Generation of Jovian〜木連独立戦争記〜
●ACT5〔豪州攻略作戦〕
天道ウツキ編「この戦い誰が為に」



「成る程……そんな事情があったとはねえ」


 私はイツキの指示通りに月へと降下し、月面裏側の巨大クレバス内に潜伏していた巨大戦艦“石蒜”へと帰還を果たした。
 艦長である超博士は、私に起こった様々な出来事について、疑問を挟む事無く最後まで聞いてくれたが……本当に信じてくれているんだろうか……果たして?
 数ヶ月間も音信不通だった上、敵側の機動兵器に乗って舞い戻ってきた私の話を……。
 スパイと疑ってもいいぐらいなのだ。聞いてくれただけでも有り難いと思わないといけないか。
 普通の艦長なら着艦どころか撃ち落されていたかもしれないし、私自身同期からの扱いもアレだ……取り合ってくれなかっただろう。
 だが超博士は既存の価値観からは少々逸脱した、良い意味で型破りな人物だ。話半分にしろ、耳を貸してくれたのは有り難い。
 だが……何だこの奇妙な感触は?
 博士と私は直接会話を交わした事も無く、殆ど接点がない。それなのに“この人なら聞いてくれると”、どこか無責任な予想があったのだ。

 何故だ……ああ、ひょっとすればイツキから毎度毎度彼女と博士の甘い生活の事を聞かされて、それで彼のイメージが固まっていたのかもしれないな。
 しかし本当にそれだけか……?

「豪州に落下した鉄板が一基たりとも処分されていないのはラッキーでした……これで作戦行動には支障は無いでしょう」

 作戦行動?
 矢張り……最近のチューリップの動きや先の月での戦闘は、この作戦とやらに関係していたのか。
 しかし何故態々豪州に拘る……ってまさか!!

「あの、は……い、いえ艦長!」
「博士で結構ですよウツキ」
「ああ、そうですか……で、作戦行動とは、あの……」
「貴女には関係の無い話ですよ……貴女は敵地に潜入し、多くの情報を得た上に敵新型機動兵器の奪取という大仕事を成しえたのです……本国に帰れば英雄扱いですよ。疲れた身体に鞭打ってまで、今回の豪州攻略作戦に参加する事は……」

「そういう訳にはいかないんです!!」 

 冗談じゃない!!
 豪州が目標とされている事は解っていたが、作戦発動がもうすぐだなんて!
 ここで本国に送り返されてしまったら、アクアはどうなる!!
 私を信じて送ってくれたドナヒューさんに申し訳が立たないではないか!!
 豪州が戦場になる事は最早避けられない……だが私は、それでもアクアだけは守ってやりたい!
 せめて自分の手の届く範囲で……力が及ぶ所まで、私は戦いたいのだ!
 英雄という賞賛? そんなものいらない!
 多くの他人の賛辞よりも、身近な人の笑顔のほうがよっぽど大切だ!!
 だから……。

「私も戦列に加えてください!! 私をもう一度……地球に降ろして!!」
「おやおや、武勲を焦るのは解りますがそれでは貴女が……」
「お願いします!! あそこには……あそこには私を信じてくれた人が!!」

「何?」


 もう私の言葉は止まらなかった。
 興奮して早口になりながらも、先ほどは意図的に流れから抜いていたアクアの事、クリムゾンの事、クーゲルの事を洗いざらい全部ぶちまけた。
 なんて迂闊な事をしているんだ……と気が付いた時には、もう全てが終わっていた。
 感情的になりすぎた。慎重に行くべきだったのに……クリムゾンが和平を望んでいるなどと、普通は信じられまい?
 女である上に成り上がりと陰口を叩かれている私の事など……気が違ったと思われたに違いない。
 ……しかし博士の表情は穏やかで……どちらかと言うと喜んでいる?

