機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

(過去編)

〜〜血に飢えし狂犬〜〜

 

「どうした?」

 突如背後から声を掛けられる。

 聞きなれた声だ。

「なぁ、僕は… どうして、こんな所へ来たんだろうな?」

 僕は、そう言う。

「“ラスト”は、外を知っているからそんな事が言えるんだろ。」

「いや… 知らないんだよ。“ファス”」

「どういう事だよ? お前は、外で生まれたんだろ?」

「でも、殆ど外なんて見れやしなかった。ずっと“こじいん”って所に居た。」

 ファスと呼んだ男の子は、へぇ〜、と言う顔を浮かべた。

「ここと似たような所だよ。密閉されていて、むさ苦しい…」

「でもさ… お前、外でもここみたいに“友達”いたんだろ?」

 僕は、思い出す。

 また会おうと言って分かれた少女の事を…

 そんな劇的過ぎる再会がある等とは、この頃から到底有り得ないと思っていた…

 

「ナデシコ」に乗る13年前…

 

「この馬鹿照一!」

「な、なんだよ。楽花!」

「何で、換気扇の中に居たのよ!」

「隠れやすいだろ…」

 僕は、そう言ってかくれんぼで、換気扇の中に隠れたのを言い訳する。

「むぅ〜。」

 楽花はむくれる。

「あっ。」

「え?」

 僕は、楽花が指を指した方へ視線を飛ばす。

「隙あり! 泥爆弾!」

「わわわぁ!」

 見事に泥の艦砲射撃を背中に受ける。

「やったなコノ… ウベッ。」

 顔面に着弾。泥が口に入る。

「きゃははは、変な顔。」

「この、TVで良く女の子が言う台詞を言ったな! 男女!」

「そう言うこと言ってると、将来彼女が出来ないぞ。」

「いや、必要ないし。」

「そんなこと言って良いのかな照一。何時かそんなこと言えなくなるぞ。」

「オトナぶるなよ。楽花。」

 微笑ましい会話が続く。

 そして、気が付いた時には、すっかり日が高くなっていた。

「はーい、みんなー、お昼の時間ですよ〜 だから、ちゃんとお家に入ってー。」

 広場で遊んでいた子供たちは、次々とコンクリートの四角い壁の中へ消えていった。

 その中には、無論僕も入っている。

 配給される味気ない食事。

 パンと牛乳にサラダと言うイメージ通りの食卓だ。

 無論、皆食べるのに、5歳児の口でもそう長い時間は、かからない。

「今日は、お注射の日ですよ〜 みんな遊びに行く前に、ちゃんと整列してくださーい。」

 みんなが、え〜、と言う顔を作る。

 何時の時代でも子供の注射のイメージは変わらない。

「はいはい、並んで並んで… 痛くないからね〜」

 そう言って、にこやかな声を発する“先生”。

 だが、その顔は絶対に嘘だと皆思っている。

 そして、そのまま、列になって隣の部屋へと移動する。

 別にこの建物は、そう広くは無い。

 2階など無く、20畳程の広間と、雑魚寝用の部屋があるだけだ。

 生活品などは、配給だし、“先生”も寝るときまでは、僕達と居てはくれない。

「うわぁぁぁぁぁん!」

 どうやら、注射が始まったらしい。

 良くある義務に含まれている予防接種だとは思うが、何やら変な物を体の中に入れられるのは、多少抵抗がある。

「何? 未だに泣く奴が、ここに居るの?」

「それは、まぁ、人それぞれだろ…」

 なにやら、不貞腐れている楽花に俺は、そう言った。

「……… ひょっとしてお前怖いの… ぐばぁ!」

「シャァラァ〜ップ。」

 …この頃からコイツの鉄拳は、凄まじかった。

 しかし、音もデカかったために、一同に注目を集める結果となった。

「え〜、ではまた次回。」

「じ、次回もあるのか…」

 これを毎回食らっていては、身が持たん。

「はいはい、楽花ちゃん、照一くんと漫才してないで… 順番が来ましたよ。」

「う…」

 前に居た楽花が、扉の向こうへ消えていく… 数秒後…

「ギャァァス!!」

 待て待て待て待て待て待て待て待て待て… 何があった。

 建物を揺さぶる程の衝撃であった… (サ○エさん的表現で…)

WHAT? WHAT? WHAT?

