機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

 犬河照一

「全員、コーナーに上がれ!」

 ゴートさんの掛声が、トレーニングルームに木霊する。

 此処に集まっているのは、全員柔道着姿のガイ、ジュン、アカツキ、俺の御馴染みメンバーだ。

 俺とガイとジュンとアカツキは、プロレスのリングのようになっているトレーニングルームの真ん中に出来ている練習場のコーナーに息を切らせながら上った。

「ウェイトトレーニングのノルマは、全員達成したな! それでは、次のステップだ!」

 段々柔道とはかけ離れて来ている様な気がしますけどね…

 しかし、何やら嫌な予感。

「良いか! 全員! そこから飛び“落ちる”んだ!」

「「「「はぁ?」」」」

 俺達は、良く意味が理解できなかった。

 とにかく、コーナーから飛び“降りる”。

 スタタッ

 軽快な音と共に全員着地した。

「違う! 飛び“落ちる”んだ!」

「いや、そんな事言われても…」

 ジュンが疑問詞を吐き出す。

「実際に見なきゃ解んないぞ。」

 ガイが思っていたことを口にした。

「よし、アカツキ! お前が実験台だ!」

「え? 僕が?」

「頭出せ。」

 アカツキは、ゴートさんの言葉に困惑しつつも頭を突き出す。

 ガシッ!

「え?」

 ゴートさんに襟を瞬時に掴まれた… 瞬間。

「うわぁぁぁぁ!」

 アカツキの身体は宙を舞う。

 ダダァン!

 背中から床に“落ちた”。

 この光景を見て、全員が何をするのかを全員が理解した。

「いいか! こうやって足以外の箇所へ目一杯飛び上がってから落ちるんだ! 足から落ちたら反則だぞ! それを20回だ!」

「「「20回ぃ!」」」

「あ、アカツキは後19回で良いぞ。」

「へ、減るのは一回だけ… 目一杯体重込められて投げられたのに…」

 アカツキが、背中を摩りながら言う。

「つべこべ言うな! さっさとやれ!」

「「「「はい! どりゃぁ!」」」」

 ドタァン!×4

 激痛。石の上に落ちたような感覚。身体を衝撃と激痛が駆け抜ける。

「うぉ…」

「ぐえ…」

「いで…」

「あが…」

 全員が、揃って呻き声を漏らした。

「どうした! 床は、たかが柔かい、鉄筋コンクリートだぞ!」

 硬い… 絶対硬いって…

 俺、終ったら立てるだろうか…

 この後に掃除や仕事が待ってるって言うのに…

「次! 後たった19回だ!」

「な、なんでこんな事を…」

 ガイが愚痴を零す。

「馬鹿者! 強くなりたければ、まずタフな身体を作れ! 例え治癒能力や攻撃力、反射神経やスピードが高くても、一撃で戦闘続行が不可能になっては目も当てられん。まずは、どんな打撃技を受けても立ち上がって来れる身体を作って見せろ!」

「「「「はい!」」」」

 俺達は、半ばヤケクソになって叫ぶ。

 痛む背中を摩りつつ。ようやくまたコーナーに上った。

「次!」

「「「「どりゃぁ!」」」」

 ダァァン!×4

 再度衝撃が身体を揺さぶる。激痛が、身体を突き抜ける。

「ち、血が出てきましたけど…」

 ジュンが“肉体的な”激痛で涙を滲ませながらそう言った。

「馬鹿者! 同じところばっかし打ってるから擦りむけを通り越して皮膚に穴が開いてしまうんだ! 足から落ちる以外はどんな落ち方をしても良いから色々工夫をして満遍なく身体を痛めつけるように努力しろ!」

「「「「はい!」」」」

 

 

 プロスペクター

「いや… これはまた盛大にやっていますな…」

 若者達が、汗を滲ませて努力をする姿を見ながら、私はそう言います。

 分厚い柔道着の肘や背中に滲んできた赤い色は、彼らの努力の賜物であるのでしょう。

「いや、若者が熱い血を燃やしているのを見ると、手を貸して挙げたくなるのが性分ですな。」

 私は、そう一人事を言うと重い腰を上げた。

「いやいや、皆さん頑張っていますな。」

「ん? ミスター。なんだその格好は?」

「ははは、犬河さんだけでなく他の人の分も稽古をつけてやろうと思って来た次第ですよ。」

「「「なにぃ。」」」

 何やら場の空気が変わりましたな…

「犬河… 貴様! 俺達を出し抜いてプロスの旦那ともやって居やがったのか!」

「く… 油断だった…」

「君は、僕らを騙していたのかい?」

「い、いや俺はそんなつもりじゃ…」

「「「問答無用!」」」

 ヤマダさんが大外刈り、アオイさんが内股、アカツキさんが背負い投げをかけようと犬河さんに組みかかりました。ああ、どうなるんです… 一体。

「のわぁぁぁぁぁ!」

 ドタァァン!