「貴女がクリムゾンのパイプを生かしておいてくれたのですか……分裂状態にあると聞いて協力は不可能かと思ってましたが」
「クリムゾンとのパイプ!?」
「ええまあ。上層部とロバート=クリムゾンしか知らない、密約があったんですよ」

 予想外の博士の言葉に私は仰天してしまった。
 博士曰く、木連とクリムゾンは随分昔から関係があったらしい。
 クリムゾンは遺跡のオーバーテクノロジーを求め、木連は地球の情報を欲し……双方共最終的に“ボソン・ジャンプ”の独占支配を目指すべく交流していたようだ。
 ……ならばあのサイボーグ集団、そして積尸気とステルンクーゲルについても納得がいく。
 あれらは全て、木連から提供されたテクノロジーを応用していたのか……。
 宇宙は、広いようで狭い。


「本当なら特Aクラスの機密事項なんですが……ロバート氏が死んだ以上意味を成しません」
「で、ですが……」
「ええ、でも貴女とアクア=クリムゾンとの絆はまだ残っています。これは好ましい事ですよ……狸と狐の化かしあいのようなドロドロした関係よりも、人と人との温かい交流の方が断然価値があるんですから……ウツキ、地球に戻ってアクア嬢に言伝をお願いします。我等木連豪州攻撃部隊は、アリス・スプリング及びシドニーのクリムゾン関連施設への攻撃を停止。そちらには攻略作戦終了後復興作業への協力を要請すると」
「博士……!! ありがとうございます!!!」
「いえいえ、これで無駄に血を流さないで済むかもしれないのですから。礼を言うのはこちらの方ですよ」

 私は運がいい……。
 ここまで理解が深い上官に巡り合えるとは!
 正直理解が深すぎて逆に不安なぐらいだ。
 何でもかんでも許容してしまっている……木連の常識をことごとく無視してしまっているし。
 でもこれで一安心だ……よかった。

 だが心配事はまだ消えない。
 今度は……イツキの事だ。
 あんな泣く様な思いをしてまで戦場に立たなければならないとはどういう事か?!
 イツキ一人ぐらい、どうにかならなかったのだろうか……。

「彼女が前線に出なければならぬほど……状況は切迫しているのですか?」
「……まあここで負ければ本気で木連の継戦能力が無くなりますね。戦力を立て直すまでまた数ヶ月かかり……その間に連合が持ち直すか、こちらの経済状況が破綻するか……どちらにしても敗北必須です」

「……っ!」

 矢張り木連のコロニーではその人口を養いきれないのか?
 私のコロニーも事故で大破したぐらいだ……他も耐用年数はとっくに超えている。
 いつ限界が来てもおかしくないのだ。
 だからこそ、火星への移民を強引な方法で推し進めたが……情けない事に、戦闘による汚染が深刻な状況で移民など当分無理な話らしい。過去のように再び連合側から核ミサイルが放たれては敵わんという意見も上層部に多く、今回の戦争の第一目的であった筈の火星移民はちっとも進まず、いつの間にか過去の復讐戦へと様相が変わっていた。
 それで木連が助かるのか? むしろ無駄に消耗している気がしてならない。これ以上の戦火の拡大は、地球にも木連にも致命的になりかねないと言うのに……。

「まあ、実際の所イツキが強引について来ちゃったと言うのが事の真相で」

「おおぃ!! って、失礼しました……何て無礼な……」

「いえいえ、いいんですよウツキ」

 あぁぁぁぁぁぁ……博士の前だと何故こんな尊大な態度を取るんだ、私!

「ふふ……段々と調子が戻って来たようですねぇ」
 落ち着け……落ち着け……。
「ですが……ちょいと迂闊だったかもしれませんね。姉弟であんな修羅場を演じる羽目になるとは……」 

「……?」


 回収した後、イツキは私がクーゲルに乗っている事を知り一しきり喜びはしたが、直に塞ぎこんで自室に篭ってしまったのだ。
 私には無理でも、博士には話したんだな……訳を。よっぽど信頼し合っているのだろう、お互いに。

「実はミカヅチ君、生きていたようでね……」

 そうか……生きていてくれたのか。
 命がけで庇った甲斐があったと言う物だ……漆黒の戦神も、ちゃんと私の頼みを聞いて……。

「あの撫子の一パイロットとしてイツキの前に立ちはだかったんですよ」
「え?!」
「一度は説得に応じたんですが……思うところがあったんでしょう。イツキを裏切り撫子側に戻ってしまいまして」

 な……!!
 それであの時……あの涙は、たった一人の肉親に拒絶された悲しみによるものだったのか。
 ……木連を裏切ってまで、ミカヅチは何をしたいのだ?
 何か大事な物を、あの撫子で得たと言うのだろうか……?