 後ろの外国人らしい目が青い男がそう言う。

YES, NO, GOOD MORNING?

「… アナタアタマダイジョブデスカ?」

「最初から、日本語喋れよ!」

「い゛、い゛だ が っ゛だ よ゛ぉ゛」

 扉の向こうから半泣き顔になって楽花が出てきた。

「はい、犬河照一君。」

 自分の名前を呼ばれた。

「あ、はい! しかし、楽花そんなに痛いのか?」

「ふふふ、地獄を見ろ! 照一ィィィィィィ!」

「お前見た?」

「顔も知らないお母さんが目の前に居た。」

「ヤバそげだな… お前が…」

「!!!!!」

 顔が赤くなった楽花から逃げるように俺は、扉の向こうへと消える。

 中でスーとするガーゼを腕に当てられる。

「はい、痛くないからね…」

 そう言って、医者みたいな男の人が、ギラギラした注射針を俺の腕に打つ。

「くっ!」

「はい、泣かないね、偉いねぇ。」

「は、はい、どうも有難うございました。」

 しかし、体の中に薬を入れたのではなく、血を採取した様に見えたのは気のせいだろうか? 何時もと違うお医者さんだから、そう見えたのだろうか?

 その後は、変わった事もなく日常が過ぎる。

 そして、その夜。

 楽花の布団むし攻撃によって僕は一睡も出来なかったのであった。

 

 翌朝

 

「はい、皆さん。残念な事ですが、今日をもって犬河照一君は、ここを離れる事になります。」

 いきなりだった。思いっきり驚いた。

「彼は、これから新しい家族と新しい生活を始めます。皆も何時かそうなりますので良い子にしていて早くそうなるようにして下さい。」

 先生の心のこもっていない言葉が続く。

「おい、照一。お前どっか行くのかよ。」

「また会えるかな?」

「いや、それよりも楽花をどうする気だ。お前が居てくれないと、まともにアイツの拳を受けられる奴が居なくて男子全員ビクビクしながら毎日を過ごさないといけないじゃないか。」

「基本的にそれだな。」

 結構仲が良かったヤツラからひでぇ事を言われる。

「いつか会える日も来るさ… たぶん。」

 俺は、確定語を使わずに言った。

「じゃぁ、照一くん。午後までに準備しておいてね。」

 準備と言ってもすることもないなけど。

「じゃぁ、皆さん朝の会はコレで終わり、今日で最後になる犬河君のために目一杯遊んであげてくださいね。」

 そう言って、先生は去っていく。

 気付ける筈も無かった。

 その心の内を…

 大量の札束の入った紙袋の事など…

 

 そして、午後

 

 大した愛着も無いコンクリートの塊と僕は、サヨナラをすることになった。

 名残惜しく等は無い。

 両親の事だって何も知らない。俺にとって、知っているのは目の前の風景だけ…

 そして… 物心付いた時から傍に居た少女の事だけ。

「サヨナラ〜」

「じゃぁなー!」

 等の様々な別れの言葉が、少年少女達の口から吐き出される。

「照一…」

「ん?」

楽花だった。

 バキィ

 いきなり殴られる。

「また会おう…」

「ああ、また…」

 俺は、そう言うと、迎えと言われた黒い車の中に乗り込んだ。

 中に入ると、優しげな中年の男性が僕を迎えてくれた。

「君が、犬河照一君か…」

「あ、はい。」

 車が動き出す。

「さよならはしなくていいのかね?」

 僕は、ハッとして車の窓を開ける。

 そして、窓から身を乗り出して手を振った。

 振り返す者、多分僕とは別な理由で泣き出す者、いろんな理由で泣いている者など様々である。僕の「こじいん」での生活は、これで終わりを告げたのであった。

 

 車内の窓縁に肘をつき、僕は外を見ている。

 風景が流れて行く…

 あそこ以外の風景など知らない僕にとって全てが新鮮である筈である。

 でも、何故だろう。

 何か変だ。

 直感と言う物がこれ程までに正しいことを僕は後日嫌と言うほどに思い知らされることになる。

「え〜、照一君だったかな?」

「ええ。」

 僕は、適当に答える。

 犬河照一。

 犬河は、両親の姓で、照一は、先生のつけてくれた名前らしい。

「今から君の名前は“ラスト”だ。今までの名前は忘れたまえ…」

「え…」

 要するに名前を忘れろと言う事か?