 ぜ、全部きまりましたな… その瞬間が速すぎて見えなかったのが残念ですが…

「まあまあ、とにかく全員でスパーリングでもしましょう。」

「そうだな。今日は教官が二人居るから私としては楽でいい。」

「「「「何を言っている! その分俺たちの練習量も倍だ!」」」」

 なんて、熱心な若者達だろうか… 若い血が滾っているのが間接的にでも解りますな。

 普通なら、生徒地獄のはずが、師匠地獄と来ている程ですからな。

 これは、私も燃えるしかないでしょうね…

「さて、では最初は…」

バタァン!

ドタァン!

ズダァン!

「はぁ、はぁ… 確かに筋は良いですが… 甘いですね…」

 息を切らせながらで言っても説得力が余り無い事を自覚しながら私はいいだしました。

「う… ぐ…」

 犬河さんが、虫の息になりながらも立ち上がろうと懸命ですな…

「ほう、まだ立てますか?」

「うぉぉぉぉぉぉ!」

「ワンパターンで… なに!」

 次の瞬間見た物は、上下逆様になった景色。

 そして、床に叩きつけられる感触だった。

 

 犬河照一

「あ、あれ…」

「……………お見事。」

 俺は、しばらく経ってからようやく自分がプロスさんを投げた事を知った。

「いやはや… あそこでアレをかけられるとは予想外でした。」

「あ、いや、でも。」

「スパーリングですからね… 柔道以外の技もかけられる事に対しての警戒をしていなかった私が甘かったのです。しかし次はコレも通用しませんよ…」

「げ…」

 アレは、自分でもビックリするぐらいの会心の一撃だった。

 それを、次からは通用しませんよと言われたらチョット落ち込む。

「いや、それにしても今のは見事だったぞ。いくら不意をついたといっても良く決まった。」

 ゴートさんが賞賛してくれた。

「しかし、完全な一か八かだったな。もっと相手を弱らせてから使う技だぞそれは…」

「はあ、そうですか…」

「糞… また先を越されたか…」(ジュン)

「何の… 俺もまだ動けるぜ…」(ガイ)

「柔道着に血が滲もうが僕は立って見せるぞ…」(アカツキ)

「こいつらは…」(ゴート)

「絶対敵には回したくないですな…」(プロス)

 は! 俺たちのしぶとさだけは甘く見ないように…

 

「ぐ、くそ…」

 俺は、訓練が終わり、廊下の雑巾掛けをしていた。

「あ、足が動かん… あの後みっちりあの技の練習したからな…」

 だから、必然的に俺は腕だけを使って雑巾掛けをしている。腕だけでの移動… つまりは、腹這いでの雑巾掛けである。

 じ、地獄じゃぁ…

 腕の感覚が殆ど無くなって来ている。次の仕事も有ると言うのに…

「ぐぞぉ… ぬあろぅ… ぢぐじょう… 八橋喰いで〜。」

 最後の方は関係が無かったが… 俺は掠れる喉で、精一杯の皮肉を言った。

「おう! 犬河! お前なんでこんな所で芋虫になってるんだ?」

「あ、うりばだげずわぁん。」

 俺は、目の前にいた整備班の班長に向ってそう言う。

「………水飲んで来いよ。」

「ズイドウが… みずが… でないんでずよ〜」

「ああ、トイレの下水管修理の為にこのブロックは、断水中だったな…」

 そう、よりによってこの状況での断水。全く、俺を苛めているとしか思えん。

「じぬぅぅぅぅぅぅ。でも、いぎでぇぇぇぇ。」

「じゃあ、復活の言葉を言ってやろうか?」

「ばい?」

「ふふふ… さあ! 犬河照一よ! 俺の部屋に来るのだ! そして選べ!」

 な、何を… あ、なんだか解るような気がしてきた…

 そして、ウリバタケさんの部屋で、俺が見た物とは……

 

