたようだ。」

 こんな所で、ガイさんにヘッドロックをかけた体勢だとその台詞は、銀行強盗を思わせますよ、ゴートさん。

 しゅぅぅぅぅぅ

 ドアが開いていく。

 皆さんが、ゾロゾロと出て行く。僕は一番最後にエレベーターを出た。

 ふと、エレベーター脇の壁におっかかっている人影が目に止まった。

 その人を僕は知っていた。気になったので声をかけてみる。

「あれ? 楽花さん、なんでこんな所に居るんです? 厨房に居なくていいんですか?」

 僕はそういう質問してみた。返事は…

「ん、監督。」

 何の? 本心からそう思った。

「あと、5・4・3・2・1。」

 何のカウントダウンだ? と、思ったその時。

「どぉりぁぁぁぁぁぁ!!」

「あんな臭いもの食べたいの?」

 ドガガガガガガガァン

 熱血でモップがけをしながらドアをブチ破っての登場であった犬河照一、だがイズミさんの前に轟沈。そして、思いっきり壁にぶち当っていた。ホント苦労性だね。

 だが、素早く立ち上がると…

「お、思わぬ邪魔が入ったが、とにかく! 時間どおりにモップがけを終わらせたぞ! どうだ、楽花ぁぁぁぁぁ!」

 血を額から流しながら言われると、妙に本物っぽいな。

「0,   2秒遅刻。」

 楽花さん… よ、容赦ない。

「0,1秒でも遅れたら地の果てまで飛んで行く、って言ったのは、あんただったよね… 照一。」

 と、言って楽花さんが、力を溜めはじめる。犬河さんが、冷や汗を垂れ流しているのが見えた。

「ま、まってくれ。あれは、目標であって…」

 犬河さんは、必死で言い訳する。

「問答… 無用!」

 視認出来ないほどの速度の拳が犬河さんの顔面に飛来する。……撃破!

「ナゴヘバブリアァ。」

 3度目の星となった。

 

「いや、ホント見ていて面白い。」

「まったく、飽きそうにありませんね。」

「飽きないコンビ、あきないコンビ、空きないコンビ、と言う訳で男性、女性両者とも間に入るのは止しましょう。…クックック。」

「どういう意味だそりゃぁ。」

「解んなくてよさそう。」

 

「それで、彼がパイロット(兼雑用係)の犬河照一さんです。」

「はぁ、どうも…」

 艦長に促され、俺はお決まりの台詞を吐く。

「ええと、アマノ・ヒカルです。いろいろツッコミ入れたいですが、とりあえずよろしくお願いします。」

 呆れられているな、確実に俺は…

「はい、次の人〜」

 とにかく! この嫌な空気から一刻もはやく脱出しなくてはいかん! 俺は、先に進むことしか頭に無い。

「あ〜、スバル・リョーコだ。」

「あ〜どうも。」

 よし、思ったより早く終わったぞ。

 恥などは、もとから知らないからな俺は、早く終わらせたいだけなんだよ!

 ポロ〜ン

 な、なんだこの音は!? ウクレレ?

「く、く、く、マキ・イズミ。」

「…………(思考混乱)。」

 と、とにかく終わったか? 終わったんだな! よし!

「え〜、終わりましたんで、俺は掃除の続きを…」

「ああ、しなくていいですよ、出撃ですから。」

 そう言った艦長に対して「ああ、そうですか…」と、言おうとしてしまった俺、馬鹿。

「ええ! 敵襲ですか!?」

「だったら、警報鳴ってるっつーの。」

 見事にツッコミを入れられる俺。

 初対面の人に、呆れられる性質なのかな俺。自覚は、一応しているけど…

「はいはい、とにかく着替える。流石に雑用服じゃ不味いでしょ。」

 背後からの声、そしてむんずと、襟を楽花につかまれる。(い、いつの間に背後にまわった!)

