機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

 格納庫入口 犬河照一視点。

 

 一歩進むごとに、体がビシビシと痛む。

 一瞬後、気の遠くなるほどの痛みが全身を襲う。

 だが、五感はハッキリとしている。

 ズルゥ

「おわぁ!」

 床に水が張っていて、そこに足を乗せたために、滑ってバランスを崩した。

「全く… ちゃんと雑巾を絞らずに床を拭いたな。」

 俺がベッドの中に居た時、どんな掃除をしていたんだ。

 ちゃんと、後で正しい雑巾掛けを教え込まないと…

「まぁ、大方滑って遊んで居たんだろうけど…」

 それが、無性に想像できる女性3人組がこの艦に居る。

 戦争などとは、全く関係ないことを考えながら、俺は走った。

 

 プシュゥ

 俺は、格納庫の入口まで辿り着き、扉を開けた。

 ガランとしていた。

「あ、あれぇ? 誰もいない?」

「俺を除いて、全員過労でぶっ倒れちまったよ。」

 声が聞こえた。聞こえた方向へ視線を泳がせる。

 ウリバタケ・セイヤさんが、そこにいた。

「オイ、犬河… お前、気付いているか?」

「何をです?」

 大体予想は出来たが、俺にとっては、別に問い詰めるほどでもない事だった。

「お前の機体に入れられた反則武器だよ…」

「とっくに、気付いてましたよ。」

 俺は、あっさりと答える。

LIS、限界を無視して能力を無限大にあげるシステムでしょ、ただし、それは“負荷”も無限大になるために今まで帰って来た者は居ない。いや、ここに出現したか…」

「いつ、知った?」

 真面目な顔で、問い返される。

「ん? 入院中に、楽花から聞きましたよ?」

「あちゃぁ、あの娘聞いてたのかぁ。」

 別に、大体そんなこったろうと思っていたために、大して驚きはしなかったけど…

「しかし、普通“恋人”に対しては、危険な事は言わないだろ。特に女の場合は…」

「“恋人”ですかぁ? そう見えます? まぁ、今は否定して置きますよ。」

「まず、そっちをツッコむか?」

「危険な事を言わないわけ無いですよ、それは、youの場合だけじゃないんですか?」

 凄まじい質問らしく、ウームとウリバタケさんは、考え込む。

「いや、女房は、相当きけ… あ、なるほど。すまんかった。」

 理解したらしく、手をポンと叩く。

「で、お前は使うのか?」

 俺は、決めていた答えを言う。

「そんなもの毎回使ったら、こっちの身が持ちませんよ。取り外せないんですか?」

「いろいろあって無理だ。」

 そうですか。と、俺は心の中で言うと、アサルトピットまでの階段を上り始めた。

 

 ブリッジ ホシノ・ルリ視点

 

「敵艦… いや、敵機発砲!」

「撃って来た!」

 必死の回避運動も空しく、敵の攻撃は、「ナデシコ」に当たり、多少の被害を出しました。

「まぁったく! にわか修理のエンジン一基じゃぁ、こんなのも避けられないわよ! 整備班しっかり修理してたの!」

 ハルカさん… だから、皆さん過労で倒れたんじゃ?

 プシュウ

 廊下へ続く扉が開きます。

「お待たせ! 筋肉痛で車椅子に乗っての登場だけど気にしないで!」

 艦長… 後ろで、押している人誰です? すっごい気になります。

「敵機、第2射来ます!」

「でぇい! 下ぁ!」

「ほわぁ! 垂直運動は止めてください!」

 一瞬宙に浮いてしまい、艦長が抗議しますが、その甲斐あって回避は成功。

「どうでも良いですけど、さっさとエステ隊を発進させた方が良くないですか?」

 至極当たり前の事を私が、提案します。

「あ、ど忘れしてた。エステ隊! 発進して下さい!」

 

『どうせ俺は、今回も居残りだろ。』

『モチだな。』

『モチだよ。』

『モチだね。』

『モチだ。』

『正月だぁ。』

 ゴスッ

 

 エステバリス01 アサルトピット内 アオイ・ジュン視点

 

