第17話 コスモス 前編

 再就役の為の大気圏内公試も終わり、明後日から宇宙での公試。

日に日に忙しくなってきているというのに、ナデシコ艦内では毎日がお祭り騒ぎ。

とりあえず生死の危険が迫っていないからあそこまで無茶苦茶に出来るのだろう・・・。

 一応軍の所属なんだから、少しだけ自重して欲しいな・・・。

始末書はタチバナ中尉に書かせるからいいけど・・・。



  モリの日記より




 モリは名称だけ変わった自分の席で怒りを押し込んだため息をつくと誰にともなく言った。

「それで・・・どうしてこうなったか聞かせてもらおうかな?」

 言葉の端はしに怒りがにじみ出てきているがモリはそれでも何とか怒鳴らずにすんだ。

モリの視線の先ではユリカとメグミが睨み合いをしていた。どちらも周りが目に入っていないらしくモリがブリッジ居る事に気がついていない。

『説明しましょう!―――いまから40分ほど前、つまり司令以下5名がエステバリスの訓練を終えて自室に帰った時に事件は発生したわ』

 唐突に現れたイネスのモニターにモリは視線を向ける。半瞬モリの視線に射すくめられたがイネスは説明を始める。

『被害者はアキト君、加害者は艦長、メグミさん。・・・凶器は料理』

 モリの眉根に深い皺が浮かび上がる。

『想像を絶するその物体からの影響で、視覚、嗅覚そして味覚に重大なダメージを受けたアキト君は医務室に担ぎこまれた』

「そして犯人たる2名はお互い相手の作った料理のせいだと主張し現在に至る?」

 説明を途中でさえぎられた為かイネスは不機嫌そうな表情でうなずく。

モリはまた深いため息をついた。ブリッジ居なければならない艦長、通信士が私事で抜け出し、あまつさせこんな事件を引き起こすとは。

モリは自分の中の思考回路に2人の行動を一般的常識と軍隊の常識の両方に照らし合わせてみたがいずれも常識外れであるという答えが返ってきた。

「・・・・・・いい加減にしないか。何時までそんな下らない事で時間を潰す気だ?」

 その言葉にユリカとメグミはモリを睨む。

「非番のときならまだしも、現在は両名とも任務中のはずだ。直ちに任務に戻り給え。・・・始末書は後から出いい」

「でもメグミちゃんが・・・」

「でも艦長が・・・」

「いい加減にしろ!!」

 こめかみに青筋をはっきり浮かび上がらせてモリは怒鳴る。その迫力に数名を除いたブリッジクルーは凍りついた。

「?哨戒中の艦艇より連絡。敵機動兵器多数、本艦に接近中。会敵はおおそよ15分後です」

 多少のぎこちなさを残しながらもルリがモニターに戦況を写す。

「・・・総員戦闘態勢。艦長、通信士は直ちに任務に戻れ」

 すばやく気分を切り替えるとモリは司令官として必要な事だけを言う。

「了解しました。エステバリス緊急発進。イネスさん、アキトの容態は?」

『意識は回復したけど戦闘は・・・!?』

 珍しく凍りつくイネスにモリは猛烈に嫌な予感がした。

『アキト君はエステバリスに向かったようね・・・ベットはもぬけの殻よ』

「・・・艦長、どうする?」

「アキトの判断を尊重します」

 死ぬな、結構な確率で。モリは心の中だけで呟いた。

「大丈夫です、司令。私はアキトを信じます」

 モリの内心を見て取ったのか、ユリカは真っ直ぐなまなざしをモニターに映るアキトに向けたまま言った。



 警報の中格納庫では手早く発進手続きが行われる。

「IFS異常なし、制御系に問題なし。!?・・・・テンカワ大丈夫なのか!?」

 カタパルトに乗ったリョーコ機の後ろにテンカワ機が続く。

『大丈夫だ!俺だってパイロットなんだ、リョーコちゃん達だけ危ない目にあわせて寝てられるか!』

 モニターごしのアキトは顔色が悪かったが、その眼差しと言葉は思いがけずリョーコをどぎまぎさせる。

「へ!だったら着いて来な!!」

 恥ずかしげに顔を背けるとリョーコは宇宙へと踊りだした


「エステバリス隊全機発進。・・・敵機動兵器バッタと確認、会敵まで後5分。グラビティブラストチャージ完了」

「ありがとうルリちゃん。進路0−0−6、敵中央に軸線あわせ!」

「了解!おもかーじ」

 教本の様にあさっりと戦闘態勢が整っていく姿にモリは感嘆のうめきを上げる。

モリの乏しい知識だけでもナデシコはすでに敵中央に砲撃体制を整えておりエステバリスは配置済み。後は魔女の大釜をあけるだけという所だ。

「グラビティブラストで隊列で敵隊列を乱しエステバリスによる白兵戦で撃退します。グラビティブラスト、撃て!」

 ユリカの声と共に漆黒の閃光がバッタの隊列を引きちぎる。そこに4機のエステバリスが襲い掛かる。