「イツキは洗脳されているんだと言い張ってますが……彼はそんな簡単に屈する程弱い人間じゃあありません。きっと自分で考え自分で導き出した結果でしょう」
「……戦場では、裏切りは日常茶判事……でも、これは……」
「肉親であろうと問答無用。これが、戦争ってもんです。早く終わらせたいものですねぇ……」

 そう、この戦争、長引かす訳にはいかない。
 早く終わらせないと……これ以上、誰かが泣くのは見たくは無い。

「裏切りが茶判事……か。大分調子はいいようで……ウツキ」  



 そうと決まれば長居は無用だ。
 一刻も早く豪州に戻らなければ……だがどうしよう?
 現在続々と集結しつつある木連艦隊に、連合も警戒を強めている筈。
 行きはアクアがメンテナンス作業の為と偽って一時的にバリアを解除してくれたが……。

「ではウツキ。貴女は現在地点から西方向にある鉄板を使い豪州へと向かってください」
「鉄板で?! 矢張りあれは跳躍門の一種……」
「今まで内緒にしていましたからね……上手く行けば貴女が一番乗りです。ご健闘を」

 私は博士に敬礼を返すと、すぐさまブリッジから退出した。
 そのまま格納庫に直行……する前に、イツキの様子を見ておかなければ。
 果てしなく続く廊下と、幾つもの閉鎖された部屋……現在クルーが博士とイツキしかいないのだから当然と言えば当然なのだろうが……不気味な感じがする。
 時より清掃兼メンテナンス中の虫型とすれ違うだけで、人の生活感というものが全く感じられないのだ。
 ……最初から少数人員艦にするならばそれに伴った設計をすればいいものを、そうしていない。
 ではこの艦には何か別の目的があるのだろうか?
 ……ありえないな。

「イツキ……いる?」

 目的のイツキの部屋の前に辿り着き、彼女を呼び出そうとする。
 程無くして扉が開き、幾分落ち着きを取り戻したイツキが姿を現した。

「……ごめんね、ウツキ……私……貴女が生きていてくれて嬉しいのに、笑う事が……」
「無理しないで……あんな事があったんだもの。当然よ」

 私の言葉でまたミカヅチの事を思い出したようだ。
 悲しそうな目で私に掴みかかり、こう言った。

「あの子は騙されているのよ! あの子は素直で、お人よしで……悪の地球人に良い様に利用されている事さえ気が付いていないのよ!!」
「それは……」
「もう一度、あの子に言って聞かせないと! きっと解って……」
「それでも駄目なら……どうするの?」

 博士の言う事が正しいのなら……彼の意志は固いだろう。
 大体、木連軍人が己の正義を捨てるなど、よっぽどの事が無い限りありえない。
 地球での実状と木連での歪んだ事実のギャップに苦しみ、その果てに導き出した道だ。
 今更イツキの言葉が意味を成すかは……。    

「……その時は、私があの子を撃つ!」
「イツキ!」

 少しは解ってやってもいいのではないか?!
 ミカヅチの下した決断を、選択を!
 いや……それは木連の常識からは考えられない事だ。
 裏切りは許されざる行為……万死に値するほどの。
 それすらも許容して構わないと考える私は……最早、木連の人間では無いのかもしれない。

 イツキの意志は固く、結局当分は前線に留まる事になるようだ。
 まあ、博士も一緒なのだ……命に関わるような無茶はしまい。
 多少の不安要素を残し、私は石蒜から発艦した。
 もうこれ以上の時間のロスは許されないしな。

『始めましてウツキ。私は本艦の中核フレームT-260G。鉄板での跳躍まで私がナビゲートします』

 クーゲルで月面を滑空していると、石蒜からの指示があった。
 T-260G。
 木連でも最高クラスの人工知能か……。

「ありがとう……どっかで会った事無い?」
『初対面の筈ですが』

 うむ……博士というこのT-260Gといい、どうも初対面とは思えない気がするのだ。
 気のせいにしてはどうもひっかかる……。

『ティ……いえ天道ウツキ……矢張り……』

「まあ、いいか。それで、鉄板突入の際の手順は?」
『通常の跳躍門と同じです。歪曲場を最大出力で発生させ、目標地点のイメージを浮かべてください。ある程度こちらでもサポートします』
「了解……ルートは七十八番鉄板から第九鉄板まで直通で」
『遮光フィルター展開願います。各システムの最終確認も』
「フィールド出力安定、いつでもいける」    

 月面に無数に存在するクレーターの一つの中心に鎮座する鉄板。
 鏡面のような表面には、無数の星空が映し出されていたが、そこに変化が訪れた。
 まるで扉を開くかのように中心から縦に光が漏れ始め、そこから別次元が姿を見せ始めたのだ。

「じゃあね……そっちの方も武運を祈っているわ……跳躍!!」

 躊躇う事無く私のクーゲルは、その中へと飛び込んでいった。
 この先に待つのは、敵地。そして戦場……。
 だがこの向こう側には、私が信じ、私を信じてくれる仲間が待っているのだ。
 恐れなど微塵も無い! 只……行くのみ!!  