「……メイド服とスーツですか。」

 そう、テンの“身体”である。片方はよく言えばスレンダーな、悪く言えば貧乳(爆)な肢体(?)に、ゴスロリっぽいメイド服(絶対に実用的じゃねぇ)を着せた首無しのボディである。リボンやらフリルやらで、様々に彩られている。足には黒のニーストッキングが履かされていて、靴は角ばったローファーである。

 もう一方は、いかにもキャリアウーマン的なフォーマルスーツだ。ミニのタイトスカートにソックスタイプのストッキング、はちきれそうなバストを包むブラウスは、大胆にも谷間が覗いている。

「さあ、犬河! どちらを選択するぅ!!」

 俺の思考は高速で疾走した。この瞬間の演算速度は、恐らくオモイカネを遥かに超越していたに違いない!(馬鹿)

 そして、その常軌を逸脱した俺の脳味噌は、ついに一つの結論を導き出した。

「……巨乳はもう、見飽きた。……時代が求めるのは貧乳メイド! そして戦闘用!! これで決まりよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

「おお、やはり分かってくれたか! 我が心の友ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 この瞬間、確かに俺達は分かり合えたんだ…… 人類は、こんなにも分かり合えるんだよ…… ラ○ァにはいつでも会える…… こんなにも嬉しいことは無い……

「それでは… まあ、漫才は此処までにしてと…」

「作業開始。」

 この時、傍から見れば、俺たちの表情は狂気に染まっているように見えたかもしれない。それほどまでに危険な魅力に満ちあふれているものなのだ。まあ、乙女の最終兵器だしな。イド服とは。

 

 脳移動作業終了後。

「ん? あ、おはよ。」

 その瞬間。既にウリバタケさんは、この世の物では無くなっていた。

 俺の魂も半分以上抜けかけてたね。マジで。てか、鼻血止まんねぇし。

 よかった、俺はまだ“人間”ということだ。

 俺は、取り敢えず制服のポケットからティッシュを取り出して丸めて鼻に詰めた。

「ん? どうしたの? ラス… じゃなくて犬河?」

「ああ、かるく頭を打ったみたいだな… 心配するな。いや、いろんな意味で。」

 よかった。テンが俺のことを心配しなくて。ここで心配されたら、間違いなく俺は萌え死ぬ。

 いや比喩でも何でもなくて…

 ああ、とにかく段々と思考が冷静になってきた。

 精神も徐々に元に戻りつつある。

 目もいろんな意味で慣れてきた。

 ん? マズいぞ! それは物凄くマズい!! 

 この感動が、この感情が、このただ一時だけのものだというのか!! 

 何なのだ、この不条理は! この感動が、ただの青春の一ページとして、我が心に記憶されるだけだというのか!

 おお、神よ! 貴方は私から、普通の人生だけでなく、この感動までも奪うつもりか!

 許さぬ、いかな神といえども。この萌えの前には無力であるということを、この私が教えてやる!

「お〜い、犬河ぁ〜」

「何だ、テン。今いいとこ…… がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 俺の意識は、今度こそぶっ飛んだ。だって、テンが「おでことおでこをこっつんこ」してきたんだモン。

 

「おい、大丈夫か! 目覚めろ!」

「う、くっ! いろんな意味で史上最強の敵とあった気がする。」

「夢の中で? ホント?」

 いや、現実で… だが、どうやら本気で落ち着いたような… 目の前に居られても大丈夫だ。しかしなんださっきの感覚は? まるで脳味噌を引っ掻き回されるような感じが…

「ああ、犬河が目を覚ましたと言うことで聞きたいんですけど…」

「なんだ?」

 ウリバタケさんが、多少、目を充血させながら答える。

「この到底、使わなそうな戦闘モード切り替えってなんです?」

「ふふふふふ…… よくぞ聞いてくれた。それこそ、真に理想的なメイドさん、名づけて、『バトル・メイド・こすちゅーむ(はぁと)ver.3 〜君のハートはドドメ色〜』の最終兵器ぃ、戦闘モード切り替え機能だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 アホっぽい名前はどうにかしてほしいが、なんだかスゴイっぽい。

