空が青かった。

 大地は緑だった。

 太陽は山吹色。

 心温まる風景。

 だが、全ては無機質だった。

 そこは、綺麗だった。

 だが、決して暖かくは無かった。

 そこは、天国の様だった。

 だが、地獄でもあった。

 そこは、作られた物だった。

 だが、誰も手など加えていなかった。

 そこは、まるで山の山頂から見下ろした広大な大地のような風景だった。

 だが、感動も圧倒感も達成感も何も無かった。

「なんだこれは。」

 それはまるでブラウン管越しに見たような感覚であった。

 ただそこに写っているだけの存在のように見えた。

 つまりこれは、偽物だと言う事。

 その偽物の世界の中の中央といえる場所に広大な樹が立っていた。

 だが、それすらも感動を呼び起こさないまるで作り物のような感覚。

『ここは… 今のナデシコがナデシコである証拠。自分が自分で有りたい証拠… 自分の大切な記憶。忘れたくても忘れられない大切な思い出…』

「忘れたい思い出が大切なもんかい? 俺は不必要な物だとは思うけどな。特にどうでもいいものや変な噂がたつものは。」

 とぼけた口調で俺はそう言った。

『っ!!! 人の揚げ足を取らないで下さい!』

 肩の上で怒りをあらわにするオペレーター。

 でもそれが俺の意見なんだから仕方ないだろ。

「大切でも無い忘れたい記憶だってあるって事さ… 誰にだってな。」

 それも、一つや二つではない。誰にだって沢山ある物だ。

 全くもって全部が全部大切な訳でも無い。

 まあ、そう思う奴も居るって事だ。

「で、俺はどうすればいい?」

『あの奥にある樹の頂上にある枝を切ってください。それで…』

「え〜い。面倒な説明は良い。兎に角俺が何をすればいいのかだけ言ってくれ。あの樹のてっぺんに生えてる枝を切ってくれば良いんだな。」

『そうです…』

 俺は、その樹へ向かってスラスターを噴かせて駆けて行く。

 思ったより此処は広い。

 下には川も流れまるでサバンナのような世界が広がっている。

 気になる所は、一切の動物が居ない事だが、まあ何が困るって訳でもない。

 あの樹まであと10kmって所か…

 と、その時。

 雷が落ちたような音と共に俺の右側の空間が爆発した。

「う! うおぉぉぉ!」

 爆風が俺の体を揺さぶる。

 まるで嵐の中に入ったみたいだ。

 偽りの空間が割れて、そこからスモークを引き連れて見慣れたような巨体が現れる。

「なに!」

 そう、そこから現れたのは…

「ゲキ… ガンガー…?」

 俺が何時も見ていたアニメに出てくるロボットだった。

『オモイカネの異物排除意識です! つまり…』

「ああ! なんだか良く解らんがコイツを倒さなきゃいけねぇってお約束のノリか!」

 と、そう言う会話の直後。

「行くぜ餓鬼! 我儘だけで年上に刃向かいやがって! どう言う事になるか脳の奥底にまでメスで刻み込んでやる! 順当な罰を与えてやるよ! メカ野朗が!」

俺は、衝動に身を任せスラスターを噴かせ突進する。

 相手の図体がデカイ分取り付いてしまえばこっちが有利だ。

 だが…

《ゲキガンカッタァー!》

 間髪が入れられず次が来た。

 背中の二枚の羽が左右から空気を引き裂く音と共に襲い掛かってくる。

 左右から襲い掛かってくるのに横へ逃げるのは無謀だ。ってかアホだ。

 垂直にスラスターを噴かせて上に逃げる。

 だが、二枚の羽は軌道を此方も変えて向ってくる。

 現実ならば無線誘導なのだろうか?

 明らかに物理的法則を無視していると思うのは恐らく気のせいではないだろう。

 本当にマト○ックスの世界に飛び込んでしまった様だ。

 でもそんな悠長な感想をこれ以上考えている暇は無い。スピードは向こうが上だ。見る見る差が縮まる。

 どうする! ミサイルで迎撃するか!

 何度も回避運動をして振り切れないかと模索する。

 風景が何度もヒックリ返った。

 唯でさえあやふやな風景が更にあやふやになる。

 !

