第8話 サツキミドリ 後編




 非常灯のみがサツキミドリの中を照らしていた。そしてその非常灯もところどころ破損しているのか点いていなかった。

ミサは吐き気さえ覚える緊張感の中モリの後についていく。

 不思議な人だ。集中しきれていないのかミサはふと思った。こんな非常識な状況下なのにナデシコの中より生き生きとしている。

          

そこまで考えてミサは頭を振った。いけない集中しないと。ここは戦場なんだ、一瞬のミスが命を奪う。

 いきなり肩をつかまれる、ミサは心臓が跳ね上がるように鼓動したのを感じた。反射的に振りほどこうとして―――つかんだのがモリであることに気がついた。

”大丈夫か?”

 電子地図の画面にそんな文字が並んでいた。ミサはやや大げさに首を縦に動かした。

”集中できないなら俺の動きだけを見ていろ、それだけでいい”

 画面からモリに視線を移すとモリはニヤリと言う音すら聞こえそうな笑みを浮かべた。

ミサはそれからモリの動きだけを追いかけた。どれくらいたったのだろうか。唐突にモリが止まれの合図をする。

敵?そんな考えが頭を駆け抜けた。

『モリよりナデシコ。発信源に到達。・・・残念だが生存者はいない、送レ』

 それまで自分の呼吸音以外は無音だった世界に突然音が加わった。

『・・・・・・了解しました。帰還してください』

 生存者はいない、その言葉に触発されたのかミサは周囲を見回す。そしてモリの向こうに何か棒状のものとその先端に点滅している

何かを見出した。ミサはそれが何であるか一瞬理解できなかった。そして理解した瞬間猛烈な嘔吐感に襲われた。

『・・・人の・・・腕?・・・嘘だろ・・・』

 アキトの乾いた声が入ってきた。ミサがアキトのほうを振り向こうとしたとき衝撃が走った。

『傍受されたか!・・・ゴートさん、揚陸艇へ!』

 何が起こったかミサは理解できなかった。唐突に突き飛ばされて気がついたらモリがライフルを構えて何かに向けて射撃している。

『わかった、外で周回している』

 外で周回?その言葉でミサの中ですべてが繋がった。

『少尉!逃げるぞ!はぐれるな!』

 モリは手榴弾を投げるとミサの腕をつかんで走り出した。

「少佐!ゴートさんたちは!?」

『合流できない、モリよりナデシコ!敵に襲われ分断された!ゴートとテンカワは揚陸艇で脱出する筈だ!こちらは何とか足を見つけてみる、以上交信終わり!!』

 モリは出し抜けに立ち止まると腰だめにライフルを腰だめに構えフルオートで弾をばら撒いた。その瞬間ジョロが角から現れたちまちのうちにスクラップになった。

『少尉!こっちだ!!』

 残骸になったジョロに目もくれずモリは駆け出した。

「少佐!どうしてわかったんです!!」

           