 しろといわれて出来る筈が無い。

「あの… それは、どうしてです?」

 この時この優しげな中年の男性が本当の事を言ったとしたらこう言っただろう。

―――研究体に、番号を振るのは当たり前だ。

 と…

「簡単だ。君を連れて行くところは外国人ばかりでな… 日本人が一人では寂しかろう… だから、少しでも寂しくないように、ちょっと名前を変えるだけだ。」

 嘘ではなかった。だが、俺の質問は名前を変える理由を指していた。それでいえば、これは、嘘であった。

「えっと、という事は、オジサンは外国の人?」

「いや、私は日本出身だよ。“ラスト”。」

 どうやら、名前を忘れろと強制的に押し通しているらしい。

「そして、コレが君の“名札”だ。」

 そういって、金属のプレートを俺の手の平の上に置く。

 LAST No23 

 と、彫られていた。

 23… 名簿番号の様なものだろうか?

「チェーンがついてるだろう、首に掛けて置きたまえ…」

 そう言われたために、俺は頭の上からチェーンの輪を通して首に掛ける。

 金属の冷たい感触が首筋に伝わった。

「ふむ、中々良く似合っているぞ。」

「そうですか?」

 単色の服に銀とは、良く合うものなのかもしれないが、自分では似合っていないと思っていた。

「飛行機に乗る予定だぞぉ、ヒコーキに、楽しみだろ?」

 これ以上喋るといくら5歳児でも怪しむと思ったらしく(既に怪しみ始めていたが…)中年の男は、突如話題を変えた。

「ひこうき?」

 初めて聞く名前だ。

 飛行機雲なども見たことが無かった。

 空を飛ぶ機械と言う、余りにも幼稚すぎる説明で僕は納得した。

 

 それから、約1時間後… 僕は空港で“ヒコーキ”に乗って何処かへと行った。

 そう… 何処かへと…

 

 風景が流れていく…

 道などあって無いようなものだ。

 一面中雪だらけなのだから…

 ガタン

 車体が揺れる。

 路面が凍っているために凸凹なためだろう。

「もう、少しだ“ラスト”」

 慣れていない名前を呼ばれる。

「所であなたは何ていう名前なんですか?」

「ん、ああ、私の事か? 亜田木南影(アタギ・ナカゲ)と言う名前だ。」

「アキャギ・ドカ… いて!」

 舌を噛んだ。

「まぁ、オジサンでいい。ちなみに年齢は67だ。」

「ろ… ろくじゅう?」

 どう見てもそれより若く見える。

「ほれ、着いたぞ。」

 言われて窓の外を見る。

 無骨な鉄筋コンクリートの四角い建物があった。

 居た所と大してかわらねぇ。

 それが、所見の感想である。

「まぁ、同い年のいろいろな子供が居るからな。仲良くしてくれ。」

 そういわれて、車から降りて中へと誘われる。

 ブルゥ

 寒かった。

 まぁ、暖房が効いている所からいきなり雪降りの日で外へでたらそうなるのは当たり前だが…

 僕は、走って入口まで行く。

 そして、扉をくぐって中へと入った。

「…………………」

 効果音でカラァァ と言う音が出そうなほどに、殺風景な室内である。

 コンクリ固めの壁は、塗装もされておらず地肌が露出している。

 窓のガラスは、所々ガムテープで補強されているし、電灯は嫌に暗い。

「この部屋で皆を待たせている。紹介しよう、“ラスト”」

 そう言って、オジサンは手前の扉を開き中へと入っていく。

 僕はそれに続いた。

 

