機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

ホシノ・ルリ

 エンジン不調などの理由により、予定より一ヶ月程遅れて、「ナデシコ」は、月軌道へと来ました。

 そして、半ばムリヤリと言う様な形で月基地に入港…(現場の方々に拒否は許されなかったです。)

 そして、皆さんのタラップを踏んだ後の第一声は…

【飯! 飯だ! 飯は、何処だぁ!】(艦内に居た全員)

 

 まあ、当然です。この艦、殆ど食料が無い状態で1ヶ月程を過ごしたんですから…

 そんな訳で、月中の料理店に皆さん到。実際死者が出ているかもしれません…

 実は、私も10日振りのご飯です。コックの皆さんも、今回は食べる側に回っています。

「おっと。」

「ぬをぅ!」

 いけませんね。油断は禁物です。危うく大事なお茶漬けを取られてしまう所でした。

「おうおう! あんたら威勢のいい食いっぷりだな!」

 店の人達がそう言いますが… 多分食料庫の中身は残りませんよ。私でもまだ入ります。

 そう思って、5杯目のお茶漬けを完食。大分お腹も空かないで来ましたね。

 さてと、次はラーメンと行きますか…

「オジサン! ラーメン特盛りで!」

「お穣ちゃん… 大丈夫か? そんなに沢山…」

「早くしないと皆さんが食い尽くしてしまいます! 生でも食べるかもしれません! なんせ、人を喰おうとした人が居るんですから… まあ、それは未遂で終りましたけど… まあ、とにかく! 早く作ってください!」

 本当に焦ってそう言いました。

「へい! ラーメンお待ち!」

 出来上がるのが早いですね… あんまりにも多くの注文が来るので先に作っておいたんでしょうか… まあ、とにかく空腹を満たすために頂きます。

 ………

 ズズズズズズズズズゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥ!

「オジサン! 替え玉!」

「早! 替え玉一丁! いや10丁! いや38丁! って全席じゃねぇか!」

「へーい!」

 忙しないけど素早い動きで麺をスープの中に入れる人。

「うん! 味はともかくボリュームはあります! さあもっと!」

「味を褒められたほうがうれしいんだけどなぁ…」

 若い料理人の人が感想に不満を感じつつも替え玉を私の前のドンブリに入れます。

「しかし、今日は繁盛だ! おいテンカワのアキ坊! 材料が足りねぇ! 買ってきてくれ!」

「はい! って! だめです! 行けません!」

「どうしてだ! うおっと! 餃子一丁ですね毎度あり!」

「前を大量の人が塞いでいて… とてもじゃないけど通れません!」

「とてもじゃないなら通っていけ! 目標時間30秒!」

「秒ですか!」

「秒だ!」

 とか、何とか言われながら一番先に店に入れなかった人達の飢えた顔の中を若い料理人の人が通っていきます。表戸はフルオープンですからその光景は、カウンターに座っている私にも見えました。なにやら店に入れずに居る人達の蠢く手が早く食わせろ〜と言っている様ですね… しかし、さっきの人IFSを持っていましたけどパイロットでしょうか?

「… え〜と、俺の分の勘定していいですか…」

 あれ? 犬河さん? 一番絶食期間が長かった人が早い終わりですね。

「おう! 良いだろ! ピッタリ3000円だな!」

 そう言われて、犬河さんは、夏目○石の書いてある紙を三枚渡します。

「ううう… これで今月はあと1000円…」

 グゥゥゥゥゥゥ

「苦労してるんだな… あんちゃん。」

「はい、もう色々と…」

 そう言う理由ですか… 資金的な事ですか。しかし、経費で落ちるんじゃ… ん?

「甘いです!」

「うぉぉぉ!」

 危ない、早く食べてしまわないと何時狙われるか分かりませんね。早く胃の中に流し込んでしまわないと…

「くそ! 誰だ! 僕の海老を取ったのは!」

「モグモグ… さあ誰だろな〜」

「ガイ! お前かぁ!」

「ジュン。油断したお前が悪い。」

 あちらも戦場ですね。

「な、なんで俺のチャーシューが無くなってるんだ!」(箸にナルトを摘んだ状態で)(リョーコ)

「は! 私のシナチクがぁ!」(箸にチャーシューを摘んだ状態で)(ヒカル)

「あ、ナルトが無くなってる。」(箸にシナチクを摘んだ状態で)(イズミ)