「なんで、こんなに大変なのかな、ふわぁぁ。」

 相当疲労が、溜まっている。正直気を抜くと一気に眠ってしまいそうなほどだ。

『これ終わったら寝るぞ、俺。』

『私も。』

『俺も。』

『私も。』

「僕も。」

 全員が、リョーコさんの意見に同意。

「じゃぁ、ちゃちゃっと片付けちゃ… !!」

『えないね。』

 僕の途切れた言葉を、ヒカルさんが続けた。

『で、デケェ。』

 まさに、それしか言い様が無かった。

 外見は、エステバリスに似ていた。

 金属の生々しい光沢を持つ装甲。「ナデシコ」に匹敵する程の巨体。緑色という、不気味に光るカメラアイ。手に握られているのは、およそ刃渡り150m程の巨大な剣だ、両刃で、反りが無く西洋風のイメージをかもし出す。塗装はされていない。いや、透明な錆び防止の塗装がされているのかも知れないが、色はついていない。ざっと、見るだけでこれだけだ。

 眠気など皆一瞬で覚めた。

 そう、明らかに今まで戦った中で“コイツ”は最強である。

『あれは!』

 「ナデシコ」から通信が入った。

X-2196! 相転移エンジン搭載型の試作機! 何故あんなものが…』

 どうやら、僕達に教えるのではなく、端末を叩いたら偶然通信機のスイッチが入ってしまったらしい。しゃべりかたがおかしいから。

 しかし、X-2196… どう言う事だ。連合軍の試作機が何故「ナデシコ」を撃ってくる。バリアをぶっ壊した仕返しか? それにしては、持ち出すものが大きすぎる。

 Xと言うのは、開発ナンバーだ。

「蜥蜴に乗っ取られたか…」

 それが、一番合点の行く答えだが、そんな機体を蜥蜴に乗っ取られるような所に置いておくほど、連合軍も馬鹿では無い筈だ。

 と、その時。

 X−2196の右手が上がる。

 どうやら、もう考える暇を与えてはくれないらしい。

 マニピュレーターに握られた巨剣が、僕達のエステバリスに向かって振り下ろされる。

 食らったら無論お陀仏だな。

『白刃取りは止めておいたほうが良いな。掴むのは楽だが、止めるのは無理だ。』

「確かに…」

 ガイの通信を合図に、全員が散開して逃げる。

『チクショー! 図体がデカけりゃぁ良いってもんじゃねぇんだぞ!』

 確かにそうだけど、6mやそこらのエステバリス対200mはあるX-2196じゃ、出力がまるで違う。まともにやり合って勝てる機体じゃない。

『戦車と戦闘機と人型の3段変形の巨大ロボでさえ120mなのに〜』

「それでも、相当マズイと思いますよ。」

『何を言っている! ゲキガンガー以外ならどんな奴でも俺の敵ではなぁぁぁい!』

『じゃぁ、一人でやれ。』

『それは、出来ん。』

 ビー

 警報!