「おわ、楽花! 襟をひっぱるな! 襟を! さ、酸素がぁ…」

 

 んで、格納庫へ…

 

「ええ、それでつまり俺は待機要員と…」

 緑色のエステバリスのアサルトピットのシートに座り、ゴートさんの説明を聞きながら、俺は正面のスイッチ類を軽くいじくりまわしていた。しかし、何で俺だけこんな分厚い対Gスーツを着せられているんだ? 動きにくい。

『ああ、そういう訳だ、6機全部で探索する必要もあるまい。それに「ナデシコ」は、今ジェネレーターが故障中で、ディストーションフィールドを張れないんだ。中にまだ蜥蜴がいるかも知れんしな、護衛は必要だろう。』

 ゴートさんの声を聞きながら、俺は

(要するに、俺がまだ宇宙戦に慣れてないから残っていろ、ってことか? まぁ、楽でいいけど。シミュレーションで一回しかやってないからな。

「ところで、ウリバタケさん。通信ウインドウくらい付けて下さいよ。」

 俺は、そう言った。

『やかましい。派手にフレームを、ぶっ壊してきやがったのはどこのどいつだ。そのお陰でどれだけ俺達整備班が、徹夜したことか… んなもん付けてる暇があると思うのか。』

 通信機の向こうのウリバタケさんが、怒っているであろうことは容易に想像出来た。

「ここの、こいつです。」

『認めるな、追求できん。』

 だから、言ったんだけどなぁ。

『ちなみに、ちょっとエステの関節動かしてみろ。』

 ウリバタケさんに言われた通りに俺は電源を入れモードを試験用反応速度特定モードにして、腕を軽く動かしてみる。モニターに出た表示を見て俺は驚いた。

「おお! 反応速度が速くなっている。」

 前は、0,0001秒だったのが、0、00003秒を指していた。

『だろ。』

「チューンナップでもしてくれたんですか?」

 俺は、歓喜の笑みで質問する。

『まさか! この俺様がそんな手のかかることする筈無いでは無いか!?』

「じゃぁ、なんでなんです?」

『ふふふ、流石にオート機能を、全部取っ払っただけはあるな!』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 え〜、まず冗談じゃないよな。

 それと、ふざけるな。

 どっちがいいか…

 よし、決めた。

「俺に死ねってんですか。」

 真面目に… そう言いたい。言ってるけど…

『それは、お前次第だ。』

うわ、すっげぇ無責任な。

『はい、はい、そこで漫才している犬河とかいう奴。』

「え、俺ですか?」

 赤いエステバリスからの通信だ、確かスバル・リョーコって人だっけ? 通信用ウインドウがついていないから発信源が表示されているウインドウの文字を読んで分かった。

『自分の名前を忘れるな!』

 しかたないだろ、パニクったんだから。

『ええい、もういい! 戻ってきたら思いっきり、しごいてやるからな! 首を洗って待っていろ。』

 艦内清掃で、手いっぱいだから無理。ところで本当は何が言いたかったんだ? 通信切るの速いよ。

『エステバリス04、スバル・リョーコ… 行くぞ。』

 そういって赤いエステバリスの0Gフレームが、カタパルトで射出されていく。

 ああ暇だ。

『はいはい、留守番も大事な仕事なんだから面倒臭がらない。』

 メガネをかけた人のオレンジ色のエステバリス、確かアマノ・ヒカルと言ったか? からの通信に対しての俺の返事は…

「はぁ。」

 スッゴイやる気がこもっていなかった。

『エステバリス05、アマノ・ヒカル… 行きまーす。』

 そんな感じで、オレンジ色のエステバリスが、宇宙へ身をおどらせて行く。

『くっくっく、漫才もいいけどダジャレもね。』

 水色のエステバリス、え〜、マキ・イズミと言う人からの通信は、やはり意味が良く解らないな。

 でも、返事くらいはしとくべきだろうな。

「そうさせてもらいます。」

 うわ、自分で言ってて返事の意味解らん。

『エステバリス06、マキ・イズミ… 行くわ。』

 水色のエステバリスが視界から消えていく。

『じゃぁ、留守番頼んだぞ、犬河ぁ〜』

 青いエステバリス、ヤ、いやガイの機体からの通信だ。

「ああ、頑張ってコーイ。」

『期待して待っていろよ〜』

 期待も何も無いだろ。

『エステバリス02、ダイゴ―――――… 行くぜぇ!』

 ちょっと聞き取れなかったが何が起こった!?