「「「誰だぁ! 取ったのは!」」」

 犯人は、あなた達の中に居ます。

「うぉぉぉぉ! 割り箸が足りないからって諦めるな! 俺たちの命! スパナとドライバーを使ってでも食うんだぁ!」

 そう言って、ホントにスパナとドライバーを箸の代わりにしてラーメンを食しているウリバタケさん。

「む! 餃子が1個無くなっている… あ! プロス…」

「モグモグ… どうしたんです? なぜ私をみるんですか? ゴートさ… は! し、しまった! 隙を窺われて海鮮ラーメンで一番楽しみにしていた貝柱を取られてしまった! 不覚!」

「もぐもぐ… 餃子とは、安い交換だろ。」

 安いでしょうが、楽しみにしていた物を取られるほど口惜しい事は無いでしょうね。

 と、まあそんなこんなで、色んな人達が人それぞれの会話をしながら、食事をしているとき、ある人物が店の中へ入ってきました。

「おいこら! 並んでんだぞ! 順番守りやがれ!」

 後ろの人達が、口々に入って来た人物に非難を浴びせます。ですけど、動くほどの体力は席に着くための最後の力として取っておくために動きません。

「いや、僕は、この中にいる人と少し会話をしたいだけなんだ。決して食事をしに来た訳じゃ無いから誤解しないように。」

 そう言って、髪が異様なほどに長い男の人は、ゴートさんとプロスさんの座っている席に向かって歩き出します。なにか上品ですね…

「あれまあ、こんな所までわざわざご苦労ですな。」

 店内は、静まりかえっています。左程大きな声で無くても聞こえました。しかし、皆箸だけは休めません。

「いやいや、これは、事のついでさ。現在建造中のナデシコ級2番艦「コスモス」の進行度の確認のね。しかし、まさか一番艦が、入港してくるとは思っても見なかったさ。とっくに火星で戦死していると思っていた。」

「シブトイ者だけを選んだからな。」

 ゴートさんが、胸焼けをしたようで水を飲みながら言います。

「飛び入りが二人ほど居るみたいだけどね。」

「その飛び入りのお陰で、こうして生きている奴も居るんだが…」

 ゴートさんが、ヤマダさんの方を見て言います。

 ヤマダさんは、思わず目を逸らしました。しかし、頬っぺたにナルトをつけている状態では、シリアスな表情が似合いません。

「全く、しかもその飛び入りがLISを使って生きていると来たもんだ。犬河照一って言う人だっけ? 会いたいんだけど何処に居るか分からないんでね。ちょっと教えてくれないか。」

「ん? 犬河なら店の正面のスーパーに入って行ったぞ。おそらく洗剤品の所にいると思われる。合いたいのなら早く行け。長話すると飯が冷めてしまう… とっ! アチ!」

 舌を火傷したらしく、必死に冷水を飲むゴートさん。

「じゃあ、そうさせてもらうよ。と、その前に…」

 なんですか? その途切れ方は。

「自己紹介位して置こうか、なんせ今度から、一つ屋根の下で一緒に仕事することになる人達だからね。」

【ブーーーーーー!!】(全員)

 皆さんが、頬袋の中身を飛び出させます。何も無い人は唾を噴出させています。

 あ、私? 慣れているから無事です。

「おいおい、そんなに驚いてくれるな。」

【無茶言うな!】(声を揃えて)

「うん、話が逸れたが、ちゃんと名前くらいは言って置こう。僕の名前はアカツキ・ナガレ。「コスモス」から来た男さ…」

 数々の罵声に見送られながら、アカツキとか言う人は去っていきました…

 

 犬河照一

 スーパーの中にて。

「おお、この洗剤。新製品か!」

「おお! 兄ちゃん! 目が良いねぇ! これは、最近地球から輸入したばかりのもんなんだ。どうだい?」

「しかし、値段が…」

 俺は、夏目○石が一人しか居ない財布の中を見て思った。

「サンプル品あります… 無かったらお試し用!」

「化粧品じゃないだけどな…」

 じゃあ、ダメだ。俺の資金力では到底買えない値段だ。

 俺は、名残惜しそうにその場を去る。

「はあ、なんでこんな資金が疲弊するんだ…」

 そりゃあ、銃の維持費だけでも結構使うんだけどさ… まあ、それは経費で落とせるけど、個人的に用意した奴が1丁あるんだし…

「犬河照一君かな? ネルガルの制服を着ている所からするとそうだろ?」

 ふと、名前を呼ぶ声がした。振り向くと、見慣れぬ… と言うより初対面の男が立っていた。

「誰ですか?」

 至極真っ当な質問をぶつける。

「僕の名前は、アカツキ・ナガレだ。新しい職場仲間だよ。」

 ズトーン!

