機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

 ???(クリムゾン社のシークレット・サービスの誰か)

「糞! どう言う事だ! 外で警戒している奴等からの連絡が一気に途絶えるとは!」

 通信機を持った同僚の先輩がそう言う。

 銃声は、一発だけ此処まで響いた。

 恐らくは敵襲だろう。そんな簡単な事で一々叫ぶなだよな。この人…

 俺は、護衛地点である屋敷の門の前に座り込んでいた。

 そして、ずり落ちそうになったサングラスを戻して少し思考する。

 敵について考える。

この島に俺達以外のヤツラは、お嬢さんが何故かバリアーで守っている。新型チューリップの調査に来ただろう戦艦のクルーしか居ない。(まあ、先程確認が取れただけだが…)

 普通に考えれば、そいつらが攻撃してきたと考える冪なのだが、俺はそうではないと思っていた。

 奴らとは方向が違うし、やり方がオカシイのだ。

 戦艦のクルーが、普通に手を出してきたと普通に考えれば、戦艦に乗っている戦闘員のまあ、僅かながら守りに残っているにせよ数で攻めてくる筈だ。それも一方向からと言うことも無いだろう。

 まあ、脆いところを一点突破と言う事もあるが、一番防備の固いところから攻めてきた。

 そんなアホが居る筈は無い。

 敵が人間だとしたら、少しは此方のことを調べるだろう。

 だが、コレは違う。

 まるで所構わず突進してくるようだ。猛獣の様に…

 それとは逆方向で、2名の不明者を見たと言う連絡もあったが、それはチャンと迷彩服で身を包んでいたと言うし。何より発砲した。

 此方が銃を撃った後にそいつらは発砲したのだ。

 向こう側のは、まるで銃器を使わないのだが、こっち側のは銃器を躊躇い無く使用している所からして、別の組織か別の目的を持って行動している者達と考えられる。

 まあ、二人と謎の少人数の勢力… どちらもいかれているとしか言い様が無いが…

 まあ、どうなる事だろうな…

 俺は、そう思うと溜息をついた。

 遠くで銃声が聞こえる。

 唐突にそれは止んだ。

 爆発音。

 手榴弾か何かを使用したのだろう。

 恐らく、銃器を使用している方が、例の戦艦のクルーだろう。何の目的で動いているのかは解らないが。

 音の近づき具合から移動速度を目測の計算で割り出してみるとかなり速い。

 どうやら向こうは結構な訓練を積んでいるらしい。

 俺は、煙草を口にくわえるとライターで火をつけた。

 灰に煙が一杯になるまで吸い込み吐き出す。

「おい、煙草を吸うな。命を落とすぞ。」

「へいへい、先輩、心配有難う御座います。」

 俺は、そう言われて携帯灰皿で煙草の火を揉み消す。

 とにかくこの分だと後30分は俺は暇だろう。

 俺は、向こうから近づいてくる銃声からそう感じた。

 が…

 それは次の瞬間、泡沫の夢となって散った。

 

 ガシャァン!

 

「「な!」」

 

 唐突に、俺達が張っている屋敷の門とは逆方向から何かの破壊音が響いた。

 なんだ! 何が…

 俺と先輩は其方へと向かって走り出す。

 がさ… がさがさ…

「誰だ!」

 俺は、物音がした茂みにブラスターを向ける。

 非常事態のためにM-16も支給されていたが、この場合は此方の方が撃ち易い。

 俺は、慎重にそちらへ近づいていった。

 そして、茂みの上から顔を出し覗き込む。

「あ… ああ…」

 そこには血だるまになった人間が居た。

 見覚えは無いが、同じ服を着ているところから見ると同僚だろう。

 致命傷だ。到底助かるまい。

 俺はブラスターをしまった。これを見てパニックでも起こされたら大変だからだ。

 そいつは左の肩から先が無くなっているし。足も完全に折れている。

 腰骨もやられているらしく見るも無残な姿だ。

 ようやく此処まで這って来たらしい。

「ば、化け物だ… 女の… 化け物だ… 逃げろ… 俺を連れて早く逃げろ…」

 地を舐め、血を吐きながらその男はそう言った。

「解った、当て身でも使って無理矢理でもお嬢様を連れてきたら直ぐ逃げる。」

 俺は、ただ事で無い事を予測した。

 だが、仕事中である。つとめは確りと果たさねばならなかった。

「だ、ダメだ今すぐだ… 頼む… 死にたくねぇ… 俺を連れて逃げ…」

 グシャァ!