「エステバリス隊乱戦の模様、本艦第一撃の回避した一体が接近中、機数6」

 混戦中と表示された部分から明らかに統制の取れた6つのグリップが接近してくる。

「全VSL発射用意!安全距離セット!・・・撃て!」

 ナデシコのブレード先端から16本のミサイルが獲物めがけて飛び立つ。

「ミナトさん、面舵いっぱい!ルリちゃんフィールド最大!!」

 発射されたミサイルに目もくれずユリカは矢継ぎ早に指示を飛ばす。

「ミサイル着弾・・・ナウ。・・・・・・コントロールを失った敵が上方より突入してきます。数2」

「ショック対応姿勢。アップトリム80!」

 当たる事が分かった上でなおユリカは被弾面積を最小限視すべく指示を出す。

「・・・敵機フィールド接触まで10秒」

 まもなく船体を1回激しい衝撃が貫いた。

「敵機1機命中。もう一機は回避できたようです」

 ブリッジにほっとした空気が流れれる。モリも止めていた息を吐くと言った。

「まだ戦闘中だ、気を抜くな。戦況の把握、急げ。・・・エステバリスとの距離が開きすぎたな」

 あわてて自分の仕事に取り掛かるクルーを一瞥するとモリは立ち上がる。

「少佐どちらへ?」

「格納庫だ。エステバリスとの距離が離れすぎた。最悪俺が出て時間稼ぎしないとな。・・・ブリッジは任せる、頼むぞ!」

 上着をミサに放るとモリは駆け出した。

「あ・・・。上着に皺よっちゃいますよ」

 ミサは丸まった上着を丁寧にたたんで膝の上に乗せる。その仕草にメグミとミナトは噴き出した。


「くっそ〜・・・何でだ!何で堕ちないんだよ!」

 ラピットライフルを連射しつつアキトは叫んだ。すでに何発か命中しているのにトカゲにまったく衰えはなかった。

『バッタちゃんもフィールド強化しているみたいね』

『たちワル〜』

『へっ!!だったら接近戦で落とすさ!!』

 苦戦しつつも一機また一機、確実にリョーコ達はバッタを撃墜する。だというのに自分はいまだ1機しか落としていない。

アキトは歯噛みしてならラピットライフルの弾倉を交換する。

『エステバリス各機、聞こえるか?ナデシコとの距離が開きすぎた、少しナデシコ側に移動しろ。数機ぐらい逃げられても何とかする』

 唐突にモリの声が入る。一番聞きたくない奴の声にアキト冷静さを失う。

「そんな必要はない!・・・ここで全部落とす!!」

 ラピットライフルと乱射しながら敵が集中している部分に突っ込む。バッタも反撃するがすべてかわす。

『おい!テンカワ!突っ込みすぎだ!!』

 リョーコの声を無視して空になったラピットライフルを投げ捨てる。バッタが回避しようと攻撃をやめた瞬間スラスター最大。

「ゲキガンフレアー!!」

 フィールドによる高速攻撃。周辺に居たバッタを一撃で破壊する。なんともいえない快感。

「どうだ!俺だって出来るんだ!!」

『テンカワ!後ろ!!』

 リョーコの絶叫とバッタの体当たりがほぼ同時に起こり、テンカワのエステバリスは凄い勢いでリョーコ達の視界から消えた。

『テンカワ!テンカワ!!』

『リョーコ落ち着いきなさい』

『イズミちゃん、どうする?』

『モリより各機!スバル機をつれてナデシコ近辺まで撤退!!急げ!!』

『テンカワは?テンカワはどうするんだ!!』

『いいから逃げろ。まき沿い食らうぞ!!』

 モリの焦った声に状況が切迫しているのを理解したヒカリとイズミはリョーコの機体を両脇から抱えると最大戦速で逃げ出す。

『おいイズミ、ヒカリ!一体どういう―――』

 次の瞬間バッタの群れに数条の漆黒の閃光が突き刺さる。

『ナデシコ級2番艦コスモスの多連装のグラビティブラストだ・・・。各機ナデシコに帰還。』

『・・・テンカワ』

 リョーコは苦しげに呟いた。





あとがき


 アクション!!のっけからアクション!

いやぁ〜楽しいですね・・・。

予定通りアキト君はお星様になったし。

ついにアカツキが登場、彼の扱いは今のところ決めかねていますがモリと共に戦いに対するシビアな感性を

発揮していただきましょう。

さて、次回はアキト君の回収です。はたしてモリはどうするんでしょうね(なんかそのまま見捨てそうで怖い)

                                             

 敬句 


管理人の感想

大森都路楼さんからの投稿です。

いやぁ、暴走まっしぐらですね、アキト(苦笑)

それにしても、体調不良の状態に陥れたユリカが「信じます」って言ってもねぇ

・・・そりゃ、モリでなくても呆れるや(笑)