第25話 戦友の死




 ちょっと変わったバカンスも終わりナデシコはそのままロシアのクルスクへ。

敵はまた新型の兵器を投入。今回は前回の奴と違い威力も技術的衝撃も大きい。

連合軍もなりふり構っていられない様で今回は大量の後方支援がある。

 これで成功しなかったらかなりの犠牲を払った全面攻勢になるだろう。

もっともそのときには死んでるだろうが・・・。



  モリの日記より


 これは付けて入るべきじゃないな、士気にかかわる。モリは思った。

 モリは部屋に入る直前喪章を取り外した。その姿にミサは首をかしげた。

「全員そろっているな。・・・よろしいこれより作戦会議を始める」

 ナデシコでは普段埋まる事のない大型会議室には軍服を着た男達によって埋まっていた。

「まず作戦趣旨から説明しよう。今回のダーゲットはクルスクに投入された超大型砲台コードネーム『ナナフシ』

――――すでに軍の特殊部隊が2度攻撃をかけていずれも全滅している」

 メインディスプレイにナナフシの3面図が現れる。その図面を見るモリの表情がいつもと違うことにミサは気がついた。

「形状から分かるように大型の砲撃兵器だ。弾種は分からないがエネルギー兵器らしい。

ただ威力は計測された限りですでに我軍のミカサの最大砲撃より上だ」

 軍人達の間でささやき声とうめき声が上がる。対照的にナデシコクルーの間ではミカサの存在を知る一部のクルー以外

これといった反応はない。

「・・・砲撃精度はきわめて高く散布界はおおよそ5m。照準対象は小型揚陸艇――ナイトホースクラスでもやられる」

 作戦に参加する空軍士官達が顔をしかめる。無理もない、モリは思った。

自分達の保有する最もステルス性能が高い機体が狙い撃ちされるのだから。

「そして索敵レンジは不明だ。・・・よって作戦は2段階に分ける」

 冗談じゃないぞといった感じの軍人達を尻目にモリは話を続ける。

「第一段階はナデシコ単艦によるアウトレンジ砲撃。砲撃地点は此処」

 メインディスプレイにイメージ図が現れる。山陰でギリギリまで姿を隠し姿を現すと同時にグラビティブラストで

撃破されるナナフシのイメージ図が出る。

「二段階は保険だ。これはナデシコが撃沈されたときを想定する」

 撃沈という下りでナデシコクルーがモリに不審の目を向ける。その視線にモリは何の感慨も抱かなかった。

「まず無人偵察機による威力偵察、同時に北極海に待機している潜水艦隊からの弾道ミサイル攻撃。

もし無人偵察機に何の反応を示さなかった場合は航空隊による超低空飽和攻撃を仕掛ける」

 モリの言葉と共に現れる攻撃のラインはすでに十本を超えていた。モリの堅実極まりないプランに

モリの指揮能力に疑問を持っていた一部の軍人達も納得した顔をした。

「もしこれでダメだった場合は衛星軌道にあるミカサからの連続斉射で方を付ける、以上だ・・・。質問は?」

 すぐさま質問の挙手が数十本立った。モリはその中で年かさの軍人―――階級は少佐だった――を指名した。

「第一段階でナデシコが沈んだ場合司令官のモリ中佐も不在になります。その際の指揮系統はどうなりますか?」

 ナデシコが沈むという事を前提とした会話にナデシコクルーが不機嫌になる。モリは苦笑いをこらえて答える。

「その場合は現場に近い高位の士官、この場合は貴官が指揮を取る。貴官がやられたら次の高位の士官だ。リストは後で送る」

 不承不承といった感じで引っ込む士官を尻目に次の士官をあてる。

「第11潜水艦隊から来ました海軍大尉アレキサンダー・ベイツです。ミカサが当作戦に投入可能なら作戦第一段階でナデシコと

呼応して衛星軌道から砲撃、それがダメでも弾道ミサイルでの同時攻撃を行うのはいかがでしょうか?」

 何人かの尉官級士官とナデシコクルーが同意の意を示す。それを見ていた小数の佐官級士官が肩をすくめる。

「残念ながらそれは出来ない。ミカサは唯一飛来するチューリップを遠距離で破壊できる兵器だ。万が一ということもあるし

何よりも最後の砦とも言えるミカサを失うのは政治的に許されない。弾道ミサイルを使うということはあの一体の工業地帯を吹っ飛ばす

事になる。そうなればますますバッタの跳梁を許す。戦いはまだ続くんだぞ、大尉?」