「もともとそのメイド服は、防弾防刃素材を使用し、耐火性及び寒冷地での使用にも適し、機能性、携帯性に長け、そのうえ丸洗いが可能という素晴らしい服なのだが。」

 おい、チョット待て。

「その戦闘モードに切り替わることにより、胸の四次元ポ「わあぁぁぁぁぁぁぁ!!」から多種多様な装備を取り出すことが可能になり、赤くなって角がついて通常の三倍以上の速度で動いたり、金色になって犬河とラブ○ブ天驚拳が出来るようになったり、何だか知らないけど未来予測が可能になったりするのかしないのかいまいち分からない。そんな不思議機能。」

「なんだそりゃ。」

「まあ、とにかく、俺が言いたいことは一つだけだ……

ブァカものがぁぁぁぁ、このウリバタケの科学力は世界一ィィィィィィィィィ!!

ドゴシャァァ!!

「早速使ってみました。」

はぁ… 何やら、手に「ごるでぃ○んはんまー」と真ん中に書いてある巨大なぴこぴこハンマーを持っているが…(無論色は金色) どこから出した… あ、四次元ポ「わぁぁぁぁぁぁぁ。」か。

「うむ… しかし、テンって言う名前は呼びにくいな…」

「へ?」

 呆気に取られるテン。

「何かつけてやろうか? う〜む。」

 本気で考え込む俺。

「……柚木島燈子(ユキシマ・トーコ)、でいいか?」

「意味は?」

「お前ってさ、なんだか一緒に居るとあったかいんだよ。だから燈子。」

 うわ、自分で言ってクサッ!

「あとほら、『トー』って、漢字で十にも読めるだろ… だからなんだがな〜。」

「まあ、意味はどうかとしてそれで良いよ。」

 ほ、良かった… 結構良い名前が突如浮かんで…

 俺の普段のネーミングセンスでは、マトモな物を考えつけそうに無いからな…

「あ〜、じゃま〜、よろしくな柚木島。」

「うん! よろしく犬河。」

 まあ、そう言って手を握り合うが…

グギィ!

「ギャァァス!」

「え? あ。力強すぎた?」

「か、加減くらいしちくれぇ…」

 手の骨が砕けたかと思ったぞ。

「う… く… ああ。え〜と、おっと! おお! そうだった犬河! お前に純粋な理由で頼まれていた物出来てるぜ!」

「え? あ、あの事か。どんな感じです?」

「まあ、実際に持ってみたほうが速いな… と、ここに確かしまった筈なんだが…」

 何やら、フィギュアやらスパナやらビスやらヤスリやらが飛んでくる。

「おお! あった! これだ!」

 そう言って、手渡されたのは、ナイフと刀の中間くらいの長さの鉈のような鞘に収められた刃物だった。

「今年発表された新素材をふんだんに使ったファイティング・ダガーだ。注文通りの仕掛けに、鉄球を叩きつけても折れないほどの強度を誇っている。まあ、切れ味はその分悪いがな… と言ってもお前の使い方じゃ、とにかく折れないと言う事が大事のようだが…」

 俺は、ファイティング・ダガーを鞘から抜いた。

 柄の部分が普通より長くなっているのは、恐らく俺が頼んだ仕掛けの所為だろう。

 軽く振ってみる。

 ヒュ!

 空気を軽く切り裂いた音が出た。

「試し切りして良いですか?」

「ん? じゃあ、この鉄製の机を使ってくれ。大丈夫だ。」

 そう言って、前に差し出された机を見る。

「ひょっとして、また何やら改造してしまって直せと言われたんだけどスッカリ忘れていてそのまま放置して置いた机じゃないでしょうね…」

 ギクリ!

 効果音が出るほどの反応が返ってきた。

 まあ、良いか。

 俺は、ファイティング・ダガーを上段に振り上げる。

「どりゃぁ!」

 そのまま力を込めて振り下ろした。

 ゴガギィ!