 ROCK ON だ。

 X-2196の背部についているバックパック部から、大量の白い筋が伸びる。

『あの野郎、何発ミサイル持ってんだよ!』

 リョーコさんのそう言いたくなる気持ちは解るが、そんなこといっても状況が好転する訳ではない。

 接近するミサイルの嵐、それらを右へ左へと避ける。ミサイル群をどうにかやり過ごした。

「何!」

 かわしたミサイルが、100mほどの所でUターンした。

『ミサイルまで良いモンつかってんなあ。』

『どこまで行っても付いて来るなんて、ストーカーみたいだよ〜』

 作戦変更、ミサイルを避けるのではなく叩き落す。

 ガガガガガガガガガガガガガ

 ラピットライフルをフルオートで撃つ。狙いなんてつける暇も理由も無い。撃てば当たる。

「ミサイル一発と弾薬一発。当然弾薬一発の方が安上がりだけど… 敵は、ミサイルを弾薬の様に使用してきた。マズイよね。」

『まだまだミサイルは残っているだろうな。』

 その時、X-2196の右手のマニピュレーターが僕のエステへ向けてパーの形を作った。

「なんだ?」

 その答えは、1秒後に明かされた。

「うおぉ!」

 X-2196の手の平から、黒く伸びる閃光。

 反射的に回避運動―――遅い。

 がぎゃぁ、ギャリュギャリュゥ、ベキィ

 振動が鈍く持続する。

『おい! ジュン、大丈夫か!』

「あ、ああ。」

 グラビティブラストだ。エステバリスのアサルトピットを掠めて左腕を持っていかれた。

 カメラアイも被害を受けたらしく、モニター画面に薄く砂嵐が混じっている。

『なろぉ! 食らえ。』

 逃げて居ては負けると踏んだらしく、突撃していく赤いエステバリスがモニターに写った。

 接近し、右手を喉元に突き立てようと引いた肘を伸ばす。が…

『なにぃ!』

 スラスターの推力も合わせた一撃は弾かれた。ディストーションフィールドで…

 X-2196は、巨剣を横薙ぎにして赤いエステバリスを払う。

 赤いエステバリスが、身を沈めた。

 かわしきれず、頭部の中心から上が吹き飛ぶ。

 人間ならば確実に死んでいる。

 スラスターを全開にして、赤いエステバリスは、距離をとる。

『畜生! モニター真っ暗だ!』

 悔しげな声を発するリョーコさん。

 !!

 X-2196が、肩を後ろへと持っていく。危険な香りがプンプンする。

「なんかヤバイ、皆逃げろ!」

 X-2196の腕がはずれ、ガイの青いエステバリスへ向かって飛来する。

『ぬぉぉぉ!』

 避ける青いエステバリス。

『なんだぁ! ゲキガンパンチか!』

 ワイヤードフィストだろ。

『ミサイルにグラビティブラスト、ディストーションフィールドにワイヤードフィスト、おまけに巨剣。まだまだ有りそう。』

『背中から巨大な光る羽が出たり、足の裏が大砲になっていたり、額から止めの必殺技が出たりか?』

『困るわぁ。』

『十分困ってる。』

「胸から熱線が照射されるかもしれませんよ。」

 緊張感の無い会話。だが、皆ウインドウの向こうで冷や汗を垂れ流している。

『どうにかディストーションフィールドだけでも潰したいモン… だ!』

 戻ってきたワイヤードフィストをガイのエステバリスは避ける。

「相転移エンジンで宇宙じゃあ、エネルギー切れは期待できないし… ね!」

 再び伸びる黒い閃光。悪いけど2度も当たってやるわけにはいかないよ。

 その時。

 X-2196の動きが止まった。

『なんだ?』

 誰もが、その疑問詞を脳裏に浮かべる。

 X-2196は、スラスターを噴かせて… 接近してきた。

 巨剣で真っ二つにするつもりか!

 いや、そんな必要は無い。

 強力なディストーションフィールドにその速度で接触しただけでも僕達のエステバリスは半壊する。

「マジい。」

 ホントにマズイ。

 そう考えている合間にもどんどんと機影は大きくなってくる。

 その時、X-2196の装甲の一部が削り取られた。

 

 エステバリス03 アサルトピット内 犬河照一視点。

 

「貫いた!」

 俺は、久々登場のライジングブレードを握らせて、敵より500km離れた場所に居た。

『おー、おー、見事! ちゃんと当たってるじゃねぇか。』

 だが、貫通力に特化させたこの銃でもディストーションフィールドを貫くだけで精一杯だ。どんな出力系だよ。

『その内レールガンにしてやるぞ。楽しみにしていろ。』

「今にして欲しいですね。」

 この状況下では、その位は欲しい。

『せいぜいこれが精一杯だ。』

 そう言って、ウリバタケさんがウインドウ上で指をさす。

 俺は、それを見て苦笑した。

 

 エステバリス02 ヤマダ・ジ… もといダイゴウジ・ガイ視点

 

「怯んだ! 犬河! 怪我かばってやってくれて、サンキューよぉ!」

 俺は、ディストーションフィールドに開いた穴目がけて、ゲキガンフレアで突撃する。

「どぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 脆くなったディストーションフィールドをゲキガンフレアは、ぶち抜いた。

「うっしゃぁぁぁぁ!」

 俺は、そのまま敵の中心目がけて機体を突撃させる。

 ガズギィ

 X-2196の腹部装甲を貫いた。だが、それだけである。

「なんつー硬さだよ! ここからグラビティブラスト撃っても一撃じゃぁきまんねぇぞ!」

 俺は、イミディエットナイフ(俺名称ゲキガンソード)をエステバリスの手に握らせると、それをX-2196の装甲に開いた穴目がけて突き立てた。

 バキィン

 折れる音。

「何重になってるんだ? コイツの装甲は…」

 ダメだ。密着しても倒しきれねぇ。

『退けよ。』

 !!

