第24話 南の島のモリ中佐

 南海の島、白い砂浜、そして新型チューリップ・・・。

 一体連中どういう目的であんな離れ小島に新型チューリップを放り込んだんだ?

おかげでナデシコに調査命令は下るは、それを知ったクルーはすっかりリゾート気分だわ。

 それにクリムゾンの所有している島でよりにもよって会長のご令嬢が住んでる。

・・・おそらくあのカメラマンも動くだろう。



  モリの日記より



 ウリバタケは自分の工房のどこかに築いた要塞にこもっている人物に溜息と共に声をかける。

「なぁ・・・。いい加減観念したらどうだ?」

 雑然とした自分の工房のがらくたをカモフラージュに見事に隠蔽した相手は何も答えなかった。

「そりゃお前としては許可したくないだろうがクルーがみんな期待してるんだぞ?」

 相手はプロらしく何の動きも見せない。

「・・・これ以上何も答えないんなら・・・中尉とイツキちゃん呼ぶぞ、モリ」

 しばらく奇妙な間があって足元にあったスピーカーから声がした。

「ここにはモリなどという男はいない」

 機械で合成された声がスピーカーから響く。たしかこのスピーカーは使ってないから自分で電源とかをつなげたのだろう。

「・・・おれはモリが男だといった覚えはないぞ」

「・・・・・・・・問題ない」

 それっきり何の気配もしなくなった。ウリバタケはため息をついた。


「作戦空域に到達。敵反応ありません」

「ナデシコはこれより海岸に上陸。作戦要領ベータで行動します。整備班に揚陸準備を通達」

 久方ぶりに第3種略装を着てブリッジにたったモリはため息をついた。

「・・・・・・・作戦というのか?これを」

「作戦というのです、中佐」

「しかし中尉・・・」

「作戦放棄は許されませんよ・・・中佐」

 根に持ってるな・・・。最後の最後まで渋ったから・・・。モリは小さく震えた。

大体俺達は任務で此処にに来てるんだぞ?それを全員で脅迫してくるなんて・・・。モリはここ数日の苦しい逃亡生活を振り返る。

それにしても、なんで行き先が決まると同時に購買に水着コーナが出来るんだ?貨物スペースにはそんなに余裕があるのか?

「中佐?」

 今度プロスペクターさんに相談してみないと・・・。もしかしたら近接防御火器を設置できるかも。

「モリ司令?」

 設置するとしたらファランクスV、ゴールキーパーシリーズもいいな・・・。あぁ海は青いよ大きいよ、オオイソ大尉。

「司令はお疲れのようです。よって次席指揮官として命令します。作戦開始!」

 あぁ、始まってしまった。・・・それにしても艦長、ビーチでバカンスは作戦というのかい?