 鈍い音と共にめり込む様な感触が手に伝わる。

「………切るってよりも叩き抜けるって感じだね…」

 柚木島にそう言われる。表現が少し可笑しい様な気がするが、確かにそうとしか言えないだろう。

 俺が、全力を込めて振り下ろしたダガーが、机の半分ほどの間で止まっているのを見止めた。

「ご注文通りだ。」

「確かに…」

 現実に俺は、切れ味など期待しては居なかった

 どうにか攻撃をマトモに受け止められ、全力で振り下ろしてもそう簡単には折れない刃物が欲しかったのだ。

 これで、一応は接近戦でもやれると言うことだ。

 まあ、俺の腕前じゃ受け止める事が精精だとは思うが…

「はぁ… 刃物を手に入れたは良いが… 殆ど攻撃じゃなくて防御に使いそうだな…」

 俺は、ファイブの拳の威力を回想する。

 アレが刃物を持って迫ってきたらと思うと悪寒が背筋を突き抜けた。

 そう、思いながら俺は、ダガーを鞘に収める。

 しかも、これでもあの威力ならば、受け止められるのは良くて5回程だな…

 それ以上は、俺の腕も反射神経もダガーも持つまい。

 溜息が出た…

「それと、後こんなものも用意した。」

「ん? 新しいパイロットスーツですか?」

 俺は、手渡された皺一つ無い光沢を放つ服の様な形状をした物を見る。

「ああ、その通りだ。今のお前なら、かなり身体も鍛えているし、多少の対G性能は無視しても構わんだろう。だから、それを多少犠牲にして対衝撃能力と衝撃吸収機能を上昇させ軽量化を図った物だ。ごつく作られているが、動きを邪魔しないように計算されて作られている。防弾性もかなりの物だぞ。当たり所にもよるが、そこら辺の銃弾では、まず貫通できんからな。」

「でも突き刺さるでしょ?」

 俺は、そうツッコミを入れる。

「まあ、それくらいは仕方が無い。全部が全部最高と言うわけじゃないんだ。あくまで今までよりは肉弾戦で戦いやすいように設計された物と言うことだ。」

 俺は、ホヘーとした顔でその服を見る。

 デザインはかなり変更されていた。

 恐らく、機能上変える必要があったのだろう。

 何処か、ライダースーツを彷彿させるデザインである。ただ、グローブに内蔵された砂鉄(握り締めると硬くなる)や、明らかに安全靴ではないのにブーツの踵とつま先に内蔵されている鉄板など、やたらと攻撃的な代物ではあったが。

 それでいて、宇宙空間に出る事もあるために、密閉性や対温度性能等も安全基準を上回らなければいけない。コレを作るのには、並大抵の努力では足りないと俺は直感した。

「いやまぁ… よくも、こんな喧嘩器具を…」

 俺は、ホトホト感心と感謝と呆れの感情が渦巻くのを感じた。

「人が死ぬのを見たくないからだ。それならば、この位の事は朝飯前と言う奴だ。」

「矛盾ですね… 俺は、コレで身を包んで人を殺すんですよ…」

 俺は、声のトーンが低くなっているのを自覚しながら言った。

「犬河… 一つ言っておこう。」

 俺は、耳を傾ける。

「いいか! 俺は、エゴイストだ! 欲張りで自己中心的で勝手きわまり無い全く立派じゃない人間だ! 要するに、俺にとってのお前を襲ってくるヤツラの命の価値と言う物は、お前ほどじゃないんだ! そりゃあ、相手を助けられるものなら助けたいさ! それが、事体を全く分かっていない馬鹿な発言でもそれだけは言える! でもな! 相手の自分の命と比較するな! 簡単だ! 余程の事が無い限り、俺は相手よりも自分の命を優先させるだろう! そんな立派な人間じゃないからな! お前もだ! 人を殺す前に! 人を救う前に! まずお前が先に死ぬな! 俺は、お前の命を守るためにコレをやる! それで、人を殺そうが何しようが、それは使う者が決めることだ。まあ、お前がそう使うのならば、所詮、お前はそれまでの男だったと言うことだ。俺は、人を見る目が無かった。それだけのことだ。だが、これだけは言っておく! 俺は、お前が人を殺すためにコレをやる訳じゃない! 色々言ったが、言いたいことは一つだ! お前にその歳でそんなパイロットスーツを着込んだ最先端のファッションで“英雄”になんてなって欲しくないからだ!」

 ズシリと俺の肩にその言葉の一文一文がのしかかってくる…

「了解しました。この犬河照一中尉は、全身全霊で全力を持って貴方に命じられた任務を現在時間を持って、死ぬまで遂行いたします。」

 俺は、ビシリと敬礼して決めた。

 

「か、カッコイイ…」

 