 アサルトピットに響く声。

 敵に傍受されないための密着回線からだ。

 つまり、コイツには人が乗っていると言う事になる。

『お前は、“ラスト”じゃない。“ラスト” …アイツは何処だ!』

「“ラスト”? そんな奴しらねぇぞ。」

 俺は、通信機に向かってそう言う。

『がぁぁぁぁぁ!』

「は!」

 後部警戒警報音。気付いた時には遅い。

 グギャチャァ

 X-2196の右手マニピュレーターが、俺のエステバリスの腰を潰していた。

 バツ、バツバツバツ

「うぉぉぉ!」

 アサルトピット内をショートの嵐が襲う。

「なろ! なろ! なろ!」

 俺は、残ったエステバリスの腕をX-2196に叩きつける。

 だが、小さな傷を残すばかりだ。

 逆にこっちのマニピュレーターが、壊れてきた。

『“ラスト”ここに居るはずだ… どこだぁ! 貴様! 教えろぉ!』

 解らない… “ラスト”ってだれだ?

『死んだ後は… 何も無いぞ… 天国も地獄も。ただの暗闇しかない… そこに行きたいらしいなお前は!』

 死にたくないさ、でも本当に知らないんだ。“ラスト”なんて聞いた事が無い。

 その時、通信機から犬河の声が響いた。

『ここだぜ!』

 目の前を白銀の閃光が、一閃した。

 

 エステバリス03 犬河照一視点

 

「ウリバタケさん。これは、幾らなんでも…」

 俺は、「ナデシコ」の物資搬入用のエレベーターから出てきたデカイ剣を見てそう言う。

 刃渡りは7m、エステバリスよりも少し長い位だ。横幅は1m程で、厚さが30cmほどある。片刃で日本刀の様な感じだが、反りが無いため、あくまでそんな“感じ”であるといっただけだ。

『ヤマダの野郎に作れっていわれて作ったもんだ。あいつは取り込中だから、無断で使っちまえ。』

「何やらせてんだ? あいつ。」

『で、名前は何にする?』

「はぁ?」

『名前だよ名前。気分がでるだろ。「狼牙、撃砕拳」みてぇに名前付けちまえ。』

「聞いてたんですか…」

『リリーちゃんが暴走した時な…』

「あとで食らわせて上げますよ。」

 ウリバタケさんが、ウインドウの向こうで薄ら寒いような表情を浮かべる。

「まぁ、楽花の拳よりは良いですよ。」

『確かに… だが、痛いことには変わりは無い。』

 俺は、そう言うと、そのデカイ剣をエステバリスの右手のマニピュレーターに握らせる。

「ほっ、とや。」

 イミディエットナイフとは、バランスが違うので、持ち上げる時少々苦労する。

「たとえば、龍牙とか?」

『なんか、どっかのサイボーグが使ってそうな名前だな? まぁ、剣じゃないけど…』

「スレイヤーなんかどうです?」

『どっかの白い(人?)が使ってそうだな。縁起わりぃ、ダンピールに殺されちまうぞ。』

「バスターソード? 穴開いてないけどなんかそんな感じだし…」

『お前は人形だ。』

「ドラゴン殺しみたいな?」

『貴様に死が訪れる!』

「アヌビス神?」

『操られるだろ。』

「リベリオン?」

『どっかに出稼ぎ行った男の剣じゃねぇか!』

「10G(ゴールド)で買った剣?」

『千万はかかったぞ!』

 どんどんテンションが上がっている気がする。

「トゥ・ハンド・ブレード?」

『ソードを変えただけだろ。』

「なんでも良いですよ… もう…」

『“ディザイア” つーのはどうだ?』

desire?(欲望?)なんでです?」

『=見せ場を取るな、欲ばり過ぎ。』

 グサッ

 い、いたい、いたかったぞ〜

「ええ、それでいいですよ。いいですとも。」

『じゃぁ、頑張れ〜』

 

『く―――に――て――ん――』

 無線機が、電波を拾った。雑音だらけでよく聞き取れないが、どうやらガイの機体から発信されている様だ。

『お――、ラ――じ―――。―スト …ア―――ど――だ!』

 !!