「な!」

 そいつの顔が潰れた。

 何が起きたのかも俺には解らない。

 傍に居た先輩は言葉も出せずに目を見開いている。

 俺も先輩も人の死に様を見るのは初めてではない。

 だが、俺達が見た死に様は全て銃で撃たれるとか交通事故で下敷きになるとかそう言う理解できる物だった。

 だが、コレは違う…

 何も理解できない。

 理解できるはずが無い。

 恐怖と呼ぶには軽く、狂喜と言うには重過ぎる感情が俺の中を渦巻く。

「何が… おこ…」

 先輩がようやく口を開きかけた時…

 知覚すら出来ない何かが、先輩の首をすっ飛ばした。

 ゴロン…

 奇妙な表情で地面に転がる首を俺は、何となくと言う感じで見ていた。

 カシン

 自分でも無意識にM−16のセイフティを外していた。

 何だ…

 途方も無く嫌な予感。いや、もっと明確に死の予感がする。

 俺は、辺りに注意を向けつつも、状況を整理する。

 何が… 起こっている…

 向こうから銃声が鳴り始めた。

 となると、俺の勘が正しいのならば、あの戦艦の奴等ではないと言う事になる。

 まず、キーワードはグジャグジャの男が言った“女の化け物”であろう。

 そして、気配も何も無く先輩の首が落ちた“現象”。

 くそ… 何なんだ…

 この事をどうやって連絡する。どうすれば良い。何が起こっている。なんで二人もの人間が死んだ。殺した物は何だ。殺した者は誰だ。俺はどうやって生き残る。

 疑問が俺の頭を蹂躙していく。

 完全に神経が張り詰めていく… その時。

 パッ!

 俺は、右肩から何か赤い物が出ているのに気づいた。

 じわりと服が赤く染まる。

 

 余りにも遅い反応。

 余りにも遅い痛み。

 余りにも遅い悲鳴。

 余りにも遅い自らの引いた銃声。

 余りにも辛い痛み。

 余りにも辛い恐怖。

 余りにも辛い混乱。

 余りにも辛い為の嗚咽。

 

「う、うぉ!」

 だが、それでも俺はプロである。

 瞬時に混乱を解消し、右肩に布を巻く。

 一応の止血だ。

 俺の撃った弾丸の軌道も確りと見切っていた。

 だが、弾丸の向かった筈の先には何も無い。

 一発も当たってないな…

 俺は、それを考えながら壁に背中を接触させる。

「何が起こったってんだよ!」

 イラつきながらそう叫ぶ。

 何か刃物が通り過ぎた様だった。

 だが、そんな物を俺は見ていない。

 これの真実を明かすなら、見ていないのではない。

 “見えなかった”。

 と言った方が良いだろう。

 しかも、何の種も仕掛けも無い刃物がだ。

 俺は、とにかくどうにかしてお嬢様を連れ出し一刻も早くこの島を出ることに思考を傾ける。

「あの〜、銃声が聞こえましたけど何か…」

 余計な依頼人の声。

 馬鹿が! 銃声がしたら何処かに隠れるとかどうにかしろ!

