第16話 着任

 辞令

発:宇宙軍人事部人事課

宛:艦政本部艦艇艤装室 モリ・シゲオ宇宙軍少佐

 宇宙軍第3艦隊第13独立戦隊戦隊司令官に任ず。



 かくしてオオミナト宇宙軍病院で治療を行っていたモリ・シゲオ少佐は大勢の予想を裏切ってナデシコへ再び着任することとなった。

「ナデシコ・・・。よくよく縁があるらしい」

 軍の黒リムジンからモリは降り立つと眼前にそびえる白亜の美姫の姿を端然と眺めた。

だが今まで俺の姿を極力晒さない様な配置に就けてきたのに、何故ナデシコに配置したのだろう?一般的に言えば

地球連合の犯罪そのものである俺は極力姿を表に出してはいけないはずなのに?モリはここ数日はなれない疑問をふと思い出した。

 実のところモリとその戦友の存在は軍、というより地球連合にとって非常に厄介な問題であった。本来ではあってはならない臨時召集兵の前線投入。

地球連合でもかなりの高位機密である木連のコンタクト。そして彼らに行わせたあるひとつの命令。どれ一つとっても現政権を破壊しかねない出来事だった。

そんな危険な存在を当初政府は抹殺の方向で対応しようとした。実戦なれしているとはいえ少人数であり、なによりも彼らが死ぬことによって疑問を持つはずの肉親などは

ほとんど火星で死んでおり彼らの存在を消せばそれですべて片がつく。政府はそう思いそれを実行しようとした。そこに1つの抵抗が発生した。

なんと同じ穴のムジナであるはずの地球連合陸軍だった。陸軍としてもモリ達の存在が政治的にいかに危険かは理解はしていた。しかしモリ達の存在が消えるということは

彼らが火星であげた膨大な量の戦果、すなわち陸軍の功績をすべて無にすることに他ならなかった。ただでさえ劣勢の現在撤退戦での避難民の誘導くらいしか

見るべき成果を挙げていない陸軍である。ここでモリ達の戦果まで失えば国民の陸軍に対する支持はますます低下し、ひいては陸軍の発言力の低下を招きかねない。

陸軍は度重なる政府との駆け引きとの末彼らの戦果を公表することに成功した。ただし、今後モリ達には目立つような配置への配備を避け各軍の閑職での飼い殺しとするという条件付で・・・。

かくして陸軍は、おのが政治的発言力の保持の為、宝石より貴重な火星帰りの兵士を失うこととなった。

 モリがその原則から外れてナデシコに送られたのは、モリが火星でナデシコと共に消えると踏んだからであった。しかし彼は多くの希望と予測を裏切って重症ながらも地球へと帰還した。

さらに悪いことにネルガルのPRの関係でモリの存在は有名となってしまい、元の閑職に戻ることは出来そうもなかった。

この事態に政府と軍はおおいに慌てた。本来ならば火星で死んでいるはずの存在が五体満足で、それも勇士として地球に帰還したのである。彼は対応に苦慮した。

このまま閑職に戻すことはマスコミに探られてしまう。かといっていまさら消すわけにも行かない。ではどうするか?その結論が今回のモリのナデシコへの配置だった。

消すわけには行かず、さりとて隠すわけには行かない。ならば問題集団であるナデシコと共に隔離して使い潰せばいい。その経過で死んでくれればよし、生きていてもナデシコにいる限りマスコミとの接点は少ないから

余計なことを口走られないですみそうだ。ナデシコのクルーに口走られるのは困るが最悪の場合ナデシコクルーごと戦死してもらえばいい。政府関係者はそう判断した。

後の政府はこの判断を心から悔やむこととなるが、今の時点ではこの方策が最良だと関係者は思った。

「・・・さて」

 いくばくかの書類を入れただけのスーツケースを持ち直すと、モリは辺りを見回す。タラップの入り口に見慣れた人影が立っていた。

モリは思わす緩みそうになる口元を引き締めるとタラップの人影に歩み寄る。人影はモリの姿を見て取ると機敏な動作で敬礼を送った。

「宇宙軍タチバナ・ミサ中尉です。モリ・シゲオ戦隊司令の副官を勤めさせていただきます」

「よろしく頼む。・・・できれば私生活の管理は勘弁して欲しいな」

 答礼しつつモリは言った。

「お言葉ですが司令、それは自殺行為と思われます」

 言葉こそまじめさを装っているが、瞳は悪戯心に満ちていた。

「分かった。それではブリッジに・・・いや、そのまえに着替えさせてもらおう。―――この格好はあまり好きになれないな」

 モリは装飾過剰とも思える程に勲章を飾った自分の第一種軍装を見て言った。

「かしこまりました。それではブリッジでお待ちしております。・・・ちゃんとネクタイは締めてくださいね?」

 なんで3種略装に着替えるってわかったんだよ。いっそ2種軍装に着替えてやろうか?モリは不満げに頬をゆがめた。

そんなモリの態度にミサは失笑を堪えるのに少なからず努力を要した。

「ようこそ司令、ナデシコ艦長ミスマル・ユリカです」

 いまさら自己紹介もないのだが、ユリカ以下メインクルーは儀礼に乗っ取ってモリを迎えた。

「うん。よろしく頼む。・・・ってそこ!・・・なに笑ってるんですか!」

 ブリッジに入るなりミサにネクタイを締めなおされた情けないモリと、今の大仰なモリのギャップにパイロットの3人娘が腹を抱えてのた打ち回っていた。

「わりぃわりぃ、少佐」

「着任早々新婚さんだもん、二人ともラブラブ〜」

「リョウコも少佐たちを見習わないとね」

「なんだと〜!イズミてめぇ〜!」

 新婚という言葉にミサの顔を真っ赤にして硬直する。モリは辛うじて硬直するのは免れたが若干頬が紅くなった。

「ラブラブ話はともかく、早期警戒ラインより連絡。付近のチューリップよりバッタが多数が出現。予想進路からすると本艦が目標のようです」

 それとなくモリとミサに止めを刺すと、ルリはユリカに戦況を報告した。

「分かりました。ナデシコ緊急発進、エステバリス隊は出撃準備!」

 良くも悪くもナデシコだ、とんでもないとこだなここは。モリはネクタイを緩めると疲労交じりにため息をついた。





あとがき


 ムネタケ提督は出てきません。・・・じゃないと主人公が出てこなくなるから。

・・・ムネタケ提督が主人公の小説でもいいけど、なんか凄い壊れ系になりそう・・・。

しかし、なんとなく恋愛小説っぽくなってしまいましたね

アクションないし・・・。

 とりあえず第2部奮闘編(?)がかくして始まりました。

アクション万歳な作者が一番書きたかった部です。

さぁ、ナデシコの諸君、戦いの理不尽さを味わってください(喜

                                             

 敬句 

追記 黒サブレ様、第2部をはじめるにあたり貴重なご助言ありがとうございました。


 

管理人の感想

大森都路楼さんからの投稿です。

うーん、ムネタケはこのさいどうでもいいとして(苦笑)

エリナさんとアカツキはどうしたんでしょうね?

話の流れは、火星から月に跳んだ後のようですが。

さてさて、次回からは何やら血生臭い話になりそうですね(苦笑)