 本能的な危機感。実戦の中で養われた危機回避本能が俺に危険を伝える。

 理解する前に俺はスラスターをまた噴かせて軌道を変えた。

 大分な距離を移動したが、嫌な予感はまだ募る。

 それを確信と変える影が俺の足元へ迫ってきた。

 「ぎ、ギャァァァアァァァッァァ!」

 痛み。自分の足がもげたかの様な痛み。

 痛覚がトンでもない悲鳴を訴える。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 激痛、激痛激痛激痛激痛激痛激痛

 耐えろ! 耐えろ! 耐えろ! 耐えろ! 耐えろ!

 眼球が飛び出しそうな程に目が見開いていただろう。

『ヤマダ! 落ち着け! そいつは錯覚だ! 現実じゃないんだぞ!』

 旦那よ… 現実じゃないだって…

 現実だよ… “コレ”は。

 正しくこれは現実だ。

 生と死を分ける戦闘だ。

 見せかけなんかじゃない。

 夢でも無い。

 虚実でもない。

 だから、これは…

 ただ、目の前の敵を『壊す』事しか出来ない。戦闘だ。

 殺気こそ感じられないが、明確な殺意の意思を此方に向けていることは明白だ。

 だから殺意には。殺意を持って答えなくてはならない。

 それが防衛のためだろうと、攻撃のためだろうと…

殺意は殺意だ。

 だから、そうやって答えるしかない。

 でなきゃ、死ぬ。

 死ぬのは嫌だから。

 答えるしかない。

 そもそも、そうだろう!

 ブキン!

 頭の中の何かが外れた。

 戦闘ではないから命までは取られないと言う安心感が今まであったのだろう。

 だが、これは違う。

 これは命の取りあいだ。

 殺し合い以外のなんだって言うんだ。

 ただ世界が違うというだけだ。

 集中しろ!

 コレは命の取りあいだ。

 散るか散らすか二つに一つ!

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 体勢を一気に立て直す。

 片方の足がもげているために軽くバランスの調整が上手くいかなかったが隙になるほどの時間もかからなかった。

 完璧に立て直すと二つの目でゲキガンガーを睨みつける。

 完全に俺の頭の中は戦闘モードにスイッチが入っていた。

 だが、いくらスイッチが入ったからと言っても流石に素手でやり合う事は無謀か。

 武器、武器が必要だ。

 ゲキガニウム合金とかなんだったか… ああ、最近見てなかったから忘れたな。の装甲にダメージを与えられる武器が…

 って、んなもんが現実に有るかい。

 超合○Zとかゲッ○ー合金とか言うビックリ装甲を貫けと言うのに等しい行為だな。

 って! 考える時間ぐらいは、くれよ!

 考えている最中にゲキガンガー3の巨体が俺に迫る。

《ゲキガンビーム!》

!」

 アクセントが定かで無い絶叫を喉の奥底から迸らせながらビームなどには目もくれずに突進する。

 回避など元からサッパリ考えていない為に全て直撃だ。

 肩の部分や首筋、顔面までにもビームが突き刺さる。

 熱い。

 熱湯に手をつけたなんて物じゃない強烈な熱量が感じられた。

 今にも体が溶解してしまいそうだ。

 耐えろ! 電脳世界の俺の体!

 根性でどうにかして見せろ! 俺ならば!

 その直後、視界が暗転した。

 何も見えない。

 漆黒の世界が広がっている。

 だが、進んで居ると言うのは感覚で解る。

 恐らく目でもやられたのだろう。

 けれども止まる気なんて無い。

 玉砕覚悟での突進だ。

 ならば、止まるのは自分に対してヤボってものであろう。

 痛みがようやく来た。

 傷口に塩を塗りこまれたような嫌な痛み。

 焦げ臭い臭いが鼻口を劈く。

 自分の体から発せられている臭いだとは思いたくないが、そうだろう。

 次の瞬間体中から感覚が失せた。

 闇の中に堕ちるような。眠りに入る直前のような感傷が俺の中に生まれた。

 だが、その感傷も今まで思っていたことも全てはコンマ三桁以下の世界での出来事。

 《ゲキガンビーム!》

 白い闇が、視覚を奪い去った。

「なるほど… 狙ってやがったな…」

 俺は、そう紡いだ。

右手に持ったスーパーレッドホーク(・・・・・・・・・・)()銃口(・・)ゲキガンガーの右目(・・・・・・・・・)突っ込んだ(・・・・・)状態で。

 さっきのゲキガンビームで左肩を腕ごと持っていかれたが、行動に支障は無い。と思う。

 ゲキガンガーに表情など無いが、驚いている。っぽい仕草をする。

「その考えは計算か? 勘か? まあ、どっちでもいいか… でもな…」

 ワザとらしく間を空ける。

「人間の閃きと反応速度と危機回避本能と勘と腕前を甘く見るなよコンピューター野郎。てめぇごときの不意打ちにやられる俺だと思っているのか? いつもそれ以上のものをシュミュレーションで受けていたから不意打ちに対する耐性が出来ちまったんだよ。」

 正直、マジだ。

「と、言うわけで。カツど… じゃなくて、鉛玉食うか?」

 返事はない。

「まあ、強制なんだが… ガァン! ガァン! ガァン! ガァン!