 窓から顔を出してどうかしましたかだと! 世間知らずにも程がある。

 俺は、心の中で思う存分叱責すると声を張り上げた。

「隠れて下さい! お嬢さん!」

 まをんに変えて言ったが、この際どうでもいい。

 俺は、意味不明の敵を討つと言う考えで一杯だった。

 その時…

 

 屋敷のお嬢様の部屋の、直ぐ横の窓ガラスが割れた…

 

 

 アクア・クリムゾン

「ああ、誰か私と一緒に死んでくれる人居ないのかしら…」

 私は、一般の人が聞くならば狂気と考えられてもおかしくは無い台詞を吐いた。

 事実、シークレット・サービスの人間からも既に呆れられていたが、そんな事は他人事に鈍感で世渡り下手で世間知らずな私が解るはずも無い。

 その時、直ぐそこでとても好奇心のそそられる音が響いた。

 ガガガガガガガガガガ!

「え? 銃声?」

 私は、窓を開く。

 銃に撃たれるととても痛いとは認識していても、私は好奇心に勝てるほどの自制心を持ってはいなかったし、チラッと見るだけのつもりだから余り危険は無いだろうと思っていた。

 私は、銃声が聞こえた方角の窓から首を出して、直ぐそこにいるシークレット・サービスの服を着た人に言った。

「あの〜、銃声が聞こえましたけど何か…」

 そのシークレット・サービスの服を着た人は、切羽詰った様子で声を張り上げた。

「隠れてください! お嬢さん!」

 そう言われたけど、私は咄嗟には反応できなかった。

 辺りには誰も居なかったし… ん? あの赤い人の一部の様なものは何だろう? 後でよく見てみよう。

 私は、そんな事を考えていた。

 危険など無いように思えた。

 そう、“目に見える”危険は確かに無かったのだ。

 けど…

 

 ガシャァァァン!

 

 突如窓ガラスが破れた。

「え?」

 声を出す暇が有ったのは奇跡と呼ぶに等しいことを私は後で知った。

 ザパッ

 でも、それよりも先に認識しなければならない事を私は目の当たりにした。

 背中の辺りが切られて、鮮血が噴出している感覚が来た。

 痛みは無い。まだ脳まで伝わっていないのだろう。

 

「死にたいって… 言ったね。本気? 本気なら何にも言わなくて良いよ。本気じゃないなら「無い」って言うこと。言わなければチャンと確りと殺してあげる。」

 

 高い女性の声が聞こえる。

 誰だろう。

 

「タイムオーバー。じゃあ、こう言うべきかな?」

 

 は?

 

「“命は貰った”ってさ。」

 

 私は、自分の死を認識していなかった。

 事実この時点でしたとしても徒労に終っていた。

「そこかぁ!」

 シークレット・サービスの人が、こっちのほうへ向かって“鉄砲”を構える。

 ガ ン ガ ン ガ ン ガ ン ガ ン ガ ン ガ ン ガ ン ガ ン ガ ン

 間が嫌なほどに広い銃声が聞こえる。

 後ろの何かに当たった様な音。

 そこで、私はようやく自分の痛みを知覚した。

「ああ… あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 激痛。

激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!」

 私は肉体的な痛みを殆ど感じたことは無かった。

 父親に殴られもしなかったし、母親に引っぱたかれもしなかった。

 友人と殴り合いの喧嘩もしたことも無ければ、囲まれて暴行を受けたりもしなかった。

 仮に転んだとか何かで怪我をしたとしてもそれは軽い痛みだった。

 そう、今でこそ軽いと思える。

 かつて経験したことも無い。いや、これは一度経験するだけでも多過ぎる痛みが私の体を突き抜ける。

 血がドクドクと流れ出て行く感触…

「いやもう、危ないね」

 !!