 青い海。真っ白な砂浜。ちょっと陸側を見れば椰子の木。任務でこんなリゾート気分を味わえるとは思わなかった。

まぁ、ここは一つ楽しむことにしましょう。ミサはそう思って笑った。

「さてと・・・中佐は」

 多分楽しんでいないだろう人物を探すべく首をめぐらすと椰子の木の木陰にビーチパラソルの下で、案の定モリが不貞寝していた。

「・・・ダメですよ中佐。指揮官がこんな後方にいたら」

 ヨットパーカーを着こんでその上にタオルケットを巻いた状態でモリはぼうっとしていた。

「う!・・・。中尉・・・、いろいろ事情があるんだ」

「事情ですか?」

 ミサのほうを見ないように答えたモリに噴出しそうになる。

「そう。たとえばアレ」

 モリの視線の先にはカメラ小僧と化したナオが駆けずり回っていた。

「関係ないと思いますよ?」

「いや、でも・・・ッ!?」

 思わず声のしたほうを見たモリが固まる。

「どうですか?この水着?」

 モデルよろしくイツキが微笑む。

「・・・ダメよ、准尉。中佐はフリーズしたわ」

「・・・ちょっと刺激強すぎましたかね?」

 2人は顔を見合わせた。

「とりあえず海に連れ出しましょ?」

「そうですね。やっぱり海水浴はみんなでしないと」

 ミサとイツキは楽しそうに笑った。


「あら?ルリルリは泳がないの?」

 久方ぶりに思いっきり泳いで満足したミナトは、パラソルから動こうとしないルリを見つけて声をかけた。

「私泳げませんから」

 こんなときもパソコンを手放さないルリにミナトは小さく笑みをこぼす。

「大丈夫。ちゃんと教えてあげるから。ルリルリならすぐ泳げるようになるわよ」

「・・・あんなふうにですか?」

 ルリの視線のではミサとイツキに放り込まれたモリはおぼれていた。

「・・・泳げるようになるまでは絶対手を離さないから安心して」

 ミナトは引きつった顔で言った。


「おや?中佐は金槌でしたか」

「火星は海が少ないからな。泳げなくても不思議じゃない。ときにミスター、この白は無しにしてくれないか?」

「ダメですよゴートさん。・・・動きましたね」

 プロスペクターとゴートは森に消えるナオを見送る。

「・・・タイミングとしては悪くない。だが、我々が見張ってるということは向こうも承知のはずだ」

 ゴートは碁石を取り出して打つ。プロスペクターの表情を伺うが何の変化も見られなかった。

「我々が甘く見られているのか、それとも我々を制圧できる策があるのか?」

 プロスペクターの口元に冷たい笑みが浮かぶ。

「まぁ変に勘ぐっても仕方がないでしょう?こちらにもまだ切り札はありますし」

 鋭い音と共に白い碁石が置かれる。

「むぅ・・・」

 この一帯は諦めるしかないか。ゴートは唸り声を上げた。


「大丈夫かい中佐?」

 砂浜で大の字になったモリにアカツキが声をかける。

「・・・生きてるってすばらしいな」

「中佐が言うと実感こもってるね」

 アカツキは傷跡だらけのモリの体を見て言った。

「あぁ。・・・ところでアカツキ」

「うん?」

「・・・いいのか?」

「何が?」

「・・・狙撃されたら、死ぬぞ?」

 モリは陸側に目を向けていった。

「その時はその時さ。・・・まぁ此処で僕を殺したら自分達がやりましたって自白するようなものだしね。やらないんじゃない?」

「確かに・・・」

 モリは顔をしかめて起き上がる。いまだに気だるさは取れないが動けない事もなかった。

「おや?もう起きるのかい?」

「本当もう少し寝たい。が・・・会長は無理でもオペレーターは手出しできるだろうからな」

「ホシノ君の事?」

 モリはうなずくと顔をしかめて言った。

「まったくこんな事なら報告書にホシノ君の事書かなきゃ良かったよ。あの子が狙われる原因は俺だな・・・」

 軽く伸びをして深呼吸を二つ。それだけでモリの感覚は戦場に移っていた。


「遅くなりました。・・・そろそろですか?」

 他のクルーに怪しまれないように適当にぶらついた後、モリはプロスペクターとゴートに歩み寄る。

「えぇ。彼も森に入ったようですし。そろそろ動きがあるでしょう」

 碁を打ちながらプロスペクターが世間話をするように言った。

「となるとそろそろ準備が必要になるな」