“ヴゥン”


 ……鉄板の向こうは、何処までも続く赤茶けた大地。
 容赦無く大地を照らす太陽からの光が、こちら側の鉄板にも容赦無く振り注がれている。

「まるで大きな日時計だな」

 影に当たる部分には、どこからか野生の大ネズミが集団で惰眠を貪っていた。
 全く……跳躍門の稼動時になんて呑気な。
 どうやら無事に跳躍に成功したようだ……ここは紛れもなくオーストラリアだ。

「現在地はマッケー湖から東に250キロ程か……アリススプリングまで1000キロはあるわね」

 しかも途中でマクドネル山脈を越えないとならないし、飛行しないと少し辛いか……。

“ゴゴゴゴゴゴゴ……”

「ん……な!!」

 気が付くと頭上にいきなり影が落ちて来ていたのだ。   
 標高が高めのこの地域では雲の流れが速いが……そんなもんじゃない!!

「ヤンマ級?!」

 しかも一隻や二隻といった具合ではなく、次々と鉄板から出現してきているのだ。
 ハッとなって私は現在標準時刻を見たが……。

「……三十分は遅れている!」

 こんなに時間がかかったのか?! 確かに、今までも跳躍門使用時及び跳躍実行時にも多少のタイムラグはあったがこれは……。
 撫子と同じ様な事が、私にも起こったと言うのか?!

「取り合えず、早くアリススプリングに戻らないと!!」

 急ぎながらも私は、現在の状況を把握するべく軍用の通信を手当たり次第拾ってみた。
 アリススプリングは古来よりオーストラリアの情報網の中継地点を担っていた。
 お陰でアリススプリング周辺では電波や衛星通信が入り乱れているのだ。
 しかもその通信システムはクリムゾンが管理している。盗聴などSSの私には容易い。
 それをまとめていくと……どうやら私が出発した直後から作戦は開始されていたらしい。
 オーストラリア近海に潜航していた跳躍門が一斉に浮上し、そこから無数の無人兵器が来襲。
 直ちに連合軍トリントン基地やアデレート基地などから部隊が出撃し迎撃行動を行ったようだ。
 だが今までより遥かにまとまった数を相手に苦戦を強いられ、後退を始めた所に鉄板の起動が重なった。

 グレートビクトリア砂漠など探索及び排除が困難な場所に集中的に落下していた鉄板から現れた艦隊に、連合軍は陸と海から挟み撃ちにされてしまっている。
 月からも増援部隊を派遣しようと試みたようだが、出撃の際またしても石蒜と遭遇。
 その結果、月艦隊は一隻たりとも地球に来る事は無くなった……全艦撃沈もしくは行動不能に陥ったのだ。
 地球上の他の拠点でも、鉄板の正体を知り迂闊に動けない状況だ。
 救援に向かった途端、担当地域の鉄板から戦力が送り込まれるという危機感があったのだ。
 事実他地域の鉄板からも破壊阻止の為に幾らかの戦力が展開しているようだ。
 この戦力に鉄板防衛以上の役目は無い。極東など大規模拠点では鉄板ごと吹き飛ばされたものもあるぐらいだが……鉄板は一つではない。世界中に散らばっているのだ……連合にとってこれ以上のプレッシャーは無いだろう。


「勝ったな……」


 私が山脈を越え、平坦な荒野に辿り着いた頃には、戦闘は最早一方的なものとなりつつあった。
 相転移炉の最大の欠点である、真空中での出力低下を掴みきれなかった連合軍は息切れを起こし、攻防御両方で穴が空いてそこを突破されてしまったのだ。
 第一目標であるトリントン基地に対する包囲網は完成されつつあり、アデレートでは既に脱出準備が進められているらしい。
 今、豪州における連合軍の戦力は駆逐されつつある……跳躍門を最大限活用した戦力の一点集中により、木連側が勝利を勝ち取ったのだ。