 私は、向き直った。

 痛みよりも恐怖が先に出たらしい。

 私は、相手の姿を見た。

 年は、外見から言うと18歳程の女の人だった。

 服装は、何か女性用の研究室での白衣を連想させる服装である。真っ白い手袋もしている。

 身長は、大体165cm程だろうか…

 髪は肩の辺りまでで切りそろえられている。

 普通の女性である。

 髪の色や目の色から見るとどうやら西洋人らしい。

 手に持っているのも、“普通”のサバイバルナイフである。

 血一つ油すらも付いていない綺麗な刀身。

 しかし、それは人外の物である。

 それは、ある一つの事実で解っている。

 人間なら、“銃を喰らったら”まず、“危ないね”では済まされないだろう。

 ただ、一つの台詞で…

 私は、コレが人の手には到底負えない物だと確信した。

 ピッ

 電子音。

「あ…」

 私は、仰向けになったときに落ちてきたチューリップを保護してあるバリヤーの解除スイッチを押している事に気づいた。

 どうしよう…

「爆弾? 何かやった?」

 女性の人はそう言います。

「い、いえ…」

「ふ〜ん、嘘は言って無いミタイね〜。まあ、どうでも良いけどさ… あ、そうだっと、ちょっと聞きたい事あるんだけどいい? あ、殺すのはその後、ってことで…」

 女の人は、思い出したように。ブッキラ棒にそう言います。

「出来れば後でも殺して欲しく無いんですけど…」

 って、正反対の事いってますか私。

「ん? まあ、質問に答えてくれれば良いか… ええと… まず最初には… なんで、此処の人達。私を見たら撃ってきたの? いや私、そんなに変かな… イキナリ撃たれるようなあんまりにも変な格好もして無いと思うんだけど…」

「え?」

 いや、私有地に許可無く入ったら撃たれるまではいかないだろうけど、勝手に堂々と入る時点でどうかしているような…

 でも、幾ら格好が変だとしてもそんなイキナリは…

 この時の私は背中の痛みも忘れていた。

「いや、注意とかされなかったんですか?」

「注意? ああ、“何をしている! 手を上げろ”って奴? 言われたかな〜。言われたような… あ、言われた言われた。」

 ガクッ!

 一気に緊張感が抜けた事を感じた…

「上げれば撃たれませんでしたよ…」

 どうやら、この人(?)は私と負けず劣らずの世間… いや、常識知らずらしい。

「あ、そうだったの? まあ、ウザかったから瞬殺。」

 “瞬殺”は、文字通りの意味の様な気がした。

「まあ、そこら辺は置いといて…」

 置いといて良いの?

「所で、『ナデシコ』って戦艦に“ラスト”が居るって聞いたんだけどさ〜、それで、そこに行きたいんだけどさ… どっち行ったら良いの? いやいや、迷子っていったら響きがどうなんだけどさ…」

「“ラスト”?」

 私が、困ったような言葉を出すと女の人は良い良いって手を振った。

「まあ、取り敢えず島の“上”の方から見た限りでは“左”にその戦艦はあったんだけどさ〜、落ちたときに方角全く見失っちゃったんだよね〜。」

 上?

「な『ナデシコ』って戦艦の着岸地点なら…… こ、この家の正面玄関から真直ぐだと思いますけど。」

 私は記憶を手繰り出して答えた。

「ん? あ、そう。じゃ、アリガト まあ、下の人も来たみたいだし怪我大丈夫だね。」

「え? あ?」

 心配の目では無い。恐らく道を教えてくれた礼だろう。

 要するに道を教えてくれてありがとう。お礼に命は取らない。

 そう言う事だろう。

「くっ!」

 スッカリ忘れていた背中の激痛が再度来た。

 思わず呻き声が漏れる。

 ダンダンダンダンダンダン!

 ドアを叩く音が響きます。

「くそ! 鍵が掛かってるのか!? お嬢さん! 無事ですか! 無事だったら返事して下さい!」

「無事じゃ無いね。背中から血を流している。早くしないと失血多量で死んじゃうよ〜♪」

「な、なにぃ! くそ! 扉をぶち抜いてやる!」

「ああ、馬鹿馬鹿。高そうなドアが勿体無いじゃないか。今、鍵開けるよ。 ん? オカシイな… ノブに摘みが無い… おい、これどうなってんの?」

「ちぇ、チェーンですけど…」

「ん? あ、これか…」

 ジャラリ

 そう言う音と共にチェーンが下に落ちます。

 バァン!