「そんなに、リアクションを大げさにつけなくても…」

 ぶっ倒れて、半分地面に埋まっている俺を見て、溜息を付くアカツキ・ナガレと言う人物。

「決して大げさにつけた訳じゃ無いんですけどね…」

 本心からそう言う。

「まあ、とりあえずアカツキって人…」

「おいおい。いきなり呼び捨てかい?」

「伏せたほうが… いいで・す・よ!

 俺は、足を払って、無理矢理アカツキと言う人の背中を地面に付けさせる。直後。

 ドガガシャガァァァン!

 爆発。飛び散るフロントガラスに散乱する商品。ああ、勿体無い。

 俺は、サイドホルスターに入れたS&W モデル500を引き抜く。

初弾こそ入れては居ないが、常時スピードローダーを7個は持っている。合計39発だ。

「こんな派手な登場してくる知り合いは居ます?」

「僕は居ないね…」

「俺は、10人ほど心当たりがあるんですよ。そろそろ来る頃じゃないかと思ってたんですけど。巻き込んじゃったみたいですね。逃げた方が良いですよ。」

「死が怖くて戦争がやれるかって。」

 そう言って、アカツキと言う人は、腰のホルスターからブラスターを引き抜く。

「ブラスターじゃ殺せませんよ。」

「エイリアンでも来るのかい?」

 俺は、暫し思考する。

「まあ、似たような物ですね。」

「グググォォォォォォォン!」

 奇妙な轟き声が聞こえた… その姿は、もはや人間ではなく、それは伝説上の動物と言ってよかった。二本足で歩き赤い眼を昼間でも全開にして、俺を凝視している。大きさは、大体2m程… ダラリと垂れ下がった右腕は、地面につきそうなほどに長いのに、左腕は、まるで赤ん坊の手のように小さい。足は一応は規則正しく付いてはいるが、完全な対象になっていない事は肉眼で分かった。凄まじいほどの猫背で茶色の入った体毛は、足から喉の辺りまでをビッシリ多い尽くしている。

「こんなのが、後9人も… そのうち紹介してくれよ。」

入り口の自動ドアをぶち破ってきた物に、アカツキと言う人が、冷や汗を垂らしながら、そうコメントする。

「対人効果の高い拳銃を持ってくるべきでしたね。ブラスター(そんなもの)じゃ、1mm単位の穴を空けるだけです。急所に当てれば良いですけど、その急所が何処か分からないんじゃ撃つ意味はあんまりないですね。」

 俺は、そう言うと、冷静に奴を観察する。

「人間の姿は留めちゃいないし誰だ… こいつ… あ、でも名札をつけて居やがる。12… トゥエルブか…」

問答無用で、俺は、S&W モデル500の銃口をトゥエルブに向け、両腕で支えて引き金を引く。

 ガァン!

 凄まじい反動が、俺の肩を突き抜ける。

 こんなもんを以前片手で撃って、良く指がくっ付いているのが我ながら流石と思う。

 弾丸は、トゥエルブの頭部であったであろう場所を突き抜け、粉砕した。

「グオウギャァァァ!」

 トゥエルブは、叫び声を発した。顔であろう所を手で押さえたいだろうが、それ程の器用さも持ち合わせていない腕だ。せいぜい顔を上に向ける事しかしない。

 全く効いていない訳じゃ無さそうだが、死なないかこれでも。

「しぶとさは、折り紙つきか… さあてと、どうやって殺すとしましょうか…」

 どうやって殺す。その言葉が俺の中の全てを占めてゆく…

 すると、トゥエルブが、右腕を振り上げた。大きな腕だから持ち上げるのも重そうだ。

 そして、そのまま右腕を振り下ろし、床へと叩きつけた。

 グォギャァァァァァ!

「うお!」

「くっ!」

 爆風が店内を襲い、蹂躙した。数々の商品棚が倒れる。換気扇のプロペラが外れ、何処かヘ飛んでいった…

 俺は、足を踏ん張って巻き起こった爆風に耐える。

 アカツキと言う人は、堪えきれずに尻餅をついた。

「拳を振り下ろしただけで… ためしに食らってみます?」

「僕は、遠慮しておくよ。」

 床に直径8m程のクレーターがポッカリと空いているのを見れば、誰だってそう思う。

「もの凄い力だな… でも、その分再生能力は落ちてるみたいだ…」

 まだ、傷の癒えていない頭部をみて、俺はそう考える。

「だけど、手持ちじゃ殺しきれないな… 逃げますよ。」

「は?」

 呆気な表情をするアカツキさんを尻目に、俺は外へと駆け出す。

「ま、待ってくれ!」

 そう言う声が聞こえたが、構っている暇などある筈が無い。

「おい! 止まれ!」

 俺は、道路上に飛び出した。

 キィィィィィィ!