 唯一の危険材料であった撫子も、現在月へと向かっている最中のようだ。番狂わせはもう起こらない。
 苦難の数百年の歳月がやっと報われたのだ。木星まで追いやられた我等木星連合が、とうとう緑の大地に、青い地球に帰ってこれたのだと思うと、思わず目尻が熱くなってしまう。
 中途半端だろうが何だろうが……矢張り私は、木連で育った世代なのだ。

「……でも私は木連だけの立場に立つわけにはいかない」

 私は、木連軍人とクリムゾンシークレットサービスという二足のわらじをはき続けている。
 だが当分これを脱ぐ事は出来ない……成り行きとはいえ、私はクリムゾングループと木連を繋ぐパイプ役となってしまったのだから。
 これから先、永く豪州でやっていくにはクリムゾンの協力が不可欠だ。
 彼らの影響力や経済力を借りる事で、豪州の占領が円滑に進むばかりか、木連の存在を全地球人に知らしめる事だって出来るだろう。
 ……唯一の懸念があるとすれば、大部分の木連軍人はそれが解っていないと言う事だ。
 地球人=悪と植え込まれた人間ばかりなのだ、木連は。
 だがそれは当然だ。私や超博士が異常なだけに過ぎない……全体からしてみれば。

 だが異常と決め付け、教えられたがままの意識に基づいて行動するだけではバッタ以下だ。
 我々には考える頭がある。
 何が正しくて何が悪いかは、人に教えてもらうのではなく自分で導き出さなくてはならないのだ。
 全体に、社会に操られるがままの状態では発展など起こり得ない。成長も無い。
 今考えれば、国民をまとめ上げる為とはいえ、独裁に近い政治体系を取ったばかりに木連は歪んでしまったのではないかと思う。
 その歪みを打って直し、より木連を発展させることこそが……私達の使命なのだ。
 それを…….



 本当に解っていない奴が多すぎた!!


「ば……!!」


 アリススプリングは激戦区となっていた。
 多数の無人兵器や数十機のジンが、たった一つの防衛施設目掛けて殺到している。 
 傍から見れば圧倒しているのだろうが、暫く見ているとそれが全くの逆である事が解る。
 たった数機の人型機動兵器にドカドカ落とされていく虫型戦闘機。
 ハンドガンの銃弾を同一ポイントに連続で打ち込まれ、フィールドを破られた挙句黒煙を上げるジン。

 戦略も何もあったものではない。只単にムキになって攻撃しているとしか思えない指揮だった。

『む、帰ってきたかウツキ』
「ドナヒューさん!!」 

 それとは対照的に、僚機の状態を的確に判断し指示を下し、自身は一歩も怯まず迎撃を続ける人型機動兵器……積尸気。
 その指揮官機からの通信を受け、頭が申し訳無い気持ちで一杯になった。

「め、命令がまだこっちまで来ていないみたいです……そんな……博士は、確かに……」
『木連も一枚板では無いようだな』

 バカな!!
 超博士は、私に正式に命令を下してくれた……!!
 戦争の長期化を望まぬあの人が……どうして?

『……そっちにバッタが行ったぞ! 中身は味方でも、今お前が乗っているのは地球のメカ……味方とは言え容赦はされんぞ』
「……っ!!」


 十数機のバッタがこちらに向かって飛来してくる。
 思わずDFSを抜いてみたものの……私はどうすれば!?
 斬るのか?! 斬らねばならないのか??
 味方を……!!

『……ウツキ待て。バッタの様子がおかしい』 
「え!」

 一瞬迷った次の瞬間、驚くべき行動をバッタは取っていた。
 私のクーゲルに総攻撃をかけるどころか、クーゲルを確認するや否や隊列を再編成し、その周辺を固めるように散っていったのだ。
 これは……まさか……!
「……!!! 最優先制御コード……」
 軍団長クラスでしか扱えない割り込みコマンドが発動している?!
 虫型が先ほどまでの命令を、全てキャンセルして私についたというのか……。
 矢張り、博士は私を……。

『……ひやりとさせてくれる。木連はこういった駆け引きが常なのか?』

 そんな訳無いでしょう……博士、事前に教えてくれればこんな……。

『とにかくこれで一安心か?』

 バッタの不可解な行動に、攻撃を行っていた部隊も動揺している。
 地球の機動兵器に虫型が従うというのは、少し衝撃が大きかったようだ。
 そのまま機体の挙動に迷いが滲み出ていた。
 隙をつくなら今しかない!