 なんだ! ガイとは違う声が… いや、いまコイツなんて言った。

『ラス――そ―――つ――――ぞ。』

 ラス… その後の言葉は何だ!

 響く絶叫と爆音。

「おい! ガイ! 応答しろ!」

 俺は、無線を発信にして、叫ぶ。

 受信に戻すと、聞こえて来たのは、何かを問いかけるような声だった。

 

『“ラスト”ここにいるはずだ。』

 

 何故か、その部分はハッキリと聞こえた。

 “ラスト”その名前を知っているのは、この「ナデシコ」には誰も居ない。なるほど、あのX-2196のパイロット… ってわけか…

 複雑な感情が俺の中を駆け巡る。

 俺は、聞こえてきた声に向かって言った。

「ああ、いるぜ… ここにな…」

 微かな歓喜をはらんだ声となって、その言葉は外へと吐き出された。

 俺は、エステバリスのスラスターを全開にする。

 多少強いGが襲ってくるが耐えられない程ではない。

 今では、UNKNOWNからENEMYに文字が変わったX-2196へ向かってエステバリスを加速させた。

 

 機影が近づく。

 俺は、背中に背負わせたライジングブレードを右手に持たせる。。

 そして、ライジングブレードを構え引き金を引いた。

 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァン

 半場、闇雲にしかも片方の手だけでこんなものを撃ったために、マニピュレーターが悲鳴を上げる。

 肝心の弾丸の方は、期待通りに敵のディストーションフィールドに穴を開けてくれた。

 俺は、弾薬はまだ尽きていないが、使えなくなるであろうライジングブレードを捨てると、ディサイアの柄を両方のマニピュレーターでしっかりと掴ませる。

「おぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!」

 敵のディストーションフィールドにディサイアを接触させる。

 バリィ

 穴だらけのディストーションフィールドは、難なく突き破れた。

「ここだぜ!」

 そして、俺は、ディサイアを敵の胸部に突き立てる。

 ガギャギュギィ

『な、なにぃ!』

「お前誰だ? 恨みを買うような事をしたのは“サード”と“フォース”だけなんだが?」

 俺は、X-2196のパイロットに向かってそう言う。

『ラ… ス… ト… キサマカァ!』

「おうおう、声が“ナイン”っぽいな、そうだろ? いやぁ、10年ぶり。」

 俺は、ディサイアを引き抜くと横薙ぎにX-2196の胸部を払った。

 ギャギャギャァ

 大した抵抗も無く刃が通る。

「へぇ、ウリバタケさん達結構いい仕事してんだなぁ。」

 俺は、今更ながら整備員さん達の働きを尊敬した。

『うぉぉぉぉ! キサマダケェ! キサマダケェ!』

「俺は、誘ったぜ。お前らが逃げなかっただけだろ。」

 俺は、そう言いながら、迫ってくるX-2196の左手の小指のマニピュレーターをディサイアで切断する。

『ウルサイ! ダマレ!』

 どっちが…

『キサマダケ、ナゼシナズニイキテイル! オレタチハゼンインシンデシマッタノニィ! 』

「そりゃ、ご苦労様。しかし、そうなるとお前は幽霊か?」

『キサマモ、アイツラカラハ、イカシタママツレテコイトイワレテイルガ、ジセイシンナドトオニトオリスギタァ! コロシテヤルゥゥウ。ジゴクヘオトシテヤルゥ。』

「悪いが、地獄は見飽きた。多分もう、悪魔も俺を勧誘しないと思うぜ。天国は知らないがな…」

 そう言って、俺は背部に回りこみX-2196のバックパックを切断する。

 その衝撃で、内部のミサイルが爆発。

 連鎖して、次々と爆発する。

『ガァ!』

 内部のジェネレーターも破壊されたのだろう。センサーでも、消失と表示されている。

「ディストーションフィールドは、消滅したぞ。」

 俺は、そう言う。

 反対側まで刃が届かないから切断するのに時間がかかりそうだな。