 まぁ、とにかくガイのエステバリスは、発進していった。(フレームは、何故か空戦用。あ、整備員の皆さん俺の作ってて、アイツの作ってる暇がなかったのか)

『まぁ、退屈でしょうけど我慢していてくださいよ。』

 最後のピンク色のエステバリス、ジュンの機体からの通信だ。

「ああ、心配スンナ。暇の方がいい… あいつの拳を喰らうよりはな…」

『ははは。』

 そんな笑い方をするなよ…

「…じゃ、行って来い。」

『エステバリス01、アオイ・ジュン… 行きます!』

 まぁ、そんな感じで飛び出してった。

 俺は暇人になったのであった。

 

 サツキミドリ2号の中は、思ったより荒れてはいなかった。

 ああ、俺はダイゴウジ・ガイだ。

『蜥蜴が、攻めて来たっていうのにアンマリ荒れていませんね。』

 ジュンからの通信だ。

「まったくだな。」

 素直な感想を口に出す。

『静か過ぎるってのも気になるわね。』

 水色のエステのパイロット、マキ・イズミからの突如の通信に俺は驚いた。しかも、ウインドウに写った目が、真面目だ。

「も、もうちょっとゆっくり登場してくれないか。」

『ああ、それは俺も言いたい。』

 赤いエステのパイロット、スバル・リョーコと、俺の考えが一致した。

『それも驚きそうだけど…』

 オレンジ色のエステのパイロットアマノ・ヒカルが、そういうツッコミを入れた。

『まぁ、とにかくもうちょっとで、目標ポイントに到着しますから、準備しといた方がいいですね。』

 ジュンが、そう言う。

「準備って、なんの準備だよ?」

『いや、こういう場合でよくあるのは、目標に着いた時にボス敵が登場するパターンなので…』

 おい、そんなこといったら悲観的だろ。

『あー、でっかい真珠見っけ!』

 アマノ・ヒカルからの叫び声で俺は現実にようやく戻った。

 そこには、まだ塗装の施されていない0Gフレームがあった。

「ん、目標ポイントと少しずれてないか?」

 俺は、画面に表示された地図を見てそう言った。

『衝撃で吹っ飛んできたんじゃねぇのか? ま、とにかく後は整備班の奴らにまかせ…』

 スバル・リョーコの言葉が途中で途切れた。

 いきなり、その0Gフレームが、起動したからだ。

『どうやら、ジュン君、君の勘当たっていたみたいね。』

『当たって欲しくない勘だったですけどね、イズミさん。』

 そんな会話があったらしいが、俺には聞こえなかった。もっと大きい声が聞こえたからだ。

『デビルエステバリスだぁ!!!!!!』

『なんじゃそりゃぁ!』

 とまぁ、そんな叫び声が聞こえたため。

 しかし、デビルエステバリスって、なんじゃそのネーミングは?

 確かに、エステバリスの頭の上にバッタが4匹ほど乗っていて、一番上のバッタが、エステバリスの頭部コンピューターを食っているような構図はゾンビを連想させなくはない。

 でも、いくらなんでも安直過ぎやしないか! まぁいいか…

「とにかくいくぜぇ!  こうなっちまったら回収は不可能だからなぁ! ゲキガン… ナッコォ!」

 そう叫んで、俺はデビルエステバリスへ向けて俺のエステの拳をつきだす。

 俺のエステの拳は空を切る。そのまま勢いで俺のエステは、前のめりな姿勢になる。

 すぐに姿勢を立て直す、しかし、視界にはデビルエステバリスは… 居ない。

「くそ! どこへ行きやがった!!」

 俺は、周りを見回す。

WARNING! WARNING!

 警報音… 上か!