 とたんあちこちから――主にナデシコクルーからだが―――ブーイングが上がる。

「ナデシコ副長アオイ・ジュンです。第一段階で念のため無人偵察機を先行させることを提案します」

「何を言うか!それでは奇襲作戦の意味がない!」

「それにナデシコにはグラビティブラストがあるではないか!」

 軍人のそれも年嵩の言った高級士官の予想通りの反応にモリは苦笑いを浮かべる。

「静粛に!!・・・まずアオイ副長の質問に答える。先ほども言ったがまず奇襲作戦の意味がなくなる。

アウトレンジといっても敵が反応しきる前に叩くのが第一段階の趣旨だからな」

 ジュンが不審の目を向けたまま、それでも何とか納得したようで座る。

「次にナデシコにあるグラビティブラスト、ディストーションフィールドだがあまり今回は期待出来ない。

何しろ大気圏内だからな。大気圏内のディストーションフィールドの能力は火星での事象が証明している」

 モリは多少威圧感をこめて年嵩のいった士官達に言った。

「いずれにせよこの作戦を成功しなければ西欧方面はますます苦境に陥ることになる。失敗は許されない、各員の健闘を祈る、以上!」

 モリの言葉にはっとした者達――主に若い士官達――が立ち上がって見事にそろった敬礼を送る。

それにつられるように他の者達も立ち上がって敬礼をする。ナデシコクルーの大半はどうすればいいか分からない様子だったが

ユリカやジュン、イツキにゴートといった軍関係者が同じように敬礼をする。

 そう、成功させなければいけない。・・・皆の敵は俺の手で果たさないといけないんだから・・・。

モリは答礼しながら強く思った。


―――作戦開始1時間前。ナデシコ

「まもなく最終周回地点に到達します。ミナトさんよろしく」

「了解ルリルリ。とりかーじ、進路最終ポイントへ!」

「また・・・」

 どことなく暗いイメージのあるブリッジにミナトのルリのいつものやり取りが響く。

「第11潜水艦隊から通信、我予定ポイントニ到達、発射準備ノ上待機スル。旗艦ノ無事ヲ祈ル。以上です」

 メグミは不機嫌さを隠さずにモリに言う。モリは表情を変えることなくうなずいた。

「これで第二段階の兵力はすべて展開済みです。後はミカサと本艦のみです」

 ミサが落ち着いた声でモリに報告する。

「・・・そうか。艦長、作戦開始。ナデシコは任せるぞ」

「わかりました。艦内放送、ナデシコはこれより第一種警戒態勢、全隔壁閉鎖。ダメコンチームはスタンバイ。エステバリス各機はスクランブル準備!」

 ユリカが指示を出す横で、モリは懐から喪章を取り出して左腕に付ける。そして制帽を被りなおして誰にともなく呟いた。

「・・・・・・敵はとるぞ、ジャグジー、キム、サージ」

 復讐戦、いや私戦か・・・。だが、とめられないな・・・。

結局の所、戦争は俺にとっては復讐戦なのかもしれないな・・・。モリはほろ苦く笑った。





あとがき


 間が空きました。今回はちょ〜っぴりダーク入ってます。今回のコンセプトは以下の2つ。

1.モリの抱えるダークな面を書いてみる。2.アオイ副長救済計画(核爆)

・・・冗談じゃないですよ?作者は本気です。作者は個人的に「恵まれない役どころ」のキャラを救済するのが好きです

きっとハーリー君がこの物語にでてたら救済計画をおったてたでしょう。

 というかアオイ副長は優秀なのに何故か恵まれないのでその能力に見合った活躍をさせるだけなのですが・・・。

パートナーは・・・さすがに無理かな?(汗

                                             

 敬句 


代理人の感想

ジュン君は確かに有能ですが、その彼の有能さを生かした活躍だとどうしても

 

「裏方」

「事務仕事」

「縁の下の力持ち」

「押さえ役」

「影の功労者」

 

と、派手な活躍は全く見込めないのではないかと思います(爆)。

勿論、こういった地味な仕事を堅実かつ効率的にこなす人材がいなくては

ナデシコもろくに動かないしアキトやユリカも活躍できないわけですが・・・

書類作業をいかにドラマチックに描写しても普通カタルシスは発生しませんよねぇ(爆)

 

ともあれ、次回に期待させていただきます。