『影と気配だ!角に近づいたら照明の位置と気配に注意しろよ!!』

「気配ってそんなっ!」

『黙ってついてくればいい!後は俺がやる、俺を信じろ!後しゃべるな、気が散る!』

「了解!!」

 走りながら喋っていたせいで苦しくなってきたミサはそれだけ言うと走ることに専念した。

ミサの前方ではモリが時々角で立ち止まり手榴弾を放り込み爆発したらライフルをフルオートで射撃。そういう時はたいがいジョロかバッタの残骸があった。

「・・・・・・少佐・・・ひとつ・・・聞いていいですか?」

 モリが立ち止まったときにミサは喘ぎながら言った。

『なんだ?』

 大して息の乱れていないモリを恨めしく思いながらミサは言った。

「あなたは何者なんですか?」

『さぁな。―――少尉、手榴弾と予備の弾倉はあといくつ持ってる?』

「手榴弾はもうないです。予備の弾倉はさっき渡したので最後です。あとは銃に差し込んである分だけです」

 ミサの言葉にモリはため息をつくと右のブーツからなにやら棒を取り出して軽く振った。

『この角の先にバッタが一匹いる。それを越えたら格納庫がある』

 遠心力で3倍の長さになった棒の太いほうにモリは腰から取り出した四角い何かを取り付ける。

『そこには持ち出しそこなったエステバリスがある・・・それで逃げる』

 モリがスイッチを押すと先端に光が瞬いた。

『援護してくれ・・・間違っても俺に当てるなよ!』

 モリは左のブーツから棒状のものを取り出して通路に投げ出すと続いて角から飛び出した。

「少佐!」

 ほとんど無意識に角から半身を出して敵影を探す。左正面にバッタ―――照準・・・。

ミサの後ろから強烈な光が発生する。動転したのかバッタが一瞬固まる。ミサはトリガーを引き絞る。が、銃弾はバッタの近くを掠めてなかなか当たらない。

フルオートの反動に振り回されて照準が正確に行えない!ミサは舌打ちしたくなった。ようやくあたり始めたとき弾が尽きた。

 頼るべきものがきれたことに気がついてミサは心臓に氷を押し付けられたような衝撃に襲われた。バッタがこちらを向いた―――殺される、死にたくない!

バッタが唐突に動きを止めた。

『大丈夫か、少尉?』

 モリの声でミサは我に返った。動かなくなったバッタの横に何かが突きささっているのに気がついた。

「少佐・・・」

『立てるか?早いとこ逃げようや』

 弾のきれたライフルを投げ捨てるとモリのあとに続いて駆け出した。それから少しすると広い空間に出た。

『どうやら無事か・・・』

 2人の先にエステバリスが座り込んでいた。

「少佐、私IFS持ってませんけど・・・」

『そっか・・・地球の人はあまり付けたがらなかったんだな』

 妙なことを口走るとモリはコクピットに潜り込んだ。ミサは一瞬躊躇したがそれに続く。

『モリよりナデシコ、モリよりナデシコ。エステバリスに搭乗できた。これより脱出する。援護を頼む、送レ』

 IFSのパネルに両手をつくとエステバリスのモニターが外の状況を写しだした。

『こちらナデシコ、了解しました。アキトさん達も無事脱出できたようです』

『了解した。・・・・・・少尉そこは危ないぞ』

 ミサは所在なさげにシートの後ろにある空間に立っている。

「わかってますけど・・・他にどこにいればいいんですか?」

『重くないなら俺の膝の上だ』

「嫌です!」

ミサは即答した。

『んなこといわれても・・・そこだとちょっと飛ばしたらえらいことになるぞ』

「それはそうですけど・・・・・・」

 ミサはしぶしぶモリの膝の上に座った。そして出来るだけモリと距離をとろうと努力する。そんなミサを見てモリは苦笑いを浮かべるとエステバリスを発進させた。狭い通路を抜けて宇宙へとエステバリスは滑り出す。しばらくしてミサはモニターに白く輝くものを見つけた。

「ナデシコ・・・」

『・・・どうやら助かったようだな。・・・・・・少尉?』

 ミサは泣いた。それが緊張感が解けて始めて恐怖を覚えた故の涙か、それともナデシコを見て助かったという安堵からの涙なのかミサ自身にもわからなかった。とにかく涙が出た。

 モリは通信をナデシコに送った。

『モリよりナデシコへ!これより帰還する。繰り返す、これより帰還する』





あとがき


・・・・・・。

 そうさ・・・これはBGMにしていた『enya』のアルバムのせいさ。

僕はもっと派手なアクションのものを書くはずだった!もういい僕は病気だ、PCきって寝る。

 なんか、変な感じになってしまった。が書いてしまったので掲載させていただこう。(爆

・・・次回は未定です。今度はBGMの選曲に注意します。

                                             

 敬句 


代理人の個人的な感想

まるで水を得た魚のようだ(笑)。

でも普通、「少佐」ってのはこんなことしないよなぁ(苦笑)。