「うぉらぁ!」

 俺は、エステの拳を上に突き上げた。

 がりぃ

 デビルエステバリスの装甲を俺のエステの拳が削り取る。

 ぎゅおぉぉん

 僅かだが、デビルエステバリスの攻撃にタイムラグを生じさせた。

 俺は、その隙にエステのスラスターを全開。デビルエステバリスのワイヤード・フィストを辛うじてだが回避できた。

「生きてる… 生きてるよな…」

 俺は、自分の息が上がっている事に気づいた。

『うわぁ、よく回避できたねぇ、すごいすごい。』

「おい、ヒカルっての… まじで凄そうにいってくれ…」

 俺は、自分の声が暗くなっている事を自覚しながら言った。

『表情くれぇぞ! どうした、コエーのかよ、度胸ねぇなぁ。』

「ああ、どうやらそうみたいだな」

 俺は、スバルの悪態に対して否定はしなかった。

 全身から冷や汗が噴き出しているのが解る。

 1R(ラウンド)もやってねぇってのにこれか…

『敵は待っちゃくれませんよ。早く戦闘態勢を取って下さい。』

「そうだな… ジュン。」

 俺は、軽く言い返した。

 今更になって恐怖が出てきやがった。くそ、足が震えやがる。しっかりしろ! ダイゴウジ・ガイ! お前は、この宇宙で一番熱い男だろ。

 自分を自分で激励してもすぐに冷めてしまう。

「うお。」

 デビルエステバリスのミサイルが、俺のエステに迫って来る映像がカメラアイから入ってきた。

 俺は、エステを傾がせてそれを避ける。

 そうか… 叫ばずには居られないよなぁ、この恐怖の中じゃぁ…

 だから、「ゲキガンガー」も、この恐怖を紛らわせる為に武器の名前、叫んでいるのかもしれねぇなぁ。

 なぁんだ。ヒーローって、結構臆病なんだな。

 そう思うと自然と全身の震えが止まった。自己完結してるが、まぁいいだろう。

「ヒーローは、臆病者か… 俺も… 臆病者か…」

 俺の心の中から恐怖が消えた。いや、別なもっと大きなものが俺の心を支配し始めた。

 俺は、臆病だから… ヒーローに憧れた。

 何故だろうな。臆病者が憧れるものじゃないだろ。

 何のために、ヒーローになろうとしたんだ。

 何故だろうな。理由なんて考えてなかった。だだ、憧れていただけだ。

 ヒーローって、なんだ?

 それが、一番わからない。

「なんで、だろうな…」

 俺は、自問を続ける。

 一瞬とも永遠とも取れる時間のなかで…

 辺りの景色が嫌にゆっくりだった。まだ、デビルエステバリスが、モニターから消えては居なかった。

 理由が… 無い。

 俺には、あのデビルエステバリスと戦う理由が無い。

 やらなきゃ死ぬことは解っている。

 でも、俺は、何がしたかったんだ。

 何をしたくてこの「ナデシコ」に乗ったんだ?

 理由、理由、理由、理由、理由、そんなもの無かった。

 俺はただ、憧れていただけだ。

 理由は、ない。

 何をしろと、俺に何をしろと言うんだ。理由も無い男が…

「俺は… 俺は… 俺は… 俺は…」

 見つかる訳が無い。無いのだから。だが… 見つかった。

「俺は! 俺が、ヒーローに憧れる理由を探しに「ナデシコ」に乗ったんだよ!」

 時間が、元の速度に戻る。

 もう完全に吹っ切れたぜぇぇぇぇ!

「このぉ! 蜥蜴野郎がぁ!」

 俺は、デビルエステバリスを腕部マニュピレーターを伸ばして肩を掴んで捕まえると、凄まじい速さで、エステバリスの足を突き出させた。

 がこわぁん

 バキ、バキャ、グォン

 壁をぶち抜く音、そして、その先に広がったは…

「て、あれ? あの蜥蜴野郎、外に出ちまったぞ?」

『馬鹿ですか!? しかも「ナデシコ」の方に行っちゃってますよ! あっちには、宇宙戦のシュミュレーションを一回しかやっていない犬河さんしかいませんよ!』

 ジュンからの通信で、俺はしでかした事のでかさに気づいた。

『『『『ヤマダ(君)のアホぉぉぉぉぉ!!!』』』』

「す、すまん皆ぁ。」

 それから、俺の青いエステバリスは、ピンク、赤、オレンジ、水色のエステバリスに罵声と共に袋叩きにされたのであった。

 