「聞け!! 私は、木連優人部隊所属天道ウツキだ!! 本作戦の総責任者である超博士からの命により、この地、アリススプリングでの戦闘行動は禁じられている!! 直ちに剣を退け!!!」

 私の声は、うろたえる士官らを黙らせるには十分だったようだ。
 喝を入れられ我に返ったのか、互いに顔を見合わせ次々とジンが戦闘体制を解除していく。

「ふう……それにしても何故命令が……」

“ゴオッ!!!”


『!!』
「!!!」

 クーゲルの瞬発力が無ければ当たっていた……!
 この部隊の指揮官機であろう、ダイテツジンのロケットパンチに!!

『各機。これは敵の欺瞞工作である! 戦闘を続行せよ!!』
「何ぃ!!!」

 パイロットめ……一体何を考えている!!

『我等優人部隊が、悪の地球人と手を結べと? そんな命令があっていい筈が無い!』
「……! 命令が出ていながら故意に……!?」

『売国奴め、地獄に落ちろ!!』


 残ったもう一方の腕が切り離され、またしてもこちらに飛来してくる!!
 だがしかし……。

『やめて下さい!!』

 ……短距離ジャンプで私の前に出現したマジンがパンチを弾いてくれた!     
 目標を大分逸れ、荒野に砂塵を上げ爆発するロケットパンチ。
 マジンは私の方を一瞥すると、指揮官機に向かって怒鳴った。

『通信履歴を再度確認しましたが、先の命令は正式なものです! それを無視した挙句、味方に攻撃するなんて!! それに……それにこの人は売国奴なんかじゃない! 訂正して』

“ビシュウン!!”

「あっ!!」

 ……撃った!!
 撃ったのか、奴は?!
 自分の非を認めぬばかりか、それを正そうとした彼を撃つなんて……。

『人形無勢が……舐めた口を!』

 口腔部ビーム砲で撃ち抜かれたマジンは、立ち上がる事ができないでいる。
 ……本気で殺すつもりだったのか! でなければ一撃で戦闘不能などにはならない!!

「貴様ぁ!! それでも木連軍人か!!!」
『主人の命も聞けぬ木偶人形に用は無い……そして裏切り者の女狐にもな』
「……!!!」

 その瞬間、私に湧き上がったのは猛烈な殺意。
 黙らせたいというその一心が、全てを支配した!
 例えそれで……私が破滅しても……!!
 この、不埒者を……!!!

“ドゴォッ”


 DFSの刃を立て、今にも飛び掛ろうとした正にその時だった。
 ……ダイテツジンのコクピットは、巨大な手によって粉砕されていた。


『……心が……虚しいぜ……』
「つ、月臣……少佐……」


 ジャンプアウトした途端の一撃を終えた少佐のダイマジンは、力無く腕を下ろした。
 ……少佐との再会に、普通なら飛び上がって喜んでいる頃だろう。飛び出して抱きついていた所だろう。
 ……そんな気が全く起こらない。
 私も、少佐と同じく心の中が空虚だったのだ。
 これが……私の信じてきた……正義なのか……。
 私や少佐が……必死になって守ろうとした正義なのか……?!

『作戦終了。全機帰投開始』
「……」

 ドナヒューさんの号令に従い、小破もしくは中破した積尸気が次々とアリススプリングの基地内へと帰っていく。
 その中でポツンと残った一機が……ドナヒューさんの機体だけが私を持っていた。

『……ウツキ、よくやった。お前のお陰で誰一人死なずに済んだ。思うところはあるだろうが……あるがままでいろ。お前は、間違ってなどいない』
「……はい」


 ……誰も、間違ってはいない。
 誰も……彼も……。
 だからこそ対立し、衝突する……。
 それが高じて戦争だって起こる。
 どちらも譲る事ができないものがあるのだから……。
 守りたいもの、信じるものがあるが為に。

「ならば……私はただ意志を貫くしかない」

 誰の為でもない、他ならぬ自分の為に……。
 そしてそれが、信じる者達の為にもなるのだから……。 

「少佐……行きましょう! この戦い、今からが勝負です」

 私は少佐を叱咤した後、一歩を歩み出した。
 そう……この戦い、これからが本番なのだ。
 

 

管理人の感想 

ノバさんからの投稿です。

いやー、豪州が戦場になりましたねぇ

やはり話の流れ上、ナデシコは豪州に来るんでしょうか?

その前に、あの超博士との戦いがありそうですが。

 

久々に格好良い月臣を見たような気がします(爆)