ガァン! ガァン! ガァン! ガァン!

ガァン! ガァン! ガァン! ガァン!

 躊躇いの“た”の字も無く引き金を引きまくる。

 外す心配などしなくて良い。

 絶え間なく降り注ぐ銃弾を内部に直接浴びては、いかなるスーパーロボットと言えども… 無限力とかそう言う超反則的なもの以外ならば、ひとたまりもない。

 鉄人を思わせる頭部も、引き金が引かれるごとに無残なる残骸と化して行く。

 かなり細部まで再現してあるらしく、装甲からはみ出したネジやらなんかの部品やらが零れ落ちていく。

 コックピットシートを銃弾が貫いたか、綿材のようなものまでが宙を舞った。

 銃の他にも、残っていた方の足で一発蹴りを入れてやった。

 自らの顔面ごと俺を鷲掴みにしようと手を伸ばしてくるが、既に頭部は鮮やかな色彩をなくして漏電等によって黒いこげを残した金属物と成り果てていた。

 つまり、そこに固着する理由などは無い。

 とっととその場から離れ、背中に回りこむと敵のバーニヤ目がけて第二射を放り込んだ。

 ガツガツとまるで煮干でも急いで食べるような音が敵の装甲から響く。

 ブースターの装甲を貫き内部へと銃弾が侵入してゆく。

GOOD JOB機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第十八話 下

END

第十九話へ続く…

 あとがき

「遅くなりました。読んで下さっている方、済みません。」

 む! む! むぅ!

 周囲索敵中…

「あ、兄者が居ない!」

 どう言う事だ! これは、このあとがきが始まって以来初めての事だ。

「かといって、一人でやれることなんて限られてんだよな〜 よし、お前! ちょっと来い。」

「うぉう! 何しやがる!」

「ふむ、来たか。I,Sよ。」

「イニシャルで言う意味あんのかよ! I,Sって、ショウイチ・イヌガワだろ! しかも、無理矢理連れて来たんじゃねぇか!」

「暇なんだ。しょうがないだろ。」

「しかし、今回俺病室で寝てただけだと思うんだが…」

「ふむ… 始めは、やはり主人公である以上お前を電脳世界に遣ろうと思ってたんだが… 良く考えると…」

「なんだ?」

「おまえ、IFS持って無いだろ。」

「ぬぉう!」

「まあ、お前が一番俺にとっては使いやすいんだけどな… ってな理由で、電脳世界に行って貰うのはお前の次に使いやすいヤマダに頼む事にした。今回はゆっくり休んでろ。」

「それは、最後のシーンに対しての同情か…」

「むぅ…」

「そりゃあ、以前に俺は長生き出来ないだろうって感想掲示板で言われたけどさ… 幾らなんでもなぁ、もう少し…」

「だめ。」

「い! 一瞬で否定しやがったな! お前はそんなに俺を苛める事が楽しいのか!」

「ああ、その通りだ。」

「この野郎…」

「まあ、それはさて置き… 何か今回の話に自分から… いや、それも一部なんだがな、反省する所があるとすればやはり何の捻りも無い事だろうな。」

「捻れよ。」

「思いつかなかったんだよ! それに… 奇妙なことなんだが… 実はこの話、全く意識しないで書いていたんだ。」

「はぁ?」

「なんか、書かなきゃなぁ、って思ってテキストファイルを開いたら何にも思いつかないのに何故か筆が進む… 少しずつだけどな… どうなってるんだコレ? お前が憑いていて、俺を操っているのか?」

「……………………」

「呆れなのか図星なのかイマイチ解らん沈黙だな…」

「……………………」

「何とか言え。」

「嫌だ。」

「そうか… では、今回はコレにて。てな訳で、この話の全責任はコイツが負うという事で。」

「責任逃避で締めるなぁぁぁぁ!」

「いや、でも事実だぞ。」

あとがき 終了。

 

 

 

代理人の話

なんつーか、もう少し「すっきり」しないもんかなぁと。

本筋とは関係ない、余分な「おかず」が多すぎて、もうお腹一杯です。