外伝 弐話  終わりのない鎖に繋がれて・・・

 昨晩昇進の通達があった。これで中佐、少尉待遇から7階級昇進したことになる。

給料も上がるし選択の自由も広がる、そして責任も重くなる・・・。

 たぶん戦争が終わっても軍人という立場から逃れることは出来ないだろう。

まるで鎖だ。昇進するごとに長さと強度が上がる終わりのない鎖・・・。

 それでも・・・俺は生きていかないといけないんだ。



  モリの日記より




「では中尉後は頼む。・・・多少事件は発生するだろうがあきらめてくれ」

 かなり無理を通して寄港先のオオミナトでモリは上陸休暇をとることにした。

「・・・一応夕方には帰るつもりだ。・・・がんばれ」

 モニターの向こうで半泣きのミサにエールを送るとモリはコミュケをきった。

袖の金の刺繍が一本増えた第2種軍装に刺繍の一本増えたコートを羽織るとモリはナデシコをでた。


 冬場のオオミナトは北極ほどではないがやはり寒かった。モリはマフラーを持って来なかったことを後悔しながら

タクシーを呼ぼうとしてふと思いとどまった。

ハイヤーで乗り付ける?何時から偉くなったんだ、モリ・シゲオ。

 数秒悩んでから結局路線バスに乗ることにしてモリは近くのバス停に向かうことにした。

 それから地方の便数のないバスにへきへきしながら2度バスを乗り換えてやっと目的地の近くを通るバスに乗ることが出来た。

バスの中では常に視線を感じた。古くから海軍の基地があったオオミナトの住人はごく普通に制服から階級と所属を知ることが出来た。

そしてモリの階級のを見て取った者は必ず首をかしげた。なぜ中佐ともあろうものが雪で湿った制服を着てこんな路線バスに乗ってるのだろう?と。

中には脱走兵として見ている様な雰囲気を漂わせている乗客もいた。

「・・・・・・失敗だったか」

 モリはがらすきのバスのつり革につかまりながら呟いた。


 バスから降りてしばらく歩いてやっと目的地の墓地に着く。墓地に入る前に一度居住まいを正してモリは目的の墓に足を向けた。

それらしき墓石の雪を数回払いのけてモリはやっと見つけることが出来た。墓石の主は『オオイソ アルバートJ』

モリはしばらく立ち尽くしてやがて口を開いた。

「大尉、お久しぶりです」

「この間ついに中佐になりました・・・。やっと大尉に並べましたね」

 答えるものなどいないのにモリは言葉をつむぐ。

「・・・僕は、やっぱり間違っていたのかもしれません」

「いまさらこんな事言うのは卑怯ですよね・・・」

 頬を伝う涙を袖ですくうとモリは笑った。

「・・・・・・大尉、ごめんなさい」

 一時の激情だけで殺めてしまった事をモリは始めて謝った。

「・・・僕は、馬鹿でした。どうしようもなく・・・。最近やっと気がつきました」

 墓地にはひとしきり慟哭が響いた。

「もう後戻りは出来ませんよね?」

 モリは泣き笑いを浮かべると言った。

「・・・だから僕は進み続ける事にします。―――軍人として」

 モリは直立不動になるとまるで目の前に上官がいるように報告した。

「報告します。宇宙軍中佐モリ・シゲオ、これより原隊に復帰し任務を遂行します」

 人差し指と中指だけを立て敬礼。かつて赤い大地で戦友達と覚えた間違った敬礼を墓石に送った。

そして振り返ることなくモリは立ち去った。

 モリの立ち去った墓石の前には中佐の階級章が静かに輝いていた。


墓地の出口をくぐると目の前に傘を差した人物が立っていた。

「・・・久しぶりです、小隊長」

 相手は赤い大地にいた頃の戦友だった。

「久しぶりだな」

 モリは表情を押し殺して言った。

「・・・・・・覚えてますか小隊長?私が貴方に聞いた言葉を」

 やはりその事か・・・。モリの心は震えた。

「・・・すまん。忘れた」

「じゃあもう一度言ますね。―――なんでオオイソ中隊長を殺したんですか?」

 2人の間を雪埃が舞う。

「どうしてそう思うんだ?」

 まったく感情のない言葉に相手は笑った。本人は気がついていないが都合の悪いことを聞かれた時のモリの癖だった。

「あの日、木星の人達をつれての中隊長と小隊長が最後の偵察。なんであんな妙な編成で偵察部隊を編成したんですか?」

 モリは答えなかった。

「そして何故定員一杯だったシャトルにカザマさん達を呼び寄せたんですか?」

「威力偵察は必ず犠牲が出る。・・・その分だけでもシャトルに乗せたかった」

「その人数は偶然にも中隊長と木星の人達、そして和平に賛成していた先輩達の人数分ですよ」

 モリは答えられなかった。

「答えてください。シゲオ先輩!」

火星の大地でモリを励まし続けた鋭い叱咤が雪原に響く。

「・・・旦那さんの病気は治ったかい?」

 モリは唐突に世間話をするように言った。

「この期に及んで一体何を?」

「悪性の腫瘍だったからずいぶん心配したよ」

 モリの目の前で相手が青ざめる。それはモリの知るはずの無い事だったからだ。

「・・・何でそのことを」

「俺が調べたわけじゃない。だが・・・このクラスの士官になるとそういう情報にも接することが出来る」

 モリは鉛色の空を仰いだ。

「俺達は・・・。まだ抜け出すことが出来ないんだ。あの鎖から」

 俺は、何時道を踏み外したのだろう?俺はいつからこんなにやな奴になったのだろう?

「だからって・・・あの人には関係ない」

 そう、軍を抜け幸せな家庭を築いた戦友にはもうあの鎖は必要ないはずなのだ、本当は。

「・・・だが上の連中は―――」

「何で?どうして!私達だって好きで知ったわけじゃないのに!」

 それが、この世界なんだよ・・・。モリは激しい自己嫌悪とむなしさを覚えた。

「・・・これ以上は言わせないでくれ。俺は・・・これ以上君を傷つけたくない」

 相手は泣いていた。その姿をモリは不覚にも美しいと感じた。

「・・・ユウシュン、許してくれとは言わない。けど・・・俺の分まで幸せになってくれ」

 モリはかつて愛した女性の泣き崩れる姿にただ立ちすくんだ。





あとがき


 「モリいじめ計画第二弾(精神編)」いかがでしょうか?

これまでの話を含めてモリの犯した罪はすべて明かされました。

ここからは、この罪を背負ったまま生き続けるモリの姿を書いていこうと思います。

そして自分達の道を見つけていくナデシコクルーとの対比も・・・。

 さてこれで第2部のダーク系のお話は終わりです。残りはすべて明るく楽しいアクションを書いていくつもりです。

はたして作者は明るく楽しいアクションを書けるのでしょうか(核爆)


追伸  『オオミナト』は日本国青森県の(三度泣きの)『大湊』をモチーフにしています。

    奇跡の撤退作戦「キスカ撤退」を実行に移した旧日本海軍第5艦隊(北洋防衛)の拠点でした。

                                             

 敬句 

 

 

 

代理人の感想

・・・・・すいません、この話のキャラクターで繰り広げられる

明るく楽しいアクションって想像できないです。(爆散)

はっ、もしやモリ中佐がランボーの如く敵基地に単身特攻する話とか!?(爆)