「お〜い、犬河ぁ! さっさとアサルトピットに乗りこめぇ!」

「え?」

 俺は、暇つぶしに格納庫の隅で、フクベさんと一緒にお茶を飲んでいたのだが、それは、ウリバタケさんの呼び声で中断された。

「どうかしたのか? 0Gフレームが瓦礫に挟まっていて撤去作業に人手でもいるのか?」

 フクベさんがそう言う。しかし、気になってたんだがこの人こんな所に来てて良いのか?

「いや、事態はすっげぇ深刻だ。」

 真面目な顔でウリバタケさんが言う。

「0Gフレームが、蜥蜴に乗っ取られたらしい。それをこっちへ逃がしちまったそうだ。」

「いや、ほんと深刻ですね。」

 俺は、そう言ってそこら辺に投げていたヘルメットを取って立ち上がる。

「んじゃ、お茶は、また今度で…」

 俺は、フクベさんに向かってそう言った。

「ああ、そうなるな。美味かったか?」

「ええ、とっても。」

 俺は、正直に言った。

「そうか、じゃ今度目一杯飲ませてやるぞ。」

「ええ! ホントですか!?」

 マジで嬉しかった。

「ついでに酒もな。」

「俺、そんなに強く無いんですけど…」

「って、お前ら何やってんだ!」

 長すぎたのか、ウリバタケさんがツッコミを入れた。

「とっとと行け、犬河! 敵さんは待っちゃくれんぞ。あと、あまり機体は壊さんように…」

 その時、隣の扉が開いた。

「は〜い、茶菓子お持ちしました〜」

 こんなタイミングで来るなよ… 楽花。

「「おお、美味そうだ。」」

 フクベさんとウリバタケさんが、本来の目的を忘れて楽花の持ってきた茶菓子を食べる。

「あれ? 照一は食べんの?」

「ああ、そいつはこれから出撃だ。ぼりぼり。

 いや、そんな一直線に…

「じゃ、帰ってきたらの御褒美で…」

「心配はしてくれないのかよ!」

「もう、心配は底を尽きた。」

 ああ、そうかい。まぁいいか。

「だって、あれ食らっても死なないんだから。」

「そう言う問題か?」

「5秒で復活するんだから必要ないじゃん… 心配。」

 遊ばれているのか、俺。

「じゃ、行って来るぞぉ。」

「は〜い、行ってらっしゃ〜い。あ、美味しいですか?

 そんな感じで俺はエステバリスに向かって駆け出した。

 