 ゴートが碁盤から拳銃を取り出す。碁盤から拳銃だなんて、無粋だな。モリはなんとなく思った。

「ゴートさんはホシノ君を頼みます。プロスペクターさんはいざというときに備えて・・・」

「中佐は?」

 モリは肩をすくめてすぐそこの藪を見やる。

「・・・なるほど。ちょっと火力過剰な気がしますが・・・」

「近代戦は火力ですよ、プロスペクターさん」

 モリは抜き身の刃のような笑みをうかべた。


『カッパ1より、ウイスキーリーダー。配置につきました。30秒もあればマシンチャイルドを掻っ攫えますぜ』

「ウイスキー了解。あと30分後に例のものがチューリップから出て来るそうだ。混乱と同時に一気に行う」

『カッパ1了解』

 ジャングル迷彩を着たウイスキーは思った。うまくいくな、今回も。懸念材料といえばゴート・ホーリーとプロスペクターがいるが

なに、せいぜい武装は拳銃だけだ。こちらも拳銃だがこちらのほうが人数も多い。

「近代戦は火力だよ。・・・丸腰の連中なんて造作もない」

 男はプロらしく慎重に計画を実行する。しかし相手が丸腰ということもありどことなく油断していた。


 まったくだな。モリは100mはなれた藪からリーダーらしき男の言葉に頷いた。

HMDを光学モードから赤外線モードに切り替えて敵の陣営を把握する。予想通りルリの近くに不自然に配置された一隊があった。

「こちらフルーツ牛乳。プリンセスの付近に蚊が2つ。排除されたし。送レ」

『こちらコーヒー牛乳。・・・確認した。これより排除に移る。送レ』

 望遠モードにしてゴートが『蚊』の方に慎重に近づくのを確認するとモリは他の敵を排除にかかった。


「それにしてもよ・・・。いったいマシンチャイルドってなんだろうな?」

「しらねぇよ。けど上の連中は欲しがってるみたいだぜ?」

 一応敵の反撃に備えてという理由で今の場所に潜んで1時間。緊張感のない任務に男達は次第に暇に耐えられなくなり談笑を始める。

「おい。程ほどにしておけ。敵に気がつかれるかもしれない」

「大丈夫だって。即席だがこの陣地はそうそう制圧できねーよ。制圧するんなら、自動小銃でももちだなさないとな」

 そういった男達にサイレンサー特有の間の抜けた音が叩きつけられた。


「フルーツ牛乳よりコーヒー牛乳、防衛陣地を制圧、送レ」

『コーヒー牛乳了解。こちらも蚊を処分した、送レ』

 モリは自動小銃に非殺傷弾の入った新しい弾倉を填めた。


「あれ?プロスさん、中佐は?」

 ミサは濡れた髪をタオルで丁寧に水気を取りながら言った。

「中佐ですか。なんか森のほうに行かれてましたよ?」

 一人で碁を打ちながらプロスペクターは言った。

「森ですか。・・・まさか敵がいるとか言って戦争しに行ったとか?」

 なんとなく呟いたミサの横でプロスペクターは固まった。


 工作員ってもっと緻密なはずじゃないのか?モリはたった今破壊したバッタを見て思った。

相手は迷彩服に拳銃。よくてサブマシンガンで手榴弾とか持ってる者はまれなほうだった。

「・・・・・・まぁ、こいつがいるのは予想外だが」

 そう言うとモリは藪の中に消えた。


 ウイスキーは答える者のなくなった通信機を放り投げた。変わりに拳銃を取り出してあたりを探る。

一隊何が起こってるんだ?カッパチームが連絡を絶ってからどんどん配置についてる部下の連絡がなくなってる。

最初はゴート・ホーリーが動いたと思ったんだが部下の連絡を聞く限り違うらしい。それに、

「バッタを生身で破壊できる奴がこの世にいるというのか?」

 ウイスキーはアルファチームの最後の通信内容にいまだに疑問を覚えていた。

他のチームの最後の連絡を聞く限り相手は1人。武装は何故か知らんが自動小銃。トラップの回避してるところを見る限り

特殊部隊クラスの装備と技能を持ってる。だが・・・。

「・・・そんなやつがあの2人以外にナデシコにいたか?」

 それら少しもたたないうちにウイスキーは部下の後を追った。気を失う直前ウイスキーは相手の通信を耳にした。

「フルーツ牛乳より、コーヒー牛乳へ。敵は制圧、その際バッタを1体完全破壊、送レ」

 フルーツ牛乳って一体?ウイスキーは薄れ行く意識の中思った。


「おいおい、やられちゃったぞ」