 ブレーキ音… 正面を走っていた車が、止まる。

「バカヤロー! 死にてえのか!」

「死にたく無いから… こうするんだ!」

 ガツ!

 俺は、ドライバーの頭部をS&W モデル500のグリップで殴りつけると、気を失った体を、外へ放り出し、車へと乗り込む。

「まて、待てってば… ふぅ。」

 ドアを閉めようとした時、アカツキと名乗る人が、助手席に滑り込んできた。

「安全な所に、逃げた方が良いですよ。ホントに。」

「君の隣が一番安全そうだ。」

「アレは、俺を狙っていてもですか?」

「……… そう思うことにするよ。」

 アカツキと言う人物は、何か失敗したと言う顔を浮かべた。

「しかし、あんな物がなんで月に居るんだ? ん? 物が居るってのは、ちょっとオカシイ表現かな? いや、月に居るだけなら何かに乗って来たって事だろうが… 街中に騒ぎも起こさずに出現した方法は…」

 アカツキと名乗る人は、そう言う。その時、正面のマンホールの蓋が、甲高い音を立てて、宙へ舞った。

「あんまりにもストレートかつシンプルな答えでしたね。マンホールの中を通ってきたんですよ!」

 俺は、そこから現れた異形に、車のアクセルを全開にして、車体をブチ当てる。

 ガシィ!

「にぃ!」

 ギュルギュルギュルギュルゥゥゥゥゥ!

 右腕によって、車体を押さえつけられる。待てよコラ。

「車のタイヤがあっけなく空回りとは… どんな力だよ。」

 

 その頃、「ナデシコ」の格納庫では…

 

「おおおおお! なんだなんだぁ!このエステバリスはぁ! 新型かぁ!」

俺、ウリバタケ・セイヤは、格納庫に運び込まれた紫色のエステバリスを見て、歓声を上げる。

  俺は、腹も膨れたことだしと言う事で、一足先に「ナデシコ」に帰ってみればなんとなんとぉ、待っていたのは、新型のエステバリスであった。

「顔が違う! ジェネレーターもコンパクトぉ!」

 俺は、そう叫ぶ。

「おまけにお肌もスベスベェ〜♪」

 

 一方打って変って、大変な犬河照一とアカツキ・ナガレ。

 

「オイオイ! 日本とは違って、ここの車のフレームは、アメリカ合衆国御推薦のスーパーチタニウム合金を使ってるんだぞ… それをまあ、バターみたいに…」

 アカツキとかなんとか言う人が、フレームが拉げて、使い物にならなくなり乗り捨てた車を走りながら振り返って見ると、そんな感想をもらした。

「コイツで死なないんじゃ、何が起きても不思議じゃないですよ。」

 俺は、右腕に持ったS&W モデル500を翳してそう言う。

「確かにそうだね。くそ! ブラスター(こんなん)が役に立つか! こんな事なら時代遅れと言わずに、火薬発射式の拳銃を持ってくるんだった。」

「はい、どうぞ。」

 俺は、CZ75をアカツキに手渡す。

「弾薬は、3マガジン分しかないんで。大事に使ってくださいよ!」

「有り難く頂戴して置くよ。しかし、どうする気だい?」

 俺は、暫し思考する。

「とにかく此処には、殺せる方法は無いということですね。」

 当たり前の事を俺は、言う。

「おいおい…」

「肉塊レベルまで… いや、肉片レベルまでフッ飛ばせばどうにか殺せるだろうけ… どぉぉぉ!」

 ブォン!

 凄まじい速度のトゥエルブの右腕が、俺の頭上を掠める。

 ドゴウ!

「ぎあ!」

 掠めただけなのに、金属バットで思いっきり殴られたような衝撃が、頭に響いた。

 足が縺れ、倒れそうになるが、何とか踏ん張ってバランスを立て直す。

 だが、今の一撃の風圧で右耳の鼓膜が破れたらしい。激痛が走った。

「は、はやい! 鈍重そうな体からは、到底想像できないほどの動きだ…」

 何気に説明臭い台詞を吐くアカツキ。しかし、その通りだ。トゥエルブと俺たちの距離は、200m近くはあった筈だ。それを瞬時にゼロにしやがった。

 しかし、なんとか言いつつもアカツキは、CZ75を撃つ事は、忘れてはいない。

 ガンガンガンガン!