 と、その途端に下に居たシークレット・サービスの人が突っ込んで来ました。

「うお! とっ! った!」

 ドテ

 コケました。

「ん? じゃ、これで…」

「まて…」

 突っ込んできたシークレット・サービスの人が起き上がりながらそう引き止めます。

 ふと、シークレット・サービスの人の目に憎悪の炎が燃えているのを私は見ました。

「何?」

「いやなぁ… 同僚殺して貰ってそのまま行かせる様な男が居ると思うか… まあ、何処かに居るんだろうけどな… 例えば、昔運び屋で知り合った男とかな… 確かアマ… って、ええい! そんな事はどうでも良い! とにかく! 俺はそういう人種じゃないんだよ!」

 そう言って、鉄砲をシークレット・サービスの人は女の人に向けます。

「ああ、ごめんゴメン。手を上げてれば撃たれない何て知らなかったんだ。いや、この通り。」

「問答無用ぉ!!」

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 銃声が部屋一杯に木霊しました。

 銃弾により壁が削られて、粉末となり視界を覆い尽くします。

「ケホ… ケホ… ああ、煙ったい。」

「な!」

 煙が晴れていく中… その女の人は無傷で立っていました…

「それにしても銃弾って遅いね… 欠伸が出ちゃうよ… ってああ、全く! こんな高そうな壁紙が塵に…」

 後の方は関係ありませんが、凄いことをサラリと言ってのけます。

「まあ、どうでも良いけどさ。さっさとお嬢様? って人の止血をした方が良いんじゃない。」

「え?」

 よくよく床を見ると、結構広い範囲に傷口から出ている赤い液体が私の周りに広がっていました。(って気づけよ私。)

「わ、忘れてた〜!」

 ………良くも悪くも直情傾向の人みたいです。一つの思考にかまけると他の事を意識出来ないと言うか、何と言うか。

 ハッキリ言って、馬鹿ですね。

 でも、すぐさま消毒液を傷口にかけて、懐から布を取り出し私の傷口に当てその上から包帯… を、するには前も脱がないといけないわけで、彼が脱がそうとしたのを張り倒したのは少しやりすぎたかな、と自問自答する次第であります。

 ……テンパってるみたいです。彼の唐突な行動によって。

「おー おー。」

「ま、まだ行っていなかったんですか?」

 まだ私達の方をジーと見ている女の人に向かって私はそう言いました。

「いや、面白いから…」

「「面白がるな。」」

 何故か奇妙な平和な雰囲気が、気が付いたら完成していました。

「所で… お前、“何だ”?」

 シークレット・サービスの人がサングラスを上げながらそう言います。

 ようやく本題に戻ったようでした。

「ん? 私?」

 自分? ってな感じで自分の顔を指して女の人は言います。

「ああ、そうだそうだ。“何だ”お前は。」

「何って… 言われてもね………… “兵法者”“流れ者の柔術家”“辻斬りの犯罪者”。」

「「…………………」」

 どう考えても納得できない事を言います。

「まあ、そこら辺は追求しないとしてだ…」

 どうやらシークレット・サービスの人もこれ以上は無駄だと思ったらしいです。

「“アレ”は、そのナイフ一本でやったのか?」

「そうだけど。」

 即答ですね。

「じゃあ、何でお前は返り血を浴びて無い…」

「かからなかったから。」

 いや、そう言う理屈なんでしょうけど…

「いや、何でかからなかったのか、そう言う具体的な事を聞いているんだ。」

「う〜ん… 具体的と言われても…」

 本気で悩んでいます。

「えっと…」

 まだ、悩んでいます。

「こ〜 でもないし…」

 まだまだ悩んでいます。

「ああかな… いや、説得力が…」

 最早説得力も何も期待していませんが、まだまだまだ悩んでいます。

「どうだろ〜。」

 どうでしょうね… まだまだまだまだ悩んでいます。

「きゅ〜。」

 まだまだまだまだまだ… って、考えすぎでギブアップ!?