 ナオは望遠鏡に映る同僚の屍を確認していく。

「やれやれ・・・ナデシコってとんでもないねぇ、っ!!」

 気配を感じて振り向きざまに拳銃を3発打ち込む。

「・・・ずいぶんと物騒だな。・・・銃を置け。そう、ゆっくりだ・・・!」

 小銃を構えたまま藪を掻き分けモリが姿を現す。

「・・・・・・・・中佐ほどじゃないですよ。っていうかこういうシチュエーションでその格好は卑怯だろ?」

 ナオは冷や汗を浮かべて特殊部隊も真っ青な装備をした男を見やった。

「・・・クリムゾンの工作員、ヤガミ・ナオ。・・・裏を取るまで時間がかかったよ」

 自動小銃を肩当にしてナオに狙いを付ける。

「そりゃどうも。で・・・やっぱり、殺すの?」

 ナオは両手を挙げて言う。

「・・・クリムゾンの工作員をナデシコに置くほど俺はバカじゃない」

「クリムゾンの工作員じゃなければいいんだな?」

 眉根よせるモリの前でナオは携帯を取り出してどこかにかける。

「よぉ!・・・ん?実は俺転職しようと思って。・・・うんそう。・・・へっ!やれるモンならやってみな!」

 あっけにとられるモリの前でナオは電話を切った。

「つーわけで俺はフリーだ」

 ナオは二カッとモリに笑う。

「信じられると思ってるのか?」

「信じてくれない?・・・なら俺の知ってる情報、そろそろチューリップから新型のジョロがでてくる」

 笑みを消したナオがモリを真っ直ぐ見る。

「・・・いいだろう、それまで処分は保留だ」

モリは小銃の構えを解く、ナオに銃口を向けたまま。

「・・・中佐って意外に疑い深いな。そんなんじゃ女の子に逃げられるぞ」

 ナオはジト目で言った。すでにチューリップから新型のジョロが姿を現しているのにモリは銃口を下げなかった。

「・・・生憎逃げられる女の子もいないんでね」

 ワザとか?それとも素で言ってるのか?ナオは軽いめまいを覚える。モリはその光景に小首をかしげながらゴートに通信を送った。

「モリよりゴート。チューリップより新型の敵機動兵器を確認。直ちにクルーを戦闘配置につかせてくれ。送レ」

『了解。ただし1つ問題有り、送レ』

「問題?こちらで解決できそうなことか?送レ」

『可能です。森に逃げ込んだテンカワを追ってミスマル艦長、メグミ君の3名が森へ移動。コミュニケの着信は拒否。座標は分かります、送レ』

 座標がコミュケに出る。まずいな、ジョロの近くじゃないか、勘弁してくれ。モリはため息をついた。

「了解。回収に向かう。直援にエステバリスを1機要請。残りは2機を重機動戦フレームに換装、他はそのまま待機。しばらく様子を見る。送レ」

『了解、交信終わります、送レ』

「聞いてのとおりだ。3人ばかし拾いに行く。・・・手伝え」

 モリは弾倉を鉄甲弾に差し替えながらモリは言った。

「・・・断るといったら、どうする?」

 モリが視線を上げると拾った拳銃を向けたナオが立っていた。

「なんでこんな隙を作ったんだ?こうなることは中佐ならわかってるだろう?」

「・・・共同作戦を取るのに相方を疑いながら作戦出来る程俺は器用じゃない。やるからには信じる。これが前提だ」

 ナオは肩をすくめると銃をおろして言った。

「もし撃ってたらどうするつもりだった?」

「死んでた。それくらいの覚悟は常にしてるよ。・・・行くぞ」

 それ以上振り返ることもなくモリは駆け出す。ナオは小さく笑うとモリの後を追って駆け出した。

 バカなのか、たいした奴なのか。いずれにしても面白い奴だ。ナオは小さく笑った。





あとがき


 (前半は)あかるいアクション!いかがでしょうか?

なんか後半はすこしアレですが。・・・やはり作者とモリではここら辺が限度なのでしょう(泣

 さぁ、作者としてはイレギュラー以外の何者でもないヤガミ氏が動き出しました。

きっとあとがきを書いた後作者は構成の大幅な見直しを迫られることでしょう。

 次回は結構間が空くかな?

                                             

 敬句 

 

代理人の感想

う〜む、確かに作品のノリ自体が前回までとは違ってるような(笑)。

前回までのモリだったら躊躇なくナオを射殺してたと思うんですが(爆)。

後半もこの路線を期待します。w