 聞きなれた銃声が左耳の鼓膜を刺激する。

「ああ全く! コレだから人以外の生物は苦手なんだ!」

 CZ75の弾丸のことごとくをその顔に浴びながらも、トゥエルブは一向に堪えた様子が無い。

「同感ですよ!」

 俺は、身を捻りS&W モデル500を撃とうとする。が…

「居ない!」

 そこにあったのは、何気ない風景である。中央にフレームの拉げた車があった。

 !!

 背後に気配を感じた。

 俺は、地面に接吻するように倒れこむ。

 ブォグォン!

「うわぁ!」

 右腕を振った時に起こる風圧で吹き飛ばされるアカツキ… そして、俺は大地と風圧とで挟まれて発生する膨大な圧力を体に感じた… だが、呻き声を漏らす程でもない。

「この不細工野郎が!」

 俺は、素早く体を仰向けにする。

 S&W モデル500を構え… 撃った…

 ガァン! ガァン! ガァン!

 流石に今回の殆どゼロ距離からの銃撃は、かわす訳にも姿を隠す訳にもいかなかったらしい。3発全ての弾丸は、胸板を貫通し内臓があるのならば、それを全てズタズタにしただろう。

「グギャァァァァァ!」

「そんな良い声を上げるな… 施しはでねぇぞ…」

 俺は、そう言いながら、素早く空薬莢をシリンダーから取り除き、スピードローダーをはめ込む。

 用済みのローダーはそこいらに投げ捨てた。

 間髪入れずに第2射を放つ。

 ガァン! ガァン! ガァン! ガァン! ガァン!

「って! もう動けるのか!」

 始めの2発は、肩であろう部分を貫いた、骨が有ったならば、それを砕いただろう。だが、残りの3発は尋常ではない生命力と動きにより空しく宙へと消えてゆく…

 肩を貫いた2発も肩を狙った訳ではない。人間なら急所。胸板と頭部を狙ったものだ。

 俺は、起き上がる。しかし、瞬時に体を沈めた。そして、一気に大地を蹴って前に進む。

 それは、本能的な行動である。何も気配などは感じなかった。ただ、直感で動いただけである。

 グォグギグジャギギャァァァァァァ!

 ドブヲヲヲヲン!

 俺が、さっきまで寝そべっていたアスファルトが砕け、10m程のクレーターが形成される。その時に生じた拳圧は、風力が十程の風を巻き起こし、それに巻き込まれて俺の体は、飛ばされた。

 人家の壁にぶつかり、飛ばされると言う運動は、停止する。

 腰を強く打ちつけたらしいが、何とか立ち上がれる。

「ふう… まるで隕石が落ちたみたいだな…」

 吹き飛ばされながらも、何とか這って此処まで来たアカツキが、場違いな台詞を吐くが、それに構っている暇は無い。

 俺は、サムピースを押し込みスイングアウトさせた。

 だが、俺が空薬莢を排出させる動作よりも早く、そいつは俺との距離をゼロにしていた。

 まるで、移動したのではなく、そこに出現したかのようなトゥエルブの移動速度に悪寒を覚える。

「おいおい、そんなに焦るな… せっかちだな…」

 何か誤解を招きそうな台詞を吐き出すと、俺はトゥエルブの腹部であろう所に右足で蹴りを入れる。

 ガス

「いっ!」

 鉄板を蹴ったような感触。激痛が走った。

 ビギュィィィィィィィィン!

 小さいほうの左腕から黒い線が延びる。

 それが、変色した血だと知るのは一瞬後のことだ。

 俺は、それを何かヤバそげな物としか瞬時に認識できなかった。

 ブギョワァン!

 俺は、痛む腰を無理矢理動かして、黒く迫るそれの軌道から自分の体をずらす。

 避けることに成功… 黒く迫るそれは、後ろにあった人家の壁へと吸い込まれる… 瞬間。

 ブヲワァァァァァムゥゥン!!

 人家の存在が、文字通り消し飛んだ…

 どれ程の圧力と速度を持って撃ち出されたのか見当もつかない… 俺は、再度吹き飛ばされる。だが、即時起き上がると、その光景を夢見心地で見ているアカツキを殴りつける。

「こ、これは現実かい?」

「ぐ!」

 ふと、右肩に痛みを感じた。視線を向けると、ガラス片がそこに刺さっていた…

「痛い所からしてそうらしいですよ。」

 俺は、ガラス片を肩から引き抜きながらそう言う。抜いた後に軽く鮮血が飛び出した。

「で、どうしますか? 犬河君?」

 俺は、その質問に対して、お手上げのジェスチャーをした…

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第十三話 上

END

第十三話 下へ続く…