 扉の中は結構暖かかった。

 暖房が効いているためだろう。

 そして、同年代ほどの少年少女達が、体育座りでこちらを向いて座っている。

「新しい“お友達”を紹介しよう。“ラスト”だ。」

 オジサンは、そう言った後に僕の背中を押す。

 何か言えと言っているのだろう。

「はぁ、どうも… い… じゃ無くて… ラストです。」

 一瞬、忘れろと言われた名前を出してしまいそうになった。

「なに〜、また男の子ぉ〜 女の子もう来ないの〜」

「こら、“サード”! “ラスト”君に失礼だよ。でも、珍しいわね。黒い目なんて…」

「おめぇの仲間だな、“ファス”」

「仲良くなれそうだ。いろんな意味で。」

「…………」

「“イレブン”どうしたの?」

「本能が新入りをイジレと命令しているんだよ、“テン”。」

「“トゥエルブ”いたずら書きは止めろ。」

「ふふふ、だめだよ。この“フォース”と“ファイブ”の相合傘を書くのだけは止められない。さぁ、俺を止めてみろ! “ナイン”」

「僕だけ取り残されてる気がするなぁ。」

「なんだよ、“エイト”お前も新入り“ラスト”イジリ計画に参加しろ!」

 な、なにやら良く分からないがとにかく歓迎されているらしい。

 僕は、結構人見知りする性質だが、なんかすぐに溶け込めそうな気がする。

 しかし、僕を入れてもここには、13人しかいない。

 ならば“名札”に書かれた23とはなんなのだろうか?

 2桁目を間違えたのか?

 事実そうであった事を後日知った。

「こういう時に一番はしゃぐのは“ゼロ”の筈だったのに… あいつ何処にいっちゃったのかなぁ…」

「こらこら、“セカンド”しんみりした事を言うんじゃねぇよ。今日は新入りを祝おうぜ!」

「おう、まずは“クラッカー”攻撃だ!」

「え、うわ! なにぃ!」

 パンパンパンパンパンパン

 鮮やかなテープが僕に向けて発射される。

「あ、熱い! 熱いよ! 体が熱いよぉ!」

 実際火薬を使っているために軽い火傷を負うほどにクラッカーのテープは、熱い。

「おりゃぁ、まずは馬のりぃ!」

「ぐえ!」

 楽花の布団むし攻撃よりも強いぞ。

「次に、跳び箱の牢獄に閉じ込める〜」

「な、なにぃ!」

 僕は、12人の同年代の少年少女達に囲まれて4段の跳び箱の中に入れられる。

「そして、それにまず水をかける。」

 じわぁ、と冷たい液体が隙間から流れてくる。

「さ、さむ!」

 正直寒い。

「そんで普通に飛ぶ。」

 頭上を次々と人が飛んでいく。

「止めにワザと失敗する。」

「のぐぇぇぇぇ!」

 ドンガラガッシャァン

 上から跳び箱と人体重量の2重攻撃を受ける。いや、死ぬて…

 俺は、ワザとピクリともしない。

「ん? お〜い、新入りぃ〜。」

「マズイよ… 死んじゃったんじゃない…」

「おい! だいじょぶか! “ラスト”。」

「こ〜の〜う〜ら〜み〜は〜ら〜さ〜で〜お〜く〜べ〜き〜か〜」

「え、ちょっと… きゃぁぁぁ!」

「おお、正攻法スカートめくり! “ラスト”お主やるな!」

「ふふふ、秘技不意打ちだ! ある者との決戦用にあみ出した技なのだが… それを出したのだからしっかりとその威力の味を噛み締めろ!」

「アホかお前…」

「アホ… それは褒め言葉として受け取って置くよ。」

「きぃさぁまぁらぁ…」

「む! このシュチュエーションはマズイ! “サード”の鉄拳の前触れだ!」

「なんで、ここまできて女の子の拳で吹き飛ばなきゃいけないんだ?」

「その口調… 慣れてるな貴様。」

「まぁ、な…」

「しねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」

 バキャグゲグギョォ

「効果音は良いが威力は60点だな…」

「どんなの食らってきたんだ… “ラスト” ホントにお前とはいい友達になれそうな気がするよ…」

「君の名前は?」

「“ファス” “ファースト”の略でね… 皆伸ばし棒が言いにくいって言うから…」

 一緒に馬鹿をした目と髪の色が同じ少年は、そう言った。

 

「ふ… “ラスト”ここへ来る最後の被験者か…」

 

 はしゃぎ過ぎてそんな言葉など聞こえているはずもなかった。

 

 そして、ここから、俺の「何処か」での生活が始まる。

 

「へいへーい “ラスト”起床時間だぞ!」

「ああ、もう! 分かってるって“トゥエルブ”。」

 髪の毛の色が茶色で、目の色が青い少年が俺を起しにかかる。

 ここへ来てから1年間が経過していた。どうといって変わる事は無い。少年期などそんなものだ。

 その間に一人称が僕から俺へと変わったのが唯一の変化だろうか?