『犬河機、カタパルト接続。』

『射出準備OK。』

『付近の乗組員は、直ちに退避して下さい。』

『射出まで… 5・4・3・2…』

 そこまで、来て俺は、お決まりの台詞を言う。

「エステバリス03、犬河照一… 出ます!」

 がしゃ

軽い機械音が聞こえ、強烈なGが俺を襲う。そして俺の機体は、漆黒の宇宙へと飛び出した。

「とわ! よ! は!」

 バランスをいきなり崩した。レバーを操作して、どうにか機体を水平に戻す。

『おいおい、姿勢制御で四苦八苦しているんじゃねぇよ。クチャクチャ。

 ウリバタケさんからのお決まりの通信が入る。

「そ、そんなこといっても… シュミュレーションでやった時だって、姿勢制御はオートだったんですよ! それをいきなり取っ払ったっていわれちゃぁ…」

『なんとかなる、男だろ。』

「そういう問題じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『ほら、敵が来た。』

「のへ?」

 遠くに見えた小さな光点が、一気に大きくなる。

 そして、それは目の前まで来た。

 ガグワシャァァン

「ぐあぁぁぁ。」

 衝撃で、アサルトピット内が揺さぶられる。

 被害状況を示す、エステバリスの全体像が写っているモニター内の右足の色が緑から黄色へと変わった。

「は、早!」

 その光点は、ある程度の距離まで行くとUの字の逆を描いてこちらへとまた向かってきた。

 ぎゃりぃぃぃぃぃぃ

「うわぁ!」

 今度は、被害状況モニターの左肩の部分の色が緑から赤になった。そして、DANGERの文字が点灯する。

「は、はやすぎ…」

『馬鹿野郎! 反応速度だけならその機体はどの機体よりも速いんだぞ! それを生かしてどうにか切り抜けてみろ! と言っても、ディストーションフィールドを生かした高速移動戦術はお前にゃ使えんか… ナノマシンは、内服用の奴だから他の奴より出力弱いからな。』