 何やら、柚木島が唸ったが俺の聴覚では聞き取れないほどの速い言葉だった。

 俺は、袋に新しいパイロットスーツを入れる。

「んじゃまぁ! 犬河! 艦内案内してくれる?」

「え? あ、ああ良いが…」

「おうおう! 行ってこ〜い。」

 俺は、ウリバタケさんの部屋を後にした…

 

 んでま、巡回。

俺は、半分ビクビクしながらであったが…

 理由は、簡単。こんな所を楽花に見られたら、俺は死んでしまうからだ。

「へ〜、結構広いね。」

 こっちの気も知らず子供のようにはしゃぐ柚木島。

「ぐば!」

「なぐはぁ!」

 なにやら、整備班の人々がすれ違うたびに金属バットで殴られたように血を噴出させて倒れていくが、俺は無視を決め込む。

 構って居られるか…

「おう! 犬河か! なぐはぁ!」

 それは、ガイですら例外ではなかった。

 まあ、何事もなく事は進んでいくように見えた…

 

 

 

「案内と言うからには、厨房にも行かなければならないのか…」

 俺は、思いっきり嘆息した。

「ん? どうしたの犬河。」

 何も知らずにハシャグ柚木島。

 俺は、厨房の前のドアに立ち往生していた。

 ええい! ままよ!

 俺は、意を決してそのドアを開いた。

 

(放送禁止用語による罵倒)

(放送禁止用語による罵倒×2)

(放送禁止用語による罵倒×3)

(放送禁止用語による罵倒×4)

(放送禁止用語による罵倒×5)

(放送禁止用語による罵倒×6)

(放送禁止用語による罵倒×7)

(放送禁止用語による罵倒×8)

(放送禁止用語による罵倒×9)

(放送禁止用語による罵倒×10)

(放送禁止用語による罵倒×100)

 

「イキナリ増えてるしぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「死ねぇい!」

「がはぁ!」

ヒュゥゥゥゥゥゥゥン………

キラリィン

「ああ、結構飛ぶものですね〜。」

「特にアイツはね…」

「「ふっふっふっふっふっ。」」

 

 飯井川楽花と、柚木島燈子の睨み合いは、何時果てる事無く続いていた…

 

「これは、俺の所為か? 俺の所為なのか? なんだろうなぁ…」

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第十六話 サブストーリー

END

(今度こそ)第十七話へつづく…

あとがき

「さて、兄者。何か言うことがあるのではないか?」

「……何のことだ?」

「とぼけるな。今回の“壊れ”は全て兄者の手による物だろう?」

「ああ、あれね。俺が現在研究中のフジツボの解説部分だな。俺的にはフジツボの素晴らしさとウニウニ感を精一杯の表現力で描写した、今回屈指の名場面だったと思うのだが、そこんとこどうよ?」

「そんな場面、ねぇよ。」

「じゃああれか、ウミウシに見るエルニーニョ現象の原因と影響の部分か?」

「なんだその意味不明な研究内容は?」

「それじゃあ、あれだな。俺と友人とが本気で行った実話をベースとした、犬河と燈子の海の幸ネタだな。ウツボの姿焼きとか、ホヤの刺身とか、シロナガスクジラの鍋とか……」

「喰いたくないぞ、前半。それと、どうやってシロナガスクジラを手に入れた?」

「ああ、それか。釣った。」

「……」

「一本釣り。」

「……兄者、病院行くか?」

「む、実話だぞ!」

「………」

「ああ、思い出すなぁ…… カジキの一本釣りをするはずだったのに、何故か竿にかかったのはシロナガスクジラで、危うく冬の北極海で転覆するところだったなぁ……」

「……まあ、その話は置いておけ、兄者。」

「そうか? 俺はまだメイド服の魅力を語りつくしていないのだが?」

「……認めやがったな。」

「ついでにガーターベルトとチャイナドレスと、フォーマルスーツの魅力を語ることを許してくれると助かるのだが。」

「誰が許すか、ボケ。」

「……そんな汚い言葉を使うようになってしまって。お兄ちゃんは悲しいヨ。」

「兄者に同情されるようなら、俺も終わりだな。」

「待てコラ。」

 その後、兄弟喧嘩は夜まで続いた……

 

 

代理人の感想

コーナーって何だコーナーって。

ひょっとしてリングの四方に付いてるコーナーポストのことか?

 

宿題:描写は他人にわかる表現を用いましょう。