 まぁ、身長も大分伸びているのだが…

「“サード”の奴が、「朝ごはんを抜くと太るから直ぐ食べる」って言って暴れてるんだ。起きないと止めさせる役は“ラスト”お前だ。」

「はい、直ちに起床します!」

 俺は、そう言って飛び起きる。

 アイツを止めるのはこの世で2番目に難しい。

 え、一番? もう名前も忘れかけてしまっている少女に決まっている。

「おい、起床したら薬を飲め。」

「……………」

 がしゃぁん

「ぬな!」

 俺は、ベッドの横に置かれていた薬と水の入ったコップを置いてあったお盆を倒した。

「飲めと… 逆に体壊すぞ。」

「もういい“ラスト”お前に常識を期待したのが間違いだった。」

 心底呆れた顔で“トゥエルブ”は言った。

 そして、俺達は朝の朝食場へと移動する。

 何度見ても殺風景な廊下を通り、大広間へと入る。

 言われたとおり、金髪の少女が暴れていた。

 それを必死に抑えている。もう一人の桃色の髪の少女。

 そしてそれを笑いながら見ている目の色が青で髪の毛の色が白い少女。

 ちょっとオドオドしながら、目の前の事に対処し様としている眼鏡をかけた異国の雰囲気を漂わせた少女。

 上から“サード” “フォース” “セカンド” “テン”

 以上がこの場に居る女性である。

 ここにいる13人のうち、女の子が4人と言うのは、流石に少ないような気もする。

 残りの“ファス” “ファイブ” “シックス” “セブン” “エイト” “ナイン” “イレブン” “トゥエルブ” そして、俺“ラスト”は、全員男だ。

 昔は、“ゼロ”と言う奴も居たらしいが、俺が知ることでもない。

「さぁ、止めてみるのだ。“ラスト”君。」

年長者ぶって話す“セブン”に、ジェラシーを感じつつも俺は、最後に来た者の罰として、“サード”を止めにかかる。

「俺の分のセロリやるから大人しくしてくれ!」

「そりゃぁ、残飯処理だろ“ラスト”。 許せん…」

「ふ、“サード”お前の攻撃が俺に通用しないのはお前が身に染みて分かっている筈だ。」

「分かっているさ… ああ、わかっているとも… くらえ! 必殺フォーク投げ!」

「ぬぉぉぉぉぉぉ!」

 投げつけられたフォークを俺は、スウェーで避ける。(マト○ックスぽく)

「きょ、凶器攻撃か! 素手ではかなわんと分かり本性を現したな!」

「ぬがぁぁぁぁ!」

「女の子が言う台詞じゃないよそれは…」

「“ラ・ス・ト”く・ん。」

 サードを今まで押さえていた“フォース”の冷たい視線を感じた。

「止められなかったら、あんたを呪う。」

 ぞくぅ

 こう言う時の呪いほど後に響く怖い物は無い。

「一瞬で決めてやる! キィィィックゥゥゥゥ。」

 俺は、右足の回し蹴りで“サード”のコメカミを狙う。

 バチィ

「なんど受けたと思っているぅ! ラストォォォ!」

 見事に蹴りは、弾き飛ばされた。

 だが、それは、囮だ。

「もらったぁ!」

 弾き飛ばされた反動で、左手がサードのがら空きになった腹部の正面に来た。

 俺は、左手を突き出す。

 メキャリィ

 いい音。

 女の子の拳と違って吹き飛ばし度・殺戮度は低いが、男の拳は滅殺度が高い。

「が… あ…」

 “サード”は、腹部に渾身の一撃をもらい悶絶。

「どうだ! 止めたぜ!」

「ひで〜」

「婦女子を殴るかふつ〜」

「やり過ぎだっての。」

「見てて面白いからいいんだが…」

 一瞬で俺は小さくなった。

「さてと、皆そろったから俺は最初に食ってるぞ。」

「あ〜、“ファス”ずるいぞ。」

「あれ? “シックス”は?」

「トイレだそうだ。」

「じゃぁ、待ってなくていいか。」

「どうでもいいが俺は?」

「“ラスト”、だれももう君を相手にしていないって。」

「そんなぁ…」

 

 馬鹿をやり続けた日常が瞬く間に過ぎていく。

 さらに、2年が過ぎていた…

 そして、俺はここにいる。

 