 ウリバタケさんのアドバイスになってないアドバイスを聞くと俺はこう言い返した。

「ちょっとエステ壊しますがいいですか?」

『ん、ちょっとだけならな。』

 じゃぁ行ける。

 そして、光点は三度俺に接近する。

「三度目の正直… 二度あることは三度有る… どっちが来るかなぁ!」

 ガツイギャァン

 衝突の瞬間、俺はその光点に左腕のマニュピレーターを引っ掛けた。

 そして、俺の機体は光点に引き摺られるような体制になる。

「ひゅう、エステバリス0Gフレームの脳味噌は美味いかぁ、機食蜥蜴?」

 俺は、レバー操作で右腕のマニュピレーターを蜥蜴に乗っ取られた0Gフレームに叩きつける。

 がぁん

「挨拶代わりの一発… 顔面入ったか… それよりこっちが邪魔なんだよぉ!」

 俺は、敵のスラスターに向けてマニュピレーターを叩きつける。

 ガギャン、ゴギャァン、ゴワシャァン。

 三度ほどそれを繰り返す。

 マニュピレーターの指をしっかりグーにしていないから、負荷が凄いこと凄いこと…

 アット言う間に被害状況モニターの右手の指の部分の色が黄色になり赤になり…

「ん? 右指のマニュピレーターの反応がねぇ。」

 ふと、そこへカメラを向けると、エステバリスの右手の指の殆どが吹き飛んでいた。

 だが、相手のスラスターも、もう使い物にならないだろう。

『てめぇ〜! そんな無茶苦茶な格闘戦しやがってぇ!』

 ウリバタケさんからの怒声が聞こえた。

「ちょっとだけ壊しただけですよ…」

『“ちょっと”じゃねぇ!』

 まぁいいじゃないか…

 ぐぉん

 機械音… 俺は、モニターに視線をもどす。

「うわ!」

 巨大な0Gフレームの拳が見る間に迫ってくる。

ギャィゴァバァン

 そして、モニターは真っ暗になった…

「あ、あの… カメラアイやられちまったみたいなんですけど…」

『ぬわにぃ!』

 怒るよなぁそりゃぁ。

ぎりぃ ぎりぎりぃ

 摩擦音、装甲突き破られるか…

 俺は、ヘルメットの密閉を確認すると、徐々にアサルトピット内の空気を抜いていった。無論通信も聞こえない… そして…

「でぇぇい! 糞、このフタ、邪魔だぁ!」

 俺は、エステバリスの非常用ハッチ強制排除レバーを引いた。

バキィン

 仕込まれた火薬が爆発し、ハッチが何処かへ飛んで行く。

 完全に俺の周りが真空状態になる。漆黒の宇宙が、そこに広がっているはずだったが…

 目と鼻が着くほど近くに、0Gフレームに“寄生”していたバッタが居た。

 俺は、レバーを操作して、エステバリスの右腕をそのバッタに叩きつける。

 装甲がひしゃげて、バッタは、何処かへ飛んでいった。

 べき、べきべきぃ

 嫌な音…

「う…」

 正面をみると、寄生された0Gフレームの右腕が、俺のエステバリスの左腕を掴んでいた。嫌な音がしているのは無論、俺のエステバリスの左腕の方だ。

 ベキャァ

 俺のエステバリスの左腕は、見事に握り潰された。コードが絡まって火花をちらす。

 かまわず俺は左腕を引く操作を行う。

 ぶち、ぶちぶちぃ

 コード類が、引き千切れる。

「うぉぉぉぉぉ!」

 俺は、その左腕を0Gフレームの天辺に乗っているバッタに叩き付けた。

 がきぃん。

 だが、狙い通りにはならない…

「ん?」

 ふと横のモニターをみる。「危険、左腕部電源切断」と出ていた。

「この野郎! 余計な事すんなぁ!!!!」

 俺は、それを直ちに取り消す操作をした。

 電流が俺のエステバリスの左腕に流れる。それは、敵の乗っ取ったエステバリスのコンピューターと言う導体を通って、0Gフレームの中へ…

 爆発。過負荷のかかったジェネレーターが内部で爆発したのだろう。

「うぉぉぉぉぉぉ。」

 俺は、エステバリスの残った右腕に電力を集中させる。

「この一撃でぇ! 冥府にでも堕ちろぉ!」

 一気に腕部関節操作のレバーを倒して、エステバリスの右腕を引く。

狼牙ぁ………、撃・砕・拳!」

 俺のエステバリスの右手(もっとも原型を留めていないが…)を突き出す、その手は、敵の0Gフレームの顔面にめり込んだ。

覇ぁぁぁぁぁ!

 そして、敵の0Gフレームは爆砕した。

 

 俺が、「ナデシコ」に戻ったら整備員さん達の生還を喜ぶ、歓喜の拳を受けた事は言うまでもない…

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第三話下

第四話へ続く

 

あとがき〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「いや、どうも始めまして。にせ流○兄弟の弟であります。」

「して、何のようだ? 弟者? 俺はCROSS〜の方で忙しいのだが… (あと、みず○ろのひ○りんコンプに)」

「五月蝿い黙れ! 貴様など俺がSS書いている時に、いきなりデモン○インの歌を流そうとしているだろうがぁ! 意味不明。」

「俺がそんなCDに金を払うと思ったか! 俺が金を払って買うCDは、NEIL YOUNGとその他大勢だけだ!」

「Nit○o+を神と崇めている男がか?」

「それはそれ、これはこれ。」

「どれはどれ、なにはなにだよ…」

「確かにN○tro+は俺の神だ。しかし、俺は自腹を切ってまでそちらの趣味に走るつもりはない。」

「ソフトの方は、迷わず買ってたけど…」

「時は止まる! ザ・ワールド!! ………九秒だ。」

 

〜不思議時空中〜

 

「そして時は、動き始める………」

「ぷろぱ!」

「見たか!! これぞ北○百烈拳だ!!」

「新の方にしてくれ…」

「ならば第一部風に………」

「ペガサス○星拳か?」

「違うな… 震えるぜハート!! 燃え尽きるほどヒート!! 山吹色の波紋○走!!」

「な、なにぃ!! 俺の身体が溶けるぅぅぅぅぅぅ!!」

「吸血鬼の最後など、そんなものさ。」

「まぁ、コメディは、これくらいにしてくれ… 兄者。」

「まあ、お前のSSの感想だが… 俺よりも元気“だけ”はあるな。」

「まあ、兄者のは、シリアス路線まっしぐらだから。」

「文章力の欠如が、俺もあまり人のことを言えないが、目立つ。もっと精進が必要だな。お互いに。」

「では、頑張りましょうか… 頑張れたら…」

「悲観的だな… 本当のことを言うと、お前のSSを(これは)読んでないから、俺が批評するのもおかしいんだがな。文章力については、前述の通りに俺も酷いし。」

「当たり前だ!(開き直り)」

「俺の文章力のことまで肯定しやがったな… (真・兄者状態で瞬○殺のコマンド入力)」

「エーン、エーン。まじで怖いよぉ、12コンボは辛いよぉ。」

「知らん。まあ、俺と比べて、原作に忠実なのは良いことだ。主人公違うけど。」

「だって、アキトじゃ、フルマニュアルにゃ乗れんだろ…」

「俺のなんて、原作完全無視だもんよ。まあ、それが俺の作風なんだが…」

「質問! なんでヤマダが、あんなに格好良いんですか!?」</