 とか、思いながら。

「大体てめぇら、死んだだと! てめぇらだけ“ぬくぬくと”死んでいやがって! そんな幸福者が、地獄へ送ってくやるなんて不幸者的な台詞をはくな! その時点でもう決定しているが… ガイとかをご都合主義に痛めつけてくれた礼も兼ねて… お前は、俺がブッコロス! 拒否権はねぇ! ただ地獄か天国かが待っているだけだ! どっちかは知らんが、一度行ったから道は覚えてるだろ! 案内してやんなくても一人でいけるよなぁ! ナイン! 入口まで手を引いてってやるから、さっさと逝きやがれぇ! もう黄泉帰ってくるなタコ野郎!」

『ぐおぉぉ!』

 X-2196の手の平のマニピュレーターが迫る。

 避ける!

「そこか! コックピットは!」

 熱源探知センサーで、コックピットの位置を知ることが出来た。

 俺は、頭部へと狙いを定めて、ディサイアを振り下ろす。

『ガァァァ!』

「なにぃぃ!」

 X-2196の首に当たるであろう部分から閃光が漏れる。

 接近戦用の全方位ブラスターか!

 このタイミングで避けられる訳ねぇだろうが!

 俺のエステバリスは、高速で、ブラスターの雨嵐の洗礼を受ける。

 ドォン

 左脚部の装甲が剥がれる。

 ギャリィン

 スラスターに着弾、爆発。

 ゴォオン ガン

 振動で額をモニターに打ち付ける。流血。

 ギガァギャァ

 機体の頭部が、吹き飛んだらしい。モニターが真っ暗になる。

 ガァン

 右腕のマニピュレーターが爆散。

 ドガガァァン

 腰の部分に直撃。

 無事な箇所は殆ど無い。

エステバリスの下半身は、完全に破壊された。上半身も機械部分が剥きだしになっている。

オイルがそこら中から漏れて、宇宙空間の絶対零度によって固まりキラキラと光る。

 左腕も動くほどには生きているが、無事ではない。

 モニターは、基より、センサー系統も殆ど死んでいる。

 気付かない間に、重力波ビームの範囲外へと飛び出してしまっていたらしい。活動時間計が、残り2秒を刻んでいた。

 スラスターは無く、高速で動くことは出来ない。

 ディサイアを振るにも、奴との距離が広すぎる。

『アバヨォ! ラストォォォォォォォォ!』

 ナインの乗るX-2196が、巨剣を振り下ろす。

「さよならは… おまえだぁ!!」

 ドガァァァン

『な、ナニィ!』

 俺は、ラックを開けずにミサイルポット内のミサイルを発射。

 機体内部で、ミサイルは爆発。

 その爆発を推進力にして、突撃。

「あ…」

 X-2196の頭部まで… 後5m… 届く!

 俺は、レバーを倒した。

 それと、同時にエステバリスが、ディサイアを振り下ろす。

「ああああああああぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁ!!!」

 頭部へとディサイアの刀身が沈み込む。

 その刀身は、コックピットへと到達した。

 そして、搭乗者を失ったX-2196は、無論動かなくなる…

「俺が… いけないんだろ…」

 俺は、アサルトピットの中でそう言った。

「あは、あはははははは! やっちまったよ! また殺しちまったよ! はははははは!」

 視界がぼやけて来た。

 失血のせいかと思ったが、それだけではないらしい。

 俺の被ったヘルメットの中が…

 血、以外の物で濡れていた。

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第八話下

END

第九話(過去編)へ続く…

 

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・・一応自覚はあったんですねぇ(しみじみ)。

何気に失礼なことを言ってるような気もしますがそれはさておき(おくな)。

 

>LIS

なんつーか・・・・『魔法』の域?(爆)