「そう言えば“ファス”さっき外を知らない。って言ったよな。 なんでだ?」

「… 物心付く前からここに居たのさ俺は…」

 この時の“ファス”の目に深い悲しみが込められているのに気付かないのは、本当の馬鹿だ。

「はぁ、夕焼けなら映えるこのシーンてか?」

「なんだそりゃ?」

 今は昼だし、ここは、なんにもない廊下だからな。イメージがちょっと変わる。

「ん、ありゃぁ“エイト”か?」

 俺は、見慣れた人影が、2人のオトナに連れられて、壁の向こうへ消えていくのを見た。

「オイ、あんな所に道なんてあったか?」

 俺は、記憶に無いために“ファス”に聞く。

「お前より長くここに居るけどあんな道は知らないぞ。」

 じゃぁ、やることは一つだ。

「追。」

「跡。」

「「おっしゃ! 行くぜぇ!」

 そういって、俺と“ファス”の2人は謎の通路へと突入した。

 

 些細な好奇心が、この後の人生を大きく変える事になる…

 

「なんか、こう言うのってさ。」

「ああ、なんか前人未踏の地を踏みしめるって言うか。」

「そう、そんな感じだ。」

 俺は、通路を踏みしめながらそんな会話に応答する。

「キレイだよな…」

 俺たちの部屋に比べると段違いに清潔だ。

「どうなってるんだ? なんか嫌な予感が…」

 しばらく行くと、頑丈そうな扉に行き当たった。

「どう見たって… 完全密閉扉だぞ…」

 “ファス”が、その扉を見てそう言う。

 ぞくっ

 悪寒が、俺の背筋を駆け巡る。

 マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ。開けちゃダメだ。開けちゃダメだ。開けちゃダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ。

 その言葉が、俺の心の中で響く。

 だが、その言葉よりも大きな好奇心が、俺の手を動かす。

 ハンドルに手を掛けて時計回りに回す。

 プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

 空気が抜ける音。

「う…」

「あ…」

 腐臭。腐臭腐臭腐臭腐臭腐臭腐臭腐臭

 吐き気が俺の中から生まれる。

「あ… うあ…」

 なんだ。なんなんだこの臭いは!

 だめだ。これ以上は開けられないこれ以上は…

「失敗だな…」

「はい、“エイト”には、この23型ナノマシンに対する適性が無かったと…」

「なぁに、まだ被験体は12人も居る。そう焦る事でもあるまい…」

「しかし、“ゼロ”の時みたいに暴走するのだけは勘弁ですね。」

「それを防ぐために3年も、そう3年も研究してきたのではないか。」

「そうですね。」

「しかし、失敗しても“エイト”は、まだ生きているのか… ま、5年足らずの命だとは思うが…」

「流石に適性サンプルに選ばれただけはあります。」

「うむ、完全とは言わないがまでも30%は制御が出来ている。」

 俺と“ファス”は、その会話を夢見心地で聞いていた…

 そして、現実へと引き戻す声。

「貴様ら! 何をしている!」

 見つかった!

「逃げるぞ!」

 俺は、そう言って“ファス”の襟を掴んで立ち上がる。

「あは… あはは…」

「逃げるんだよ!」

 俺は、大声を上げる。

 だが、この世の音などすでに“ファス”の耳には、届いてなど居ない。

「くそぉ!」

 俺は、もと来た道を駆け出す。

「“ラスト”だ! 奴が我々の会話を…」

「なんだと!」

 後ろから声が聞こえたが、そんなものに構っている暇など無い。

 なんだよなんだよなんだよなんだよなんだよ

 つまり、3年前の“注射”は、予防接種じゃなくて適性をみるためだったのか!

 俺は、それに選ばれちまったのか!

 不条理すぎるぜ!

「畜生!」

 俺は、恐らくあっているであろう自論に悪態をつく。

「麻酔銃だ! 撃て撃てぇ! 逃がすなぁ!」

 カァンキュゥンチュゥンチュゥン

 俺は、隠し通路をでて玄関へと向かう。

「“ラスト”どうしたの?」

 途中で、そう言う声を掛けられる。

「逃げろ!」

「え? 何、鬼ごっこ?」

「俺も寄せてくれよ。」

「あれ? “ファス”は一緒じゃないのか?」

「いいから逃げろ! 外へ!」

 俺は、全員に怒鳴りつける。

「外? 今日は外で遊ぶのは許可されていないよ?」

「えいもう! 四の五の言わずに逃げろってんだ!」

 俺の頭で短期間で説明など出来るはずがない。

「いたぞ! あそこだ!」

「逃げろってんだ! くそぉ!」

 俺は、そう叫んで玄関を突き抜ける。

 雪が降っていた…

 俺は、走る。

 走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る。

 逃げられるかどうかなど問題ではない。

 とにかく離れろ。あそこから離れろ。

 !!!!