「あ〜、もういい… もう無理すんな… 色んな意味で…」

 呆れて声も出ないシークレット・サービスの人。

 どうやらもう、仕事仲間を殺された憎悪も立たない様です。

「まあ、“ノロイ(・・・( )から(  )かな(  )( )

 ずるぅ!

 いや、した事の驚愕より先に今まで悩んでいた事を一気にコレほどまでに簡単に言われた驚愕で、私とシークレット・サービスの人はズッコケました。

 倒れこんだ時に傷口が思いっきり床に当たったので、内心必死に痛みを堪えている次第です。

「ん? どうかした?」

「いや、お前、ホントに“何だ”?」

「さぁてね。」

 見事に誑かされました。

「んじゃま、お邪魔しました〜。ん?」

「どうかしましたか?」

「いや… なんか、黒煙が後ろの窓の景色から上がってるんだけど…」

「「え?」」

 ふと振り返ります。

 どうやら、私の所為みたいですね…

 先程バリヤーの解除スイッチを間違えて押してしまった為に、チューリップの中に居た何かを解き放ってしまった為に起こっている戦闘みたいです。

 戦っているのは… 誰でしょ?

 まあ、中身の方は、赤外線レーザーで作られたCGを見て想像出来てましたけど…

 こうして見ると、大きいモンですね。

 どうやら、赤くて大きい六本足のが、チューリップに入っていた物らしいです。

 そして戦っているのは… ロボット?

 青と紫と赤と水色と黄色と… で?

「いや… まあ、放っておいても何とかなるか…」

「まあ、そうでしょうけどね…」

 少々責任感が私を押しつぶします… スミマセン。

「まあ、今度こそお邪魔し… え?」

「は!?」

「へ!?」

 ふと、部屋の中が薄暗くなりました。

 太陽の光が、何か遮蔽物によって遮られた為のようです。

 しかし、それは雲では有りません。

 鋼鉄のフレーム、四輪のゴムによって守られているタイヤ、そして黒く塗装されている物体の影… 光沢もあり、太陽の光で光ってとても綺麗だと思ったのは、秘密です。

 しかし、此処は2階です… そんな物が存在する訳ありません。

 そして、その物体は、徐々に此方へと向かってきました。

 そして、そのまま窓をぶち破り…

 がしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん

 余韻の残る音を響かせ…

 部屋の中へと土輪で入り込み…

 入って来た窓とは反対側の壁へと追突しました…

ドガゴォォォォン!

 

 

 

「ケホ… ほ、ホントに突っ込むなんて…」

「俺も、まさかアンナに都合よく放置自動車が有るとは思わなかったな…」

 ガチャリ

 鉄の塊に付いていた扉を開けて、中に居た人が出てきます。

 その人は、泥塗れの姿で、見るからに汚らしいです。(失礼だとは思いますが)

「あ…」

「ん?」

 女の人と出てきた男の人の目が合います。

「“ラスト”…」

「えっと、どちら様でしたっけ? 自分はアナタと逢った事は無いように思えますが?」

 そう言って、笑う男の人。

 女の人は、首に掛けていた金属のプレートの様なものを見せます。

「10… “テン”か。いや、久しぶり〜、暫く見ない間に色っぽくなったじゃないか。」

「って、10年振りなんだから当たり前でしょ…」

「いやあ、ファイブに頼んだ伝言でも聞いたか? まさか、偶然なんて出来過ぎてるぞ。」

「聞いてない! でも偶然でもない!」

「いやいや、久しぶりにマトモに言葉を返せる奴に会って嬉しくてな〜、ん? ちょっとまて? オカシイな… アレは、心を蝕む物だと聞いてたんだが… まさか… お前…」

「いや… 私は、適性者じゃないけど…」

「じゃあ、なんで…」

「ああ、             。」

 次の言葉を聞いたとき、私は自分の耳を疑いました。

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第十六話 中

END

第十六話 下へ続く…