 車!

 雪の向こうに見えるのは、紛れも無い車だ。

 俺がここへ来る時に乗ってきたあの…

 その車は、俺を見ると停車し、窓を開けた。

「“ラスト”今日は外出は禁止…」

「ガァァァァァァァァァ!」

 俺は、そこらへんに落ちていた石を中のオジサンに叩きつける様にして投げる。

「な、なにすんだ! この糞ガ… ギャァ!」

 俺は、雪玉をオジサンの目に接触させた。

 そして、袖を引っ張って、車から引き摺り下ろす。

「3年間の利息だ。取っておいてくれよ!」

 俺は、そう言ってオジサンのナニを蹴り飛ばす。

「ウゴヘェ。」

 オジサンは2分間ほど地獄へと旅立った。

 俺は、車の中へ転げ込む。

 パパンパンパンパンパンパン

 麻酔銃の銃声。

 車の運転など無論知るはずも無い俺は、とにかく下の出っ張りを踏みつけた。

 キュォォォン

 電気エンジンが高鳴り、タイヤが地を咬み進む。

 違う、逆だ!

 俺は、“何処か”へと向かい進む車をどうにかしようと必死になる。

「ええい、ハンドルまわしゃあなんとかなるかぁ!」

 ガムシャラにハンドルを回す。

 車体は、何度か電柱にぶつかった事に腹を立てながらも反転した。

 俺は、デッパリを踏み込む。

 ギュアアアア

 車はスタートした。

 “何処か”が、見る間に小さくなっていく。

 俺は、逃げられた… そう、逃げられたのだ…

 それが、正しい判断であったかは分からないが…

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第九話

END

第十話(過去編)へと続く


あとがき

「……つまり、某SLGモドキの2作目のパクリと考えていいんだな?」
「それ以外にどういえと… 兄者。」
「そして、次の話はこれか。(原稿を見る)……パパとママの愛情が足りなかったらしいな、弟よ。」
「何気に意味不明なこと言ってんじゃねぇ。」
「お前、まさか完全鉄鋼弾(タイトル直訳)を見ていないのか… お兄ちゃんは悲しいよ。」
「てめぇだけハマってんじゃねぇか。」
「何を言っている? 我らがハートマン軍曹の悪口を言うか? どの口で? その口かぁ!」
「ふがぁ! ひゅひをふひにふっこひゃれたぁ!(指を口に突っ込まれたぁ!)」
「何気に説明クサイ台詞を吐きやがって! 貴様に思い知らせてやる! 泣いたり笑ったり出来なくさせてやる!!」
「兄者は、駅の名前しか喋れなくしてやる!」
「オンドゥルルラギッタンディスカー!」
「ウソダ…… ウソダドンドコドーン!!」
「(対訳)オンドゥル語でしか喋れなくなっちまった… コイツはマズイ…」
「(対訳) まずい! 不味過ぎだろそれ!」
「(対訳)モチツケ、弟者。こういうときは2○hだ!!」
「(対訳)それは、本物だろ…」
「(対訳)ぬをぉ!! 書き込みまでオンドゥル語に…」
「(対訳)通じないな… 一般人には… ってなに! レスがついてる!」
「(対訳)なになに… 『アンナルンゲンナデカャール!』…… 莫迦がいる。」
「(対訳)何が言いたかったんだろうな… アレ。」
「(対訳)多分、『最高にィィィィィ、「ハイ」ってやつだぁぁぁぁぁぁぁ!』だとおもわれ。」
「(対訳)イコール兄者は、ジョ○ョ莫迦と…」
「(対訳)何を言っている!! セイウチの尻に頭、突っ込んで氏ね!」
「(対訳)逝ってヨシ!」
「(対訳)逝ってきまーす!」
「(対訳)逝ってらっしゃーい。」
 こうして、兄者は、オンドゥルの星となった。でも、僕は忘れない。兄者が真の愚か者だということを…
(完)

 

 

 

代理人の感想

んー、淡々と進みますな。

それとおじさんは再登場するのですかね?

一見キャラとも思えないんですが、それにしては扱いが雑だしw